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kanamoriさん
平均点: 5.88点 書評数: 2474件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2274 5点 帰ってきたイモジェーヌ- シャルル・エクスブライヤ 2015/06/07 17:40
海軍省の情報局を定年退職となったイモジェーヌは、スコットランドの故郷の町に帰ってきた。再び死体の山を築く大騒動が起きるのかと、町の人々が戦々恐々となるなか、彼女は歴史教師の殺人事件に巻き込まれ、地元ペンバートン校へ潜入捜査に赴くことに--------。

赤毛の大女イモジェーヌを主人公とするシリーズ第3作(2作目は未訳)です。1作目と同様に彼女の生まれ故郷を舞台にしていますが、今回はスパイもののパロディではなく、なんと大学内の連続殺人に挑むフーダニット・ミステリになっています。
地元警察の巡査部長アーチボルトとタイラー巡査のコンビが、イモジェーヌに引っ掻き回されるドタバタ騒動は相変わらず面白いのですが、大学に舞台を移すまでの前段部分が長く、登場する多くの町の人々が全く本筋に無関係なのが気になりました。
謎解きミステリとしては、犯人に意外性はあるものの、動機の後出し伏線不足の感は否めません。まあ、もともとユーモアが主体で、きっちりとした本格ミステリを期待していたわけではありませんが。

No.2273 6点 雪の花- 秋吉理香子 2015/06/04 23:32
ヤフー・ジャパン文学賞受賞の表題作に、3つの書下ろし短編を併録したデビュー短編集。バブル崩壊・不景気によるリストラ、会社倒産、離婚、老人介護などを題材に、現代人が抱える心の闇の部分を描いた作品が多いが、のちのイヤミス風の長編に通じる作風のものがある一方で、思わず涙を誘うヒューマン・ドラマもあります。

「女神の微笑」は、リストラと離婚で疲弊した中年男が、中学生になった娘と閉園した遊園地跡で久しぶりに会う話。娘の言動に身につまされる同年代のお父さんも多いのでは。
「秘蹟」は、長年連れ添った老妻の失踪を巡る”ホワイダニット”。キリスト教の教えが重要なモチーフになっているが、真相が明らかになった後に来るラストの衝撃が凄まじい。文句なしに編中のベストに推します。
「たねあかし」は、かつての恋人に宛てた女性の手紙文のみで構成されている作品。女性作家が書くこういう話はリアリティがあって怖い。
表題作の「雪の花」は、事業に失敗した老夫婦が、心中するために生まれ故郷の雪深い廃村に向かう。短編というより掌編に近い枚数ながら、目に浮かぶ美しいラストシーンが印象に残る作品。

No.2272 7点 鏡よ、鏡- スタンリイ・エリン 2015/06/02 18:07
〈わたし〉が自宅の浴室で目にしたものは、拳銃で撃たれて半裸で横たわる”見知らぬ女”だった。しかも部屋の鍵を持っているのは〈わたし〉と息子のニックだけ。精神分析医エルンスト博士と弁護士ゴールドが主導する”あべこべの裁判”での尋問によって、錯綜する過去と現在のエピソードから戦慄の真実が現れる--------。

本書はビル・バリンジャー「歯と爪」などと同様、米ランダムハウス社の初出では、”途中まで読んで面白くなければ代金を返却します”という、結末部分が帯封された返金保証付で出版されました。30年以上前に読んだ時はあまり良い印象はなく、日本で同じことをやっていれば、かなりの返金請求に見舞われたのでは?と思ったものですw が、再読してみると思っていた以上に面白かったです。
出版社に勤める〈わたし〉ピ-トは精神科医にかかっており、いわゆる”信頼のおけない語り手”で、現場の浴室には大勢の人物がいる描写があったり、いきなり状況があいまいな裁判シーンに移行し、その中で精神科医が裁判長になっているなど、書いていることが素直に受け入れられない、読者を困惑させるような前衛的な構成手法はかなり読み手を選ぶことは確かでしょう。
しかし、これらの不可解な謎が一気に氷解する結末はやはり見事です。ネタバレになるけれど、ピートの特殊な嗜好や、ユダヤ系の学校に通う息子、家政婦の謎の伝言などの多くの伏線に加え、読み終えて意味がわかるタイトルが秀逸。ちなみに、本作は殊能将之が選ぶ変態本格ミステリ・ベスト5の一冊でもありますw

