皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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斎藤警部さん |
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平均点: 6.69点 | 書評数: 1357件 |
No.1117 | 6点 | キドリントンから消えた娘- コリン・デクスター | 2021/12/29 19:30 |
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とにかくユーモア良し。それに尽きる。
ダミー解決の花と散ったいくつかの推理(推測?)案件も悪くなかったけど、特に手紙の筆跡に纏わる件なんて厚みと意外性があってオッと思ったけど、、最終盤で通知表がどうとか、ラストスパートちょっとだけ期待したんだが、カックンだったなーー〜、全体的に推理ないし推測スクラップ&ビルドのスリルは薄かった。SOWがあるでもなし。(●気の手掛かりは苦笑..)事件そのものも熱くないやね。。モースが本腰入んないのも分かる。むしろエロ案件のほうに引っ張られちゃって。。 言うてもまぁ、読んでる間は楽しかったですよ。 或る家族のその後というか事件後に想いを巡らすと、そこんとこなかなか感慨深いとは言える。ミステリより文学の味わいだけど、意外とそこが一番のミソかも? ミステリ本筋4.8点。ユーモアに救われ5.7点。 |
No.1116 | 7点 | 偽りの殺意- 中町信 | 2021/12/24 15:45 |
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初期中篇三つ。小味な良さが光る二つと、ちょっと凄いの一つ。
「殺意」シリーズブレイクを受けての、光文社文庫オリジナル編集版。 偽りの群像 6.2点 安心のスリルをぬくぬくと味わうアリバイ好篇。仄かな旅情なくはなし。偽装が崩れる最初の齟齬案件が、小さなコトながら秀逸。駅の荷物トリックも同様。そこは謎じゃないのかよ、って斜め肩透かし?のポイントもあったが、こんだけ適度に知的好奇心揺さぶってくれたらそれで結構。まだ謎が膨らむかと思わせぶり上手の末、終わってみれば意外とシンプルな真相、こりゃつまり物語の偽装が巧いんだね。呆気ないラストは残酷! 英訳の場合は、まして仏訳はどうすんだろ、あの部分、、と一瞬だけ大いなる勘違いしたりなんかしたね。 急行しろやま 6.4点 こりゃ新幹線で読みたい。逆に、読んでると新幹線に乗ってる気分が味わえる(急行の話なのに)というこの倒錯読者ぶり(笑)。 人は、いかなる場合に心理が一変するのか。。? 容疑者がやたら次々わいてくる圧力の妙。新聞記事の手掛かりはちょっと見え透いてましたが(◯ゃ◯か..)、更にその先でバレるアレの手掛かりの唄?は滑稽でわらいました。アリバイ偽装トリックに於ける二種の数字絡み案件は、どちらも流石にリスキー過ぎる上にミステリ的に陳腐とは感じただども、二つ一緒くたになると、そこに絶妙な煙幕が張られちまうんだな。。音でバレたアレの件は、不運だったのか、それともハナっから気にしていなかったのか。。(どうやら後者くさい?) ま、全体通して、前の「偽りの殺意」にほど近い安定の良さがありますな。 そして皮肉を最高度に効かせたラスト、たまらんですなあ。 愛と死の映像 8.3点 ちょっとやそっとじゃ底を見せない、深い深いアリバイ偽装トリック。ダミートリックさえ有機的、物語の中枢で華麗に舞った。アリバイのみならず殺意の構造(!)までが鮮烈に錯綜。何気にちょいセコい手掛かりと、そこから導き出される奥深い真相との、快いギャップ(笑)。やはり、大の警察相手にリスキー過ぎる感はあるが、勢いと熱に押し切られる。チンピラだかキンピラだかカピパラだか。。メモが妙に◯◯なってるの、におったんだよなあ、、案の定よ。。あと、時刻表のぱっと見違和感とか、いいよね。 急転直下に残酷過ぎる結末は、言い方は合わないがちょっとした「考え落ち」抱え込んだ、ぐっと来るオープンエンディング(特に或る人物について)。。最後の一文も強烈。。 巻末の「編者解説」(山前譲)、中町氏作家デビュー前後の熱い意気込みが自然と伝わって来て良いですな。 かの代表作については、「新人賞殺人事件」より「模倣の殺意」のほうが題名として先に付いていたんですね。。(更にも一つ前のオリジナルタイトルがあるのだが) しかしこの表紙絵、ちょっと凄い。本の中身とは微妙に?ズレますがミステリの雰囲気満点です。私の実家の階段にそっくりです。嘘だけど。 |
