皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1148件 |
No.1008 | 7点 | 陽だまりに至る病- 天祢涼 | 2023/06/25 19:46 |
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小学5年生・上坂咲陽の住む町で、殺人事件が起きた。コロナ禍でただでさえ外出制限を言いつけられている中、輪をかけてその風潮は堅牢に。そんな中、咲陽の向かいに住む同級生・野原小夜子が家を出ていこうとする。学校では陰で「ノラヨコ」と言われ、皆に敬遠されている彼女がなぜか気にかかり、咲陽は小夜子を家に招く。ところが、小夜子の状況を聞くうちに、小夜子の父・虎生が件の殺人事件の犯人ではないかと咲陽は疑い始める―
殺人事件の真犯人を追うというメインストーリーに絡めて、小学生女子のささややかな友情、学校での人間関係などを描いている構成が巧み。よく考えられた設定だと思う。 事件の真相的には、容疑者・虎生は善人的なのだが、小夜子にとっては害悪でしかない父親だったという真相も妙。ずっと咲陽を頼っていた小夜子の「毒」が開陳される後段は、読んでいるときは衝撃でありつつ、「この作者だから最後は…」と期待を込めて予想しつつ読んだが、まぁその期待通りだった(良い意味で)。 |
No.1007 | 5点 | 首切り島の一夜- 歌野晶午 | 2023/06/18 22:59 |
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永宮東高校の卒業生と元教師が、四十年ぶりに修学旅行を再現した同窓会を企画。行き先は濤海灘に浮かぶ離島、宴席で同窓生たちは旧交を温める。が、高校当時自分たちの高校をモデルにミステリを書いていたと告白した久我陽一郎が、風呂場で死体となって発見される。折悪しく荒天のため、船が運航できず、宿に足止めとなった七人は、一夜それぞれの思いにふける……。彼ら一人ひとりには、それぞれ人に言えない過去があった──。
……のだが、これが事件の真相にはまったく関係がない。参加者(卒業生)たちの卒業後の「それぞれの今」は、それぞれ単体でなかなか面白い物語だったが、長編「ミステリ」の評価としては上がりきらないのは致し方ないかな。 私は読み物としてそれなりに楽しめたけど、タイトルや舞台設定、そして作者が作者だけに「本格ミステリ」としての期待値を上げてしまうと、裏切られたと感じる人もいるだろうと思われる作品。 |
No.1006 | 7点 | 友が消えた夏- 門前典之 | 2023/06/18 22:40 |
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名門大学演劇部の劇団員たちが、夏合宿中、一夜にして首なし白骨死体と化した衝撃的な事件。犯人と目された人物の死体も発見され、事件は一応の決着を見ていたのだが、9年後、その詳細な記録が連続窃盗犯の所持品から見つかった。一級建築士で探偵の蜘蛛手啓司が、その記録から真相を喝破する――。
下界から遮断されてしまった孤島、大学のサークルメンバーが一人一人殺されていく状況、など、まぁこれでもかというぐらいの王道設定を令和の時代に提示してくるのが嬉しい。 「鶴扇閣事件」と「タクシー拉致事件」がともに過去の記録として交互に提示される構成だが、日付から同時進行と思わせておいて…という企みは、ミステリ読みなら早い段階で気づくかも。とはいえ、その仕組みがどこに向かっているかという謎は持続されるので、興趣が落ちることはなかった。 ラストのもう一仕掛け(宮村絡み)は…オチにしたかった意図は分かるが、うーん…なくてもよかったかも。それより、真犯人の行く末を描き切ってくれる方が私は好き。 |
No.1005 | 7点 | ポピーのためにできること- ジャニス・ハレット | 2023/06/18 22:25 |
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タナ―弁護士は、教え子の司法実習生2人にイギリスの田舎町で起きた、看護師の殺害事件に関する資料を送り、真相を推理させる。資料では、劇団を主宰する地元の名士・マーティン・ヘイワードが、難病を患う2歳の孫娘ポピーのために募金活動を行い、多くの人を巻き込んでいくさまがメール、供述調書、新聞記事などで示されている。そしてその募金活動は思わぬ悲劇を引き起こすことに──。資料の山から浮かび上がる驚愕の真相とは!?
