皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
文生さん |
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平均点: 5.86点 | 書評数: 500件 |
No.340 | 6点 | 香港警察東京分室- 月村了衛 | 2023/06/25 10:41 |
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日本と香港の合同チームである特殊共助係の活躍を描く刑事アクションです。計10名の刑事たちはみな個性的でキャラが立っており、なかでも、天然おっとりお姉さんのようなキャラで実はすごい切れ者の水越真希枝警視が魅力的。
一方、アクションは中盤の凄まじいまでの銃撃戦は息をのむほどの迫力で大変よろしいのですが、そこがピークになってしまっているのにはもの足りなさを覚えてしまいました。中盤の銃撃戦があまりにも素晴らしかったので期待値が上がりすぎたのかもしれません。 |
No.339 | 5点 | 死者のノック- ジョン・ディクスン・カー | 2023/06/23 22:20 |
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密室トリックに関しては不備が指摘されているものの、個人的にはアイディア自体は悪くないと思います。ただ、長篇でメインをはれるほどものではなく、どちらかといえば短編向きかなと。また、多くの人が指摘しているようにフーダニットミステリーとしては悪くありません。もっとも、それがいまいちミステリーとしての面白さに結びついていないというか、どうにも盛り上がりやケレン味に欠けている感じがします。カーのなかではかなり印象の薄い作品。 |
No.338 | 6点 | 猫と鼠の殺人- ジョン・ディクスン・カー | 2023/06/23 22:02 |
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不可能犯罪も怪奇趣味もなく、カーの作品としては地味ですが、ストーリーに緊張感があり、ヒネリの効いた皮肉な展開は十分に楽しめました。トリックに関しては可もなく不可もなくといったところ。 |
No.337 | 3点 | アラビアンナイトの殺人- ジョン・ディクスン・カー | 2023/06/23 21:41 |
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話が長い割に大した謎もなく、そのうえ、同じ事件を3人の視点から描かれるのだけど、どれも劇的な違いがあるわけでもないので読んでいてとにかく退屈でした。真相も凡庸で『盲目の理髪師』に並ぶつまらなさ。 |
No.336 | 5点 | フォトミステリー ―PHOTO・MYSTERY―- 道尾秀介 | 2023/06/21 20:01 |
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『いけない』と同じ写真でオチを付けるタイプのミステリーなのですが、果たしてこれをミステリー小説と言ってもいいものか。全50話のほとんどが1ページ未満で、なかには一行しかないものもあります。小説というより小ネタ集です。とはいえ、写真だけでなく、タイトルも駆使してオチを付ける手管はさすがですし、道尾流のブラックなネタも嫌いではありません(「ひとをうたがうべからず」とか結構好き)。しかし、ミステリー小説としてはやはり評価しがたいものがあります。 |
No.335 | 6点 | 殺したい子- イ・コンニム | 2023/06/18 15:00 |
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女子高生が校舎裏で撲殺死体となって発見され、同級生の友人が逮捕される。その事件を関係者のインタビューを通じて追っていくが…。
証言する人間が代わるたびに被害者と容疑者のイメージが二転三転しながらも、世論のバイアスによって次第に真実が歪められていくプロセスがスリリングです。事件の真相も皮肉が効いていて悪くありません。ただ、逮捕された女子高生が弁護士たちにあまりにも非協力的で自ら心証を悪くしにいっている点に関しては若干の苛立ちを覚えました。 |
No.334 | 6点 | 歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理- 三津田信三 | 2023/06/09 11:22 |
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刀城言耶に代わって研究室の留守を預かる天弓馬人が探偵役を務めるスピンオフ作品。しかし、天弓は刀城の弟子なのに怖いものが大の苦手で、怪異の存在を否定するために推理をするというのがユニークです。また、そんな彼を怖がらせてからかう大学生・瞳星愛とのコンビも微笑ましい。本格ミステリとしては突出した出来ではありませんが、ホラーミステリとしてはなかなか読み応えあります。ディクソン・カーに関する言及が多い点も個人的に嬉しいところ。 |
No.333 | 7点 | のぞきめ- 三津田信三 | 2023/06/08 20:47 |
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現代編と過去編の2部構成になっているのですが、現代編がとにかく絶望的すぎて圧倒的に怖い。そして、そのインパクトがミスディレクションとして機能し、過去編における事件の真相を隠蔽する役割を果たしているが見事です。ただ、その仕掛け故、第2部が第1部に比べてあまり怖くないのがホラー小説としては物足りなさを覚えました。 |
No.332 | 6点 | すり替えられた誘拐- D・M・ディヴァイン | 2023/06/03 22:21 |
