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虫暮部さん
平均点: 6.20点 書評数: 2075件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1335 5点 不知火判事の比類なき被告人質問- 矢樹純 2022/12/01 12:21
 期待したより小粒だった。各話の伏線の張り方が似通っていて、2話目以降は山勘でなんとなく判ってしまう。
 一方で、漫画原作者としてのキャリアで得たノウハウが、今までの小説作品の中では最も上手く生かされている気がして(読者の勝手なイメージだけど)、それだよ! と言う嬉しさもあった。次作への期待が募る足踏み?

 「二人分の殺意」のネタについては、現実性に懐疑的な見解もあるようだが、私は有り得る事象だと思っている。

No.1334 5点 魔物が書いた理屈っぽいラヴレター- 林泰広 2022/12/01 12:20
 類型に嵌まらないような工夫はあるし、内容のエッセンスも悪くないが、どうしても安物感が拭えない。とは言え、軽く読み流せる娯楽作品が悪いわけでは全く無いしね。文章に深みが無いのは “理屈っぽい手紙” との設定に合わせたのだろう、と好意的に(意地悪く?)考えておこうか。

 ※表紙イラストが見取り図?

No.1333 4点 帽子収集狂事件- ジョン・ディクスン・カー 2022/12/01 12:19
 真相にはちょっとびっくりしたが、そこに辿り着くまでの事件の成り行きには物語の躍動感があまり感じられず、もっと何かあるだろと期待は募るものの叶えられないままいつの間にか解決編へ突入してしまい、そこで最も判らないのは最後に捜査陣が何故あんな票決に至ったかであって、捜査の過程で新たな人死にが出た件に関する責任を頬かむりしているように見えるのだがそのへんどうなんだフェル博士?

No.1332 8点 巫女の棲む家- 皆川博子 2022/11/24 12:27
 “霊媒” の一語で始まるが、その交霊術はホンモノではない。しかしそれが人の心の中で蠢き、悪意ではなく心霊現象的事象が生まれ、ホンモノの定義が揺らぎ、信仰が成立するさまが、非常な説得力で描かれている。複数の語り手の思想の違いが、そして彼等がその道に踏み出す気持が、伝わって来た。心の弱い人がそうなるんだろうなんて安易な理解は斬って捨てられるのだ。
 四割くらい作者の経験談だそうで納得。この面白さは危険だなぁ。私は、カルトに嵌まる下地を本書で調えられてしまったかも……?

 ところが結末で急転直下、乱暴な着地を遂げてしまう。この雰囲気には覚えがあるぞ。風呂敷を広げ過ぎた連載漫画が、期待したほど人気が出ず、あと3回で完結させて下さい、ってことで急いでまとめにかかるあの感じ。ページ数の制限があったのだろうか。作者の望んだエンディングとは思えない。

No.1331 7点 名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件- 白井智之 2022/11/24 12:25
 これが大虐殺の真相だ。えっ、マサカー!? なんちて。
 全体の構造に関しては類似作が色々思い浮かんでしまうが、それでも演出が良ければ面白くなると言う好例。

 しかし文句もある。遺体の胴体を切断。更に中身がでろんと零れ落ちないように運搬。さぞかし実行は大変だろう。
 “余所者は壇上で二つに分割されるべし” とか予言があったわけでなし。あんなことする理由があった? あれに意義があるとした推理はダミーでしょ。
 あともう一点、犯人の認識と行動に於ける矛盾……は既に指摘された方がいるのでお任せします。

No.1330 6点 あなたへの挑戦状- 阿津川辰海 × 斜線堂有紀 2022/11/24 12:24
 こんな企画を立てたら、こうやって読者にカードを開いて見せたりするのもまぁ当然の発想か。確かに興味深いが、創作の内幕を明かすのはあまり好きではない。これだけ作風の違う2編を抱き合わせるのは良し悪し。小説作品を、小説以外の要素で水増しした、との感も否めない。小説だけで充分楽しめる出来なんだけどね。

No.1329 6点 五色の殺人者- 千田理緒 2022/11/24 12:17
 地味で小粒。好感は持てる。犯人に追われる場面はスリリングだった。しかし金看板は似合わない。賞の次点として世に出るくらい方が、寧ろ気分的に高く評価出来たかも。

 ところで、選評で紹介されている本能寺かぼちゃ作品は、まるで某このミス大賞文庫グランプリ作品だけど……?

