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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2460件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1440 8点 ウッドストック行最終バス- コリン・デクスター 2011/02/13 17:57
モース主任警部シリーズの1作目。
大団円まで推理の過程を明かさない過去の名探偵と違って、仮説を構築しては修正を繰り返し、それらを随時部下のルイスに開陳していくモースの謎解きは新鮮でした。本書の中盤での、北オックスフォードの人口1万人から幾つかの犯人の条件を当てはめて、最終的に赤い車の持ち主を1人に絞り込むやり取りが、まさに”机上の空論”的ロジックで笑えます。
「警部さん、とうとうクリスチャン・ネームを教えてくれませんでしたね」。この犯人のセリフで終わるエピローグが印象に残る。

No.1439 5点 紅の幻影- 斎藤栄 2011/02/12 15:03
小説家志望の「私」が、大衆小説大家の邸宅に通い、”勝海舟二人説”に基づく歴史ミステリを執筆中に殺人事件に巻き込まれる。
私小説風に綴られるこの第一部「紅の幻影」は良かったのだけど、現実の事件に変転する第二部が物足りない。
作中作が遺稿のカタチで現実の事件に繋がる構成自体は、当時としては斬新なプロットだと思いますが、ただそれだけという感じで、後続の折原一作品などと比較すると、もうひとヒネリ欲しいと思ってしまう。

No.1438 4点 引き潮の魔女- ジョン・ディクスン・カー 2011/02/12 14:34
首都警察シリーズ三部作の3作目。最初の「火よ燃えろ!」はスコットランド・ヤード創設まもないヴィクトリア朝時代が舞台背景でしたが、本書は20世紀初頭で、あまり歴史ミステリという感じを受けなかった。
カーの歴史ミステリの定番である活劇&ロマンスの要素はなく、海水浴場の砂浜に囲まれた脱衣場内の死体という”足跡のない殺人”を扱った不可能トリックもので、フェル博士登場でも違和感がないが、トリックは残念レベルです、探偵役のトウィッグ警部は個性に乏しく、これは平凡な作品と言わざるを得ません。

No.1437 7点 リア王密室に死す- 梶龍雄 2011/02/11 18:25
戦後まもない京都を舞台に、最後の旧制三高生たちが巻き込まれる密室殺人事件を扱った青春ミステリ。旧制高校シリーズの1作目です。
作者の青春ものは、本格ミステリの趣向が弱いと言われますが、本書は両方の要素のバランスがよくとれている佳作だと思います。密室トリックの真相を示唆する伏線が絶妙で、もうひとつの隠されたトリックもこの時代ならではのものという点を評価したい。
第二部で、主人公・武志が三十数年後に知ることになる、奈智子(またもや思慕の対象が年上の女性ですが)の運命と彼女が残したものはなかなか感動的でした。

No.1436 6点 ブラウン神父の醜聞- G・K・チェスタトン 2011/02/11 17:54
ブラウン神父シリーズの第5短編集。
この最後の短編集も、パラドックスや立ち位置の逆転というお得意のモチーフが健在。「ブラウン神父の醜聞」や「ブルー氏の追跡」などはその典型で、ともに先入観(人は見かけによらぬもの)を逆手に取ったもの。
収録作の中では、「見えない人」パターンの人間消失トリックを扱った「古書の呪い」が印象に残った。

No.1435 7点 善の決算- 日影丈吉 2011/02/10 20:38
シリーズ探偵役のひとり、春日検事の事件簿を中核とした中短編集(弥生書房版)。
短編だと幻想的なミステリが多い作者の作品ですが、この春日検事シリーズは、叙情性のある作風は変わらないものの、本格パズラー志向が強い傑作が揃っています。

表題作の中編「善の決算」は、密室状況のアトリエで洋画家が弓矢で殺害された事件。3人の容疑者に対する犯行可能性の論考が緻密なうえトリックも意表をつきます。
同じく中編の「枯野」は、新興宗教の教祖と女子高生信者の二重死の謎。ホワイダニットの展開から、予想外の真相に至る。
「眠り草は何を夢みる」は、連作ミステリとしては通常ありえないようなラストの処理に驚かされます。

春日検事シリーズは、本書収録作以外にも書かれていますが、一部は全集でしか読めない現状は不幸としか言いようがない。

No.1434 6点 ブラウン神父の秘密- G・K・チェスタトン 2011/02/10 19:56
ブラウン神父シリーズの第4短編集。隠退してスペインに住むフランボウらに、神父が語る8編の探偵譚が収録されています。
逆説的ロジックを具現化させる必要上、人物の入れ替りや一人二役トリックを使った作品が多いのですが、いずれも設定に工夫があり飽きさせません。
なかでは、プロットにヒネリがあり動機が特異な「ヴォードリーの失踪」が個人的ベスト。「マーン城の喪主」が準ベスト。

