皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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斎藤警部さん |
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平均点: 6.69点 | 書評数: 1357件 |
No.937 | 7点 | ダイイング・アイ- 東野圭吾 | 2020/02/27 18:30 |
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糸屋の娘じゃあるまいし。。。。 主人公の記憶の失わせ方が絶妙。。おかげで読者にとって謎に被さる謎が次々と奔出! 一方で、すぐにカタが付いたり解明出来たよな気にさせられたりする案件も続々。 筋立てはどんどん曲がりくねるのに混乱無く、頼もしき剛速球感、面白いです!! それにしてもホラーだか何だかにしか思えない事象がいつまで経ってもおさまらないのだが、はて。。。。 そう来るのか。。。。。。 だけど終結のドタバタで違和感が急襲。ここさえピシと決めてたら8点級だよなー 惜しいー んで交通問題から派生した社会派ミステリ(?)とも見えるし、それはダミーの騙し絵とも見える。 某登場人物(名脇役)がまさかの被害者になってたのは違和感じたんだけど、、やっぱ交通事故で殺されるより意志ある殺人者に殺されるほうが怖い、って事を匂わせたかったのかも?? でも結局、ホラーとは謂わずともサイコ的なもやもやの切れ端が微妙に残ったかなあ、、本格ミステリ/本格サスペンスだと思って読んじゃうと。
発刊当時 『今度の東野圭吾は、悪いぞ!』 ってキャッチコピーが意味ありげに踊ってた本ですよね。 悪い、のか。。。。。 |
No.936 | 6点 | 少女- 連城三紀彦 | 2020/02/20 19:40 |
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熱い闇 5点
官能ホラーファンタジー in 現実世界。反転の肝暴露がタイミングは性急、スピードは緩慢で、連城らしいピリッとした魅力には欠ける。半端に文学づいた佐野洋がエロ短篇を書いたみたい。(佐野先輩、大好きです) 連城基準なら4点弱 少女 6点 小澤陽子が登場!w 所々クソキモいのはともかく、無実証明の為の興味深いねじくれ現象やら、味のありそうな社会派暗闇をも絶妙にチラつかせつつ、、 軽く一点突破のその、その反転でカタ付けたってか。。小せえよ。。 で刑事の最後の台詞、この世の性差別の肝を凝縮した論点のレトリックで、胸糞悪いこと無双の響きあり、最高の締めだ。 連城基準で5点強 ひと夏の肌 6点 まさかの 。。。。でも良かったです。 ただ、去年のアレの動機が明かされずじまいなのは、どうなのか。 でも、この手の としては、そこはっきりさせるよりもこういう方が味わい深いかな。 盗まれた情事 7点 羊頭狗肉、の疑いを俊足の落とし前で晴らす最後の数頁。連城としてはまあまあ。 金色の髪 8点 この反転のキレにはやられたわ。。熱さもコクも奥行きもさほど無いが、とにかく驚いた(全体的に緩い本なんで油断してたからかも?)。 でなんともおフレンチ。 全体通してエロさ爆発、変態度は表題作除いて低め、文学とミステリの味は連城にしちゃあ幾分落ちる、そんな短篇集。 |
No.935 | 6点 | あなたは誰?- ヘレン・マクロイ | 2020/02/18 18:10 |
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“こんな面白い人が殺されるはずがない”
騙し絵だよねえ。謎の脅迫電話に始まる心理学応用サスペンス。某ネタの嚆矢と言われる作だそうですな。その上でフーダニットともう一つフーズ■■■■の趣向が見事に共存共栄。或る主要人物についてのアレがアンフェアでないの? とも思ったけど、流石のプロット構築力に丸め込まれちゃいましたねえ。。 甘いばかりじゃないようでやっぱり甘~いエンドも良し(めちゃ印象に残るわけじゃないが)。 あと、原題より邦題の方が格段に味わい深いですよね、その理由はここでは詳しく言えないわけですが。。原題いっそ”Who’s Calling ?”より”Who Are You ?”が良かったんでないかと。 安易な考えかも知らんが。 【伏字ネタバレ】 ●ー●ーが実はすんげ悪い奴だったら面白かったのに。またはいい奴だけど犯人とか。 |