経緯が推察されるメールのやりとりが物語の主軸で、第三者視点の地の文がないというのは新鮮であり面白くもあった。要は「会話文」だけがずーっと続いていくようなものだが、それぞれのやりとりの「間」に起きている出来事は、メールの内容で推察して読んでいくしかなく、それがよい含みを持たせていると私は感じた。 募金活動の背後に隠れているヘイワードの真意や、医師ティッシュの過去、犠牲者サムの過去と人間関係、イッシーの本性など、さまざまな伏線が張り巡らされることで、誰を、何を信じ、何を疑うべきか翻弄される一作だが、そのこと自体が楽しかった。 |
No.1004 | 5点 | 能面検事の死闘- 中山七里 | 2023/06/04 20:33 |
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南海電鉄岸和田駅にて、無差別殺人事件が発生。7名を殺害した笹清政市(32)は、自らを失うもののなにもない“無敵の人”と称する。ネット上で笹清をロスジェネ世代の被害者だと擁護する声があがるなか、大阪地検で郵送物が爆発、6名が重軽傷を負った。被疑者“ロスト・ルサンチマン”は笹清の釈放を求める犯行声明を出す。事件を担当する大阪地検の不破俊太郎一級検事は、調査中に次の爆発に巻き込まれー連続爆破事件は止められるのか?“ロスト・ルサンチマン”の真の目的は何なのか?(「BOOK」データベースより)
昨今どこかで耳にしたような事件に端を発する、作者らしい作品。冒頭の無差別殺人は始めから逮捕されているので、それに便乗して爆破事件を仕掛ける“ロスト・ルサンチマン”の正体が中核となるフーダニット。不破の目的不明な被害者への延々とした聞き取りが伏線となって真相につながる仕組みだが、その仕掛けが「森の中の木を隠す」ためにちょっと無駄に長い気が。確定的な事実をもとに真相を追求する一点でブレない不破と、いちいちいちいち義憤に駆られたり世間的な感情論に同調したりする惣領美晴とのやりとりも読み応えはありながらもちょっとくどい。そのやりとりを介して、作者の価値観を披歴されているようにも感じる。 エンタメとしてはいつもながらの水準だとは思う。 |
No.1003 | 6点 | 優等生は探偵に向かない- ホリー・ジャクソン | 2023/06/04 20:16 |
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友人の兄ジェイミーが失踪し、高校生のピップは調査を依頼される。警察は事件性がないとして取り合ってくれず、ピップは仕方なく関係者にインタビューをはじめる。SNSのメッセージや写真などを追っていくことで明らかになっていく、失踪当日のジェイミーの行動。ピップの類い稀な推理で、単純に思えた事件の恐るべき真相が明らかに……。(「BOOK」データベースより)
物語の後半に、急に過去の児童誘拐殺人の話が出てきて急展開に。ジェイミーの失踪に新たな様相が加わってきて謎は面白みを増すが、いささか唐突か。前作で関係に決定的な亀裂が入ってしまったナタリーとの関係修復の下りはよかったし、ジェイミー誘拐(?)の犯人に対する主人公の態度も好感が持てた。 ただ、伏線としてちりばめられた手がかりを追って真相にたどり着くというたぐいの作品ではないかと。物語として面白く読めるが、ミステリとしての評価はこのあたりか。 |
No.1002 | 7点 | 灰色の評決- 犬塚理人 | 2023/05/21 20:08 |
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ごく普通の一般人である二宮智樹はある殺人事件の裁判員として裁判に参加することになる。その裁判では、美容師の男が若い姉妹を殺害した事件が裁かれることになっていた。智樹ら裁判員の多くが美容師の有罪へと意見が傾くなか、八木麻衣子と名乗る若い女性だけは美容師の無実の可能性を訴える。だが評決になって、麻衣子は一転して有罪へと意見を変え、美容師には死刑判決が下る。裁判から数か月後、智樹は麻衣子とつきあうようになり結婚を申しこむが、なぜか麻衣子はそれを拒む。折しも美容師の事件の控訴審が開かれ、麻衣子は再び美容師の冤罪の可能性に言及していた。その矢先、麻衣子は忽然と姿を消す。彼女はなぜ姿をくらましたのかー。(「BOOK」データベースより)
