皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
バードさん |
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平均点: 6.14点 | 書評数: 324件 |
No.224 | 7点 | 毒入りチョコレート事件- アントニイ・バークリー | 2020/08/30 11:52 |
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こてこての古典作品と思わせる堅苦しいタイトルに反し、実際の本書は、中々にミステリ小説を皮肉ってらっしゃる変化球本である。
本書の最重要テーマはミステリにおける論理の脆弱性で、これは奇書と名高い『虚無への供物』と似ている。皆さんが書かれているように、この本の分類はアンチミステリっすね。 最近、ミステリの粗が気になり、昔ほど純粋に楽しめていないという方に本書はお勧め。ミステリの論理なんて良くも悪くもこんなもんよ、と初心を思い出させてくれるだろう。 扱ってるテーマは興味深い(9~10点)が、同じ事件の解決案を6回も聞かされるので、物語的には少し退屈(5~6)だったかも。点数はテーマと読み物としての面白さの両方を考慮した。 |
No.223 | 7点 | 動機- 横山秀夫 | 2020/08/30 11:50 |
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横山さんの短編は初めてだったが、短くとも各話で作者の良さが発揮されている良短編集と感じた。
<各話の書評> ・動機(7点) 警務対刑事あり、予想を外す事件の真相あり、と『64(ロクヨン)』のプロトタイプのような内容。本短編が十分面白い事を考慮すると、『64(ロクヨン)』は少々長すぎ? ・逆転の夏(8点) 横山さん、こういう本格色の強い話も書くんだ、と少々驚いた。裏で暗躍する者達の仕掛けはシンプルで上手。また、話の根幹は暗いが、読後感がそれほど悪くないのもgood。ラストに静江が出てくるのはご都合な気もするが、そこをつっこむのは野暮ってもんだ。 ・ネタ元(5点) 記者出身の横山さんの良さが出る題材とは思うが、記者の話はどうも好かん。とはいっても水準並みには面白かったです。 ・密室の人(7点) 居眠りというやや抜けたミスから始まるにもかかわらず、終わる頃には重苦しい雰囲気の本話。後味は決して良くないが、程よい謎と余韻が楽しめる佳作。 |
No.222 | 2点 | 姑獲鳥の夏- 京極夏彦 | 2020/08/24 06:55 |
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京極さんは『魍魎の匣』で、合わないかも、と思ったが案の定本書もダメだった。京極堂シリーズはもう読まん。
キャラものとしては好きな人がいるというのは分かる。木場や榎木津あたりは自分も良いキャラと思っているし。 ただ、本書の語り役の関口が無理。グジグジ女々しい上に、友人(京極堂や榎木津)の意図もほとんど汲めてなくて、なんなんこいつ?って感じ。終始イライラさせられた。 (以下ネタバレあり) 本書のメインの仕掛けは ・三重人格の犯人 ・姉妹の人物誤認 ・重要なものが視界に入っていても、認識できない(チェスタトンの例の作品の考え方) あたりね。また、「信用できない語り手」の手法も取り入れられている。 ミステリ的にグレーな仕掛けを数多く採用しているにもかかわらず、本書はフェアだと思うし、論理的な破綻も無いと思う。その点は評価している。 しかし、本書ほど限定的な状況でしか成立しない特殊な事件だと、そもそも興味が持てず、退屈だった。フェア?論理的?だから何?、つまらないんじゃ意味がない。 |
No.221 | 5点 | ローマ帽子の秘密- エラリイ・クイーン | 2020/08/19 07:22 |
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本作って挑戦状までの記述だけじゃ、犯人を一意に決められないと思うのだが。
