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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1986 7点 ポーカー・レッスン- ジェフリー・ディーヴァー 2013/10/07 12:04
「クリスマス・プレゼント」(Twisted)に続く第2短編集。
原題が”More Twisted”と自らハードルをあげる挑戦的なタイトルな上、オビの惹句が”どんでん返し16連発”と煽っているので、否が応でも期待せざるを得ない。
実際にかなり身構えて読んでいても、作者の仕掛けた企みに騙されたものがいくつもあった。ただ、続けて読むと感覚が麻痺して多少のことでは驚かなくなるがw

印象に残った作品を挙げていくと、ラストに主人公がとんでもない方向から一撃を喰らう「動機」、法廷ものサスペンスがラストに暗転する「一事不再理」、重層的な騙しあいゲームの「ポーカー・レッスン」。この3作品は、ミスディレクションも伏線の張り具合も絶妙で、編中の個人的ベスト3。
「生まれついての悪人」の連城ミステリを思わせる仕掛けの凄さは編中で一番だと思うが、技巧に走りすぎていて早い段階で構図が分かってしまった。「ウェストファーレンの指輪」は、ヴィクトリア朝時代のロンドンが舞台の歴史ミステリ。この時代にリンカーン・ライムのような捜査法を用いる探偵が登場する楽しい作品だった。

No.1985 5点 クラヴァートンの謎 - ジョン・ロード 2013/10/05 14:34
数学者プリーストリー博士が”痕跡のない毒殺”の謎に挑む、シリーズの14作目。(翻訳家・渕上痩平氏のブログに訳載された「クラヴァートン事件」で読みました)。

ジュリアン・シモンズから”退屈派”という有難くないレッテルを貼られたジョン・ロード。物語の展開が平板なうえ後期作品はプロットがパターン化し、人物描写にも魅力がない、というのが大方の評価のようです。
初期作品の本書(シリーズは70作以上書かれているので14作目は初期のうちでしょう)は、冒頭からプリーストリーが事件にアクティヴに関るため、延々と捜査状況を聞かされるといった退屈さはありません。クラヴァートン卿の死因や遺言状変更の謎を巡って、博士の思考内容・推理過程が丁寧過ぎるぐらい繰り返し語られる構成がくどすぎる感じがありましたが。
以降の作品で、土曜の夜の例会のレギュラーとなるオールドランド医師の意外なプライベート事情や、終盤のスリリングな降霊術会の場面など読みどころは多いですが、毒殺トリックは(伏線はあるものの)文系読者の身には見破るのは無理です。

No.1984 5点 零人 大坪砂男全集4- 大坪砂男 2013/09/30 22:14
創元推理文庫版全集の最終巻。幻想小説編、コント編、SF編の三部構成に加えて、250ページに及ぶ著者に関する随筆・雑文などの資料が付されている。

伊豆山中の植物幻想にドッペルゲンガーを絡めた初期の幻想譚「零人」が目玉作品ということになるが、後期作品は凡作ばかりという評判どおり、他の作品にはこれといったものがなかったのが残念。
強いて挙げれば、アシモフのロボット工学三原則を前提に不可能状況下の殺人を扱ったSFミステリ「ロボット殺人事件」が大坪作品とは思えない本格モノという点で目を引いた。
むしろ、大坪に関わるありとあらゆる文献を集めた資料編の充実ぶりがすごい。とくに色川武大氏のエッセイは短編小説かと思わせる秀逸さだ。いつもながら、編者・日下三蔵氏の丁寧な仕事ぶりに敬意を表したい。
(「魔法少女まどか☆マギカ」のアニメ脚本家・虚淵玄氏が大坪のお孫さんという情報にはびっくりした)。

No.1983 4点 笑う娘道成寺  女子大生桜川東子の推理- 鯨統一郎 2013/09/29 20:20
バー〈森へ抜ける道〉の常連客から話題に出てきた事件の真相を、女子大生・桜川東子がカウンターの片隅で謎解くバー・ミステリの(たぶん)第4弾。

今回のネタは歌舞伎。「女殺油地獄」「曽根崎心中」「白浪五人男」「勧進帳」「忠臣蔵」「娘道成寺」の6つの演目の裏の構図を暴きつつ、相似形のような現在の事件の謎解きに結び付けるという同じパターンの連作短編集になっている。ただ、例によって謎解きミステリとしては論理性に乏しく、あまり見るべき点がないように思う。
各編での前振りで、懐かしの昭和の俳優ネタなどを巡ってのマスターと常連客とで交されるボケとツッコミが笑えるが。

