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kanamoriさん
平均点: 5.88点 書評数: 2475件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1195 5点 桃源遥かなり- 陳舜臣 2010/09/30 18:51
ミステリ5編収録の短編集。
戦前・戦中の事件に中国人の主人公を絡ませた作品が多い。ミステリとしては薄味ながら、持ち味の歴史ロマンの香りが読み心地のいいものにしています。その代表例が表題作の「桃源遥かなり」で、主人公が戦前に東シナ海に浮かぶ海賊の島で過ごした過去の生活と殺人事件を回想する話。
「天山に消える」は不可能興味横溢で一番ミステリ度が高いですが、真相は少々腰砕けで物足りない。

No.1194 5点 男と女の探偵小説- 梶龍雄 2010/09/30 18:28
ノン・シリーズのミステリ短編集。
後期の著者は、長編ではトリッキィなコード型本格ミステリを量産する一方、短編は浮気妻やストリッパーを探偵役にしたシリーズものの通俗ミステリが主体となりました。
本書収録作は、玉石混淆とはいえ、初期の青春ミステリのテイストもある戦時中の事件の回想もの「追憶の中の殺人」や、トリックに工夫を凝らした「イ2号館の幽霊」など、佳作もあり楽しめた。

No.1193 4点 前後不覚殺人事件- 都筑道夫 2010/09/30 18:06
滝沢紅子シリーズの長編ミステリ第3弾。
メゾン多摩由良団地周辺を舞台にした集団探偵ものの軽本格ですが、今作は主人公格の紅子が不在で、残りの民雄、春江らのメンバーが四重密室殺人に挑みます。
メンバーのロンド形式で事件が語られていきますが、チャーリー・チャンやディー判事など、脱線ぎみのマニアックな海外ミステリなどの蘊蓄のみが印象に残る作品でした。

No.1192 6点 死体置場は空の下- 結城昌治 2010/09/30 17:47
軽ハードボイルド連作短編集。
「わたし」ことフリーの私立探偵・佐久を主人公にして、久里十八探偵事務所から回される8つの事件を扱っています。
ミステリ的には、第1話の「死んだ依頼人」のトリッキィな構図の反転が読ませます。恐喝、誘拐、素行調査など依頼事案に殺人事件が絡むパターンを繰り返しますが、二人の軽妙なやり取りが飽きさせません。
脇役だった四谷警察署の郷原部長が、最終話で意外な活躍をするのも楽しい。

No.1191 7点 遠きに目ありて- 天藤真 2010/09/30 17:21
安楽椅子探偵ものの連作短編集。
主人公は脳性麻痺による身障者の少年で、アームチェア・ディテクティヴというより車椅子探偵と呼ぶのが正しいかもしれません。仁木悦子の長編「青じろい季節」の脇役の登場人物を、了解を得て借用しています。
密室トリックやアリバイ崩しなど、5編とも本格ミステリではあるものの、ロジックの巧妙さなどは長けているとは言い難く、作者特有の牧歌的ユーモアも控えめですが、印象に残る作品集です。社会的弱者に対する暖かい眼差しは、仁木作品に通じるところがあるように思いました。

No.1190 7点 七人のおば- パット・マガー 2010/09/29 18:03
「被害者を捜せ!」と同趣向で”被害者当て”ミステリに再度挑んだ傑作です(犯人も不明ですが「夫殺し」と明記されているので、被害者が分かれば犯人も分かる)。
不完全な情報から過去の思い出を回想して、誰が殺されたかを模索する構成は前作と同じですが、本書の読みどころは、おば達の人物造形の絶妙な書き別けでしょう。被害者当ての興味と併せて過去のエピソード自体が楽しめる。
冒頭の友人からの手紙のあるミスリードが意外な真相に寄与している点も巧いと思いました。

No.1189 6点 私の愛した悪党- 多岐川恭 2010/09/29 17:42
本書は作者の持ち味が出た軽妙なミステリで楽しめた。
20年前に誘拐された赤ん坊は三人の娘のうちの誰かという謎を縦糸にして、小悪党の詐欺師の数々の騙しの手口のエピソード、下町のラーメン屋ビルに住む人々の人間模様、誘拐事件の真相を知る人物の連続殺人と、ピカレスクからフーダニットまで色々な読みどころが盛り込まれています。
冒頭にプロローグに続いてエピローグを配する構成がユニークで、ラーメン屋の娘の一人称視点で語られる顛末に読者を引き込むことに成功していると思います。

