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kanamoriさん
平均点: 5.88点 書評数: 2474件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1854 7点 失脚/巫女の死- フリードリヒ・デュレンマット 2012/12/28 10:49
スイス出身の劇作家・小説家、デュレンマットの中短編4編が収録された作品集。作者の邦訳は、ずいぶん前に早川のポケミスから2作ほど出ているのは知っていたのですが、読むのはこれが初めて。
社会性のあるテーマを持った文学的な風刺小説という側面もありますが、そういったものを抜きにしても物語として面白かった。

第1話「トンネル」は、通学の列車内という日常が突如として非日常に変転するシュールな不条理小説。
「失脚」は、スターリン時代のソ連を思わせる政治局会議の一幕劇風の心理サスペンス。幹部それぞれ粛清に怯えながらの心理戦が滑稽だし、結末がこれまた喜劇的です。
「故障」は、ミステリのジャンルでいうと”奇妙な味”。車の故障のためある屋敷に泊まることになった有能セールスマンが、4人の老人と”裁判ごっこ”を始めるが・・・という話で、終盤の展開は読者のヨミの斜め上をいってます。
「巫女の死」は、”オイディプスの悲劇”を扱った歴史幻想もの。デルポイの神託を司る預言者と老いた巫女の俗物的な造形が、現代の怪しげな新興宗教団体のパロディみたいで笑える。

No.1853 6点 のぞきめ- 三津田信三 2012/12/26 12:01
久々(10年ぶりぐらい?)の作家・三津田信三シリーズ。
といっても三津田は最初と最後に登場するだけで、”ある呪われたひとつの村”に纏わる2つの怪異譚が小説の大部分を占めていて、全体の構成は「幽女の如き~」によく似ています。

昭和の終わり、大学生4人がアルバイト先の別荘地近くの廃村で遭遇する恐怖の体験談(第1部)は純粋なホラーで、とくに”視線”のくだりは鳥肌モノです。
昭和の初め、憑依信仰と因習が支配する同じ村を舞台に、ある一家に起きた連続怪死事件をつづった民俗学者の手記(第2部)はホラーミステリ。こちらは途中ちょっと引っ張りすぎと感じるところがありましたが、終章で示唆される”真相”はいかにも作者らしいものでした。
怪異現象にも”説明がつくもの”と”説明がつかないもの”がある。そういった意味では、”如き”シリーズ以上にホラーとミステリが融合している作品ではと思います。

No.1852 6点 アフリカの百万長者- グラント・アレン 2012/12/23 22:15
粘土のように変幻自在に顔を変える怪盗、クレイ大佐登場の連作長編。論創社版”ホームズのライヴァルたち”シリーズの最新作です。
怪盗といっても駆使するのは詐欺的手法なので、コンゲーム小説といった趣です。
ユニークだと思ったのは、標的が拝金主義の俗物大富豪サー・チャールズに固定されていることと、犯罪が被害者側(チャールズの義弟)視点で語られるところでしょうか。こういった繰り返し騙される設定だと本来マンネリになるのですが、各編で騙しのテクニックに変化を持たせ、また被害者と読者にフェイントを仕掛ける工夫もあって飽きさせません。
幕引きの処理については賛否が分かれそうですが、個人的にはほろ苦い余韻があっていいと思います。

本書が論創海外ミステリ叢書の記念すべき100冊目ということなので、私的ベスト3を考えてみました。(初期のころは翻訳技量の評判がよろしくなかったのであまり読んでいませんが)
①「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」(ブリテン)②「巡礼者パズル」(クェンティン)③「不可能犯罪課の事件簿」(ヤッフェ)

No.1851 6点 潜伏者- 折原一 2012/12/22 18:44
サブタイトルが”The Hands of Mr.Hotta Morio”(=「堀田守男氏の手」)ということで、トマス・バークの傑作短編「オッターモール氏の手」(『世界短編傑作集④』収録)に倣ったサイコサスペンスかと思っていたのですが、”アパートの一室に潜む謎の人物の正体は意外にも・・・”といった倒錯シリーズその他で何度も読まされたいつもの折原ワールドの作品でした。
「追悼者」のノンフィクション作家男女コンビが再登場するのですが、探偵役としての役割が中途半端で十分に活かされているとはいえず、謎の核心である行方不明の少女たちの真相も分かりやすく、出来としてはやや期待はずれという印象です。なによりも長すぎますね、もう少しコンパクトにできるはず。

No.1850 6点 夜明けのフロスト- アンソロジー(出版社編) 2012/12/20 12:04
『ジャーロ』に掲載されたクリスマス・ミステリのアンソロジー。この雑誌、今では烏賊川市シリーズの短編連載ぐらいが目玉なんでしょうけど、以前は翻訳ミステリ短編も結構載せていたんですよね。