No.1328 5点 奇商クラブ- G・K・チェスタトン 2022/11/24 12:16
 ACの『パーカー・パイン登場』みたいね(逆か)。
 “何か新しくて変わった金儲けの方法”――要は “そんなことに金を払うかな?” との設問があり、“払う人は払うだろう” と作者が思うなら、読者としてはハイそうですかと受け入れるしかない。“奇妙な成り行きはヤラセでした” と言う話(私はコレ、夢オチより嫌い)が3編も重複している点を鑑みると、基本設定自体に無理があったと思う(あっ、でも昨今はレンタルファミリーなんて商売もあるから、実は物凄い先見性?)。ダンシング教授の話だけをノンシリーズの短編として出すべきだった。

No.1327 8点 サーカスから来た執達吏- 夕木春央 2022/11/17 12:12
 これは堪らん。子供の頃に少年探偵団シリーズを読んだ時のワクワク感が、アップデートした上で具現化されている。更に教養小説としてもごく自然に読ませる匙加減の巧みさ。何よりもユリ子のキャラクターの勝利ではあるが、もたらされる気付きと素直に向き合う鞠子も共感度合いは高し。

 しかし、財宝消失の夜の真相で納得出来るのは半分(消失の方法)だけ。そこに至る下手人の行動、タイミングの絶妙さは、成り行きを100%知っている神のようだ。そもそも、騒いで “別荘には人がいるぞ” と知らせれば泥棒は退散するのでは?

No.1326 7点 雲なす証言- ドロシー・L・セイヤーズ 2022/11/17 12:11
 前作のように変なトリックに腐心するのではなく、人の気持の襞に分け入ったのが奏功したか。事態が擁する非常な偶然については当然突っ込みたくなるけれども、作者としても重々承知の上で、弁護人に “運命としか言いようのない” とか言わせて自己弁護しており、それならまぁいいかと言う気分になる。或る種の様式美に則ったドタバタ劇と言うことで、ピーター卿もお疲れ様でした。

No.1325 7点 法治の獣- 春暮康一 2022/11/17 12:11
 表題作は、ややチマチマした印象が残った。
 一方、「方舟は荒野をわたる」のアイデアは驚異的。ゲル状のでかい “顔” が岩場をぐねぐね移動するイメージが強烈。いや、それは間違ったイメージなのだが、浮かんでしまったものはしょうがない。私が今こう考えているのも、体内の微生物の行動のせいだったらどうしよう。謎を解き明かす話、ではあるね。

No.1324 5点 うさぎの町の殺人- 周木律 2022/11/17 12:10
 酷な言い方をすると、葵がしつこく探り続けたから人死にが増えたのである。最初から彼女を殺すか、尋ねることを尋ねた後すぐ解放していれば良かった。
 何故監禁したのか → エピローグで示唆された事柄が事実で、コンタクトする手段が監禁しかなかったなら、それは哀しく且つ気持悪い。

 以前に比べれば小説として良い意味で柔らかくなった気はするが、心情の機微みたいな部分はやはり苦手なのか。だとしたら、真相がああいう方向に向かうのも、得意分野で勝負しようと言う必然かもしれない。“二重三重の安全策” が裏目に出て同士討ち、の皮肉さをもっと強調したほうがいいのでは?

 ラスト前では、偽情報を流して無関係な人を囮にしてるよね。しかもその人は事情を知らないので、命を救われたと感謝している。酷いマッチポンプである。

No.1323 8点 爆弾犯と殺人犯の物語- 久保りこ 2022/11/16 09:59
 まず巻頭には、彼女の硝子玉にまつわる、殺伐としつつフラジャイルで、総体的にはだいぶ純粋なアイの物語。言葉の、そしてエピソードの、積み重ね方に確かな感性が窺え、更にそれがプロローグに過ぎないと知って私は驚く。
 新興宗教の扱いも上手いし、漢字大好き少年と言う設定は、読書家に大いに受けるのではなかろうか。
 一読、センス重視の作家に思えるが、例えば各話の長さと配置のバランス等を見ると、結構計算の出来る器用な人かも。どちらにせよ上出来である。

No.1322 8点 ドクター・ブラッドマネー 博士の血の贖い- フィリップ・K・ディック 2022/11/10 12:25
 私の引き出しが乏しい故に安易な連想に走っているのは承知の上で、人口密度の低い田舎のコミュニティ、割と典型的な “市井の人” のキャラクター設定、ころころ交代する視点人物――まるでアガサ・クリスティが核戦争後の世界を描いたような小説。
 そしてそれがまた面白い。フリークス系のエピソードも雰囲気のせいで当たり前の話のように読めてしまった。複数のネタが平行して、適度に干渉し合いつつ、きっちりした結末には落とし込まずにタイムゴーズバイ~とばかりに何となく〆る。ディックのやり口にはだんだん慣れて来たぞ。