No.1115 | 6点 | メグレ警視- ジョルジュ・シムノン | 2021/12/20 22:50 |
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はじめに短い短篇四つ、それから長い短篇三つ。
■□月曜日の男□■ タイトルは、品の良い老乞食に子供たちが付けたアダ名。更に馬●と気●いが登場し、ミスディレクションも整う前にバタバタ収まってしまう物語。エクレアに仕込まれた毒(と呼ぶのか?)の効用は相当におぞましく、ちょっとほのぼのした話をミステリの怖さで直立させている。 ■□街中の男□■ 数日に渉るちょっとユーモラスなパリ食べ歩き尾行劇の末、或る種厳然たる風格のドラマティックな終結へ。変則ホワット&ホワイ(&フー)ダニット人情譚。最後のほう、メグレの一旦身を引く心がグッと来る。 ■□首吊り船□■ 水運と居酒屋を舞台に、夜の抒情が滲み出る。高級推理クイズめいたバランスを、或る登場人物が打破、そこで更に高まる抒情。解決篇の緊迫感。バッサリした終わりも良い。 ■□蠟のしずく□■ “現場の見取図と報告書だけで解決できた珍しい事件”ですと。メグレが本格風のヤマを担当すると(実は推理クイズ風であるに関わらず)こんなにも味わい深い結末を導き出すのか。。片田舎の老嬢姉妹と、そのご近所と。。 ■□メグレと溺死人の宿□■ 男女二人の乗っている車が、ホテル前の危険なカーブで、川に落ちた。トランクからは第三の男の屍体が発見された。残酷な風が吹く反転劇。 ■□ホテル<<北極星>>□■ メグレが定年退職直前に巻き込まれた事件。小娘と、賢いようで馬●な男を取り巻く物語。意外な犯人をわざと意外に見せないような、コイネス光る筆致。どこかしらモゾモゾした情緒が、くすぐったいかも。 ■□メグレとグラン・カフェの常連□■ 定年退職後、計画通り夫人と田舎町に移ったメグレ。小娘と、ハナっから馬●な男を取り巻く物語。時の流れの重み、有り難さが沁みるストーリー。程よく旨そうなメシがいろいろ登場。夫人の存在感が押している話でもあります。 「そればかりか、事件を知らされる以前に、予言することだってできたかもしれない・・・・・・ところが、知っていても、話せなかったんだ。礼節だったんだ。それは死に対する礼節の問題だったんだよ」 巻末に「解説―メグレの世界」「鑑賞―不思議な魅力」と二篇あって、どちらも良いが、後者で「男の●」の犯●ネタバ●を白昼堂々と晒してあるので未●の方は御注意。 |
No.1114 | 8点 | 最悪- 奥田英朗 | 2021/12/17 08:18 |
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こりゃあ寝食忘れるわなぁ。時空歪むわなぁ。。。主人公はハナッから問題まみれの三人(濃淡は大いにある)。互いに距離のある三つ巴で漏斗の斜面を転がり落ち続け、、やがて「●」近くで●●する様な物語。いっやー、巻き込むこと巻き込まれること!ちょっと見ゲーム風の様で、その実リアリティ噴出されまくり。リアルな感触強すぎて「スカッと爽快イヤミス!」と割り切った高みの見物が出来ない程の凄まじさ。一度愉しんだら二度と読み返したくないキッツイ本だが、学べるポイントは多々ある。
「いやなことがあるというのは、人生の真っただなかにいる証拠だ」 さて怖るべきリーダビリティで激走に激走を重ねた挙句、これで万が一、終結がアンビリーバボな大逆転お花畑、四方丸くのハッピーエンディングだったら世紀のバカクライム奇書罪で焚書に処す所だが。。 ん、最後の集団ドコスコ逃走劇だけ、少なからずタレたか。。ただ、そこも登場人物の関係性や何やらに工夫はあって面白い。でもやっぱ急にお気楽ムゥドになったよな。。人間、疲れ切ると緩くなるってことか。 と、そこへ。。。。。。!! 最後、小さな◯◯をむしろ安定させる重しの様に、大きなしこりは残ったが、そのしこりさえ眩しく輝いていた。 そうそう、町工場仕事の描写が(いい時も悪い時も)良かったです。 てか、とにかく全体的にデッラ面白い。 |
