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HORNETさん
平均点: 6.32点 書評数: 1121件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.361 6点 浜中刑事の妄想と檄運- 小島正樹 2016/02/07 13:38
群馬県警の浜中康平刑事は、難事件や大きな事件の解決に何度も寄与し、数々の輝かしい実績をもって若くして捜査一課配属となった。・・・ただ、本人は全くそのような上昇志向はなく、鄙びた片田舎での駐在所勤務を切望している。普通の刑事なら「やった!」と小躍りするような手柄も、彼にとっては「また夢(駐在所勤務)が遠ざかる・・・」という悲劇でしかない。人が良く、望んでもいないのに手柄が「転がりこんでしまう」という一風変わった刑事を主役としたシリーズ中編2本立て。
 どちらも、犯罪の場面から物語が始まる倒叙法で、その真相に浜中刑事らが迫っていく展開のお話だが、ただ犯人VS刑事のせめぎ合いが描かれいてるだけでなく、ちゃんと仕掛けも施してある。ただ、1作目も2作目も、伏線の張り方がややわかりやすく、何となくわかってしまう感じはしたが、それなりに真相には納得させられ、面白いと素直に感じた。
 氏の作品は初読。基本的に本格王道タイプの方らしいので、そっちのほうをまた読んでみたい。

No.360 7点 悲しみのイレーヌ- ピエール・ルメートル 2016/01/23 15:59
 多くの人が恐らくそうであるように、私も「アレックス」「死のドレスを…」を読後に、遡る形で本作を読んだ。これまでの2作が話全体に仕掛けを施すパターンだったので、それが作者の特徴だと思っていたが、デビュー作(?)の本作はさすがに一応フーダニットだった。とはいえそこはルメートル氏、猟奇的殺人、犯人とのやりとり、名作ミステリを絡めたミッシング・リングなど、そこに一色も二色も味が加えられており、展開部分が読み物として非常に楽しめる。だから、フーダニット作品であったにもかかわらず、読んでしばらくしたら、物語の概要は覚えているが、犯人は誰だったか忘れてしまっていた(笑)。ただちゃんと「犯人は誰か」というメインの謎も十分驚きに値する結果である。
 まだ出版作品が少ないということもあり、これで一応、出版作品は網羅していることになったので、ルメートル作品は続けて読んでみようかと思う。展開部分を読み進めるのが楽しい作家だと思う。

No.359 6点 下山事件 暗殺者たちの夏- 柴田哲孝 2016/01/23 15:31
 昭和二十四年、鉄道総局は運輸省から独立し、「国鉄」として生まれ変わることとなった。その初代総裁に抜擢されたのが下山定則である。だが、この初代総裁の命題は、前代未聞の「職員10万人規模の人員整理(つまりクビ切り)」であった。当然、労組の激しい反発、社会不安の中、下山は団体交渉の矢面に立たされる日々。混乱の渦中、しかし7月4日についに、3万7000人の整理対象者を示した「第一次整理者名簿」を発表した。
 それから一夜明けた7月5日。いつものように自宅を出た下山総裁は、午前9時半ごろ、「5分くらいで戻る」と運転手に言い残して三越本店へ入ったきり、行方が分からなくなった。「国鉄下山総裁失踪」のニュースが流れる中、翌7月6日未明、足立区五反野、国鉄常盤線の下り線路上で、バラバラの轢死体となった下山総裁が発見された。
 これが戦後最大の謎とまでいわれる「下山事件」。史実である。

 警察による捜査はされたものの、事件についての明確な結論は公的に示されぬままに終わり、事実上の「迷宮入り」事件とされているが、時を経て多くの関係者の証言が明らかにされ、現在では当時の政治的実権を握っていた者、あるいは暗躍していた者たちによる「謀殺」であったというのが最も有力な説である。

