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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1326 5点 ねじれた家- アガサ・クリスティー 2010/12/28 18:11
本書も、作者自身の評価と一般的な人気に乖離があると思われる作品。
Amazonのネタバレ書評を見ると、プロットと犯人の設定が某名作に類似しているとの指摘が多く、それも一因かと思いますが、同じ”ねじれた家族”の遺産相続ものというだけで雰囲気やメインのアイデアは全然異なります。
むしろ、このノン・シリーズ作品では、一応の探偵役となる青年に魅力がなく、感情移入できる人物が見当たらないのが要因ではと思います。

No.1325 5点 白銀ジャック- 東野圭吾 2010/12/28 18:00
ご都合主義で予定調和の感もありますが、サクサク読めるのがなにより。
このジャンルの定型の仕掛けに、さらにヒネリを入れて真相を判りずらくしたところは流石です。
なによりも、新刊を文庫で出すという姿勢にプラス1点。

No.1324 6点 クロエへの挽歌- マージェリー・アリンガム 2010/12/27 18:28
人気ミュージカル男優の館での、中年女優・クロエの不審死の謎を中核とした”館ミステリ”の様相から、中盤以降思わぬ派手な展開を見せるプロットは女史の作品の中では面白く読めました。
素人探偵キャンピオンは、同時代の名探偵と比べ個性に欠けるきらいがありますが、今回、当初傍観者を決め込む理由がミスディレクションになっている点はよかった。邦訳タイトルになったクロエの造形は、現代作家ならもっと書き込んだものになっていたと思えるのがちょっと惜しい。

No.1323 6点 裏切りの明日- 結城昌治 2010/12/27 18:00
”悪徳警官もの”と明示すること自体がネタバレになるもう一つの作品と違って、本書の主人公・沢井は最初から悪徳警官として登場します。そのため、ミステリとしての意外性はあまりないですが、それを犠牲にしてでも、作者はこのテーマをさらに深く掘り下げたかったのかもしれません。
経済犯罪小説とも読める部分は、さすがに時代性ゆえの古臭さを感じるものの、このような人物を主人公とした小説は当時珍しかったでしょうから、国産ノワールものの先駆的作品といえるでしょう。

No.1322 5点 死の笑話集- レジナルド・ヒル 2010/12/26 12:52
ダルジール警視シリーズの18作目。
巻頭に編集部から”「死者との対話」の続編”との注釈が付いています。
今作、聖三位一体のレギュラー3名は、それぞれ別々の事件に関わっていて、いつもにも増して物語の流れが把握しずらかった。ワードマン事件の後始末をするダルジールのパートはともかく、パスコーの”やっかい事”は、40年近く前にでたシリーズ第2作とも関わるとあってフォローできません。
結局、弁当箱のような正続あわせて1200ページを読んだという変な達成感だけが残りました。

No.1321 7点 アルバトロスは羽ばたかない- 七河迦南 2010/12/26 12:14
児童養護施設”七海学園”を舞台にした連作ミステリ・シリーズ第2弾。
高校の校舎屋上からの墜落事件の謎を本筋に、その事件のヒントとなるような4つの日常の謎系のエピソードを間に挿入した構成になっています。
評判どおり、終盤で主要登場人物たちの立ち位置が劇的に反転する仕掛けが素晴らしい。前作を読んでいれば驚きが倍増するでしょう。シリーズ2作目でこれをやられるとは思わなかった。
痛ましい過去をもつ子供が多数登場し、重たいエピソードが続くので、好みが分かれる作風かもしれませんが。

No.1320 7点 クリスマス・プレゼント- ジェフリー・ディーヴァー 2010/12/25 20:41
ミステリ16編収録の短編集。
各作品とも、ドンデン返しというより、原題の”Twisted”どおり、ちょっとヒネリを利かせたオチという感じで、スレッサーを思い浮かべました。
お気に入りベスト3は、「三角関係」「釣り日和」「ひざまずく兵士」の3作品ですが、ライム&アメリア・シリーズファンには、表題作が文字通りの「クリスマス・プレゼント」でしょう。
来年は、第2短編集の”More Twisted"に期待したい。