No.1433 4点 やぶへび- 大沢在昌 2011/02/09 17:46
金のために偽装結婚した相手・中国人妻のトラブルに巻き込まれ、泥沼に嵌っていく男を主人公にしたクライム小説。
久々の書き下ろしで多少の期待がありましたが、近年の低調ぶり・マンネリから脱皮するものではありませんでした。終盤のこのような展開を何度読んだことやら。
序盤の”初対面の妻”とのやり取りなどユーモラスなところもあるので、いっそのこと「走らなあかん夜明けまで」タイプのドタバタ劇に徹した方がよかったように思う。

No.1432 7点 ブラウン神父の不信- G・K・チェスタトン 2011/02/08 18:12
ブラウン神父シリーズの第3短編集。収録作の知名度では「童心」にも引けを取らないラインナップです。
各種アンソロジーに取り上げられることの多い安楽椅子探偵もの「犬のお告げ」、島荘的な豪快トリックの「ムーン・クレサントの奇蹟」、ディクスン・カーが書きそうな不可能トリック「天の矢」、クリスティの某作を連想させるトリックが印象深い「ギデオン・ワイズの亡霊」など傑作ぞろい。
個人的お気に入りは「翼ある剣」で、作者お得意のメイン・トリックに加え、死体の隠し方がなんともブラックな味わいがある。

No.1431 5点 巡査の休日- 佐々木譲 2011/02/07 17:40
北海道警シリーズの4作目。
前作で小島百合巡査が逮捕したストーカー事件の犯人が逃走し、津久井らが追うというのがメイン・プロットで、それに複数の事件が並行して展開するモジュラー形式になっています。
いずれの事件もこれまでのシリーズ作品と比べると小粒なので、やや牽引力に欠ける印象。刑事群像劇を読ませるには、キャラクター造形に長けているとは言い難い作風なので、シリーズ愛読者でないと楽しめないのではと思う。

No.1430 6点 傾いたローソク- E・S・ガードナー 2011/02/06 23:52
交通事故の示談から土地売買契約に関わるトラブルと繋がり、今回は民事裁判か?と思わせる序盤の展開でしたが、停泊中のヨット船内の殺人という本筋になってからは結構本格編でした。
傾いたローソク、潮の干満、昇降口の足跡などのデータに基づくペリイ・メイスンの繰り出すロジックは、理屈っぽいですが、発想の転換が面白く、よく考えられているように思います。

No.1429 6点 戦場の夜想曲- 田中芳樹 2011/02/06 12:54
初期のSF・冒険小説系短編集。
第1短編集「流星航路」と同様に、宇宙空間を舞台に「銀英伝」のワンシーンを切り取ったようなSF小説と、近未来の冒険・謀略ものの2つのタイプの作品が混在した短編集でした。
前者では、人類終末テーマの「長い夜の見張り」、後者では、山田正紀ばりの襲撃小説「ブルースカイ・ドリーム」がよかったが、ミステリ的なアイデアでは前作に一歩譲る感じがする。

No.1428 6点 喉切り隊長- ジョン・ディクスン・カー 2011/02/05 18:49
ナポレオン統治下のフランス軍に捕えられた英国人スパイ・アランの諜報&探偵活動を描いた歴史ミステリ。
次々と兵士の首を切裂く謎の暗殺者の正体は(黒幕を含めて)ある程度予測がつくので、フーダニット・ミステリとしての魅力に欠けますが、実在の悪魔的人物である警務大臣ジョセフ・フーシェの造形が興味深い。
フーシェとナポレオン皇帝との関係、主人公アランとの駆け引き等、スパイ謀略ものの歴史ミステリとして楽しめた。

No.1427 6点 真赤な子犬- 日影丈吉 2011/02/05 13:46
昭和30年代に出版されたとは思えない、軽妙で垢ぬけした本格ミステリでした。
まず、個性的な登場人物が揃っています。国務大臣である父親と歌手の娘のコンビもいい味を出していますが、大臣の影武者にさせられる探偵小説マニアの守衛のおじさんがいい。この時代にセイヤーズを読みながら、終盤に意外な役割をします。
ふたつの事件、社長の墜落死と足跡のない殺人は、バカミス的な真相かと思っていたら、割とまともだったのは残念。

