皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.20点 | 書評数: 2075件 |
No.815 | 9点 | ツィス- 広瀬正 | 2020/10/19 11:07 |
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小さな出来事がどんどん広がるさまはスリリング。社会心理学的な卓見に膝を打つ一方、人肌の文章が巧みなので、ページを繰る手が止まらないのに熟読したいと言うアンビヴァレントな状態に。乱暴な比較ながら小松左京『日本沈没』より面白い。
と思いつつ読み進むと更なる驚きで顎が胸まで落ちた。コレには自分の中でも賛否両論あるが、風景がガラリと変わり戦慄したことは間違いない。1955年刊行の米SF長編(作者名出すだけでネタバレしそう)に対する回答とか言ったら安易だけど、ミステリとしても読めるパニック小説。 |
No.814 | 7点 | ムシカ 鎮虫譜- 井上真偽 | 2020/10/19 11:04 |
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なーんだ、“絶海の孤島連続殺人・特殊設定付き”じゃないんだ。と気持を切り替えるのに時間がかかったことが悔やまれる。
多重進行で忙しない程リズミカルなストーリー。キャラクター設定も、あざといがきちんと立っている。表紙イラストを漫画ではなく写実的なタッチにしたのは、イメージの補強として大正解。西尾維新『零崎曲識の人間人間』との差別化? いい音! |
No.813 | 6点 | ジョーンズの世界- フィリップ・K・ディック | 2020/10/16 14:37 |
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これ、短編を3つ切り貼りして作ったんじゃないの? 原題は『The World Jones Made』だが、タイトルに掲げられた“ジョーンズ体制”よりも、金星への入植とか宇宙からの謎の物体とか、よりチープなSF的アイデアのほうが面白かったりする。それゆえ多面的な読み方をせざるを得ない、と言う妙な仕上がりに。後半で明かされる、未来を知る男ジョーンズのグロテスクな苦悩は怖い。 |
No.812 | 5点 | 二百万ドルの死者- エラリイ・クイーン | 2020/10/16 14:35 |
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好みのジャンルではないし、これと言った捻りも無いし、旅程の進行につれて物語の背景が変遷するさまは風刺的な気もするけど、もっと上手い書き方があったんじゃないか。ヨースト爺さんのエピソード(の淡々とした描き方)は良かった。 |
No.811 | 5点 | T型フォード殺人事件- 広瀬正 | 2020/10/16 14:33 |
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複数人が結託してアレを仕掛ける、と言う話は心情的に理解出来ないことが多い。何故それがベストな方法だと思うのだろうか。本書のケースも、首謀者の思いは判らなくもないが、相手が理性的に対応する保証は無い。自殺未遂が発生したし。安易に協力していいものか。 |
No.810 | 5点 | 柚木春臣の推理 瞑る花嫁- 五代ゆう | 2020/10/16 14:30 |
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あちこちに覚えのある伏線が見受けられ、AとA´は実は別人とか性別誤認とか探偵=犯人とか色々勘繰ったけれど、ミステリ的には結構素直なキャラクター小説と言うべきものだった。もっと捻っても良かった。“大旦那様”のイメージの振れ幅が肝か。チェンバロの上に座ってはいけません。 |
No.809 | 8点 | エロス- 広瀬正 | 2020/10/11 11:02 |
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良い意味でアクの無い筆致で綴られる昭和初期の青春。文献渉猟の跡を感じさせない血の通った文章が、事物を羅列しつつも知らぬ間に温かさを醸し出す不思議さよ。第12回オリンピック(1940年)は一旦東京開催に決まったものの時局悪化により開催権が返上された、なんて知ってた?
ほぼこのままで優れた中間小説として成立しそうなのに、ちょっとしたトリックを付け加えたのはジャンル作家の意地か。北村薫〈時と人 三部作〉より20年以上早くこんな作品が世に出ていたなんて。 |
No.808 | 7点 | 人間そっくり- 安部公房 | 2020/10/11 10:57 |
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思索的な文芸としてのSFの定義を問うような作品。これをやり過ぎると単なるインテリ気取りにもなりかねないが、引き際を心得ていてセーフ。私は夢野久作『ドグラ・マグラ』の一部分を切り出してポップに変換したみたいだと思った。つまりミステリとしても読めるってこと。
ゆうきまさみ『究極超人あ~る』の元ネタはこれか(嘘)。 |
No.807 | 5点 | 告白の余白- 下村敦史 | 2020/10/11 10:55 |
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この小説そのものが、“よそさん”がイメージするいかにもな京都っぽさ、であってどこまで表でどこまで裏か判然としないのだけれど、それも含めて常識的な範疇に収まってしまったように思う。兄と彼女の因縁、現金ではなく土地の譲渡と言う形にした理由等、全然意外な真相が用意されておらず落胆。 |
No.806 | 6点 | 最後の一撃- エラリイ・クイーン | 2020/10/11 10:53 |
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非常に不自然な殺人計画。しかも、想定外の展開をしたにもかかわらず、軌道修正せずにのんびり最終日まで引っ張っている。
足止めを喰らい標的が逃げられなくなったのは○。それを殺す前に自分が検挙されるリスクは×。この計画の最終日は“この日のうちに殺さないと意味が無い”と言うリミットなんだね。自身に対するプレッシャーとしては有効? と言った犯人の気持の揺らぎが事件からまるで感じられずがっかり。 ――しかしそれは真相を知った後に思うことである。読んでいる最中は、作り事めいた状況に対応を決めかねる面々の微妙にイヤな感情を孕んだパーティーを楽しめた。その人がその人であることをどうやって証明するのか問題も◎。 |