No.1319 4点 クリスマスローズの殺人- 柴田よしき 2010/12/25 20:17
「Vヴィレッジの殺人」に続く、吸血鬼探偵メグ・シリーズの第2弾。
いちおう本格ミステリで、探偵の設定も最後に活かされている点は前作より好印象ですが、この吸血鬼娘探偵や別シリーズの猫の探偵って、まんま某国民的大衆小説の大家・赤川次郎先生の二番煎じじゃあないですか。
この作者の書くジャンルは、警察小説、コージー、恋愛ミステリ、ホラー、ハードボイルドなど幅広いですが、どうも器用貧乏という感じですね。

No.1318 7点 クリスマスに少女は還る- キャロル・オコンネル 2010/12/25 12:58
これは、ミステリの体裁を借りた一種の”クリスマス・ストーリー”だと思う。子供が主人公で最後に奇蹟が起るという、その定型にそっていますから。
二人の少女の誘拐・監禁事件、クリスマスをデッド・ラインとしたタイムリミット・サスペンスとして読んでいくと、解説で言うように最後に「こういう話だったのか!」と唖然とすることになります。
miniさんが書かれているように、文章がとっつきにくいのが難点(作者の持ち味?)で、地の文と内面描写が混然一体となっていたり、会話の意味が数行先まで読まないと分からないなど、最初はサクサク読めないですが、自然と読み心地がよくなるのが不思議な感じでした。

No.1317 5点 クリスマス黙示録- 多島斗志之 2010/12/25 12:22
復讐の鬼と化した米国人警察官、標的となる日本人留学生、警護を担当する日系人のFBI捜査官。3人の主要登場人物による冒険サスペンスで、3人がいずれも女性という点に新味があります。
「パールハーバー」を起点とするジャパン・パッシングが背景にあり、米国取材の緻密さを覗わせるところもありますが、プロットがありきたりで、初期作品のような荒唐無稽さがないのが物足りない。

No.1316 6点 眠れぬイヴのために- ジェフリー・ディーヴァー 2010/12/24 18:36
殺人容疑の男が精神病院を脱出し、裁判で不利な証言をした女教師の自宅を目指して逃走する、サイコ風のサスペンス。
この初期ディーヴァー作品は、ジェットコースターとはいかず、ドンデンはラストのみ。いわば”一発ネタ”で短編ででも書けるようなアイデアなので、この分量は少々きつかった。
文庫の内容紹介文にも問題あり。内容紹介でネタバレをよく目にしますが、このような読者を誤誘導する事実と違うアンフェアな記述はめずらしい。なお、本書はタイトル・内容ともクリスマス・イヴとは全く関係ありません、念のため(笑)。

No.1315 6点 クリスマス・イヴ- 岡嶋二人 2010/12/24 18:00
クリスマス・イヴに吹雪の別荘で、若い男女が殺人鬼に襲われる一夜の顛末を描いただけのスプラッタ・ホラー。
巧妙なトリックや捻った仕掛けもない非常にシンプルなホラー・サスペンスなので、他の岡嶋作品のような作風を期待するとガッカリ感があるかも知れませんが、単純なプロットをこれだけ一気に読ませるストーリーに仕上げた点は評価したいです。

No.1314 7点 暑いクリスマス- ジェイムズ・マクルーア 2010/12/23 10:46
今年一番の猛暑を記録したクリスマス直前の夜、役所勤務の青年殺害事件の捜査に取り掛かったクレイマー警部補は、上からの命令で突如交通事故担当に回される、というのがあらすじです。
警察小説というと、謎解き要素が物足りないものが多いように思いますが、本書は、70年代のこの国の”警察国家体制”をミスディレクションにしたようなフー&ホワイダニットものの本格ミステリの傑作でもあります。意外性と皮肉に満ちた結末が光っています。

クレイマーの部下で地元部族出身のゾンディ刑事が、容疑者を追う途上で“強制移住”の場面に遭遇するなど、この国の社会情勢が過不足なく描かれていますが、タイトルのクリスマスの描写はほとんどありません。真夏の南アフリカ共和国でも、サンタはあの服装なんだろうか。

