皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
斎藤警部さん |
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平均点: 6.70点 | 書評数: 1341件 |
No.441 | 7点 | 輪廻の蛇- ロバート・A・ハインライン | 2015/12/18 01:23 |
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左脳が混乱する割に右脳で理解しやすい素敵な物語6篇。内1つは中篇。
ミステリファンに受けのいいSF本。 ジョナサン・ホーグ氏の不愉快な職業 象を売る男 輪廻の蛇 かれら わが美しき街 歪んだ家 (ハヤカワ文庫) ミステリと呼びたいのは「ジョナサン」「輪廻の蛇」「かれら」の3つ。 SFと呼びたいのは「ジョナサン」「輪廻の蛇」「わが美しき街」「歪んだ家」の4つ。 ファンタジィと呼びたいのは「ジョナサン」「象を売る男」「わが美しき街」の3つ。 泣けるのは「象を売る男」。笑えるのは「歪んだ家」。 通底するムードは’少し乾いたファンタジー’とでも言ったあたり。気の効いたユーモアはいつも準備万端、必要な場所に適量ごとドロップされます。 映画のイメージを引き摺ってさぞかしおぞましさ炸裂のダークファンタジーかと思われた『輪廻の蛇』が思いのほかちょっとしたタイムパラドックス小噺風だったのは快い肩透かし。原題が日本語題とずいぶんイメージの違う”All You Zombies”(フーターズ!)ってのも頷けました。とは言うもの、印象的な最後の台詞”無性にあなたが恋しいわ(I miss you dreadfully)!”に込められた孤独の遠大さに想いを馳せれば、この物語が放射し続ける存在の力にとことん圧倒されてしまうこと請け合い! そうそう、この物語は連城三紀彦の「喜劇女優」と通じるような通じないような、0と1の関係だからやっぱり違うような、でもちょっと思い出すような。 数学的SFとすっとぼけドタバタのおかしな融合『歪んだ家』は、本短篇集の中ではセンチメンタルな感動要素が際立って薄いのだが、印象深い。冒頭部に語られる四次元立体(過剰空間)のレクチャーが分かりやすくてグッドジョブ。 最後に、排卵日にハインラインを読んでも頭に入らないんですって!? (←セクハラの疑い有り) |
No.440 | 7点 | アリバイ崩し- 鮎川哲也 | 2015/12/16 12:24 |
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北の女/汚点/エッセイ 時刻表五つのたのしみ/下着泥棒/霧の湖/夜の疑惑/エッセイ 私の発想法
(光文社文庫) 鮎川本で堂々『アリバイ崩し』と銘打つ割には巻頭「北の女」を除き比較的薄味の作が並ぶが、選集ではなく熱心なファン向け拾遺集なのだから、まして二本のエッセイを小説群の間にはさんだ贅沢なプレゼントなのだから、文句は全くありませんよ。鬼貫・星影は出て来ないよ。 |
No.439 | 6点 | 江戸川乱歩の推理教室- アンソロジー(ミステリー文学資料館編) | 2015/12/16 12:06 |
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時は昭和三十年代真っ只中! 乱歩さんの要請を受けた豪華な執筆陣と興味を誘う各篇題名。。を眺めている時が一番ワクワクする(笑)という、遠足前夜のような困った本。しかしやっぱり読んで愉しい。雰囲気だよね~。有名どころがずらり並んだ中で記憶に残っているのは名も知れぬ作家、大河内常平氏の「サーカス殺人事件」。この豪快びっくり物理トリックには目を白黒させたもの。「バカミス」なんて言葉が流行り出すより前でしたが「バカだなぁ~(笑)」としみじみ思ったものです。
樹下太郎「孤独な朝食」 鷲尾三郎「ガラスの眼」 多岐川恭「眠れない夜」 永瀬三吾「四人の同級生」 宮原竜雄「湯壺の中の死体」 楠田匡介「影なき射手」 山村正夫「見晴台の惨劇」 鮎川哲也「不完全犯罪」 仁木悦子「月夜の時計」 宮原竜雄「消えた井原老人」 大河内常平「サーカス殺人事件」 鷲尾三郎「バッカスの睡り」 楠田匡介「表装」 永瀬三吾「呼鈴」 飛鳥高「薄い刃」 佐野洋「あるエープリール・フール」 大河内常平「競馬場の殺人」 飛鳥高「無口な車掌」 山村正夫「孔雀夫人の誕生日」 |
