皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1971件 |
No.1931 | 7点 | そのナイフでは殺せない- 森川智喜 | 2025/03/21 13:29 |
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漫画『亜人』(桜井画門)みたいな設定。なのでスッと馴染めたが、既視感もあった。警部の沸点低さと暴走に爆笑。“ファンタステックな奇譚” の心持で読み進めたところ、後半の騙し合いに翻弄されて満足。
ただ、生き返る時の設定 “傷はすべて消える” “すべての身体の部位が集まる” の線引きが曖昧だと思う。コレはラストの場面の “助かる方法はあるか?” に関わる問題で、私も熟考したがイマイチ判断し切れない。ナイフで再度自死すれば一日後に自分だけ生き返るのでは。あ、それより “食べたものを吐く” では駄目なのだろうか。 |
No.1930 | 7点 | チェインギャングは忘れない- 横関大 | 2025/03/21 13:28 |
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じんわりとした温かさが胸に残る、なかなかの快作。各々のキャラクターが立っているし、次第に距離を縮めて行く過程の繊細さとぶっきらぼうさのハイブリッドが良い。
ただ、全体の構図が芝居じみて感じられなくもない。脱走とかより素直に警察に情報を伝えた方が犯行を防ぐ可能性は高かっただろうし、回りくどい対処法をわざわざ選んでいるように見える。もっと否応無しに巻き込まれる設定に出来たら良かったのでは。 |
No.1929 | 7点 | アルキメデスは手を汚さない- 小峰元 | 2025/03/21 13:28 |
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ここには “そんな奴いないよ” と思わされるキャラクターであるが故の説得力がある。人は百人いれば百通り。共感出来なさも含めて共感出来た。
トリックの類は大したことないが、私はいつの間にか謎解き小説と言うよりも一種の寓話のように読んでいたので無問題。偶然頼みの最後の手掛かりなんぞ、寧ろ神の啓示の如く感じられたことであった。 |
No.1928 | 6点 | きみはサイコロを振らない- 新名智 | 2025/03/21 13:27 |
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ネタバレあり。
水彩画の如き淡い筆致のミステリアスなホラー、を狙っているならそれは実現出来ている。が、それ故に薄味で小粒な印象を残してしまうジレンマ。 少々引っ掛かる点がある。【小坂さん→シュウさん】と連鎖する呪いの流れがある。その上で更に、【シュウさん→語り手】の流れだと思われたが、実は【雪広→語り手】の流れだった。葉月さんのところで交差しているように見えるのは、莉久が共通の知り合いであるからと言うだけの偶然である。 と言うことだよね。それが或る種のサプライズの部分だと思うけれど、読者に伝わり易く説明されていないし、ラストの成り行きもその認識を強く踏まえたものにはなっていない。 “非科学的事象に関する論理的な説明” を求めるのも変だが、本作に関してはそのへんを理詰めでキッチリさせてこそ、最後の最後に残る理不尽が生きるのではないかと思う。 |
No.1927 | 5点 | 人形は眠れない- 我孫子武丸 | 2025/03/21 13:27 |
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あとがきで作者自らコンセプトを説明しているが、八七分署シリーズ等は捜査小説だから成立するのである。薄味とは言え本格ミステリで、“意味ありげに並べて書いたアレとコレは実は無関係でした” ではオチとして満足するのは難しい。連作短編にした方がまだましだったのでは。 |
No.1926 | 8点 | 同志少女よ、敵を撃て- 逢坂冬馬 | 2025/03/12 13:23 |
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とても格好良い冒険小説だと思う。
クローズド・サークルより剣呑な極限状況で、壊れそうになりながら足掻く少女達の苦闘。を読んで熱くならずにいらりょうか。戦争を題材にした表現にありがちな “模範的解釈” を迫る圧が薄いので、遠慮無く血湧き肉躍らせた。 裏の裏を読んで勝つこともあれば、読みの浅い敵の行動に却って負けることもある。ってのが良い。『地雷グリコ』に欠けていたのはそれだ。 |
No.1925 | 6点 | 罪人よやすらかに眠れ- 石持浅海 | 2025/03/12 13:22 |
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あまりに無色透明。大したエピソードも語られていない(ように感じる)のに、唐突に伏線が示されその裏の真実が浮かび上がってびっくり。雑誌掲載時にはそれだけで個性だったかも知れないが、一冊にまとまると、その無から有を生み出すような鮮烈さが却って仇になったか、単調に思えた。最終話だけは “事件” が最初からくっきり描かれていたけれど、他の話ももう少し色分けして欲しかった。謎の中身自体は良い出来。 |
