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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1953件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.693 5点 グリーン家殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2020/03/13 12:03
 なんとも大胆な伏線だ。
 “そりゃ、出て行ったんでしょうね、いま、あそこにいないとすれば”
 ロジックとしても正しい。そこでもっと追求していれば死ななかったのに。
 つまり、犯人は良く考えれば気付ける穴に目をつぶって犯行を強行した、捜査陣は誰もその矛盾に気付かなかった、と。まぁ、“手掛かりが無い”と言う手掛かりは悪魔の証明だから止むを得ないのか。

 と言うか――ネタを踏まえて読み返すと、本作は、リスクを承知の上で、分の悪い勝負(殺人に成功するほど容疑者が限られてしまうから)に人生を懸ける、妄執の物語なのである。心情的には犯人の味方になってしまうのである。おいおいそんな証言したら却って怪しまれるって。知ったかぶり野郎の引っ掛けに乗っちゃ駄目だぁぁぁ!

No.692 8点 間宵の母- 歌野晶午 2020/03/06 10:45
 いやぁびっくりした。思い返せば同じ作者の旧作に似たような構造のものがあるけれど、見せ方によってちゃんと違った読み味に仕上がっているので、私はその点肯定的だ。Dの使い方があまりにオールマイティに過ぎるか? まぁあくまで補助的な小道具だからね……。

No.691 5点 八つ墓村- 横溝正史 2020/03/06 10:43
 冒頭で語られる過去の因縁は凄まじい。いきなり頂点。
 ところが、そのイメージで読み進めてしまうと、はぐらかされた感じ。刀を振りかざした殺人鬼がバッサバッサと斬りまくる話じゃないの? 出番最初だけ?
 現在の殺人の場面は淡白でインパクトが弱い。また、語り手が無味無臭で、何故(警察に止められてはいたが)さっさと村から逃げ出さないのか疑問だったし、財産が魅力だと告白されても、この人そういうキャラクターだっけ? と首を捻らずにはいられなかった。秘密のある離れをわざわざ彼にあてがう理由は? 単なる展開上の都合だよね。 鍾乳洞の場面はスリリングで良い。

No.690 7点 女王はかえらない- 降田天 2020/03/06 10:41
 トリックは見当が付くけれど、それを上手く使いこなせている、と言う意味で楽しめた。群像劇のキャラクターの書き分けや、諸々の状況変化の描き方も堂に入ったものだ。なまじリーダビリティが高いせいで軽めの作品に見てしまうのは不公平かなぁと自戒。
 タイトルを使った駄洒落は蛇足。ちょっと余韻が殺がれた。

No.689 7点 ダークナンバー- 長沢樹 2020/03/06 10:39
 “こんな危険で大がかりなことをする価値があるのか”――本命を隠す為にダミーの事件を幾つも起こしたのではないか、との意見に対し作中ではこう疑問が呈される。常々私も、このパターンの場合それが重要な問題だと思っているのだが、本作ではそれに対する解答がきちんと設定されており膝を打った。
 その他諸々も上手く出来ていて、なかなか読ませる力作。転機となった手掛かり(シェルターの場所)が少々わざとらしいのは残念。

No.688 8点 神狩り2 リッパー- 山田正紀 2020/03/02 10:34
 作者は、神によって着せられた濡れ衣を晴らすべく、既存の言葉で形容しようのないものを何とか表す為にこれほどの言葉を費やした。しかしまだそれは、並べられた言葉の向こう、語られたエピソードの向こう、脳が認識する五感の向こうにしかない。本を閉じてやっと物語が始まる。今も私は、世界の境界部がぱらりと捲れてメタ的な外部が顔を覗かせる不安に苛まれている。

No.687 7点 アリス・ザ・ワンダーキラー- 早坂吝 2020/03/02 10:30
 面白かった。
 イチャモンを付けるなら、アリスの二次創作は食傷気味、と言うこと。原典を有機的に謎に結び付ける手腕は認めるに吝かでないが、あと一歩だけ乗り切れない気分が残った。しかし、このパズル世界をすんなり許容出来たのは元ネタを作者と読者が共有しているおかげであって、そこは良し悪しだと考えるべきか。

No.686 7点 ゲームの王国- 小川哲 2020/02/29 11:25
 アジアを舞台にしたこういう感じの話はあまり読んだことがないので新鮮だった。どの程度虚実が入り混じっているのか知識が無いので判断出来ず。
 媚びていないのに読み易い文章で、神経衰弱のようにばら撒かれたそれぞれのパーツがまず面白い。更に、大きな物語としてどっちに向かっているのか、どこまで読んでもさっぱり摑めないところが素晴らしい。登場人物の関係性がごちゃごちゃしていてそれなりの障壁だけど、頑張る甲斐はあった。

No.685 7点 ロシア紅茶の謎- 有栖川有栖 2020/02/25 10:55
 藤木稟も麒麟。

 “エラリー・クイーンのひそみに倣った国名シリーズ”と紹介されるが、可笑しなダイイング・メッセージが繰り返し登場する点にこそ“EQの後継者だなぁ”と私は頬が緩む。「屋根裏の散歩者」のラストには良い意味で唖然。しかし江戸川乱歩作品の概要をあんなに明かす必要は無かろうに。

 ところで、ロシア紅茶ってジャムと砂糖、両方入れる?

No.684 5点 シタフォードの秘密- アガサ・クリスティー 2020/02/25 10:54
 冒頭の降霊会は魅力的な謎だが、作中では殆どフィーチュアされていないので、もしやシレッと“本物の心霊現象”として片付けるのか、と心配(期待?)してしまった。
 まぁ冷静に見れば犯人が最も怪しい行動を取っている。しかし心情の描写に少々アンフェアな記述があるような。だから見破れなかったのだ、と強弁はしないけど。
 トリックは良いし、動機の設定も上手い。高評価出来ないのは、中盤の地道な調査行が退屈だから。それにその成果のうち犯人究明に直接役立った手掛かりって最後のアレだけ……?