No.1321 7点 すばらしい新世界- オルダス・ハクスリー 2022/11/10 12:23
 ぶっ飛んだ世界設定が素晴らしい。バーナードは異分子としては些か小物で先行き不安だったが、半ばあたりで新キャラクターが投入され一気に盛り返す。彼も古典文学に毒された変な奴。世界統制官とのディベートは圧巻。読んで面白いディストピアはやはりこれだね。

 ところで、本作は早川書房の世界SF全集に、ジョージ・オーウェル『一九八四年』とカップリングで収録されたりしているが、この2作って混ぜるな危険と言うか、共にディストピア小説の古典とはいえ発想が逆方向。オーウェルは先生に反抗したくてあんなふうに書いたのでは。いや、本来そんな比較する必要など無いんだけど、ついしてしまう、ありがた迷惑な企画なのである。

No.1320 6点 事件は終わった- 降田天 2022/11/10 12:23
 ミステリ? ホラー? 少し不思議? ジャンルはともかく、良く出来ている。最終話が一番面白い。
 のだが、この人達に期待するものとは違う、との思いをずっと引きずったまま読んでしまった。のだが、それをあまり言うと “想定内のものだけ書いて欲しい” ってことになるわけで、それも何か違う。うーむ。

 気になった点:オカルト的要素の位置付け(要はアリかナシか)が統一されていない。特に3話目を読んだ時に首を捻った。そうなると4話目の鏡の中のアレも幻覚なのか心霊なのか。連作でこれは戴けない。

No.1319 5点 紙の罠- 都筑道夫 2022/11/10 12:18
 なんだかごちゃごちゃした話。みんながみんな軽くウィットを効かせた話し方なので、効き目が薄いし人物の書き分けに貢献出来ていない。更に問題なのは、二転三転する物語を転がす要所々々のアイデアがそれほど面白いとは思えないこと。
 そして、末尾近くの大乱戦で “終幕” な気分になってしまったが、――“畜生、あの紙、もったいねえなあ。なんとかならねえか”――考えてみるとあの状況で諦める理由ってあるか?

No.1318 5点 録音された誘拐- 阿津川辰海 2022/11/10 12:17
 事件の様態は面白いが、真相はスッキリしない。
 複数の思惑が絡み合っているにしても、過剰な演出。それがどういう形で犯人の復讐心を満たしたのか今一つ納得出来ず。二つまとめて決行した方が無防備で確実だろうに。未確認情報を当てにしてそこまでやるかと言うのも疑問。

 糺が犯人に対して美々香の有能さをアピールすると、彼女が狙われるリスクは高まるわけで、無神経では。と見せ掛けて、糺はそのように犯人を操って美々香を殺させようとしているのでは、と本気で疑った。

 録音内容の文字起こしに【……】【!】などが使われていて、えらく文学的だな~(笑)と思った。それとも実際にあんな風に書くのだろうか。

No.1317 6点 最後から二番目の真実- フィリップ・K・ディック 2022/11/03 12:55
 ディックおなじみの “作り物の現実”。本作は結構即物的でロジカルで、さほどぶっ飛んではいない。特権階級が支配する世界像は、私なんかが読むと陰謀論者に対する揶揄に思えるが、作者は真剣な社会批評のつもりだったのかも。そのへんは “ホンモノ” を傍観する面白さ(?)。
 一応密室殺人が発生。このトリック、好きだ。今ならミステリとしてもアリかも(??)。
 ただ、近未来(もうすぐ追い付く)のテクノロジーの進歩、はいいんだけど、“時間” にまで手を広げたのは無節操に過ぎる。こればかりは次元の違う技術だと思うんだよね。いや、それでこそディック(???)。

No.1316 5点 蠟人形館の殺人- ジョン・ディクスン・カー 2022/11/03 12:53
 悪い意味でヴァン・ダインを思わせる臨場感の無さ。死体が蠟人形に抱かれていても全然怖くない。そういえばバンコランの態度のでかさがまるでファイロ・ヴァンス。
 ジェフのクラブ潜入捜査記は面白い。真相も説得力を感じた。動機が横溝正史みたい(逆か?)。

 13章。“気送速達便”――そんなシステムの存在を初めて知った。パリの全郵便局が気送管で結ばれ、数十分で手紙が目的地に到着していたそうな。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.20点   採点数: 2075件
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