No.2271 5点 人類のあけぼの号- 内田庶 2015/05/31 12:44
冷凍冬眠から50年後の未来世界で覚めた発明少年・真琴は、自分が発明したロボット「人類のあけぼの号」が父親を殺したとして、警察から追われる身であることを思い出す。真琴少年は父親殺しの汚名を晴らすため、四次元変換機で50年前の世界に戻る決意をする---------。

「本格ミステリ・フラッシュバック」からのセレクト。
冷凍冬眠や未来都市、タイムトラベル、人型ロボットなど、多くのSFガシェットを盛り込んだジュヴナイルのSFミステリです。
ミステリとしての主題はロボット殺人で、アシモフの”ロボット工学三原則”を踏まえて、なぜロボットが人間を殺すことができたのか?、が中核の謎となっています。真相はわりと単純ながら、伏線が効果的に活かされている点は評価できると思います。
人間に代わるロボットの役割の功罪というテーマが、いかにも当時のジュヴナイルらしいですね。

No.2270 6点 死への疾走- パトリック・クェンティン 2015/05/29 18:09
妻のアイリスが映画撮影のため帰国し、単身メキシコに残ったピーターは、マヤ遺跡の観光途中に若い女性デボラと知り合う。何かに怯えるデボラを訝っていたさなか、不可解な転落死事件に遭遇、ピーターは謎めいた事件に巻き込まれることに--------。

「巡礼者パズル」につづくダルース夫妻シリーズの第7作。といってもアイリスは終盤に登場するだけで、ほぼピーターひとりを主役にした冒険スリラー風味のサスペンスになっています。アイリス不在中にピーターがトラブルに巻き込まれるのは「悪魔パズル」や「女郎蜘蛛」と同様で、シリーズ後期作の一つのパターンと言えますね。
ユカタン半島のマヤ遺跡やメキシコシティの”死者の日”の風習などを背景にして、観光ミステリ的な側面を持たせつつ、周りの男女の「だれが味方で、だれが敵か」が不明のまま緊迫感を醸成させる手際はさすがで、終盤のサプライズ展開もお見事です。
作中に、クレイグ・ライス「大はずれ殺人事件」のポケットブック版がちょっとした小道具として出てきてニヤリとさせますが、同時代にジャスタス夫妻とダルース夫妻という(全くタイプは違うものの)夫婦モノのミステリを書いていた親近感があったのでしょうか。
本書はダルース夫妻シリーズ最後の未訳長編ながら、どうやら今後も「白銀パズル」「花葬パズル」「愛犬パズル」「新星パズル」を収録した中短編集や、スピンオフの「わが子は殺人者」の改訳版も出そうなので、まだまだ楽しみは続きそうです。

No.2269 6点 古書ミステリー倶楽部- アンソロジー(ミステリー文学資料館編) 2015/05/26 18:22
古書・古本にまつわるミステリを集めたアンソロジーの第1弾。最初のページに、乱歩がデビュー前に本郷の団子坂(D坂)で2人の弟と営んでいた「三人書房」(=明智小五郎の初登場作「D坂の殺人事件」のモデルとなった古書店)の自筆イラストが配されているのが洒落ている。

いずれも古書を題材にしたミステリということで、切り口が似ているものがあって、(a)古本の中の書き込みや挟まれていた紙片から隠された事件が炙り出される謎解きもの、(b)偏執狂的な蒐集家にまつわる奇譚 という2つがこのビブリオ・ミステリ集の定番かなと思います。
収録作のなかで、松本清張「二冊の同じ本」や甲賀三郎「焦げた聖書」、都筑道夫のキリオン・スレイものの1篇が典型的な(a)のタイプ、戸板康二「はんにん」も日常の謎ながら同じタイプといえます。
一方、(b)に分類されるのは、梶山季之のせどり男爵シリーズの1篇、早見裕司「終夜図書館」や紀田順一郎「展覧会の客」で、とくにラスト近くで異様な展開を見せる「終夜図書館」を本書のベストに推します。
そのほか印象に残ったのは、女性のみの同人誌サークル内の確執が凄まじい石沢英太郎「献本」、子供モノなのに作者らしくない後味の悪さが強烈な仁木悦子「倉の中の実験」あたり。

