皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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いいちこさん |
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平均点: 5.67点 | 書評数: 557件 |
No.257 | 8点 | 皇帝のかぎ煙草入れ- ジョン・ディクスン・カー | 2016/05/17 18:33 |
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ご都合主義的な展開が散見されるのは事実。
しかし、後世の叙述トリックにも通ずる前半部分の綱渡り的な叙述・伏線、些細な手掛かりから犯人特定に至る真相解明プロセス、明かされた真相の衝撃度が際立っている |
No.256 | 5点 | 猫丸先輩の空論 超絶仮想事件簿- 倉知淳 | 2016/05/10 10:20 |
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前作の「猫丸先輩の推測」は、真相の飛躍がリアリティと衝撃の絶妙なバランスを保持している点を高く評価した。
一方、本作は真相が予測可能な範囲にとどまり、その衝撃を大幅に減じている点で、凡庸なデキと言わざるを得ない |
No.255 | 4点 | 手紙- 東野圭吾 | 2016/05/10 10:19 |
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加害者の家族に光を当てるテーマの設定は実によいと思う。
一方、人物造形や描かれている現実、とりわけ加害者兄弟の能天気な姿勢や生きざまが、エンターテインメントであることを前提にしても、あまりにもマンガ的で陳腐。 彼らの境遇がもたらす、残酷な現実やそれに立ち向かう絶望的な悲壮感が全く伝わってこない。 作者の主張に対しては、その当否の評論は避けたいが、差別を無原則に肯定し、しかもそれに対する救いを全く用意していないのであれば、作者の主張とは結局何なのかという思いは残る。 以上、重すぎるテーマを消化し切らないまま、振り回されている作品という印象 |
No.254 | 7点 | Xの悲劇- エラリイ・クイーン | 2016/05/06 18:48 |
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些細な物的証拠から真相解明に至る、緻密で堅実なロジックが光っており、とりわけ第三の犯行における真相解明のプロセスは評価に値する。
一方、第一の犯行において、個性的すぎる凶器の特性から容易に犯人が特定し得るにもかかわらず、その点に警察が気付かなかったとするのは大いに疑問で、本作の数少ない瑕疵と言えよう。 ただ、新本格を渉猟してきた立場からすれば、プロット全体や個々の仕掛けにやや地味な印象を受けるのは否めない |
No.253 | 7点 | 暗いところで待ち合わせ- 乙一 | 2016/05/02 10:56 |
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ミステリとして至って弱いのは事実。
ただ、トリッキーな舞台を活かして、抑制の利いた叙述でありながら、主人公2人の心の交流とサスペンスを描き出した筆致に、確かな筆力を伺わせた。 無駄のない硬質なストーリーテリングと高いリーダビリティも加点材料 |
No.252 | 5点 | ガラスの麒麟- 加納朋子 | 2016/05/02 10:55 |
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各短編は、真相自体がサプライズに乏しく、解明に至るプロセスも直感的で、全体に平凡なデキ。
一方、連作短編集としては、その解明プロセスで非常に巧妙な本格ミステリとしての仕掛けを見せているが、淡々と描かれているため、気づかない読者が多いと思われる点が残念。 犯行プロセスの一貫性の欠如や、被害者の不可解な行動原理は大きな減点材料 |
No.251 | 7点 | 最悪- 奥田英朗 | 2016/04/27 10:47 |
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年齢も仕事もバラバラ、どこにでもいそうな平々凡々とした3人が、ちょっとしたトラブルに刹那的・場当たり的に対応するうちに、大きなトラブルに巻き込まれ、最終盤にその3人が1点に収斂するドタバタ劇。
スピード感とサスペンスを維持しつつ、現実味のあるストーリーを展開しながら、人物像を深く掘り下げていく手際、高いリーダビリティは見事。 盛りあがりに欠ける結末だけが残念ではあるが、犯罪小説の佳作と評価 |