No.934 | 7点 | あした天気にしておくれ- 岡嶋二人 | 2020/02/13 12:30 |
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“私の不安はそこにある” 画期的身代金強奪トリックさえ呑み込む構成の妙で大いに読ませる煌めきの一篇。 複雑な取り込まれの渦に、予想を呑み込む加速のやばさ、わずか2ページ足らずの隙間に。。そんなシビレる核心の一幕を経、大トリックが明かされてもまだ積み残される、違和感と謎と人間ドラマ。 “あの人”が真犯人なら、ミステリ的に最高に素敵だなと(実人生だったら最低だが!)妄想しながら読み進めたところ。。。。 いっけんドライな行動描写の中に考え落ちならぬ考え情感が溢れる(ハードボイルド文体とは微妙に違う)、そんなシーンによく出くわす。 そして今から動き出すラストシーンも、気持ちが深い。。。 「そうしましょう。牧場にそうするように言っておきます。」 ← この哀しきユーモア、哀しいのに噴き出したw で、何故このタイトルなのかという疑問はおいといて、バランスちょっと悪いとこもあるけど、この創作パッションは見逃せません。 講談社文庫、ミスタ・ヨー・サノの巻末解説、いいねえ。特に最後の四行。“そして、この有名な方法は、さらに、競馬の外の社会で頻繁に行われていることからの応用だろうと思います”という一文も拡がりがあって素敵。 【最後はネタバレ(メイントリックについて)】 本作の身代金トリック、昔どっかで読んだ奇想麻雀漫画のネタを彷彿とさせます。点数計算を、その日に実際打って和了った手の占有率(誰かが和了る毎に変動する!)で倍率配分したらどうなるか、みたいなの。 たとえば早い段階で四暗刻単騎行っちゃったら。。 |
No.933 | 8点 | 他人の顔- 安部公房 | 2020/02/09 21:09 |
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ガチガチの純文学たる本作にも「読者への挑戦」は挟み込まれています。 「手記ノート」の中に追記や訳注やらが頻繁に挿入される魅惑の物語構造。そう、本作は。。。。一般に『化学研究所の液体酸素爆発事故によって顔面に蛭の群れのような醜い火傷を負い「顔」を失った男が、精巧な「仮面」を作ってかぶり、自己回復のため妻を誘惑する物語』などと紹介されますが、実際は、そのような一連の行動をまとめた「手記ノート」で一切を「妻」に暴露しようと、逢引き場所のアパートにやって来る「妻」を隠れて待つ「夫」の話であり、ただそれだけではなく。。。。
“それがぼくの生涯の履歴として、正式に登録されるのだと思うと、やはり慎重にならざるを得なかったわけである” 確かに構造的にミステリと呼べない事もなく、サスペンスの雰囲気も割と漂っておりますが、多岐に渉る論説に満ちた噛み応えある文学作品として味ヮうのがむしろ面白い事でしょう。ボワロー&ナルスジャックみたい、なんて思う人もいるかも知れませんが。。(本当か?) 時代小説不滅論など興味深い考察もちらほら色々。 んでこの話がさ、古くなってないんだよ。怖いねぇ。。。 |
No.932 | 4点 | マリオネット症候群- 乾くるみ | 2020/02/07 12:00 |
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"腑に落ちる、とか、胸のつかえが取れる、とかって言い回しがあるけど、ちょうどそんな感じで。"
一人四役趣向の特殊設定ファンタジー応用篇か?(それも、中では地味な「証人」にスポットライトを!?)なんて思ってみたりしました。 それにしてもラストはまさかの 、、、、 角田喜久雄「発狂」のマッドエンドを彷彿とさせてくれました。 いやあ気持ち悪い!(悪い意味で) |
No.931 | 7点 | ノエル: -a story of stories-- 道尾秀介 | 2020/02/05 12:00 |