 本書は、事件関係者と目される人物の孫である著者が、自身の取材活動により究明してきた真相を小説仕立てで書き上げたもので、実質、創作物語の娯楽ではなく事件の真相解明を主眼にしている。下山総裁の総裁就任から、迷宮入りとなるまでの顛末を時系列に沿って描き出している内容だ。
 柴田氏が調査によって「明らかになった事実」をつなぎ合わせていく中で、その「隙間」を想像による創作で埋めていった、という体である。だが、各場面でのかなり具体的な描写は、これが「事実」であったのだとすると、背筋が寒くなる思いである。史実に沿って描かれているので、政府要人や闇組織のメンバー、事件の目撃者など非常に多数の人物が登場するのが厄介だが、主要な人物さえ理解できていれば問題はない。むしろそれより、当時のGHQと日本政府、GHQ内部の各機関の状況、社会情勢等についてある程度の予備知識がないと、難解に感じるかもしれない。
 下山事件の推理では、清張の「日本の黒い霧」が有名だが、そういった他の著作を読んだり、ネットでのまとめを見たりしてから本書を読んだ方がよいかもしれない。

 それにしても、このころの日本の事件には謀略、謀殺といった説があるものが多い。事実だとすると、法にまで関わる高級公人が、裏で人を殺していたということであり、空恐ろしい。

No.358 7点 七色の毒- 中山七里 2016/01/11 16:25
色を含んだ題名を冠した、「切り裂きジャック」の犬養刑事を探偵役にした連作短編集。短編でページ数が限られているため、真相に結び付く伏線もどうしてもわかりやすい示し方になってしまい、各編とも序盤から中盤にはもう大体の真相が見えてくるが、持ち味が謎解きだけではない話なので大丈夫。著者の筆力、無駄のない展開で十分に満足できる。出版に際して書き下ろされた最後の「紫の献花」は、短編集の締め方が堂に入っている。
 何よりも一番印象に残ったのは、E-BANKERさん、メルカトルさんも書かれているように「白い原稿」。主人公が「篠島タク」とか、出版社が被災地に文庫本を寄贈したとか、もうどう考えてもP社の文学賞事案への強烈な皮肉(批判)。ちなみにE-BANKERさん、私も「K〇〇〇OU」は読んでませんが、Amazonで¥1で1,000冊近く中古本として出品されていたところからも、推して知るべしです(笑)
 この「白い原稿」のことがあって「かなり楽しめた」かな。ただミステリ短編としてももちろん、十分平均以上のレヴェル。

No.357 7点 亡霊館の殺人- 二階堂黎人 2016/01/10 22:31
 カー・マニアの著者が、カー作品のパステーシュ2編と、翻訳版の解説やカー特集に寄せた論考を載せた作品集。
 ミステリ作家には割とよくあることだが(というかミステリしかほとんど読まないので他ジャンルでもそうかもしれないが)プロである作家が、自身が好きな他作家のことになると いちファンになってしまい、その他作家のよさを共有したくて、「作家」という立場を大いに活用して推している。
 もちろんミステリファンとしてその気持ちは大いにわかるし、やはり素人にはかなわない見識を備えているので、その「カー推し」は読んでいて非常に興味深く面白い。この7点はほとんどそれである。
 実際私自身はカー作品は数点しか読んでいない。本書の「パンチとジュディについて」(ハヤカワ「パンチとジュディ」の解説文)で、クリスティやクイーンが世間に広く認知され多く読まれるのに対して、カーはマニアしかあまり手を伸ばさないことについて、著者の考察が書かれていたが、かなり的を射ていて自分で笑ってしまった。
 しかしこの一冊を読んで「今年はカーを読んでみようかな」と思えた。そう思うと著者の目論見は成功している。
 一編ずつ短いし、1日で優に読める。半分「ディクスン・カー ガイド」だと思って読んでも、損した気分にはならない。