No.438 | 6点 | 三十六人の乗客(旺文社文庫版)- 有馬頼義 | 2015/12/14 19:40 |
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三十六人の乗客/白い道の少女/霞と眼鏡/女は階段を下りたか/謀殺のカルテ/この手が人を殺した/現行犯
(旺文社文庫) 何度も映画やTVドラマになった”紛れ込んだ犯人探し”の表題作(こりゃ映像化したくなる魅力のストーリーだわなぁ)を始めとし思わせぶりなタイトルの作品が幾つかあるがさほどの捻りは見当たらず。。 とは言え、本格味は割あい薄くとも適量の社会派要素が刺激剤として働き、時代の空気を嗅ぐに良い一冊。 昭和三十年代フェチなら(もし見つけたら)手を出そう。 調べてみたら表題作'69年のNHKドラマでは主題歌がピンキーと殺し屋共の「恋の季節」だったんですって! 素敵ねェ~ ところで同氏の代表作に「四万人の目撃者」なるやはり人数タイトルの長篇がありますが、この四万って三十六の何倍に当たるか分かります? 電卓かスマホで4,000÷36を叩いてみるとすぐ分かりますが、ちょっとした驚きの数字になりますね。。。 |
No.437 | 10点 | 美女- 連城三紀彦 | 2015/12/14 14:56 |
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性愛、それも同性愛や異常性欲(異常心理?)を大いに含んだ枠組みで進行する、文学性豊かな超絶反転ストーリーの数々。本格あり、サスペンスあり、日常の幻想あり。
そろそろ物語も切り上げの頃合いかな、それだと物足りないな、とふと思うタイミングで更に延びるストーリーの嬉しさ。ショートショートの感覚でサラッと終わってくれない嫌らしい快感。そして読者の進む先で作者が待ち構えているのに何度も遭遇する感覚、しばらく読み進んでから「ええっ!?○○=××だったの!?(←一人二役とは限らず)」等々。氏の偉大なる特徴の一つである’反転’も単純に最後の最後で引っくり返したよ、又は更にもっかぃやったよ、更に更にもっかぃもっかぃやったよ、ってのとは中身の上でも外形の上でも立脚点からまるで違う味わい深さ。そして本書にくっきり伺い見えるのが、本格興味を唆る、謎や伏線や解決の’対称性’への企画性あふれるこだわり。。 『夜光の唇』。。 本作だけは普通に面白い普通作。ただ終結の心理的グロテスクさはなかなか。分かりきった不倫劇に加えて同性愛者のキーマンが登場し、本書全体の傾向をあからさまに匂わせる。 『喜劇役者』。。 サスペンス→本格→叙述→サイコ→神秘の書 という流れ ?? 疾風怒濤の告白展開に翻弄されつつ’○○と××が同一人物って、ありえねぐね?’と、どこかで気付く。 そういや主人公(と思われた人?)の造形が奇妙につかめない。。こういうしっかりした積み重ねの有る連続反転なら好きだが、どこまで続くのやら。。最後は「輪廻の蛇」を心のどこかで想い出した。フゥ○○イットではなくフゥズフゥ(ホヮット?)。 まさか、筆まかせか? それとも、クリスティの向こうを張る企画ありきか。。? 『夜の肌』。。 サスペンスの冷気と人を宥す力の温かみが弾き合い引き合う、好きな類の短篇。 『他人たち』。。序盤いきなりの大反転を前提とし、物語は続く。日常の幻想、或いは日常の社会派かも知れない。 『夜の右側』。。 本格系も最高のセンス。その純度の高さが終盤を回るにつれ予想を超えた領域へ。。こんなビッグアイディアを一つの短篇に凝縮しちゃうんだから、しみじみ贅沢だ。贅沢過ぎて、むしろ多少緩んでも構わんから長篇で読んでみたかった気もする。 『砂遊び』。。 一瞬の反転に うっ 『夜の二乗』。。 ありきたりからありきたらぬへの移行にスピーディな胸騒ぎ。何処と無く鮎哲の良品短篇を思わす。大枠も細部も。。と一種の油断をしていると後半あたりからぐんぐん鮎哲軌道から弾力を付けて遠ざかっている!! 最後は連城氏だけ隠し持つ蜂蜜壺の中へ放り出され。。奇妙な捩れくねりを見せてばかりの一方で、あわや絵空事一歩前の対称性へのこだわり。圧巻のハード本格と言えましょう。 『美女』。。 分からん奴には分かったつもりにさせて終わらせるのか。。と思えば最後に最高の優しさと寂しさで誰にも分かる〆。冷ややかで温かい話だ。いや、やはりこれは半分だけリドルストーリーなのだろうか。。 しかし秋田出身の不美人って。。故郷ではさぞかしマイノリティの悲哀を味わった事でしょうなあ。 振り返れば本作がいちばん心に残っています。 まとめよう。 演技・変態・対称性だ。 (LGBTを変態に包含する言葉の綾はまことに恐縮千万!) 反転に意味があって美しい。日本のクリスチアナ・ブランドはやはり彼だ。本当かな。 9.5点相当の10点を献上。 |
