海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

斎藤警部さん
平均点: 6.69点 書評数: 1409件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.509 6点 穴の牙- 土屋隆夫 2016/03/14 20:13
たとえばあなた、平穏無事に過ごしているつもりでも、あなたの周囲そこかしこに『穴』は有り、あなたがそこに陥るのを『牙』を剝いて待っている。世の流れから偶然と出来てしまう穴が多数だが、中には人間(あなたの敵、もしくはあなたの味方、まさかあなた自身。。)が意図を持って作り上げる穴もあり。

穴の設計書―立川俊明の場合 /穴の周辺―堀口奈津の場合 /穴の上下―木曽伸子の場合 /穴を埋める―戸倉健策の場合 /穴の眠り―加地公四郎の場合 /穴の勝敗―佐田と三枝子の場合 /穴の終曲―三木俊一郎の場合

各話冒頭に「穴の独白」なる(ちょっとあざとい、時にユーモラスな)プロローグが置かれる。「人間如きが一度嵌った穴から逃れようったって 云々。。」「穴どうしにも競争があり、この件では俺は○○の味方をして▽▽を陥れようとしたが、別の穴は▽▽に味方して○○を落とそうと。。」「□□は自分が穴に落ちておきながら、別の人間用に自分で別の穴を作ろうとしやがって。。」 等々。これらの短いつぶやきがストーリーの流れを暗示しているわけですが。。

第一作目「穴の設計所」が予想外に軽い、まるで鮎川哲也が気張らず書いた緩~い倒叙短篇(どうしてバレたんでしょうか?系)みたいだったもんで、全作そのタッチで行くのかな、それはそれで気楽でいいや、なんて思ってたらそれぞれ物語の構造も感触もタイプはバラバラ、わざわざ「穴」なんてナレーターを嵌めこんで無理に統一感を出そうとしたかのようでもある。各篇タイトル「穴のXX」の「XX」の言葉選びに必然性が見えないのが多いし。。(特に「穴の上下」なる一篇、まさかアッチのエッチな話かと思ったら、そういうわけでもなかったが、ともかくも意味不明な題名付け) 中に一篇、土屋さんの悲惨趣味(!)が抑えよう無く炸裂してる、とても印象深いのがあった。「日常のサスペンス」が陰惨無比な結果に繋がってしまった、というお話で。。 その一篇の結末を除けば、時に陰鬱な題材ながらも筆のタッチは軽いストーリーがほとんどで、おぞましい通し題名『穴の牙』はちょっと肩透かし。 でも、この手を愛好する向きにはじゅうぶん面白かろう。ミステリファン全般に強く推薦とは行かないが、土屋さんのファン、昭和30~40年代国産ミステリ好きの人にまずは絞って薦めたいところ。
ところである一篇にて、ふと弾みで登場した「橋尽くし」、〆めが「泪橋」だったのはどういうわけか泣けた。

No.508 7点 カブト虫殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2016/03/10 22:03
題名ですっかり、ジュヴナイル・ミステリかと思ってたんですよ。嘘だけど。 おお、アバクロンビー&フィッチの創始者親戚筋みたいなのが出て来たと思ったら、架空の人物か!! 何と無く犯人は“あの人物”じゃないかと勘付きはしているものの、あのファイロによる意外なタイミングでの真犯人名指しの直後にウッ!と声まで出てしまったよ。(意外性ってやつは犯人が誰か、真相が何かってだけじゃないし、本当に奥が深い!) 真相解明トークの、論理と心理の美しいマリアージュにゃあ圧倒されましたよ。 と思ったら直後に何やら首を傾げたくなる意味不明のシーンが。。 その意味する所は、ええっ!? 凄いよなあ、堂々の6点候補(時々は5点まで落ちた)がオーラス前、一気に6.8点(7点)に撥ね上がったついでに、その後の更なる意外な展開、そしてあの美しく爽やかな後味のラストで7.4点(7点には変わりなし)まで行っちまいましたよ、エフェンディ。だが俺はエフェンディと違い、トスカニーニのベートーヴェンは、感傷を排していかにもベートーヴェン表の顔らしい剛直さの中にデジタル的な冷徹さをも兼ね備えさせ、極めて魅力的な音像のアウトプットに成功していると思う、モダニズムとか言うんですか、FND。 物語に底流する人種偏見の色も個人的には許せる範囲です。 確かに基本トリックは珍しいもんじゃありませんがね、見せ方、殊にその暴き方の見せ方、読者の騙し方が巧い、そして綺麗ですよね。まあ、きりの無い慾を言えば真犯人が●●●●●●●た理由が割と常識的で、更なるおぞましさの深淵までは覗かせてくれなかったことがやや惜しまれますかね。。あとそうそう、飛んで来た短剣の件はちょっとねえ、もう少し上手に見せられなかったものか、犯人じゃなくて作者が。でもいい作品ですよ。 ナイスガイ、ハニはザ・ストーン・ローゼズ五人目のメンバーかと思ったら違ったな。。忘れ得ぬ登場人物だ。 さて、アマゾンでレジーでも注文するか。

