海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1953件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1373 7点 invert II 覗き窓の死角- 相沢沙呼 2023/01/19 15:06
 “なにもそこまで” と言いたくなる程エスカレートする翡翠のもえもえきゅんな言動。内面的にはゆるふわ感など皆無なまま、その “型” だけが研ぎ澄まされる萌え要素。物凄い作者の悪意を感じるなぁ。
 『 medium 』と『 invert 』とでは、同じ描写でも読者の受け取り方は対極でしょ? 外面の菩薩(?)によって内面の夜叉をグイグイ突きつけて、その悪意を無理矢理読者にも共有させてしまう強引さよ。どんなにイラッとしても表層がコレだから嫌いになれないだろへっへっへ、と言う感じ。表紙イラストも写実的だし。

 しかし、月刊アフタヌーンのインタヴュー漫画『もう、しませんから。~青雲立志編~』によると、相沢沙呼は “元々、漫画的、アニメ的な表現を目指してキャラ作りや物語作りをしている” とのことで、メディア展開に関してもノリノリなのである。すると単に自分が見たい場面を書いているだけかと言う疑いも浮上する。いや、創作への動機付けとしては充分アリですけど。

No.1372 6点 七人の中にいる- 今邑彩 2023/01/19 15:04
 友行・一美夫妻の第一子が緑、第二子が一行。なんで弟の名前だけ両親の字を引き継いでるのか。さては緑が養子なんだな。養子を取った後で実子が生まれたんだ。同じパターンの家族がもう一つ登場するけど、それがヒントね。事件関係者が既に死んでいて復讐する立場の者がいない? そら来た! 緑の元の家族が存命でそれが復讐者、と言うのが真相さ。この作者は伏線を判り易く優等生的に張るよね。

 結局は全て私の勘繰り過ぎだったわけだが、だったらあのネーミングは何なの。伏線に見えて伏線じゃないダミー伏線?

No.1371 6点 ロボット文明- ロバート・シェクリイ 2023/01/19 15:04
 “悪を規範にした階級社会” と言うのは、やはり構造的に矛盾を孕んでいるのであって、本書の舞台も “悪党ごっこ” みたいな雰囲気で、但し殺人がシレッと許されているだけ。それを真面目に(見える書き方で)書いている可笑しみが効果的ではある。
 後半、失われた記憶の問題に矛先が向くとちょっとサスペンス風味が加わって、事の真相に私は結構驚いた。後年スパイ・スリラーを書いた萌芽が此処に?
 アイデアを幾つも連発している一方、物語の芯が良く言えば臨機応変、悪く言えばフラフラと頼りない。

No.1370 8点 驚愕の曠野- 筒井康隆 2023/01/12 12:09
 作者の、ではなく読者の自由な想像力を試すかのような本。一応 “人間” と表記されており “頭部と四肢をそなえて” いるそうだが、果たしてどのような姿形なのか。“猫” とは猫なのか。それこそ単語の一つ一つの内実を疑い吟味しながら読みたくなってしまう。私は塩肉を掘り出す場面がとても好き。

 そこまで捻くれた読み方をしなくても、少ない描写で背景の巨きな異界を読者に示す手管は快感。これを省エネ書法などと言ってはいけない。こじつけるなら、叙述トリックで言葉と物体をつなげて世界を折り畳んでしまう作品。

No.1369 5点 そして誰もいなくなる- 今邑彩 2023/01/12 12:07
 虎の威を借る狐、と言っては決め付け過ぎか、私は、こういう形で先行作品を取り込む書き方には批判的な立場である。
 しかし、それなりに上手く使っているし、それ以外の部分でミステリとして面白いので、目を瞑ってもいいかなぁと言う気持にはなった。
 しかしが続くがしかし、演目がオリジナルの脚本でも同様の効果は上げられるんじゃないかとも思う。すると、本歌取りは作者の遊び心の安易で過剰な発露、と言うことになる。うーむ。

 毒の種類は再考すべきだった。身近にあって、イメージ的には吐き出せば済む程度だが、実は死に至る猛毒、みたいなもの。洗剤とか? 作品の雰囲気を考えると、成分を特定せず適当にぼかしてもアンフェアにはならない気がするし。

No.1368 6点 合わせ鏡の迷宮- 愛川晶・美唄清斗 2023/01/12 12:06
 表題作に当たる「合わせ鏡」。緊迫した展開の日記と比べて、渦中の(?)人物がにこやかに謎解きをする場面が非常に絵空事っぽい。その逆転が批評的だとは言える。他の2つはいずれも好短編。

