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E-BANKERさん
平均点: 6.02点 書評数: 1782件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.42 6点 三年目の真実- 西村京太郎 2023/10/09 12:38
双葉社が編んだ作者の初期作品集。昭和39年から昭和54年までに各雑誌などに発表されたもの。
作者の多芸ぶりや懐の深さについては、作者の死後改めて思い知らされてしまう。そんな作品のひとつ。
2003年発表。

①「三年目の真実」=舞台は昭和30年代終わりごろの東京。世間は空前の経済成長に沸いていた時代なのか? それでも市井はまだまだ戦後が色濃く残る・・・そんな時代背景。でもテーマは割と新しい。現代でもよくニュースに取り上げられるような話題なのだ。その辺りはさすがだ。
②「夜の脅迫者」=これは別の作品集にて既読。ただ、出来はよい。冷静になれば「こんな馬鹿なことやるか?」という気にはなるのだが、昭和39年という時代を考えればかなり斬新。徐々に追いつめられる主人公の姿がイタい。
③「変身」=同種のプロットが先行の海外作品にもあったような気はするが・・・。でも、これも②と同様で主人公の男の心情が痛いほど分かるような気が・・・。どんな時代でも男の欲望は「金」と「女」だ!
④「アリバイ引き受けます」=これはラストの反転というかオチが決まっている。まあ因果応報ということだが・・・。最近の著作(「アリバイ崩し承ります」)との相似も面白い。
⑤「海の沈黙」=初期の作品には「海」をテーマとするものも多かったが、これもそのひとつになるのか。時代背景は全然違うけれど、漁師が食えないのは今も同じだろう。
⑥「所得倍増計画」=当然ながら、その昔に佐藤栄作首相が唱えた政策(合ってる?)を揶揄しているのだけど、実に皮肉に満ちた作品。こういう小品こそ作者の腕前がよく分かるというもの。
⑦「裏切りの果て」=あーあ。小市民。なんの取り柄もない、しがないサラリーマンが嵌まってしまった陥穽。当然最後には「報い」がやってきます。アーメン。
⑧「相銀貸金庫盗難事件」=いったいなんなんですか? この作品は?ドキュメント?社会派? 結局最後まで何が言いたいのか、どういうことを訴えているか理解できないまま終了・・・

以上8編。今まで何度も書いてますが、作者の初期作品にハズレなし(たまーにありますけどね)。
本作もなかなかの粒ぞろい。ただ、ちょっと堅い作品が多いような印象。
でも読みごたえは十分。後期の気の抜けたようなトラベルミステリーとは一味も二味も違ってる。
まだまだ未読の佳作はあるんだろうなあー。
(個人的ベストは再読だけど②になる)

No.41 6点 ある朝 海に- 西村京太郎 2022/03/22 18:07
去る2022年3月6日、作家・西村京太郎氏が永眠された。御年91歳。まぁ大往生でしょう。
本サイトにおいても、特に氏の初期作品に関しては高評価してきた私だけに、やはりここははなむけとして、未読だった初期作品の書評を上げておきたく、本作をセレクトした次第(別に上から目線ではありませんが・・・)
1971年の発表。

~南アフリカ共和国の首都ヨハネスブルグで白人警官に追われていたカメラマン田沢利夫は、見知らぬ白人青年に急場を救われた。この青年は田沢に重大な計画を打ち明け、参加を求めてきた。その計画とは、国連安保理事会にある要求をつきつけるため豪華客船を乗っ取るというものだった。そして、計画は実行に移されたのであったが、事態は予期せぬ方向へ進展する~

舞台は南アフリカ、テーマは南アでかつて問題となっていたアパルトヘイト、ということでやはり時代を感じてしまうんだけど、昨今のロシア⇒ウクライナ侵略の問題でちょうど国連や安保理の様子が日々映像として流されているだけに、タイミングというか、めぐり合わせのようなものを感じてしまう。
本作でも、主要登場人物の一人である国連職員のハンセンが、国連の限界や無力さを嘆く場面があるのだが、50年以上たった今でも、国連や安保理の機能不全やまやかしを感じずにはいられない。
田沢たち犯人グループは幾多の苦難を経て客船をジャックし、国連に対して要求を突きつけるわけだが、その要求に対する回答は全くといっていいほどの「ゼロ回答」なのである。
そういう意味では、本作のプロットは破綻しているのかもしれない。(「ゼロ回答」でない場合は逆にリアリティに欠けるのだから・・・)
ミステリー作品らしく、船内では殺人事件も発生するし、終盤にはちょっとした「仕掛け」も明らかになる。明らかにはなるんだけど、それは「付録」というレベルのものだ。

