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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1406 4点 図説 密室ミステリの迷宮- 事典・ガイド 2011/01/20 18:16
10年ぐらい前に「有栖川有栖の密室大図鑑」という似たコンセプトの企画本がありましたが、本書は40人以上の実作者・書評家などによるアンケートに基づき選定した40数作品の事件現場図付き読書ガイドが中心になっています。そのため、無難な作品が大勢を占め、密室ミステリの知られざる珍品のようなものは見当たらなかったのは個人的に物足りない。
あとがきに”密室のテーマパーク”とあるように、映像作品、ゲーム、漫画などを取り上げた総花的な構成も、嗜好に合わなかった。

ちなみに、歴代密室ミステリの個人的ベスト3は、
国内長編だと、「本陣」「刺青」「虚無への供物」、国内短編は、「赤い密室」「妖婦の宿」「高天原の犯罪」かな。
海外長編は、「黄色い部屋」「三つの棺」「ユダの窓」、海外短編が、「妖魔の森の家」「北イタリア物語」「有蓋橋の謎」といったところ。やはり、カーが多いな。

No.1405 5点 血塗られた映画祭- スチュアート・カミンスキー 2011/01/19 17:46
”旧ソ連の87分署”ロストニコフ主任捜査官シリーズの2作目。
モスクワ映画祭を狙った過激派グループのテロ計画がメインとなっているが、部下のカルポ、トカッチの捜査過程は若干サスペンスに欠け、フーダニット的興味がうすいこともあって、邦訳作品のなかでは一段落ちる出来だと思う。
ロストニコフ夫婦の”ある計画”とKGB大佐との駆け引きは、次作以降の伏線となっているが、残念ながら本シリーズも邦訳が本書で途切れています。

No.1404 7点 警官の紋章- 佐々木譲 2011/01/19 17:45
北海道警シリーズの3作目。
今回は、部署が異なる3人のメイン・キャラクターが影の捜査チームを組むのではなく、津久井、佐伯、小島百合それぞれが別々の案件に関わりながら、洞爺湖サミット警護団結式というクライマックスで収斂するという図式です。
結末がややあっけないですが、それまでのリアルで緊迫感のある展開は読み応え充分。キャラクターではなくプロット重視のため、マンネリを感じさせない。
なお、第1作のネタバレ満載のため、本書から先に読むのは避けるべきでしょう。

No.1403 6点 サイモン・アークの事件簿〈Ⅱ〉- エドワード・D・ホック 2011/01/18 18:26
オカルト探偵サイモン・アークの第2短編集。
目玉作品は、唯一の中編「真鍮の街」かな。意識したかどうかは判りませんが、地方都市が舞台で人間関係を錯綜させたプロットは、師匠クイーンのライツヴィルものを髣髴させます。メイン・トリックはいたって古典的ですが。
その他、犯人特定方法がロジカルな「百羽の鳥を飼う家」と、死体が一瞬にして老衰する謎「死を招く喇叭」がまずまずかと思いますが、枚数の関係で短編はいずれも解決があっけない。

No.1402 4点 乾いた屍体は蛆も湧かない- 詠坂雄二 2011/01/17 17:53
ニート青年4人組が、ゾンビ映画のロケハン中に発見した死体を巡る変化球のミステリ。
うーむ。毎回、既存のアイデアを使いながら、捻くれた仕掛けで予想外の着地を見せてくれる作者ですが、本書はイマイチかな。
密室からの死体消失の謎や、探偵役が4人じゃなく何故一人なのか?など、いくつかの違和感が一発で解消されますが、あまりカタルシスを感じなかった。

No.1401 7点 さらばその歩むところに心せよ- エド・レイシイ 2011/01/16 15:45
老練の同僚刑事ドックと共謀して、誘拐事件の身代金を横取りした若手刑事・・・・。
都筑道夫氏の書評集で本書の存在を知り読んでみました。
物語は、ふたりの隠れ家にて、若手刑事・バッキーが過去を回想し、徐々に現在に至る状況が明らかになる構成になっています。
ジャンル的には、悪徳警官もののクライム小説ですが、なにか違和感のある描写が伏線になり、ラストのサプライズに繋がるというミステリでした。バッキーの幼い頃のエピソードがなかなか読ませ、最後にタイトルの意味が浮き彫りになるプロットが巧妙。

