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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1843件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1803 3点 バーニング・ダンサー- 阿津川辰海 2024/09/19 12:25
 ネタバレするけれど、特殊設定が雑だと思う。
 以下のことがミステリ要素に多大なる影響を与えたかと言うと、実はさほどでもない。“設定が曖昧だから記述された事柄のみ受け入れる” と割り切れば無問題。
 でもまぁ何と言うか、気分が殺がれた。

 ①『燃える』ではなく『燃やす』、自動詞他動詞の区別(厳密だな~)、と言う話題を挙げておきながら、コトダマ百種の中には変な言い方のものが混ざっている。例えば『腐る』『化ける』がそうで、これらは『腐らせる』『化けさせる』であるべき。『腐る』だと、遣い手自身の身体が腐って自滅するだけの能力になってしまう。厳密さが一貫していない。

 ②コトダマ遣いは、どのようにして自分の能力を知るのか? 神なり悪魔なりから “汝にコトダマを授ける” と啓示があるわけではないらしい。或る日突然宿った能力を、限定条件が偶然に整うことで自覚すると考えられる。
 しかし難易度の高いものがある。それは『真似る』で、限定条件は “コトダマ遣いを殺すこと” なのだから。
 つまり “殺さないと自覚出来ないが、自覚が無いなら殺す動機が無い” と言う矛盾を孕んでいる。
 フランスと同じ偶然が日本でも再度起きたと言うのだろうか?

 以上二点から、コトダマには作中に記述されていないルールや例外事項があると考えないと辻褄が合わない。

 細かいことだが③コトダマのうち『弾く』は【はじく】とも【ひく】とも読めるが、その点について作中でフォローされていない。
 ④コトダマの意味の解釈は日本語に準拠している(『化ける』とか)のだから、世界的規模ではなく日本語圏のみの現象とした方が良かったのでは。

No.1802 7点 百舌鳥魔先生のアトリエ- 小林泰三 2024/09/19 12:24
 着地点は結構読めるけれど否応無しに引っ張り回される不快感が快感。でも予測がついてもつかなくても、どの道でろでろになるのだから関係無いね。身体パーツの過剰はフリークス的イメージの基本だから “百舌鳥” と言う字は如何にも小林泰三っぽいじゃないか。あっ、人間ならともかく猫様にあんなことするなんて許せぬ。

No.1801 7点 虚ろな感覚- 北川歩実 2024/09/19 12:24
 読み進むにつれて登場人物間で病みが盥回しにされて怖さと可笑しみを同時に感じる。と言う意味では、どの短編も騙しの構造が割と似ている気がするけれど、味付けにヴァリエーションがあってワン・パターンではない。あやせさやかのイラストいいね(ハードカヴァー版)。
 唯一、「僕はモモイロインコ」のアリバイ・トリックは加害者被害者ともに動きが不自然で疑問が残った。

No.1800 6点 一八八八 切り裂きジャック- 服部まゆみ 2024/09/19 12:23
 本作に限らず “重厚な歴史小説” を読むとつい思ってしまうのだが、どの程度までが作者の功績なのか。これは資料を組み合わせて加工したもので、重厚さは参考文献に由来するのではないか。そういう作品って、取り上げられる時代・地域に関わらず雰囲気が似てない?

 さて本作、切り裂きジャックはエレファント・マンと並んでおかずの一品目で、主食はヴィクトリア朝ロンドンに於ける日本人留学生の生活記録と成長物語。さりげなく語り手の差別意識を滲ませた文体はなかなか巧みで、読書体験として良い意味でのツッコミどころがチラホラと。
 しかし後半は燃料不足で惰性でノロノロ走る感じだった。引っ張った挙句、ジャックの正体が全然面白くないのは大問題だろう。
 ディケンズの話題でジョーゼフと盛り上がる場面と、ビービを保護する場面が良かった。

No.1799 6点 首挽村の殺人- 大村友貴美 2024/09/19 12:22
 横溝を00年代に再現、しても様にならないが、その様にならなさが一つの個性ではあるかもしれない。田舎小説としては、やや紋切り型ではあるがなかなか読ませる。
 と言うのが全部カムフラージュ。真相に私はかなり驚いた。疫病神が本当に疫病神だった、と言う話。
 沢下、木下、沢田……ネーミングが雑じゃない?

