皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
文生さん |
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平均点: 5.85点 | 書評数: 456件 |
No.296 | 6点 | ファイナルガール・サポート・グループ- グレイディ・ヘンドリクス | 2022/11/17 18:25 |
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登場人物が次々と血祭りにあげられるなか、ただ一人生き残って殺人鬼を返り討ちにするホラー映画のヒロイン・”ファイナルガール”。そんな彼女たちがもし実在していたとしたら?という発想で書かれた一種のオマージュ作品です。
事件によるトラウマから数十年間PTSDに悩まされてきた彼女たちの前に再び殺人鬼が現れるという話なのですが、「13日の金曜日」「ハロウィン」「悪魔のいけにえ」「エルム街の悪夢」「スクリーム」といった具合に、ファイナルガールたちが過去に体験した事件はすべて有名ホラー映画がモデルであり、(タイトルは異なっているものの)現実と同じように映画化されているというメタ構造が楽しい。それらの作品の映画レビューが挿入されていたりと、小ネタも効いており、スラッシャー映画のファンなら大いに楽しめるのではないでしょうか。ただ、ミステリーとしては大きな驚きはなく、フェミニスト論と絡めて教義的なまとめ方をしている点もいま一つ。 |
No.295 | 5点 | 真夜中の密室- ジェフリー・ディーヴァー | 2022/11/07 14:57 |
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リンカーン・ライムシリーズ第15弾。
今回は、リンカーン・ライムが警察上層部の政治闘争の巻き込まれて窮地に陥るエピソードと、どんなに厳重に施錠された部屋でも侵入する怪人・ロックスミスの暗躍が並行して描かれています。しかし、前者はシリーズのパターンからなんとなくオチが読めてしまい、後者に関しては歴代の怪人と比べると小者すぎて物足りません。それなのに、ライムがロックスミスをウォッチメイカーと比較して妙に持ち上げているのが謎です。 リーダビリティの高さは相変わらずなのでそれなりに楽しめはしましたが、ミステリとしてはいま一つ魅力を感じることができませんでした。 |
No.294 | 7点 | リバー- 奥田英朗 | 2022/11/07 12:40 |
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渡良瀬川で起きた10年越しの連続殺人を巡るドラマは登場人物たちのキャラも立っており、群像劇として抜群の面白さです。特に、一筋縄ではいかない3人の容疑者が印象的で物語を大いに盛り上げてくれます。ただ、真相はある意味意外ではあるものの、つじつまの合わない点が多くてそこが残念。
読み応えは満点なので8点をあげたいところですが、本格ミステリでないとはいえ、真相の説得力のなさは看過できずマイナス1点の7点です。 |
No.293 | 7点 | 彼と彼女の衝撃の瞬間- アリス・フィーニー | 2022/10/31 02:25 |
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元夫婦のニュースキャスターと刑事が並行して殺人事件の謎を追う物語であり、サスペンス小説としてもそれなりに面白いのですが、本作がその真価を発揮するのは終盤です。どんでん返し・オブ・どんでん返しで話が二転三転四転五転倒し、ラストで意外な真相へと着地するさまはまるで新本格のよう。
本格好きな人にもおすすめの逸品です。 |
No.292 | 6点 | 赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。- 青柳碧人 | 2022/10/28 16:08 |
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童話×特殊設定ミステリとしてはすでに大きな驚きはなくなってしまったシリーズですが、童話のイメージに対するアンチテーゼの物語としては皮肉が効いていてなかなか面白かったです。特に、白雪姫のエピソードがお気に入り。 |
No.291 | 5点 | むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。- 青柳碧人 | 2022/10/28 15:59 |
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童話の設定を活用した特殊設定ミステリですが、前作の「むかしむかしあるところに、死体がありました。」に比べると切れ味はかなり落ちる印象。最初の竹取物語における多重解決の趣向は悪くないものの、ラスト2話の猿蟹合戦はごちゃごちゃしすぎでシンプルな驚きに欠けるのが難。 |
No.290 | 9点 | 方舟- 夕木春央 | 2022/10/24 09:44 |
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個人的には、リーダビリティの高さと衝撃の結末という点から数あるクローズドサークルミステリのなかでも名作『そして誰もいなくなった』に最も近づいた作品だと思います。
まず、クローズドサークルを構築する舞台装置が秀逸でサスペンス感を否応なく盛り上げてくれます。それに、犯人探しのためのロジックも分かりやすくて魅力的。そしてなんといっても、ぞっとする衝撃のラストがたまりません。これに関しては完全に意表を突かれました。ただ、探偵役が超然としていて他とは一味違う感を出していたのに、終盤は十把一からげの扱いになっていた点だけが残念です。そこはもう少し詳しい描写がほしかったところ。 |