氏の初期作品には「消えたタンカー」や「赤い帆船」、「発信者は死者」など海を舞台にしたスケールの大きな作品群が目立つ。それは、ミステリ作家として大成を夢見ていた作者の矜持かもしれないし、単純に「海が好き」という好みの表れかもしれない。でも、この瑞々しさはどうだ。登場人物たちもメインは「若者たち」だし、日本や世界の矛盾を題材にしたいという心意気が感じられる。
普通の人にとっては、西村京太郎=トラベルミステリーの人、というイメージだし、確かにその道の第一人者なのは誰もが認めるところ。
でも、やはり氏の本当の実力を知るためには、トラベルミステリー以前の初期作品を手に取らなければならない。作品ごとに斬新なプロットや目新しい切り口の作品を次々と発表していた頃。時折登場していた十津川警部も若く溌溂としていた。時は流れ、人は老い、そして死んでいく。それはどうしようもないことだけど、こうやって残された作品を手に取る機会があること自体、平和の象徴なのかもしれない、と感じる昨今。

No.40 5点 怖ろしい夜- 西村京太郎 2021/10/02 09:12
200編を遥かに超えるという作者の短編作品。その中で、「夜」という単語がタイトルに含まれている作品を集めた文庫オリジナルの作品集。
1986年に角川文庫で編まれたもの。

①「夜の追跡者」(「月刊小説」1978年6月号)、②「怠惰な夜」(「別冊宝石」1967年8月号)、③「夜の罠」(「オール読物」1967年1月号)、④「夜の牙」(「小説宝石」1976年10月号)、⑤「夜の脅迫者」(「読切特選集1964年8月号)、⑥「夜の狙撃」(「小説の泉」1964年7月号)
ということで、かなり初期の作品から比較的初期の作品が並んでいる。

いつもなら、ひとつずつ短評を書くわけなのだが、うーん。今回はいいかな・・・
短編らしく、事件が急に起こって、急に解決して、っていう展開が目立つ。よく言えば「短編らしい切れ味」だし、悪く言えば「全く喰い足りない」っていう評価になるのだろう。

しかし、作者も1930年生まれってことは・・・今年91歳!? 作家生活も凡そ60年ってことになる。
いやいや、やはりすごい作家ではないか。
先日、たまたま見たBSの番組で氏がゲストに出てたけど、スムーズに受け答えしてたもんなぁー
いまだ「書く」意欲に溢れるなんて、一体どういう頭と体なんだろう?

正直なところ、「西村京太郎」という作家は最初の5年くらいで完成したんだろうと思う。その頃は、斬新なアイデアや奇抜なプロットの作品を連発していたわけだし、リーダビリティも十分だった。
で、たまたま出した「寝台特急殺人事件」が望外にヒットした。これがいけなかった(もちろん、作者的には「良かった」のであって、私個人の感想で)。
作者の「腕」をもってすれば、この「トラベルミステリー」なんて、赤子の手をひねるかのように、作品を量産できたのだろう。そして、折からの旅行ブームがそれに乗っかることになった・・・

だいぶ脱線してしまいました。本作も決して悪い出来ではありません。もう安心して頁をめくれます。保証します。
(個人的には最初期ともいえる⑤⑥が好み。因みに初期は「京子」という女性が度々出てきます)

No.39 5点 南伊豆殺人事件- 西村京太郎 2019/07/05 22:09
お馴染みの「十津川警部シリーズ」。良き相棒・亀井刑事はもちろん、権力者に弱い上司・三上部長や日下、西本などいつものメンバーも大活躍(!)
1997年の発表。

~伊豆下田の旅館から、会社社長で有田という名前の男が、五百万円入りのボストンバックを残したまま失踪した。二日後、有田の娘を名乗る女性が旅館に現れるも、その後訪ねてきた甥は、有田に娘はいないという。しかし、この甥も実は偽物と判明。つぎつぎと偽物が現れる怪事件に十津川警部はどう立ち向かうのか?

