皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1843件 |
No.1363 | 6点 | ロリータ- ウラジーミル・ナボコフ | 2023/01/06 11:21 |
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実際に読んでみると、とても本書が “スキャンダラスなベスト・セラー” だったとは思えないのである。コレからそこまでのものを読み取れた当時の読者は凄かった。何が?
期待したようなエロティックなものでは全然ない。語り手ハンバートの煮え切らなさと保身、時たま頭に血が昇って起こす行動の突拍子の無さ、ばかりが前面に出ている。ロリータは決して無垢なだけのキャラクターではないが、かといってその早熟さも案外印象が薄く感じた。悪くはないが、長過ぎ。 ところがラスト4分の1くらい、ロリータが消え去って以降が、坂を転げ落ちるような面白さ。あの手紙はショッキング! そして、“陪審席のみなさん” 云々の記述による基本設定について、ずっと騙されていたことに気付く。それこそ『アクロイド殺し』ばりの叙述トリック。いや、“少女との逃避行” って時点で犯罪か。じゃあ全編クライム・ノヴェルか(笑)。 |
No.1362 | 6点 | ライダーは闇に消えた- 皆川博子 | 2023/01/06 11:19 |
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半端に退廃的な青春群像劇、かと思いきや存外にきちんとしたミステリに着地して好印象。中盤のバイク話に引き込まれて、気付いていた筈の伏線をいつの間にか忘れていた私。
“作者が死んだら賞金が宙に浮く” と言う部分がピンと来ないが、そういうもんなの? |
No.1361 | 6点 | 神の手- 望月諒子 | 2022/12/28 16:19 |
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何が起きているのかの判らなさで引っ張って読ませる力量はなかなか。でも物語を上手く畳めず引き伸ばし過ぎ。登場人物の情を雰囲気モノでなく説明する書きっぷりも、後半はややきつくなってしまった。誘拐とのつながりは唐突だけど、寧ろそれ故に作品世界とは合っている。パズラーじゃなくて、主題は “業” だから。
作中作がそこまで凄い文章には思えないが……まぁそこは “設定” と言うことで大目に見よう。 |
No.1360 | 7点 | 可制御の殺人- 松城明 | 2022/12/28 16:16 |
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コレは後を引く。鬼界の思考にはそれなりに共感。私もこういう感想を出力するように入力されたのか……。
そして本書は作者にとっても振り払えない呪いになってしまうのではないか。一作目にコレを書いた作家の、二作目に同様のシステムが仕込まれていないと誰が言えるだろうか? それはそれとして、事件の順番。殺人の後に窃盗が来るとちょっと気が抜けてしまうな。 或る意味でミステリをつまらなくする機械工作を臆せずぶちこむ度胸とセンスは買う。生物と無生物の区別が不要ならば、ロボットが不気味に見えるのは筋が通っているしね。 |
No.1359 | 7点 | ブラディ・ローズ- 今邑彩 | 2022/12/28 16:15 |
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真相を知った上で見直すと、本作は麻耶雄嵩のアレの元ネタみたいだ。こちらの方がスケールは小さい反面、辻褄は合っている。
ダミーの推理はJDC? 狙って書いたのかは判別しがたいが、こっちを先に読んだらあっちを読んだ時がっかりしちゃいそう。但し理屈としてはあの可能性に思い至るのも妥当ではある。悩ましいところだ。 生家へ逃げる場面が、ごく短いけれど、妙にツボに嵌まった。 |
No.1358 | 6点 | バレエ・メカニック- 津原泰水 | 2022/12/28 16:13 |
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第一章と第二章はウロボロスの蛇? 私はただ作者の幻視に寄り添うのみ。しかしサイバーパンク化した第三章を読むと、ハードウェア絡みの部分で頭が過熱してしまう。最も包容力のありそうな千夏の出番があれっぽっちなのは勿体無い。 |
No.1357 | 5点 | 裏切りの塔- G・K・チェスタトン | 2022/12/28 16:12 |
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そもそもチェスタトンには、コレがベストの書き方なのだろうかと首を捻らされることが多いけれど、本書収録の小説4編はみなその傾向が顕著で、つまり首を捻らせることが目的なのであろう。
一方、戯曲「魔術」は名品。ストレートに楽しめた。芝居じみた台詞回しだから芝居に御誂え向き。成程やってみれば当然の帰結である。 |
No.1356 | 7点 | 濱地健三郎の呪える事件簿- 有栖川有栖 | 2022/12/22 16:31 |
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このシリーズ、巻を重ねるにつれて有栖川有栖の本道から斜めの方向へゆっくり逸れて来た感じ。収録作品から “謎” が減ったのは、作者が変節したわけではなく、その系統は純ミステリ作品の方で書くからだ、と希望的観測をしたい。但し、代わりに台頭して来た “シンクロニシティ” は、純ミステリに於ける “名探偵” の意義付けにも重なりそうなテーマだから、根っこはつながっているのだ。「伝達」のラストに薄ら寒さを感じた。 |