No.356 8点 王とサーカス- 米澤穂信 2016/01/10 22:09
まず、この「さよなら妖精」シリーズを読んでいなくても大丈夫。前作までを読んでいないとわからないことはない。そういう点で米澤氏はいつもフェア(?)な感じがする。
 実は氏の講演を聞く機会に恵まれた。その講演の中で、「小説(ミステリ)を書くには三つの要素が揃えばよい」と話されていて、それは①物語②謎③舞台だとおっしゃっていた。そして氏のこだわりというか、信念として最も伝わってきたのは、「①物語と②謎は不可分のものでなくてはならない」と言われていたことだ。つまり、「こういう『謎』を解く話のアイデアができた」というとき、それをどんな物語の中でも使えるのではなく、その「謎」が必然的に結びつく物語でなければばならない、ということ。例えば本作品のメインとなる謎やトリックも、「この、『ネパールという舞台、取材に行った太刀洗…』といった設定の話と不可分に結び付いたもの」にならないとダメ、ということである。
 前置きが長くなったが、それが見事に具現していた。米澤氏は、上記のような考えから「謎の解明だけで終わるミステリはダメ。ミステリはクイズではない。物語に結び付いて終わらないとダメ」ということもお話しされていたが、それがよくわかる。本作品も、一応フーダニットではあるが、骨子がそれだけの痩せたものではない。ジャーナリズムの意味について、受け止める我々について、私たちが気付かなかったそこに内在する問題について、ミステリとしての謎に絡んで描かれている。
 米澤氏の深く考え抜かれたプロット、哲学的ともいえる深い物事への深い洞察に、こちらも腕を組んで考えてしまう。

No.355 7点 鍵の掛かった男- 有栖川有栖 2015/12/31 18:59
 大阪・中之島にあるホテルのスイートに5年にわたり長期滞在していた男が首つり自殺の体で発見された。警察はもちろん自殺で処理するが、同じホテルをよく利用し、死んだ男とも懇意にしていた大御所作家が、「自殺のはずがない。真相を調べてほしい」とアリス&火村に依頼する。
 いつもワトソン役のアリスが、今回は探偵役としてかなり活躍していた。物語は「犯人は誰か?」以前に「自殺か他殺か?」の検討から始まり、フーダニットの捜査が主ではなく死んだ男・梨田がなぜ銀星ホテルに長期滞在していたのか?どういう過去があったのか?などの梨田の人生の謎を解くことに置かれる。
 相変わらず読み易い文調と、アリスが探偵として活躍している面白さがあり、特に氏のファンである私には楽しかった。ただ、梨田氏の真相はかなり予想通り・予想の範疇だった。犯人は確かに予想外だったが、物語の本筋は「梨田氏は何者か?」であるので、結果として主たる謎は予想内で、副次的な謎について予想外だった、というようになる。
 やはりガッツリ「連続殺人、犯人探し」というフーダニットを有栖川作品でよみたいなぁ。

No.354 6点 その可能性はすでに考えた- 井上真偽 2015/12/31 18:40
 「その他の可能性をすべて排除する」という逆説的な方法で「奇跡」を証明しようとする探偵の前に、考え得る現実的な(正確にはあまり現実的ではないので…「どんなに不自然でもロジック上可能な)解明を次々と突き付ける挑戦者(?)という体のお話し。探偵への各刺客をかわした後に、その反撃がもとになってつきつけられる課題、という全体を通す仕組みはうまいなぁと思った。
 作品の雰囲気として、円居挽の「ルヴォワールシリーズ」に近いものを感じたのは私だけ?絶世の美男美女が探偵や刺客を務める枠組みは、ラノベテイストな感じもなくはないが、仕組まれたロジックが決して「ライト」などとはいえないレヴェルにある。登場人物の格式の高さを描こうとしたためか、修辞がうるさすぎるきらいはあるが、深く考えられたプロットに舌を巻く面白さがあるのは間違いない。