No.1113 | 6点 | 麒麟の翼- 東野圭吾 | 2021/12/15 06:42 |
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妙に微妙に早すぎるタイミングでネタバラシ、またはそれがとんだダミーであることのほのめかし。 靴下の伏線も瞬殺で潰されるし。。 だが折り鶴の色が毎回変わった理由、シンプル且つミステリ的には浅いのに、どこかハッとした。。。。 人間ドラマとしても社会派としてもさほど踏み込んでないのはわざとで、てことは、さぞかしミステリとして、こう見えて腰抜かすようなゴン攻め真相が蠢いているのかと少し期待しなくもなかったっすが。。 この真犯人提示含め、ううーーむ。 序盤~中盤~終盤までかなーり面白かったが、暴露される結末の意外性が、東野基準にしてはちょっと、うねってないやね。 それでも余裕の6点ですよ。 |
No.1112 | 8点 | 幼年期の終わり- アーサー・C・クラーク | 2021/12/13 15:15 |
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第一部が終わって早速、いつまでも深呼吸していたくなったのには参った。
第二部には愉しい冒険要素もあり、これが物語全体のアドヴェンチャー・リリーフになっているという構造の峻烈さは興味深い。 第三部には、三度にわたるエンディング。 うち二度はオーヴァーセンチメンタルにして急襲型。言葉に詰まる。 この物語展開の前半分くらい望んでいる人間さんも結構いらっしゃるんじゃないかと推察。 やさしい/やさしくないの座標軸が全く意味を失う臨界へと、雪崩れ込むのを見守るしかない物語。 作者による第一部改訂への強烈な使命感には感じ入った。 何より、テーマがシンプルなようで重層的、複雑な位相群をワイドヴューに投射しているのがいい。 ◯◯でさえ物語の主軸じゃないんだから。。 “あの子は玩具を残していったーー” 二度読みが怖い。 |
No.1111 | 8点 | 夏と冬の奏鳴曲- 麻耶雄嵩 | 2021/12/06 10:50 |
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読了前の特権で、とりあえず、あらぬ憶測は大いに振って臨みましたが。。 二つの大きな謎がお互いの隠れ蓑になって、お互いをダミーだと言い合っているような。。 手の込んだ■■譚なのか?? .. 展開されようとしている? あの時? そのもの?? みんな、隠し事が多過ぎるよ。。。。 アリバイ観察者の存在。 すべてがそのものとして見える地点。。。
何しろ、冒頭から序盤から気持ちの良い惑いと揺らぎ。 だいたい、表題にただならぬ過去の内臓が絡み付いている事を、序盤からこれ見よがしたに叩き付け過ぎ。 大小違和感のタイルが次々と積み上げられるのに魅惑され過ぎ。 何気に人物書き分けが良い。 しかしな、「アレ」の書き分け伏線がシラっと晒されてたのは、気付かなかったな!! 独特過ぎる形状の屋上、めちゃ魅力あります。 そこからは海も山も見えます。 “烏有は泣きたくなった。悲しみのためではなく、底の無い虚しさからだった。” 割り切れなかった謎を反芻、挑戦したくなる程には読了後に物語の魅力が持続しないのが大いなる難点(個人的な事だが、凄く残念!)。 しかしながら読中はそりゃあもうエキサイティングで、その勢いだけでも、異例とは言わずとも破格の高得点付けるしかないですね。 ※続篇に諸々解決の糸口があるとも聞いた。愉しみにしておこう。 (キュビズムの目眩ましはあるにしても)十二音技法を押しておきながら、「和音」だもんね。。 ともあれ、「青年」の名前が明記されない所に、何らかの大きな謎が?? |
No.1110 | 8点 | エンプティー・チェア- ジェフリー・ディーヴァー | 2021/11/29 21:10 |
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事件の構造は、悪夢の様にベーーァッドだ。。。。なのに、なんでこんな明るい結末なんだ!!
