皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1953件 |
No.313 | 5点 | 魔剣天翔- 森博嗣 | 2016/08/05 18:52 |
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西崎勇輝を後ろから撃ったら、死体を引き出したって座席の入れ替わりはどうせばれるでしょう。寧ろ適切な位置に移して飛行機ごと燃やしちゃうべき。もしくは2番機に拳銃発射装置のダミーを設置しておくとか。そもそも飛行機の中で殺す必然性があるのか。なんか犯人の考えに筋が通っていないような。
“パイロットの間では隠せなかったはず”のことをなぜ倉田は黙っていたのか。 父殺しに協力した弟は許すのか。 斯様に、森博嗣はミステリのこと良く判っていないんじゃないの、と思わされるポカは多いが、“ダイイング・メッセージは下らない駄洒落である”という伝統は正しく注いで、じゃなくて継いでいるようだ。 |
No.312 | 7点 | 占星術殺人事件- 島田荘司 | 2016/07/29 11:16 |
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島田荘司には長文の偽書をトリックに使う作品が複数あるけれど、私はどうも好きになれない。それをやったら何でもアリになってしまうじゃないか。本作で“接着剤”としてアゾート幻想が必要なのは判るし、アンフェアとは言わないが、舌先ならぬ筆先三寸で丸め込まれた印象。
この謎が“ブームになって議論百出、出版物がどしどし世に出るも、40年以上解かれなかった”と言う設定は強気に過ぎると思う。文次郎手記の内容(死体を配るのは他者にやらせる、精液を残すだけなら女でも出来る)を想像することは可能だから、手記は推理に必須ではない。登場人物が少ないし、順番に疑って行けば真犯人もすぐ俎上に上がる。つまり“解けなかった”とは“決め手に欠ける”ということではないか。では御手洗の場合の決め手は何かといえば、トリックの解明よりも“予想される土地に犯人が居た”ことであり、犯人の後半生を鑑みるにそれは僥倖である。犯人が店を構える以前に謎を解いて嵯峨野をウロウロしていた早過ぎる名探偵がいたかもね。 中盤の推理合戦で、“血縁者に対して害をなすか?”について、場合によって肯定的だったり否定的だったり、ダブルスタンダードなのが気になった。 ということで、初めて読んだ時(30年位前!)にはとにかくメイン・トリックに驚愕&興奮したものだが、読み返したらやや冷静な評価に落ち着いた。 サイコロって吉田拓郎「落陽」へのオマージュ?それは流石にこじつけ過ぎか。 |
No.311 | 5点 | クララ殺し- 小林泰三 | 2016/07/26 18:24 |
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悪くはないが、二匹目のドジョウを狙ったという感がなくもないし、そうまでするほどの物凄いストーリーかは疑問。世界設定のせいで論理が錯綜し過ぎて、驚くべきポイントで的確に驚けないきらいがある。蜥蜴のビルのキャラクターは好き。 |
No.310 | 5点 | 真実の10メートル手前- 米澤穂信 | 2016/07/21 11:07 |
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必要以上に後味の悪い結末をいちいち用意するあたりには好感が持てる。
しかし実のところ、米澤穂信の作風には慣れてしまった。主題に異物を突っ込む手際がどれも似通っているように思う。ストーリー展開には確かに驚くのだが、それがお約束というか、驚いたこと自体に驚けなくなった。短編だと特に顕著。勿論それはこの作者が好きで作品をあらかた読んだ結果の弊害ではあるのだが。 |
No.309 | 6点 | トリプルプレイ助悪郎- 西尾維新 | 2016/07/14 11:06 |
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リュパンや二十面相で育った身にしてみれば、大泥棒はひとを殺さないものだと相場が決まっているのである。従って“一回の盗みにつき三人殺す”という設定は掟破り、いやむしろコロンブスの卵?であるが、しかしそれはなかなかぞくりとさせられる妖しさを放っている。叙述トリックそのものはともかく、それを結構無茶な設定と絡ませるところがいかにも西尾維新そしていかにもJDCトリビュート。文体も含めて気持悪さが快い。 |
No.308 | 6点 | ダブルダウン勘繰郎- 西尾維新 | 2016/07/08 10:17 |