No.1798 7点 短物語- 西尾維新 2024/09/13 12:04
 折々に限定的な場で発表してきた掌編を集めたもの。シリーズに関する予備知識を前提とした結構クローズドな作品群。ストーリー漫画の単行本のオマケ四コマみたいなものか。それで一冊作ってしまうのは、需要の有無も含めてなかなか特異な例であって、こんな手触りの本は今まで読んだことがない。“あとがき全集” ともやはりちょっと違う。
 意味有りげでは在りつつ、物語を本気で進める程の意味が有ってはならない、と言う縛りに則った有っても無くても良いような話が、こうして単行本化されることでシリーズの正規のエピソードとして “有るもの” になってしまったのだから、この本そのものが怪異と言っても過言ではない。妹とのアレを正規エピソードにしちゃっていいのか?

No.1797 8点 バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵- 真門浩平 2024/09/13 12:03
 計算し尽くされていて驚いた。最初の方の話の物足りなさも、一段ずつギアを上げて行く演出の為のバランスなのだと今なら判る。そこまでやるかってところまで容赦無く踏み込む心意気に呆然。私は、年齢については “こういう奴もいるよな~” と普通に納得していた。

 ところで、全く登場しなかった麻坂家のお母さんの職業は何か。
 ――父が警察官で子がケイジ。ならば有人は alto だから母は音楽家。どうかな?

No.1796 7点 復活するはわれにあり- 山田正紀 2024/09/13 12:03
 ジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライムでアクションをやってみたかったのだろうか。半身不随のおじさんがハイテク車椅子で大暴れ。感動ポルノにしてたまるかと言わんばかりのキャラクター造形はドロッと爽やか。主人公の不自由さが却って火事場の馬鹿力のように全体を引っ張って、かつてのスーパーアドベンチャー・シリーズのパワーを再生させている。
 惜しむらくは、“サイボイド” と言う特殊なガジェットが、見た目にせよ動き方にせよイメージしづらい。作者の筆も健闘してはいるが、あまり詳しく説明的な描写をするとスピード感が損なわれるので止むを得ないか。

No.1795 7点 開かせていただき光栄です- 皆川博子 2024/09/13 12:01
 かの時代、かの土地に於ける価値観、制度、技術などによって犯罪捜査やら何やらが随分違った様相を見せるのは時代ミステリの醍醐味。殺人の扱いが意外に軽くて笑ってしまった。物語の背骨は大きく湾曲していて、引き拡げられた肋骨の中に色とりどりの内臓が通常の三倍くらい詰まっている。美しい畸形だと感じた。♪熱くて冷たいハート。賢きは腎臓。肥大した肝臓は美味なり。ランララ~。

No.1794 6点 冬期限定ボンボンショコラ事件- 米澤穂信 2024/09/13 12:01
 ミステリ的には強引。同じ人が三年置いて同じような事故に偶然巻き込まれるのは如何なものか。新旧二つの件を平行して考証しているので紛らわしい。
 “旧” の方は腑に落ちた。問題は “新”。衝動的犯行、そして偶然その後も関わりが続く。そのへんまではまぁ良いが、正体を隠そうとした犯人の理屈は考え過ぎ。出口戦略が無いままの一時凌ぎで、余計な事後工作である。寧ろそのせいでバレてるよね。
 小鳩君達の心情の変遷を追う教養小説的要素は、いい感じと嫌な感じの背中合わせが一人称で巧みに描かれ期待通りなのだが、前述のように不安定な土台に載せてしまったのは戴けない。
 病院小説としてはなかなかの優れものじゃないだろうか。