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にぎっては出しのホヮットダニット反転やら叙述トリック連発やらまるで短篇連作の如くに惜し気なく奔出。でも本作は短篇的パートに分かれた長篇。後に進むほど『童話部分』の良さと意味合いが押し寄せて来る。ストーリーそのものが臨界面で連関すると言うより、ストーリーに登場する人物たちの人生が点で連関する、同じ連作短篇的長篇でもワンクッション含んだ感覚。てか、だからこそ連作短篇ではなく長篇の体裁なのか? それにしては叙述の小技が光り過ぎな気も若干するが、いいさ。 最後に近づくにつれ、ストーリーの織り成すハーモニーのあまりの美しさに、ペンタトニックスが髭男の勢いでカバーしてくれないかと思ってみたりもする(あのバンドとこの作者は雰囲気似てる気が)。まあエピローグは出自的に、「三題噺」をまとめたようでもありますが…その効果は大きい。 ところで、第一話の微妙に不吉なエンディングって、もしかして回収せず?(おいらの読み落としか?) |
No.930 | 6点 | その灯を消すな- 島田一男 | 2020/01/30 12:00 |
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「南郷さん、魚が仲よくするときは、どんな風に挨拶するんでしょう?」
「よし、わかった。おしっこをして寝たまえ。」 流石に、口のきき方の分かった島田一男だ。佳き旅情もたっぷりだ。 シネラマ見物、「爽快ですわよ!」 金丸京子役にゃア芳根京子がぴったりだ。 光文社文庫巻末解説の大内茂男、いいねえ。 “ホヤのくすぶった石油ランプが、そんな状況を、薄暗く照らしていた。” 南郷弁護士昔なじみの平家村で展開する連続殺人事件。題名に込められた意味をくどくど説きゃしないアッケ無さもシマイチらしいコイネスぶりだが。。。さてこっからネタバレ風な言いぐさになりますが、意外性とは共存出来ない類の大動機で締めるのかと、思いきや!! しかしその大落ち、質量併せてもうチョィたっぷり味わせてくれたらなア。。反転後が短過ぎるやなア。。と恨みにも思います。 ところで、光文社文庫表紙の女性はLiLiCoさんでしょうか? |
No.929 | 7点 | ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!- 深水黎一郎 | 2020/01/28 13:00 |
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「本当に最後までやるつもりなのか?」
ナイストライ! 文章も悪くない。 【【 こっからしばらく、パラグラフ内はネタバレ気味です 】】 主人公が書いているという連載新聞小説の内容がさっぱり紹介されない、妙だなあと思っていたら。。 yoshiさん仰った通り、本当に新聞小説として発表されてたら、ちょいとエグかったかも知れませんね。でもこのトリック、「あの鐘を鳴らすのはあなた、あの議員を当選させたのはわたし」的な、かなりの民主主義スピリットを感じさせますね。それと「いやいや、そもそもこの人とっくに死んでたんだから」って思っちゃうのを回避出来てるかどうか、どうなんでしょうか。 要は「読者」ってのがどこに位置してるのか、物語の中にいるのか外にいるのかってとこですか。 「最後のトリック」というと、いにしへの学研ジュニアチャンピオンコース『名探偵登場』で、ロバート・アーサー「51番目の密室」をあまりに猟奇的なイラスト付き推理クイズに仕立て上げたやつの題名が「最後のトリック」だったのを思い出します。(物語の中に登場するキーワードがそれですね) ところで常々思ってるんですけど「読者が犯人」って、アレとアレ、つまり「●●が『●●●』」って設定と、よくある「●●●●」ネタを組み合わせたら出来ちゃうんじゃないの? って。(実際書くのは大変でしょうけど) 違うのかしら?? |
No.928 | 7点 | 真赤な子犬- 日影丈吉 | 2020/01/23 18:00 |
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「ちかごろの探偵小説では、こういう人を犯人にするのは流行りません。」