劇場内の全員という、非常に多い容疑者の中から犯人を一人に絞る切れ味抜群の論理を期待していただけに、挑戦状以降を読んだときは少しイラっとした。帽子を持ち出したタイミングや方法を特定する論理は上手いのだが、フーダニットの観点でケチがついた一冊。 点数は、「ストーリー(6)」+「帽子に関する論理(1)」+「挑戦状前の情報不足(-2)」です。 (以下ネタバレあり) ・犯人当ての推理で、(読者視点だと)色々と決めつけすぎ。以下ような別解を論理で捌ききれていない。 別解1 (帽子をかぶらずに劇場にきた紳士Aが犯人) そういう紳士が犯人なら堂々とフィールドの帽子をかぶって劇場の外に出られる。作中ではこの説は 「ここまでよく計画を練った男なら、不必要に顔を見覚えられる危険をおかすことはまずないだろう、というのが我々の結論だった。」 というセリフによって棄却されるが、これは根拠の無いただの決めつけな気が。 別解2 (他の役者が犯人) 役者たちの中で正装だったのが”バリーだけ”というのが挑戦状の前に書いてない(私が見逃しているだけならば、指摘していただきたいです。2011年08月出版の東京創元社を読みました。)ので、当然他の役者も疑える。女性陣も例外でない。男の共犯者がいれば女でも殺人犯たりうるということは、作中でも言及されている。 まあ別解1はイチャモンみたいなものだが、2の方は結構問題じゃないか?「帽子を自然に劇場内に残せるのは役者達だけ」と考え付いても、それ以上殺人犯を絞れないじゃないか。 ちなみにジェスが犯人という別解も、一応作れた(イチャモンレベルと思うが)。 |
No.220 | 8点 | 外天楼- 石黒正数 | 2020/08/19 07:19 |
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小説家でない石黒さんが本サイトに登録されているとは思っていなかった。しかし、登録されているのだから、彼の大ファンとして書評を書かないわけにはいかないな。
本作は一ミステリや一SFとしてはやや雑な部分もあるが、世界観や豊富なミステリ的ギミックを通して作者の良さを存分に感じることができる。まさに極上の石黒漫画、ファンならば必読の一冊だ。(本作の雰囲気は代表作の『それ町』よりも『石黒正数短編集』に近い。) (以下細かい点に関するコメント。ネタバレあり。) (1)小説で度々「アイスを食べている」と書いてあったら私のように迂闊な読者でも気になるが、本作はさらっとそういう描写を盛り込めている。重要な伏線を違和感無く忍ばせるのに、漫画という媒体は優秀ですね。 (2)ミルダ参謀(短編集の『デーモンナイツ』のキャラ)再登場にテンションが上がりました(笑)。 (3)「お前だアリオ」のシーン。 これはめくり(見開きの1コマ目)に置くべきコマだろう! おそらく後の展開とページ数から、止む無くこのようなコマ割りになったのだろうが・・・。この衝撃シーンが読み進む前に、ちらちら見えてしまうのは勿体なさすぎるぜ。 |
No.219 | 6点 | 覆面作家は二人いる- 北村薫 | 2020/08/13 22:23 |
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円紫さんシリーズとほぼ同じ感覚で読めるが、あちらのシリーズにある文学・落語ネタが本書には無いので、人によっては味気ないと感じるかも。
疲れている時なんかは、本書のような優しめのミステリが頭によくしみる。逆に刺激が欲しい時に読むと、パンチ力が弱く物足りないだろうな。 <各話の書評> ・覆面作家のクリスマス(6点) 犯人がプレゼントを持ち去った理由は、チェスタトンの『折れた剣』の発想を応用している。あの話が好きな私は本書のしかけも同様に気に入った。 ・眠る覆面作家(7点) 事件に特筆点は無いが、アンジャッシュ的な勘違いコントが面白かったので高評価(笑)。 ・覆面作家は二人いる(5点) この話は、焦点が何なのかが分からなかった。「万引き事件」と「覆面作家は二人いる?いない?」という、二つの謎を同時に扱っているにもかかわらず、メインの謎がどちらかが、曖昧なことは不親切と思う。 作者が力点を置いたポイントが分からないと、こちらも楽しみにくい。 |