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妙にまっすぐな説教臭い部分は少年漫画のよう。清涼院流水のJDCというトゥー・マッチな設定をひらりと躱して上手く手玉に取ってみせた、という印象。ちょっとした台詞の端々でキャラクターを描き出す腕前は見事。 |
No.307 | 7点 | 不気味で素朴な囲われたきみとぼくの壊れた世界- 西尾維新 | 2016/06/30 11:35 |
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ありふれたネタでもアリに出来る作家と出来ない作家がいるわけで、主題の周囲をぐるぐる回って適当に話を逸らしているかのように見える饒舌を積み重ねていつのまにか読み手を作品世界に絡め取る筆力は、あからさまな名文美文でないゆえにタチの悪い吸引力を誇る。内容的に殆ど空っぽな本作では特に。 |
No.306 | 5点 | 夢・出逢い・魔性- 森博嗣 | 2016/06/27 10:32 |
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幾つかの面白くなりそうな要素を、上手く生かせない形でまとめて組み立ててしまった、という感じで惜しい。
紅子の推理には瑕がある。“練無が実は男子だと、説明無しでは判らない”ということを前提にしている点。立花亜裕美が“そうじゃないかなって、思ってた”というのはいわば作者自身によるツッコミであって、そこは周到だと思う。 タイトルは単なる駄洒落としか思えず、感心出来ない。 |
No.305 | 8点 | きみとぼくが壊した世界- 西尾維新 | 2016/06/21 09:57 |
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これはどうしたって、この小説の為の取材と称して保健室登校の巨乳女子高生とイギリス旅行へ行ったけどとても楽しかった、と言いたいが為に書いた小説、としか思えない。(いや、多分、くろね子さんは架空のキャラクターじゃないかと思うんだ……)そんなわけ、あるかあ! |
No.304 | 7点 | χの悲劇- 森博嗣 | 2016/06/21 09:56 |
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これはここ10年くらいの森博嗣のミステリの中ではかなり良い方だ。但しそれはミステリ要素が優れているからではなく、真賀田四季を遠景に据えて人間の行く末を描く一連の世界観が大きく絡んで来たから、である。Gシリーズが新たなフェーズに突入したという実感が確かにある。
殺人事件に関してはなんじゃそらという真相だが、しかしミステリの不文律に対するアンチテーゼと言えなくもなく、私は割と好意的に捉えている。さっさとこれを書いて欲しかった。 |
No.303 | 8点 | きみとぼくの壊れた世界- 西尾維新 | 2016/06/10 11:28 |
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ファンの欲目ではあるが、ミステリとしては小粒のネタを核に据え、周囲に分厚くコロモをかぶせて本を一冊でっちあげる、という場合に、そのコロモがこれほど美味い作家というのもそういないと思う。ネタが小粒なのも、コロモを美味しく味わうにはこれ以上入り組んだミステリ要素は邪魔、という冷静な判断なのだろう。本書では夜月が様刻にすがりつくシーンがあまりに印象的。“本の熟成”は私もよくやる。いろいろ敵に回しそうなミステリ談義も楽しい。
因みに私は、西尾維新式の過剰なネーミングは好きだなぁ。同姓同名が偶然存在して余計なイメージをしょいこむリスクが少ない、と言うメリットもあると思う。 |
No.302 | 7点 | メビウスの守護者- 川瀬七緒 | 2016/05/23 12:40 |
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このシリーズの法医昆虫学ネタには、今まで知らなかった扉が目の前で開いて行くような興奮を感じる。本書でも中盤の遺体発見のくだりはナイス。
ちょっと揚げ足取りかなと思いつつ気になった点を挙げると、この殺人者は野山に遺体遺棄などするだろうか? 自宅の庭で上手に処理出来そう。 あと、通常のフーダニットとは違うせいもあってか主要人物のほとんどが事件のどこかに関連している、という構成が、読み終えてから振り返ると作り物っぽい印象ではある。 |
