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[ 本格/新本格 ]
カーラリー殺人事件
石沢英太郎 出版月: 1973年01月 平均: 6.33点 書評数: 3件

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光文社
1973年01月

講談社
1980年04月

No.3 6点 人並由真 2020/05/17 23:18
(ネタバレなし)
 日本自動車業界の「鬼」と言われる、斯界の黒幕的な巨魁・豪宮弥右衛門。齢80歳を過ぎた彼はこれまでの因業の贖罪のつもりか「日本列島縦断カーラリーレース」の企画に巨額を投じ、陰のスポンサーとなる。このラリー企画のコンペティションに応じ、見事に豪宮の眼鏡に叶った「カーマガジン社」の面々は、ラリー主催のメインスタッフまで務めることになった。多額の賞金が用意された3週間に及ぶラリーには、アマチュアレース界で話題の「人間コンピューター」こと21歳の盲人ナビゲーター・田浦二郎もその兄夫婦とともに参加。ほかにも多彩な参加者が競技を賑わすが、しかしこのラリーの陰ではある妄執を秘めた復讐者の殺意が渦巻いていた。そしてさらに、本ラリーにからむもうひとつの事件が。

 作者の初の書き下ろし長編で、ラヴゼイの『死の競歩』を思わせる(らしい・そっちは評者はまだ未読だが~汗~)競技と殺人事件の併走ストーリー。さらにもうひとつ、別の犯罪事件も複合的に話に関わり合ってくる。

 作中での全国からのラリー参加者は百組に及び、そのうちストーリーの表面に出てくるのは、探偵役の田浦二郎とその実兄・康雄、康雄の妻の芙美子の主人公トリオをふくむ十数チーム(基本的にワンチームは二人一組だが、田浦家は身障者の二郎のことを鑑みて、三人チームで出場)。

 この手の作品では、どれだけ主要参加チームのメンバー個々が書き分けられているかが重要な賞味ポイントの一つとなるが、本作はその点ではなかなか。
 優勝を競う者同士ではあっても、窮地や突発的な事態のなかで逐次協力しあうドライバー同士の矜持などもポジティブに描かれ、モータースポーツドラマとしての興趣にはことかかない。
 また、ラリーカーで巡る次の目的地が順次クイズ形式で提示され、インターネットも存在しない時代に、各地の図書館や事情通を訪ねて探り当てていく、この時代ならではのオリエンテーション方式のクェストの連続も、これはこれで楽しい。

 一方で肝心のミステリとしては、独創的なトリックを用意し、作品全体にもかなり強烈な反転の構図を設けている。
 ただその食い合わせが思ったほど生きなかったという印象なのは、長年におよぶ積ん読の日々のうちに、こちらの期待が高まりすぎていたためか(汗)。
 いや、力作だとは思うけれど、<最後のサプライズ>を効果的に見せるにしては、当該キャラの……(以下略)。

 ちなみに本作の名探偵役で、ミステリマニアでもある盲人ナビゲーターの青年・田浦二郎。当時の「ミステリマガジン」なんかでは、読者のアマチュア論考の場などで今後のシリーズ展開も期待されたほどの鮮烈なキャラクターだったが、結局はこれ一本の登場で終わったと思う。正直、シリーズキャラクターにするには難しい設定だったとは思うけれど、可能ならばまた別の事件での活躍も見たかった。その辺はちょっと残念。

【警告・注意】
 本作『カーラリー殺人事件』では田浦二郎の推理能力の描写として、チェスタートンの『奇妙な足音』、クイーンの『Yの悲劇』を義姉に朗読してもらう途中で当てたとして、それぞれの真相・犯人までネタバレしている。まあこんな作品に手を出すヒトで、この二作を読んでない方もまずいないだろうけれど、一応、注意しておきます。
(あと、ホレス・マッコイの『彼らは廃馬を撃つ』についてもなあ……。そっちも、原作も映画も、先に読んで観ておいた方がいいかも。)

No.2 6点 kanamori 2012/09/02 11:51
北海道宗谷岬をスタートし鹿児島の佐多岬をゴールとする日本縦断カーラリーを舞台にした長編ミステリ。競馬場の売上金強盗の強奪金の行方と、愛人を謀殺された男の復讐計画という2本の隠された犯罪を主軸に、参加者のさまざまな思惑を交錯させたユニークなプロットが楽しめます。
クイズ形式のラリーでトラベル・ミステリ的興味を取り入れたり、ラリー参加者(終始マイペースを貫く老夫婦、潜入警察官コンビなど)の群像劇的要素など、色々盛り込み過ぎの感もありますが、最後は関係者を一堂に集め、探偵役で盲目の運転補助者(ナビゲーター)による謎解きもあり、単にサスペンス小説で終っていません。

No.1 7点 こう 2012/03/28 00:13
 日本縦断カーラリーが舞台の作品ですが愛人を死に追いやった(追いやられた)男の復讐劇、銀行強盗犯と消えたお金の捜索などがカーラリー参加者を描写しながら進んでゆくストーリーでした。
 カーラリーのスタートからゴールまでの描写、参加者の中に犯人、探偵(役)、警官がいてカーラリー中に事件も解決、といった構成はラヴゼイの「死の競歩」を思い起こさせますがこの作品の方が場所の移動があり、味のある(事件に無関係な)参加者の描写などもあり楽しめました。
 肝のトリックは確実性には欠け、失敗した時のリスクが大きすぎて使えないと思いますがカーラリーと登場人物たちのサイドストーリー、構成が楽しめたので個人的には満足です。


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