皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.20点 | 書評数: 2075件 |
No.435 | 9点 | 亜愛一郎の転倒- 泡坂妻夫 | 2018/02/05 10:29 |
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論理の飛躍が楽しい名短編揃い。「砂蛾家の消失」が一番好き。
「藁の猫」で不満なのは、“開かない扉”“重力を無視する水”等の創意工夫された間違いと比べて、“藁の猫”がよそから持ち込んだだけの単なる異物だ、と言う点。‟藁の猫”である必然性が無い。キャラクターの一貫性を損なっている気がする。ああいう人は凝り性だと思うんだよね。題名にしちゃったものだから尚更それが目立つ。 |
No.434 | 9点 | 亜愛一郎の狼狽- 泡坂妻夫 | 2018/02/01 11:15 |
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亜愛一郎シリーズの瑕疵は、まさにその“シリーズである”点だと思うのだ。作者が如何に手を変え品を変え亜の抜け作っぷりや怪しげな行動を描写しても、読者は“このひとが探偵役”という先入観からついつい別枠扱いしてしまう。まっさらな状態で読めたらギャップが更に映えてどんなに面白いことか。
しかし一方、シリーズゆえにこの愛すべきキャラクターがじっくり育まれたのもまた確かなわけで、痛し痒しなのである。 |
No.433 | 7点 | 漆黒の象- 海野碧 | 2018/01/30 12:06 |
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複数の案件を重ね合わせた構成はあまり効果的ではない。ばらして3つの中編にしたほうが良かったと思う。
プロバビリティの殺人について。自分も標的になりかねないからリスクが大きい、と思う反面、そういう賭けに出るメンタリティもアリかと思わなくもない。掘り下げ不足で得心するにはちょっと足りない。 この作者の武器は一に文体(細かく言えば文体とストーリーの絶妙な齟齬)、二に人物造形。デビュー作からここまで6冊、厳しく言えばストーリーはどれも同じなのである。私はとにかく文体がツボに嵌ったのでそれも大目に見るけれど、そろそろ次の一手を考える頃合では。 |
No.432 | 8点 | 掟上今日子の色見本- 西尾維新 | 2018/01/30 12:04 |
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これはシリーズ近作中では出色の出来か。どこがどうと言うより単純に面白かった。忘却探偵のキャラクターを発揮するには進行形の事件のほうが有利?今日子さんが誘拐されます!欲を言えば、動機に関してもう一捻りを期待していたんだけど。 |
No.431 | 8点 | 破滅の王- 上田早夕里 | 2018/01/26 10:31 |
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1930~40年代、戦火に翻弄される科学者達の物語。SFというフィールドを離れても(架空の細菌は登場するが)、群像劇を通じて社会の変遷を描く手腕は磐石。それほどぶっ飛んだ話ではないし、こういった戦時下の諸々を虚実織り交ぜて描く作品はもしかすると珍しくはないのかもしれないが、その中でも存在感のある一冊になるのではないか。主人公が地味、と言う気はするが決定的な難点ではない。
それにしても中国が舞台の作品は地名人名の読みが面倒臭い。 |
No.430 | 6点 | クリーピー- 前川裕 | 2018/01/22 09:11 |
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材料をとりあえず全部載せしたあと、大雑把にふるいにかけたような感じ。話がどっちへ向かっているのかイマイチ判らないまま進んで行く気持悪さが面白い。それほどかっちりした話ではないので、多少のアラがあってもさほど気にならないのはズルイな。
それでも気になったことを書くと、某映画を結末まで明かして引用するのは感心しない。 Yが狙いを付けたNの隣に住むTが、Yの弟の高校時代の同窓生だった、という偶然は許容範囲内か?こういうのをアリにしちゃうと、“AとBの共犯では?”“いや、あのふたりに面識は無い”といった理屈がどうでも良くなってしまう。ミステリで使うのは控えた方が良いと思う。 |
No.429 | 5点 | 篝火草- 海野碧 | 2018/01/09 09:45 |
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各々のキャラクターはそれなりに立っているが、動きが直線的で話にうねりを生み出せていないと思う。特に後半はかなり強引で、語り口の良さを以て相殺、とは行かなかった。一例を挙げると、今回の主人公には事案の概要が摑めた時点で警察に駆け込まない理由が見当たらない、とか。自作品が雰囲気モノではないという自覚のもとにもう少し練って欲しかった。 |