なぜ本作を手にとったかというと、この紹介文に惹かれたから・・・である。
なんか面白そうでしょう?
ある人物が「コイツは偽物だ!」というが、実はそいつも偽物。その偽物と下した人物がこれまた偽物・・・
プロットだけを取り上げれば、どんな展開になるのかと期待は膨らんだ。

実際、序盤は結構面白い。
十津川警部シリーズだと、景勝地や列車のなかで殺人が起き、十津川たちの捜査により怪しい人物が浮かぶが、鉄壁(と思われる)アリバイが立ち塞がる・・・という展開になりがち。でも、本作の場合、読者にも予想がつかない序盤~中盤。
ただ、如何せん量産作家の宿命か、大凡の筋書きが浮かんだ中盤以降は、いっきに萎んでいく。
まぁ仕方ないよね。
警察が扱う殺人事件なんて、本来は鋭い推理なんてものはぜんぜん必要ないんだろうし・・・

でも、十津川や亀井の推理が行われるや、次の場面ではそれを補強する物証や証言が速攻で出てくる展開。
これはこれでスピーディーといえなくはないが、もはや読者はただ只管ラストまでエスカレーターに乗せられてるという感覚。
まさに新幹線で二時間という乗車時間にピッタリの作品。
やっぱり“名人芸”だね。
(今は「ホステス」って死語ですかね?)

No.38 6点 日本列島殺意の旅-西村京太郎自選集(4)- 西村京太郎 2018/08/25 16:37
世間的には夏休み(らしい)。
仕事でどこにも行けない憂さ晴らしをすべく、せめて読書で旅をというわけで本作をセレクト。
トラベルミステリーといえばやはり“西村京太郎”を置いて他になし! 徳間書店で編まれた自選集パート4。

①「恐怖の橋 つなぎ大橋」=舞台は盛岡の奥座敷・繋温泉。そしてそこに架かる「つなぎ大橋」。この地を訪れたふたりの男女が、幽霊を探しにつなぎ大橋へ出掛け、帰らぬ人なる・・・。ミッシングリンクがプロットの軸。
②「十津川警部の休暇」=奥さんとともに伊豆・伊東温泉を訪れた十津川警部(珍しい設定だ!)。泊まった温泉宿で遭遇したのは何と“殺猫事件”。まさかこの真相を解明するのかと思いきや、本筋は殺人事件の発生を未然に防ぐという、これまた珍しいプロット。
③「LAより愛をこめて」=もちろんLAも登場するのだが、メインの舞台は飛騨高山。いかにも作者が好きそうな街だ。で、本作だけは十津川警部ではなく、雑誌記者の寺内亜木子が探偵役を務める。人探しがメインだったのが、やがて奥に潜んでいたある事件が白日のもとに・・・という展開。
④「南紀 夏の終わりの殺人」=ずばり南紀白浜が舞台。これはラストにきて事件の構図が見事にひっくり返される。まぁありきたりと言えばそうかもしれないが・・・。
⑤「越前殺意の岬」=これぞトラベルミステリーというようなタイトルだね。永平寺に東尋坊、越前岬と近くの温泉まで、まさにガイドブックのごとく名所旧跡をご紹介してます。そして本作も②と同様、ある事件を防ぐために十津川警部が奔走する。

以上5編。
数多い作者の短編から選ばれるだけあって、①~⑤とも手堅い作品が並んでます。
もちろんすごいトリックやら切れ味鋭いプロットとは無縁なのですが、百戦錬磨の味わいとでも言うべき安定感!
これこそが作者の凄みなんだろうと思います。
十津川警部をはじめ亀井刑事、西本刑事や日下刑事などお馴染みのバイプレイヤーも登場。
これはもう、いわゆるひとつの「様式美」というヤツでしょう。

とりあえず、これを読んで旅に出た気に・・・なるわけない!
やっぱりどこか行くべきだな。時間と金があれば!

No.37 6点 D機関情報- 西村京太郎 2017/08/11 22:56
1966年発表。
処女作「四つの終止符」、江戸川乱歩賞受賞作「天使の傷痕」に続く三作目の長編として発表された作品。
講談社文庫の新装版にて読了。

~第二次世界大戦末期、密命を帯びて単身ヨーロッパへ向かった海軍中佐・関谷は、上陸したドイツで親友の駐在武官・矢部の死を知らされる。さらにスイスでは、誤爆により大事なトランクを紛失。各国の情報機関が暗躍する中立国スイスで、トランクの行方と矢部の死の真相を追う関谷。鍵を握るのは「D」・・・。傑作スパイ小説~

私自身、「作者の初期作品は素晴らしい」と当サイトで何度も主張してきたけど、本作もその主張を裏付ける一冊だろう。
何より、この瑞々しさ!
やっぱり、というか当然、文章にも年齢は投影されるわけで、本作発表時の作者の年齢は三十代半ば。
これから専業作家として、何としても名を成したい、ヒット作を世に出したい、etc
そんな作者の熱気というか、心意気が行間からも伝わってくる・・・そんな「気」を感じさせられた。