No.1313 7点 悪の教典- 貴志祐介 2010/12/22 18:01
前半、とくに物語の導入部は、読んでいてサイコサスペンスの傑作の予感がしました。
教頭や同僚教師からは信頼され、生徒の人気者である高校の英語教師・蓮実の造形が巧みです。第1章最後の鴉のエピソードを始め、章が進む毎に徐々に、サイコパスとしての蓮実の裏の顔が読者の面前に露わになっていく過程に引き込まれました。
しかし、下巻に入り「引き返し不能点」以降の、殺戮のサバイバル・ゲーム風の展開は少々工夫に欠け、「バトル・ロワイヤル」などの先行作品を想起させる点は大いにマイナス。
上下巻で850ページという長尺を感じさせないリーダビリティの高さは抜群で、なかなかの娯楽作品ではありました。

No.1312 6点 ママのクリスマス- ジェームズ・ヤッフェ 2010/12/21 18:00
安楽椅子探偵”ママ”シリーズ、ロッキー山脈のふもとにある架空の町・メサグランデに舞台を移した長編の2作目。
背景にキリスト教とユダヤ教の微妙な関係という宗教・民族問題が絡むあたりは、とっつきにくい所がありますが、ミステリの構成としては手堅くまとまっていると思いました。
”本当の真相”は息子のデイヴにも知らせないというラストの二段構成は、前作に続き長編でのパターンでしょうか。

No.1311 7点 産霊山秘録- 半村良 2010/12/20 18:00
古代から日本の歴史の激動期に暗躍し、裏で歴史を動かしてきた<ヒの一族>について語られたSF伝奇小説。
荒唐無稽で壮大なホラ話。織田信長を中心とした戦国時代や、坂本龍馬の幕末を舞台とした章までの前半部は、謀略もの歴史ミステリとしても傑作。太平洋戦争以降は、若干テンションが落ちる印象は否めないが。
最後は、宇宙まで物語が展開して、後の大長編「妖星伝」に通じるところもありますが、月面に横たわるある人物という図は、「星を継ぐもの」を連想させました(笑)。

No.1310 6点 マダム・タッソーがお待ちかね- ピーター・ラヴゼイ 2010/12/19 18:08
ヴィクトリア朝ミステリ、クリッブ部長刑事シリーズ最後の8作目。
タッソーの蝋人形館には、極悪人の人形を飾った部屋があり、殺人の罪で処刑がまじかに迫った写真館の妻ミリアムの人形もそのうち陳列されるだろうという、タイトルにブラックなユーモアを感じます。
真相を隠蔽するミスディレクションの手法としては、クリスティ作品などで多用されたものですが、シリーズの中ではミステリ度が高く比較的まとまった佳作だと思います。

No.1309 5点 毎日が13日の金曜日- 都筑道夫 2010/12/19 17:40
「殺人現場へ二十八歩」に続く”ホテル・ディック”シリーズの第2弾。
ホテル専属警備員の元刑事・田辺を主人公にした連作短編集で、活動型の「退職刑事」という雰囲気がありますが、ミステリとしても、ハードボイルドとしても軽めでした。
ホテル周辺の浅草風俗などの蘊蓄と語り口を楽しむタイプのミステリ。

No.1308 6点 ロードサイド・クロス- ジェフリー・ディーヴァー 2010/12/18 16:41
”人間嘘発見器”キャサリン・ダンス特別捜査官シリーズの2作目。
「掲示板」サイトによるネットいじめが関係する殺人予告事件がメイン・ストーリー。交通事故被害者を慰霊するための薔薇で飾られた「路肩の十字架」が殺人予告に利用され、それがタイトルの意味。
どうしても、どんでん返しが約束されている前提で読むことになるので、今回は、作者が終盤近くまで引っ張るある構図の意図が判りやすくなっているように思います。ダンスの母親に関する安楽死疑惑というサブ・ストーリーはもっと膨らませてもよかった。

No.1307 6点 Kの日々- 大沢在昌 2010/12/18 16:16
消えた8000万円の争奪戦というクライム小説。
秘密を知る雑貨店経営の女性「K」を巡って、主人公の裏稼業探偵をはじめ、ヤクザ組長の息子、過去の誘拐に関わった男、悪徳警官など怪しげな男たちが蠢いて宝探しが始まる。
会話文主体のプロットはサクサク読めるし、その会話の裏の思惑を読み解きながら、徐々に構図が見えて来る構成は、ベテラン作家の円熟したテクニックを感じさせました。
Amazonの★数を見ると、いやに評価が低いのですが、そんなに酷い出来とは思わなかった。

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