最先端技術による脊椎手術を受けに赴いた、南部はノースカロライナにて、出張捜査に引っ張り出されるリンカンとアメリア。 あろう事かこの二人がディープな対決状態にまで陥る趣向はスピードある不安感を本当に焚き付けてくれます。 “その口調は不安げで、アメリア・サックスは、自らの歴史を書き換えるのは、気の遠くなるような遠い道のりなのだろうと想像した。” 「そのことを忘れないで」 「わかった」 今回は真犯人というか、真●●●が実に見えづらかった。。キーワードとして何度も刺さった 「●●●」 ってのが大ヒントだったのか。。。だってさあ、アレとかアレとか、続々とひっくり返るんだぜ。。挙句、長過ぎるショートショートの如きまさかの大オチ!! いや、最もスパンの長い伏線が、そこだったのか。。。。 やはりシリーズ作としての責任は果たしてもらわないとな(冷汗)。 ここまで病んだ真相を以てしても、本作を社会派と呼ぶ事は許されないだろう。それくらい強力なサスペンスと色鮮やかな活劇に転がされ尽したジェットコースター・アミューズメント大作。 やはりご都合が激し過ぎるきらいはあるが、その到達点に見えたまるでダムのような 「結末の大きさ、深さ」 にはもう感服しかござらん。 そうそう、諸事件の第一容疑者たる昆虫少年は、いい話をいっぱい聞かせてくれました。 |
No.1109 | 6点 | 時鐘館の殺人- 今邑彩 | 2021/11/22 22:51 |
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■□ 生ける屍の殺人::机上のトリック、机上の展開に机上の大反転もここまでやってくれりゃ文句なし。思い切った不可能興味で完走。企画で勝負あり。無理のあるダイイング・メッセージの必然性は。。 最後の駄目押しは、ジョークって事で。
■□ 黒白の反転::妙にあからさまなヒント連発、イコール絶対何かの隠れ蓑と疑っていたのですが。。。。思いっきり虚を突かれました。。そこは将棋でも囲碁でもなく、オセロなんですよね。。 てかこの小説、本筋の事件がダミーになっちゃってません? ■□ 隣の殺人::ほとんど数学的な、きれいにまとまり過ぎた反転からの反転返し。しかしこの終結は気分が悪い。妙な所でバッドエンドに振り切っていない所為か?(◯◯◯◯が出落ちネタバレのような気もします。。) ■□ あの子はだあれ::胸に迫る、美しきファンタジー。だがラストに現実世界の億劫さが託されているような。だからこその独特な味わい。 その盲点は、本当に盲点でしたね。。 ■□ 恋人よ::サスペンス横溢だが、終わってみれば”どうってことない”感がどうにも強い。が、この終わり方、部屋が無人であるという点に、何かがTOO LATEになるかも知れない可能性を込めてあるのか、ないのか。。 ■□ 時鐘館の殺人::企画勝負に圧勝の一篇。この稚気ある構成はシビレます。そのくせ小粒感がダダ漏れ(笑)。でもやっぱこの純トリッキーな物語構成と、見事にそれと両立した完成度との均衡は見逃せない。ワンポイントで”人間を描けなく”なってるのは、わざとだな。。 無邪気な楽屋落ちも、文壇入り出来た著者の嬉しさ発露のようで良し。「原雅也」には笑った。 ノベルス裏表紙「著者のことば」より “短篇集でありながら、じつは、この中に長篇が二篇入っています。そりゃ、どういうことかって? 読めば分かります。” 裏表紙著者画像の影響もあり、平成初期ノスタルジーに胸が締め付けられる一冊でした。 遅ればせながら、平成なかばに若くして世を去った今邑彩さんのご冥福を、お祈り申し上げます。 |
No.1108 | 7点 | おれたちはブルースしか歌わない- 西村京太郎 | 2021/11/19 18:24 |
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“おれには、それを許せそうもない。 おれたちには、やっぱり、ブルースが似合うんだな。”