No.1982 7点 ハヤカワ・ミステリ総解説目録〈1953年‐1998年〉- 事典・ガイド 2013/09/28 13:57
ミステリマガジン今月号はポケミス創刊60周年の特大号。企画として楽しみなのは、総勢71名の作家・書評家らによるアンケート「私の好きなポケミス・ベスト3」ですね。
で、この枠をお借りして”ポケミス愛”をぶち捲きたく、自分なりに色々なベスト3を選定してみました。書評でもなんでもないのですがご容赦ください。

ベスト3を選ぶに際して、”文庫化されておらずポケミスでしか読めない”という条件(縛り)が結構キツかった。まあ、いい作品はふつう文庫になっているでしょうからw
そんな中、鉄板の極私的ベスト3は、「アデスタを吹く冷たい風」「ママは何でも知っている」「ドーヴァー1」で決まり。オーソドックス過ぎる選定なのでアンケートでも同様に票が集まりそう。

以下部門別にベスト3を選んでみましたが、かなり適当なので、すぐに変更がありそうです。

警察小説部門は、「スティーム・ピッグ」「雨の国の王者」「ガラス箱の蟻」。
サスペンス部門、「これよりさき怪物領域」「一日の悪」「死のようにロマンティック」。
クライム小説部門、「逃走と死と」「イマベルへの愛」「クイーン・メリー号襲撃」。
通俗ハードボイルド部門、「血の味」「第五の墓」「のっぽのドロレス」。
パスティーシュ部門、「シャーロック・ホームズの功績」「贋作展覧会」「殺人混成曲」。
お色気女探偵部門、ハニー・ウエスト、イモジェーヌ、メイヴィス・セドリッツ。作品はどれでもいいw
国内作家部門、「殺人鬼」「黒死館殺人事件」「ドグラ・マグラ」。
(最後のこれは冗談。ポケミスで出た国内作品はこの三作だけなので。他の出版社から出ているし、そっちのほうが読みやすい)

こうして挙げてみると、やはりどの作品も文庫化は難しそうだわw

No.1981 5点 落日のコンドル- 霞流一 2013/09/27 12:27
暗殺組織”影ジェンシー”に所属する瀬見塚ら殺し屋10人が、豪華客船のオーナーの殺害のため船に密かに潜入するが、標的はすでに何者かによって不可能状況下で殺されていた-------。

本格ミステリと戦闘活劇小説を合体させた”本格パズル・ロワイヤル”、「夕陽はかえる」に続くシリーズの第2弾。
殺し屋メンバーの表の職業(蕎麦職人、バーテンダー、落語家や保母さんなど)の商売道具を使った殺しのテクニックが、都筑道夫の「なめくじに聞いてみろ」風で馬鹿馬鹿しいw 殺し屋の異名のネーミング・センスにも苦笑を禁じえない。
現場が船内の室内ゴルフコースや劇場なので、船上ミステリにする意味合いが希薄だと思っていたら、終盤に大仕掛けが炸裂する。無茶ではあるけれど、足跡のない殺人や敵のコンドル三兄弟の空中殺法の謎が一気に解けるところはすごい。ただ、ある小道具から消去法で犯人を絞り込むラストは正直どうでもいい感じになった。

No.1980 6点 リバーサイド・チルドレン- 梓崎優 2013/09/24 18:02
カンボジアの貧民街近く川沿いの小屋で集団で暮らすストリート・チルドレン。親に売られかけて逃げ出しそのグループの一員となった日本人少年”僕”の周辺で、次々と仲間の少年たちが殺されていく------。

数年前のデビュー短編集「叫びと祈り」で年末ミステリランキングを賑わせ話題になった作者による第2作。
「叫びと祈り」の収録作にもあったが、”特殊な環境ゆえの歪んだ論理”によって動機の意外性を創出するというのが作者の得意とするところで、本書もそのパターンといえる。
人間扱いされず虫けら同然にみられているストリートチルドレンが、なぜ殺されるのかという”ホワイ”がミステリとしての中核の謎。たびたび挿入される殺された少年の”名言”フレーズや泥人形ゴーレムの逸話など、伏線も巧みに敷かれている。ただ、死体装飾の見立てなど全てがストンと腑に落ちるとはいえず、今回はミステリ的には弱いかなと思います。
それでも、透明感のある文章で語られる少年たちの生きざまは胸を打つ内容で心に残る物語となっている。あの”旅人”の再登場もうれしいサプライズだった。