こういう、「主要人物の行方が分からないまま(しかも、位置づけ的には生きていそう)}というパターンって、その真相が気になって読む手が止まらなくなるよね(笑) 裁判員裁判の、民間裁判員の葛藤(ある意味闇)を題材としてうまく掬い上げ、リーダビリティの高い作品にまとめ上げられていると感じる。展開から言って美容師は冤罪で、真犯人が明らかにされる筋であろうことは予想がつくし、そうあってほしいと思って読んでいるからそれなりに満足できる着地点。ミステリの仕掛けとしての精緻さはそれほどではないかもしれないが、物語として楽しめたのでこの評価。 |
No.1001 | 6点 | 花束は毒- 織守きょうや | 2023/05/21 19:58 |
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木瀬芳樹は、中学時代に家庭教師をしてくれていた真壁研一に偶然再会する。兄のように慕っていた真壁が、婚約して近々結婚するという。喜ばしい報告もつかの間、「結婚をやめろ」と脅迫する手紙が、真壁のもとに届いていることを知ってしまう。芳樹は悩んだ末、探偵に調査を依頼することを決める。その探偵・北見理花は、中学時代に「探偵見習い」と称して、同級生たちから依頼を受けて悩みやもめごとを解決していた、芳樹の先輩だった。
先輩・真壁の過去の「レイプ事件」の無実を信じ、奔走する芳樹。本当に真壁は無実なのか、一抹の疑念を読者は抱きながら読み進める。するとラストにそのすべてを覆す真相。仕掛けとしてはなかなかのもの。 とはいえ、このテのミステリがオーソドックスに結末を迎えるはずはなく、そいういう意味では心構えの範疇ではあった。ただ「誰が信頼できる登場人物なのか?」という思いを抱かせ続けさせられる後半の展開は見事で、どんでん返しに次ぐどんでん返しともいえる畳みかけ方はなかなかのものだった。 |
No.1000 | 6点 | 拝啓 交換殺人の候- 天祢涼 | 2023/05/21 19:43 |
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上司・牧村司のパワハラによって職を辞した秋元秀文は、退職から半年が過ぎても社会復帰できずにいることに絶望を感じ、自殺を決意した。ところが首を吊るために登った木の洞に、白い封筒を発見する、手紙には〈どうせ死ぬなら殺してみませんか?〉と、交換殺人をもちかける内容が。その日から、白い封筒の送り主との「文通」が始まる―
そのまま交換殺人の決行に話が進めば、まぁそういう本格ミステリになるのだが、当然そうはいかない。交換殺人の絶対条件である「お互いのことを詳しく知らない」という禁忌をあっさりやぶり、物語は予想外の展開へ。主人公・秀文と、文通(?)相手の詩音のやりとりはなかなか興味深く、ミステリたる仕掛けも施されていて、ある意味ほっこり楽しめた。 けど、そういう方向ならそれで、きっちりラストを描き切ってほしかったなぁ。 |
No.999 | 4点 | 異常【アノマリー】- エルベ・ル=テリエ | 2023/05/14 19:01 |
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うーん…
非常に特異な作品であり、特に前半は読者をひきつける展開なのはわかる。ただ、それを受けての後半、そして物語の落とし方が正直退屈であり、消化不良だった。 前半は、起きた出来事の概要を知るにつけがぜん面白さが増してくる。こちらとしては、それを後半どのような「返し」で着地してくれるのかを期待していた。だが、結果としてこの出来事に遭遇したそれぞれ人々のパターン(いわゆる「マーチ」の方の自分が死んでしまった人、恋人との間が進展していた人、逆に恋人と別れていた人、など)ごとに、「その後」を淡々と描いて終わってしまっていた。 読解力が高い方や見識の深い方は、そこに「深遠さ」をいたく感じて面白いのかもしれないが、単純に「ミステリ」を期待している小生にとっては消化不良の感が強かった。 ここまでお三方の評価平均が非常に高く、低評価をすることに抵抗感もあったが、本サイトの趣旨(様々な見方や嗜好のミステリ読みが集う)を踏まえ、忖度なしで率直な思いで評価した。 |