No.507 6点 硝子の家- 島久平 2016/03/08 11:09
比喩でなく、本当に全てガラスだけで建築された、敗戦日本の特殊邸宅で起こる、当主(大手硝子会社社長)の密室殺人。。。。 探偵の名は「伝法」。 これだけで魅惑せられずにはいられない’幻の長篇’は鮎川哲也のアンソロジーで陽の目を見る。 第二、第三と続く殺人劇は全面ガラスの家ならではの「逆密室」で行われた、という趣向。。。。

本作、長篇とは云えど短い。その短かさ、詰め込み急務の勢いが仇になったか、いささか消化不良のトリック、真相、終わらせ方を晒してしまっている。 とは言え真相の一部はなかなかに凄まじく、読む者の気持ちを衝いて来ること請け合い。 文章は読みやすく洗練。 そして邸宅のヴィジュアルイメージは今もって脳内に鮮烈だ。。

No.506 7点 笑わない数学者- 森博嗣 2016/03/07 12:41
今晩は 国枝桃子です 嘘です  この作者の文章には肌で嫌悪するポイントが幾つかあるが、それでも面白くてスイスイ読んでしまうなあ。なんだよナンバプレートって?難波駅前のお好み焼きか?スピーカってのは星のスピカに掛けたのか?センサとセンセは同じ穴のアレか?? 「まさかそれは無いとして」と横においといた○リ○ー○ョ○の基本みたいなのがまさかの魔術トリックだったとは。。おかげで逆正常位だか逆トリックに引っ掛かれなかったぞ。(だが、そこに込められた隠喩たるや、相似に向けての暗示たるや!) トリックだか真相暴露は、思わせぶりな○○の正体追求を含めて、何かを越えられない弱さをだだ漏らしの様に見えた。それでも蔑めたもんじゃないし、本としてすごく愉しい、再読はしまい。 定義? たしかにな、今やカリフォルニア州で白人は五割割れのマイノリティだと言うが非白人を一括りにする定義の合意されっぷり、それから日本でのその解釈っぷりは一体どうよ?? あ~ぁ萌絵のブラジャにスターバクスコーヒのシミ付いちゃったよ。 とにかくラストスパートの物言い群には、泣けながら笑ったよ! 数学的に涙腺を刺激するあのエピローグ、ラストシーン、〆め方が好きなんだ。

視座は高かろうが何だかもにゃもにゃした本作の逆トリック習作(?)よりは、ずっと視線を落とした「高木家の惨劇」の実際的トリック反転の方が、完成度の高さは言わずもがな、味わい深さもよりひとしおと思えます。本作の様なより高次元での逆トリックを成功させるには本作で作者が見せた文章力ではまだ足りないのでは。風桜青紫さん仰る通り「まさかあの人が○○の正体だったなんて!」とアゴが外れて病院へ急ぐほどの登場人物が(登場人物表の中に)いない。一部の本格・新本格ミステリについてよく「人物が描けていない」などとピント外れな批判がされる事がありますが、本作の場合は本当に切実な意味で「本格としての人物が描けていない」のではないでしょうか、もし、逆トリックの最大の狙いが○○の正体周りにあるのだとしたら。。 以上、国枝桃子でした。 嘘です。 