或る女性登場人物の性質が象徴するような、奔放な形態の中でクールな諧謔をふりまき散らすコンパクト長篇。まあ安易に平たく言えばおフレンチ。 始まってしばらくは、読者だけに真相(?!)が明かされる歯がゆいサスペンス加速で魅せる。これは果たして見た目通りのサスペンスなのか、それともまさかの本格なのか。。って読者の気持ちを上手に弄んでくれます。 ’いもしない’犯人話?!? いつも二人セットでいるという先入観で!?!? まさかの探偵当て趣向も絶妙にフレンチな斜め前感。 クリスティ魂を凌がんとする真犯人意外性と、それすら上回らんとする動機の意外性!!そして意外極まる瞬発性!! だが、’もう一つの方’のホヮィは、、、たまらんのよ、この念押しの晒し方が。 「だが、殺すほどの必要もないのに殺すというと、たとえば、どんな場合ですかね?」 “雪上の足跡”トリックもなかなかどうして面白いぞよ。。(ちょっと笑うヴィジュアル含め) いっけんポップにふわふわしてるだけみたいな表題も、実は事件の核心部に位置しまくりだ。。。。 でもな、お洒落過ぎるのが悪いってのは無いだろが、何処かに不思議なお手軽さがあるのよね。もうちょいだけ業の深さで息も止めてくれたら、ミニマム8点でしたね。 そいや本作、女性登場人物率が異様に低いのに、何故か全体的にフェミニンな雰囲気横溢なんですよね。。。。或る気取り屋が「ノンサンス云々」と言う所に「ナンセンス云々」で言い返すくだり、笑いました。 「さいわい第二の事件があるので、これは二項方程式を解く時のように考えてみたら、いかがですかな?」 短い各章の表題がなかなか唆るので、晒しておきます。 A 危険な贈物 B 凝りに凝った呆気ない死 C 国務大臣秘書の異常な体験 D 死の利用価値 E 読者だけが知っている F 本格物の退屈な部分 G 美食学的な死の前後 H お化け犬 I 家の中の山登り J 推理の道標は曲がっていた K 高雅な死と卑俗な蘇生 L 時の人は静かに寝てもいられない M 手に負えぬ人々 N 推理の表と裏 O のんきな影武者 P 小犬の咀嚼力の問題 Q 探偵小説ファンは推理が上手 R 眼のよるところに玉 S 雪の上の死体とビヤ樽 T ダブル犯人説 U 二つの事件はどこでつながっているか? V 緋色の研究(スタディ・イン・スカーレット) W 人間的関係 X 綜合と集約 Y 殺人心理学 Z 結局どうなる? ↑ こう並べてみると、今時のJ-ROCKバンドの曲名一覧みたい、若干。 「放心の犯罪?」 |
No.927 | 8点 | 十日間の不思議- エラリイ・クイーン | 2020/01/21 23:32 |
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「ぼくはとっておいたのです・・・・・・ぼくの最も輝かしい”成功”の記念品としてです。」
『エラリイ・クイーンなる著名作家が世に存在する』という事実(と虚構の不可分関係)を前提とした、なかなかにメタ風味薫る勝負作。 探偵が間抜けなひと時を過ごしたからこそ醸造された、深い旨味。 第一部と、第二部。。 たまらなく切実なセルフパロディ。いや、よく考えたらその視点すらメタじゃないですか! 何気な文学味もジャストフィットの良さがある。 ある重要登場人物が語った通り、計画には弾力性、これだね。 後続への影響特大の一作ですね。 んで鮎さん、なにアァタいちゃもん言ってんの 笑。 【【 ここから重大なネタバレ含みます よろしくお願いいたします 】】 犯人隠匿技に脂乗りまくりのクリスティだったら、あの真犯人にはしなかったろうかな。。 これでもし真犯人がまさかの「弟」だったら10点スムゥーズスティーラーだったかな。 クリスチアナお婆さんがハヤカワ文庫の登場人物一覧に登場しないのは、謎の人物の正体をぎりぎりまで明かさないためか?だがそのお蔭で、犯人ではありえない人の位置付けになっちゃってる。出来たら彼女も最後近くまで疑っていたかった。。 ラストシークエンスではパールジャムの某アルバムが頭の中を流れ始めた。何故なら。。 |
No.926 | 7点 | 囲碁殺人事件- 竹本健治 | 2020/01/16 12:00 |
