皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1848件 |
No.828 | 8点 | ナイルに死す- アガサ・クリスティー | 2020/10/30 17:13 |
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犯人がこういうポジションで、自分の疑われ易さを踏まえた上で、非常に能動的に騙しに来る、と言った感じの似た印象の作品は過去作に幾つかあって、“また?”との思いが否めなかった。中近東が舞台だからどう、ってことは特に無かった。とは言え良く出来ていて、代表作という評価に異議は無い。
作家のオッターボーン夫人がイチ推しキャラ。“血文字のJ”は、犯行に於いて全く必然性が無いし、犯人の稚気を表すにも中途半端だし、不要だったのでは。 |
No.827 | 8点 | 扇物語- 西尾維新 | 2020/10/30 17:10 |
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“謝罪”に関する考察の物語。これは面白かった、物語ではなくて考察のほうが。“このシリーズまだダラダラ続くんだ”とか思ってごめんなさい。このトリックはアニメ化出来ないね(それを敢えて狙ったんじゃないかと邪推します)。
“夜這い”と言う単語の使い方に違和感。そこまでDV的なニュアンスを含む語ではないと思うのだが……? |
No.826 | 8点 | 第八の日- エラリイ・クイーン | 2020/10/30 17:02 |
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不可解な宗教の話は好きだなぁ。ミステリの宿命で悲しい展開なのが悲しい。共同体の裏側にもっと驚きの真実が隠されていて欲しかったけど、それは望み過ぎか。
EQが多用した“偽の手掛かり”ネタの作品としては説得力が強く、著作リストの中での存在意義も高い一冊だと思う。 |
No.825 | 5点 | 四つの署名- アーサー・コナン・ドイル | 2020/10/30 17:00 |
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事件にこれと言ったポイントが見出せず、冒頭の薬物依存エピソードのほうが強く印象に残ったりして。最終章で語られる過去の因縁を、『緋色の研究』方式で時間を遡っての三人称記述にすべきだった、と強く思う。 |
No.824 | 7点 | マイナス・ゼロ- 広瀬正 | 2020/10/27 15:15 |
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戦前戦後の東京をノスタルジックに活写して読者に疑似体験させる逸品。ではあるのだが、同作者の他の長編と雰囲気やネタが重複する為に、若干の“またか”と言う思いも否めず。
タイム・パラドックスの着地点は不条理なもので、前半の作風を考えると意表を突かれた。ニクシャン、シャリコケ、アプレゲール。死語萌えってコレか! |
No.823 | 7点 | 宇宙の眼- フィリップ・K・ディック | 2020/10/27 14:58 |
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これは素直に楽しめた。強引に譬えれば、西澤保彦の特殊設定に小林泰三のスラップスティックな狂気を乗っけたようなもの。神林長平に通じるような難解さは未だ無い。自分は不可解な宗教の話が好きだなぁと改めて実感。
この基本設定だと結末の方向が限られてしまうのが難点か。ちょっとした仄めかしもあって、一種のリドル・ストーリーになってはいるけれど。 |
No.822 | 6点 | もの言えぬ証人- アガサ・クリスティー | 2020/10/27 14:53 |
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ボブがなんともチャーミング。“彼”と訳されているが原文も“ he ”なのだろうか。とはいえ犬が“変な音をたてて失礼。しかしこれが僕の仕事なんだよ”とか話すわけないのであって、それはみなヘイスティングズおいちゃんの脳内変換であって、ならば真にチャーミングなのはこっちか。依頼者の“何も言ってない手紙”も可笑しい。 |
No.821 | 7点 | 盤面の敵- エラリイ・クイーン | 2020/10/27 14:51 |
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EQは、“フェア・プレイのパズラー”を規定するだけでなく、それをこじらせるところまで自ら体現した点が素敵だ。
本作はその精神性が上手く形になっているような気がする。もっとも本邦の新本格勢のほうが、数々の前例を踏まえて臨めた分、この手の捻り方に関しては一枚上手。相対的に少々物足りないか。 舞台となるヨーク・スクエアが描写不足でイメージしづらい(あまりそれが必要な話でもないけど)。事件が続けば手掛かりが増えるとばかりに、捜査陣が手を束ねて第二第三の犯行を待っていたように見える。作品前半ではアレがファースト・ネームに思えるような書き方を意図しているのだから、登場人物表は無神経だ。思わせぶりなカードについて、犯人側の内的必然が充分存在した点は、『最後の一撃』での反省が生きている(のか?)。 代作? まぁそもそも、その人がその小説を書いた、と完全に証明するのは不可能だしね……。 |
No.820 | 5点 | 刺青白書- 樋口有介 | 2020/10/27 14:49 |
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事件に自ら関わって行く鈴女の行動は、関係者に波風を立てるだけの迷惑な自己満足になりかねないものだったと思う。好奇心と呼ぶにも足りない根拠不明の衝動でそういう動きを取る彼女は、非常に思慮の足りない、どうも信頼しきれない視点人物だな~と思いつつ読んだところ、結局何の伏線にもなっていなかった。鈴女の過去が事件の遠因でそれが行動の理由だった、みたいなのを期待したんだけど。
メタ的な視点で見て、鈴女は最後まで作品世界の中で浮いたままだ。それが作者の意図……ってわけじゃないだろうなぁ。 |
No.819 | 9点 | ツィス- 広瀬正 | 2020/10/19 11:07 |
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小さな出来事がどんどん広がるさまはスリリング。社会心理学的な卓見に膝を打つ一方、人肌の文章が巧みなので、ページを繰る手が止まらないのに熟読したいと言うアンビヴァレントな状態に。乱暴な比較ながら小松左京『日本沈没』より面白い。