No.505 8点 死の接吻- アイラ・レヴィン 2016/03/04 04:43
ビートルズの全米連続一位記録をストップさせた故事でも名を馳せるサッチモのポップ・ヒット「ハロー・ドーリー」はまさかこの作品の台詞から出来た曲じゃないだろうか、と想いを馳せます。

社会派の熱、サスペンスの冷気、叙述操作の妙、恋愛ファクター、分厚い人間悲劇。。 と欲張りな重要因子を抱合しつつ、社会派と恋愛、そして悲劇要素については絶妙な地点でリミッターを掛けたのが功を奏したか、叙述云々についてはもう少し引っ張ってもいいんじゃないかとも思えるが、ともかく濃密な内容群が際どいバランスの良く取れた枠組で高速進行する、サスペンス型ミステリーの古典良作です。

何と言っても映像的、音響的、更には高温度、高湿度に鋭角的な匂いの感覚まで強烈に迫る、あまりも素晴らしく映画的な終盤のクライマックス・シークエンス、そしてそれに続く、これで終わるのではなく’これから始まる’嵐の前の静謐なエンディングには今にもエンド・ロールの文字群が被さって来そうだ、いや、映画だったら後日談までじっとりと描いてから締める所か。
正直なところ、7点で終わりそうでしたが、このクライマックスの強烈さ(ミステリ的面白さとは違う)で1点アップしてしまいましたよ。(細かく言えば7.2点から7.8点に0.6点上がったくらいの感覚)


【以下、本作での反転のあり方についてネタバレあり】

どんでん返しが最後じゃなくて中盤に来るのは「あれ!?」って思っちゃいましたけどね(多くの皆さんが語られたと同じく、もう一ひねり有るかと期待してしまいました)、それでもサスペンスいっぱいの場面がふんだんにあって緊張は途切れません。’手紙’を投函のリミットとかね、手に汗ですよ。。’新婦の持ち物’の手掛かりも唸ります。

もしも本作に「更なるどんでん返し」を付するとしたら’三姉妹の別れた母親’又は/及び’亡くなった真犯人の父親’に何らかの重要な役割を持たせるとか、だろうか。

だけどやはり、真犯人を最後に明かすというやり方をどうして取らなかったのか(この作者の頭脳なら出来たんじゃないか?)、それをやったら衝撃も如何ほど甚大だったろうか、と不思議に思う気持ちは消え難し。(当時既に作者はそれを「あざとい」と認識していたのか?)
それでも「構成の妙」には充分納得。基本アイディアから小説の実体構築まで、実に鮮やかと思います。

【ネタバレここまで】


終わってみると、本作の最重要テーマの一つが「親子愛」であった事に今さらながら気付かされ、泣けます。
そして彼は本作を両親に捧げた、か。

原題は’KISS OF LIFE(マウス・トゥ・マウス人工呼吸のこと)’をひねった’A KISS OF DEATH’かと思いきや、’KISS BEFORE SLEEPING(おやすみのキス)’をもじったと思われる’A KISS BEFORE DYING’。そちらの方がちょっとだけ甘美なニュアンスが拡がりますが。。

知られた所で二度映画化された様ですけれど、両者とも(犯人の正体を伏せた)ミステリー仕立てにするのは放棄しています。しかし「イニシエーション・ラヴ」や「ハサミ男」をまんまと映像化してしまった今の日本映画界だったら、原作に忠実にやる事も不可能ではないのでは? と夢見てしまいますが。。若いイケメン俳優たちの配置はどうするのかな。。 ってそんな単純なもんでないだろ、的な?
(そうそう全く内容の違う「死の接吻(KISS OF DEATH←前述のコトバ)」なる映画もあるのでね、注意が必要ですね。)

ところでハヤカワから出てる新装文庫版(新訳ではない)のカバー、素晴らしく良いですね! 美しくて、不気味で!! うちの小さい息子が「あ、『の』ってかいてある!」だって、あはは。

あとね、訳者あとがきで長々と引用される、様々な"当時の反響"、これがじぃつに愉しくてね!