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首斬り顛末のなかなかにナウい背景には膝を打ちます。 犯人像はあまりキラキラしてない(?!)、だが渋味はある。身の振り方のダイナミクスも含めて興味深い人物(ほんとはアレなわけだが、ネタバレになるから言えません)。 フーズホームズ、フーズワトソン、ワトソンにも第一と第二があるのかな、このへんの真探偵当て趣向もなかなかいい。 物語のほぼ真ん中で、前のめり過ぎるフーダニット仮説立ての煌めきが一瞬パチリ、まさか、まさかと迷路中心の妄想は羽ばたくのでありました。 『珍瓏』に込められたメッセージは頭クラクラしたな(いい意味で)。 うん、うまい構成だ。 或る二十余文字に傍点をふらない心意気だか冷徹さだかも目を惹いた。 エピローグ、まさかのグローバル展開には驚いたww アンバランスと無理は有るが、基礎の厚い面白さと不思議な狂気のスライスカットインで読ませる佳品。 「けっこう僕なんかもそうじゃないかと思うんですが」って 笑
講談社文庫併録 チェス殺人事件 おぃおぃまさかの。。。。 その意気を買い、単独で6点かな。 本全体の採点に影響無し。 |
No.925 | 5点 | どんどん橋、落ちた- 綾辻行人 | 2020/01/12 11:00 |
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犯人当てと銘打ってるのは、半分冗談半分本気ってとこでしょうか。
風桜青紫さんのおっしゃる、冒頭二作に対する下記のコメント: > (前略)トリックを納得させるにゃこれ以上の方法はなかろう(笑) > (前略)確かにこの形式じゃなきゃ種明かしできないし、犯人当てを組み立てる手法のひとつとして十分あり 本当にその通りで、企画の主旨も確信犯的にくっきりしており、そのくせ比較的つまらない、驚けないという(特に冒頭表題作)。 どんどん橋、落ちた 2点 つまらんw でも本作だけ読んで投げちゃったら損するぞー。 まーこういう構成だからこそ( 中 略 )、という工夫は買います。コレ長篇でやったら伝説のバカミスになりますかね。 ぼうぼう森、燃えた 5点 「どんどん」を踏まえての「ぼうぼう」。いっけん似たようだが、わたし的にはこっちがずっとまし。コレ長篇でやったらどうなっちゃってますかね。あ、いや、だから短篇集の冒頭二作なわけか。 フェラーリは見ていた 6点 中では異色作、しっかり短篇ミステリらしい。私もたまにカラオケする憂歌団の唄を二人で口ずさむシーンがエエ。●●トリックは前二作よりささやかなものだが、その効果がよりきれいに出ていると思う。 伊園家の崩壊 6点 あの二人が既に故人!という先制攻撃にやられた。外郭は悪乗りパロディだが中身はガチガチの本格ですね。まさかの●●トリック無しだったのは。。意外でしたw 意外な犯人 8点 逆”小説ならではのトリック”!! トリック原理はまあアレかも知れないが、こういう構成というか叙述ギミックの中で来られると。。。 エンディングは、味わい深いのに蛇足感だだ漏れという、珍事に! 全体的にせせこましいというか、豪快さに欠けるというか、疲れてそうというか、綾パンらしい覇気が見えないと言いましょうか。 パロディにしては生煮えってか、じゅうぶん一筋縄で行っちゃってるでしょ(一作?除いて)。 でもこの楽屋落ちスピリットは愛おしい。 さいきん犬の名前と言えばやたらショコラとかタケマルってのが多い理由もよおく分かりました(嘘)。 しかし、人間が描けていないな!!(笑) |
No.924 | 8点 | フロスト日和- R・D・ウィングフィールド | 2020/01/09 12:00 |
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「犯人の野郎をパクったら,五分だけでいい,ふたりきりにしてほしいもんだ」
愛される理由がよく分かった。こりゃ愉しいわ。一読うれしいたのしい大好きになっちゃう向きも多かろう。今さら言うのも照れますが所謂モジュラー型警察小説、のほとんどパロディの領域かも知れませんな、ここまでやられると。 ライヴァルらしき警部が実はそう嫌な奴でもない(フロストと違ってまともなだけ)ってのも素敵です。 エンディング、というより締めは確かに何だかじんわり来る。 子供たちが大好きなワード’ちんぽこ’が時折現れるのも素敵。翻訳も本当に上手ですね、この’ちんぽこ’含めて。 ピーナツ、まだあったのかよ(笑)。 |
No.923 | 9点 | 黒革の手帖- 松本清張 | 2020/01/04 23:07 |
