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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1843件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1483 8点 謀殺の翼747- 山田正紀 2023/06/30 14:58
 一体何が起きているのか、読者に目隠ししたまま引っ張る手腕。回想場面を挿入するバランスの良さ。エピソードでキャラクターを描く上手さ。
 出来が良いだけでなく吸引力が強い物語で、気持はゲリラ達に同調して人生の捨て方に共感してしまう。真相には仰天しつつ感嘆。

 アラを探すなら、或る意味で事態を混乱させた原因なのに玲子の存在感が薄いこと。あと第三章の終わり、将校が計画に噛むにしても、脅迫のネタがしょぼい。

No.1482 7点 いつもの朝に- 今邑彩 2023/06/30 14:56
 紋切り型の素材を組み合わせて、やはり紋切り型の物語を上手に描く、そんな作風なので、特に導入部はありきたりな表現が鼻に付く。中盤で、成程こう来たかと感心&これにどうオチを付けるのかと上から目線の注目。結果、驚きは無くても程好い着地点で、冷笑的にならずに本を閉じられたのだから上出来だろう。最終章が伝聞なのは上手い演出だと思う。

No.1481 6点 忘られぬ死- アガサ・クリスティー 2023/06/30 14:56
 昔むかし短編集を読んだ時、“「×××」を長編化したものが『忘られぬ死』である” とネタバレを食らっていたので、消化試合みたいな読み方しか出来なかった。肌理細かい日本版解説の弊害。それでも楽しめたのだから流石クリスティ。覚えていたのはメインのトリックだけなのでまだフーダニットがあるし、人間関係の綾は読み甲斐があった。

 ところで、最後のページの会話が良い――実は本作はホラーで、ローズマリーの幽霊は本当に居たのかもしれない。あのミスを彼女が誘発した(方法は訊くな)のだとしたら?
 それはつまり、“妹を救う為に夫を犠牲にした” と言う怖い話である。

No.1480 5点 失踪症候群- 貫井徳郎 2023/06/30 14:55
 地に足の着いた文章(悪いことではない)で漫画的なキャラクター(悪いことではない)を描いているので、バランスが悪い。そのせいで登場人物の多くが必要以上に戯画的に見える。
 ああいう方法で “失踪” 出来る、と言うアイデアは良いが、特に後半、変な方へ風呂敷を広げ過ぎ。途中まで書いて今更ボツに出来ないので無理して仕上げた、って感じだ。

No.1479 7点 アブソルート・コールド- 結城充考 2023/06/22 12:20
 サイバーパンク作品としての目新しいアイデアは特に無い。ハード・ボイルドの物語としては読ませる力作。但し、細切れにしてくるくる視点を移す書き方が、本作ではあまり生きていない。気分が乗った途端に場面転換してばかり。
 “来未” が幾度と無く “未来” に見えた。このネーミングは良くない。百のキャラクターはいいね。“小猿型” の設定でこんなに萌えるとは。
 で、持ち越されたままの三角関係はどうなるのかしら。

No.1478 7点 時計泥棒と悪人たち- 夕木春央 2023/06/22 12:18
 同一シリーズとはいえ書き下ろしのしかも趣味性の強い内容の短編集でこの大部の一冊とは強気である。
 トリックは鋭くても真相全体は誂えたように御都合主義的だったり、ホワイは斬新でもハウが失笑ものだったり、必ずしもパーフェクトではないけれど、適度に野暮ったい筆致で何となくまぁいいかと言う気分になれる。と言うかその辺の緩さは或る程度意図的なものじゃないかと思う。
 最終話で伏線回収するタイプではないからどんでん返しを期待して急ぐ必要は無い。もっとのんびり読めば良かったと反省。

 「誘拐と大雪」の監禁場所 =“大きな家が二つ、その中間に小さな小屋” は「悪人一家の密室」の舞台(概略図まで付いてる)と要素が共通、つまり実は同じ場所である。二つの事件の間には邸が廃屋になるだけの時間が経過しており、叙述トリックで隠しているが「誘拐と大雪」での蓮野と井口は老紳士になっている。
 ……のかと思った。

No.1477 6点 灰色の家- 深木章子 2023/06/22 12:18
 ミステリを編み込んだ御仕事小説と言う感じで、作者にとっては新機軸? しかしミステリ界を見れば既にあるタイプ。
 私はこの作者の、凝ったアイデアと同時に、ミステリミステリした表層を評価する者なので、期待をはぐらかされた感がある。また、舞台を考えると止むを得ないが登場人物が多くて読み分けられなかった。

 遺書は、第2章の5で言及されている “文書での正式な謝罪” を流用したものかと思った。それが可能なのは当然、謝罪相手で、そこから犯人に辿り着くのかと。しかし作中ではそんな推測さえされず。ダミー伏線?