No.1793 8点 詐欺師と詐欺師- 川瀬七緒 2024/09/05 12:02
 詐欺師バディの魅力的、ではないけれど目を離せなくなるキャラクター造形が上手いところを突いている。良い意味でキチンと、整然とした文体も好印象(例えばみちるなど、作家によってはグダグダな日本語不自由な喋り方にするだろう)。
 スマートに人を騙すヒントや注意点が色々まとめられていて、あなたも今日から詐欺師になれる。物騒なネタもチラついているが、藍には理性的に引いている一線があるし、コン・ゲーム的な騙し合いで着地するんだろう。
 ――と楽しく読んでいたらかなりびびった。おいおい、なんちゅう企みだ。復讐心とビッグ・マネーが結び付くとこんなんなるのか。
 最終的に何処までが計画で何処からが想定外か曖昧な嫌いはあるが、飲み込んだ錠剤が胃の中で実はコンクリート・ブロックだったと気付いた、みたいな気分で吐き気を押さえつつ拍手。

No.1792 7点 硝子の塔の殺人- 知念実希人 2024/09/05 12:02
 硝子の塔の図版を見て私は思った。中心の階段室を軸にして部屋が上下するに違いないと。部屋を全て下側に集めると、10Fが4Fの高さに来るわけだ(11Fの展望室は動かず)。
 だってエレヴェーター無しの10Fに70代が住んでいるなんて無茶じゃないか。

 書かれていないロジックに気付いた。
 二日目初頭のディスカッションで、神津島殺しについて。
 毒殺なら必ずしも犯人が現場で立ち会う必要は無いが、名探偵は言う。“犯人は犯行当時、壱の部屋にいたのではないかと思っています”。
 その根拠として “毒を前もって仕込むという方法では、殺害するタイミングを決められない。犯人は午後十時以前に殺したかったから、毒を手渡しうまく言いくるめて飲ませた、と考えられる” のように説明されているが、こうも考えられる。
 ――被害者は、ダイイング・メッセージを残す程に “これは毒殺だ” と確信していた。でも普通なら “何か悪いものでも食べたか?” ではないか。また、被害者は心筋梗塞を経験しているので、純粋な体調不良(って変な言い方だが)で苦しくなるケースも認識していた筈。にもかかわらず毒殺を確信したのは、犯人がその場にいてその口から聞かされたから、と言う可能性が高い。

 あのシリーズの新刊が出たら、ネタが一つ潰れちゃうね。
 マーガレット・ミラーは鏡じゃないぞ。

No.1791 7点 生ける屍の死- 山口雅也 2024/09/05 12:01
 被害者は増えても容疑者が減らない画期的な連続殺人。 
 欧米文化のパロディ的なコンセプトは好きだが、その手法としては私の嗜好と食い違うところがあり、作品に対して若干の歩み寄りを余儀なくされたことは否定出来ない。
 その理由の一部は長さに起因するけれど、単なる “謎とその解明” ではなくタナトロジーの一大伽藍になるのは作品成立上の必然であって、余計な部分が沢山あるように見えてもでは何処を削れば良いのかと問われると判らない。

 不満を抱えつつ “これがあり得るベストの形” と受け入れるしかないのか。ホワイト・アルバムは1枚ものにまとめればもっと名盤になったのに、みたいな話?

No.1790 7点 宇宙大密室- 都筑道夫 2024/09/05 12:00
 作者唯一のSFオンリー短編集、と紹介するには幅が広くて、SFとは? と尋ね返したくもなるが、それはともかく。
 都筑道夫のミステリの欠点は、奇妙な状況(密室に死体、等)が作られた “理由” を重視する割に、その説明が不自然で回りくどいことだと思う。SFならば奇妙な状況自体が前提(タイムマシンがあった、等)なので、説明に汲々とする必要が無い。
 だからかどうか、変なところに力が入らず自然に読める作品が揃っている。「頭の戦争」結末の落差に天を仰いだ私。