No.998 | 5点 | 殺戮の狂詩曲- 中山七里 | 2023/05/14 18:50 |
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入居一時金が1千万円以上という高級老人ホームの職員・忍野(おしの)忠泰は、ある晩、入居者が寝静まった頃合いに施設に侵入し、入居している高齢者9人を次々に惨殺した。「令和最初で最悪の凶悪殺人事件」と世を騒がせる大事件。弁護を名乗り出たのはかの悪徳弁護士・御子柴礼司。元<死体配達人>と令和最悪の凶悪犯のタッグに、裁判の行く末を全国民が注視する―
目を覆いたくなるような惨殺シーンから始まる冒頭のつかみはよかったのだが、その後の展開があまりに冗長。2016年に起こった「相模原障害者施設殺傷事件」を材にとっているのは明らかなのだが、ミステリとしての仕掛けは一点、それもちょっと小手先的な仕掛けで、物語の多くは「心証が最悪の容疑者を弁護する、心証が最悪の弁護士」に対する事件関係者の対応が描かれている冗長なもので、短・中編でまとめられるようなネタを、シリーズものの強みで長編に引き延ばしたような印象だった。 そのやりとり自体はまぁ面白く、「もと少年犯罪者が弁護士」という点が本シリーズの核でもあるので悪くはないのだが、逆に言えばシリーズ初読の読者は完全に置き去りにされる作品ではないかと思う。 |
No.997 | 8点 | だからダスティンは死んだ- ピーター・スワンソン | 2023/04/30 21:57 |
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ボストン郊外に越してきたヘンと夫のロイドは、隣の夫婦マシューとマイラの家に招待された。マシューの書斎に入ったとき、ヘンは二年半前に起きた殺人事件で、犯人が被害者宅から持ち去ったとされる置き物を目にする。マシューは殺人犯にちがいない。そう思ったヘンは彼について調べ、跡をつけるが。複数視点で進む物語は読者を幻惑し、衝撃の結末へなだれ込む。超絶サスペンス!(「BOOK」データベースより)
「隣人が殺人犯ではないか?」というサスペンスや、たどり着く真相はこれまでに何度もされてきた手あかのついたネタのはずなのだが、筆者の巧みな物語設定とストーリーテーリングでそう感じさせない(訳者もうまいのだろう)。いろんなミステリを読んできているゆえに、「まさかそのまま単純にいくものではないだろう」という見方が、一周回って面白くさせているような感じもある。 何にせよ、期待を裏切らない出来。今後も読み続けたい、お気に入りの作家。 |
No.996 | 6点 | 森の中に埋めた- ネレ・ノイハウス | 2023/04/30 21:42 |
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キャンプ場でキャンピングトレーラーが炎上し、大爆発が起きた。放火の痕跡があり、男の焼死体が見つかる。刑事オリヴァーとピアは捜査を始め、車の持ち主がオリヴァーの知人の母親だと判明するが、余命わずかな彼女が何者かに窒息死させられてしまう。さらに新たな殺人が続くが、関係者はオリヴァーの知り合いばかりで…。(「BOOK」データベースより)
オリヴァーの故郷であるルッペルツハインで起きる謎の連続殺人事件は、オリヴァー自身の少年時代の出来事、そして友達たちに深く関係していた。40年前に行方不明となったままだったオリヴァーの親友が、白骨死体となって発見されたことから事件は深部に入っていく。4ページにも渡る多くの登場人物、さらには覚えにくいドイツの名前ということもあって何度もその登場人物表を確かめながら読む羽目にはなったが(笑)、700ページにも及ぶ厚みでありながら持続する動的で飽きさせない展開は健在。 複雑な人間関係に混乱してきているので、良くも悪くも、真相にたどり着く過程が精緻なものだったかどうかはもう気にならなくなっている。よくよく考えれば「そんなこと、もっと早く気づけたのでは?」ということでもあるような気はするが。 まぁ高いリーダビリティで楽しさを最後まで持続できたので〇。 |