表題作は中篇で、クリスマスの同時多発事件でモジュラれるデントン署のフロスト警部という、まあ長編と同じパターンの作品。もうひとつの”クリスマスのフロスト”といったところです。
フロスト警部以外にも、シリーズ100編目だという引退したレオポルド警部もの(エドワード・ホック)、ニューヨークにクリスマス休暇のダイヤモンド警視(ピーター・ラヴゼイ)、名無しのオプとシャロン・マコーンの競演(プロンジーニ夫婦合作)、暴走ぎみのダルジール&パスコー(レジナルド・ヒル)と、英米の人気キャラクターが総出演していて楽しめます。
ただ、これらはクリスマスの時期の事件というだけで、心温まるような「クリスマス・ストーリー」とはいえないかな。
そういった意味では、ナンシー・ピカード「Dr.カウチ、大統領を救う」や、ダグ・アリン「あの子は誰なの?」がテーマに合致しているかもしれません。

No.1849 6点 猫間地獄のわらべ歌- 幡大介 2012/12/19 12:03
江戸時代の考証的情報を交えたキッチリとした時代小説という側面と、突如メタ・レベルになりミステリのお約束をネタに笑いを取るバカミスの要素とが入り混じった本格ミステリの怪作です。

密室破りに始まり、首なし死体と見立て連続殺人、読者への挑戦状、館(屋形?)もの、アリバイ崩し、”意外な犯人パターン”など、本格ミステリの趣向がてんこもりで楽しめる。(トリックを活かすために3つの中短編を強引につなげ長編にした感もありますが)。
また、ラストに炸裂する○○トリックについては、冒頭に主人公の御使番に関する情報が明確な伏線になっており巧妙だと感心。直前に「丸太町ルヴォワール」を読んでなければもっと驚けたかもしれません。
いちばんツボだったのが、”読者への挑戦”が、謎解きの挑戦ではなく、”壁本にせずに最後まで読むことができるか”という挑戦だったことですね(笑)。

No.1848 6点 エラリー・クイーンの災難- アンソロジー(国内編集者) 2012/12/17 12:10
エラリー・クイーンの贋作&パロディを集めたアンソロジー。ホームズに関しては掃いて捨てるほど出ているのに、クイーンのものは”世界初”というのがちょっと意外でした。

贋作編のなかでは、エドワード・D・ホックが「インクの輪」と「ライツヴィルのカーニバル」の2編収録されていて、前者がミッシング・リンク(パターン探し)テーマの傑作。単なるパスティーシュにとどまらず、犯人特定のロジック展開など本家と比べても遜色ない出来です。クイーン名義の代作もしているホックですからパステーシュはいわばお手の物でしょうけど。
他の作家のものでは、”ダイイング・メッセージ探し”というような「本の事件」もマニアックでよく考えられた内容の作品です。クイーンが老齢なのにニッキィがなぜ若いのか?と思っていたら・・・オチも面白い。

パロディ&オマージュ編では、探偵クイーンだけでなく、ミステリ作家や編集者としてのクイーンもネタにされている。
ネタ的にはピンとこない微妙なものもありますが、面白かったのは、スティーブン・クイーン作の「ドルリー」で、『レーン最後の事件』の結末が許せない熱狂的ファンが、作者のバーナビー・ロスを監禁し復活譚を書かせようとする話。この作者名とタイトルといい、どっちかというとクイーンじゃなくてキングのパロディだろ(笑)。

No.1847 7点 丸太町ルヴォワール- 円居挽 2012/12/15 20:47
京都を舞台にした疑似裁判”双龍会”シリーズ?の第1弾。
今回全面改稿した講談社文庫版で読了。諸々の書評などの情報からちょっと苦手なタイプのミステリと想像していたのですが、そんなことはなく、全般的な印象は、えらく遠回りしたラブ・ストーリー、と言う感じでしょうか。とくに第1章の論語と”ルージュ”の心理戦風やり取りが秀逸です。
たしかにラノベ風の登場人物たちは鼻につくところがあり、連発される〇〇トリックもどこかで読んだものばかりという感もありますが、その仕掛け方は巧いと思いました。証拠の捏造など”なんでもあり”のコンゲームを思わせる裁判と、終盤の逆転に次ぐ逆転は圧巻です。
また、分かる人にはニヤリとさせる多くの小ネタも楽しい。(たとえば、たびたび出て来る”落花戻し”=「風来忍法帖」など)。