No.436 | 6点 | 学生街の殺人- 東野圭吾 | 2015/12/13 16:29 |
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何とかダニットの二重底がいい。そのわり何故だか印象が薄いが、読んでる間は愉しかったぜ。著者ならではの仕掛けもあったし。 |
No.435 | 7点 | 放課後- 東野圭吾 | 2015/12/13 16:24 |
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いっけん軽やか青春ミステリみたいな題名しといてからに。。ま乱歩賞作品がそんな軽いわきゃないんですけどね、このズシリと重くガチリと硬い結末はなかなかの怖さ。 伝説の龍はここから天空を翔け始めたのですね。。 |
No.434 | 7点 | 緑は危険- クリスチアナ・ブランド | 2015/12/10 13:59 |
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この人のユーモアセンスは相性が良くて大好きだが、本作はユーモアに比重が掛かり過ぎ。都会の野戦病院における中年男女達のグダグダ恋愛模様がなかなかにうざたぁい。真相解明もロジック偏重でスリルに欠けるな。。でも嫌いじゃありません。特筆すべきはやはりその、極めてリアリスティックに死と隣り合わせの舞台設定(しかも容疑者達は殺人と裏表の医療行為を続ける!)で論理ずくミステリを書き切った事か。 |
No.433 | 7点 | 暗闇の囁き- 綾辻行人 | 2015/12/10 00:22 |
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思いのほかシンプルな構図のサイコサスペンス。 好きですよ。
綾パンの囁きシリーズはどんなにグロテスクな心理物語でも 不思議ときれいな空気感が保たれていて、素敵だね。 誰か書いてた ’美しく怖く、読みやすく、記憶に残らない、それが良い’ みたいな書評。 本当にその通り。 きれいな水の流れを読むようだ。。 ただね、ネタバレに触れる事を言うと、某主人公が、さしたるトラウマも無さそうなのに大事な事を色々忘れ過ぎじゃないかって。まそれはどうでもいいや。 |
No.432 | 9点 | 或る「小倉日記」伝- 松本清張 | 2015/12/09 06:51 |
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新潮文庫が誇る文化遺産「松本清張 傑作短編集」現代小説篇の第一巻。
二巻の推理小説篇とは別箇に編まれた作品集だが、作家の性質を反映し、結果としてどれも否応なしに息詰まるサスペンスを(時に謎追い/謎解き要素をも)湛えた重厚な社会告発小説として仕上がっており、ミステリファンへの潜在訴求力は極めて強い。「火の記憶」「赤いくじ」を始めとして「推理小説篇」に入れておかしくない様な作品も多い。 表題作は芥川賞受賞作。坂口安吾選者の「小倉日記の追跡だからこのように静寂で感傷的だけれども、この文章は実は殺人犯人をも追跡しうる自在な力があり、その時はまたこれと趣きが変りながらも同じように達意巧者に行き届いた仕上げのできる作者であると思った。」は後年の清張を予知する名言として有名だが、佐藤春夫選者の「描写式でなくこの叙述の間に情景のあざやかなこの作の真価を知ることも少しは手間がとれるものがあろう。母子の愛情もあまり縷説しないところがいい。こ奴なかなか心得ているわいという感じがした。」も無駄口を嫌う清張文体の真髄を言い当て痛快。川端康成選者の「私は終始これを推した」も忘れ難い一言。 或る「小倉日記」伝/菊枕/火の記憶/断碑/笛壷/赤いくじ/父系の指/石の骨/青のある断層/喪失/弱味/箱根心中 (新潮文庫) |