で、本筋なのだが、
プロットとしてはそれほどの捻りはない。
極論すれば、「(スパイ小説として)よくある手」という評価になる。
第二次大戦中の欧州ということで、英米を主にした同盟国VSドイツという構図のなか、裏切りや狂信者、そして戦後の大局を見据える者など、様々な魑魅魍魎たちが跋扈する世界。
そのなかで右往左往するのが主人公の関谷中佐というわけだ。
あの人物は敵なのか味方なのか、はたまた敵の敵(=味方)なのか敵の敵の敵(=敵?)なのか・・・
化かし合いを演じることとなる。

そうは言っても、そこはやはり西村京太郎! ということで、リーダビリティはいつもどおり。
淀みなくラストまで一気呵成に読了してしまった。
でもまぁそこに物足りなさを感じる方は結構いるかもね。
ご都合主義と言えば全てがご都合主義だしな・・・

No.36 6点 恐怖の金曜日- 西村京太郎 2016/07/31 22:11
1982年発表の長編。
もはや超お馴染みの“十津川警部・亀井刑事”コンビが大活躍するシリーズ作品。
最近角川文庫にて復刊されたため早速読了。

~金曜日の深夜、二週続けて若い女性の殺人事件が発生した。残された手掛かりから犯人の血液型はB型と判明。十津川警部の指揮のもと、刑事たちは地道な捜査を続けていた。そんななか、捜査本部に<9月19日 金曜日の男>とだけ便箋に書かれた封書が届き・・・当日は何もなく夜が更けたかに思えたが、翌早朝、電話が鳴り響いた。若い女性を恐怖のどん底へ落とし込んだ姿なき犯人とは?~

一種のミッシング・リンクをテーマにしたサスペンス・ミステリー。
こういう手の作品は作者の得意技でもある。
巻末解説の山前氏も書かれているが、「夜行列車殺人事件」や「殺人列車への招待」など、なぜ犯人がこういう犯罪を犯すのか分からないという命題のほか、警察宛の挑戦状がプロットの軸の一つになっている例も結構多い。
やっぱり、十津川警部を始めとする警察機構VS犯人という図式を取る以上、クローズドな環境はありえないわけで、こういう広域捜査に適したプロットが選択される。

本作では「日焼け跡の残った若い女性」がミッシング・リンクをつなぐ材料として浮かび上がってくる。
当然ながら、なぜそれがミッシング・リンクをつなぐのかが最も重要な謎・・・というわけだ。
最終的に浮かび上がる犯人像については、十津川があれだけ悩んでてそれかよ、もう少し早く気付けよ! って突っ込みを入れたくなるものではあるのだが、最後までうまくまとめているなという感想にはなった。

まぁ辛口な見方をすれば、いつもと同じじゃないかと言えなくもない。
相変わらず亀井刑事は地道な捜査を続けるし、三上刑事部長はマスコミに弱いし、若手刑事はミスをするし、十津川は煮え切らないし・・・
それでも読まされてしまうこの安定感。
やっぱりトラベルミステリーよりも、こういったタイムリミットサスペンス的なプロットが一番作者の良さが出ると思う。
(今回は少し違うけど・・・)
書籍や地上波でもう嫌というほど作品が発表されていても、尚且つ毎月のように新作や復刊がされる事実。これだけでも、作者の偉大さが分かるってことだろう。

No.35 7点 発信人は死者- 西村京太郎 2015/11/01 16:55
1977年発表の長編。
まだ若き十津川警部が登場する作者初期の作品。
徳間文庫の復刻版にて読了。

~アマチュア無線を楽しむカメラマン野口浩介の無線機に午前二時になると決まって弱々しい救難信号が送られてきた。調査の結果、南太平洋のトラック諸島で沈没した潜水艦・伊号五○九から発信されたものだったのだ! そして元海軍中佐の不可解な死!? この艦が積んでいた十億円の金塊の行方は? 真相を追って野口は南の島へ向かったのだが・・・。十津川警部シリーズの初期代表作~

前々から読もう読もうとしていた作者の初期作品のひとつ。
初期作品には「消えたタンカー」や「赤い帆船」など“海”をテーマにしたものが多いが、本作もやはり「海」テーマの作品。
太平洋戦争の秘密という大きな歴史の謎を絡めて、壮大なスケールの長編に仕上げている。