No.218 | 6点 | アンドロイドは電気羊の夢を見るか?- フィリップ・K・ディック | 2020/08/13 22:21 |
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本作のテーマは「機械と人間の境界線とは?」である。
この本が書かれた当時は、上記の問題はフィクションの世界の問題だった。しかし、AI発展が目覚ましい昨今では、この問題が現実の問題となりつつある。(もちろん、まだAIができる事は限られており、生物との差は明白だが。) 時代が進み、上記テーマが身近になった結果、本作のスケールは相対的にダウンしたと言わざるを得ない。このような理由から、本作は水準レベルを超えてはいるが、少し物足りないと感じた。(この作品の歴史的価値を考慮できる程、SF小説を読みこんでいる読者ならば違う評価の仕方もあるのだろうが。) 個人的には、魅力ある映像を楽しめる映画『ブレードランナー』の方が本書より好き。ほぼ別物な気もするが・・・。 最後に、小説ならではの良さについて述べる。アンドロイドへの呼称「彼・彼女」と「これ・あれ」が、登場人物のメンタル状態によって使い分けられているところが良かった。結構短い間隔で呼称が変わる場面もあり、繊細な心情変化を逐次的に読み取ることができる。 |
No.217 | 4点 | 密室殺人ゲーム王手飛車取り- 歌野晶午 | 2020/08/08 12:32 |
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作中でも指摘されていたが、本作は、殺人事件を扱っているにも関わらず、犯人が安全圏にいて緊張感が皆無である。そのせいで、質の悪い演劇(学祭とかでやってそうな)のような感じ。
個々の推理ゲームで面白いネタはあっただけに、設定で大損してる作品という印象。本作の設定でやるなら、いいとこ中編かな。流石に文庫本で520ページ分もやる内容じゃない。 <推理ゲームに対するコメント> aXeの問題 : 開幕から長々としたミッシリングで、退屈だった。本作の第一印象が悪い主要因。 ザンギャ君の問題 : 「ピースは全て回収しろ」の件は好き。実際、「生け頭」の意味もあったし、面白かった。 伴道全教授の問題 : 可も無く、不可も無く。 044APDの問題 : いい意味で一番力技な(ミステリらしい)問題だった。ザンギャ君の出題パートでまかれた伏線の回収も気持ち良く、5人の問題の中で一番好き。 頭狂人の問題 : 作者(歌野さん)としては、おそらく一番驚いて欲しい問題と思うが、頭狂人の家庭環境への言及が度々あったため、この事件はぶっちゃけ予想できた。ほぼ予想通りだったので今一つ。被害者の正体についてだけは、意表を突かれたが。 最終章 : いいオチが思いつかず放り投げた感がある。(半端に終わっているが、一応続くのかこれ?)私はこのオチ嫌いよ。 |
No.216 | 5点 | スマホを落としただけなのに- 志駕晃 | 2020/08/03 21:59 |
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現代人に強く刺さるタイトルが気になり、チャレンジした。
しかし感想は、タイトルから連想される以上のインパクトは無かった、というところ。ネットセキュリティ意識の低い人にサスペンス的な恐怖を与えるために、より恐ろしい事件にしても良かったと思う。 また、犯人による実被害(富田のスマホがランサムウェアでやられる)が出るまでに204ページも読まされ、微妙にテンポが悪いと感じた。この手の犯人が用意周到なのは当然だが、じれったい。加えて、進展の少ない警察の捜査にそこそこページ数を割いており、これもテンポ悪化の一因になっていた。 ただ、スピード感はいまひとつだったものの、次の展開を気にさせる筆力があり、総合的には悪くないサスペンスという印象。 |
No.215 | 10点 | ユダの窓- カーター・ディクスン | 2020/08/03 21:56 |
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カーの既読数はたかだか10冊なので、本作を代表作と言い張るつもりはありません。しかし、私基準で本作は文句なく傑作でした。これまで、200冊以上書評を書きましたが、読み始めからオーラを感じたのは本作が初めてで、自分のカー評価を躍進させた一作です。
