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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1726 5点 乾杯、女探偵!- カーター・ブラウン 2012/04/16 18:58
ハリウッドの女探偵メイヴィス・セドリッツ登場。
軽ハードボイルドというより、序盤の死体の処理方法を巡って連続する騒動はドタバタ・コメディです。
マリリン・モンローか「チャーリーズ・エンジェル」のファラ・フォーセット=メジャースを髣髴とさせる、少々オツムの弱い肉体派の主人公メイヴィスは、ひたすらお色気担当で(必然性のないヌード・シーンが三回!)、探偵らしい行動がほとんど見られないのはシリーズのお約束なのか?
かなりご都合主義な展開のすえに、”意外な真犯人”だけは用意されているのですが。

No.1725 5点 私だけが知っている 第2集- アンソロジー(出版社編) 2012/04/15 17:51
昭和30年代のNHK名番組「私だけが知っている」のシナリオ・アンソロジー。第2弾の本書は、全266作品の中から昭和36年以降の12作品が収録されています。

戸板康二「金印」は正月特番ということで、脚本を担当していた鮎川哲也、土屋隆夫、夏樹静子、藤村正太、笹沢左保の5人が探偵局側で出演し、レギュラー探偵団が推理劇を演じるという、攻守ところを替えた趣向が楽しい(内容自体はたわいない消失トリックものですが)。
夏樹静子「崖の上の家」は、自身の長編でも使ったプロット上のトリックが、枚数の関係もあってやや複雑で難解。藤村正太「雪の証言」は、足跡のない殺人テーマ。実行の可能性に疑問があるがミスリードは巧み。
総じて犯人を特定するロジックが弱く、意外性のある”決め手”を設定した作品が見当たらなかったのは残念。

No.1724 6点 ドーヴァー3- ジョイス・ポーター 2012/04/14 18:06
ドーヴァー警部シリーズ。ポケミス版「ドーヴァー3」を文庫化に際し改題したものです。

複数の猥褻な中傷の手紙が村を揺るがし、女性の自殺未遂とガス中毒死が連続する奇っ怪な事件に、ロンドン警視庁の厄介者ドーヴァーが出馬する。例によって、面倒くさい捜査は部下のマグレガーに押し付け、自分は飲み食い昼寝を決め込むという、いつもながらの展開です。
”天敵”である村の有力者の女性との攻防も可笑しいが、見当違いの推理をするドーヴァーに対して、最後に真犯人が採った行動がまた爆笑ものでした。

No.1723 6点 海神の晩餐- 若竹七海 2012/04/13 18:31
「確か、ジャック・フュートレルは何編かのシンキング・マシンものの未発表原稿とともに、タイタニック号で海に沈んだのだ」

昭和7年、横浜港からバンクーヴァーに向かうあの客船”氷川丸”を舞台にした船上ミステリ。
その20年前にタイタニック号とともに北大西洋に沈んだはずの謎の原稿を巡って、盗難騒ぎや死体消失、はたまた暗号がらみのスパイ謀略と、次々と怪事件が繰り広げられる。
ジャック・フットレルの”思考機械”が登場する結末のない20ページの作中作「消えた女」の謎解きをするのが、ホノルル出身のあの中国人だったり、主人公の青年・本山が”ミスター・モト”と呼ばれているなど、海外クラシックミステリ読みには、ニヤリとさせるミステリ趣向がテンコ盛りで楽しめる。

No.1722 6点 千年ジュリエット- 初野晴 2012/04/11 18:15
学園ミステリ、”ハルチカ”シリーズの第4弾。
廃部寸前の吹奏楽部を立て直し全国大会出場を目指すという、当初のコンセプトに前作で一応の区切りをつけたこともあって、今回は文化祭を背景にした普通の学園ものの様相になっている。
同様の設定のものを読むのが今年に入って3冊目なためか、どことなく既読感があった。結末が欠けた演劇部のシナリオから真相を推理する「決闘戯曲」などは、市井豊の「聴き屋」シリーズの一編と趣向が被っているように思う。
それでも、最終話の「千年ジュリエット」のような良作があったのでこの点数。ミステリとしては薄味ですが、おもわず涙腺を刺激された。