「シンデレラの罠」盗作事件!(←歌の題名です) 更には私立探偵が殺されたり、犬が消えたり現れたり、恋する青年がアダな年増女に翻弄されたり、呑気に構えているとアッと言う間に連続殺人が、、、意外とジェットコースター、コロンボ(刑事)まで怪しく見えて来る堂々の展開!! 妙に身体的特徴の光る人物が二人もいるのは。。 真犯人、真相ともども隠匿の技はな~かなかに熱い! 京太郎さん、軽いタッチで油断させといて、本気で書きやがったな!(笑) 思いも寄らない人物の、物語内での化けっぷりにも、このヤング文体に紛らせといてしっかりと伏線が! いやー、真相巻き返しの術、凄かった、ナメて掛かった甲斐があった(笑)。 著者初期(鉄に行く前)のおどけた青春ミステリ。若き日の十津川さんが出て来てギター弾きながらおどけるわけではないです。 主人公たちがブルースバンドって感じがまるでしないのと、何にしろ音楽がまったく聴こえて来ないのは、、まあミステリの面白さで許せますよ。 |
No.1107 | 6点 | カックー線事件- アンドリュウ・ガーヴ | 2021/11/17 11:20 |
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バカ証拠(笑)、バカ解決(笑)。 主人公(ではないね、その父親)はダブルの事件に巻き込まれたくせして妙にのんびり、やたら緩やかなコージーサスペンスのようでいて、どうも何やら腹に一物あるような、、って期待した。。そこんとこ作者にミスディレクションの気はあったのだろうか。(私には◯◯◯の◯が終始どうにもニオった!) ちょっと接ぎ木したように現れる本格ミステリ展開は、ロジックのポイントが所々枝葉末節に見えて退屈気味だが、水運系の描写が愉しくて救われる。忙しなく爽やかなエンディングにも救いがあるが、やっぱどっか全体の構築に貫禄が無いというか。でも可愛げあって憎めない作品。 題名からして一応鉄道ミステリでもあるので、読み鉄の方は余裕あったらチェックしといていいかも。 |
No.1106 | 8点 | 弔鐘はるかなり- 北方謙三 | 2021/11/12 05:54 |
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“この男は俺と同じことをしようとしている。◯◯を◯◯◯出すということだけではない。なにか別のものだ。言葉にはならなかった。”
真の「復讐対象」が誰/何なのか、極限まで煮詰めんとする男の物語。 万感迫るラストシークエンスで急転回して、沈着の中に衝撃宿るサドゥンエンド、そこに唐突感が漂わないのは、猛烈な小説家魂が最後まで読者を抑え込むから。 驚くほど純ハードボイルド文体で描かれた登場人物群の鮮やかで立体的なこと! 微妙な翳りが際どい危うさを発する「或る脇役」が実は、、一連の事象と直接の何の関係も無いというポイントは、クリスティ流人間関係トリックに通じる大きなミスディレクションとして機能していよう。 人間関係といえば、最後に明かされる、主人公にとり、そして本小説にとり巨大な真相暴露となるさり気ない台詞と、それを受け止めたその後の会話と、、、このへんはもう本当に最高のハードボイルド記念碑、伸された。 北方謙三ミステリ作家としてのデビュー作にして仰ぎ見る完成度と魅力の坩堝だが、今度こそ売れるためのクソ努力がこれだけプレシャスな果実をアウトプットしただなんて、どこまで素敵な話なんだろう。 私が北川景子を割と好きなのは、北方謙三を無意識に思い出させる語呂の近さに負っている部分もある、という深層心理にも気付かせてくれた。 キーホルダーに付いた鈴の鳴る ’サラン’ という音、何度も登場しますが、癒されますね 。。。 「いい音だ。時々振ってみるのはあんたの癖だね」 ← この台詞。。。。 表題の意味、かなり深い所まで考えさせられます。 「はるか」なのは、何と何の間の距離なのか。 一つには、◯◯を越えた或る距離の意味合いも含まれているのかな。。 “人間にはそういう河があるものだ。ただ渡るためだけに必要な河が。” 最後に、これはネタバレに通じそうですが、、、、 或る重要人物が、実は一度も登場しない!! 。。。。 何から何まで想像させて、泣かせてくれます。 |
No.1105 | 7点 | 或る家の秘密- スティーヴ・ロビンソン | 2021/11/10 04:57 |
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アトランティック・クロッシング。。本作の終盤に差し掛かった頃、ロッド・スチュアートの同名アルバムがFMから流れて来た偶然には感動した。それも一枚丸ごとの大盤振る舞い!