本作は、問題の階層構造が明確で、優れた学術論文のような上手さを感じた。階層構造が分かりやすいのは、リアルタイムで事件を追う形式ではなく、裁判で振り返る形にしたことで、事件を再構成できたからだろう。読者は作中の陪審員に近い立ち位置で事件を眺めることになる。 本作で最重要の謎は 「被告人が被害者を殺したか、否か?」 であり、殺害方法や、アリバイはそれに付随する謎という位置付けである。H・Mの問題意識は最初から最後まで、「被告人の無罪の証明」であり、読者もこの点に集中すれば良い。上記の証明のために膨大で細やかな証言と証拠が積み重ねられるが、問題意識がはっきりしているので、くどさや分かりにくさは感じなかった。 もし、本事件をリアルタイムで語る形式にしたら、 「犯人は誰か?」、「どう殺したか?」 などのいくつかの謎が並列に扱われ、凡ミステリになってしまっていただろう。 (ユダの窓の利用はともかく、部屋の外部から殺害というのは、カーの以前の作品でも使われた方法である。また、犯人についても、鉄壁のアリバイがあるわけでもないので、サプライズ性は弱い。 しかし、本作ではこれらの問題を小さい問題としたので、弱点となっていない。) この事件でこれだけ面白くなる裁判形式のチョイス、お見事です。 |
No.214 | 6点 | 奪取- 真保裕一 | 2020/07/29 07:34 |
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久々に評価の難しい本にあたったなぁ。
本書を完成させるには、間違いなく綿密な調査が必要で、この点だけでも作者の甚大な努力を感じる。 「偽札作りの描写は妥協しないから、読者も頑張ってついてこい。」 と作者に言われた気がした。 『不連続殺人事件』の書評でも述べたが、作者のこだわり(本書なら偽札作り描写)が作品ににじみ出ているのは、良作の証だと思っている。ただ、本書はそのこだわりが「諸刃の剣」になってしまっている気もする。 というのも、金属加工、コンピュータのハードおよびソフト、プリンターとスキャナー、印刷技術あたりの知識が無い者にとっては、一番の見所である偽札作りパートが異国の呪文なのである(泣)。実際、私の理数知識ではきつかった。 上にあげた分野に精通した人が読んだら、もの凄く楽しいだろうし、10点がついてもなんら不思議でない作品と思う。今回の私の点数は6点(= 物語の面白さ5点 + 偽札作り描写1~2点)、本書を隅々まで堪能できるような読者になりたいものだ。(勉強、勉強!) //////////////////////////////////////////////////////////////// 最後に偽札作りパート以外の感想を述べ、書評を終える。 ・ストーリー 意外性のある展開は第一部の終盤で謎のじじいが登場するところくらい。ストーリーだけを見たら凡かなぁ。ただし、ハッピーエンドだったのは嬉しかった。最後の方では大分、主人公サイドに感情移入していたので。 ・キャラクター 最終的に大金を逃すも、良輔は笑い、一切気にしない。当然だろう。なぜなら彼は五億円なんてちっぽけと思える程の技術と知識を手にしたのだから。 こういう職人的な格好良さを持つキャラは、私のど真ん中です。彼らを見習い、誇れる技能を習得するべく、私も精進します。 ・エピローグ 小説家になる伏線が無く、エピローグはどうも本編から浮いているという印象。 本文を主人公が書いたという設定だと『ダレン・シャン』を思い出したが、『ダレン・シャン』と比べると、この設定がプラスに働いていないっぽい。あちらは「もし本当なら、バンパイアが実在する・・・?」と読後に興奮を誘起するのに対し、本書の場合「もし本当でも、既存の技術を組み合わせて精巧な偽札を作った奴らがいるだけ」なのよね。 |
No.213 | 5点 | シャーロック・ホームズの回想- アーサー・コナン・ドイル | 2020/07/23 12:32 |