No.1355 | 7点 | バイオスフィア不動産- 周藤蓮 | 2022/12/22 16:29 |
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御仕事小説にしてバディもの、教養小説にして未来予測シミュレーション。萌え要素もあり(いや、無いか?)。
第一話、第二話はミステリっぽいけど、以降やや違った方向へ進んでしまった。第四話の理屈はなんだか苦しい。 表紙で示されたような “なんじゃこりゃ” な異物感が小説全体にもっとばらまかれていて然るべき、かとは思う。特に、ユキオの入れ物がアレで中身がアレな設定は生かされていない。世界設定を言葉で描き切れていないのだから、意地悪く言えばアニメの原作に最適。こういうのは挿画を入れてもいいんじゃないですかハヤカワさん? 正直なところ、この世界はかなり楽しそうだ。 |
No.1354 | 7点 | 紅蓮館の殺人- 阿津川辰海 | 2022/12/22 16:27 |
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高校生二人の憧れの作家が松本清張フォロワーとの設定は意外。EQ系じゃないんだ。
吊り天井の部屋と隠し部屋。事故防止を考えるなら、後者から前者の中を見られるきちんとした窓があって然るべきでは。と言うか、吊り天井に関する安全装置が皆無で、それこそ “殺人の為の部屋” って感じ。 “塔の中のエレベーター” が、ミステリ的ガジェットとしては全然生かされていない。 たいした根拠もなく “金庫=50キロ以上” と推定して、そのまま推理を進めている。極論、ハリボテかもしれないのに。 推理に没頭する葛城は鼻に付いた。いっそ “謎は解けたが、それに時間を浪費したせいで炎に巻かれて全員死亡” なんて結末はどうだろう? 実はエピローグは死に際に見た幻覚であった……。 ※吊り天井の前例としては、江戸川乱歩『白髪鬼』、更にそれをネタとして借用した米澤穂信『インシテミル』がありますね。 |
No.1353 | 6点 | 九マイルは遠すぎる- ハリイ・ケメルマン | 2022/12/22 16:26 |
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作者が序文で自作を “古典的推理小説” 及び “もっぱら読者に喜びを与えることに専心する現代的な表現様式” と称したのは全く以て正当な自己評価だと思う。頭皮マッサージを受けているような心地良い読み味。そのぶん地味だが止むを得まい。
でも「ありふれた事件」の犯人をもっと緻密に活写したら結構不気味かも。 「時計を二つ持つ男」は何か変だ。 犯人はあんなトリックで誤魔化せると本気で考えたのか。しかし実際に通用してしまった。関係者が超自然現象を信じ易い背景が欲しいところだ。宗教団体の内部で起きた、とかさ。 人々がそれを信じる場でないとカムフラージュにならないが、信じるが故に “現世の法では裁けないが、彼が死んだのはアイツのせいだ” と断罪される。信じない場なら、トリックは判らなくても行動があまりに怪しく、事件に関わっていると自白しているようなものだ。どっちにせよ後ろ指を差されるではないか。 そこはまぁ起訴されなければ良し、と開き直っていたのかもしれない。しかしそもそも、この件は “超自然現象” の演出など無くても、事故に見せかけた遠隔殺人が可能なのである。 犯人がしたこと:①時計をずらす。②絨毯に仕掛け。③夜中に発砲。④超自然現象の演技。 ここで③の代わりに、⑤夜中に何かの音を発する仕掛けを施す。 すると①②⑤があれば、翌朝には階段から転落した死体が見付かる、と言う寸法だ。 更に言えば、トリックを推測出来たからといって、それが超自然現象を否定する根拠にはならないと思う。 「梯子の上の男」、そんな写真を部外者にポロッと見せるのは如何なものか。 |
No.1352 | 5点 | 世界の望む静謐- 倉知淳 | 2022/12/22 16:24 |
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犯人のキャラクター小説として面白い。“最初から疑われていたポイント” も上手い点を突いている。しかし、どこでミスをしたのか、と言う興趣は今一つ。犯行そのものではなく、その後の不用意な行動で露見するパターンもあまり好きではない。
「一等星かく輝けり」の作中歌の♪スターダスト~ は “スターの屑” と言う洒落? |
No.1351 | 7点 | 冬の雅歌- 皆川博子 | 2022/12/15 15:33 |
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本作中の某の過去を深掘りしたような長編が後に書かれており、各々単独で読めば傑作なのだが、2冊並べると “中途半端にリメイクしたんだな” と言う印象に変わってしまう。作者はこっちで自分役を死なせていることになる。
精神病院、アングラ劇団、学生運動、新興宗教(的な精神修養)。私好みの要素がバラバラのピースのようにちりばめられ……バラバラなまま幕切れ。このエンディングは、しかし割とストンと腑に落ちたな。 |
No.1350 | 7点 | 卍の殺人- 今邑彩 | 2022/12/15 15:31 |