No.2268 6点 エジンバラの古い柩- アランナ・ナイト 2015/05/24 14:33
身元不明の男の死体が見つかったエジンバラ城の岩山を捜査していたファロ警部補は、見覚えのあるカメオのブローチを拾う。そのブローチは、巡査だった父親が最後に手掛けていた事件に繋がるもので、さらには、そこから英国史を覆しかねない秘密が浮かび上がる--------。

英国ヴィクトリア朝時代のエジンバラを舞台にした歴史ミステリ、ジェレミー・ファロ警部補シリーズの2作目。
フーダニットが主眼の本格ミステリだった前作とは異なり、今回は英国王室に関わる陰謀もののスリラーになっています。30年前にエジンバラ城の壁の中から見つかった”柩に入った赤ん坊のミイラ”と一対のブローチから、16世紀のメアリー女王を巡る秘密が浮かび上がってくるというもの。
テーマ的には、最初はジョセフィン・テイの「時の娘」などの歴史ミステリを思わせるものの、関係者たちの連続する不審死やファロ警部補の家族が事件に巻き込まれるスリラー要素が前面に出てきていて、歴史の謎は背景に留まっているのがやや消化不良な感じを受けました。
犯人像はおおよそ予想がつく構成になっていますが、最後に明らかになる陰謀のスケールの大きさには驚かされました。シリーズの2作目でこんな局面を迎えて、今後の展開がどうなるのか?という興味がありますね。

No.2267 6点 人面瘡 - 横溝正史 2015/05/21 18:37
金田一耕助シリーズの短編集。出来不出来の差が目立った短編集『首』と比べると、本書収録作には捨て作品がなく、横溝ファンなら5編ともそれなりに楽しめる出来栄えという評価。

個人的な好みでいえば、やはり岡山を舞台にした3編が良い。
湖畔の山村で結婚まじかの女性が殺される「湖泥」と、山峡の湯治宿で姉妹の過去の確執から事件が起こる表題作は、ともに戦争の傷跡が事件の遠因という点で「獄門島」などの初期長編に通じるところがあるように思います。作品の舞台背景の書き込みが緻密で力作感のある中編「湖泥」を一等に推しますが、殺害トリックと犯人の意外性という点で見れば表題作も捨てがたいです。
「蜃気楼島の情熱」は、アリバイトリックや犯人側の異常な造形もさることながら、金田一のパトロンである久保銀造の「耕さんはわたしの情人ですからな」という一言に衝撃をうけましたw
残りの「睡れる花嫁」は、いかにも東京編らしい猟奇的でエログロ志向の作品で、複雑な人物関係のなかに作者十八番のトリックを仕込んでサプライズを演出している。「蝙蝠と蛞蝓」は、金田一が住込んだアパートの隣人”おれ”の一人称で語られる異色作。倒叙モノのような発端から意外な方向に展開していくストーリーが楽しめます。

No.2266 7点 蛇は嗤う- スーザン・ギルラス 2015/05/19 18:30
夫の女性関係に悩むライアンは、北アフリカへ傷心旅行に出るが、モロッコの空港に降り立った早々に嫌な米国人男性に付き纏われたり、ホテルでは怪しげな老嬢に声を掛けられ、彼女の周辺で不穏な雰囲気が漂い出す。やがて、波止場のゴロツキが何者かに殴打される事件につづき、海岸で射殺死体が見つかる----------。