 コンセプトは割とありがちだが、【民話へのおかしな旅】のパートは “なめくじ長屋捕り物さわぎ” の派生物(とはちょっと違うかな?)、神も天狗も容疑者に含める世界観で、あちらはしかしやっぱり人間、こちらは本当に神が犯人もアリ、と言う対比になっているように思った。

No.1789 6点 狙われた女- 川上宗薫 2024/09/05 12:00
 読み終えて振り返ると、嘘から出たまことと言うか、事態はかなりの偶然から始まっている。“あの店のあの人のあの客” みたいな説明で話が通じちゃって、夜の街の社交界(?)がごく狭い一つの商店街みたいな印象だけど、そういうものなんだろうか。
 理由になっているようでなっていない動機(褒めてる)を筆頭に、プロットとしては “奇妙な話” てことで許容は出来るが、それを成立させるには世界観に物足りなさが残る。
 “官能小説のソウクン” に期待した程の文章の巧みさは感じられず。会話で話の広げ方(そらし方?)は面白かった。

No.1788 8点 夏と花火と私の死体- 乙一 2024/08/29 13:10
 サスペンスとしての構成の巧みさに、“私” の一人称記述を掛け合わせると、何気ない会話や田舎の情景描写(コレも上手い!)が微妙に色調の狂った画像のように見えて来る。何のツッコミも無しでそれが続くうち、自然にくふふと笑いがこぼれているのだった。
 手法としては一回限りの賭けだろうが、それでキチンと正解の中心を射止めた傑作。

 表題作だけで一冊に出来なかったことが欠点。

No.1787 7点 それは令和のことでした、 - 歌野晶午 2024/08/29 13:10
 本当にありそうな怖い話々。題材を物語にする技には安定感がある。但し突出した部分は見当たらないし、“近年社会問題化した事象を織り込む” と言う狙いが、こうやって一冊にまとめてしまうと約束事めいて少々鼻に付く。

 「わたしが告発する!」。死体が発見されなければ起訴も無いのだから、投了には早過ぎると思う。でも気持が折れちゃったんだね。

No.1786 7点 千一夜の館の殺人- 芦辺拓 2024/08/29 13:09
 私、本作のフーダニットについては途轍も無く驚いた。と言うのは、絶対に真相はYだと確信していたからである。気持良い程見事に引っ掛かった。一瞬だけとはいえ “ホラやっぱり” と思わせる場面もあったし、作者の意図的なミスリードだと思うんだけどな。

 一方で、殺人がインフレ気味だし、茶室の密室以外は死に方に個性が乏しくて、“命を奪う” と言うより “データを削除した” みたい。悪い意味ではなく人間を駒にしたパズル小説。しかし作者はこれを物語性重視だと後書きで述べている。うーむ。

No.1785 6点 キング&クイーン- 柳広司 2024/08/29 13:09
 ドカーンと突出したものは無いが、良く出来たエンタテインメント。但し真相はそれまでの展開からするとスケール・ダウンしたように感じた。
 ウォーカーのキャラクターについては、奇矯な中にも何かしら愛され要素が欲しかった。アレじゃ単なる嫌な奴だよ。如何にも “厄介だけど、実際にチェスが強いから仕方ない” と腫れ物扱いされそうだ。それなのに周囲の人達は割と好意的に手を差し伸べていて、そこが不自然に見えた。

No.1784 5点 暗殺をしてみますか?- 生島治郎 2024/08/29 13:08
 前半、あぶれ者の孤独感みたいなものに今一つ説得力が感じられず。このへんの微妙な差ってどこで生じるんだろうか。
 後半、暗殺計画が存外にチャチに思える。頭脳戦と肉弾戦の半端な中間地点。ああいう準備をしておいてこんなもんか、と。特に、相手方の側近があれで寝返る展開は安直。
 読み終えてみると、能力のある作家がキチンと仕事をした、と言う以上の独自性は見出せなかった。タイトルから連想するようなユーモラスな筆致でもない。もうちょっと何か欲しいな。

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虫暮部さん
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