No.431 | 7点 | 共犯者- 松本清張 | 2015/12/09 01:44 |
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清張にしちゃあチャラいちゃチャラい小品集。。とうっかり記憶してたんだがよく考えると表題作が際立って通俗的なだけで別に全体がチャラいわけじゃない、ちょっと小粒な短篇集と言ったところ。っつっても世間標準で見たら相当重い大粒群。捨て作品は無いねえ。
共犯者/恐喝者/愛と空白の共謀/発作/青春の彷徨/点/潜在光景/剥製/典雅な姉弟/距離の女囚 (新潮文庫) 色んなアンソロジーで見掛ける気がする「洗剤口径」は水鉄砲に詰めた強力な洗剤を相手に向けて撃ち溶かし殺してしまう話、ではなく色んなアンソロジーで見掛ける気がする「潜在光景」は相当の筆力が無いとただの結末見え見え怖い話で終わりそうな際どさ爆発の素材を丁寧に扱い、キリキリ音がしそうな緊張バランスの細い絹糸の上に斜めに立たせた酒枡の様な作品。他に、どことなく安部公房を思わす残酷喜劇「発作」、悪者ではなく哀れ者の奇妙にして暗ぁい話「点」(題名付けの妙!)、奇妙と言うより不気味な味の「剥製」、ロスマク的(?)本格推理「典雅な姉弟」、女の半生の雄大な哀しみが拡がる「距離の女囚」、どうしようもねえ人間の醜さに吐き気がする「恐喝者」等、見逃すわけに行かない清張渾身の熱い小品が並ぶ。 |
No.430 | 6点 | 失踪の果て- 松本清張 | 2015/12/09 00:43 |
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失踪の果て/額と歯/やさしい地方/繁昌するメス/春田氏の講演/速記録
(角川文庫) 清張にしては軽やかな作品集。時の流れの重さが迫る「額と歯」がちょっと異質で噛み応え有り。他の軽いのも悪くない、が内容は忘れる。そういう清張もいいじゃないか。 |
No.429 | 8点 | 霧の旗- 松本清張 | 2015/12/08 19:34 |
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終始押しの強い冷気が吹き荒びました。終わってみれば、書き切ったな清張、ってな心象風景です。上流の人間が必ずしも悪どかったり非情だったりするわけじゃないんだと大いなる理解の温風を吹き込ませつつ、この結末。清張氏が本篇を最愛作と公言したことを合わせ思えば氏の脳髄に刻まれた怨嗟執着の底知れぬ深みに思い至らずにはいられません。主人公女子が、自らに甚大な犠牲を強いる事を通すまでして復讐対象を致命的弱みで永久に縛り付ける、その地獄の覚悟振りに戦慄鳴り止まず。最後まで言及されずに終わった題名の意味探りにも心は動きます。ピンポイントで光る本格推理要素もよく溶けている。8.48点。 |
No.428 | 7点 | 伯母殺人事件- リチャード・ハル | 2015/12/08 11:55 |
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粋な小品、私ァ好きだ。 三大の中では飛び抜けて締まった作品。 “倒叙”と単純に呼ぶのもナニですが。
味わいは長編というより中篇。珍重すべき古典。 |
No.427 | 7点 | 白昼の悪魔- 鮎川哲也 | 2015/12/08 09:07 |
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白昼の悪魔/誰の屍体か/五つの時計/愛に朽ちなん/古銭/金貨の首飾りをした女/首/創作ノート
(光文社文庫) 測量ボーイさん言及の通り「五つの時計」の存在が本短篇集の価値を押し上げていますね。他の作も、多少緩めのもありますが、全般的に悪かぁないです。突飛で猟奇的な設定の「誰の屍体か」が見せる”鮎川、時折静かな暴走”も素敵。「創作ノート」は嬉しいおまけ。巻末の想い出エッセイ(山沢晴雄氏)もね。 |
No.426 | 6点 | わるい風- 鮎川哲也 | 2015/12/07 16:17 |
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青いエチュード/わるい風/夜の訪問者/いたい風/殺意の餌/MF計画/まだらの犬/楡の木荘の殺人/悪魔が笑う/付録エッセイ