No.504 7点 夜は千の鈴を鳴らす- 島田荘司 2016/02/25 01:40
美人社長とその秘書青年との間に閨房にて取り交わされた会話(私を殺して財産を手に入れてみなさい 云々)なるケレン味上等、疑惑タップリの初期設定がギラギラと付き纏う、こりゃあ魅惑の滑り出しだ、快調に飛ばせよ! と期待しながら読み始めよう。。

早速美人社長は疑惑屍体となり発見、青年秘書が本命容疑者となり。。 声のダイイング・メッセージ「ナチ云々」の正体は あぁ、そうでしたか。。。っておもむろにタバコに点火する程度でしたけど、複眼視点を要求するアリバイトリックは切れ味剛健でなかなかの味わい。過去からの因縁ストーリーも瑕疵少なく重厚にはまっています。

社会派ぶってみたアリバイ崩し本格推理、構成の妙も有り、まずは快作と言えましょう。
鮎哲ファンの方は是非ご一読を。(アッチの作品の方は敢えてノータッチ)

No.503 4点 他殺の効用- 内田康夫 2016/02/24 18:28
数年前、初めてのヤスオ・ウチダとして手に取った短篇集なるも、タイトルに惹かれる表題作からちょっと結末(どんでん返し?)にやり場のない押しの弱さを感じ、他の作品もなかなかにピシッと来ず。。 やっぱ量産売上族では京太郎先生がいいですわ、私は。トラベルなやつとか、いつか他のも試してみますがね。 
でも基本アイディアは悪くないですよ、記憶にも残ります、表題作。 折角こういうの書くんなら、もう二捻り欲しいね。  

他殺の効用 /乗せなかった乗客 /透明な鏡 /ナイスショットは永遠に /愛するあまり

No.502 7点 誤認逮捕- 夏樹静子 2016/02/24 12:27
バカな男、バカな女、馬鹿と悧巧の廻り舞台、切れこそ甘いが妙に沁みる反転劇の数々。

手首が囁く /郷愁の罪 /誰知らぬ殺意 /誤認逮捕 /風花の女 /高速道路の唸り /山陽新幹線殺人事件
(講談社文庫)

警官達が立ち代り活躍するが、連作の警察小説として読めば、男子における青臭さの女子におけるそれ(赤臭さ?)を少し感じる。 が、それもまた良い窯変の彩りだ。

「手首が囁く」 街のごみ置き場でマニキュアの付いた切断手首が見つかる。。一人の女子大生が行方不明になっている。。最初のジャブからいきなり捻りますねえ。期待も高まります。
「郷愁の罪」 嘱託殺人とも見える、貧しい身なりの初老男子による不審点多き突発事件、その隠された輪郭とは。。犯人の施した“ある事”の哀しき動機が、何ともはや!
「誰知らぬ殺意」 結婚を前にし不倫を清算しようとした女は、将来の夫との旅先にて、理由を付けて情夫と落ち合うが。。 こりゃなかなか凄い話だな。ただならぬ反転絵図もグッと来るね。
「誤認逮捕」 これは粗筋いわんとこ。作者の企画押しは強いものの、妙に温かく映像の残る、味わいある表題作。枠組みは如何にも世知辛い昭和後期の本格推理で、別に人情がどうとかじゃないんですけどね、、どうしてこんなに心に訴えるんだろう。

やっぱりね、小粒ながらオャッと思うような反転がそこかしこに埋まってるんですよ。読み捨てには出来ない、愉しい愉しい短篇集です。使ってるトリックもチャチャッとしたもんが多いんだけど、軽人間ドラマや何やと上手に組み合わせて、推理ドラマを立体的に浮かび上がらせて見せるのが本当に上手でね。