No.1721 6点 罪悪- フェルディナント・フォン・シーラッハ 2012/04/10 18:44
刑事弁護士の「私」が関わった様々な人々のさまざまな犯罪を綴った連作クライム・ミステリの第2弾。
前作「犯罪」と全く同じ構成で二匹目のドジョウ狙いという感があって、異様な犯罪であっても個々の作品から受ける衝撃度は弱まった。200ページ余りに15編収録されており、ショート・ストーリーが多いのも読み応えという点でやや減退している。
陰惨な話が目立つ中で、麻薬取引を巡るドタバタ・コメディ劇の「鍵」が二転三転する展開と、ラストのミステリ趣向が面白く個人的ベスト作品。車、犬、鍵をお題にした落語の三題噺といった感じ。
ショート・コント風の「秘密」には爆笑。これを最終話に持ってきた所に作者のセンスを感じる。

No.1720 7点 狩久探偵小説選- 狩久 2012/04/09 18:44
奇才・狩久の、本格ミステリを中心に編まれたものとしては初の短編集。
瀬折研吉&風呂出亜久子シリーズは、ユーモアとチェスタトン風の逆説的ロジックに溢れた不可能犯罪ものが多い。
なかでも、中編の「虎よ、虎よ、爛爛と---101番目の密室」の”逆密室”の論理が有名ですが、これは誤って理解してました。被害者が外で、容疑者が密室内だから”逆密室”という訳じゃないんですよね。だから、”読者諸君はその密室の中にいた”となるのか。まあ、屁理屈のようにも思えますが。
どちらかというと、ノン・シリーズの作品の方が個人的には嗜好に合っていた。
女優の凄まじい執念がアリバイトリックに結びつく「落石」、密室状況の浴室からの消失トリックがユニークで、怪談話がオチで反転する「山女魚」、密室トリック解明過程が重層的でロジカルな「共犯者」がベスト3かな(やはり、出来のいい作品はみなアンソロジーに採られてますねぇ)。

No.1719 7点 赤の組曲- 土屋隆夫 2012/04/06 18:04
「ビゼーよ、帰れ シューマンは待つ」

千草検事シリーズの2作目。久々の再読で、憶えていたのは冒頭の謎めいたフレーズだけです。でも、これは謎でも何でもなく、早い段階で、”失踪した妻に呼びかける新聞広告の文言”だと明らかになります。
登場人物が限られているため、事件の隠された構図はなんとなく察することが可能ですが、大胆なメイントリックに関して普通に書けばアンフェアになるところを、少年から聴取した野本刑事の回想と少年の日記で処理するという工夫があり(微妙な記述もありますが)、フェア・プレイを強く意識している点を評価したい。また、検事が仕掛けに気付くきっかけが、方言と”野本刑事の初対面の妻”という意外性が秀逸です。
少年と少女の悲劇的なサブストーリーや、叙情的でやるせないラストシーンなどが強く胸を打つ、物語性豊かな本格ミステリの佳作と言えると思います。

No.1718 5点 死の部屋でギターが鳴った- 大谷羊太郎 2012/04/05 18:29
芸能プロ社員の主人公を探偵役に据えた初期の”地方巡業殺人”シリーズの1冊。第12回江戸川乱歩賞の最終候補作を改稿・改題した作品です。
コンサート会場の楽屋で女性歌手が殺される。現場周辺が密室状況だったため容疑者になった主人公は事件の謎を追い、過去の米軍基地内の密室殺人が関係していることを突きとめる、というのが粗筋です。

学生アルバイト楽団に芸能界ネタと、作者の経歴・経験が色濃く反映した物語背景には魅力を感じず、現在と過去の2つの密室の謎だけが読みどころでした。米軍倉庫の方は平凡ですが、楽屋が密室状況になったトリックはちょっとユニーク。原理は”思考機械”シリーズのある作品を連想させますが、作者のギタリストとしての体験が発想のヒントになったのでしょうか。

No.1717 6点 この謎が解けるか?鮎川哲也からの挑戦状1- 鮎川哲也 2012/04/04 18:14
昭和30年代に放映されたNHKの名番組「私だけが知っている」から、鮎川哲也が脚本を書いた7編をピックアップしたもの。シナリオとはいえ、今の時代に鮎哲の”初出作品”を読めるとは思わなかった。