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窃盗を理由に大学を除名された学生の冤罪疑惑が持ち上がり、やがて学生たちによる抗議活動へと発展していく。そんななか、抗議の一環としてこの大学に大口の寄付をしている富豪の娘を誘拐するらしいという噂が広まっていく。果たして誘拐は行われるがそれはあくまでも狂言誘拐のはずだった。だが、誘拐はやがて殺人事件となり…。
ディヴァイン最後の未訳作品です。いつもの如く派手な仕掛けなどはありませんが、真犯人を論理的に指摘するなど、フーダニットミステリとしては悪くありません。それに事件が起きる前の、不穏な空気が高まっていくくだりなどは物語としても読ませます。ただ、犯人が判明したあとのサスペンス展開、出来自体は悪くないものの、自分はてっきり(犯人指摘が早すぎたので)さらなるドンデン返しがあるものとばかり思っていました。まさか『死の接吻』方式とは思ってもなかったので、謎解きがすでに終わっていた事実を最後に知って肩透かしを覚えたわけです。トータル評価としてはそこそこ楽しめたということで6点くらいで。 |
No.331 | 7点 | 恐るべき太陽- ミシェル・ビュッシ | 2023/05/27 04:21 |
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ミシェル・ビュッシといえばサスペンス調の物語にどんでん返しの組み合わせというイメージの強い作家です。しかし、本作では携帯電話の電波が届かない南の島(島には数千人の住人もいるのでクローズドサークルではない)で連続殺人が起き、事件の関係者が真相を推理していくという本格仕立てになっています。
そして、終盤のどんでん返し。これがなかなかにすごい。とはいえ、それは意外な真相に驚くというより、よくそこまでやるなという、作家の仕掛けに対する執念に唸らされたいった感じ。そういう意味では、泡坂妻夫のミステリーに通じるものがあるかもしれません。全体としては大いに楽しめたのだけど、ただ、仕掛けに特化した作品ならばもう少し短くてもよかったような気が...。 |
No.330 | 5点 | 戦物語- 西尾維新 | 2023/05/26 19:11 |
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物語シリーズが終物語で一応の完結をみたのが2014年。まさか、大学編を経て阿良木暦と戦場ヶ原ひたぎの結婚後も話が続くとは思いもしなかった。
今回は新婚旅行のエピソードであり、戦場ヶ原と忍野忍がシリーズ初の顔合わせといったファンにとってはうれしいイベントなどを含めつつ、キャラ同士の掛け合いは安定の面白さです。ただ、もう一つの柱である怪異譚の方はあまりにも薄味。このあたりは次回以降に期待ということかな? |
No.329 | 7点 | 死と奇術師- トム・ミード | 2023/04/29 18:14 |
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7点か6点かで迷う作品。
連続密室殺人の謎に元奇術師の探偵していたが挑むという筋書きで、解決編までは非常に楽しい。1936年のロンドンでは不可能犯罪が流行している設定だったり、『三つの棺』の密室講義に言及したり、読者の挑戦付きの袋綴じ企画があったりと、マニアのためのザ・本格といった感じでまるで日本の新本格を読んでいるよう。解決編に入ってからも正体不明だった訪問客の正体についてはミスディレクションが効いていて唸らされました。ここまでなら文句なしの8点。ただし、肝心の密室トリックが小手先のテクニックだったり、推理しようのない機械トリックだったりしてどうも感心しない。JDCに捧ぐと書いていたからカーの代表作並みのトリックを期待していたらクレイトン・ロースンだったという感じ。まあ、探偵役が奇術師だったり、奇術の種は明かされてみるとつつまらなく感じるものだとか予防線を貼っていたりしていた時点で嫌な予感はしていたのだけど。それでも、密室トリック以外の部分では大いに楽しませてくれたのでトータル7点で。 |
No.328 | 7点 | 警部ヴィスティング 疑念- ヨルン・リーエル・ホルスト | 2023/04/07 09:26 |
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シリーズ第15弾(日本では5作目の翻訳)の北欧ミステリー。
ヴィスティング警部の自宅に送られてきた謎めいた手紙がきっかけで20年前に起きたレイプ殺人を再調査していくというものですが、当時はあまりにも犯人が明白だと思われていた故に見逃されていた事実が次々と明らかになっていく展開が面白い。これぞ捜査小説の醍醐味といった感じです。 ちなみに、本作は本格ミステリではないものの、本格でおなじみのある仕掛けが施されています。したがって、本格ミステリを読みなれている人なら途中で薄々真相に気づくのではないでしょうか。とはいえ、犯人を追い詰めていくミステリドラマとして読み応えがあるのでそのあたりは大きな瑕疵にはなっていません。人気作家による安定の佳品です |
No.327 | 5点 | 孤島の十人- グレッチェン・マクニール | 2023/03/20 09:08 |
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孤島の別荘に10人の高校生が遊びに来たところ、突然、恨みを記した不気味な動画流れ始める。そして、惨劇が...。
現代のティーンエイジャー向けに書かれた『そして誰もいなくなった』といった趣の作品なのですが、サスペンスホラーとしては悪くありません。殺し方にも工夫を凝らし、テンポの良い物語を手なれた筆致で盛り上げていきます。一方、ミステリーとしてはそれなりにまとまってはいるものの、トリックなどがオマージュ元から1ミリも進歩していないのはいただけません。日本のクローズドサークルミステリーを読みなれているとどうしても物足りなさを覚えてしまいます。 |