No.1426 5点 シャム双子の秘密- エラリイ・クイーン 2011/02/04 17:55
山火事に取り囲まれた山荘での殺人や、怪異なシャム双子の登場など、面白そうな演出がありながら、あまり活かされていないように思う。やはり、クイーンはストーリーテラーとしては一流とは言えないと再認識させられた作品。
メインの謎は、二度にわたるトランプのカードによるダイイング・メッセージですが、偽の手掛かりを入れて徒に複雑化している点で面白味に欠ける。読者が推理して真相に至るのは難しく、カタルシスも感じなかった。
だいたい、ダイイングメッセージを扱ったクイーンの長編で感心出来たものは見当たらないけれど。

No.1425 5点 東京ー盛岡双影殺人- 山村正夫 2011/02/03 17:36
幽体離脱を説く新興宗教の教祖を巡るアリバイ崩しがメインの本格ミステリ。
盛岡で発生した殺人事件では、同日同時刻に東京での強姦事件の容疑者であり、続く東京の殺人事件時には盛岡にいたアリバイがあるという、不可能興味が強い謎の設定が魅力的です。まあ、真相は想定の範囲内ではありますが、いくつかの小技のトリックもあり、作者の作品の中では楽しめた。
しかし、新興宗教の名前が「双生教」というのはちょっと芸がなさすぎる。

No.1424 7点 ラスト・チャイルド- ジョン・ハート 2011/02/02 17:52
1年前に何者かに誘拐された双子の妹の行方を、主人公の13歳の少年ジョニーが、唯一の友達ジャックとともに捜し続けるというストーリー。
インディアンの扮装をしたり、車を盗んで乗りまわすなど、この少年の行動・造形が奇異で、当初は感情移入が難しいですが、終盤徐々に真相が見えてくるあたりから物語に引き込まれました。小説の味わいは、キャロル・オコンネルに似ているように感じた。
タイトルの”The Last Child”は、「ひとり残された子供」というような意味ですが、最後にもうひとつの意味が示唆されます。真相は暗欝な内容ながら、エピローグで語られるジョニーのある行為で救われる思いがした。

No.1423 6点 殺しの双曲線- 西村京太郎 2011/02/01 18:03
作者の作品の中では、マニアックな趣向が施された本格ミステリですが、今回久々に再読してみて、下記の不満点が目につき初読時よりだいぶ評価が下がった。
以下はネタバレを含みますが、

①閉された雪の山荘の連続殺人という設定の割にあまりサスペンスが感じられない。(シーマスターさんに同じく、「りら荘事件」を読んだ時と似た印象)
②並行して語られる双子の兄弟による連続強盗事件は、そこまでやる必然性に欠ける。犯人による工作というより、単に作者の読者に対するミスディレクションの意味合いとしか受けとれない。
③重要人物の登場が後出し。新聞記者はともかく、顔のない死体の身代わりについては全く伏線もない。
④ラストシーンの、犯人に対する刑事の痛烈なひと言は、ゲーム性の強い全体のプロットから浮いていてチグハグな感じを受ける。

No.1422 6点 シャーロック・ホームズの功績- ジョン・ディクスン・カー 2011/01/31 17:21
コナン・ドイルの子息エードリアンとディクスン・カーの共著による贋作シャーロック・ホームズ譚。パロディではなく原典に忠実なパスティーシュになっています。
全12作いずれも、原典のなかで名前のみ触れられている、”語られざる事件”を新たに再現した構成で、有名どころでは「ソア橋事件」の中で言及された、”傘をとりに自宅に戻ったまま消えてしまったフィリモア氏の事件”を再現した人間消失もの「ハイゲイトの奇蹟事件」が、いちばん興味深く読めた。
ディクスン・カーが関与したのは前半の6編だけですが、蝋人形館の人形がもつトランプのカードの種類が変化する謎や、「密閉された部屋の事件」など、怪奇趣向や不可能トリックを扱った作品あたりに、カーの持ち味が出ているように思う。

No.1421 6点 透明な季節- 梶龍雄 2011/01/30 13:48
後期の通俗的でB級感あふれる本格ミステリからは想像できない、文芸寄りで私小説風の青春ミステリでした。
戦時下の旧制中学の生徒・高志を主人公に、”ポケゴリ”こと配属将校の殺害事件が描かれていますが、主人公が推理するのではなく、真相も唐突に明らかになるので、ミステリの趣向は弱いと言わざるを得ません。
むしろ、作者の力点は、戦時下という世相ゆえの犯人の動機であったり、主人公・高志の将校の妻・薫に対する心情の変遷にあるのでしょう。

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