No.1846 5点 ナポレオン・ソロ①/アンクルから来た男- マイクル・アヴァロン 2012/12/13 10:56
国際諜報機関”アンクル”の特別捜査官、ナポレオン・ソロ登場のオリジナル長編シリーズ第1作。

当時は「映画のジェームズ・ボンド、テレビのナポレオン・ソロ」と言われたほど人気があったらしいのですが、007シリーズの亜流もしくは劣化コピーのような通俗的なB級スパイ・アクション小説です。
ただ、本書ではまだ脇役ですが、ロシア人の同僚イリヤ・クリヤキンとのコンビで活動するところは、スパイ小説では珍しい相棒(バディ)ものというユニークさはあります。
世界征服を目論む国際犯罪組織”スラッシュ”や怪しげな科学者を敵に回しての危機一髪の連続展開は、今読むとかなりチープなプロットですが、唯一面白いと思ったのは、”洋服を後ろ前さかさまに着た死体の謎”です。まさか、ナポレオン・ソロの口から「チャイナ・オレンジの秘密」のネタバレ解説が出てくるとは思ってもいませんでした(笑)。

ナポレオン・ソロシリーズは複数の作家が書いており、マイクル・アヴァロンは本書のみですが、アンクルの女性捜査官・エイプリル・ダンサーを主人公にしたスピン・オフも書いているようです。

No.1845 6点 密室蒐集家- 大山誠一郎 2012/12/11 22:37
濃密な密室トリックものを揃えた連作短編集。
いつも終盤に登場し謎を解く”密室蒐集家”は、いわば謎解きマシーンのような存在です。ハウダニットだけでなく意外な犯人像を設定したものもあり楽しめました。
難点は、「たまたま~だったから」というような偶然性に依存した作品が多いということですね。

個人的ベストは、足跡のない殺人テーマの「佳也子の屋根に雪ふりつむ」で、ある既存トリックの応用ですが、犯人特定のロジックがスマートです。「皇帝のかぎ煙草入れ」を髣髴させる設定の「死者はなぜ落ちる」も不可思議性が魅力的な良作だと思います。「少年と少女の密室」は、密室トリックに〇〇トリックを利用したアイデアがユニークですが、序盤に「ん?」と思わせるところがあり早々に仕掛けが分かってしまいました。

No.1844 5点 このミステリーがすごい!2013年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2012/12/10 13:32
今年こそ購読をやめようと思っていましたが、表紙の「ローレンス・ブロック」の大文字につられて、ついつい購入してしまった。(なんだ、1位じゃないのかw)

ランクイン作品の未読本のなかで個人的注目作は、海外では「占領都市」「鷲たちの盟約」かな。デュレンマット傑作集も気になる。国内では、なんといっても幡大介「猫間地獄のわらべ歌」(笑)。同じ作者の、「富豪刑事」の時代小説版「大富豪同心」シリーズも面白そう。

今の時点でランキングの中身に具体的に触れるのは一種のネタバレになるので、かわりに出版社をランク付け?してみました。

「この出版社がやばい!」第1位、論創社さん。
我が社の隠し玉コーナーで個人的に一番注目なのはココ。来年もマニアックな海外クラシックが目白押しなうえに、全編書下ろしの「刑事コロンボ短編集」も楽しみ。採算度外視な感じが本来の意味でヤバイかもw

「この出版社がたかい!」第1位、東京創元社さん。
まあ、いまさらではありますが、ヘニング・マンケル上下巻で2500円というのは、どうみても文庫の規格から外れている。

「この出版社がずるい!」第1位、早川書房さん。
わずか1年前に出したポケミス「解錠師」を、このミス出版に合わせたように文庫化はズルイ!

「この出版社がしょぼい!」原書房、長崎出版、河出書房新社さんなど。
最近クラシック・ミステリの出版がとんとご無沙汰な気が。

No.1843 6点 細工は流々- エリザベス・フェラーズ 2012/12/10 12:00
”逆転探偵コンビ”トビー&ジョージ・シリーズの2作目。

屋敷に仕掛けられた意味を成さない数々の殺人装置というのは、機械的トリックを使ったミステリに対するパロディという側面もあるのでしょうか?その辺はよく分かりませんでしたが、実際は真逆の人間的・心理的なもので、「なぜ」が分かればスルスルと解ける、被害者である「誰からも好かれるお人好しの女性」ルーの人物造形が肝となるものでした。
友達の死でいれ込むトビーに対して、今回もマイペースのジョージですが、ジョージのある身体的異変が絶妙の伏線になっているのが非常に面白い。