No.301 | 7点 | 掟上今日子の婚姻届- 西尾維新 | 2016/05/23 12:38 |
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最終章手前まで、一体このどこに謎が潜んでいるのかさえ判らなかったが、小さな違和をあつめてひっくり返す手際が痛快(その痛々しい内容はともかく)。 |
No.300 | 4点 | 犬神家の一族- 横溝正史 | 2016/04/30 10:53 |
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確かに、本作はこの手のパターンの雛型のひとつになったのかもしれないが、さまざまな後続作品に負けてしまったと思う。あれやこれやを読んだ後では、時を超えて生き続ける不朽の名作と呼ぶには物足りない。結末に全然意外性がない。“斧”の見立てなんてバカミスだよ。斧をどこからか持って来て置いておくほうが簡単でしょ。あんな判じものを即座に読み解く金田一耕助は凄いんだか何なんだか。 |
No.299 | 7点 | 屋根裏の美少年- 西尾維新 | 2016/03/29 12:44 |
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“神を描いたんだ”という説明はあまりピンと来なかった。 |
No.298 | 6点 | メアリー・スーを殺して- 乙一 | 2016/03/25 12:06 |
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4(プラス1)人の作家による短編集。ミステリ要素のあるもの、幻想味の強いもの等のヴァリエーションはあるが、共通する或る種の雰囲気に貫かれていて、まるでひとりの作者が書いた作品集のようだ。
「山羊座の友人」は主要人物が少ないこともあってなんとなく予想した通りの捻りだったが、独特の乙一ブシのおかげで強い印象が残っている。一方「エヴァ・マリー・クロス」はその捻りも無くやや物足りない。 |
No.297 | 7点 | ゴースト≠ノイズ(リダクション)- 十市社 | 2016/03/18 14:11 |
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こういう感じの、叙述トリックと組み合わせた青春ミステリには食傷気味なのだが(それはそういうのに多く手を伸ばす自分のせいであって作者のせいではないが)、本作はその中では出来の良い方だと思う。最終章まで見事に騙された。基本的にミステリ要素は作者が読者に仕掛ける叙述トリックだけで、ストーリー自体は“謎とその解決”ではないが、充分ミステリに含めて良いと思う。
良く判らないのがネーミングのセンスで、“高町”はともかく、“玖バ・カ帆”はないだろう。絶対何か(母親の連れ子だ、とか)の伏線だと思ったのだが。 |
No.296 | 7点 | 儚い羊たちの祝宴- 米澤穂信 | 2016/03/18 14:07 |
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本書に限らず、“羊”を食べる話は好き。
「山荘秘聞」のオチは下らなくて困った。 |
No.295 | 6点 | 鍵の掛かった男- 有栖川有栖 | 2016/03/08 10:58 |
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仮に本当に自殺だったとして、“間違いなく自殺である”という証明はなかなかハードルが高いのではないか。その場合、調査の引き際をどう設定するかが重要だが、その点について言及しないまま依頼を引き受けてしまったので、“おいおいアリス、大丈夫か”と思った。
あと印象に残ったのが“猿真似をする技量もないのを糊塗するためにオリジナリティを求め、自意識を垂れ流すだけの下手な小説を書いてしまう勘違い野郎にも愛しみを覚えます”という影浦の台詞(作者の小説観を反映していると解しても良いだろう)。下手なオリジナリティより猿真似の技量を上位に置くか。有栖川作品を思い返してみると理解出来なくも無い(いや、メフィスト賞あたりに対する批判?)。 |
No.294 | 5点 | 王とサーカス- 米澤穂信 | 2016/03/03 15:36 |
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悪くはないけど、期待し過ぎた。主人公の苦悩が“いかにも~”という感じで物足りない。そんなことはフリーになる段階で悩み終わっとけ。この程度で“記念碑的傑作”と謳ってしまうのは、寧ろ作者の資質に対する過小評価なのでは。 |