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取り入れるべき要素が予め或る程度定められていて、それらを如何に確実にこなしたか、がジャッジの対象になる、いわばフィギュア・スケートのような作風か。
5回転ジャンプ! みたいな奇跡は無い。先鋭的なオリジナリティがあるわけでもない。寧ろ先の流れが読めて変な安心感があったりする。しかし各々の技が綺麗に決まって上手に着地出来れば、やはり拍手も沸き上がると言うものだ。 思わせぶりなプロローグ。仮にあの睦言が叙述トリック的なミスディレクションだったら、と考えた。そしたらそれに相応しい二人がいるじゃないか。 ってことで、実は義務教育の少年少女の早熟な濡れ場でした、と言う仕掛けを期待したんだけどね。 |
No.1349 | 7点 | ガラスの街- ポール・オースター | 2022/12/15 15:30 |
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“謎は解かれるべし” と言う思い込みを逆手に取った “謎を作る為の” ミステリ。安部公房の『燃えつきた地図』あたりを都会的(なのかな?)なセンスで書き直したみたい。でも作者と同名なあたりは伝統に忠実である。
ピーターの長台詞はカフカか。スティルマン父との対話はチェスタトン。11章、クインも町を徘徊して何か書いたのかと思ったが……? まぁ曲解は読者の権利である。 |
No.1348 | 6点 | 黄昏の罠- 愛川晶 | 2022/12/15 15:29 |
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このトリック自体には完敗。事件の裏で実は何が起きていたのか、と言う意外性も良し。しかしプロットが甘いのではないか。
エピローグで指摘される疑問点(一つ目)は非常にもっともで、示される答には合理性が無い。しまった、これでは完全犯罪が成立してしまう、と気付いた作者による敢えてのミスか。成立させちゃっても良かったんじゃない? “身元の鑑定が間違いだと認めろ” と警察に怒鳴り込む小暮の言動もおかしい。彼の目論見は 1.妻の隠れ家を突き止め手形を奪回。2.妻の生命保険金の受け取り。であるから、利害は対立しない。“早く真相を明らかにしろ” と望む筈。 この後、手形は小暮の手に戻るのだろうか? 正当な所有権は誰に属するのか? 経済ネタは判らん。つまり、警察が事件を解決することで、結果的に彼のシノギを手助けする形になっちゃう? |
No.1347 | 5点 | 盲目の理髪師- ジョン・ディクスン・カー | 2022/12/15 15:28 |
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衝撃的とまでは言いがたいファルス。盛り上がる場面はあっても、それらを繰り出すテンポが良いとはあまり思えない。その上で真相がアレじゃあなぁ。作者の意図に無理があるような気がする。
4章。“ネス湖の怪物と同じくらいにしか信じていない”――今読むと味わい深い比喩。JDCは真実を見抜いていた!? |
No.1346 | 8点 | 方舟- 夕木春央 | 2022/12/08 13:08 |
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確かに絶妙な設定だし、ロジックは上手く出来ているし、スリリングでリーダビリティも高い。でも近年の若手本格勢に良くある空気感だし、学習能力の高さでそつ無く組み立てた既製品て感じだし、何故そこまで高評価なのかは判らんな~、と思っていた。読了寸前までは。こんな反転があるか。これは見事。
前2作に比べ文体が随分スリムに変化していて、これが内容に合わせてコントロールしたものなら立派。文体で世界観を盛って行くようなああいう書き方は一般受けしないから方向転換しよう、と言うことなら、フツーに近付いちゃってちょっと淋しい。 |
No.1345 | 7点 | 化物語- 西尾維新 | 2022/12/08 13:07 |
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改めてシリーズ初作を読み返してみると、怪異への対処法、いわば解決編が、そこまでぴったり平仄が上手く合っているわけではないな~とアラが見えて来た。やはりこういう話ならば、“捻りの効いたグッドなアイデアである” と言うことについて読者に対する説得力のあるもの、を期待してしまう。あれは駄目、これも駄目、あっ、その手があったか! みたいな。本作では “作品世界のルールではそうなってるんですね” と、説明されて納得することしか出来なかった。
でもキャラクター小説としては大好きよ。 |
No.1344 | 7点 | 金雀枝荘の殺人- 今邑彩 | 2022/12/08 13:06 |
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御屋敷モノの典型で、その作り物っぽい部分も含めて好き。生き残りが少ないので犯人に意外性は全く無かったが止む無し。第六章の6で語られる秘密が単なる付け足しみたいなのは残念(言葉だけで、証拠は示されていないし)。
ところで、ネタバレするが、序章に登場する夫妻が巻末で暗示された通りの二人だとしたら。 登場人物の系図を完成させてみよう。彼が某の息子と言うことは、夫は妻の母の従弟に当たる。従兄妹より遠い5親等だから無問題だけど、代が違う親族同士のカップルって妖しい感じがしない? 読了後に気付いてドキドキしちゃったよ。 「それじゃ、ぼくの――」「ひいひいおばあさんかな」 この “かな” が、断定していないところが、絶妙な伏線? |