(光文社文庫) 全篇鬼貫。創元推理文庫の短篇選集x2の如き破壊力はありませんが、ゆめゆめ落穂拾いとは呼ばせない光を放つ、傑作集とは行かずとも充分読ませる内容の作品集です。作品ノートや満州時代を綴った付録のエッセイもちょっとした贈り物。 |
No.425 | 5点 | 三幕の殺人- アガサ・クリスティー | 2015/12/07 13:48 |
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ジュブナイル版以外で初めて読んだ「大人の推理小説」は、クリスティファンの母親から譲り受けた古~い創元推理文庫(白帯)の本作でした。何しろ小学生が無理して読んだものでなかなかに理解しきれず、高校か大学の頃再読して内容はひとまず理解、しかし、詰まらなくは無くも、特筆したくなる面白味は感じませんでしたなあ。とは言えクリスティらしい企画性豊かな長篇ですよね、なかなかにあざといけど(HORNETさん仰る通り「ABC」と通ずる着想が匂ってます)。俯瞰を気取るのもいいけど俯瞰方向を間違えると何も見えませんよ、的なね。やっぱり明るい雰囲気が良いですね。点数は辛目だけど、自分にとって節目というか思い出の一冊です。
ネタバレを言えば、この犯人って無差別テロリストみたいなもんじゃないですか。部分的にではあるけれど。ひどいなあ。 |
No.424 | 8点 | 人形はなぜ殺される- 高木彬光 | 2015/12/04 17:11 |
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ムード満点のアーリー昭和本格推理。例によって大天才の筈の神津探偵が妙に右往左往がちなのは作家が好い人過ぎる故と思うが、それでも彬光ミステリ脳の方がなんとか寄り切ってまんまと大の傑作に仕立て上げた力作巨篇。時刻表物とはまた違う、列車を使った、内なる躍動を感じさせるトリックのダイナミクスが嬉しい。奇術愛好家達の存在っぷりもいい。何より訴求力無双の題名がいい。間違っても「ニンコロ」なんて略したくない、言わせたくない、今夜は君を帰したくない。最初期アキミツでは「刺青」派の私だが本作も大いに人に薦めたい。 |
No.423 | 8点 | 北帰行殺人事件- 西村京太郎 | 2015/12/04 03:13 |
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数多有る氏のトラベル本でも、その悲劇性故か名作と名指される機会の多い本作。突如辞意を申し入れ失踪を遂げた若い刑事の辿る北海道各所で次々と殺人が起こり、刑事は自然最有力の容疑者と目される。被害者達、刑事、十津川警部、そして見えない何者かが縺れ合う逃亡追跡劇の真の構図は何か?まして物語は複数視線(十津川と、もう一人の女)で煙幕は張られっぱなし!予想に反し変態チックな殺人現場に内心唖然としつつも垣間見える怨念激烈な過去への懐疑遡及に引かれサスペンスは濃厚機敏。外は真冬、読むなら今だ!
尚、若い刑事とは後の私立探偵橋本豊その人です。 そうそう、光文社文庫の巻末解説を鮎川哲也氏が共感豊かに書いておられます。これは萌えます。 |
No.422 | 7点 | 夜間飛行(ムーンライト)殺人事件- 西村京太郎 | 2015/12/04 02:32 |
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十津川警部四十路の新婚旅行先は北海道。同じ飛行機に乗り合わせた新婚カップルばかり三組もの失踪事件が旅先の海岸にて発生! 空の便を駆使したアリバイトリック破りってわけじゃあないが、手探りの奥行きある謎とサスペンスの牽引力で最後まで読者を引き摺り回す。意外と社会派。しかも國際。(あんまり書くとネタバレだ) しかし通俗っぽいタイトルとハードな内容と新婚警部のお茶目ぶりに三位一体の愉しいギャップを感じるなあ。
ちなみに本作で十津川警部と亀井さんの設定が年齢含み固定されます。サザエさんで喩えると磯野サザエがフグ田マス夫と結婚してフグ田姓になりタラ夫を出産、波平もめでたくツルッパゲになり(いや彼は最初からツルッパゲ)ノリスケおじさんもタイ人の美子さんと、いや美人のタイ子さんと結婚してハイーことイクラちゃんをもうける、旧単行本で言うと第十五巻あたりに相当しますかね。←当てずっぽう |