No.326 | 7点 | ガーンズバック変換- 陸秋槎 | 2023/03/16 13:34 |
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著者のミステリー作品はこれまですべて中国が舞台となっていましたが、SF短編集である本作は日本と欧米が中心で中国は全く出てきません。雰囲気も日本人好みのエモいものが多く、帯に書かれているように中国発の日本SFといった感じです。
SF小説としての完成度は素晴らしく、著者の代表作といえるのではないでしょうか。一方、ミステリーとしてみた場合もリソースの限界から記号的表現にならざるを得ないゲーム演出を、科学的にリアルであると強弁するための設定作りに悪戦苦闘する「開かれた、世界から有限宇宙へ」などは一種の多重解決ものとして楽しむことができます。また、機械翻訳の進化と女性学者の自殺の謎を追う「色のない緑」はSFミステリーとして秀逸です。 ちなみに、表題作は香川県ネット・ゲーム依存症対策条例の行き着く先をサイバーパンク風にまとめたもので、恒例の百合要素などもあって個人的には収録作中一番のお気に入り。 |
No.325 | 4点 | 疑惑の影- ジョン・ディクスン・カー | 2023/03/11 13:12 |
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カー後期の作品としてはミステリーの仕掛けは悪くないものの、探偵役のハドラーに魅力がなく、話が盛り上がらないのが致命的。フェル博士をわき役に配置したのも中途半端で、できれば純粋なフェル博士シリーズとして読みたかった。 |
No.324 | 5点 | 星くずの殺人- 桃野雑派 | 2023/03/11 08:52 |
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江戸川乱歩賞を受賞した前作『老虎残夢』が南宋を舞台にした武侠ミステリーだったのに対し、本作は180度作風を転換したSFミステリーです。
舞台は民間での宇宙旅行ツアーが試験的に組まれるようになった近未来で、宇宙ホテルで起きる連続殺人が描かれています。ライトな作風でさくさく読める反面、コロナ渦からわずか数年という設定なのにすでに宇宙ホテルが出来ているなど、SFとしてのリアリティのなさはやや気になるところ。また、宇宙が舞台という設定を活かした仕掛けが複数用意されているものの、豆知識に基づく物理トリックばかりでミステリーとして大きな驚きはありません。ちなみに、帯の煽りでは無重力下での首吊り死体がすごい謎のように書かれていますが、はっきり言って単なるこけおどしでした。ミステリーを読みなれていれば(具体的な方法までは推理できなくても)大まかな原理はすぐに分かるはずです。結局最大のサプライズといえるのはは「互いに面識のなかったツアー客の間で連続殺人が起きたのは何故か?」という動機の問題でしょうか。全く予想外のこの動機には驚かされました。ただ、驚きはしましたが、この動機が成立する背景がありえなさぎるという問題があります。 とはいえ、ミステリーとしては動機以外に大きな破綻もなく無難にまとまっていますし、話としてはそこそこ楽しめたので点数はこのくらいで。 |
No.323 | 6点 | だからダスティンは死んだ- ピーター・スワンソン | 2023/03/09 18:53 |
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隣人の男性を殺人鬼だと確信しているが、精神に問題を抱えている故に警察にも夫にも信じてもらえない女性版画家。
隣人の女性に殺人の現場を目撃されて通報されたにも関わらず、彼女に興味を持って接触を図る高校教師。 2人の関係性がスリリングなうえに、彼らに巻き込まれて錯綜する人間模様もサスペンス小説として非常に読み応えがあります。ただ、メインの仕掛けがあまりにも見え透いていたのが残念。あのどんでん返しにサプライズ感は全くなく、答えがわかっている謎に付き合わされたおかげで後半が少々冗長に感じてしまいました。物語としてはかなり面白かっただけに、その点だけが惜しまれます。 |
No.322 | 4点 | 死時計- ジョン・ディクスン・カー | 2023/03/05 10:54 |
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眩惑的な雰囲気は悪くないのですが、とにかく描写や説明がわかりにくい。そのため、フェル博士の推理を聞いても全くピンときませんでした。自分の中では雰囲気だけの作品という評価。 |
No.321 | 8点 | 曲った蝶番- ジョン・ディクスン・カー | 2023/03/05 10:49 |
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周囲に誰もいない開けた空間で、男が突然喉を掻き切られて死亡するというとびきりの不可能犯罪が登場します。しかし、このトリックはいくら何でも無理ありすぎて到底うまくいくとは思えません。エドワード・D・ホックが行った密室長編ミステリーを対象とした人気ランキングでは『三つの棺』『魔の淵』『黄色い部屋の謎』に次いで4位にランクインされているものの(5位は『ユダの窓』)、不可能犯罪という部分だけを切り取ればカーの作品の中でも最低クラスです。その代り、ケレン味たっぷりに語られ、二転三転する物語の面白さはその欠点を補って余りあります。むしろ、物語の雰囲気に荒唐無稽なトリックがうまく溶け込んでおり、欠点が欠点でなくなっているほどです。カーのストーリーテリングのうまさが存分に発揮された傑作。 |