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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1246 6点 四月の橋- 小島正樹 2010/10/28 18:45
これまでのようなトリック重視の作品を期待すると肩透かしと感じるかもしれませんが、シリーズ前作と比べて主人公の川路や先輩女性弁護士など、登場人物の造形が巧くなっています。作者の趣味を押し付けるようなリバーカヤック・ネタも今回は物語と有機的に絡んでおり許容の範囲内でしょう。
真相にミステリとしてのカタルシスを感じませんでしたが、ラストの多摩川のシーンが印象に残る及第作です。

No.1245 7点 幻の森- レジナルド・ヒル 2010/10/27 21:35
ダルジール警視シリーズの第14作は、ピーター・パスコーの死の謎を巡る物語。といっても、第一次大戦で亡くなったとされる同じ名前のパスコー主任警部の曾祖父の死の謎ですが。
パスコーが曾祖父の秘密を調査していくうちに、製薬会社の敷地で見つかった古い人骨事件を手がけるダルジールに徐々に接近していく構成が面白い。
単にシリーズキャラクターの魅力に寄りかかることなく、きっちり本格ミステリの骨格を備えている佳作だと思います。

No.1244 5点 君がいなくても平気- 石持浅海 2010/10/26 21:08
ある会社の共同開発チームの研究員が一人また一人と毒殺されていくお話。主人公の男性には、恋人が犯人だと途中で判っている設定なので、ロジックを主眼としたものではないのでしょう。
たしかに、主人公の心の動きをつぶさに描写している所は面白いし、最後のシーンも緊迫感はあったのですが、作者に求めているようなミステリではなかった。

No.1243 6点 殺す手紙- ポール・アルテ 2010/10/26 20:11
終戦直後の英国を舞台背景にしたノンシリーズ長編。
戦時中に諜報部に勤務していた経歴をもつ主人公の一人称で、謎だらけのエピソードが語られ、序盤は巻き込まれ型サスペンス、中盤ある程度構図がみえたところで、館ものの殺人事件というフーダニットになるなど飽きさせないプロットでした。謎の核心をミスリードすることで、より大きな仕掛けを隠蔽していて、すっかり騙されてしまいました。
余談ながら、ポケミスの表紙絵が斬新なデザインに変わっていて驚きました。活字も大きくなり、本書は一段組なので以前と比べて非常に読みやすい。

No.1242 5点 こめぐら- 倉知淳 2010/10/25 18:41
ミステリ短編集。
同時出版の「なぎなた」の姉妹編で、本書はどちらかというとバカミス系でユーモア風味の作品が多い。
バカミスの双璧は、「Aカップの男たち」と「さむらい探偵血風録」で、とくに後者の時代劇ドラマ・ネタには爆笑の連続。
毒殺トリックを扱った「毒と饗宴の殺人」は、猫丸先輩の”特異な論理”が泡坂氏の初期短編のコピーのようでイマイチでした。これを”亜流”というのでしょうか。

No.1241 9点 八百万の死にざま- ローレンス・ブロック 2010/10/25 18:21
30年間書き継がれているNYの私立探偵マット・スカダーシリーズの第5作。
実はシリーズ順に読んでいなくて、本書からスカダーを読み始めたのだけど、それは正解でもあり失敗でもあったと思っています。
第1作以降の初期数作は、主人公が魅力的なものの、他のネオ・ハードボイルド小説と比べてプロットにとりわけ面白味があるように思えなかった。おそらく1作目から読んでいたら本書まで辿りつかなかった。それが「正解」の理由。
本書は娼婦殺害事件というミステリの体裁はあるものの、アルコール依存症に対するスカダーの葛藤と彷徨を中心に描いている。ある意味、傍観者リュー・アーチャーとは対極的な私立探偵自身の物語で、アル中である事を認めなかった主人公が最後の最後に叫ぶ、そのシーンに感銘を受けます。しかし、第1作から読んでいたなら、感動はより深いものになっていただろうと思わずにはいられない。それが「失敗」の理由。

No.1240 6点 なぎなた- 倉知淳 2010/10/24 17:18
ノン・シリーズの短編集。
アンソロジーで既読の「闇ニ笑フ」が編中の個人的ベスト。道尾の某有名短編とネタが被ってますが、こちらが先。
ほかに、刑事コロンボ第1作へのオマージュだという倒叙ミステリ「運命の銀輪」、完成度の高い非ミステリ「眠り猫、眠れ」、長文の「あとがき」(笑)が印象に残りました。