No.428 | 8点 | 人形館の殺人- 綾辻行人 | 2018/01/05 11:06 |
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旧版解説の太田忠司に上手く言われてしまったが“どこでもない完全な空白の中に置き去りにされ”た不安定な読後感の気持悪さが心地良かった。
殺人の手段として放火を選んだのは腑に落ちない。“規模のコントロールが難しい”、“標的が死ぬ確実性にやや乏しい”と言う点で、使い勝手が悪いと思うのだが。 ところで“飛竜頭(ひりょうず)”って御存知ですか。ガンモドキの別称なんです。それで文中に“飛龍”という姓が出て来る度におかしくて……話と関係無いところで受けちゃってごめんなさい。 |
No.427 | 4点 | 華を殺す- 三沢陽一 | 2018/01/04 10:34 |
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“連城三紀彦氏に捧ぐ”との献辞で始まる恋情ミステリ集、であるが、その一行が矢鱈とハードルを上げちゃってる気がする。柔らかな語彙を丁寧に並べた美文“っぽい”文章も、のっけからそんなこと言われるとどうにも作り物めいて響く。そうなるともう駄目でせっかくの心の機微や鮮やかな情景もストーリーにまとわり付くダラダラした埋め草に堕ちてしまうのだ。作品そのものは決して悪くない筈なので、余計な先入観無しで読めば“連城三紀彦みたいだね、良い意味で”と思えたかもしれないのに。
収録の4編の中では「椿の舟」が一番良かった、と言うか文体が読者に対するミスディレクションとして機能して古典的なトリックでも驚けた。 (但し、私は連城三紀彦の愛読者ではないので、ファンなら判る何かを見落としているかもしれない) |
No.426 | 7点 | アンダードッグ- 海野碧 | 2018/01/04 10:33 |
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海野碧の4作目、ノン・シリーズ長編。ここに大きな問題がある。文体が同じでしかも一人称なので、本作の主人公が1~3作目の語り手であった大道寺勉にしか思えない!キャラクター的にも、他者に無関心な覇気の無い中年男、その割りにたいした理由も無く厄介事に首を突っ込む、但しそれは降りかかる火の粉なら振り払える腕っ節に裏打ちされている、といった共通点があってぶっちゃけ“経歴は違うけど中身は同じひと”と言う感じ。
しがないアンダードッグ達の行く末来し方を坦々と並べつつ不思議と読ませる文章力は健在。今回はちょっとミステリっぽいトリックが登場するけれど、“そんなに上手く行くものかなぁ”と思ってしまうこなれていない感じが却ってこの作者っぽい(か?)。東南アジア旅情ミステリ風の側面もあったりなかったり。 |
No.425 | 3点 | 矢の家- A・E・W・メイスン | 2017/12/28 16:38 |
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私は、作品が書かれた時期その他を考慮した読み方は出来ない。で、これはどこを楽しめば良いのか判らなかったなぁ。紹介文で謳われる“名探偵と真犯人との見えざる闘い”は本当に全然見えない。事件の真相もがっかり。
文章についてだが、ジム・フロビッシャーを視点人物に据えた三人称を基本にしつつ、ところどころ他の人物の心理にも(軽く)分け入った記述が混ざっていて、反則とは言えないまでも違和感を覚えた。 |
No.424 | 5点 | フランス白粉の秘密- エラリイ・クイーン | 2017/12/25 09:52 |
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中盤は退屈。5冊の本のくだりは微笑ましい(なにもそんな芝居じみた連絡方法を使わなくても)。ラスト前で事件の水面下の意外な広がりが明るみに出てやっと気分が乗って来る。消去法推理は好き。
特に海外の古めの作品だと、テクノロジーの進展具合が摑めず舞台をイメージしづらいきらいがある。閉店時間になると自動的に施錠されるシステムが実用化されている一方、電話交換手も健在。あれっ、連絡するのにわざわざ店を抜け出さなくちゃいけないってことは、この時代まだケータイは無かったんだっけ? |
No.423 | 5点 | NO推理、NO探偵?- 柾木政宗 | 2017/12/25 09:51 |
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これって石崎幸二のミリア&ユリと何が違うの?いや勿論作品のコンセプトは別物だが結果としてとても似通った印象を受けた。読みながらなんじゃそりゃと繰り返し口に出して突っ込んだが、最終話に免じて許そう。
こういう文章は!を多用してハイここ笑う処ですよといちいち示すより淡々と記した方がおかしみは増すと私は思う。 |
No.422 | 5点 | ローマ帽子の秘密- エラリイ・クイーン | 2017/12/19 11:45 |