主人公はやり手の「家系調査士」JTことジェファーソン・テイト。全米一を自認するが、ここへ来て若手ライヴァルの追い上げが激しい。今回の顧客はイングランド系アメリカ人の富豪。本人直系の先祖は難なく割れたが、その兄と妹で独立戦争末期にアメリカからイングランドへ渡った一族とその後裔にあまりにも不審な黒い霧を発見したJTは強烈な職業興味に押され、苦手な飛行機で英国に渡り、調査の周辺で起こる連続不審死に遭遇し、自分の命まで狙われ始める。。 重みのある渋い作品を想像していたら意外と軽くてヤングフィーリングなお話でしたが、終始エキサイティングで文句無く面白かったです。活劇シーンも、謎ガジェットの存在感も充実。魅力的キャラクターズも色鮮やかに書き分けられました。過去の大きな謎と現在の中くらいの謎がカットバックで並走するスリルはなかなかのもの。過去の真相の或る意外性の部分、所謂人間関係トリックのシラッとバッサリ応用篇みたいな所は、最後まで堂々騙され一片の悔い無し! 現在の真犯人は確かに意外ですが、その立ち位置であまり驚けない、意外性のコスパは確かに低い、でもこのストーリーのパースペクティヴでは充分満足。大きな分岐点でもある、或るシーンで主人公、主人公の仕事のライバル共々そこまで軽々しく騙されるわけないだろう、って唐突にリアリティがグシャグシャッとなっちゃう所、読者目線であまりに不審過ぎて、ひょっとしてハイパーどんでん返しの巨大伏線かと疑っちまいましたよ。そこんとこの悪い違和感を除けば相当に優秀なエンタメ作でしたね。。でも更に敢えて言えば、過去の犯人というか悪人の人間ドラマがページ数的にあっさり通過され過ぎの感はある。もっとじっくりじっとり掘り下げてくれてもエンタメの速度が落ちはしないと思うが。。とは言えその部分を含んだ⚫️⚫️の悲劇という大テーマ的な部分はやはり熱く、派手めなエンタテインメントたる本作に深いインパクトの加勢を与えてはいる。 プロローグの本当の哀しみは、過去の真相が分かってこそ、考え落ち的にずっしり来るわけだ。。 第一級の家系調査士である主人公が自らの血縁両親を捜しているという設定も旨い。シリーズ後続作でいつかその謎が解かれるのだろうか。 ノンケ男女同士の熱い友情と軽い恋愛が並列で描かれるのも良いですね。恋愛の方は友情に較べるとかなりどうでもいい扱いですが、こちらも後続作での発展があるのか、寅さんみたいに一作毎の淡い行きずりが続くのか、、まどっちでもいい。 そうそう主人公がそこそこおデブちゃんの筈なんだが、殆どそういう感じ出てない。キャラクター上の必然性も特に無い気がするんだが。 飛行機恐怖症の方は、アトランティック・クロッシングの味付けに丁度良かったかも知れない。 |
No.1104 | 6点 | 往復書簡- 湊かなえ | 2021/11/03 03:40 |
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手紙の交換が進むにつれ、過去が深堀りされ、謎解きや葛藤を経、何某かの結論に至る三つの連作短篇(文庫版は+α)。 手紙のきっかけは学生時分の影深いインシデント。 『第一話』の真相は予想外だけど、驚くわけじゃない。これはこれで「どダークな真相」という捉え方もありそうだが、個人的にはかなりのギャフン作ですね。ここで長篇の第一部終わり、ってんなら期待するけど。(実際そう勘違いして、続きにすっげ期待しちゃったんスけどねww)仕切り直して『第二話』は、随分深くまで掘った暗黒真相の果てに。。なんじゃこのさわやかエンディングはw こんなんじゃもっと人間ドラマに寄せた普通文学+ミステリ風味チョイの方がいいんじゃないか、と思ったが。。『第三話』にはミステリ魂埋まってました!三作中もっともさり気ない導入から犯罪領域に急カーヴするタイミングのスリルは強力。「時●」ってやつの使い方も絶妙。「●る」という言葉のダブルミーニング的なとこ、ヤられた。奥の深い真相暴露は横溝の某短篇を彷彿とさせたかも(?)。 文庫で追加になったという『エピローグ』、色々●●って(?)愉しいですが、考えオチ過ぎて(?)もやもやエンドだった『第三話』に泣ける落とし前を付けた、って解釈でいいのかな? |
No.1103 | 6点 | 地獄の道化師- 江戸川乱歩 | 2021/11/01 20:56 |