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ホームズの初解決事件(『グロリア・スコット号』)、兄マイクロフトの登場話(『ギリシャ語通訳』)、一度はホームズシリーズの締めを飾った『最後の事件』などホームズファンなら必読な短編集。
このようにキャラものとして優れる一方、ミステリ的に尖ったギミックは少なく、ホームズに入れ込んでいない読者にとっては凡短編集という印象。 各話の書評 ・白銀号事件(6点) 犬が吠えなかった事実から犯人を絞るのは、これぞミステリ世界の探偵が披露する推理という感じで嫌いじゃない。一方、羊の足の件はあまり上手い伏線と思えなかった。 ・黄いろい顔(6点) 珍しくホームズの読みが外れる展開。ラストのホームズの台詞 「これからさきもし僕が、自分の力を過信したり~、ひとこと僕の耳に、『ノーバリ』とささやいてくれたまえ。」 は、幾分かっこつけな台詞だが、ホームズくらい失敗の少ないキャラが言うとばえますね。 比較的コンパクトにまとまっており、割と好きな話。 一つ気になったのは、冒頭でホームズの失敗記録例に『第二の汚点』が挙げられていること。『第二の汚点』って真相を見抜いたうえで、あえて見逃す話だったような・・・、記憶違いかしら?(現在手元に『シャーロックホームズの帰還』が無いので確かめられず。) ・株式仲買店員(5点) 第一印象は『赤髪組合』に似てるな、だった。(旨い話におびき出される依頼人から連想した。)上記のような焼き直し感が強いので、評価はまずまず。 ・グロリア・スコット号(5点) 昔の悪事で脅される爺さんキャラは、ホームズ物に限らずちょいちょい登場するが、一話限りの爺さんの過去話なんて退屈な場合も多い。この話もJ・Aの過去話は退屈だった。 暗号が解かせる気のある良心的なものだったので、+1点で総合5点。 ・マスグレーヴ家の儀式(5点) この話の暗号は逆に簡単すぎで、わざわざホームズを出馬させなくても解けるレベル。(元々暗号じゃないしね。) 事件の顛末は予想通りで、微妙。 ・背の曲った男(4点) 犯人不在の部屋から妙な動物の痕跡が発見されるという面白シチュエーション。しかし、忍び込んだ男がつれていただけで、動物自体にはなんの役割も無い。このような雑さが気になりイマイチ。 ・入院患者(4点) 矛盾は無いが、小さくまとまっている感。何か工夫が欲しい。 ・ギリシャ語通訳(5点) ホームズの家族構成について言及する貴重な話なので、+1点してます。初登場の兄マイクロフトが大活躍するわけでもないのは、ある意味意表をついている? ・海軍条約文書事件(6点) 本短編集の中で一番好きな話。犯人に意外性は少ないものの、文書の隠し場所なんかはポーの『盗まれた手紙』のように、一工夫あり良い。犯人がベルを鳴らした理由(エレガントではないですが(笑))もスルーせずに説明しており、いい感じ。 ・最後の事件(3点) モリアティが雑にホームズを葬る話ということは聞かされていたが、想像よりも雑で、悪い意味でびっくりした。モリアティはぽっと出な上、作者が乗り移ったがごとく都合の良い先読みしてるだけ。「犯罪者中のナポレオン」と言われても・・・。 シリーズの中で重要な話なのは間違いないが、単体で見たら酷い出来だと思う。 |
No.212 | 6点 | マスカレード・イブ- 東野圭吾 | 2020/07/23 12:25 |
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『マスカレード・ホテル』ファンに向けた続編(前作の過去話)。
本作(と前作)のテーマである「仮面」は、ミステリ小説と相性がいいので、私は本シリーズを気に入っている。というのも、読者が見ることが出来るのは、「年」も「性別」も「体形」も「名前」も「性格」も全て、作者が付けた仮面越しのキャラだからである。 キャラの仮面が取り去られ、素顔が暴かれる瞬間のカタルシスが好きなのよ。 最後に個人的な嗜好を述べる。普通の警察物の新田パートよりも、ホテルマンとして、少し変わった視点から仮面の下を覗く山岸パートの方がトリッキーで好き。 |
No.211 | 4点 | こわれもの- 浦賀和宏 | 2020/07/14 00:32 |
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これまで浦賀さんはノーマークだったが、本サイトの掲示板で話題になっていたので読んでみた。