No.353 5点 仮面病棟- 知念実希人 2015/12/17 21:32
 古本で購入したので知らなかったが、メルカトルさん曰く帯に「怒涛のどんでん返し!一気読み注意!!」とあるそうだ。ただ、最近の「どんでん返し」を謳う作品全般に多いのだが、「この後、まだどんでん返しがあるよ!」ということが内容的にも雰囲気的にも「わかってしまう」のがどうも…。本作品もその一つ。だから帯で謳うような衝撃はない。
 さらに、そこで明らかになる真犯人も、ミステリを読み慣れている本サイトの読者なら半分以上予想通りだと思う。だから読後の印象は「そうだったのか!」よりも「やっぱりそうだったか」である。
 ピエロのマスクをかぶった男が登場する、といったC.Cらしい序盤は非常に良かったし、その後もスピード感のある展開だったことは間違いないのだが、予想を遙かに超える仕掛けだったとは言い難い、といったところ。
 よく考えられたプロットではあった。著者の今後に期待したい。

No.352 6点 書斎の死体- アガサ・クリスティー 2015/12/17 21:19
何をするにしても、「やってないこと」で「やりだすと かかりそうなもの」は二の足を踏み続けるもので…。いや何が言いたいかというと、クリスティ好きなんだけど、ずっとポアロに偏っててミス・マープルものは初めて読んだ。
 基本的に事実が順に示されて、途中の推理過程はほとんど抜きで探偵役の推理がズバッと入ってくる感じはやはり同じような感じ。ただ、それでもポアロは割と行ったり来たりするけど、マープルは事実が分かったら直線距離で真実が見えてくる感じで、こっちのほうが天才肌な感じがした。
 これはクリスティ作品に往々にして感じることだけど、仕掛けの一番の胆は「動機」。もう少し大きく言えば「事件の枠組み」ということで、それが後段に根本から大きく揺るがされるから、意外性が高まるのだと思う。そして「いかにもコイツが怪しい」という特定の人物を前半で作らないから、あざとさがなくてよい。
 とりあえず、クリスティ作品でマープルものにも手を広げた点で、個人的には意義があった(笑)

No.351 5点 テミスの剣- 中山七里 2015/12/12 21:06
 「ミステリ」という観点から見ればそう評価は上がらないかも。基本的に「冤罪」を題材にした社会小説の色が濃いかな。それが一本太い幹としてあって、枝葉にミステリが数点添付されている、といった印象。
 しかも、その「枝」は根元から分かれている感じじゃなく、幹のかなり上の方で枝分かれして一本一本も短い。つまり、話のかなり後段になってこれまでなかった事実がでてきて、急展開する。それでも一番の黒幕はかなり前からなんとなく予想がついていて、急展開の部分が「答え合わせ」のような感じになってしまった。
 冤罪をテーマにおいた話自体は面白く、リーダビリティは高かったので非常に読み易かったし、先に述べた後半の急展開もなんだかんだいって「面白くなっってきたぞ」という印象はあったが、話全体の仕掛けに関してはやはり弱く、いわば「冤罪テーマの社会小説をなんとかミステリ要素も盛り込んで仕上げた」作品という感じ。
 警察小説の疾走感が好きな人には好まれそう。ここまで書いておいてなんだが、基本は面白いと思う。

No.350 6点 ゴースト・スナイパー- ジェフリー・ディーヴァー 2015/12/07 21:02
 楽しく読めたことは間違いないのだが、充足感という域にまでは至らず、それがなぜなのか模糊としていたが、ここまでのお二方の書評にそれを教えていただいた。
 1日ごとを追うお決まりの章立てで、スピード感、臨場感は変わらずあってよいのだが、そうか…なるほど…確かに「敵が小物」ね。それは当然組織の大きさとかそういうことじゃなくて、手ごわさとかそういうことね。
 あと、微細証拠物件を収集して緻密に論理的に詰めていくのがライムの手法だけど…ラストの展開などはちょっと神がかりに飛躍しすぎ。大味なハリウッド映画みたいな詰め方だったなぁ。
 個人的にうれしかったのは岐阜県関市のナイフ(要は包丁)が出てきたこと。まぁいい使われ方ではないけど。