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犯人の意外性より、犯人像の鮮烈な悲劇性ですね。通俗なものではありますが、通俗ならではの刺さり具合です。それはまた、犯人が物語の中で実は一度も■■を■■ていない(■■でもないのに!)という異様な事実にも染め上げられてありましょう。 ミステリー三昧さんも書いておられますが、最後の最後まで確定容疑者を一人に絞らせない周到な技が光ります(或る人物が■■■■のまま、というのが大きいかな)。こんだけ毒々しい物語の末にバッサリしたエンドも良し(妖怪人間ベムを彷彿)。サイズ感含め「一寸法師」との喰い合わせは確かに良いですな。 |
No.1102 | 6点 | 黒後家蜘蛛の会1- アイザック・アシモフ | 2021/10/30 07:56 |
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会心の笑い
古典的真相を疑わせて思いっ切り引っ張った挙句、そっちを攻めるのか。。しかもそっちを先にバラす。。よく見りゃ違和感伏線も(際どい所だが)あるんだな。。シリーズの始まりがコレとは、何気な怖さを与えてくれる。 贋物(Phony)のPh この俯瞰解決の手法、他の不可能犯罪に対しても応用すべきですね。 というかアレか、そこは逆か。 実を言えば は? 何かの皮肉ですか?(本作だけはちょっといただけない) ↑ 個別コメントは最初の三作で書く気が蒸発しました。。。 と言っても決してつまらないのではなく、いちいち書かなくても本書はもう大丈夫だな、と。(何がもう大丈夫なんだ) 仮に短い推理クイズの形式でプレゼンしたら不発のギャフンで終わりそうなネタを人物描写や蘊蓄披露も豊かな物語世界の中に注ぎ込み、質実な分析と推理とで味のある終結まで持って行く様子にはこのシリーズ独特の沸々とするスリルが宿っており、読みだしたらやめられなくなる、だが単なる中毒性とは違った魅力があります。 各作締めのヘンリーの台詞の、しみじみし過ぎないさり気なさは素晴らしいですね。 必ずしも「日常の謎」ってわけじゃないのもポイントかな。 「解答が出揃いましたところで、ときたまわたくしは、どうやらそうむずかしく考えることはないと見当を付けまして、複雑なところを通り抜けて単純な真実に行き当たることがあるのでございます。」 |
No.1101 | 7点 | 地を這う虫- 高村薫 | 2021/10/27 19:00 |
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元ノンキャリ刑事達(年代はまちまち)、第二の労働人生に起きたサスペンスフルな事象を追う、四つの物語。
彼等の仕事は、警備員、サラ金取り立て、政治家運転手、守衛(昼夜掛け持ち)。 愁訴の花/巡り逢う人々/父が来た道/地を這う虫 (文春文庫) 文庫裏表紙に謳われる『深い余韻をご堪能ください』に偽り無し。 主人公の過去から繋がる、現在の不可解な或いは違和感光るインシデントを看過出来ず、今なお消えない刑事魂に突き動かされ巻き込まれ正面から取り組む男達。 背後から吹き付ける冷たいサスペンスと、人間ドラマを邪魔しない匙加減の絶妙なツイスト。 読後に持続するじんわり感は強力。 短篇集で表題作だけ異色の作、ってのはままある事ですが、本作の場合もそれですね。 最後の「地を這う虫」は際立ってミステリ色強く、ある種幾何学パズルの趣も窺える。ユーモア有り(ろんさん同様”台帳”には笑いました)、まさかのアクション有りで、人間ドラマも割と明るい側面を押し出す。 だが決して先行三作に較べ軽くも浅くもなく、むしろ個人的にはこの表題作がいちばん心に残りましたね。 (ミステリ色の強い作品、実はもう一つあります。 まあ四作どれも充分ミステリですが。) |
No.1100 | 8点 | 屍蘭 新宿鮫III- 大沢在昌 | 2021/10/25 18:04 |
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ホップする剛速球で文句無し!じっくり行きたいがスタスタ読めてしまうのが恨めしい。早い段階で深い謎を惜し気も無くバラして行くリスキーな(?)展開も納得、この勢いと重さの共存あってこそ成り立っている。時折の硬い説明文さえエンタテインメント天然色。ラストがちょっと爽やか過ぎかと感じたが。。題名の意味に、最後の最後で花開かせる手綱さばきは見事。女子力の強い物語だが、そこは女子達のみならず某ノンケ男子の造形や行動も大きく寄与していよう(この人物、いいねえ)。