と思いつつ読み進むと更なる驚きで顎が胸まで落ちた。コレには自分の中でも賛否両論あるが、風景がガラリと変わり戦慄したことは間違いない。1955年刊行の米SF長編(作者名出すだけでネタバレしそう)に対する回答とか言ったら安易だけど、ミステリとしても読めるパニック小説。 |
No.818 | 7点 | ムシカ 鎮虫譜- 井上真偽 | 2020/10/19 11:04 |
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なーんだ、“絶海の孤島連続殺人・特殊設定付き”じゃないんだ。と気持を切り替えるのに時間がかかったことが悔やまれる。
多重進行で忙しない程リズミカルなストーリー。キャラクター設定も、あざといがきちんと立っている。表紙イラストを漫画ではなく写実的なタッチにしたのは、イメージの補強として大正解。西尾維新『零崎曲識の人間人間』との差別化? いい音! |
No.817 | 6点 | ジョーンズの世界- フィリップ・K・ディック | 2020/10/16 14:37 |
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これ、短編を3つ切り貼りして作ったんじゃないの? 原題は『The World Jones Made』だが、タイトルに掲げられた“ジョーンズ体制”よりも、金星への入植とか宇宙からの謎の物体とか、よりチープなSF的アイデアのほうが面白かったりする。それゆえ多面的な読み方をせざるを得ない、と言う妙な仕上がりに。後半で明かされる、未来を知る男ジョーンズのグロテスクな苦悩は怖い。 |
No.816 | 5点 | 二百万ドルの死者- エラリイ・クイーン | 2020/10/16 14:35 |
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好みのジャンルではないし、これと言った捻りも無いし、旅程の進行につれて物語の背景が変遷するさまは風刺的な気もするけど、もっと上手い書き方があったんじゃないか。ヨースト爺さんのエピソード(の淡々とした描き方)は良かった。 |
No.815 | 5点 | T型フォード殺人事件- 広瀬正 | 2020/10/16 14:33 |
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複数人が結託してアレを仕掛ける、と言う話は心情的に理解出来ないことが多い。何故それがベストな方法だと思うのだろうか。本書のケースも、首謀者の思いは判らなくもないが、相手が理性的に対応する保証は無い。自殺未遂が発生したし。安易に協力していいものか。 |
No.814 | 5点 | 柚木春臣の推理 瞑る花嫁- 五代ゆう | 2020/10/16 14:30 |
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あちこちに覚えのある伏線が見受けられ、AとA´は実は別人とか性別誤認とか探偵=犯人とか色々勘繰ったけれど、ミステリ的には結構素直なキャラクター小説と言うべきものだった。もっと捻っても良かった。“大旦那様”のイメージの振れ幅が肝か。チェンバロの上に座ってはいけません。 |
No.813 | 8点 | エロス- 広瀬正 | 2020/10/11 11:02 |
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良い意味でアクの無い筆致で綴られる昭和初期の青春。文献渉猟の跡を感じさせない血の通った文章が、事物を羅列しつつも知らぬ間に温かさを醸し出す不思議さよ。第12回オリンピック(1940年)は一旦東京開催に決まったものの時局悪化により開催権が返上された、なんて知ってた?
ほぼこのままで優れた中間小説として成立しそうなのに、ちょっとしたトリックを付け加えたのはジャンル作家の意地か。北村薫〈時と人 三部作〉より20年以上早くこんな作品が世に出ていたなんて。 |
No.812 | 7点 | 人間そっくり- 安部公房 | 2020/10/11 10:57 |
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思索的な文芸としてのSFの定義を問うような作品。これをやり過ぎると単なるインテリ気取りにもなりかねないが、引き際を心得ていてセーフ。私は夢野久作『ドグラ・マグラ』の一部分を切り出してポップに変換したみたいだと思った。つまりミステリとしても読めるってこと。
ゆうきまさみ『究極超人あ~る』の元ネタはこれか(嘘)。 |
No.811 | 5点 | 告白の余白- 下村敦史 | 2020/10/11 10:55 |
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この小説そのものが、“よそさん”がイメージするいかにもな京都っぽさ、であってどこまで表でどこまで裏か判然としないのだけれど、それも含めて常識的な範疇に収まってしまったように思う。兄と彼女の因縁、現金ではなく土地の譲渡と言う形にした理由等、全然意外な真相が用意されておらず落胆。 |
No.810 | 6点 | 最後の一撃- エラリイ・クイーン | 2020/10/11 10:53 |
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非常に不自然な殺人計画。しかも、想定外の展開をしたにもかかわらず、軌道修正せずにのんびり最終日まで引っ張っている。
足止めを喰らい標的が逃げられなくなったのは○。それを殺す前に自分が検挙されるリスクは×。この計画の最終日は“この日のうちに殺さないと意味が無い”と言うリミットなんだね。自身に対するプレッシャーとしては有効? と言った犯人の気持の揺らぎが事件からまるで感じられずがっかり。 ――しかしそれは真相を知った後に思うことである。読んでいる最中は、作り事めいた状況に対応を決めかねる面々の微妙にイヤな感情を孕んだパーティーを楽しめた。その人がその人であることをどうやって証明するのか問題も◎。 |
No.809 | 8点 | デリバリールーム- 西尾維新 | 2020/10/05 12:09 |
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Q・delivery room とは「宅配便の集配所」を意味する英語である。○か×か。
Q・西尾維新は実は女性で、自身の妊娠出産をきっかけに本書を執筆した。○か×か。 Q・本書の帯には“新境地すぎる新境地”と謳われているが実際はそれほどでもない。戯言シリーズと忘却探偵シリーズの中間あたりの世界観。○か×か。 Q・本書の映像化は不可能である。○か×か。 Q・本書はとても楽しめた。○か×か。 |