皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
いいちこさん |
|
---|---|
平均点: 5.67点 | 書評数: 541件 |
No.15 | 5点 | ウランバーナの森- 奥田英朗 | 2023/08/14 20:54 |
---|---|---|---|
本作の主人公は「ジョン」とされているが、これは明らかにジョン・レノンであろうし、妻の「ケイコ」はオノ・ヨーコ、「ジュニア」はショーンだろう。
著者は、ジョン・レノンが4年間の空白を置いて発表したアルバムの作風が大きく変わった点をふまえ、その「空白の4年間」を埋めてみたかったと語っている。 悪い作品ではないと感じたが、本作が普遍的な意味をもっているのかどうかは、判断が難しいというか、読者によって分かれるところであろう。 本サイトで評価すべき作品ではないことは百も承知で、この評価とする。 著者のもっている引き出しの多さは評価されて然るべきだとは思う |
No.14 | 5点 | 我が家のヒミツ- 奥田英朗 | 2022/07/13 19:07 |
---|---|---|---|
同様の作風の他作と比べ、各短編の核を成す課題認識が共感性に乏しい。
それゆえに相変わらず達者ではあるものの、軽量コンパクトな印象が強く、見劣りすると言わざるを得ない |
No.13 | 5点 | ララピポ- 奥田英朗 | 2021/08/18 19:51 |
---|---|---|---|
全体として軽量コンパクトな作品であるうえ、ミステリとしての性格も至って弱く、この程度の評価にならざるを得ない。
本作は、エロ描写まみれの内容や、格差社会の現実を下世話に、赤裸々に描き出しているだけで、何の主張もなく、解決も与えていないとの批判もあるようだが、人間の弱さに真正面から向き合った、著者の王道を往く作品であり、それほど批判的なスタンスに立つべき作品であるとは考えていない |
No.12 | 6点 | ガール- 奥田英朗 | 2019/12/28 16:07 |
---|---|---|---|
「マドンナ」と主題・作風が非常に類似した作品。
人間観察眼の確かさは相変わらず素晴らしいのだが、人物造形と各短編の結末が類型的すぎて、同作より共感性の点で強く見劣りを感じ、この評価 |
No.11 | 5点 | 無理- 奥田英朗 | 2019/10/19 11:34 |
---|---|---|---|
格差社会の実態を迫真のリアリティをもって描き切った、綿密な取材と高い筆力は手放しで評価する。
一方、本作の着地、ラストシーンには落胆した。 散々、発散してきたストーリーを収束させきれず、処置に困って投げ出したというだけにとどまらず、1個の作品全体として何の意味も残さないのである。 「負け組」にカテゴライズされる人々、「いまはそうではないものの、いつしか自分も負け組になるかもしれない」という不安を抱えている多くの人々が本作を読んでいる。 著者はこんな絶望的な、何の救いもない未来を描くことで、こうした人々に何を伝えたいのだろうか。 それがまるで見えてこない。 「よく書けてますね。So What?」という評価にならざるを得ない |
No.10 | 7点 | 我が家の問題- 奥田英朗 | 2019/01/25 20:15 |
---|---|---|---|
相変わらず達者、素晴らしく達者。
そのクオリティの高さに手放しで賛辞を送りたい。 取り上げられている「我が家の問題」と登場人物の生き様が、あたかも日本家庭の最大公約数であるかのように普遍性があり、それゆえにリアリティと共感性が高く、読んでいて全く飽きることがない。 それでいて筆致も実に巧みであり、「我が家の問題」を前向きに受け入れ、乗り越えていこうとする夫・妻・こどもの健気な姿が強く胸を打つ。 本サイトではこれ以上の評価は難しいが、軽量コンパクトな作品でもあり、万人に一読を勧められる佳作 |
No.9 | 6点 | オリンピックの身代金- 奥田英朗 | 2018/07/27 08:43 |
---|---|---|---|
客観的事実が一部先行し、その後に各登場人物の行動・心理が叙述される、倒叙的な構成を取っており、その時間軸の間隔が短縮する作品後半においては、サスペンスが大きく減退する構成となっている。
その点において、本作の構成は全体として非常に緻密であるものの、長尺すぎるという評価にならざるを得ない。 また、本作の主題、つまり日本社会が敗戦から立ち直っていく高度経済成長時代、とりわけその象徴的な存在である東京オリンピックの背景にある、理不尽な格差社会に対する課題認識は評価する。 しかし、その課題認識に対する主人公のアクションが、テロリズムという形態を取ることに違和感が拭えないのである。 確かに、日本の富の多くがオリンピックの開催地たる東京に落ちるのであろうが、主人公の仲間たちをはじめ、各地方もその恩恵に多少なりとも浴するのは間違いない。 にもかかわらず、それに対する反発がテロリズム、しかもそのエネルギーが政治ではなく警察に向かうのが不可解と言わざるを得ない。 主人公による麻薬の常習が、そうした行動原理の不可解さに対するエクスキューズであるように感じられる点は非常に残念 |