「風花の女」 男は、因縁浅からぬ女と思わぬ再会。夜の街に少しばかり付き合うと、奇しくもその女にとって、とある殺人事件のアリバイを成立させる結果となっていた。。 トリックは浅いが、忘れ難い結末、深みのある仕上がりだ。 これが連城ミキティだったらもっとギョッとする真相を用意するのだろうけど、夏樹さん流儀のこれくらいの抑制も素敵だぜ。
「高速道路の唸り」  ぱっと見チャラ目の時事風俗モンかと油断するや、中盤手前より暗雲の胸騒ぎ。『黒いトランク』さえ連想射程内に引き込む、底深いアリバイ操作、黒光りしそうな隠蔽真相への予感と期待はなかなかの手ごわさだ。 高速道路の”キセル”と来たか。。ここにまた、見えない対称性のマジックだな。 エーテル。。そっちの意味では久しぶりに聞いたぜ。
「山陽新幹線殺人事件」 京村西太郎さん長篇みたいな題名。氏ほどの冒頭掴み力は望めないが、その代わり、やはり氏とは逆に徐々に盛り上げてくれるし、出来は良い。これもね、トリック核心だけ見たら子供だましもいいとこ(推理クイズによくあった!)だけどさ、仕上げにいい深みがあってね、なかなかのものなんですよ。

さて、中に一つ、長篇の尺に伸ばしたらより光るんでないかとも思える“際どい叙述”の作品あり。それも叙述一点頼みでなく、叙述以上に大きなもう一つの反転が叙述の上に覆いかぶさるという不思議な構造の物語(←何回ジョジュツって言ってんだ)。 その作品単体なら8点かしらね。上手く長篇に仕立て直せば9点も見えよう。

No.501 7点 続813- モーリス・ルブラン 2016/02/24 00:13
真犯人の正体暴露にゃァ予想を上回ってハラハラさせられたなァ。。
'813'の秘密ァ、大いなる肩透かしだった。

正・続合わせると、うん、6点上々だね。

No.500 5点 813- モーリス・ルブラン 2016/02/23 23:58
この本はジュブナイル版で読まず、いい大人になってから初読したはず。(と書いた後で思い出したが、小学生のころ目を通したがよく分からず斜め読みで終わったんじゃなかったか)
真犯人の目星は早々に付いた。それだけで緊張を強いられた! そいつの正体が暴かれるであろう結末ばかりが楽しみで楽しみで。。 怪盗紳士リュペァ~ンの冒険譚はサラサラっとかっ喰らい読みサ。

No.499 7点 成吉思汗の秘密- 高木彬光 2016/02/22 14:43
一般的な本格ミステリ同様、無理筋の想像を大いに含み、舞台を大過去の広領域に求めた面白妄想本。
この探偵役を療養中の神津氏に任せた微妙な滑稽さがミソ、かも。
(作者が大真面目に説いてるらしいのは、心配だよ。そのスリルもまた良しだ。)

同一人説を支持す・せずに関わらず、広い視野で歴史興味に訴える部分も大きく、決して馬鹿な本ではないのですよ。

No.498 9点 カラスの親指- 道尾秀介 2016/02/22 13:06
こいつ、コンドームとコンゲームを掛けやがったな?
             
ありがとう最高だった。本当はこれだけで済ませたい。
と、50ページも進まないうちに予感痛感させられちゃった。言葉で追い付けないほどの感銘の渦巻きとみずみずしい水しぶきをありがとう。ジワジワ来る言葉遊び(中級篇)も気持ちがいいよ。ごく稀に現れるシャラくさいナニも許せるよ。
それにしてもチャントシ(田原俊彦)と桑田佳祐師匠は半昔程度の年の差だったんだね。世界でも二本の指に入る馬鹿で優しい「お住まいはどちらなんですか?」をお見舞いしてくれてありがとう。Ex X hideをリメンバーさせてくれる哀しいエピソードもありやがってよこのやろう。