No.1476 6点 金魚の眼が光る- 山田正紀 2023/06/22 12:17
 どうも整合性に欠ける気がするなぁ。
 犯人に対して、必死で時代に抗うが故の犯罪、みたいな或る種の情状酌量が感じられる書き方だけれど、東京で脅迫の共犯者を殺したのも同じ人だよね。こっちの件はあくまで保身だし冷酷でひどいと思う。
 出版社に対して脅迫状を送ったらそこに親戚筋が勤めていた、と言う偶然もどうなの。

 一方、柳河での一連の事件。戦争の足音を背景としつつも、靄のかかったような幻想味に彩られ、それこそ北原白秋と言うフィルター越しに見た世界のよう。リアリティにこだわらずまぁいいかと受け入れたい気分なのである。東京編は無かったことにしよう。

No.1475 6点 パンダ探偵- 鳥飼否宇 2023/06/22 12:17
 毛色の変わったタイプではあるが、フー・ハウ・ホワイなど良く考えられていると思う。世界設定に準拠したリアリティも感じられた。多様性を上手く利用しており、多少特殊な知識を求められる部分もアンフェアと言う程ではないだろう。

No.1474 7点 - 今邑彩 2023/06/16 12:32
 短編集の統一感と多様性のバランスについて考えさせられた。高品質な作品揃いなのだが、どれも似たようなものに思えるのだ。
 勿論それが作者の持ち味だから当然だけれど、「セイレーン」だけはやや毛色が違う感じで、このくらいの差異が全作品の間にもあったほうが私は楽しめる。

No.1473 5点 飛奴- 泡坂妻夫 2023/06/16 12:32
 表題作。それは “いかさま” なのだろうか。情報収集の為に工夫を凝らしただけに思えるが。当時の基準ではインサイダー取引みたいなもの? 許容範囲のことしか認めないさまは、反語的な文明批評である。
 「仙台花押」の花火見物が涼しげで楽しそう。「向い天狗」は亜愛一郎ものの再利用だけど、そこそこ上手く処理している。「夢裡庵の逃走」は唐突だ。先生のあんなキャラクターについての伏線は殆ど感じられなかったけどなぁ。

No.1472 8点 傷物語- 西尾維新 2023/06/16 12:31
 このシリーズは一作ごとにヒロインが増えるインフレのハーレムだけれど、実はストレートにえっちな場面はさほど多くない。しかし、その点で本作は、厳密な定義とカウントは難しいが少なくとも三箇所、中でも体育倉庫での行為は屈指の煽情力。いや別にだから高評価と言うわけではなく、バッドエンドに縺れ込む流れで爆発する気持のカタルシスに巻き込まれて死にかけたのだから私の涙腺は如何ともしがたい。
 改めて読むと阿良々木暦は切れ方が戯言遣いそっくり。

No.1471 5点 黄金仮面- 江戸川乱歩 2023/06/16 12:30
 (令嬢殺害事件はともかく)追い詰められて口封じ、宝物を盗まれ自死、人違いで手下が爆死と、つまらない成り行きで人死にが幾つも発生。ミステリ的には、立派な被害者なら堂々と死ねるのに(?)、こんな死は気の毒だ。
 黄金仮面のデザインは魅力的。だからこそ、キャラクターを無駄に浪費してしまった感じ。正体があの人ってのも余計な設定だと思う。

No.1470 8点 四日間家族- 川瀬七緒 2023/06/16 12:30
 まず、基本設定の紹介が上手く組み立てられていて最初の山場。粗筋を予め読んでしまうと最初の100ページの面白さが半減すると思う。
 とは言えエンタテインメントである以上、例えば集まった目的がアレならそれは成就せず、トゲトゲバラバラな関係性は転回し、伏線の回収としてアレとアレをぶつけて着地――“状況は変化する” と言う意味で実は予想通りな流れ。
 そこを如何に読ませるかに適切に注力しており、ネット社会が敵にも味方にもなる様は皮肉が効いている。話を転がす為に出し惜しみナシの総力戦って感じが痛快だ。
 終盤、敵の稼業がさほどショッキングではなかったのが残念(鈍くなってるか、私?)。