No.8 | 6点 | サウスバウンド- 奥田英朗 | 2018/05/31 08:46 |
---|---|---|---|
個々のエピソードは面白いのだが、他の作品にない説教臭さと、まとまりの無さを感じさせ、主題が曖昧な印象が強い。
読み物としては一定の水準に達しているのだが、著者の本来の力量が発揮されておらず、読者の期待に応えているとは言いかねる作品 |
No.7 | 6点 | 家日和- 奥田英朗 | 2017/10/27 21:32 |
---|---|---|---|
日常的なテーマ・登場人物を題材に、リアリティのあるエピソードを、少し皮肉っぽく軽妙なタッチで描いている。
それぞれのエゴが見え隠れしつつも、至って善良な登場人物たちの活き活きとした姿が、読後感の爽やかさにつながっている。 「イン・ザ・プール」「マドンナ」ほどのインパクト・パンチに欠ける分、両作には及ばないが、読者の期待を裏切らない作品と言える |
No.6 | 7点 | マドンナ- 奥田英朗 | 2017/08/19 16:24 |
---|---|---|---|
企業の中間管理職を主人公に配し、会社や家庭におけるドタバタをコメディタッチに描いた短編集であり、いずれの作品も純粋に読物として面白いのだが、それだけに止まらない。
「ダンス」では「個の尊重」と「協調性」の両立、「総務は女房」では主人公の硬直した価値観・倫理観に起因する葛藤、「ボス」では女性の上司を持った男性管理職の悲哀・憤慨等、各短編の主題に著者の高い先見性と今日的な問題意識が活かされていて、実に見事。 人間観察眼の確かさと人物造形の巧みさもあいまって、誰もが共感できる、実に読ませる作品に仕上がっている。 会社人間・仕事人間と、その家族にとって必読の作品と言えよう |
No.5 | 5点 | 町長選挙- 奥田英朗 | 2017/03/23 20:56 |
---|---|---|---|
各短編の主人公の人物像を造形するにあたり、「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」とは一転して、著名人をモデルに採用したのは、単純にネタ切れであろうと推測。
これ自体はやむを得ないことだが、そのことで本シリーズの際立った美点である読者の共感性やテーマの普遍性が失われている。 その結果、「イン・ザ・プール」はもちろん、「空中ブランコ」にも遠く及んでいない。 本シリーズは明らかに限界に達しており、本作をもってシリーズを打ち切った(?)のは英断と言えよう |
No.4 | 6点 | 空中ブランコ- 奥田英朗 | 2017/02/23 19:12 |
---|---|---|---|
やむを得ないことだが、本作はシリーズ2作目であるが故に、1作目のような新鮮なインパクトは備えていない。
また、各短編の主人公の人物像を造形するにあたり、イン・ザ・プールより特殊な職業を選択したことから、前作の際立った美点であった等身大の人物造形と、取りあげられた精神的不調の今日性が大きく後退している。 結論として、水準は大きく超えているが、イン・ザ・プールには遠く及ばない印象 |
No.3 | 8点 | イン・ザ・プール- 奥田英朗 | 2017/01/06 11:53 |
---|---|---|---|
各短編の主人公は、平々凡々とした人物でありながら、わずかに精神的不調を抱えており、直面する事態に、真摯かつ懸命に対処しようとすればするほど、事態の悪化を招いてしまう。
そうした彼らのあり様を、医師である探偵が徹底的に肯定することによって、苦悩から救い出す物語が並んでいる。 本作は、主人公たちの等身大の人物造形と、取りあげられた精神的不調の極めて高い今日性が、強烈なリアリティと読者の共感・感情移入を生んでいる。 また、彼らの苦悩を決して批判・嘲笑することなく、どこまでも肯定する探偵の行動原理が、本作を無味乾燥な現代社会への風刺に陥らせず、好感の持てる喜劇的な人生の賛歌に仕立てあげている。 やや手放しで褒め過ぎた気もするが、嗜好を超えて誰にでも勧められるという点では、近来稀に見る作品。 ミステリ以外の作品としては最高級の評価を献上したい |
No.2 | 7点 | 邪魔- 奥田英朗 | 2016/09/08 14:33 |
---|---|---|---|
1つの事件を巡って、3人の登場人物がすれ違いつつ、最後に1点に収束するプロットは「最悪」と同様。
本作では主婦の人物造形が群を抜いてよい反面、少年が弱く、「最悪」ほどの効果を挙げているとは言い難い。 ただ、エンタテインメントとしてはやはり一定の水準に達しており、一読の価値のある佳作 |
No.1 | 7点 | 最悪- 奥田英朗 | 2016/04/27 10:47 |
---|---|---|---|
年齢も仕事もバラバラ、どこにでもいそうな平々凡々とした3人が、ちょっとしたトラブルに刹那的・場当たり的に対応するうちに、大きなトラブルに巻き込まれ、最終盤にその3人が1点に収斂するドタバタ劇。
スピード感とサスペンスを維持しつつ、現実味のあるストーリーを展開しながら、人物像を深く掘り下げていく手際、高いリーダビリティは見事。 盛りあがりに欠ける結末だけが残念ではあるが、犯罪小説の佳作と評価 |