英国女性ライアン・クロフォードと、ヒュー・ゴードン警部のコンビが殺人事件の謎に挑むシリーズ第7作。
本書は、植草甚一『雨降りだからミステリでも勉強しよう』のなかで「蛇はまだ生きている」のタイトルでレビューがあり、「一種独特のひねりかたで、こうも面白くなるのか」と好意的に評価(☆4つ)されていて、シリーズ最終作にも拘らず最初に邦訳された事情も、そういった評判からと推察されます。
中盤までは、異国の地に住み着く西洋人たちの人間関係の説明描写で展開がゆっくり気味と感じるところがあるものの、ゴードン警部が登場してからの、犯行時間の矛盾点を巡る謎解き過程で俄然面白くなります。
”観光地の海岸に横たわる死体”ということで、英国某有名女流作家二人のアレとアレを想起させ、読者によっては仕掛けに気づてしまうかもしれませんが、数々の伏線の回収具合と終盤の2段階のどんでん返し、構図の反転が実に鮮やかです。ぜひシリーズの残りの作品も邦訳してもらいたいものですね。

No.2265 5点 さらば大連- 石沢英太郎 2015/05/17 14:42
短編小説の名手といわれた石沢英太郎の急逝に際して刊行された”満州小説集”。
「つるばあ」「男色」「国旗」「競う」「不思議に生命ながらえて」「賃金について」「九連宝燈」の、全て旧満州を舞台背景にした7編が収録されています。

旧満州の大連に育ち、そこで終戦を迎えた作者の体験を物語の背景に活かしているのが各作品に共通する特徴で、連作ではなく独立した短編集ですが、中国人とロシア人たちの中で暮らす日本人の主人公はいずれも作者の分身と言えるかもしれません。
収録作のなかでは、ソ連管理下の電気工事会社で中国人従業員に混じって働く”僕”が、ビル6階の密室からの人間消失という不可解な事件に遭遇する「つるばあ」が良い。ある人物が呟いたひとことの意味が分かるラストが印象的な作品。
ただ残りの作品は、青春と激動の時代を書き残したいという作者の思いは伝わるものの、ミステリ要素がほとんどなく、作者の思い出を綴った私小説に近いものが並んでいて期待していたものと少し違いました。

No.2264 5点 暗闇の鬼ごっこ- ベイナード・ケンドリック 2015/05/15 22:22
元夫のブレイクから閉鎖された信託基金ビルに呼び出されたジュリアは、最上階まで吹き抜けになっている8階からブレイクが墜落死するのを目撃する。8階にいた息子のセスに容疑がかかるが、さらに不可解な墜落死が連続して発生する---------。

盲目の私立探偵ダンカン・マクレーン登場のシリーズ第4作。
不可能状況下の連続墜死事件という本格ミステリ要素を中核の謎にして、それに6年前の同じビルで発生した射殺事件の真相が絡むという通俗スリラーになっています。
盲導犬と警察犬の2匹を連れて行動するマクレーンはなかなか魅力的なキャラクターとして描かれていてますが、相棒のスパッドとその妻でマクレーンの秘書レナ、ニューヨーク市警の警視と巡査部長など、レギュラー・キャラを万遍なく登場させながら役割は大したことなく、シリーズものの悪い面が出ているように感じました。
また、現場状況やクライマックスの活劇シーンが読んでいてスッと頭に入りずらく、トリックの説明も何となく想像できる程度の書き様なのでモヤモヤ感が残りました。真相説明の場面で、マクレーンが「殺害方法については、もう語る必要がありませんね?今日の朝刊に図解が山と掲載されてますから」と話していますが、その図解を本書に載せてほしかったですねw

No.2263 5点 あぶない叔父さん- 麻耶雄嵩 2015/05/12 18:39
海と山に囲まれた田舎町で次々と発生する奇妙な殺人事件。お寺の息子で高校生の”俺”は、寺の離れに住む”なんでも屋”の叔父さんのもとに相談をもちこむと、叔父さんは事件の意外な真相を語り始める--------。