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「おぼえておれ、この性悪女! 人の恨みがどんなものか」
ここまで引き裂き尽くしたらもはやイヤミスではない。 本格のホの字も見せないくせに、この大きく間をとった謎ふりまきの手早さ。 手探りの 憶測促す 悪い奴.。。。 灼け付くストーリーで最高に読ませる、これぞ悪女クライムの絶唱。 “世の中がこんなに面白いものとは思わなかった。なんと変化に富んであることか” いんやあー、嫉妬なる強くも粗いもん相手に、いや、それに保身なる確固たる細則あるもん引き連れてだけど、緻密にして大胆な計算だねえー 「あなたには、女のほんとうの気持ちがわかってないわ」 オネエ獣医の魅力が後に行くほど伸びてくる。篠井英介が浮かんでしかたがない。 “通りすがりの人が、病人かと思ってふり返って見る” まるで「マル鷹」最終章のように畳み掛ける、冷んやり気持ちいい急所突きっ放しの容赦瞬間唾棄、最高過ぎて唾も呑み込めねえ。。。。 結局、善意の”破壊者”一人に最後まで踊らされた。。本当の暗闇はそこにありそうだ。。。通俗ながらこりゃ強烈!! オチも凄まじい!!(本気で、笑うしかない?) それにしても「ヴァンス」がこれだけ頻繁に出てくる話もヴァン・ダイン以来だ。 さて、現新潮文庫下巻裏表紙のネタバラシは獄門級の酷さです。上巻はまだストーリーレベルのネタバレでギリ許せる人もいるかも知れないが、下巻は完全にミステリレベルでやっちゃってる。。。。。。神経疑います。まじめにやりなさい。 |
No.922 | 7点 | 幽体離脱殺人事件- 島田荘司 | 2019/12/26 11:23 |
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“女の問題は、単純な理屈では割り切れない。あらゆる把握解決法が複雑に絡み合った化合物のようなものだ”
ゆきずりの友情を守り抜く話。と書くとまるで(題名にそぐわぬ)ハードボイルド調みたいだが、、こんなドタクタ嫌ミスに加賀、じゃなかった吉敷を当てましたか。もしや元祖トラベルイヤミスですか。評判悪いのは納得で、私は嫌いじゃありません。この、ほど心地良い狂気の轍に浮かぶ時折の演説のくすぐり、しまそうならではのざらつく撫で付けにうっとりします。掴みっから強烈過ぎて、運が悪けりゃ撃沈する裏表紙あらすじ一言もチェゲラでけへんです。 しっかしずいぶん意外な展開を意外なバランスで見せるもんだな。そしてそこに、表題の持つ方向知れずの痛い圧力が。。見え隠れ、、奇妙に後ろのめりの遅いタイミングで待っていたのは本格推理の落とし前。挙句まさかのドタバタ終結に急襲されるまさかの吉敷(男のファン減らしたかな)。泣けたり何なりで忙しく満ち足りた終章。(終章の晒し表題がそそるのよね) 森誠先輩の大演説癖には苦笑するのが愉しいが、しまそう先輩の演説は素敵にくすぐってくれる。 メインのトリックはありきたりであからさまだが、しまそうの筆致に翻弄されてから明かされると、面白く豪快に思える。 しかしバランス悪い小説だね。 “私はついにそうつぶやいた” |
No.921 | 8点 | 毒猿 新宿鮫II- 大沢在昌 | 2019/12/18 18:09 |
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「軍隊でいちばんの友だち。」
鉄則は脆い。命を超えた優先順位の金剛則を命に刻み込んだ奴の決断は捷い。国際警察でもグローバル警察でもユニバーサル警察でさえない、男と男の警察事業を軸に据えた万感の一篇。 相次いで台湾から渡って来た、復讐に滾る病気持ちの過激な職業兇手(殺し屋)と、それを追う職務外の武闘派刑事。歌舞伎町の仕事場を舞台に二人と関わりになる男や女。東京の魔都新宿でヴェトナム戦争勃発なるか。 シリーズ二作目でいきなり通し主人公の鮫島が一歩引いた準脇役の位置に(だが主役級との友情譚で大いに盛り立て沸かせる)、副主の晶に至っては三四歩下がったチョイ役扱い(鮫島とのラブシーン、緩むなァ..)という斬新な展開。 野暮の極致を承知で言えば、『毒猿』の正体明かすのをもうちょっと遅く(なんなら最終章にでも)してミステリ度合いを少し高めに設定って手は無かったか、なんてね。 このままで充分イケるから何の問題でも無いんですが。 御苑がメイン舞台の一つということで、いま話題の「桜を見る会」が’何の問題もない例年行事’としてさり気なく登場して来たのはちょっと笑ったス。 |