 本書に限らないが、死体にせよ生体にせよ隠す(隠れる)のがどの程度難しいのか実感しづらいので、隠す側が甘かったのか探す側が優秀だったのか今一つ良く判らないな~。

No.1469 5点 三つの棺- ジョン・ディクスン・カー 2023/06/09 12:45
 この作品、〈密室講義〉で徒に知名度が高くなって、そのせいで(まず読まれないと評価が下されないと言う意味で)過大評価されてない? 持ち上げた江戸川乱歩に抗議したい。
 作者の目的は、分類の一番目に “さまざまな偶然が重なる例” を挙げることで本作中のトリックの御都合主義をフォローすることだと思う。

 とは言え、トリックの構造は面白い。まず拳銃で一発 → 加害者被害者双方が現場から離れようとしてドアを開けたらまた鉢合わせ。これは笑うところだ。血塗れの笑劇である。
 時計の件。この錯誤は(作者が)大胆だな~と感嘆した。私は肯定的。
 あと、フーダニットが良かった。“意外な犯人” など既に出尽くし読み尽くした心算でいたが、近年はこの程度の軽い捻りで大いに驚いている自分に気付く。一周回って素直になれたか。

 一方で、判りづらい記述があちこちに見られ、内容を読み取るのに余計なストレスがかかった。“何を書くか” ではなく “どのように書くか” の重要さが逆説的に表現されている。作者にもっと文才があればな~。

No.1468 7点 七週間の闇- 愛川晶 2023/06/09 12:45
 浮世離れした価値観に金銭欲が絡む曼荼羅。どっちでどっちをカムフラージュしているのか。もはや渾然一体。
 ホワイダニットには驚き、しかし確かに平仄は合うと納得もし、但し私は血縁にこだわる気持にはまるで共感出来ず、別次元から眺めている気分だった。
 記述が曖昧で不確定な事柄だが、福島で一度会っただけの相手を東京で探し出せるか、その人と更に偶然再々会出来るか。この点は御都合主義だな~。

No.1467 5点 九龍城の殺人- 月原渉 2023/06/09 12:44
 殺人周りのアレコレはたいしたことない。多指の件もあまり上手く使えていない。本格ミステリではなく、“主人公のルーツへ向かう魂の遍歴に伴う異郷冒険活劇” みたいな読み方のほうが楽しめたかも。その場合このタイトルは不適格だ。

 もう一つ。英題が単数形、つまり殺人は一件のみ? ならば普通は溺死が事故だろうが、そこは裏をかいて来るだろう。事件の責任を問われて苦しい死を賜るよりはと、潔く自らを処したところ、恨みを持つ者が遺体を辱めたのである。と私は推測した、虚しく。

No.1466 7点 あと十五秒で死ぬ- 榊林銘 2023/06/09 12:43
 変なことばかり考える人だ。いいねいいね。十五秒でどこまで出来るか。それは厳しいだろうって部分もある。でも些細なことだ。
 短編1作目から単行本デビューまで6年。執筆速度が課題? 頑張ってもっと変な話を読ませて欲しいな。

No.1465 6点 四万人の目撃者- 有馬頼義 2023/06/09 12:42
 高山検事、大した根拠も無いまま暴走してるな~。誰が訴えたわけでもないのに。目立つ形の “官憲横暴!” ではないが、矢後選手にはえらい迷惑だし、独断で家捜しやら押収やらするし、容疑者は撃たれるし。穏やかに描かれた権力批判として読んだ。見込み捜査が別の事件を誘発する話か、とも予想した。
 そして結局、毒物に関しては決定的な記述が無く曖昧なまま。殺人罪で起訴は難しいと思う。そもそも、銃器犯罪の隠蔽で殺人、って割に合わないのでは。ミステリとしてはスジを通し切れていない。
 ただ、読後感は必ずしも悪くなかった。それは検事の気持自体はまっとうだからか。切れ者ではない “才人気取り” の右往左往する様が、想定外の(?)愛すべきアンチヒーロー的ユーモアを醸し出しているようだ。

No.1464 7点 ルームメイト- 今邑彩 2023/06/03 12:54
 第一部が何だか曖昧な構造じゃない? Zさんに関して、AさんがBさんに話す。知り合ったばかりの人の言うことをBさんは鵜呑みにしてCさんに話す。みたいな感じで事実確認をなおざりにしたまま基本設定が示されて、“これどこまで確かなの?” と思った。そのはっきりしない気持悪さは都市伝説系ホラーでも読んでいるような味わい。
 そんなモードで入っちゃったから以降も今一つ記述が信用出来なく感じたりして、まぁそれはそれで面白い気分だったが、ミステリ的な仕掛けにつながってはいないので、作者が意図的にそんな風に書いたわけじゃないんだろうね。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1843件
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