No.1979 5点 日入国常闇碑伝- 詠坂雄二 2013/09/23 18:33
群雄が割拠する戦乱の時代の、「日入国」という架空の国を舞台背景にした伝奇小説風の連作短編集。

本書は、5編の異世界ファンタジーというか英雄譚で構成されていて、思っていた内容ものとは随分違う。初期のミステリ作家・詠坂雄二からは想像できない歴史小説のようなものになっている。内容自体はつまらないことはないですが、歴史ものの謎解きミステリのようなものを期待していたので肩透かしの感がある。
(ジャンルを「本格」に投票されている方がいますが、本格ミステリの要素はないように思う。)
ネタバレになるかもしれませんが、
作者らしい趣向は、巻末が「訳者後書」となっている点で、外国人作家の歴史小説を翻訳した体裁になっているところぐらいかな。

No.1978 4点 八王子七色面妖館密室不可能殺人- 倉阪鬼一郎 2013/09/22 18:03
連続して密室殺人が起こる”謎めいた館”の意外な正体と、無駄に労力を使った馬鹿馬鹿しい文字組みの仕掛けで、読者の苦笑と脱力を誘う例のバカミス・シリーズ-------と思っていたら、後半に作者自身が登場しメタレベルの展開になってから、ガラリと作風が変調する変化球になっている。
正直、前半のネタは、これまでシリーズでやってきたことの劣化版コピーで新味は全く感じない。後半の展開も、作者の別作品(ホラー&恋愛もの)に耐性があれば許容できるかもしれないが、このタイトルで期待するものと差がありすぎ、たいていの読者は納得いかないのではなかろうか。

No.1977 5点 喪中につき- 結城昌治 2013/09/21 20:21
昭和50年に角川から出たノン・シリーズの短編集。
初期のころはハードボイルドから、ユーモア本格、スパイ小説、悪徳警官もの、クライム・コメディなど、かなり幅広いジャンルを書き分ける芸達者ぶりを発揮していた作者ですが、本書収録作は犯罪小説に分類される作品が半分以上を占めている。
それも、愛人、不倫、三角関係など男女関係のもつれに起因する殺人を扱ったものが多く、結末はいずれも後味の悪いものばかりなので、後半は読んでいてやや食傷気味の感がある。
若干毛色の違ったものでは、刑事を主人公にしたノワール色の強い「寒い夜明け」や、サイコスリラー風でブラックなオチの「喪中につき」が印象に残った。

No.1976 5点 0番目の事件簿- アンソロジー(出版社編) 2013/09/20 13:05
11人の当代人気作家?のデビュー前の作品を披露しようというイロモノ企画的アンソロジー。

中学生時代の習作、大学ミス研時代の機関紙に投稿した犯人当てから新人賞応募作まで、書かれた状況はそれぞれ異なるものの、その作家の原点が垣間見れる。小説の技巧的にはアレでも、芸風は当時も今も同じである(初野晴だけはちょっと違うかな)。
特に、ミス研出身者の新本格第1世代、有栖川、法月、我孫子、綾辻などは、登場する探偵キャラ(江神二郎、法月林(綸)太郎、速水三兄弟妹、島田潔)からして当時から変わらない。綾辻氏の作品は「人形館の殺人」の原型なので当然ではあるけれど。

アマチュア時代の作品を披露する点に関して、綾辻氏いわく”羞恥プレイ”という側面が当然あるけれど、一方で、文章や小説構成力が稚拙でも、「アイデア自体は最近の作品より面白いんでないの」と評されるリスクもあるw
たとえば、霞流一「ゴルゴダの密室」のバカミス的トリックや、霧舎巧「都筑道夫を読んだ男」の趣向とオチは、個人的にはかなり好みの部類にはいる作品でした。
(ところで、刑事コロンボのファースト・ネームはファンにとっては周知の事実なんだろうか?)