No.289 | 5点 | 競争の番人 内偵の王子- 新川帆立 | 2022/10/24 08:33 |
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公正取引委員会の審査官・白熊楓が九州事務所に転勤しての九州編です。今回は殺人事件が発生して少しミステリらしくなりましたがやはりミステリとしては小粒。むしろそのために、お仕事小説としての面白さは少し後退した感すらあります。本庁に比べて九州事務所の人間関係がギスギスしているのも好みの分かれるところでしょう。それでも、テンポの良さで読ませ、また、内偵の王子こと常盤や後半から登場する旧キャラは魅力的なのでエンタメ小説としてそれなりのレベルをキープしています。 |
No.288 | 5点 | 競争の番人- 新川帆立 | 2022/10/24 08:12 |
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公平取引委員会版『マルサの女』といった感じの作品であり、あまり知られていない公平取引委員会の実態について描かれている点は興味深く読むことができました。それに登場人物のキャラもよく立っています。ただ、ミステリとしては薄味で驚くような展開もなく、その辺りに関しては物足りなさを覚えました。 |
No.287 | 6点 | 老虎残夢- 桃野雑派 | 2022/10/13 12:32 |
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武芸の達人たちが集う南宋時代を舞台にした密室殺人ミステリーという着想がユニーク。
ただ、乱歩賞受賞時の「館」×「孤島」×「特殊設定」×「百合」という喧伝文句のわりに百合を除く3つの要素はあまりにも小粒。したがって、本格ミステリとしてはさほど高い点はつけられません。 その代わり、主人公が同性愛者の女性という点も含め、ちょっと風変わりな武侠小説としては存外楽しむことができました。 |
No.286 | 7点 | キュレーターの殺人- M・W・クレイヴン | 2022/10/12 06:03 |
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被害者の指を殺害前と殺害後の2回に分けて1本ずつ切断するという連続猟奇殺人から始まり、二転三転する展開に引き込まれまていき、その末に提示される思いもよらない真相にも驚かされました。長大なページを用いて壮大な犯罪計画の全貌を解き明かしていく物語は非常に読み応えがあります。ただ、果たしてこの動機でこんなにも回りくどくてリスクばかり高い犯行計画を実行に移すものだろうかという疑問はどうしても残ってしまいます(犯人の狂気がもっと描かれていれば説得力が増したのかもしれませんが)。その点が大きな減点材料です。 |
No.285 | 5点 | ノースライト- 横山秀夫 | 2022/10/12 05:46 |
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タウトの椅子だけを残して失踪した一家という魅力的な謎を掘り下げていくのかと思えば、主人公が所属する建築事務所の事業トラブルへと話がシフトしていったのが個人的に不満です。失踪の件は主人公が何もしないうちに解決してしまうのも物足りません。決して悪い作品ではないものの、『半落ち』と同じく自分の求めていた作品ではありませんでした。 |
No.284 | 6点 | 英仏海峡の謎- F・W・クロフツ | 2022/09/24 14:29 |
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クロフツ十八番のアリバイ崩しもの。
英仏海峡を巡るアリバイトリックは専門知識を有するものであり、本格ミステリとしては優れた仕掛けとはいえないかもしれません。しかし、クロフツ作品は本格ミステリとしてではなく、警察小説の萌芽がみられる捜査小説として読むべきではないかと個人的には考えています。 そういう観点から読めば、足を使った地道な捜査によって真相に近づいていくプロセスはなかなかの面白さですし、アリバイ工作を解明するくだりも素直に楽しむことができます。 |
No.283 | 7点 | ヨルガオ殺人事件- アンソニー・ホロヴィッツ | 2022/09/20 08:39 |
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前作『カササギ殺人事件』にて死亡したミステリー作家の作品に殺人事件の犯人を指し示す証拠が残されていることが判明するという展開は非常にスリリング。おまけに、作中作として挿入されている問題の作品も抜群の面白さです。黄金期探偵小説の雰囲気に満ちており、誰もが怪しい中で意外な真相を提示してみせる手管には感心させられました。
ただ、現実の事件の謎解きはイマイチ。犯人にさほどの意外性がなかったのも不満ですが、なにより肝心の「犯人を指し示す証拠」というのが実はなんの証拠能力もない点がいただけません。これって要は、性格の悪い作家が「こいつが犯人だ」と(根拠も示さずに)勝手に言っているだけでわざわざその秘密を知った人間を殺さなくても言い逃れはいくらでも可能なのではないでしょうか? |
No.282 | 5点 | 殺しへのライン- アンソニー・ホロヴィッツ | 2022/09/18 11:33 |