「白樺荘事件」は、人物の特性(=左利きとか色盲とか...)をネタに、ロジカルな消去法推理で犯人を特定していく作者お得意のパターンの作品。これはなかなかの良作だと思う。
「遺品」は、映像作品ならではの伏線がイラストになっているので真相が分かりやすいか。逆に、「俄か芝居」はイラストが誤誘導になっていて巧い。完全に騙された。
鬼貫警部と丹那刑事が登場する「アリバイ」の”時刻表トリック”は伏線不足の感があるが、作者の通読者ならピンと来るかもしれない。
「茜荘事件」と「弓矢荘事件」は共に犯人特定のロジックが弱いと感じた。徳川夢声探偵長からクレームがつきそう。

No.1716 6点 悪魔のような女- 中町信 2012/04/03 18:31
巨額の遺産相続をめぐるフーダニット・ミステリ。
5件の連続殺人のほとんどが総合病院内で起きるところや、刑事が探偵役である点で、これまで読んできたものとやや趣が違うのですが、随所に”らしさ”も覗えます。
相続が不可能な余命数カ月の人物がなぜ殺されるのかという謎も面白いのですが、別の被害者が残した「タンシンフニン」という言葉の真相と、それによって人物関係の構図を逆転させる仕掛けがなかなか巧妙です。
今回のプロローグは「裏の裏」狙いだと思いますが、あまりミスリードの効果はないのでは。

No.1715 6点 中途半端な密室- 東川篤哉 2012/04/02 23:06
プロデビュー前の作品を含む初期短編集。いくつかの作品は既読でしたが、連作物をまとめて読むと若干味わいが異なり今回の方が楽しめた。

個々に見ていくと、表題作は伏線がやや分かり易いが、真相に至る丁寧なロジック展開がいい。家屋消失トリックの「十年の密室・十分の消失」は、なぜ”このタイミングなのか”という説明が弱いと思った。個人的ベストは「南の島の殺人」で、破天荒な騙りの部分が一番面白かった。
作中に、安楽椅子探偵ものに対する作者の持論(=”少ない情報”からロジックを展開させるのが安楽椅子探偵ものの醍醐味)があって共感できるのですが、収録作は必ずしも実践できてると言えないのはご愛敬か。

No.1714 6点 野蛮なやつら- ドン・ウィンズロウ 2012/04/01 22:32
”犯罪小説というジャンルの枠を叩き壊し”ているかは分からないが、シナリオ風のセンテンスを織り込み、スラングや作者の造語で溢れ弾けた文体は、ウィンズロウ節の進化形なんだろう(このあたりは、3作ぶりに還ってきた翻訳の東江さんの功績もあると思う)。細かく章割されていることもあって読む者をグイグイ引っ張ってくれる。

同じ様にメキシコの麻薬カルテルとの戦いを描いた「犬の力」が先にあるだけに、それと比べると物語が小粒でストーリーに新味が感じられない点はあるが、主人公・男女3人の関係は、作中でも触れられている映画「明日に向かって撃て!」を髣髴とさせるところがあってよかった。脇役のオフィーリアの母親もいい味出してます。

No.1713 7点 田沢湖殺人事件- 中町信 2012/03/30 18:10
脳神経科の権威・堂上の妻で推理作家の美保が、中学の同窓会に出席したあと田沢湖で変死する。妻が15年前のある事件について調査していたのを知る堂上は、関係者に会い妻が殺害されたと確信する、というのが粗筋です。

これは中町信の会心作でしょう。15年前の中学の密室事件のトリックはユニークだけど冷静に見ればバカミスとも言えますし、2本のアリバイ・トリックのうち時刻表トリックは土地勘がないとピンとこないもので、個々のトリックは大したことはないです。しかしながら、美保の残した手紙の断片が挿入される構成の妙と、プロット全体に施された〇〇を誤認させる工夫が秀逸です。プロローグも、作者の他作品と比べ露骨な叙述トリックになっていないのも好感が持てる。

No.1712 5点 グレタ・ガルボに似た女- マイ・シューヴァル&トーマス・ロス 2012/03/29 20:33
マルティン・ベックシリーズが完結し、同時期に共同執筆者だったご主人のペール・ヴァールーが亡くなったこともあり、長らく休筆状態だったマイ・シューヴァルが15年ぶりに出した長編ミステリ。
今回のパートナーはオランダの作家ですが、「女刑事の死」のロス・トーマスだとエドガー賞作家同士の合作か、と早とちりしてました。ロス・トーマスじゃなくトーマス・ロスなのでした(苦笑)。
スウェーデンとオランダ、居住国も言語も異なる作家二人の合作ということで、その執筆方法の煩雑さについて”あとがき”にも触れられていますが(ベックシリーズ同様に章毎に交互に書いていく方式)、やはりその結果、完成度は落ちるといわざるを得ません。中年男たちの追跡調査はそれなりに読みどころがあるのですが、若い男女の逃避行のパートは書き込み不足だと思います。なぜ、そこまで苦心して合作にこだわったのかが分からないですね。