No.995 | 7点 | 此の世の果ての殺人- 荒木あかね | 2023/03/31 21:38 |
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日本に小惑星が衝突することが発表され、その衝突を2か月後に控えた世界。社会は、何とか生き延びようと必死になる人、滅亡を受け入れて残りを過ごす人、絶望して自死する人らでパニックになっていた。そんななか小春は、淡々と自動車の教習を受け続けていたが、ある日教習者のトランクに入った女性の死体を発見。自動車学校の教官で元刑事のイサガワとともに、地球最後の謎解きを始める2人だった――。
上記のような特殊世界設定でなかなか惹かれる冒頭だったが、結果的にこの設定が生きたのは「大量殺人の煙幕」という点だけに感じる。ちゃんとしたフーダニットのミステリで面白かったが、特殊な世界を舞台としたことがそのミステリに寄与している感じはあまりなかった。 むしろ主人公と教官のイサガワ、それぞれのキャラ立てが物語の面白さを支えている。なかなかに意外な犯人だったが、謎解き以外の部分を飾り立てて面白く仕上げている作品という印象ではあった。 |
No.994 | 7点 | 希望の糸- 東野圭吾 | 2023/03/31 21:23 |
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2人の我が子を災害で亡くしたのち、新たに授かった娘を育てるシングルファーザー・汐見行伸。夫と離婚後、一人で喫茶店を営んでいた女性・花塚弥生の殺人事件。離れた場所で起きている、全く関係のなさそうな事案が、加賀恭一郎らの捜査によって結び付けられていく―
著者の作品群では、特に加賀恭一郎シリーズが好きで好んで読んでいるのだが、本作では加賀の従弟であり部下である松宮脩平が前面に出ている作品。その松宮自身の問題も複線的な物語となっており、厚みのある作品ではあったが「加賀の鋭い推理による事件解明譚」を期待して手を付けた身としてはちょっと肩透かしだった。 ただ、喫茶店経営の女性殺害事件と、その裏にある父子家庭の家庭事情が結びついていく過程は予想できる類のものではなく、相変わらずの著者の多彩なアイデアには感嘆した。 |
No.993 | 6点 | 悪母- 春口裕子 | 2023/03/31 21:07 |
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岸谷奈江と一人娘の真央は、入園を予定していた有名幼稚園へ見学に向かう。ところが、園長の元には一通の匿名メールが届いていた。奈江が属するママ友グループのいじめで家庭が崩壊したという告発だった。その後も、子どもたちの健やかな成長を呪うかのように、悪意に満ちた出来事が続く。追い詰められた奈江に待ち受けるのは救済か、破滅か。(「BOOK」データベースより)
いわゆる「ママ友」のしがらみの中で、息苦しさや懊悩を抱えて生きる母親を描いた、昨今ちょくちょく見られるジャンル(?)。 過去に、ママ友内で「いじめ」をしたとされている奈江を主人公とした連作短編の形で、一編一編を単作として読んでもなかなか面白い。第二話「毒の葉」、第四話「難転」あたりがミステリとしてもなかなかよかった。 ラストは読者の見方が反転させられる仕掛けだが、こうした類に読み慣れている層もいるかと思われる。私もその一人だった。 |
No.992 | 7点 | 教誨- 柚月裕子 | 2023/03/19 17:12 |