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全体としては十分に楽しめたものの、前半のテンポの悪さが少々気になりました。また、本格ファンの興味を引きそうな謎が「右手だけが縛られていない死体」ぐらいなのでちょっと地味です。それに、そのホワイの謎に対する解答も魅力的とは思えませんでした。
最大の読みどころといえるのが関係者の秘密が次々に暴かれて後半の展開で、一番興味深いのがホーソンの過去についてなのですが、それは次巻以降の持ち越しとなっています。そういうわけで、物語としてはそれなりに楽しめるものの、本格を期待しすぎると肩すかしを喰らう作品だといえます。 それと、本篇の3分の1程度読んでから目次を見返した時になんとなく犯人がわかってしまったのも真相の意外さを薄れさせてしまった原因となってしまった(目次に直接的なヒントが書かれていたわけではないのだけど、この目次ならあいつが犯人だと雰囲気ぴったりだなという流れで予想できてしまった)。したがって、目次はなるべく見ないことをおすすめします。 |
No.281 | 6点 | ポピーのためにできること- ジャニス・ハレット | 2022/09/18 11:19 |
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普通の小説とは異なり、メール・供述調書・新聞記事といった証拠資料のみで物語を構成している異色作。そうすることで、読者は探偵役と全く同じ目線で謎解きに参加することができるというわけです。究極のフェアプレイといえますし、ミステリとしても非常に読み応えがある作品に仕上がっています。ただ、構成の見事さばかりが優先され、ミステリの仕掛けとしては特筆すべきものがない(一応どんでん返しはありますが)点に物足りなさも。 |
No.280 | 5点 | N- 道尾秀介 | 2022/09/17 19:26 |
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全6章からなる作品で、読む順番を変えることで6×5×4×3×2×1=720通りの物語が楽しめるというのだけど、これは誇大広告気味で実際はA→Bと読むとAの伏線がBで回収されるのに対してB→Aで読むとBの伏線がAで回収されて読み味がちょっと変わる程度。読む順番によってストーリーが一変する物語を期待していた身としてはかなり肩すかしでした。
その程度のことで行ったり来たりしながら読むのが面倒くさく、また、目的の章が探しやすいようにと紙の本の場合は章ごとに上下を反転しているのだけど、それゆえ章ごとで本を上下反転しなければならにのがまた面倒くさい。 さらに、あくまでも技巧中心なので物語としての面白さは(決して全くつまらないというわけではありませんが)二の次になっている感もあります。 筒井康隆の諸作品をはじめとして実験的なスタイルの作品自体は嫌いではないのですが、本作の場合はちょっと中途半端だった気がします。 |
No.279 | 6点 | 紙の梟 ハーシュソサエティ- 貫井徳郎 | 2022/09/17 10:53 |
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日本の裁判では1人殺しただけではまず死刑になることはなく、2人でボーダーライン、3人殺せば概ね死刑判決が下されるというのがだいたいの目安です。本作は、そうした現状が改められて一人でも殺せば即死刑となった社会を描いた一種のシュミレーション小説だといえます。
以下各話の感想 「見ざる、書かざる、言わざる」 殺せば即死刑になったことで起きた残忍な犯行。家のセキュリティを強固なものにしたら空き巣が減った代わりに強盗が増えたといった類の話でまずは皮肉効かせた軽いジャブといった感じ 「籠の中の鳥たち」 クローズドサークルミステリーに死刑問題を絡めた点がユニーク。犯人の狂った動機が意表を突くホワイダニットものの傑作です。ただし、人を殺せば正当防衛でも死刑という設定はかなり無理があるように思う 「レミングの群れ」 最近話題になっているいわゆる無敵の人を死刑問題と絡めた点が秀逸。読み応えという点ではこの作品が一番 「猫は忘れない」 証拠不十分で逮捕を免れた男を法に代わって成敗する話ですが、これは最初からオチがみえみえでイマイチだった。 「紙の梟」 本作品集の核となる作品ではあるものの、恋人を殺された主人公が死刑の是非について延々と悩む話でミステリ的な面白さはほぼなし 主人公が出した結論も特に新味はなく面白身に欠ける。 まずまず面白かったのだけれど、最後の2篇がイマイチだったのが残念。 |
No.278 | 5点 | 幻告- 五十嵐律人 | 2022/09/17 08:13 |
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裁判所書記官の主人公は学生時代に、自分が幼い頃離婚した父が強制わいせつの罪で有罪判決を受ける場面を傍聴席から目撃。数年後に偶然タイムリープの能力を得た彼は現代と過去を行き来しながら、父を救おうとするが...。
著者ならではの法に関する蘊蓄は興味深いものがありますし、SF+リーガルミステリーという組み合わせもユニーク。ただ、タイムリープに伴う時系列が理解しづらく、ミステリーとしてもSFとしても明快さに欠けているのが難。また、父親は悪人ではないけれど、半ば自業自得である点もなんだかもやもやします。 |
No.277 | 9点 | 復活の日- 小松左京 | 2022/09/17 07:38 |
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春先に流行の兆しを見せ始めたイタリア風邪が5月には世界中で深刻な事態をもたらし、秋にはほぼすべての人類が滅んでしまう過程を克明に描いているのが怖い。個人的にはパンデミックもので一番好きな作品であり、日本沈没に並ぶパニック小説の大傑作。 |