タイトルはポースト「アブナー伯父」のもじりのようですが、内容に特に関連性は見当たらず、パロディやオマージュ的なものではないようです。むしろ、叔父さんの風貌は金田一耕助のパロディぽいのですが.........。
本書は、ミステリ小説の中の”探偵役”という装置をいじくり回して、真面目な読者を翻弄させた今年の本格ミステリ大賞受賞作「さよなら神様」に連なる作者らしい趣向が施された連作ミステリ。ひとつだけ例外があるけれども、それも一種のフェイントかもしれない。
とはいっても収録作を個別に見ていくと、発想の転換でアリバイと密室の謎が一気に解かれる「旧友」がまずまずの出来栄えと言えるものの、「最後の海」や「あかずの扉」を代表格に、ほとんどの作品で新人作家が書いたなら袋叩きにあいそうなバカトリックが連発されていて、謎解きものとしてはレベル的にはとても高いとは言えない。叔父さんのどこかぬけぬけとした真相説明が仄かな可笑しみを醸し出してはいるんですが、肝心のトリック部分が残念レベルです。
高校生の”俺”のプライベートを中心とした青春学園ものの要素のほうが印象に残るものの、それも何か中途半端に終わっていて消化不良な読後感でした。

No.2262 6点 犬はまだ吠えている- パトリック・クェンティン 2015/05/10 13:07
狩猟クラブのメンバーとともに早朝のキツネ狩りで馬を走らせていた”わたし”は、キツネの巣穴に不審なものを見つける。農場の使用人が掘り返して出てきたものは、村から姿を消していた女性の胴体部分だった---------。

ウェッブがホイーラーとコンビを組んだ当初の’30年代後半は、”本格ミステリ作家”としてのパトリック・クェンティンの最盛期と言えるかもしれません。この時期は3つのペンネームを使い分け、並行して3つのシリーズをスタートさせています。すなわち------
①P・クェンティン名義のダルース夫妻シリーズ(1936年~8編、スピンオフ1編)
②Q・パトリック名義のトラント警部シリーズ(1937年~3編、その後’50年代に「女郎蜘蛛」などの脇役で復活)
③ジョナサン・スタッグ名義のウェストレイク医師シリーズ(1936年~9編)

本書は上記③で、10歳の愛娘ドーンと暮らす男やもめの医師、ヒュー・ウェストレイクを探偵役とするシリーズの第1作です。広大な森と農地が広がる田舎という舞台背景や、ウェストレイク医師の一人称による硬質な語り口、猟奇的な事件内容と不気味な雰囲気など、同時期のパズル・シリーズとはずいぶんテイストが異なります。トラント警部補ものと併せて、コンビ作家の役割分担がどうなっていたのか興味深いところです。
シリーズ全9作を解題した巻末解説によれば、戦後の後期作はスリラー、サスペンス寄りになるようですが、本作は限られた集団内の犯人当て本格で、メイントリックは予測しやすいものの、終盤の展開に緊迫感があり読ませます。ウェストレイク親子の交情もいいアクセントになっていて、今後の訳出が楽しみなシリーズです。

No.2261 6点 福家警部補の追及- 大倉崇裕 2015/05/08 18:55
女性刑事・福家警部補シリーズの第4弾。今回は中編2作収録。
倒叙形式のミステリといっても色々とタイプが分かれますが、目を付けた人物と直接対峙し、対話形式でじわじわと犯人を追い詰めていくスタイルは、刑事コロンボや古畑任三郎の直系といえます。最近はなんとなく福家の振舞いまでもコロンボに似てきた気がします。

スポンサー契約を解除しようとした会社重役を有名登山家が殺害する「未完の頂上」と、悪徳ブリーザーを他の女性が殺害したように工作するペットショップの女性経営者の「幸福の代償」という2つの中編が収録されていて、山岳モノや動物モノという作者の得意とする分野を事件背景に持ってきている点が目を引きます。また、別シリーズのキャラクターである警視庁動植物係・須藤警部補が特別出演しているのもファンにとっては嬉しい趣向です。
いずれも安定した出来栄えで一定のクオリティは維持していて、小さな矛盾点から犯人を追いつめていく過程はスリリングで面白いです。ただ、両作品とも最終的に犯人を落とす決め手に意外性がないかなと思います。(毎回、同じような感想を書いている気がしますが)。
次作は動物オタクの薄巡査と、犬恐怖症の福家警部補の共演を期待したいw