No.1400 5点 五島・福江行- 石沢英太郎 2011/01/16 13:15
ミステリ短編集。九州在住の作家らしく、その地を背景にした作品が多かった。土地勘があればもう少し楽しめたかもしれない。
表題作は各種アンソロジーに選ばれていて唯一の既読作品。叙情性あふれる好短編ですが、ミステリとしては弱いかな。
登山中に見知らぬ女性から同行を頼まれる「求菩提行」が、意表を突く内容で編中のベスト。ほかに、暗号ミステリ「0123」と「貨泉」が印象に残った。

No.1399 6点 スペード&アーチャー探偵事務所- ジョー・ゴアズ 2011/01/15 18:47
ダン・カーニー探偵事務所(DKA)シリーズで知られるジョー・ゴアズがつい先日亡くなった。
ゴアズは、探偵事務所勤務という同じ経歴を持つダシール・ハメットに傾倒し造詣も深かったらしく、ピンカートン探偵社を退職したハメットを主人公にしたハードボイルド小説も書いていますが、本書はそのハメット作「マルタの鷹」の前日譚です。
本家の「マルタの鷹」では早々に退場することになる相棒アーチャーとサム・スペードのなりそめを始め、二人の関係が連作形式で語られている。ラストがそのまま「マルタの鷹」の発端シーンにつながる構成にするところなど、しゃれていて心憎い仕上がりでした。
因縁めきますが、ゴアズが亡くなった1月10日は、奇しくもダシール・ハメットの50回目の命日だという。

No.1398 6点 疑惑- 大岡昇平 2011/01/15 15:30
昭和30年代の初めに書かれたミステリの作品集。
作者は、海外の犯罪実話や裁判記録に関心を持ち造詣が深いようで、それらを元ネタにした作品が多いように思う。清張を思わせる殺人実話風の物語が、真相を明示せずに唐突に終わるなど戸惑う内容のものもあった。
編中気に入ったのは「真昼の歩行者」。街を彷徨う記憶喪失者の話がラストに予想外の反転を見せる。
そのほか、複数の事件関係者が臨終の際に告白するごとに次々と真相が変転する「春の夜の出来事」と、歴史上の有名劇作家の正体を探る「シェイクスピア・ミステリ」が印象に残った。

No.1397 7点 川は静かに流れ- ジョン・ハート 2011/01/15 14:59
殺人犯の濡れ衣を着せられ、故郷と家族を捨てた主人公の「僕」アダム。旧友の求めに応じて5年ぶりに帰郷した川辺の町を舞台に再び殺人事件に巻き込まれるというストーリー。
いわゆる”帰郷もの”のミステリですが、文章は洗練されているものの、タイトルから受ける叙情性はあまり感じられなかった。作者自身が冒頭に書いているように、ミステリであると同時に家族を巡る物語ですが、この隠された血縁関係が(全くテイストが違うものの)横溝風なのはちょっとどうかと思う。
辛口の感想になったが、世評にたがわず他の作品も読んでみたく思わせる良作には違いない。

No.1396 4点 浅間山麓殺人推理- 梶龍雄 2011/01/14 18:06
タイトルからクローズド・サークルの”山荘もの”を想起させますが、これは本格ミステリとは言えないでしょう。
浅間山麓の平原に集まった男女5人が、何者かに狙撃され、その犯人を特定するために、次々と自らの過去の犯罪を語りだすという風変わりなプロットでした。
5人の推理合戦に力点が置かれているわけではなく、いまいち作者の狙いが分かりずらいクライム・ミステリ。

No.1395 4点 雷鳴の中でも- ジョン・ディクスン・カー 2011/01/14 17:43
ジュネーブ近郊の山荘を舞台にしたゴシック・ロマン風の設定のミステリ。
作者定番の雷鳴を背景音にするとか、ナチス・ヒトラーの挿話をいれるなど、雰囲気つくりは悪くないと思います。
ただ、肝心の物語が退屈。犯行のトリックもあまり面白いものではありませんでした。