No.1924 | 5点 | 日曜日には鼠を殺せ- 山田正紀 | 2025/03/12 13:22 |
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絶体絶命難攻不落呉越同舟裏切り必至――みたいな短編をこの作者は幾つも書いており、それでは物足りないからもうちょっと引き延ばそう、と言うことで中編の祥伝社文庫に一冊、とまぁそれ以上のものではない。あの人が自ら身を投げ出すのは意外だったけど、基本設定が弱い(舞台になる “恐怖城” の情景がイメージ出来ない)ので後半の展開もあまり驚けない。漫画の原作には良いかも。 |
No.1923 | 5点 | 絶望の歌を唄え- 堂場瞬一 | 2025/03/12 13:21 |
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語り手のキャラクターがイマイチなんだけど、その周囲の脇役達は色々な方向性の人がいて、惹き付けられる “場” になっている。或る種の諸行無常感を孕みつつもテンポは良く、熟練のカジュアルなハード・ボイルド(悪い意味ではない)。
しかし読み終えて振り返ると、場当たり的にエピソードを並べた感じ。バランスが悪く、“伏線とその回収” にもなっていない。そういうことだったのか! と認識に快感が伴うような、フィクションとして面白い真相ではないのだ。 |
No.1922 | 3点 | ハーメルンの笛を聴け- 深谷忠記 | 2025/03/12 13:21 |
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何か変だ。
ネタバレ気味になるが、一連の手紙と犯人のスタンスがおかしくないか。 たまたま奇特な刑事がいたが、本来ならあんな地味な手紙では黙殺されかねない。単なる不謹慎な悪戯にも見える。“社会状況に対するメッセージがある” なら、マスコミに大々的に送り付けるとかする必要がある。 勿論そういうことをすれば警戒され実行は難しくなる。実際、最後は情に訴えて見逃して貰っただけで、実質的には詰んでいたのだ。“ラストで示された目的の成就を優先する” なら、犯行予告などすべきではない。 実際はどちらでもない。あの手紙のやり口はまるで、関係者を不安がらせ、あわよくば警察とゲームをしてみたい、“愉快犯” のようだ。犯人としては、自己正当化の為にも、そうとだけは思われたくない筈である。 と言うことで、事件の表層的なプロットと、その根底の動機を、上手く寄り添わせることが出来ていないと感じる。そして、物凄いトリックがあるならともかく、本作の場合、“心情” に説得力が無いなら失敗ではないだろうか。 そぐわない犯行がある点は、私も気になりました。 |
No.1921 | 8点 | 感応グラン=ギニョル- 空木春宵 | 2025/03/05 14:21 |
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これはまた純度の高い文章。耽美だけでなく日常も的確に書けた上での夜の夢こそまこと。オリジナリティと言うよりは咀嚼力の高さで、とある嗜好に関する絶妙な良いとこ取りを成し遂げている(悪い意味ではない)。一見さんお断りみたいな顔して、意外にも3ページ頑張ったらその先はスルスル読めた。
“苦しみが束になって心を焼き切る” とか、“食べてしまいたい” とか、“肉体の変容” とか、使い回しが気にはなる。そりゃあ同じ命題を何度も繰り返す作家なんて珍しくないものの、短編集の編集をもう少し戦略的に考えても良いのでは。 |
No.1920 | 7点 | うそつき、うそつき- 清水杜氏彦 | 2025/03/05 14:21 |
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“嘘発見器に伴うコミュニケーションの変容” と言った世界設定は良く考えられている。失い続けて哀しめないことの哀しさよ。誰の話が嘘か真か、主人公はこんがらがったが私にも判らない。
終盤、“ピースが嵌まる” と言うよりは、流れるままに諸行無常エンディングへ着地したのは少々残念。ミステリ的な捻りを期待し過ぎた。 これらを纏めて牽引する文章と、その向こうに感じられる世界へのまなざしや距離感は、とても心地良い。第5回アガサ・クリスティー賞受賞作と言われれば成程、ハヤカワ文庫JAに似合いそうな作品である。 |
No.1919 | 7点 | 臨床法医学者・真壁天 秘密基地の首吊り死体- 高野結史 | 2025/03/05 14:20 |
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いや~、全然気付かなかった。三人称みたいな一人称記述がキャラクター設定とピッタリで、尚且つ作品成立上有効に機能しているあたり只者ではない。パズラーと言うよりは、児童虐待ネタの情緒的な雰囲気に流され気味なのがちょっと残念。しかしそれ故に反転の驚きが大きかったとは言えるので、それも有効な演出だろうか。 |