No.1842 6点 空耳の森- 七河迦南 2012/12/08 11:55
ネタバレなしで寸評することがちょっと難しい短編集。

全部で9編収録されていますが、「冷たいホットライン」「アイランド」「It's only love」「悲しみの子」の前半の4編は、それぞれ意識的に作風を変えており、ラストにイメージが反転するサプライズを仕込んでいて、単品で読んでも十分面白い。
後半の作品になると、本書全体の仕掛けのためと思われる叙述方法が鬱陶しく感じられ素直に読み込むことができなかった。
最終話の手旗信号をはじめ色々と手がかりがありますが、要は”復帰の物語”ということでいいのかな? まあ確実に言えるのは、前2作を読んでないと「なんのこっちゃ!」状況になるということ。

No.1841 5点 アップルビィ警部の事件簿- マイケル・イネス 2012/12/06 11:49
"クイーンの定員"にも選定されている第1短編集”Appleby Talking”からの6編に、付録1編を加えた短編集(勉誠社版)。

原題どおりアプルビイが友人に過去の事件を語るという構成になっていて、ショートショートに近い「アップルビィの最初の事件」を始めとしていずれも短めですが、長編と比べてストレートな謎解きモノなので読みやすい。
なかでは、大学教授が洞窟で遭遇した不可思議な事象の謎解き「ベラリアスの洞窟」が伏線が効果的な好編でした。海岸の”足跡のない殺人”風の「タイムの砂浜」も面白いですが、今ではトリックがギャグ認定レベルかも。

付録の「崖の上の家」は、屋敷からの人間消失+冒険スリラーですが、なんと名探偵セクストン・ブレイクの探偵譚という珍品。イネスもこのシリーズを書いていたとは知りませんでした。

余談ですが、訳者あとがきに列記されたイネスの長編作品の邦訳タイトルがすごいことになっている。「ハムレットよ、復讐だ!」はまあいいとしても、”Lament for A Maker”が「ある製造業者のための哀悼詩」というのはいかがなものか(笑)。

No.1840 5点 祟り火の一族- 小島正樹 2012/12/04 20:08
横溝正史の作品世界で島荘的奇想を連発させる”自称名探偵”海老原シリーズ。

これでもか!というぐらい多くの怪異現象を提示し、終盤に次々とその謎解きをしていく「やりすぎ本格」は今回も健在ですが、”理屈上は可能でも現実的にはありえない”感も同様で、さすがにちょっと飽きてきました。
メインの仕掛けは違和感があり、多分そうだろうと途中でなんとなく分かってしまいましたが、これはアンフェアと言われても仕方ないのでは?読者にはどこまで信じていいのか分からないのだから。

No.1839 6点 悪鬼の檻- モー・ヘイダー 2012/12/03 13:08
イッシーさん恒例の「このミス」作品登録があると、あぁ今年も残り少なくなった、と実感できる今日この頃w
今年のミステリ界を振り返ると、前半の大きな話題のひとつは、東野圭吾の「容疑者Xの献身」(”The Devotion of Suspect X”)がアメリカ探偵作家クラブの最優秀長編賞(エドガー賞)にノミネートされたことでしょう。江戸川賞作家が”本物のエドガー賞”受賞なるかw、ということで話題になりました。

今回のエドガー賞ノミネート作家には2つほど特徴があると思っていて、ひとつは5人の作家のうち地元アメリカ人作家が1人しかいないというウィンブルドン現象。もうひとつは、全員すでに初期作品の邦訳が出ているということですね。
そのなかで、”ベルリン三部作”のフィリップ・カー、”ノルウェーのミステリの女王”アンネ・ホルト、”サウス・ノワールの旗手”エース・アトキンスの三人は知っていたのですが、エドガー賞を”Gone"(「喪失」)で受賞した肝心のモー・ヘイダーは初めて知りました。日本で英語教師とか六本木のホステスという経歴にはちょっと驚きました。

本書は、ジャック・キャフェリー警部シリーズの2作目で、ジャンルでいうとサイコ系サスペンスですが、内容がかなり凄惨なうえに文庫で600ページという分量なので読了後はグッタリです。また、主人公キャフェリーの抱えるトラウマが重要な要素になってくるので、これは第1作から順に読むべきでした。失敗した。

No.1838 6点 江神二郎の洞察- 有栖川有栖 2012/12/02 12:28
学生アリス&江神部長シリーズ初の短編集。
デビュー短編の「やけた線路の上の死体」だけは殺人事件を扱った長編と同じテイストの本格派ミステリ。鮎川哲也のアンソロジー初出なので、これは”白鳥”の瑕疵といわれるトリックを”黒潮”で返した作品、だと思ったのですが考え過ぎだろうか。