No.1975 5点 ライオンの棲む街- 東川篤哉 2013/09/18 21:39
平塚で探偵事務所を開く若い女性コンビによる連作ミステリ。
このところ目先を変えて、次々と新しいキャラクターを創造してますが、いずれも本格ミステリにボケ&ツッコミのお笑いをまぶせた基本の構成は同じなので、あまり新味を感じないのが辛いところ。

収録作のなかでは、目張り密室にあるトリックを応用した5話目の「女探偵の密室と友情」がまずまずの内容で個人的ベストですが、全体的に既読感のあるトリックが多い印象。とくに第1話は海渡英祐の短編にほぼ同じのがあったような気がする。
なお、久々に広島カープ・ネタ(=コンタクトを捜す達川光男)があったので採点をやや甘めにしましたw

No.1974 5点 短刀を忍ばせ微笑む者- ニコラス・ブレイク 2013/09/16 23:41
ナイジェルと妻のジョージアは、ちょっとした偶然からファシスト派の秘密結社が英国政府の転覆を謀っていることを知る。ロンドン警視庁の幹部であるナイジェルの叔父から要請を受けたジョージアは、敵のアジトへ潜入し黒幕の正体を探るが------。

「野獣死すべし」に続く探偵ナイジェル・ストレンジウェイズ・シリーズの5作目。といっても今作の主人公は、かつての有名女性探検家でもあるナイジェルの妻ジョージアで、しかも冒険スリラーという異色作。ナイジェルは最初と最後に登場するだけなのでシリーズの番外編と言っていい内容です。
”トミー&タペンス”のような割と明るい内容のものを想像していましたが、軽妙な部分もあるものの、大戦前夜の英国の実際の政治情勢をある程度踏まえた設定のため、意外とシリアスで、後半のジョージアに迫る危機的状況や逃亡劇はスリリングです。ただ、謎解きの要素はほとんどないので、それを期待して読むと失望するかもしれませんが。
なお、タイトルは「カンタベリー物語」からの引用で、結社の黒幕の人物造形を示唆したもののようです。

No.1973 6点 水族館の殺人- 青崎有吾 2013/09/13 23:10
アニメオタクのダメ人間、高校生・裏染天馬を探偵役に据えた本格パズラー、「体育館の殺人」に続く”館”シリーズの2作目。

水族館のサメ水槽に落下する飼育員の死体という発端こそ派手ですが、今回も、現場近くに残された備品から細かい推理を次々とつなぎ合わせて地道に真相に迫っていくロジック中心の犯人当てパズラーです。
最終章の50ページにわたる、関係者を一堂に集めた天馬の精緻な消去法推理の開陳シーンに全てが凝縮されていて、この部分の読み応えは圧巻です。その反面、伏線を仕込む中盤はややダレる感じもしましたが。
レギュラー陣は前作よりキャラが立ってはいるものの、11人に絞られた容疑者の書き分けが弱く、犯人の存在感もいまいちなので、犯人に意外性がないのが難点かなと思います。
最後に明かされるホワイに関しては賛否が分かれるところかもしれませんが、肯定派です。

No.1972 7点 嫌疑- フリードリヒ・デュレンマット 2013/09/09 22:26
スイスの劇作家デュレンマットの、小説としては最初期の作品「嫌疑」と「裁判官と死刑執行人」という短めの長編2編を収録。

戦時中ナチス強制収容所で残虐な医療行為を行い、戦後は他人になりすましていた元親衛隊医師を、死の病で入院中の老警部が追及する「嫌疑」。
地方名士の屋敷に潜入捜査中の部下が殺されるが、老警部の捜査は終盤思わぬ構図の反転をみせる「裁判官と死刑執行人」。
いずれもスイス・ベルン警察の老警部ベールラッハという人物を主人公としているので、ジャンル登録は警察小説としたが、ミステリのプロパー作家が書くものとは一味違う、読み手の予想の斜め上を行くような枠を外した後半の展開が非常に面白かった。
ただ、収録作の並びがシリーズ2作目、1作目の順になっているのが解せない。1作目を先に読むほうが衝撃度がより大きいのではないかと思う。

No.1971 5点 赤い靴少女殺人事件- 梶龍雄 2013/09/06 21:45
元警視庁公安課所属の探偵・速水は、知り合いの富豪・貫端家の長男敏一から身辺警護を依頼され軽井沢に向かうが、直前に敏一は刺殺死体で発見される-------。