さて本作であるが、裏表紙のあらすじは魅力的で期待して読み始めた。 しかし、本編は売りが分からず、ワクワク感を維持できなかった。 ・二転三転する最後の展開? ・メタ要素のある最後の里美の独白? あたりが売りっぽいけど、どっちもパンチ力が弱いかな。キャラクター造形もステレオタイプな人物ばかりでイマイチ。 このように本作は、残念ながら私のハートに響かなかった。次読む浦賀作品(おそらくデビュー作)では作者の良さを掴みたいところ。 |
No.210 | 6点 | レッド・ドラゴン- トマス・ハリス | 2020/07/14 00:28 |
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異常犯罪者を追う話としてはまあまあ。
しかし、『ハンニバル』でレクターというキャラクターにほれ込んだ私にとっては、本作はレクター博士成分が不足している。 決定版の巻末には、レクターの出番が控えめな本書こそがレクターシリーズ最高傑作であると書いてあるが、私の感覚ではそうは思えなかった。 本作の二人のメインキャラ(捜査官のグレアムと異常犯罪者のダラハイド)は、読者が理解できる平凡なキャラで、レクターが持っている「奥底にある何か」がない。(レクターの魅力は共感もできなければ理解もできない唯一性だと思っている。) メインの二人が役割としてはレクターの噛ませなんで物足りないのよね。 『羊たちの沈黙』にはレクター博士並みに魅力のあるクラリスが出るようなので期待。 |
No.209 | 7点 | 弥勒の掌- 我孫子武丸 | 2020/06/22 21:34 |
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(ネタバレあり)
本作の仕掛け(以下参照)の一つ一つは、前例があったり、小粒だったりするのかもしれないが、個々の仕掛けが上手く噛み合い、全体としては中々に凝った作品な気がする。 我孫子さんのナンバー1が『殺戮にいたる病』なのは揺るがないにしても、『殺戮』は話が話なので、こちらの方が無難に勧めやすい気がする。といっても本作のストーリーも割とえげつない話だけどね。(特に茂木は気の毒よ。) 本作の仕掛け ・『〇〇〇〇〇殺し』の手法の二段構えによる犯人隠匿 ・第二章(刑事)、三章(教師)の自然な時系列シャッフル ・一人物を二人に錯覚させるトリック(時系列シャッフルとのシナジーが気持ち良い) このようにまとめると、主人公が一人でなく二人というのが重要なようだ。この構造は『十角館の殺人』の2軸構造に似てるのかも。(「島&本土」の2軸を「教師&刑事」に置き換えた構造。) |
No.208 | 8点 | 虚無への供物- 中井英夫 | 2020/06/22 21:32 |
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『ドグラ・マグラ』についで三大奇書二冊目。残る一つは『黒死館』だが・・・、非常に読みにくいと伺っているので今現在読むモチベが低いです(苦笑)。
さて本作は、三大奇書という大層な看板に反し、意外にもミステリのオーソドックスな構成(事件が発生し、ラストで真相が明かされ幕引き)で、『ドグラ・マグラ』に比べ格段に読みやすかった。 本作を語る場合、おそらく例のオチだけがクローズアップされがちだと思う。しかし、本作のオチはそれだけを見ると賛否両論だろうし、下手に真似事をしたら思考放棄と叩かれそうなものである。 つまり、本作が現代でも人気なのは、例のオチに読者が納得するだけの過程をきちんと書いているからだろう。道中、探偵役達が第三者のごとく好き勝手な珍説を披露するのは、一見ギャグっぽいようで実は肝なのよね。 奇怪な要素だけでなく、ラストに向けての丁寧な構成にもぜひ注目して欲しい一作。 |
No.207 | 3点 | 魔王- 伊坂幸太郎 | 2020/05/21 00:59 |
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伊坂さんの良さは、重めの題材をも軽快に感じさせる書き味、と思っている。しかし日本国憲法九条改正を扱った本書は、重苦しい題材が重いままの仕上がりで、作者の良さが出ていない。