No.1188 5点 赤い霧- ポール・アルテ 2010/09/28 21:07
19世紀末の英国を舞台にしたノンシリーズの歴史ミステリ。
前半部は、奇術実演中の密室殺人の謎を中心とした本格ミステリで、後半は一転、シリアルキラーもののサスペンスに変わるプロット自体は面白いと思いました。
しかしながら、ともに中身のほうは不満足。密室トリックは平凡ですし、切裂きジャックの真相も多くの先達のアイデアを超えるものではありませんでした。この設定で”あの人物”を登場させるのも食傷気味です。

No.1187 5点 変人島風物誌- 多岐川恭 2010/09/28 20:52
瀬戸内海の小島を舞台にした犯人当てミステリ。
都会の生活を捨てた5組の隠棲者たちの間で発生した複数の殺人事件を、作家志望の青年の手記で綴ったオーソドックスな本格編でした。
主人公のソフトな語り口は読みやすいが、複雑な男女関係が少々わずらわしいのと、島の絵地図を見ても位置関係が分かりずらいのが難点。密室&足跡トリックのチープさは時代性を考えれば止むを得ないのかもしれません。

No.1186 6点 ストラング先生の謎解き講義- ウィリアム・ブリテン 2010/09/27 18:07
短編パズラーの書き手として、エドワード・ホックと並んでEQMMの常連作家であったブリテンの看板シリーズ、高校の化学教師ストラング先生もの14編が収録された連作短編集。
ほとんどの作品が、パズラーの王道をいく不可能犯罪ものですが、作者の律義な性格の表れか、トリックに捻りが不足していて真相が分かりやすいものが多かったのは少々残念。
しかし、あまり読まれないであろうマニアックな作品を次々出版し続ける論創社の編集方針に対して、採点にプラス1点を献上。

No.1185 7点 細い赤い糸- 飛鳥高 2010/09/27 17:43
全く繋がりがないような4つの殺人のエピソードが4つの章ごとに描かれ、最後に予想外の構図が浮かび上がるというミッシングリンクもののサスペンス・ミステリ。
4つの事件の流れにある技巧を凝らすなど、書かれた時代を考慮すれば斬新なプロットで、派手さはないですが丁寧な人物描写と程良い伏線の張り具合も好感が持てた。ちょっと、ウールリッチの諸作を髣髴させるところがありました。

No.1184 6点 殺し屋- ローレンス・ブロック 2010/09/26 18:01
殺し屋ケラーを主人公にした連作短編集の第1弾。
泥棒バーニイやマット・スカダーのシリーズほど、洒落た会話が散りばめられてはいません。主人公である殺し屋の日常や趣味、仕事内容までも淡々と描かれている。
過度にハードボイルドに奔るでもなく、ウエットでもないケラーの造形は、どこにでもいる会社員と変わらないように見えるが、その人物がヒットマンであることで不思議なリアリティを醸し出しているように思えた。
流れるような文章はやはり職人芸の域で、各編とも読み心地がよかった。

No.1183 4点 保瀬警部最大の冒険- 芦辺拓 2010/09/26 17:33
楽しんで書いたであろう作者ほどは、楽しめなかった。
古今東西の映画、探偵小説、SFなどのマニアックな蘊蓄をばらまきながら、スーパーマン的警部の活躍を描いたパロディ・アクション小説ですが、唐突で状況が分かりずらい場面転換と、ひとりよがりの文章で、読者を置き去りにしていると思う。

No.1182 8点 緋色の記憶- トマス・H・クック 2010/09/25 18:20
邦訳は本書が先ですが、前作「夏草の記憶」の基本プロットを踏襲したような、老境に入った主人公が少年時代に身辺で発生したある事件を回想するという形態をとっています。
冒頭の、新任女性教師がバスからチャタムの街に降り立つ映像的なシーンから、終幕の、事件関係者であったある女性のもとに主人公が訪れる現在の場面まで、文芸的な香りが横溢する文章で、引き込まれるように読みました。
読後は、瑞々しい少年時代の思い出と、独身のまま年老いた現在との対比で、じわじわと哀切感が込み上げてきます。