軽井沢にある資産家の別荘を舞台に遺産相続絡みの殺人事件を主題にしたフーダニット・ミステリ。
メインの人物トリックは途中で薄々察することができ、ストーリーも面白味を感じないが、関係者を一堂に集めた最終章の謎解きシーンは読み応えが有り、探偵が開陳する手掛かりの多彩さには驚かされた。このあたりは伏線を重視するカジタツらしさが出てると思います。ただ、犯人による偽の手掛かりも乱発されており、読者が推理しようがない側面がある。

No.1970 6点 懐かしい殺人- ロバート・L・フィッシュ 2013/09/03 22:44
時流に乗り遅れて売れなくなった老ミステリ作家3人組が結成したのが殺人請負業の”殺人同盟”。かつて自身が書いた古典的殺人テクニックを駆使して彼らの商売は順風満帆だったが-------。

”殺人同盟”シリーズの第1作。米国人作家ながら英国風のユーモアとウィットにあふれる、と書きたいところですが、菊池光氏の訳文が軽妙なプロットに合っていないように感じられ、老人3人が順繰りに依頼事案を実行する前半部は読んでいてもなかなか乗れなかった。
一転、法廷ミステリに転調する終盤になって、老獪なパーシヴァル弁護士というクセモノの本格的登場で面白くなる。決定的な証拠と思われたアレを逆手に取った法廷戦術の手際が鮮やかで痛快だった。

No.1969 6点 贋作展覧会- トーマ・ナルスジャック 2013/09/02 18:39
ナルスジャックがピエール・ボアローとコンビを組む前に発表した贋作作品集から7編をセレクトしたパスティーシュ短編集。

収録作品は、アルセーヌ・ルパン、ファイロ・ヴァンス、エラリー・クイーン、メグレ警視、ネロ・ウルフなどの名探偵ものが中心になっていて、いずれの作品も文体の雰囲気のみならず、キャラクター造形や物語展開もいかにもな内容で、模倣のテクニックはお見事です。(フランス語の原書での模倣の出来は判断がつきませんが、翻訳者の功績は評価できます)
なかでも、稲葉明雄が担当した「ルパンの発狂」は、堀口大學が翻訳したかのような古めかしい文体が凝っている上に、プロット自体も本物と遜色のない面白さで個人的に最も気に入っています。
本書収録作品以外にも、ホームズ、ブラウン神父、ポアロ、ピーター卿、チャーリー・チャンなどのパスティーシュもあるようなので、どこか第2弾を出してくれないものか。

No.1968 6点 強盗プロフェッショナル- ドナルド・E・ウェストレイク 2013/08/30 22:45
トレーラーハウスで仮営業中の銀行の臨時支店を丸ごと盗むという、奇想天外な強奪計画を企てたドートマンダーと小悪党の仲間たちだったが、そこに思わぬトラブルが発生して------といった調子の、天才犯罪プランナー・ドートマンダー、シリーズの第2弾。

疫病神の悪友ケルプがネタを持ち込み、運転役のスタン・マーチとおふくろさんが絡み、”O・J・バー&グリル”の奥の部屋で計画を練るという、これ以降の定型プロットが確立しています。
後半の間抜けな捜査陣とのやり取りなど笑わせてくれますが、後の木村仁良訳作品と比べると、訳文がやや堅すぎるきらいがあって、仲間のキャラクターを充分活かしきっているとは言えず、ドタバタ劇のノリも抑え目な感じを受けた。
また、タイトルは原題どおり、二つの意味を掛けた「バンクショット」のままでもよかったのでは。

No.1967 5点 六花の勇者 4- 山形石雄 2013/08/29 22:43
”剣と魔法”の異世界を舞台にしたライトノベル風の冒険ファンタジー第4弾。

今回は、勇者たちの中に紛れ込んだ「7人目」の正体につながる凶魔テグネウの切り札”黒の徒花”を巡る謀略&活劇が中心のストーリーとなっているが、本筋の物語は2作目以降いっこうに進展しないで、延々と”人狼ゲーム”ネタを続けているので、さすがにちょっと飽きてきた。
1作目のようなミステリ趣向や2作目のコンゲーム的な面白さも今回は減退していて、普通の冒険ファンタジーになっている。
思わせぶりなラストシーンで次作に興味をつなげてはいるが、さて------。

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kanamoriさん
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