ほんの冒頭でちょっとした叙述ジャブ、ありゃやられたね、と思うとナックアウト級の最終反転にホットライン直結しそうな大伏線に見えて見えて仕方の無い魅惑のワーヅが超序盤からちらほらキラキラ、こらたまらんワ、絶対面白い、こいつ最高だ、ってか何なんだこの、長丁場になりそうな明らさまな伏線独白の複利雪だるま堆積はよ、おいおい伏線の伏線かと目を円くしちゃう複伏線もどき(??)まで出てきたじゃねえか、んで~そうして、あン? 数多の伏線たちは何かあるごとに瞠目の機敏さで次々と回収されて行くわけですね。サイムセイリヤってカタカナでカカレタらサイゼリヤとマチガエルヒキガエルじゃねえか馬鹿野郎。指のやつ 試しちゃったよ ダチの結婚披露宴のアレ以来だったよ 考えちゃったよ。。
あゝ 清張に読ませたかったなあ。もし眼が老衰してたら俺が朗読してやる、畜生。

読書として騙されるとしたら、反転にやられるとしたら、何処にその芽が、立脚点があると睨めばいいのか分からないまま物語の刺激的濁流に翻弄されっぱなし、だから最後にあそこまでヤラレたに違いない。いやあぁァあ泣けた、怒った、、 笑みがこぼれてなおさら泣けた。


【ここよりネタバレ】
詐欺師と劇団員(さらに言えば詐欺成功に伴った潤沢な財源)って設定でもって、あり得なさを全クリアしてまう(島荘某作の「○○が好きだから」を思い出す)心温かいズルさには負けた。作者の文書力構成力あってこそ成り立つどんでん返しなんだろう。更にもう一回転喰らわせて(実は武沢が。。。 とか)頭の中を嫌ァ~な真っ白にまではさせない引き際も立派。
数ある伏線の中で、アラレちゃんの件だけは流石に瞬殺で違和感炸裂だったけどサ、どういうわけだかうやむやに納得させられちまってた。筆力だよねえ。
強いてナニをあげつらえば、デブ青年が更に大きな秘密を抱えてたわけじゃなかったのか。。ってとこくらいさ。
【ネタバレここまで】


本当は本当、嘘は嘘ってことだよな 下品なブランド、明るい連城め。
しかし本当にまいったなあ、いやァね、そんくらい巨大なナニで〆るんだろうなってのは感じてたってか、事実上知ってたけどさ、そうなんだけどさ。やばいよベイビイ、父が亡くなる前に読んで欲しいよ。もし眼がダメになってたら俺が朗読してやるから。

ところで本作、なんだか妙に「あまちゃん」に似たストーリー起伏フレイヴァーを感じるなあと思って読んでたら、能年玲奈つながりだったとはな(映画の方ですが)。もしかして、本作でのパフォーマンスが「あまちゃん」抜擢へと繋がっていたのかしら。クドカン的にミステリーってのはどうなのかしら。
しかし本サイトでは10点未出、9点がやっと4人目でしたか。甘ェなあ俺も。

No.497 7点 婦人科選手- 佐野洋 2016/02/18 11:29
タッチは軽くとも、しっかりした筋骨を感じる信頼の短篇集。

ある証拠 /噂の夫婦 /蛇の卵 /婦人科選手 /五十三分の一 /馬券を拾う女 /チタマゴチブサ /違法駐車 /陽の当る椅子
(講談社文庫)

表題作。。ミステリの骨格は初めから見え透くようだが、、物語は最後にまさかの深みを突き付け。。
五十三分の一。。なる若き日の行き過ぎた過ち談らしき話も、最終コーナー前から予想外に濃ゅい方向へ。。でもオチはちょっと安易。”マジック”を期待していたからね。
馬券を買う女 。。日常の謎のような滑り出しから犯罪露呈へという佐野洋得意の枠組み。この話、実は骨格が日常の謎、そこに犯罪ストーリーをごってりコーティングした形だろうか。落語のオチのようなエンディングと言い、味付け濃い目の小噺のよう。そういや氏は実際’ちょいエロ日常の謎’短篇、よく書いてたよなあ。
ちょっとした機転のアリバイトリック、だけどちょぃと危ないサイコ小噺の。。違法駐車
色事擦れした鮎哲みたいな恐喝小噺。。陽の当たる椅子