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現代の目で読むと、ロジカルな本格ミステリと言うスタイルに関して色々まだ未整理な状態で書かれた印象。それほど面白いとは思えなかった。毒物の種類は興味深い。
そういえばメフィスト賞作家の某氏にも芝居上演中の殺人で類似したプロットのものがある。これは多分パクリというわけではなく、“状況がこうなら意外な犯人のポジションはここ”という共通の発想による偶然だろう。 |
No.421 | 6点 | 滑らかな虹- 十市社 | 2017/12/19 11:43 |
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中核をなす“ゲーム”は興味深く、厳しく見るならその周辺の事物にはありがちなネタも含まれているが、しかしエピソードを積み重ねて説得力を生み出す手つきはしっかりしている。そこを評価しつつそれでも尚、千二百枚・上下巻は長過ぎる。手紙と回想形式の記述、そして作者が読者に対して隠している何か、となるとどうしても叙述上の捻りを期待してしまうわけで、あまり引っ張り過ぎると色々極端な予想をしてしまい、いざ明かされても驚けなくなる。これは私の読み方が悪いのかもしれないが、スレていない読者の素直な読み方に期待し過ぎじゃないかという気もするのだ。
子供達はそれなりに生き生きと書き分けられているが、役割に合わせてキャラクターを配分したようだ、と言ったら意地悪だろうか。正直、物凄く印象的な子はいなかったのだが、寧ろそれこそがリアリティとも言える。 自然教室のなぞなぞは解けず。くっ、小学生に負けた……っ。 |
No.420 | 7点 | 真夜中のフーガ- 海野碧 | 2017/12/12 13:03 |
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偶然をどこまで許容するかは、合理的な説明を期待されるミステリに於いて重要な問題だろう。個人的には、物理トリック等の実現可能性は比較的甘く評価出来るが、“無関係に見えたA氏とB氏が実は知り合いだった”のような人間関係のつながりについてはかなり気になる。本作でも、主人公に降りかかったふたつの案件が別ルートでつながっていて、ちょっと首をかしげざるを得ない。結末のエピソードも唐突。とはいえ非常に“読ませる”文体は安定しており、本格ミステリ的な驚きを期待する気持とは別のところで楽しんだ。 |
No.419 | 7点 | ディレクターズ・カット- 歌野晶午 | 2017/12/12 13:02 |
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私もひとを刺したくなって来ちゃったなぁ。困ったなぁ。図書館で騒ぐ大人がいると結構本気の殺意が湧くんだ。とりあえず鋏は持ち歩かないようにしよう。 |
No.418 | 7点 | 乱鴉の島- 有栖川有栖 | 2017/12/05 11:13 |
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島の秘密の方がメインで殺人事件がオマケみたいに感じてしまった。幾つもの仮説のあとで明かされたその秘密もさほど驚きではない。殺人とのつながりも乏しいし、解明の過程で暴く必要はなかったのでは。アリスの海老原に畏まる様がおかしかった。 |
No.417 | 8点 | 迷宮のファンダンゴ- 海野碧 | 2017/12/04 12:50 |
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ウィキペディアによると、作者には文芸誌で活動していた前歴があり、歌人としての顔も持つらしいが、ジャンルの外側からスタイルを対象化したかのような作風はもしかするとそういう要素にも由来するのだろうか。
前作は私にとって存在自体が驚きだったが、二冊目なので多少冷静に読めた。登場人物各人の動きが場当たり的というか、読了後に振り返ると思惑の擦れ違いが或る種の美しい綾を織り成すようなものが理想なのだがそこには至らず、何故このひとはこういう行動を取ったのかと納得出来ない部分が染みの如くポツリポツリと残ったのだった。 しかし人物造形の妙は多少の矛盾を飲み込んで物語を牽引するに充分で、某人物があっけなく死ぬ様には胸を突かれた。 |
No.416 | 6点 | このどしゃぶりに日向小町は- 鳥飼否宇 | 2017/11/30 12:30 |
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ハヤカワ・ミステリワールドの一冊だが、全然ミステリではない。小林泰三のグロSFに、幾らか地に足の着いた視点を織り込んだ感じ?読者の心構えを考えると、こういうのは他の相応しいレーベルから刊行してくれたほうがありがたい。
内容自体はまぁ悪くない。しかしルビーの手紙は簡単に解読出来るだろ。あれを結末間際まで引っ張るのは不自然。 因みに、英題“It's a rainy day, sunshine girl”というのはドイツのバンド“ファウスト”の曲名。このバンド名は、ゲーテ作品等で有名なあの人物ではなく、英語なら fist 、つまり拳の意味。登場人物名や曲名、章題等にもファウスト関連の引用が見られる。 |