安藤兄弟の微妙な超能力(?)と詩織ちゃんのふわっとしたキャラは伊坂さんらしさがあり気に入ったが、ストーリーは上記の理由から好きじゃないです。 また、締めもこれで終わり?、という唐突な印象を受けた。 |
No.206 | 5点 | 日曜の午後はミステリ作家とお茶を- ロバート・ロプレスティ | 2020/05/14 03:00 |
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殺人や強盗といった重めの犯罪もあるものの、これぞcozy mysteryといった雰囲気。それこそタイトルに習い休日にお茶でもいれながらなんてのが理想の読み方かも。
主人公のシャンクスは中々にひねくれ者で毒の強い皮肉を飛ばす場面も多々あるが、その毒を引きずらずカラッとしたお話に仕上がっている。この辛辣だがドライな空気は海外作家ならではの良さと感じた。 本サイトには彼の本がもう一冊(『休日はコーヒーショップで謎解きを』)登録されているので、どこかで見かけたらそちらも読んでみようかな。本作はミステリ的なパンチ力が弱いと感じたので次はそこのところが強化されてることを期待します。 <気に入ったシーンやら展開やらその他色々> ・『シャンクス、昼食につきあう』のシチュエーション。著者のコメント通り、独特で面白かった。 ・『シャンクスはバーにいる』で昼飯の決定権がニックのゴルフ成績に委ねられてしまったこと。シャンクスの思考パターンが妻に完全に読まれているのが笑えた。 ・『シャンクス、物色してまわる』でシャンクスがデレス警官に入れ知恵した理由。 「ちょっとしたお詫びのしるしだよ」 「辞書で確認したんだ。”プラウル”は他動詞として使われることもある。」 まさに作家らしい理由でくすっとした。 ・『シャンクス、殺される』のロジカルなホワイダニット。本短編集の中でミステリ的に一番感心した。 ・『シャンクスの記憶』でロニーが通報した後の 「ああ、もし僕たちがまちがっていたらどうしよう?」というセリフに対するシャンクスの心の中のコメント。 「いきなり僕たちになるわけか、」 ・『シャンクス、スピーチをする』 スピーチで心にもない事を言わなければならない事をぼやくシャンクスに対するコーラの 「問題ないでしょ、シャンクス」 「つくり話を書くことがあなたの仕事なんだから」 というセリフ。 ・『シャンクス、タクシーに乗る』での 「いやちょっと待った」離婚訴訟のなかでーあるいは、もっと悪いことが起こってー自分の名前が出るなど、シャンクスは絶対にごめんだった。 という一瞬の思考。ずっと酔っ払いのダル絡み対応だったのに、 自分に影響が出ると判断するや否や急にシャキッとすな(笑)。 ・手短にまとまった小噺として、『シャンクスは電話を切らない』全体。 |
No.205 | 7点 | 天使が消えていく- 夏樹静子 | 2020/05/03 06:58 |
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夏樹さんといえば日本を代表する女性ミステリ作家の一人(といって平気ですよね?)だが、そんな夏樹さんの作品を読むのは実はまだ二度目。それも一度目はアンソロジーで読んだので、単行本は本作が初。
大物ということでおおいに期待していたが、無事ハードルを越えてきた。今後も積極的に夏樹作品に挑戦していきたい。 本作についてだが、要所要所で新たな謎が発生するので終始緊張感があり、中だるみせずに読めた。 また、 ・犯人のミスリード要因(男女一人ずつ)が機能している ・最後に驚きの真相あり と、良サスペンスの基本をしっかり押さえておりgoodでした。 本作で最もミステリ色の強いギミックである志保殺しの密室であるが、 亜紀子提唱の推理(被害者が逃げ込み自ら鍵をかける)が真相でも十分良作だったと思う。(トリック自体は弱いかもだが、使いどころは良いので。) その上で、最終的にこの推理は捨てられるのが本作の良く出来ている所だろう。 最後に本書のテーマである母性愛について触れるが、まぁ概ね共感できたかな。といっても私は原理的に母親にはなれないので、「共感」とは言えないかもですが(笑)。 |