No.805 | 8点 | デリバリールーム- 西尾維新 | 2020/10/05 12:09 |
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Q・delivery room とは「宅配便の集配所」を意味する英語である。○か×か。
Q・西尾維新は実は女性で、自身の妊娠出産をきっかけに本書を執筆した。○か×か。 Q・本書の帯には“新境地すぎる新境地”と謳われているが実際はそれほどでもない。戯言シリーズと忘却探偵シリーズの中間あたりの世界観。○か×か。 Q・本書の映像化は不可能である。○か×か。 Q・本書はとても楽しめた。○か×か。 |
No.804 | 6点 | デス・レター- 山田正紀 | 2020/10/05 12:04 |
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実は本作、基本設定が '80年代の旧作の使い回しである。と言うことが最終話で明らかになり、更にもう一捻りある。そのラストの一塊が山田正紀ブシで美味しいところ。そこに至るまでのエピソードは地味で薄味のミステリ風。地味なりに面白いものもあればそうでもないものも。ここはやはり結末の純SF展開にもっと紙幅を割いて欲しかった。
タイトルはサン・ハウスのブルースより。表紙イラストが素敵。 |
No.803 | 7点 | 動機探偵- 喜多喜久 | 2020/10/05 11:57 |
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第三話は現在進行形の案件ゆえ、いわゆる観察者効果に踏み込んでいる。平たく言えば、第三者が口を挿むと却って拗れるのでは、とのリスクであり、主人公も依頼者もあまりに無頓着。そういう状況は初めてだしまぁ仕方ないかな~、と思ったら懲りずに第四話で殺人事件を蒸し返している。前回の教訓をまるで生かせていないじゃないか。
と言う苛立ちも込みで後半戦はなかなか面白かった。 |
No.802 | 7点 | 動く家の殺人- 歌野晶午 | 2020/10/05 11:45 |
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最後に推測される動機にはあまり説得力が感じられない。
詐欺についての諸々は面白い。 でも作中の劇は全然面白そうじゃないな~。オーギュストは Auguste だから、頭文字を並べ替えてもああはならない。 |
No.801 | 4点 | 紫桔梗殺人事件- 小嵐九八郎 | 2020/10/05 11:42 |
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困った。全編にちりばめられたユーモアが悉く不発でメタ的に大爆笑。'88年にはこれがアリだったのだろうか。プロットとして0点とまでは言わないが、書き方が全てを駄目にしている。
“これは、合わないと思った”――結末で犯人が発するこの一行はなかなか印象的。 |
No.800 | 7点 | ひらいたトランプ- アガサ・クリスティー | 2020/09/30 11:30 |
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大胆な犯行だな~と思ったが、4人中1人だけ動き回れる状況がブリッジのルール上必然的に生ずるわけね。そこは予習してから読みたかった。
終盤の展開――Lが自白、MがLを訪問(この時どのようなやりとりがあったのか全く藪の中)、翌日新たな死が二つ。非常にタイミング良く連続しており、しかしそれらは連鎖反応と言うわけではなく概ね偶然。それでいいのか? なんとも妙な気分だ。 “人を殺して巧みに逃げおおせた者達を集める” という設定は魅力的。3年後に『そして誰もいなくなった』で大々的に再利用しているのは、作者もそう思ったからだろうか。 |
No.799 | 8点 | アメリカン・ブッダ- 柴田勝家 | 2020/09/30 11:28 |
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民俗学SFの雄、柴田勝家の短編集。「邪義の壁」はホラー・テイストのミステリ、と呼んでもいいのか、ギリギリ、SF的解釈無しでも読めそう。「一八九七年:龍動幕の内」はまるで江戸川乱歩のパロディ。ミステリ読みの為のSFって感じ。星雲賞受賞作「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」は、真面目な顔で与太話を語る、或る種のSFのど真ん中を射抜いており見事。 |
No.798 | 8点 | 二重拘束のアリア- 川瀬七緒 | 2020/09/30 11:24 |
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面白いんだけど、犯人の言動の具体的な描写が少ないので、キャラクターの不気味さを捉えづらかったのが残念。そういう異様な能力を持つ人がいる、と言う単なる設定になってしまっている。
盗聴器を探す場面。電波に反応して探知機が“鳴り響く”けれど、それだと盗聴器を見付けたことが相手に知られてしまう。“見付けたぞ!”との威嚇にはなるが、戦略的にあまり意味が無いのでは。 |
No.797 | 5点 | いたずらの問題- フィリップ・K・ディック | 2020/09/24 11:37 |
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戯画的ディストピアは割とありがち。中盤の唐突な展開には注目だが中途半端。主人公の内面的問題もあやふやなままで終わってしまった。いや、それでこそディックか? 総じて読み易く、判り易いが、物凄く面白いと言う程ではない。
解説は宮部みゆき「サスペンス・ミステリーの側から見たP・K・ディックの世界」。ウィリアム・アイリッシュと絡めて論じている。 |
No.796 | 5点 | 主よ、永遠の休息を- 誉田哲也 | 2020/09/24 11:29 |
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誘拐犯人が類型的。ああいう目的で流出させ、それを辿ってあそこに現れる、と言う行動にそれなりの合理性が伴っている点は(上手く行き過ぎだけど)良かった。
一方、折角のミステリ的な捻りがあまり生かせていない。判り易い伏線を引っ張り過ぎ。 一人称の文体の端々が微妙にイラッと来る。そうやって読者を不安定にさせるのが狙いだったら、なかなか凄いな。 |