No.1181 5点 密会の宿- 佐野洋 2010/09/25 17:39
連れ込み旅館を経営する未亡人と同居人の久保を探偵役にした連作ミステリ。主人公の名前を変えているが、初期の長編「高すぎた代償」の設定をそのまま活かした軽妙な短編集になっています。森本レオ主演で何作かテレビ映像化された。
マンネリ化を嫌いシリーズ探偵を否定してきた著者には珍しく、本書を含め当シリーズは4冊でています。その都筑道夫との名探偵論争の持論を自ら立証するように、後半の作品はマンネリそのものですが。

No.1180 6点 王者のゲーム- ネルソン・デミル 2010/09/24 18:10
偏見かもしれないが、同じ作者の作品でも他の出版社で出ているものは非常に面白いのに、講談社文庫になるととたんにつまらなくなってしまう気がする。ゴダード、コナリーしかりで、このデミルの作品もそう感じた。
物語は、JFK空港に着いた航空機乗客全員の惨事から、主人公とテロリストとの対決と、序盤はこの種のサスペンスの水準をクリアしていると思いますが、下巻に入ってから間延びした展開が続き、集中して読み続けるのが少々苦しかった。
主人公ジョン・コーリーの皮肉混じりのユーモラスな会話は前作同様さえていて楽しいが、物語から浮いた感じもしました。

No.1179 5点 アリバイの唄- 笹沢左保 2010/09/24 17:39
元警視庁捜査一課刑事のタクシー運転手・夜明日出夫シリーズの第1作。
このシリーズは、毎回トンデモ系のアリバイ・トリックを見せてくれますが、アリバイ・トリックのために何億円も支出するという犯人は前代未聞だろう、しかも、あの程度の殺人動機で。費用対効果を考えるとバカミスと言っていい作品。
探偵役のニヒルでストイックな造形は作者の定番ながら、木枯し紋次郎がタクシー運転手をやっているように思えて笑える。

No.1178 7点 完璧な絵画- レジナルド・ヒル 2010/09/23 17:15
英国ミステリ教養派の伝統を継ぐレジナルド・ヒルのダルジール警視シリーズ第13作。
ヨークシャー地区の片田舎エンスクーム村という魅力的な舞台設定を得て、古典パズラーでいう田園ミステリのテイストが全開で楽しく読めた。
今作は、醜悪顔でゲイという部下のウィールド部長刑事が主役を張って、個性をいかんなく発揮してくれています。多視点で語られていくバラバラの村のエピソードがまとまって、最後にどんな構図の絵になるか、それは読んでのお楽しみということで。

No.1177 8点 グランド・ミステリー- 奥泉光 2010/09/23 16:45
真珠湾攻撃さなかの、着艦戦闘機内という不可能状況での飛行士の変死から始まる壮大な物語は、太平洋戦争を背景にした歴史ミステリ。
主人公の眼を通してリアリティのある戦記ものの物語が展開していきますが、予言者や謎めいた研究所が登場してから徐々に様相が変貌し、伝奇ロマン風から最後はなんと歴史改変SFになっています。
”二つの現実”と過去と現在が並行して描かれるなど、読者を混乱させるプロットはやや難解と思わせるところもありますが、文学性の高い異色のジャンルミックス・エンタテイメント小説で不思議な読書体験をさせてもらった。

No.1176 7点 裁くのは誰か?- ビル・プロンジーニ 2010/09/22 17:58
改選を控えた米国大統領の側近が次々と謎の死を遂げていくというポリティカル風のサスペンス、なんですが最後に明らかになる卓袱台返し的な仕掛けによって、毀誉褒貶入り乱れる怪作になっています。
この叙述方法がフェアかアン・フェアかと聞かれれば、アン・フェアと断言できますが、どんな手を使ってでも読者を驚かしてやろうという作者の意気込みは買えます。
せめて、複数の視点人物のうちジャスティス警護官とハーパー補佐官の部分を一人称記述にしていれば....などと、思わず作者を擁護したくなる。

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