なんかやたら’小噺’って使っちゃったけど、実際後半はそんな触感のストーリーが目立つ。浅いんじゃないよ、切れ味と引き際の問題だよ。上に記さなかった各作も悪くないよ。軽エロSFもあるぞ(笑)。

No.496 7点 ひとたび人を殺さば- ルース・レンデル 2016/02/17 12:09
重い腰上げ初めてのレンデルはまさかのユモーォミェストゥォリ、とうっかり油断していたら。。。 貧しい一角に住む若い娘が殺され、墓地で発見された事件。 終盤近く、警部と老婆の語らい、やり取りが凄くいい、心に温かく残ります。 ところが、そこから思慮有る〆までの限られたページ間にまさかの連続反転が襲う!!物語の大方を占めるユーモア微風地帯から打って変わり、暗く湿った真相の投射舞台へ。。。。

さて‘この角度’からの犯人意外性だから、ジャンルはやはり警察小説。HB(Hardboiled)ともHKK(Honkaku)とも違う。あはは、何なんだろねえ、されどジャンル分けの機微ってか。

前述の老婆とやり取りの所まで堂々の6点候補だったけど、やっぱり最後のドラマチックな決め技にやられてね、1点upしましたよ。 
真犯人、最後の台詞は泣けたねえ。(鈍いもんで最初その意味に思い当たらず、後から読み返してハッとしたわけですが)

ところで、ブラックベリー・ポンチョとは何だ!?

No.495 7点 轢き逃げ- 佐野洋 2016/02/16 13:13
力も入った事だろう、稀代の短篇名手が二部構成の大長編を完遂。愛人を伴っての轢き逃げ事件を巡り、第一部は犯人側視点で犯罪隠匿のサスペンス、第二部は被害者側視点で犯罪暴露の謎解き。ところが、犯人側と被害者側、それぞれ一枚岩で単純に追われる者と追う者の立場とだけは言えないものになっており。。 登場人物割と多く、人間関係何気に錯綜。 言ってみりゃ堂々の社会派本格ミステリ。社会派要素はどちらかと言うと物語の核心より表層寄りに位置しているが、作品の快い緊張感をキープするには不可欠な助演級スパイスだ。

さてこの力作、必ずしも作者のベスト・オヴ・ベスト級にならなかった(ように私には思える)のは、紙面に余裕がありどうしても幾ばくかの構造の緩みが生じてしまった所為かしら。昔はいざ知らず今や本作が「佐野洋の代表作と言えば何を措いてもコレ!」的な存在になっていないのは、短篇巧者の称号を掲げる作者にとってイメージが混濁せずラッキーなのかも。余計なこと言い過ぎましたが、かなりよく出来た面白い小説ですよ。昭和ミステリ好きなら必読クラスでしょうね。

No.494 6点 発信人は死者- 西村京太郎 2016/02/16 12:28
先の大戦で撃沈された艦船からのSOSを定期受信せり!! まさかオカルト小説の筈は無いよなと京さんを信頼しつつ、往時の海軍将校謎の死も絡み臨場感たっぷりの南洋冒険譚を堪能し終わると。。そこには意外性の薄い結末が待っていた。だが決して詰まらなくない。本作はやはり、謎と因縁多めの冒険小説と思って行くのがイカした読み方でしょう。海洋期京太郎なら「消えたタンカー」等に較べて確かに謎・冒険の双方からの圧倒的迫力を誇ると言った風情ではないが、かと言って熱心なファン向けの小粒作品とは言えません、まだ広く読まれて然るべきと思います。(でもやっぱ「タンカー」を先にトライして欲しいなあ、その余韻のうちに本作に来るとすごくいいよ)

No.493 6点 予告殺人- アガサ・クリスティー 2016/02/15 15:48
幸いこれは相性の良いクリスティ。犯人”だけ”は瞬殺で見えてしまったけど、それでも充分に楽しい”追い詰め読み”が出来ました。言い間違えの伏線はちょっと際どいモンだったスけど、動機、事件の背景は最後まで上手に隠蔽されましたねえ。連続殺人の中に一つ、その動機を単純に「●●じ」と呼ぶのが憚られる微妙な経緯のものがありますね、記憶に残ります。