No.250 | 6点 | 塗仏の宴- 京極夏彦 | 2016/04/20 14:34 |
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明かされた真相の衝撃はある程度認めるものの、ミステリとしての核はその1点で、拡げられた風呂敷と本作のボリュームに比して、かなり物足りないというのが正直なところ。
真相解明のプロセスは、京極堂が「知っていた」要素があまりにも強く、解き明かすカタルシスは弱い。 犯行プロセスは、大掛かりすぎ、手間が掛かりすぎ、難易度が高すぎで、めざす効果(犯行動機)との関係で強い違和感。 ストーリー展開は、キャラクターの個性を活かしたキャラ小説の色彩を強め、それがミステリとして評価したときに、前作までにない夾雑物(無駄)と映った。 以上、水準はクリアしているものの、佳作揃いの本シリーズの中では最低の評価とせざるを得ない |
No.249 | 5点 | 名探偵 木更津悠也- 麻耶雄嵩 | 2016/04/04 20:16 |
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作者としては珍しいオーソドックスなフーダニット。
当然一定の水準には達しているものの、他作と比べればパンチ力に欠け、凡庸な印象は拭えない。 ホームズ・ワトソンの関係に新たな地平を切り開く試みが味付けをしているものの、作品としての面白さにダイレクトにつながっているとは感じられなかった |
No.248 | 6点 | 魔術はささやく- 宮部みゆき | 2016/03/31 17:14 |
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サスペンス大賞受賞作であるから、サスペンスにカテゴライズされるのであろうが、盛り沢山の構成の副作用として、作品の主題は拡散気味でどっちつかずの印象。
まずサスペンスとしては緊迫感に乏しく物足りなさが残る。 サブリミナル広告・ピッキング・後催眠といった飛び道具の存在にもかかわらず、ミステリとしては真相が意外性に欠ける。 主人公を攻撃・擁護する友人との人間関係に相当の紙幅を割きながら、青春小説として十分に活かし切れていない。 加えて、犯人が最も殺害すべき必然性の高い人間の殺害を中止し、社会正義のための犯行としながら犯行の露見を恐れて無関係な人物を殺害し、それでいて主人公を全面的に信用して犯行を明かすなど、その行動に合理性・一貫性が感じられない。 筆力・リーダビリティは評価しても、これ以上の評価は難しい |
No.247 | 5点 | 天帝のあまかける墓姫- 古野まほろ | 2016/03/28 18:42 |
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作を重ねるごとに風呂敷が巨大化し、舞台設定が奇抜化しつつあるのはよいのだが、無粋な大量殺人への傾斜により緊迫感や不可能興味は低減している。
ご都合主義の散見や大味なトリックから、本格としての骨格を成す推理の論理性と、犯行のフィージビリティには疑問。 どんでん返しの連発にも、ストーリーの成立性や登場人物の行動の合理性の観点から苦しさを感じるところ。 筆力の高さを評価しても5点の最下層であり、期待を裏切るデキと言わざるを得ない |
No.246 | 6点 | 花の下にて春死なむ- 北森鴻 | 2016/03/14 18:46 |
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叙述が高度に洗練されている一方、登場人物に際立った個性がないことも相まって、ストーリーテリングは淡々とした印象が強く、評価が分かれそうなところ。
ミステリとしては、真相解明時の反転の手際が光る一方、真相を捻り過ぎ、推理のプロセスに大きな飛躍が感じられるなど、短編・安楽椅子探偵の限界を感じさせた |
No.245 | 3点 | 列車消失- 阿井渉介 | 2016/03/10 15:50 |
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物理トリック系のバカミスは嗜好にフィットしているのだが、本作は中途半端なプロット、拙劣な叙述、無理筋極まるトリック等、あらゆる面で強く不満を残す仕上がり。
冒頭に提示される謎の不可解性は申し分ないのだが、一旦フーダニットに展開したところ、作品中盤でお粗末にも声で真犯人が特定されてしまう。 その後、犯行の概要を特定するため、当該真犯人を追及するのではなく、さまざまな周辺の人物に捜査の手が及ぶ。 ところが、叙述が全くこなれておらず、登場人物の書き分けが不徹底であるため、読者を混乱に陥れている。 肝心のハウダニットについては、検視官や鑑識が信じ難いほど無能で、かつ被害者全員が昏睡でもしていなければ、まず露見は避けられないというデタラメなトリックを乱発。 敵前逃亡することなく、1個の作品として完結させている点を最低限評価 |