そのほかの収録作は、日常の謎とか、推理のお遊び的なものとなっていて、全体を通すと(読む人の年齢にもよるが)ノスタルジーが漂う読み心地のいい青春ミステリという感じです。
なかでは「九マイルは遠すぎる」の趣向に倣った「四分間では短すぎる」がオチを含めて面白かった。

また、大学のミス研らしく各話でミステリ本の話題がエピソードに絡めて出て来るのだけど、「虚無への供物」「点と線」「ナインテイラーズ」などの名作群に交じって、タッカー・コウ(ウェストレイクの別名義)の「蝋のりんご」が出てきたのには思わずニヤリ。ミッチ・トビンシリーズは、派手さはないけど味わいのあるハードボイルド風味の本格ミステリで、5作ともお薦めです。ただ、作中の「あれを読まずしてミステリは語れない」というのはシャレでしょうけど。

No.1837 7点 疑惑の霧- クリスチアナ・ブランド 2012/11/30 12:07
最初に読んだときには、容疑者たちのアリバイがあやふやなまま、思わせぶりな内面描写が頻繁に挿入される中盤までの展開に冗長さを感じたのですが、今回、ロウジーが周囲の人々に相談する”全て異なる”妊娠の説明を頭に入れて読むと、登場人物の意味深な言動が意味を持ってきて面白かったです。
犯人候補が次々と自白したり五転六転するブランドお得意のプロットも健在です。

謎の核心が、ラストの数行によって霧が晴れたように明らかになる構成の妙についてはよく取り上げられますが、終盤の裁判シーンでの老ミセス・エヴァンスの行為も印象的です。「命中しました!」は忘れられないw
探偵役は「ジョゼベルの死」につづいて、”ケントの鬼”コックリル警部とロンドン警視庁・チャールズワース警部の競演ですが、共に推理に冴えがなくあまり目立たないです。エヴァンス一家が主役といえますね。

No.1836 7点 東西ミステリーベスト100(死ぬまで使えるブックガイド)- 事典・ガイド 2012/11/28 13:02
その筋の方々のTwitterを見ていると、この本を買っていない人は日本国中に一人もいないんじゃないかw、と思うぐらい話題が飛び交ってますね。この内容で定価800円というのも良です(プラス1点)。

本書の中で印象に残った企画・コラム・コメント等を適当にあげていくと、
まず、海外作家がアンケートに参加していることで、ジェフリー・ディーヴァー、スコット・トゥロー、トマス・クックというメンツは、さすが文藝春秋社という感じです。そのなかで、ジャック・カーリイが「真実の行方」をあげているのは”我が意を得たり”ですね。『占領都市』のデイヴィット・ピースが島田荘司と京極夏彦というのは意外で、作風からは松本清張あたりを選びそうだと思った。

86年版座談会の再録は嬉しい。内藤陳氏の発言の最後についている(笑)を、すべて(苦笑)に替えて読むともっと楽しいw
あの瀬戸川氏のベストテンに中町信が入っているのには勇気づけられるw 、 いいかげんにやめようと思っていたが、中町信をまだまだ読み続けよう。

山田風太郎「太陽黒点」は、あらすじ紹介ではネタバレ防止に気を使って巧みに紹介されているのに、投票者のコメントで堂々のネタバレ披露というのはいかがなものか。
あと、法月綸太郎はまだいいです。ランクインしなかったこと自体で話題になっているのだから。それよりも、まるで存在しない作家のごとく全く話にも出てこない二階堂某らにもっと気を使ってやってほしいと思うw 

あと文庫化の際には、101位から200位の作品について、タイトルだけでもリストアップしてもらいたいですね。旧版ではその中から偏愛作品に出会えた記憶があるので。

No.1835 6点 静おばあちゃんにおまかせ- 中山七里 2012/11/26 21:00
若手刑事が女子大生に事件を相談し、その女子大生は元裁判官の祖母に謎解きを相談するという、カバーイラストやこの構成だけを見ればライト感覚の連作短編集ですが、各編とも不可能トリックを中心によく考えられた本格ミステリです。
個人的ベストは第2話の「静おばあちゃんの童心」で、現場に残された雑誌に関するミスディレクションと消去法推理が巧妙です。「~の不信」以降の後半3編は、いずれも密室殺人もので、トリックの独創性には欠けるものの、現場の設定を活かした小道具の使い方に工夫があります。
最終話「静おばあちゃんの秘密」の連作を通した”秘密”には唖然。なるほど、ブラウン神父シリーズとタイトルの並びを違えて、「~の秘密」を最終話にもってきた理由はこれですか。

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