いくら状況をナニしたからと言って気が付けば周りは鮫島の味方ばかりになっていたり、あんな最強武器をあんな無防備な持ち歩きしていたり、ヘンな所も数ありますが、、物語が見事にぶっ飛ばしています。 晶の音楽がさっぱり聞こえて来ないのも、まあ気になりません。 ところで、先頃ジャガー星に帰還された千葉のジャガーさんの若い頃、今と違ってバリバリのハードロッカー(パンク寄り)だった頃の楽曲を久しぶりに聴いてみて、晶のやってる音楽にもしかしてちょっと近いんじゃないのか、なんて想像してしまいました。 当時の晶、ジャガーさんのこと知ってたかな。。(実は対バンしてたりとか) |
No.1099 | 5点 | 覆面作家は二人いる- 北村薫 | 2021/10/22 13:20 |
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やっぱり、タイトルが引っ張りますよね。いらぬ先回りで憶測してしまうので、その分ミステリ度が嵩上げされましたかね。 時折過多に思えたユーモアも、琴線ヒット率は個人的に高かったッスね。実際けっこう笑ったね。
「 『俺は十九だ』 といって殴りかかってきたんだ」 兄貴は、さらに首をかしげた。 「そりゃあ、おかしな話だな」 にしてもあらためて随分とフェミニンな作風ですこと。表紙絵や挿絵の彼女がいかにも’女性目線で可愛い女性’て感じなのも拍車を掛けてるな。 この彼女、どういう発達障害か知らないが、やっぱ世の中は、真ん丸なんじゃなくどっか引っ込んでどっか出っ張ってる人達が補完し合って成り立ってるんだなあと、中にはこの彼女みたいな凸凹の直径比が極端な人もいていいんだよなと、思いました、半分冗談スけど。 謎解きとしては、最後の表題作はちょっと良かったですね。。 ただ、バードさんおっしゃるように、謎の焦点がばらけてもったいない感じはします。(私なんざ「年増のチンピラに絡まれた事件」も謎インシデントの一つにカウントしてましたよ) |
No.1098 | 8点 | 応家の人々- 日影丈吉 | 2021/10/20 06:40 |
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“あの童女のおもかげのほかに、この陰惨な事件の連続から、守るべき思い出の何ものもないのをさとった。”
作中作の斬れ味、作中作中作の濃艶さ。現実(作中)世界とのリンクも闊達(ところが構成の妙はそこだけじゃない)。作中の現実とは、一人の女性の周囲に、新旧夫の二人を含み、あまりにも短期間に連続して起こる夥しい不審死。ストーリー途上にはまさかの匂わせミステリかと危惧させる展開もあり、捨て置けないトラベル&タイムトラベルミステリーの趣もあり。多種多様なルビの氾濫も手伝い、言い逃せない読み辛さはある。だが、こりゃあ短かめの長篇ながらも贅沢にゆっくりと味わいたい作品。とか言ってると最終コーナーにかかり唐突に一気に燃え盛る本格ミステリ魂の火炎放射が凄い。まさかの鮮烈物理トリック、それも明瞭伏線付きだった! … 造形にちょっと靄がかかった探偵役の主人公が最後になって急に閃きまくるのは、読者一般には見えなくとも、当時のディープ台湾に浸っておればこそ嗅ぎ出すことの出来たアレに対する機微がそこに遍在していたから、って事でしょうか。。その事実が最後に浮かび上がる、歴史がかった重めの捲り感こそがミソなのかも。 それにしたってこの終結! これを■■だと騒ぎ立てる人もあろうが、意外過ぎて粋で、何と言ったものですかね。 南十字星の見える南台湾 .. 日本領だったころの .. を舞台とした、苦くも起伏に満ちた回想と、現在の.. の物語です。 題名のちょっとした違和感も、最後には切なく茫洋と解消。 主人公がファム・ファタールに傾き過ぎないのも頼もしく、また良い意味で逆に歯がゆく、素晴らしいバランス。 旅をしたな、という粗く爽やかな感慨が残る。 作者による、その品格と裏表のとぼけたあとがきもよろしい。 |