紹介文のとおり十津川警部シリーズは間違いないのだが、本作で彼はあくまでも脇役。
主役は虚無的で世間に対して斜に構えた青年・野口と二人の仲間であり、何に対しても熱中できなかった彼が、徐々に金塊の謎と魅力に取り憑かれていく様子が実によく描かれている。
悲しげでありながら、微かに希望の光が見えるラストシーンも実に映像的で良い。

伊号潜水艦と殺人事件に纏わる謎については中盤を過ぎるあたりでほぼ判明する。
提示された謎が大掛かりだっただけにやや呆気ないのだが、本作はいわゆる謎解き主題の本格ミステリーではない。
サスペンスフルな終盤~ラストへ繋げていくストーリーテリングこそが本作の白眉だろう。
どこかノスタルジックな気分に浸れるはず・・・

今までも書いてきたけど、トラベルミステリーを書く前の作者初期作品のレベルは高い。
本作もそれなりに高い評価をして良いのではないかと思わせる・・・そんな作品。
(あまり古さを感じさせないのもGood!)

No.34 6点 浅草偏奇館の殺人- 西村京太郎 2015/04/06 21:14
1996年発表の長編ミステリー。
十津川警部をはじめ作者のキャラクターが全く登場しない異色の作品。

~戦争の足音が忍び寄る昭和七年。エロ・グロ・ナンセンスが一世を風靡した浅草六区の劇場、偏奇館で三人の踊り子がつぎつぎに殺された。京子十八歳、早苗十九歳、節子十八歳。ひとりは川に浮かび、ひとりは乳房を切り裂かれ、ひとりは公園の茂みの中に・・・。事件の真相を尋ねて、私は五十年ぶりに浅草を訪れたのだが・・・~

作者らしくない筆致&プロット。
これまでトラベルミステリーや初期の本格或いは社会派ミステリーを何冊も読んできたが、いずれとも違う感覚・・・なのだ。
十津川警部や亀井刑事、左文字進のテンポ良い会話を中心に、高いリーダビリティで読ませる作品ではなく、止められない連続殺人事件を切々と描写する、何とも言えない哀愁感の漂う作品。

それもこれも事件の舞台設定のためだろう。
軍部が日本全体に徐々に侵食し、戦争に突き進んでいく暗い世相。
そんな中で唯一、民衆のための娯楽の街となった浅草六区。エノケンをはじめとして大衆娯楽の世界に力の限りを尽くす若者たち・・・
これが何とも言えない“哀愁感”を生んでいる。

本筋の殺人事件の謎自体はまぁたいしたことはない。
入れ子構造になって、過去の事件を振り返るというようなプロットの場合、普通ならもう少し「サプライズ的な仕掛け」があって然りなのだが、本作にはそこまでの仕掛けは込められてない。
でもいいのだ。
本作はそういう作品ではない。きっと作者は書きたかったのだろう。
この時代の浅草を。
確かに暗くつらい時代だったのかもしれないが、みんなが一生懸命生きていた時代・・・
たまにはノスタルジーに浸ってみるのもいいのではないか?
(当時からの店が今まだあるのが浅草のスゴイところ・・・)

No.33 5点 殺人偏差値70- 西村京太郎 2014/12/10 22:13
500冊以上の著作を誇る作者。
本作は角川書店によって編まれた作品集。ラストの1編以外は“非トラベル・ミステリー”という構成。
表題は最近地上波ドラマ化されたもの。

①「受験地獄」=この言葉も最近は「死語」になったのだろうか? 二浪し何としてもT大に合格したい主人公は、あろうことか受験日当日に朝寝坊をしてしまう。窮地に陥った主人公の取った行動が悲劇を招く。何とも皮肉なラスト。
②「海の沈黙」=東北の漁村を訪れた新聞記者を待っていたのは漁船の沈没事故。取材を進めると、明らかに沈没は保険金狙いの偽装事故に思えたのだが・・・。これもラストは逆説的。
③「神話の殺人」=TV業界が舞台の一編。業界を牛耳るスポンサーとそれに群がる業界人たち。「黄金番組殺人事件」という長編も書いている作者はこの業界にも詳しいのか? 設定自体が一昔、ふた昔前だが・・・
④「見事な被害者」=本編もマスコミ、新聞社が舞台。喉から手が出るほどスクープを欲しがっている記者が陥る陥穽。これも売名行為が横行するマスコミ業界ならでは。
⑤「高級官僚を死に追いやった手」=今度は官僚たちの権力闘争を描いた作品。まぁ当然ながら汚い世界ではあるのだが・・・これも大人の世界なのだろう。
⑥「秘密を売る男」=とある財界の大物をひたすら非難する選挙活動を行う男。その男の選挙資金は謎の人物から贈られていた・・・。やがて明らかになる謎の機関。
⑦「残酷な季節」=ワンマン社長の肝いりで子会社の社長として出向した生え抜きの専務。熱意を込め新事業に邁進していた元専務に罠が迫る・・・。ラストも切なく残酷。
⑧「友よ 松江で」=本編のみトラベルミステリー風味の作品で、脇役として十津川警部まで登場する。まぁ小品だな。