(以下音楽ネタ)
それにしても主要登場人物の「ブラックロック」なる姓はバッドブレインズあたりを連想させずにはいられませんでした。ROCKじゃなくてLOCKだけど。あと、その人のファーストネーム「レティシア」が井上鑑の凄く好きだった同名曲を思い出させずにいらりょうか。。(ほんとはそっちの方は旧いフランス映画『冒険者たち』のヒロインから取ってます)

No.492 3点 メソポタミヤの殺人- アガサ・クリスティー 2016/02/15 15:07
どうしてなんだろうなあ、ホントウにおもしろくなかった。作者が色々面白いこと繰り出して来るのは感じ取れるんだけど、ビニールシートの向こう側で空回りってとこでね。エキゾティックな舞台設定の妙だとかも、おかしなほど心に入り込んで来ない。
どうしてこう、クリスティさんとは作品によって相性良し悪しの格差がすさまじく不安定に大きいのか、本当に謎だ。他人様にはどうでもいい事でございますが。(とは言え平均点下げちゃってごめんなさい)

No.491 5点 5分間ミステリー - ケン・ウェバー 2016/02/13 02:31
多くの日本語書評で指摘される通り、純粋な推理や知恵比べと言うより雑学知識(それも北米での)が決め手となる問題が多く、あまり国際的でないというか北米人向けというか、少なくとも普通の日本人にとっては肩透かしの連続かも。それでも何だかワクワクするんだなあ、こういう短い文章問題がいっぱい並んでるのって。そんな中で貴重なピュア・ミステリー・クイズとして胸に残るのが、いちばん最初の"耳が不自由なふりをする老女"の一篇。なんだか妙にドラマチックでね、どきどきしちゃうの。老女の嘘を見破る一点がまた、絶妙に際どい所でねぇ~。佐村河内さんはこれ読んだ事あるかなあ。

No.490 10点 アブナー伯父の事件簿- M・D・ポースト 2016/02/12 16:13
我が新約聖書。 ミステリと文学との、更にはキリスト教との清らなる三位一体。
(実はもう一つ、法の精神も分かちがたく結束している。更には民主主義精神も少しく。)

天の使い/悪魔の道具/私刑/地の掟/不可抗力/ナボテの葡萄園/海賊の宝物/養女/藁人形/偶然の恩恵/悪魔の足跡/アベルの血/闇夜の光/〈ヒルハウス〉の謎
(創元推理文庫)

‘戻り川心中’(連城三紀彦)に脈流する恋愛要素を神の愛に置き換えたような、敬虔さと、大胆にトリッキーな趣向(ドキリとする様な反転も多い)と、土台のしっかりした質実な文学性とを兼ね備えた、しかも読みやすい、奇蹟の様な短篇作品集です。ただ、恋愛にも当然ダークサイドがある様に、本作にも全能の神が支配していながらも起きてしまう人間界(開拓時代の米国東部)ダークサイドでの罪深い出来事が、どこまでも真摯で敬虔な口調で語られる。ブラウン神父の様に挑戦的ユーモアを前面に出さず、飽くまで穏やかに静かな空気を保ち続ける分、知的な愉しさを上回って心が揺さぶられる場面も多い。

なんて書いときながら評者はキリスト教徒でもユダヤ教徒でも全共闘でもキョードー東京でもまして京都の恋(渚ゆう子)でもないんですけどね。 それでも、私にとっては何物にも代え難い、命の水のような一冊です。(一冊と言えば、ハヤカワの方まだ読んでなかった!)

キーワードから探す
斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
鮎川 清張 島荘 東野 クリスチアナ 京太郎 風太郎 連城
採点傾向
平均点: 6.69点   採点数: 1409件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(59)
松本清張(56)
鮎川哲也(51)
佐野洋(40)
島田荘司(38)
アガサ・クリスティー(37)
西村京太郎(35)
島田一男(29)
エラリイ・クイーン(26)
F・W・クロフツ(25)