No.244 | 6点 | 臨場- 横山秀夫 | 2016/03/07 18:55 |
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探偵役の性格付けや尺の短さもあり、真相解明に至るプロセスの論理性で唸らせる作品は少ないが、抒情性の高さに加え、トリックのキレと鮮やかな反転の手際は実に見事で、本格短編として高水準のデキ |
No.243 | 6点 | 二の悲劇- 法月綸太郎 | 2016/03/04 19:47 |
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明かされた真相と仕掛けられたトリックはシンプルで、男女の恋愛にまつわる悲劇を二人称叙述や日記を駆使して捻った異色のプロット。
ロジカルに真相に到達することが難しく、トリックがややアンフェア、真相に安易さを感じさせる面など、本格ミステリとして高い評価はできないが、プロットがキレイに収斂している点は評価。 執筆当時の作者の懊悩をそのまま反映したような叙述(とりわけ名探偵の存在意義を巡る箇所)、登場人物のきめ細かい心理描写は、あまり他作に見られないもので強く好感。 さまざまな意味で異色作であり、毀誉褒貶が分かれそうな作品だが、好意的に評価したい |
No.242 | 6点 | 御手洗潔の挨拶- 島田荘司 | 2016/03/03 14:20 |
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「紫電改研究保存会」が残す抒情感、「ギリシャの犬」における暗号の合理性の高さが見どころ。
「疾走する死者」はメイントリック自体が長編作品で複数回使用したトリックの使い回し、かつ使用方法で明らかに見劣りする点で強く推せない。 「数字錠」では確率に関する欺瞞が目を覆うレベルで、数学の素養が乏しいのかと思わざるを得ない。 いずれの作品も本格としての骨格はやや脆弱で、長編に比してかなり小粒な印象だが、作品の完成度・水準のブレは小さく、確かな力量を垣間見せた |
No.241 | 5点 | なぎなた- 倉知淳 | 2016/03/01 16:41 |
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メタミス的なアプローチを活かした「こめぐら」より本格テイストを増し、嗜好にはフィットしているが、その分だけ小粒感が増し、インパクトでは見劣りするとも言える。
ユーモアあふれる筆致の楽しさとリーダビリティの高さは「こめぐら」と同様。 両作とも最低限の水準にはあるものの、作者の本来の力量から期待する水準には遠く及んでおらず、五十歩百歩の印象 |
No.240 | 5点 | こめぐら- 倉知淳 | 2016/02/25 16:04 |
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メタミス的なアプローチを活かした軽妙なバカミスが並ぶ。
ユーモアとリーダビリティの高さには見どころがあるものの、ミステリとしての骨格は至って小粒 |
No.239 | 5点 | 黒白の囮- 高木彬光 | 2016/02/25 16:03 |
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真犯人を隠蔽するための大胆な仕掛けが光るが、それ以外には傑出した点は見受けられない。
犯行に至る動機や犯行の全体像の解明プロセスが曖昧であり、その点にも弱さを感じる |
No.238 | 5点 | パラレルワールド・ラブストーリー- 東野圭吾 | 2016/02/19 20:44 |
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好き嫌いの範疇に属する話で恐縮だが、作者の描く女性は総じて従順で没個性な古典的女性像が多いように感じられるところ、本作のヒロインはとりわけ人間的魅力に欠けており、主人公2人がこの女性を巡って熾烈な争いを演じる点には、強い違和感を感じる。
また、彼女の不可解なまでの優柔不断と交際相手の交替が事態を混迷に陥れており、言動に一貫性と合理性が感じられない。 タイトルのネーミングはもはや脱力レベル。 冒頭の山手線と京浜東北線が並走するシーンは、プロットとの親和性と相まって、強く印象に残ったが、正直それだけの作品。 相変わらず洗練されたストーリーテリングを評価してかろうじて5点としたが、同じヴァーチャル・リアリティを扱った「クラインの壷」には遠く及ばない印象 |