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吉沢香純と母の静江は、女児2人を殺害した罪で死刑となった親戚、三原響子から身柄引受人に指名された。刑は執行され、遺骨と遺品を受け取ることになった香純たちだったが、その納骨先がない。何とか三原響子の実家に引き取ってもらおうとお願いするがうまくいかず、そんな中香純は、響子が刑の執行前に遺した最後の言葉を知る。「約束は守ったよ、褒めて」―約束とは何なのか、響子の罪の裏には何があったのか。幼いころの響子を知る香純は、その真相を解明すべく動き出す―
事件の背景にあった罪人の事情やいきさつを追求する、ホワイダニット的な物語。三原響子が子供時代に受けていたいじめや、田舎に根強く残る家柄差別など、さまざまな要素が絡んだ一人の女性の人生が浮き彫りになる。「約束」の中身を知ったとき、守りたかったもののあまりの小ささや、縛られた価値観に、身につまされる思いになる。 柚月裕子らしい題材と描き方で、入り浸って読んでしまう一作。 |
No.991 | 6点 | 邪教の子- 澤村伊智 | 2023/03/19 16:55 |
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ありがちなニュータウンに、そこにカルト教団「コスモフィールド」の信者の家族が引っ越してきた。その家の娘の茜は、信者である母親に虐待を受けているらしい。主人公の慧斗は、その現状を見かねて茜の救出に乗り出そうとする。
ある意味昨今よく題材とされる「新興宗教」をめぐるお話なのだが、物語を読み進めていくうちに当初の予想とは違う展開に。仕組まれた物語の構造に読者の視点はひっくり返され、ミステリに読み慣れていなければなかなか意表を突かれると思われる。 真の構造が明らかになってからの後半も、黒幕の正体に関しての謎が持続され、興趣が尽きることなくラストまで読み進められる。やや強引な仕掛けと感じるところもあるが、まずます楽しめた。 |
No.990 | 6点 | 時限感染- 岩木一麻 | 2023/03/19 16:45 |
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ヘルペスウイルスの研究をしていた大学教授の首なし死体が発見された。現場には引きずり出された内臓のほかに、寒天状の謎の物質と、バイオテロを予告する犯行声明が残されていた。猟奇殺人にいきり立つ捜査陣であったが、彼らを嘲笑うように犯人からの声明文はテレビ局にも届けられる。事件に挑むのは、警視庁捜査一課のキレ者変人刑事・鎌木。首都圏全域が生物兵器の脅威に晒される中、早期解決を図るべく、鎌木は下谷署の女性刑事・桐生とともに犯人の手がかりを追いかける。しかしテロは水面下で静かに進行していて――。標的は三千万人! 果たして、史上最悪のバイオテロを止められるか? 読者を眩惑する、怒涛のどんでん返しに二度読み必至。その完全犯罪は、誰にも止められない――。
ウイルスを武器としたバイオテロ。潜伏期間が長いため、犯人が仕掛けてから事が起きるのに年単位のラグがあることが物語のミソ。加えて犯人の真のねらい、つまり「動機」の真相がラストに開陳されるところもなかなか考えて仕組まれていた。疾走感のある展開で、リーダビリティは高い。まずます楽しんで読めた。 |
No.989 | 5点 | 濱地健三郎の呪える事件簿- 有栖川有栖 | 2023/02/23 20:39 |
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霊視ができる心霊探偵・濱地健三郎シリーズ第三弾。
著者の魅力は、探偵がフーダニットの事件を解決するというオーソドックスなスタイルへではあるので、これは変化球のシリーズ。やはり一番好きなのは著者の本格作品だが、これはこれで素直に楽しめる。 「戸口で招くもの」は、光景を想像するとゾッとするものがあり、本作品集の中では一番良かったかな。「囚われて」なんかは完全なホラー。著者のファンは、上記のようなミステリを期待している人が多いと思うので、「こういうのもそれはそれで面白い」と思うか、「有栖川有栖に求めているのはこういうのじゃない」と思うか、きっと評価は分かれるだろう。 私は前者なので、シリーズが続くのであれば読みたい。 |