No.683 5点 大江戸ミッション・インポッシブル 幽霊船を奪え- 山田正紀 2020/02/25 10:53
 前巻の順当な続きであって、それ以上の物凄いものでは、まぁない。どくろ大名のキャラクターはナイス。時代物ならではのトリックには苦笑。少し端折って1冊にまとめた方がスピード感も出て良かったのでは。ビジネスのことは言うな!

No.682 6点 カナリヤ殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2020/02/20 13:45
 なにしろ有名な“アンフェアな手掛かり”のネタバレ作品であるからして、答え合わせ程度のつもりで読み始めたが、それだけでは解釈しきれない矛盾が色々あるし、警察は無能だし、かなりやきもきさせられ予想以上に楽しめた。
 ところで、当時は四階建て程度の規模のアパートメントで専属の“電話交換手”と言う職業が成立したんだ? いつの世もテクノロジーは職を奪うね……。

No.681 7点 流氷民族- 山田正紀 2020/02/20 13:43
 SFサスペンス、なんだけど思い返してみるとSF要素つまり亜人類に関する魅力的な設定は殆どが又聞き情報。美少女が写真と同一人物だときっちり確認されたわけではないし、眠る人々もスケールの大きなカルト集団に見えなくもない。あり得ない場面が読者の前に直接提示されることはなかったので、全てが壮大な勘違いとの解釈もアリ?
 それはそうと、終盤の船上の場面はカタルシスに満ちていた。峰くん見直したぜ。その後のミステリ的解説が結構ぐだぐだなのには参ったけどね。

No.680 5点 二度のお別れ- 黒川博行 2020/02/15 12:19
 あまり好みのタイプではない。が、その割に面白く読めた。が、真相は“やっぱりそうか”である。
 逃げ切った犯人がしかし全然幸せになっていない、と言う部分をサラッと流していて勿体無い。そこはもっとじっくり読みたかった。構成上難しいか。

No.679 7点 悪魔の手毬唄- 横溝正史 2020/02/15 12:18
 文章が良い。美文名文ではないが、読者を作品に踏み込んで行く気持にさせる力がある。刀自が手毬唄を聴かせる場面はゾクゾクした。歌詞自体はプロローグで既に提示されているのに改めてそんな気分になるのは凄いことだ。
 真相解明によって全てがピタリと嵌った感じは正直あまり無いが、本作に於いてはさほどマイナス要素ではない。
 登場人物が多くて混乱するので、フルネームでの表記をもっと多くして欲しかった。

No.678 5点 エラリー・クイーンの冒険- エラリイ・クイーン 2020/02/15 12:17
 読みながら思ったこと(順不同)――

・こういうプロットは他にも読んだことがある(クイーンの作品の方が元ネタなのかもしれないが)。
・文化に基づく習慣を根拠に性別を推測するのは強引。
・誰一人引っ掛からない偽の手掛かり、って単なるページ稼ぎでは。
・詐欺行為のカムフラージュに窃盗/強盗/不法侵入を行うのは、捕まるリスクを増やすだけでは。
・七匹も買われる前に何か変だと思わないものか。店員が“買ったものをどうしようと御客様の自由ですから”と言うキャラクターならともかく。
・殺人現場を調査中のエラリーは、何故“偶然、ドアノブを拭いて指紋を全部拭きとった”のか。下手すると証拠隠滅。

 しかし、突っ込みどころの無い作品が優れていると言うわけでもなく、一番面白かったのは、手掛かりがわざとらしい「ガラスの丸天井付き時計の冒険」。巡らした策が却って首を絞めている、余計なことしなきゃよかったのに、と普通なら言うところだが、ここでは犯人のミスに説得力が認められていいね。

No.677 5点 グレイメン- 石川智健 2020/02/08 10:52
 文章は、まぁ褒められたものではない。どうにも硬くて、直線だけで描いた絵、みたいだ。ただ、兎にも角にも絵になってはいる。小説の文章はこうあるべし、と言うのは狭量な先入観なのかもしれない。米韓でも出版されたとのことで、翻訳に於いてはこういう侘び寂びの無い文体が有利に働くかも。
 色々突っ込みどころはあるが、作者の意図はどうあれ、楽しめる与太話。とりあえずそれで充分。

No.676 7点 5まで数える- 松崎有理 2020/02/08 10:51
 可笑しな味わいの、しかしなかなかの佳作揃いだと思う。もとより決してリアルな設定の話ではないが、語り口の醸し出す絶妙な嘘っぽさが本書を特別なポジションに引っ張り上げている。

No.675 4点 ラミア虐殺- 飛鳥部勝則 2020/02/08 10:49
 なんじゃこりゃあ。ゲテモノは嫌いじゃないが、やはりそれだけじゃ駄目なんだな。百歩譲って大まかなプロットとしてはまぁアリかもしれないが、その具体化が全然上手く出来ていない。誰かリライトしたら?

No.674 7点 人面屋敷の惨劇- 石持浅海 2020/02/08 10:48
 状況設定は面白い。しかしこの殺し方はリスキー。被害者が絶命する前に誰かがひょいと現場を覗いたら、一命を取り留めることもあり得る。下手人は被害者に顔を見せているわけで、苦痛を与えることよりも確実な絶命を優先すべきでは。

 “女性らしいふくらみのほとんどない肢体”だから色仕掛けは難しいだろう、と言う意見について、個人的には否定的である。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1953件
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