No.1239 7点 暗闇にひと突き- ローレンス・ブロック 2010/10/24 16:52
無免許のアル中探偵マット・スカダーシリーズの第4作。
アイスピックで殺害された娘の真犯人探しを父親から依頼されることで物語が動き始めます。しかし、その本筋の謎解きはオマケのように思えてしまうほど、刑事を辞職することとなった過去の事件を悔い、飲酒に逃避する中年探偵スカダーの心情描写に重点が置かれ、陰影のあるマンハッタンの情景とともに印象に残る作品。
シリーズ初期の重要な役割を担う女性彫刻家ジャニスや、AA(アルコール中毒者の自主治療協会)との出会いなど、代表傑作といわれる次作「八百万の死にざま」のための前奏曲となっているように感じました。
田口俊樹氏の翻訳は素晴らしいのですが、このタイトルは軽すぎて泥棒バーニィシリーズを思わせます。

No.1238 6点 月と蟹- 道尾秀介 2010/10/23 21:43
例によって暗いトーンの物語。なにせ、二人の小学生が神様に見立てたヤドカリを火で炙って、願い事をするという話だから。
中傷の手紙の犯人特定のロジックとか、”操り”の構図などにミステリの要素がないこともないですが、純文学寄りの傾向がより強くなっていると感じました。
少年視点で語られる物語ながら、とても小学4年生の思考とは思えない大人っぽい心情描写が、時々出て来るのが多少気になりました。

No.1237 6点 カーデュラ探偵社- ジャック・リッチー 2010/10/22 23:29
欧州某国の伯爵だったという謎の私立探偵カーデュラが登場する8編ほか全13編収録の短編集。
やはり、私立探偵のカーデュラ(Cardula)シリーズが面白い。探偵活動は夜間のみ、日光が嫌いで十字架も苦手、昼間は棺桶で眠るという変わり者。作者は、最後まで正体を明かしてくれず非常に気になった(笑)。
当シリーズは既刊の単行本3冊に分散収録されていながら、今回文庫で1冊にまとめられた。河出書房さん、ほんとに商売上手。

No.1236 6点 逆回りの時計- 藤桂子 2010/10/21 18:46
菊地警部シリーズの第4作は、15年前の4人の女子中学生が絡む些細な事件を要因に、連続して女性が殺害される「黒衣の花嫁」タイプのミステリ。
ある女性の視点による物語と菊地警部ら捜査陣の物語が交互に描かれる構成や、機械的密室殺人トリックの挿入など、シリーズ共通のプロットです。多くの女性が登場する中、最後の女性は伏線不足で唐突な感じがしました。
当時(1991年刊)新本格派が競って奇抜なアイデアの作品を出している中、この”昭和のミステリ”そのものの様な作風は売れなかったでしょうね。
創元推理文庫は国内ミステリにも英語タイトルを付けていますが、本書の”Had not it rained that day"はなかなか秀逸です。

No.1235 7点 女刑事の死- ロス・トーマス 2010/10/21 18:16
車に仕掛けられた爆弾による女刑事の死という幕開けこそ派手ですが、妹の死の謎を突きとめるため故郷へ帰った兄ベンジャミンの調査が語られる序盤の展開は地味です。途中からもう一つの帰郷目的である政府関係の仕事に物語の重心が移り、関係者の連続殺人が起こるあたりからスリリングな展開となりますが、結末は、これまでのB級感のあるクライム小説とはちょっと違う大人のハードボイルドという感じでした。
物静かで妹の死に対しても感情を表わさない主人公というのも作者の作品では珍しいですが、それを最後のページで一気に表現させた手際には唸るしかありません。泣けます。

No.1234 6点 動機、そして沈黙- 西澤保彦 2010/10/20 18:10
ノン・シリーズのミステリ短編集。
初期のものから書き下ろし作品まで、発表年代が幅広いですが、いずれもグロテスク&エロチックなテイストで統一されています。
表題作の「動機、そして沈黙」が、刑事と妻によるロジックのこねくり回しというプロットで一番作者らしい力作。オチも良く出来ていると思います。ホワイ・ダニットに意外性のある「未開封」や「死に損」も印象に残りました。