以上8編。
冒頭に触れたとおり、⑧以外は作者の代名詞であるトラベルミステリー以外の作品が並ぶ。
どれも人間の醜い「保身」とか「妬み」などを元に起こる事件を集めており、それが本作のテーマなのだろう。

どれも小品というレベルの作品ではあるが、さすがにうまくまとめてるなという印象は持った。
旅のお供や時間つぶし程度にはちょうどいいかもしれない。
そんな評価。
(ベストは①かな。②~⑦はマズマズ。⑧はダメ)

No.32 7点 麗しき疑惑―西村京太郎自選集〈2〉 - 西村京太郎 2014/08/07 21:49
徳間書店で編まれた作品集。
400を超える短編の中から厳選された自薦集の第二弾。バラエティに富む作品が並んだ作品。

①「白い殉教者」=1975年発表。昨今の作者の作風とは全く異なるプロットと風合い。いわゆる雪密室をテーマにした作品なのだが、トリック自体は出来がいいとは言えない。でも、名探偵役として登場する徳大寺京介がいい味を出してる王道の探偵小説。
②「アンドロメダから来た男」=1976年発表。本作中最も毛色の異なる作品。何しろ完全なSFなのだから・・・。別にオチもなにもないのだが、ラスト一行が何とも気が利いている。
③「首相暗殺計画」=1981年発表。首相××というと、作者には首相誘拐計画を扱った「ゼロ計画を阻止せよ」という名作があるが、本作は日中戦争突入間近というきな臭い雰囲気の中、近衛首相の暗殺計画が描かれる。暗殺計画の舞台が超特急「つばめ」の車内というのが作者らしい。
④「新婚旅行殺人事件」=同じく1981年発表の中編。本作中唯一、十津川警部と亀井刑事の超名コンビが登場するトラベルミステリー。新婚旅行中の花嫁が列車の中で爆死するという壮絶な事件が発生するが、犯人と目星をつけた人物には鉄壁のアリバイがあった・・・という定番のやつ。でもまあ、この頃は各列車の特徴に目をつけたトリックが用意されていて、トラベルミステリーもたまにはいいものだという気にさせられる。何しろ、まだ東北新幹線も走ってない頃の東北本線が舞台なのだから・・・(「やまびこ」「はつかり」「ひばり」・・・ってよかったなぁ)

以上4編。
さすがに400編超の短編というのは伊達ではない。
特に70~80年代の作品なら、作者のアイデアが十分に込められていて、ミステリー作家としての力量を感じることができる。

本作では特別トリッキーな趣向は出てこないが、ミステリー好きの要求に応えるだけの水準作品が並んでいる。
そんな読後感。
(②が印象に残った。①③もなかなか)

No.31 6点 名探偵に乾杯- 西村京太郎 2013/08/31 22:43
「名探偵なんか怖くない」「名探偵が多すぎる」「名探偵も楽じゃない」に続く、名探偵パロディシリーズ第四弾にして、シリーズ最終作。
1983年発表ということで、かなり昔に一度読んでいたのだが、今回再読。
まさか本作が「新装版」として甦ろうとは思わなかったなぁ・・・

~ポワロが死に、その追悼会が明智小五郎の所有する伊豆沖の孤島の別荘で開かれた。招かれたのはエラリー・クイーン、メグレ警部ら世界的名探偵たち。そこへポワロ二世と自ら名乗る若者が現れる。彼は本物の息子であることを証明すべく、孤島で発生した殺人事件の謎に挑むのだが・・・。「名探偵シリーズ」の掉尾を飾る傑作~

何とも不思議な雰囲気を持つ作品。
久々に読んで、そんな感想になった。
本筋は紹介文のとおり、ポワロの追悼会に参加した13名の男女が次々と殺されていくという、まさに「そして誰もいなくなった」をパロったようなプロット。
それどころか、三つの「密室殺人」や不明な動機まで絡み合い、本格ミステリー好きには応えられない展開になる筈なのだが・・・
残念ながら、そうはなっていない。