No.2260 7点 だれがコマドリを殺したのか?- イーデン・フィルポッツ 2015/05/06 15:03
若い開業医ノートンは海岸の遊歩道で美貌の姉妹に出会い、”コマドリ”の愛称がある妹・ダイアナに一目で心を奪われる。資産家の伯父の希望に逆らい、ふたりは結婚するが、遺産相続に関するノートンの虚言をきっかけに、夫婦の熱愛は急激に冷め憎悪に変わる状況のなか、ダイアナが原因不明の病に倒れる---------。

過去に「誰が駒鳥を殺したか?」のタイトルで邦訳されるも、長らく絶版だったフィルポッツの代表作の一冊。今回半世紀ぶりに新訳で復刊されました。
正直なところ、いままでフィルポッツ初期の”ダートムア小説”と呼ばれる田園恋愛小説を引きずった形のゆったりした展開が冗長に感じられたのですが、本書は新訳ということもあって、男女の複数の三角関係を中心とした愛憎の物語という前半部も面白く読めました。殺人事件の発覚は物語の半分以上を過ぎてからですが、それまでにキッチリと伏線が敷かれています。
フェアプレイを重視する読み方をすると、客観描写のなかに現代の観点から見て気になる記述がありますが、後のエラリー・クイーンでさえ同様のことをやらかしているので、時代性を考慮すると、この種のトリックでは許容の範囲かなと思います。
探偵ニコル・ハートが再登場してから物語が転調し、急展開、活劇シーンが続く終盤も非常にスリリングです。読み終えて、タイトルの付け方が色々な意味で上手いなと感心させられました。

No.2259 5点 プランタンの優雅な退屈- 大森葉音 2015/05/06 15:02
豊かな資源のおかげで平和で穏やかな毎日がつづく”退屈王国”で、新エネルギー政策の発表と時を同じくして、お城の”絵画の間”で密室殺人事件が発生。好奇心旺盛でミステリ好きの王女プランタンは、衣装戸棚に閉じ込められていたメイドが怪しいと推理を巡らすが--------。

大西洋に浮かぶ架空の島国を舞台にした、ライトでユーモラスなファンタジー系ミステリ。ミステリ評論家・大森滋樹氏の別名義によるミステリ第2作です。
暇を持て余す自尊心の強い王女プランタンと、彼女のわがままと暴走に振り回される警護役の少年オールシー、親交国の王子で6歳児の天才デンちゃんなど、キャラクター小説としてはそれなりに面白い。
ミステリ的には「衣装戸棚の女」密室殺人の謎を中核にはしているものの、途中から謀略スリラーとなったり、説明不足気味のSFガシェットが出てきて、後半はなにかまとまりのないプロットになってしまったように思える。ピーター・アントニイの密室ミステリに倣った設定の密室トリックも、解明のためにプランタンが試行錯誤する部分はそれなりに面白いのだけど、真相はかなり脱力感を伴うものでした。

No.2258 6点 ハーバード同窓会殺人事件- ティモシー・フラー 2015/05/04 21:40
結婚式を明日に控えたジュピターのもとに、大学の先輩で友人のエドから助けを求める電話がかかってくる。ハーバード大学卒業10周年の同窓会が催されているホテル近くのゴルフ場で参加者の射殺死体が見つかり、エドが重要参考人となったらしい。ジュピターは婚約者のベティとともに現地に赴くが--------。

アマチュア探偵ジュピター・ジョーンズ登場のシリーズ第3作。
デビュー作の事件から8年経ちジュピターは母校ハーバードの講師になっていますが、若さと勢いは相変わらずで、強引に警察捜査に鼻を突っ込みつつ、独自の調査で真相に迫ります。軽いユーモアを交えた癖のない語り口は読みやすく、あまり分量もない長編なので、あっという間に読み終えました。
作者が仕掛けた”犯人像”に関する大胆な趣向が本書の最大の読ませどころで、某有名作品を想起させるアイデアの類似性はあるものの、ゴルフ場近くの小屋に住む老人の証言や、いくつかの矛盾する証拠などの伏線の張り具合はいい感じです。ただ、被害者の人物造形や事件の背景描写が十分でなく、動機を推理する情報が欠けているのが気になります。そのあたりの人間ドラマ部分を書くのが作者の作風に合致しないとも言えますが、大学時代の青春群像のようなエピソードが入っていれば物語に厚みが出たのではと惜しまれます。
いずれにしても、以前から気になっていた作品を読めただけでも満足。刊行リクエストに応えてくれた論創社さんに感謝を込めて採点はプラス1点w