 作品としては及第点ゆえ、合作だからと余計なバイアスをかけないほうが良いと思うのだが、セールス戦略上しかたないのだろうか。
 併録のエッセイは無駄。それより往復書簡の形式にして、相互批判がエスカレートして罵倒合戦になり “解散だ!” みたいなオチはどう? 作風を和歌で例えた巻末の解説はなかなか説得力がある。

No.1367 5点 誘拐殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2023/01/12 12:05
 木に登って見張り(10章)。
 振り子運動が止まるまで一時間、ゴム栓が乾くまで一時間半、と根拠が非常に薄弱な推論(12章)。
 等、ヴァンスとマーカムの言動が “趣味の捜査ごっこ” って感じ。かと思えば三人殺しは何か有耶無耶になりそう。これは作者の公権力に対する批判的な反骨精神の表れなのである。多分。

 兄の義妹に対する隠れた(隠せてない)恋情を考えると、事件への対応は難しいところ。弟に対する情は当然あり、死んでいれば良いと思う程に非情なキャラクターではないだろうし、そんな態度を彼女に見せるわけには行かないが、チラリと心をかすめて困ったりもしてそう。
 読み返すと(ヴァン・ダインにしては)そのへんちゃんと解釈可能な書き方になっていると言えなくもなかったり。

No.1366 5点 僕はいつも巻きこまれる- 水生大海 2023/01/12 12:03
 能力はある作家がそこそこの気持で書いたような。いや、逆の見方をすべきか → 変な重さを感じさせずにサクッと読めるのが美点。ネット社会に対する切り口はありがちだが、清夏のキャラクターは良い。一人称の地の文が、あくまで “流行の言い回しを後追いしたセンス” って感じだ。まぁ匙加減は難しいよね。

No.1365 8点 幻坂- 有栖川有栖 2023/01/06 11:25
 読みながら六回泣いた。泣けば良いってもんじゃないけど。作中から引用すれば、ここにあるのはまさしく “道理を抜きにした確信” の嵐。自由な翼を手にした如くハズレ無しの作品集。有栖川有栖がミステリを選んでしまったことで、日本は優秀なホラー作家を一人失っていたんだな~。

No.1364 7点 ループ・オブ・ザ・コード- 荻堂顕 2023/01/06 11:24
 設定と展開は興味深いのだけれど、末尾4分の1が消化試合になってしまった感がある。勿論、判っている終幕へ上手に着地させるのも作家の腕であり、その意味で良く出来てはいるが、ラストにもう一つドカーンと驚きが欲しかったなぁ。原因が判明してもそれで事態が収束するわけではない、と言うのは示唆的。

No.1363 7点 時鐘館の殺人- 今邑彩 2023/01/06 11:22
 頭から4編は、それぞれ良く出来た作品だと思う。しかしその出来の良さ故に、却って伏線の張り方等の見当が付いてしまう。真相を全て見抜けたわけではないが、“あぁやっぱり……” の連続だった。
 「恋人よ」は、あまりにも下らないオチ、だからこそ予測出来なかった。
 表題作は楽しいね。私もあんな手紙を出してみたい。何か手頃な作品は無いものか。

No.1362 6点 ロリータ- ウラジーミル・ナボコフ 2023/01/06 11:21
 実際に読んでみると、とても本書が “スキャンダラスなベスト・セラー” だったとは思えないのである。コレからそこまでのものを読み取れた当時の読者は凄かった。何が?
 期待したようなエロティックなものでは全然ない。語り手ハンバートの煮え切らなさと保身、時たま頭に血が昇って起こす行動の突拍子の無さ、ばかりが前面に出ている。ロリータは決して無垢なだけのキャラクターではないが、かといってその早熟さも案外印象が薄く感じた。悪くはないが、長過ぎ。
 ところがラスト4分の1くらい、ロリータが消え去って以降が、坂を転げ落ちるような面白さ。あの手紙はショッキング! そして、“陪審席のみなさん” 云々の記述による基本設定について、ずっと騙されていたことに気付く。それこそ『アクロイド殺し』ばりの叙述トリック。いや、“少女との逃避行” って時点で犯罪か。じゃあ全編クライム・ノヴェルか(笑)。

No.1361 6点 ライダーは闇に消えた- 皆川博子 2023/01/06 11:19
 半端に退廃的な青春群像劇、かと思いきや存外にきちんとしたミステリに着地して好印象。中盤のバイク話に引き込まれて、気付いていた筈の伏線をいつの間にか忘れていた私。
 “作者が死んだら賞金が宙に浮く” と言う部分がピンと来ないが、そういうもんなの?