No.1233 7点 エコー・パーク- マイクル・コナリー 2010/10/20 17:47
ハリー・ボッシュ刑事シリーズ最新作の第12弾。
前作「終決者たち」でロス市警に復帰、今回も未解決事件班として過去の事件に対峙します。
前半は、逮捕された連続殺人犯の自供の真偽が焦点となる、比較的おとなしめのプロットが終盤は怒涛の展開に。検察による証拠の改竄という日本の読者にとってタイムリー過ぎるミスディレクションが図らずも効いています。
本格パズラー並みの伏線の張り方は、年々巧くなり文句はないのですが、初期の”ハード・ボッシュ”が懐かしい気も。しかし、ベトナム従軍が40年前という記述で愕然、ボッシュも60歳近い年齢になったということか。

No.1232 6点 空想オルガン- 初野晴 2010/10/19 18:15
学園ものの連作ミステリ、”ハルチカ”シリーズ第3弾。
高校の吹奏楽部メンバーが遭遇する”日常の謎”が4編収録されていますが、「序奏」として前2作のエピソードのおさらいがあり、主要部員の紹介がされていて本編に入りやすい。
収録作のなかでは、幽霊アパートの謎を扱った「ヴァナキュラー・モダニズム」が好み。ある個性的な人物の登場と島荘的奇想が楽しめる。最終話の「空想オルガン」は、連作特有の仕掛けもあるが、哀切で美しい結末が印象に残る作品でした。

No.1231 6点 踊る黄金像- ドナルド・E・ウェストレイク 2010/10/19 17:45
南米某国の博物館から盗まれた黄金のアステカ像を巡って、ニューヨーク市中で悪党どもが争奪戦を繰り広げる。某復刊ドットコムではドートマンダーシリーズと紹介されていますが間違いで、ノンシリーズのスラップスティック・ミステリです。
レプリカの黄金像が多数混入し収拾がつかない大騒動が面白いですが、70年代半ばの流行「ハッスル」ダンスから派生した数々のスラングのニュアンスは、時代性とともに日本人読者には分かりずらいところがあります。
「このミス」で上位に入り、ウエストレイク再評価のきっかけとなったという点では意義のある作品だと思います。

No.1230 3点 長弓戯画- 滝田務雄 2010/10/18 18:31
漫画家とその担当女性編集者コンビが探偵役を務める軽本格ミステリ長編。
きもいキャラの主人公でいきなり萎えます。前作「田舎の刑事」はギャグや文章は酷いなりに、ロジックには感心する点もありましたが、本書はロジックにも見るべきものがありませんでした。

No.1229 6点 レスター・リースの冒険- E・S・ガードナー 2010/10/18 18:13
怪盗レスター・リースもの中編4編収録のシリーズ第1弾。
まず、リースに仕える従僕で警察のスパイでもあるスカットルがいい。リースには手玉にとられ、本来の上司アクリー部長刑事には手柄を横取りされたり、失敗の責任転嫁を受ける苛められキャラで、ある意味このシチュエーション・コメデイの主役といえます。
ミステリ的には、新聞記事から事件の真相を見抜く安楽椅子探偵ものであり、真犯人からどのように物品を横取りするかというハウダニット趣向もミスリードと伏線が充実していて楽しめました。

No.1228 6点 逃亡者- 折原一 2010/10/17 18:30
殺人を犯した女性主人公が、整形で姿を変え各地を転々としながら時効まで逃げ延びようとする逃亡サスペンス。

最近は惰性で読んでいる感じの折原一ですが、本書は福田和子事件をモチーフにしたような数々の逃亡劇のエピソードがスリリングでなかなか読ませます。途中に挿入されるいわくありげなモノローグがなければ、危うく”折原=叙述トリック”ということを忘れさせる程です。結末もサプライズがあり、最近の作品の中では比較的楽しめました。

No.1227 5点 脱獄九時間目- ベン・ベンスン 2010/10/17 18:04
看守を人質にして監獄内に籠城した脱獄犯たちと州警察の対峙を描いた警察小説。
いやあ、渋い警察小説とは聞いていましたが、この設定でここまで地味な内容になるとは思いませんでした。いくらでもサスペンスを盛り上げることが出来るのに、ほとんど動きがない。主人公の刑事部長パリスと脱獄犯らの交渉の過程と心理状態をていねいに描写するうちに9時間が経過したという感じです。
入手したあと2冊、当分積んどく状態だなこれは。

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