No.2257 4点 幻想マーマレード- 小泉喜美子 2015/05/04 21:38
サブタイトルに”奇妙な味の12の短編”と銘打たれた作品集。
謎解きものはなく、サスペンス小説もハードボイルドも収録されていない、たしかに作者にとっては異色の短編集なんですが、一般的に言う”奇妙な味”タイプとも違う感じがします。

時代や場所が不明で固有名詞もほとんど出てこない作品が多く、軽い風刺も入った作風は、星新一のショート・ショートを短編にしたような印象を持ちました。
冒頭の「観光客たち」は、そういったあやふやな設定が効果を上げていてオチが決まっていますが、読み進めていくと徐々に慣れてきて、たいていの作品でだいたい結末が予想できてしまいます。なかには軽く書き流しているのではと思える凡作(「木美子の冒険」のような駄作も)見受けられるのが残念です。
そんななかで強いて印象に残った作品を挙げるとすれば、「観光客たち」「太陽ぎらい」「南の国の鸚鵡たち」ぐらいになるかな。

No.2256 6点 推理作家殺人事件- 中町信 2015/04/30 18:28
ミステリー小説界の長老で資産家の松山が旅先の男鹿温泉で崖から転落死し、つづいて、事件の裏事情を知るらしい編集者や推理作家が次々と殺害される。担当編集者の和泉百々子は、秋田に住む推理作家の増尾とともに、松山の旅程を辿り事件の真相を探るが--------。

立風書房ノベルズから1991年に出版されたノン・シリーズ長編。
マンネリに陥っていたこの時期の中町ミステリのなかでは、比較的良作の部類に入ると思われる作品です。
はじめに意味深なプロローグが配され、男女の素人探偵による温泉トラベル・ミステリの様相で展開し、真相を知る人物がバッタバッタと殺されていき、凝りすぎのダイイング・メッセージも出てきて......という、プロットは中町ミステリのテンプレート通りなのですが、ラストの二段階のどんでん返しに繋がる小説全体の仕掛けで読者を予想外の着地点に導きます。
動機のミスリードという中町ミステリの定番の手筋に、さらにひとヒネリ加えているところが巧妙で、最終章前に真犯人にたどり着ける読者は少ないのではないでしょうか。

No.2255 6点 運命の八分休符- 連城三紀彦 2015/04/28 18:52
主人公の田沢軍平くんのキャラクターだけが記憶に残っていて、ユーモア交じりの軽妙な連作ミステリという憶えがありましたが、今回再読してみるとちょっと印象が違いました。どの作品も、作者のお家芸である”構図の反転”が効いており、まぎれもない連城ミステリです。その一方で、昨年の「小さな異邦人」の表題作に似た軽い語り口なので、粘着質で美文調の文体が苦手な人でも取っ付きやすいと思います。

東京・大阪間のアリバイトリックを扱った表題作は、サブトリックが山村美紗の某作と見事にカブっていますが、ベートーヴェン「運命」の八分休符の趣向をトリックになぞらえるという発想がすごい。
マクベイン「キングの身代金」を思わせる”人違い誘拐”がテーマの「邪悪な羊」は、連城の数ある反転ミステリの中でも上位に入る誘拐ミステリの傑作。後の某長編の原型と言えるかもしれない。
そのほかの「観客はただ一人」「紙の鳥は青ざめて」「濡れた衣装」も、主要人物の立ち位置や事件の構図が見事に逆転する連城マジックを堪能できる。ただ、さすがに連作で読み進めていくと、作者の狙いが透けて見えてしまうという側面もあるのは否めないかな。
軍平は、全5話で5人の運命の女性と関わることになるが、「邪悪な羊」を筆頭に、ラストに漂う哀愁も捨てがたい味わいがある。

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