No.1711 6点 方丈記殺人事件- 斎藤栄 2012/03/28 18:17
”奥の細道”、”徒然草”に続く「古文」殺人事件シリーズの3作目。鴨長明暗殺説や方丈記の暗号など、一応のネタ振りはあるものの、歴史の謎は単なる装飾に過ぎずメインではありません。

大学助教授の失踪事件と、三重塔で死体が発見された女性金融業者の事件という、並行して語られる一見関連のない二つのストーリーが、最後に合流し驚きの真相が立ち現れるという構成で、確かにサプライズ感はあるのですが、地の文に虚偽と言える記述があり、現代の感覚ではアンフェアになってしまうのが惜しいところです。
三重塔の空間密室のトリックは、ドリフの大道具を使ったコント・レベルで笑えます。

No.1710 6点 火神被殺- 松本清張 2012/03/27 20:28
バラエティに富んだ5編収録の短編集。
表題作「火神被殺」は、古代史の論考と現代の殺人を結びつけた「陸行水行」や「万葉翡翠」などに連なる作品。古事記と出雲風土記をネタに、神による神殺しのエピソードに見立てた死体状況が絶妙のミスディレクションになっている。
「奇妙な被告」は裁判モノ。”自白の任意性”を逆手に取ったトリックは現代でも十分あり得るものだと思う。
「神の里事件」は神道系の新興宗教教団内の二重殺人事件。凶器の隠蔽や人物に関するトリックなど、かなり本格ミステリしてますが、播磨風土記などのウンチクを読むのが少々キツイ。
そのほか、私小説風の物語からクライムミステリに変わる「恩誼の紐」の暗さが、道尾秀介の最近の作品を連想させる内容でした。

No.1709 5点 北京悠々館- 陳舜臣 2012/03/26 20:35
日露開戦前夜、清朝末期の北京を舞台背景にした本格ミステリ+スパイ謀略スリラー。
緊迫した国際情勢のなか、清朝の動勢を探るよう任務を背負わされた書画商の土井は、政界のフィクサー的人物の館を訪れ工作を終えた後、石造りの密室で主人の刺殺死体に遭遇する・・・・・。

不可能殺人の趣向はまあ大したことがない、というか残念レベルですが、当時の中国社会や政治情勢など”大陸人気質”のようなものが垣間見れて興味深かった。事件の構図もそういったものが伏線になっており、いかにも中国人がらみの謀略スリラーという感じがする。

No.1708 6点 77便に何が起きたか- 夏樹静子 2012/03/25 18:58
表題作の旅客機をはじめ客船、鉄道などの乗り物を題材にした5編収録の本格ミステリ中短編集。

表題作は、爆破墜落した旅客機の乗客の1割が同じ地方都市のお互い無関係の住民だったという謎。ミッシング・リンクを探る捜査過程がスリリングな力作だが、そんな不確かな情報で決行するか?....という感も。
「ローマ急行殺人事件」が、アンチ安楽椅子探偵ものというべき問題作。”オリエント急行”のネタバラシからこういう着地点に持ってくるとは予想外でした。
そのほか、「特急夕月」「山陽新幹線殺人事件」の2編も本格ミステリ読みを皮肉ったところがあり面白い。

No.1707 5点 鳴き竜殺人事件- 草野唯雄 2012/03/24 16:47
重要文化財・東照宮薬師堂の”鳴き竜復元計画”に携わる大学で、女子大生と研究室助手の不審死が連続して発生。復元作業担当の教授・水野は、老刑事に協力し真相究明に乗り出すが.....というストーリー。

犯行現場で見つかった特殊な紐の結び方だけで、27年前の戦時中の殺人と関連づけるなど、ご都合主義で強引な展開が目立つ作品です。すべては、最終章で明かされる意外な真相のためなのですが、そのアイデア自体は評価できるものの、そこに至るまでの展開が巧いとは言い難いです。

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