まず密室は・・・これは「推理クイズ」レベルだな。
(まぁこれは作者も本気で考えてないんだろうけど・・・まさか綾○を意識したわけではないよね?)
「動機」については・・・こじつけかな。
そもそも、本シリーズに対してはこういうまともなプロットやトリックを期待してはだめなんだろう。

そんなことより、本作を読んでると、作者がいかにポワロ(クリスティ)を敬愛しているのかがよく分かる。
本筋の事件が解決をみたあと、何とポワロ最後の作品となった「カーテン」の結末に異説を唱えていて、そこが一番のサプライズかもしれない。
まっ、広い心で読むことをお勧めします。

No.30 4点 狙われた男―秋葉京介探偵事務所 - 西村京太郎 2013/01/23 22:31
私立探偵・秋葉京介を主人公とした作品集。
西村流ハードボイルドを追求(?)したのであろう作品が並んでいるのだが・・・

①「狙われた男」=汚い商売でのし上がった風俗店経営者が今回の依頼主。脅迫を受け、命を狙われているというのだが・・・事件のからくり自体は非常に単純。
②「危険な男」=街中で知り合い、恋仲になった美女。そして美女が自室で殺害される事件が起こり、秋葉へ救いを求めたのが事件の発端。美女の正体がなかなかつかめないというのがプロットの肝なのだが・・・
③「危険なヌード」=当初は単純な美人局的事件かと思わせたのだが・・・事件は二重構造になっていた、というのが今回の事件。秋葉も危機に陥るのだが、危険が迫れば迫るほど喜びを感じるのが、この男(であるらしい)。
④「危険なダイヤル」=ある女性を殺してくれとの依頼を受ける秋葉。この女性を調べるうちに、ある石油会社を舞台にした利権を巡る陰謀に巻き込まれていく・・・。真の仕掛け人の正体には若干のサプライズあり。
⑤「危険なスポットライト」=二人の女性アイドルとそのバックに控える芸能プロダクション同士の争いが絡む事件。背景自体は実に単純で紋切り型。

以上5編。
作者の作品に登場する私立探偵といえば、左門字進(「消えた巨人軍」などに登場)が有名だが、本作に登場するのは秋葉京介。
恐らく他の作品には出てこないし、そういう意味ではなかなかレアな作品ではある。
ただなぁ・・・、作品の質は相当低いよ。
命の危険をも顧みず、事件の渦中に飛び込む、冷静かつ勇敢な私立探偵・・・なんてオリジナリティがないんだ!

やっぱりシリーズ化されなかったのも頷ける、そんな作品。
(特にこれがよいというのはないなぁ・・・。正直、時間つぶしにしかならない)

No.29 4点 焦げた密室- 西村京太郎 2012/08/19 13:18
西村京太郎「幻の処女長編」と銘打たれた本作。
昭和35年、江戸川乱歩賞応募のために作者が書き上げたのが本作だが、それに手を入れてメデタク幻冬舎より出版となった。

~48歳の男3人が相次いで姿を消す事件が発生。失踪か誘拐か判然としないまま騒然とする田舎町で、密室殺人事件は起きた。容疑者を特定できない警察の捜査は混迷を極め、自称作家の江戸半太郎が事件解明に乗り出す。が、新たな殺人が起き、同時に「3人の失踪者を誘拐した」との脅迫状が届く・・・。複数の事件が絡み合う会心の本格ミステリー~

やっぱり、これは「習作」レベルだろう。
紹介文を見ると、さも魅力的な本格ミステリーに思えるし、事実最近のトラベルミステリーなどと比べると、随分作風が違うなあという印象ではある。
でもなぁ・・・タイトルに「密室」と謳ってて、このトリックはないよなぁ。
作中では格好よく「心理的密室」などと書いてるけど、こりゃ超初歩的な欺瞞だろう。
アリバイトリックに利用されるある小道具についても、これだけでは警察の怠慢を期待しないと成立しないトリックではないか?