No.920 | 8点 | 真実の10メートル手前- 米澤穂信 | 2019/12/10 21:10 |
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「表題作」 辛すぎる思索エンディング(考えオチとは違う)に至るまでの名推理 7点
「正義漢」 ショートショート社会派 6点 「恋累(こいがさね)心中」 連城っぽい。パズルのためのやり切れなさなら、まあ耐えられるか。プロの嘘付きは九の本当に一の嘘を忍び込ませると言うが。。反転の場所は、そこかァ!! 8点 「名を刻む死」 真犯人捜しの謎と、被害者の心の謎。 二つの謎がリンクした一点から多くの事実が解き放たれ、解き解されなかった或る登場人物のわだかまりを、年長者が或る一言で解き解さんとする。 7点 「ナイフを失われた思い出の中に」 あまりの深淵街道まで突き飛ばされてぐうの音も出ません。やばすぎます。流石の俺様も歯ァ喰いいしばって泣きました。翻訳と原語のあいだの何処かにある第三の何かに寄り添い雪崩打つような謎事象の解放。だんだん微妙にパスティーシュの粉砕香が漂い始めるのもたまらない趣向。 連城っぽい。 10点(最初14点付けっちゃって、思い直しました) 「綱渡りの成功例」 しんみりの風景。非日常行為の中に潜んだ、日常心理の謎ですね。 しかし、現代日本人なら玄米フレークだろがあ!! 7点 通底する、謎めいた静謐と、さり気ないきれいさに惹かれる一冊です。 最初、主人公のヴィジュアルに日本共産党のあさか由香さん的なものを何となく思い浮かべたんですが、文章よく読むとちょっと違うみたいですね。 |
No.919 | 7点 | ボーン・コレクター- ジェフリー・ディーヴァー | 2019/12/01 20:30 |
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“障碍者スポーツには他人を相手にする種類のものが多い”
ラノベ力漲る、明るい重度身障サスペンス。 ハサミ男を彷彿とさせる自殺志願探偵。 自殺を軸に置いた泣ける論戦シーンもあった。 あまりに美しい、とある眠りに落ちるシーン。。 眩しい希望と厭わしい苦味が相次いで炸裂し、前者が僅差で勝つラストシークエンス(まさか、そこにどんでん返しが。。)は本当に最高。 甘えなあと思いつつ、かなり高水準の面白さは否めない。 犯人、アッチじゃなくて、そっちだったか。。アッチだったら暗闇謎感4倍増しだったろうに、でもこれは(グロシーン多いくせに)明るいラノベだからいいの。 ところでジェットコースター・サスペンスと言えばMDMAじゃなくてMDA(もう誰も愛さない)の再放送をさいきん観てるんですが、本作への影響はたぶん無い、、かな?? |
No.918 | 5点 | 黒いアリバイ- ウィリアム・アイリッシュ | 2019/11/28 06:30 |
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“殺し屋の中の殺し屋、夜、を待ち受けた。 夜は、四六時中、くりかえしくりかえし、情け容赦なく昼を追いかけ、殺戮する。 処罰もうけず、妨害もされずに”
題名からアリバイ崩し本格モノっぽいのを想像すると、珍妙な角度で裏切られましょう。 連作短篇と見紛う不思議な味わいの小説構成。 犯人、まさかあいつ、、じゃないほう!? 最終章の表題、その名も「黒いアリバイ」。 一体何が「黒いアリバイ」なのか、せめて思いを巡らせてみる。。(つまり、真犯人の絶対的(?)アリバイ(?)が如何に真っ黒な先入観(?)のもとに成立していたか、とか??) 引いては押しのサスペンス醸造はなかなかキマってるね。 巡り巡って何とも独特な犯罪構造とその詩情。 南米の某都会にて。ローカル女優の思い切ったプロモーションに駆り出された黒豹が逃亡し、潜伏しながら巻き起こしていると目される若い女性の連続虐殺事件。 我が偏愛バンド、ザ・スミザリーンズのBLUES進行を使わないBLUESナンバーを思い出す名前の香水登場には萌えた。 |