No.349 7点 三幕の殺人- アガサ・クリスティー 2015/11/25 22:03
<ネタバレ要素有>
読んでから知ったのだが、この作品では創元版とハヤカワ版でなんと犯人の動機が全く違うそうな。私が読んだのはハヤカワ版で、ポアロが最後まで悩んでいたのはその動機の部分(悩んでいたのは第一の殺人だったようなので…確か。そこは両者同じらしいが)なので、結構評価に影響するのでは、と勝手に憶測した。提案だが、今後本作品の書評は創元版か、ハヤカワ版か明記してはどうか?
 真相は予想外で、読んだ甲斐があると思える面白さだった。読者の情をさんざん引き寄せておいて、あっさり(?)切り捨てるどんでん返しに感じる人もいるかもしれない。だからこその「やられた」感はある。さすがで、上手いと素直に思う。

 サタースウェイト氏は本作品の中心的人物だが、非常に良い意味で余分な温度がなくてよい。冷たい人間という意味では決してなく、客観的に事件を俯瞰する役割として非常に機能している。多くの読者が共感的感情を抱いて読む感じがする。ある意味読者視点の代替機能を担っていると思う。
 発想・着想としては「ABC」に類似したものを感じないこともないが、全て読後の概観である。高いリーダビリティに牽引され、一気読みしてしまったことは間違いない。

No.348 3点 !!- 二宮敦人 2015/11/08 21:12
 ラノベテイストのホラーだが、特に「アナタライフ」は自己満足哲学を延々と読まされて苦痛だったうえに、たいしたオチでもなく、全体的にクオリティの低さを感じた。大して深みのない話なので、前作「!」ぐらいの1話のボリュームで十分。

No.347 7点 越境捜査- 笹本稜平 2015/11/08 21:05
 14年前迷宮入りとなった、12億円を騙し取った男の殺人事件。捜査一課の鷺沼が捜査を進めるうちに、背後には暗躍する警察官僚の薄汚い実態が見えてきた。その真相を暴くことは巨大な警察組織に刃を向けることになる。青臭い正義感でも規範意識でもなく、かけがえのない尊敬する先輩刑事のために、あえて戦いを挑む鷺沼。組織から外れた不良刑事、ヤクザまでも仲間に取り込み、命がけの捜査が始まる。
 警察小説らしいスピード感のある展開や、武骨で小気味よい登場人物同士のやりとりに乗せられ、一気に読めてしまう。決して清廉潔白ではない主人公鷺沼をはじめとして、登場人物のキャラが立っていて物語に味を出している。尊敬する先輩刑事・韮沢の真意を、信頼と疑念がないまぜになりながら推し量り、その解明のために奔走する後半の展開は痛快。著者の作品は初めて読んだが、まずはこのシリーズは手を付けてみようと思える作品だった。
(前出の江守森江さんの書評が、言い得て妙で笑えます)

No.346 6点 嗤う淑女- 中山七里 2015/11/08 18:11
 最近一番気に入っている作家、中山七里。
 類稀なる美貌と、卓越した人心掌握術で人の人生を狂わす希代の悪女、蒲生美智留を描いた連作短編集。
 蒲生美智留の知能的な悪女ぶりを効果的に描くことが主であるのはわかるが、ちょっとご都合主義が過ぎるきらいはある。昨今巷に蔓延っている各種詐欺もこんな感じなのかもしれないが、それにしてもこうも思い通りに人の心を操れるものか…疑問。結構衝動的な犯行なのに、こんなにバレないものか…?というところもある。
 最後の章は面白かった。一番作者らしさが表れていた。

No.345 6点 ペトロ- 今野敏 2015/11/08 17:28
 妻と二番弟子が相次いで殺され、現場にはそれぞれ「ペトログリフ」が刻まれていた。ペトログリフとは古代の神代文字。犯人によって残されたと思われるこの記号の意味は?警視庁捜査一課の碓氷弘一は、その道の専門家であり論理的思考の持ち主、アルトマン教授に協力を仰いで捜査を進める。