No.1360 6点 神の手- 望月諒子 2022/12/28 16:19
 何が起きているのかの判らなさで引っ張って読ませる力量はなかなか。でも物語を上手く畳めず引き伸ばし過ぎ。登場人物の情を雰囲気モノでなく説明する書きっぷりも、後半はややきつくなってしまった。誘拐とのつながりは唐突だけど、寧ろそれ故に作品世界とは合っている。パズラーじゃなくて、主題は “業” だから。
 作中作がそこまで凄い文章には思えないが……まぁそこは “設定” と言うことで大目に見よう。

No.1359 7点 可制御の殺人- 松城明 2022/12/28 16:16
 コレは後を引く。鬼界の思考にはそれなりに共感。私もこういう感想を出力するように入力されたのか……。
 そして本書は作者にとっても振り払えない呪いになってしまうのではないか。一作目にコレを書いた作家の、二作目に同様のシステムが仕込まれていないと誰が言えるだろうか?

 それはそれとして、事件の順番。殺人の後に窃盗が来るとちょっと気が抜けてしまうな。
 或る意味でミステリをつまらなくする機械工作を臆せずぶちこむ度胸とセンスは買う。生物と無生物の区別が不要ならば、ロボットが不気味に見えるのは筋が通っているしね。

No.1358 7点 ブラディ・ローズ- 今邑彩 2022/12/28 16:15
 真相を知った上で見直すと、本作は麻耶雄嵩のアレの元ネタみたいだ。こちらの方がスケールは小さい反面、辻褄は合っている。
 ダミーの推理はJDC? 狙って書いたのかは判別しがたいが、こっちを先に読んだらあっちを読んだ時がっかりしちゃいそう。但し理屈としてはあの可能性に思い至るのも妥当ではある。悩ましいところだ。
 生家へ逃げる場面が、ごく短いけれど、妙にツボに嵌まった。

No.1357 6点 バレエ・メカニック- 津原泰水 2022/12/28 16:13
 第一章と第二章はウロボロスの蛇? 私はただ作者の幻視に寄り添うのみ。しかしサイバーパンク化した第三章を読むと、ハードウェア絡みの部分で頭が過熱してしまう。最も包容力のありそうな千夏の出番があれっぽっちなのは勿体無い。

No.1356 5点 裏切りの塔- G・K・チェスタトン 2022/12/28 16:12
 そもそもチェスタトンには、コレがベストの書き方なのだろうかと首を捻らされることが多いけれど、本書収録の小説4編はみなその傾向が顕著で、つまり首を捻らせることが目的なのであろう。
 一方、戯曲「魔術」は名品。ストレートに楽しめた。芝居じみた台詞回しだから芝居に御誂え向き。成程やってみれば当然の帰結である。

No.1355 7点 濱地健三郎の呪える事件簿- 有栖川有栖 2022/12/22 16:31
 このシリーズ、巻を重ねるにつれて有栖川有栖の本道から斜めの方向へゆっくり逸れて来た感じ。収録作品から “謎” が減ったのは、作者が変節したわけではなく、その系統は純ミステリ作品の方で書くからだ、と希望的観測をしたい。但し、代わりに台頭して来た “シンクロニシティ” は、純ミステリに於ける “名探偵” の意義付けにも重なりそうなテーマだから、根っこはつながっているのだ。「伝達」のラストに薄ら寒さを感じた。

No.1354 7点 バイオスフィア不動産- 周藤蓮 2022/12/22 16:29
 御仕事小説にしてバディもの、教養小説にして未来予測シミュレーション。萌え要素もあり(いや、無いか?)。
 第一話、第二話はミステリっぽいけど、以降やや違った方向へ進んでしまった。第四話の理屈はなんだか苦しい。
 表紙で示されたような “なんじゃこりゃ” な異物感が小説全体にもっとばらまかれていて然るべき、かとは思う。特に、ユキオの入れ物がアレで中身がアレな設定は生かされていない。世界設定を言葉で描き切れていないのだから、意地悪く言えばアニメの原作に最適。こういうのは挿画を入れてもいいんじゃないですかハヤカワさん?

 正直なところ、この世界はかなり楽しそうだ。

キーワードから探す
虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1953件
採点の多い作家(TOP10)
山田正紀(107)
西尾維新(73)
アガサ・クリスティー(72)
有栖川有栖(51)
森博嗣(50)
エラリイ・クイーン(48)
泡坂妻夫(41)
歌野晶午(29)
小林泰三(29)
皆川博子(25)