No.1394 5点 奥信濃鬼女伝説殺人事件- 梶龍雄 2011/01/14 17:43
探偵助手のアルバイトに採用された女子大生の視点で展開する物語は、奥信濃・秋山郷にある観光ホテル女性経営者の殺人事件を主とした本格編。
この女子大生の語り口が、変な若者言葉の連発で読むのが痛い。しかし、タイトル・設定とも火曜サスペンス劇場風ですが、さりげない伏線張りまくりで、まずまずの本格パズラーだった。まあ、意外な犯人像は定番と言えば定番ですが。

No.1393 4点 死者のノック- ジョン・ディクスン・カー 2011/01/13 17:48
舞台が米国の大学周辺という、フェル博士登場のミステリとしては、現代的でちょっと毛色の変わった作品。
ウィルキー・コリンズの手紙が重要な役割をし、手紙の内容を模したような密室殺人が起こりますが、この密室トリックの解明部分が読んでいてよく理解できない。男女の愛憎問題が絡むのもまたかと思わせますし、フェル博士も別人かと思うほど精彩を欠いているように感じました。

No.1392 5点 裏六甲異人館の惨劇- 梶龍雄 2011/01/13 17:47
映画のロケハンのため六甲山へ出向いた助監督が、酔っ払って覗いた別荘で殺人を目撃するという発端の本書は、映画監督・五城が探偵役を務めるシリーズの一編らしい。
まえがきで”殺人とは零点である云々”とあり、しきりにクリスティの「ゼロ時間へ」のオマージュであるかの如く書かれていますが、メイン・アイデアは、むしろ女史の別作品のヴァリエーションでしょう。
やりたかった企みは判るものの、それが機能しているかは微妙です。

No.1391 4点 疑惑の影- ジョン・ディクスン・カー 2011/01/12 18:11
またもや、ある女性の毒殺疑惑をテーマにしたサスペンス風味の作品ですが、あまり面白いとは思えない。
探偵役の弁護士パトリック・バトラーという人物に魅力的がないうえ、フェル博士が脇役というか、悪魔崇拝などの怪奇趣向を持ち出し、ただプロットを混乱させる役割でしかない。
弁護士が主役であれば、「ユダの窓」のごとく本格的な法廷ミステリにしてほしかった。

No.1390 7点 清里高原殺人別荘- 梶龍雄 2011/01/12 17:53
いわゆる"雪の山荘”もので、逃げ込んだ銀行強盗犯5人組が殺されていく本格ミステリ。
なかなかインパクトのある一発ネタトリックが炸裂しています。こちらを先に読んだので衝撃度は大きかった。
現在読めばそれほどとは思わないですが、昭和ミステリの生き残りのような作家が、新本格に先んじてコレを書いた事を評価して、プラス1点を献上。

No.1389 5点 眠れるスフィンクス- ジョン・ディクスン・カー 2011/01/11 18:07
往年のカーのようなケレン味が見られない地味な作品。
いちおう、密室状況の納骨堂内での棺の移動という不可能興味を提示していますが、本筋の謎ではありません。メインは過去の女性不審死に関する謎で、登場人物の造形をミスリードしたり、新たに事件が発生しない構成は、アガサ・クリスティや後期クイーンの作風に近いように思います。

No.1388 6点 葉山宝石館の惨劇- 梶龍雄 2011/01/11 17:44
高台の隣家から宝石館で起こっていることを目撃し夏休みの日記に綴る小学生、その家庭教師の女子大生、若手とベテランの刑事コンビと、いずれも館の外部の登場人物が、それぞれの視点で推理を組み立てていく構成がユニーク。密室の謎に関してはハウダニットより、その理由(というか位置づけ)が面白いと思う。
派手な一発ネタ・トリックはないものの、通り一遍の”館ミステリ”とは違った構成の妙がありました。

No.1387 5点 死が二人をわかつまで- ジョン・ディクスン・カー 2011/01/10 18:34
物語の前半部は、短編「ヴァンパイアの塔」のプロットを借用したような、主人公の婚約者である女性の毒殺魔疑惑を中心にサスペンスを盛り上げ、例によってメインは密室殺人になっています。この密室を構築するトリックそのものは陳腐ですが、ある心理的トリックを併せることで、なかなか巧妙なものになっていると思います。
しかし、本書のタイトルはどうなんでしょう。まだ旧題の「毒殺魔」のほうが内容をイメージしやすい感じがします。

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