 リーダビリティの点では相変わらずの安定感。ただ今回は(もとが新聞連載のため?)やや冗長で無駄な展開があった感じもした。

 現場に残されたペトログリフという、意味深な始まりでつかみはOK。そこに考古学の学派の争いが絡んできて、「フムフム」と思いながらなかなか興味深く読み進められる。捜査一課の刑事と考古学教授という異色のコンビも面白みがあり、やや冗長な展開もあったがまぁさくさくと読めた。

 真相については、動機がミソかなと思う。「そういうことか」と肯定的に受け止める読者もいれば「なんだそりゃ」と感じる読者もいるだろう。肝心のペトログリフの意味についても同様。私は…うーん…微妙かな。

No.344 9点 ヒポクラテスの誓い- 中山七里 2015/10/12 08:32
 法医学教室を舞台とした連作短編。
単位不足のため、法医学教室に入ることになった医大研修医の真琴。真琴を出迎えたのは法医学の権威・光崎藤次郎教授と「死体好き」な外国人准教授キャシー。傲岸不遜な光崎だが、解剖の腕と死因を突き止めることにかけては超一流。光崎は、懇意の古手川刑事に「管轄内で既往症のある遺体が出たら教えろ」という。警察が単純な事故で処理しようとする、何の事件性もない遺体を強引に司法解剖に回す光崎に、周りからの反発は強い。だが、解剖のたびに老法医学者は隠れた真実を導き出す。
 天才法医学者によって、事件の真相が明らかになっていくという設定は、横山秀夫の「臨場」を思い出させる(こちらは検視官だったが)。一匹狼的な雰囲気で他を寄せ付けないが、有無を言わせぬ実力で他を黙らせてしまう光崎のキャラクターが痛快。警察や検視官の誤った診断、そこにある不遜や怠慢を一刀両断する、勧善懲悪のような要素が読んでいて小気味よい。被害者、加害者が絡むヒューマニズム的要素も各話に感じられ、さすが中山七里、読ませる筆力である。

No.343 8点 葬儀を終えて- アガサ・クリスティー 2015/10/12 08:22
アバネシー家の当主リチャードの、病気療養中であったとはいえ、あっけない突然の死。その葬儀の席で、末の妹のコーラが無邪気に口にした一言―「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」・・・すると次はそのコーラが惨殺される。不信を抱いたリチャードの親友でもある弁護士は、ポアロに真相の究明を依頼する—

 物語が進むにつれて輪郭が明らかになっていくリチャードの親族の人物像が、さらに謎を深くしていくとともに、一方で次第に真相に近づいていく予感でゾクゾクする。ヘレンが葬儀の場で感じた「違和感」に気付いた場面は読んでいて背筋が寒くなった。

 見事にしてやられた。やはりクリスティは天才だ。

No.342 4点 道徳の時間- 呉勝浩 2015/09/27 17:35
ビデオジャーナリストの伏見が住む鳴川市で、地元の名士である青柳家の陶芸家、青柳南房が不審な死を遂げた。自殺として淡々と処理されていくが、以前からよくない噂が絶えなかった南房の死にはさまざまな憶測が飛ぶ。そんな中、現場に異様なメッセージが残されていたことから事件の様相は急変する—「道徳の時間です。殺したのは誰?」
 一方、鳴川市で昔起きた殺人事件。既に逮捕され、犯行も認めて服役している向晴人。そのドキュメンタリー映画を作成するという越智冬菜という女性に、映画のカメラマンとして依頼を受ける伏見。有能なことは間違いないが、何か含むところがありそうな越智に疑念を抱きながらも、依頼を受ける伏見だったが―。

 意味ありげにさまざまな謎が提示される前半、その謎の立て方は確かに魅力的で、引き込まれるものがあった。だが、だからこそ高まった期待を受け止めるだけの結末を読者は求める。その点で完全に期待を裏切られた。「……なんだそりゃ」が正直な感想。
 巻末の、池井戸潤の選評が全て。まったくもってその通りだと非常にうなずける。

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ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.32点   採点数: 1121件
採点の多い作家(TOP10)
今野敏(50)
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東野圭吾(34)
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