No.1918 | 5点 | 猫の耳に甘い唄を- 倉知淳 | 2025/03/05 14:19 |
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読む前に題名を見てアレみたいだな~と思ったら本当にそうだとは。因みにインスパイアされてるのは題名だけじゃないよ。話の内容と無関係な装画がグッド。
物語としてはまあまあだけど、加えられた仕掛けが面白さを増幅する方向へは働かなかった、と思う。“チラシ裏の怪文書” のエピソードは狙いがさっぱり判らない。 |
No.1917 | 4点 | 嗅覚異常- 北川歩実 | 2025/03/05 14:18 |
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イマイチ。もともと情緒豊かな書き手ではないけど、それにしても “必要なことだけでいいでしょ” とばかりに速足で駆け抜けてしまった。書き下ろしの中編と言う企画に対してアイデアのサイズを見誤ったか? |
No.1916 | 7点 | 花嫁は二度眠る- 泡坂妻夫 | 2025/02/28 12:39 |
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泡坂妻夫っぽい遊び心は影を潜め、なかなか上手く “普通のミステリ” に擬態してみせた。首吊りのトリックはナイス(タイミングを図るのは難しそうだが)。読み返すと伏線も色々細かく張られていて楽しい。
ただ、それよりも私が引き込まれたのは人物造形の妙。この人がこう思ってこう動く、それに反応してあの人がああ動く、と言う絡み合い方に非常に説得力を感じた。 ラスト・シーンについて。犯人は二人殺して、死刑を回避出来るのだろうか。情状酌量の余地があまり無い気がするんだよね。つまるところ動機は保身と金だし。そして、出席者の顔ぶれ。事情は伏せたんだろうけど、いずれ知れるでしょう。残酷だよ……。 |
No.1915 | 7点 | 蜘蛛の糸は必ず切れる- 諸星大二郎 | 2025/02/28 12:38 |
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怪奇小説第二弾。殺人事件が起きたり、記憶が曖昧だったり、叙述トリック(と言う程でもない)だったり、追う者追われる者だったりと、ミステリ的趣向……なのかと思わせておいて全然そうではない。黒々と墨でにゅるりと象ったような語りの密度は高く、中でも「船を待つ」の寂れた港の空気感とあやふやな結末が良かった。 |
No.1914 | 6点 | 北の椿は死を歌う- 皆川博子 | 2025/02/28 12:38 |
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椿姉妹を始め事態の原因となったアレコレが面白いのに、最後に駆け足で説明されるだけ。裏側に引っ込め過ぎではないか。斎原家を訪ねるあたりまでは表側から描くのも仕方ないが、後半は倒叙っぽくして殺しの過程や心理をしっかり書いて欲しかった。暴走して殺しのハードルが下がるあの人と、“ついて行けん” と見切ってしまうあの人と。だいたいそっちの方が作者の得意技じゃないか。
はっきり書かれてはいないが、万起子は “ずっと熱心に妹を探していた” と言うより、“ちょっとした偶然をきっかけに火が点いた” みたいに思える。その結果がアレでは非常に据わりが悪い。故に却って残酷なインパクトを感じた。 新婦失踪の真相はかなりの綱渡り。ただの失踪で良いのにリスクを冒して成りすましをする必要は無いよね。 |
No.1913 | 6点 | 人形は遠足で推理する- 我孫子武丸 | 2025/02/28 12:37 |
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激しく乱高下する語り手の気持の渦に巻き込まれて泣いた。
しかしミステリ的にはフェザー級。偶然を何処まで許容するかと言う問題で、バスにその人が乗っていた件は蛇足だと思う。 |
No.1912 | 5点 | 訃報は午後二時に届く- 夏樹静子 | 2025/02/28 12:36 |
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ツカミのエピソードの上手さに感心した。事件に巻き込まれる自然な流れで、更にオリジナリティもあると思う。
それだけに真相には失望。作中で言及されているように却ってアリバイが保証されかねないし、もっと確実な口実が何かしらあるだろうに。 “幻の女” 探しになるかと思ったがそっちへは進まず。決定的矛盾とまでは言わないが、事件関係者は皆多かれ少なかれテンパっていて不合理な行動を取っている。 最後に明かされるトリックも “そこまでやるか?” と言う印象。例えば “不慮の事故で落ちてしまったものを、これ幸いと利用した” みたいな、心情的にもう少し説得力のある設定に出来なかったものか。 |