真犯人も分かりやすいよなぁ・・・
他に犯人らしき人物が見当たらないので、「動機」にも察しが付いてしまう。
ということで、本格ミステリーとしてはちょっと評価できない。

まぁでも作者の心意気はよい。
この頃の作者は、何とか作家になってやろうと、当時の唯一の登竜門である乱歩賞に毎年複数作品を応募していたとのこと。
作中にもミステリーへの愛情が溢れていて、やっぱりこういう人こそ売れっ子作家になっていくんだなぁという感慨に耽ってしまう。
まっ、心を広くして読んでいただきたい一冊。

No.28 7点 消えた乗組員(クルー)- 西村京太郎 2012/05/02 23:34
「赤い帆船」から始まるいわゆる“海の十津川”シリーズの第3作目。
まだ30代半ばという働き盛りの十津川警部がアグレッシブに捜査を進めるのが新鮮。

~「魔の海」と恐れられる小笠原諸島沖合の海域で、行方を絶っていた大型クルーザーが発見された。船内には人数分の朝食が用意されたままで9人の乗組員は残らず消えていた。幽霊船の真相究明が始まると、発見者のヨットマンたちがつぎつぎと怪死をとげ、傍には血染めの召喚状が・・・。十津川が海の謎に挑む長編推理~

やっぱり初期の西村作品は面白い、というのを実感した作品。
本作は紹介文のとおり、「マリーセレスト号事件」を模した大海原からの人間消失を巡る事件と、それを発見したヨットマンたちが被害者となる連続殺人事件の2つが、一見並行しながら徐々に絡み合っていくところにプロットの妙がある。
前者は「海の法廷」というべき「海難審判」を舞台に、仮説を1つ1つ壊していき真相に到達していくというスタイルが斬新だし、後者はなぜヨットマンたちがつぎつぎ殺されるのかという「動機」の隠し方が読み所。
終盤、ある1つの物証を手掛かりに、十津川が事件のカラクリに気付き、一気に謎が解明されるところは、いつもの西村作品の味わい(?)とも言えるが、とにかく「魅力的な謎の提示」というミステリーの重要な要素は十分に満たしていると思う。

で、ここからが不満点なのだが・・・
やっぱり「動機」のムリヤリ感はどうしようもなく感じる。
「消失」の方は、わざわざ消す人間を多くした理由がよく分からない。消したかった人間は○人だったはずだが、いくらなんでもそれが○人まで増えるというのは人間心理的に無理があるのではないか。
「連続殺人」の方も、まだ殺人はいいのだが、そのカモフラージュ(※ネタバレ?)としてあそこまでやっちゃうというのは正直言って理解不能。
この辺りは、まぁ魅力的なプロットの代償とも言えるが、もう少し練りあげる術はあったのではという気がしないでもない。

でも、最近の量産型ミステリーを勘案すれば、十分に面白く楽しめる作品なのは確か。
(亀井刑事もまだまだ若い印象。本多課長はこの頃からシブイ役どころ。何せパイプを吸ってるんだから・・・)

No.27 6点 寝台特急(ブルートレイン)八分停車- 西村京太郎 2012/03/02 22:26
1986年発表のトラベルミステリー。最近、徳間文庫で再販されましたが、角川文庫の旧版で読了。
お馴染みの十津川警部・亀井刑事コンビが謎に迫る。

~ブルートレインの八分停車を利用して人が殺される! 亀井刑事は腎臓結石で病院にいるとき、レントゲン室で男が人を殺してやると言っているのを聞いた。該当するブルートレインは6本。十津川警部と亀井刑事は推理に推理を重ね、問題のブルートレインは「出雲3号」と推測したが・・・殺人、そして殺人。スピーディな展開と意外な結末。十津川と亀井の名コンビで贈る長編トラベルミステリー~

作者のトラベルミステリーとしてはまず上出来なレベルでしょう。
謎の中心は、京都駅での「出雲3号」八分間の停車と東京・四谷での殺人事件の関係。
これは中盤以降まで読者の興味を引っ張れるだけの魅力はあり。
京都駅で右往左往する亀井刑事もなかなか味わい深い。
ただ、真犯人も事件全体のプロットも終盤早々には判明してしまい、それ以降はかなりトーンダウン。
「動機」的には連続殺人を引き起こすほどのものだと納得できるが、そこまで差し迫っていたのかという疑念はかなり残った。

いわゆるトラベルミステリーに否定的な方は多いでしょうが、やっぱり「謎解き」をメインとした本格ミステリーには本来不向きなんだと思いますねぇ。
タイムリミットもののサスペンスというのが、一番向いてるジャンルなんだろうな。(氏の作品でいえば「札幌着23時25分」が代表例)
ということで、いつものとおり「旅のお供」というレベルでの評価。
(腎臓結石の亀井刑事をまるで恋人のように愛おしげに心配する十津川警部・・・気持ち悪い!!)

No.26 4点 名探偵も楽じゃない- 西村京太郎 2011/11/03 10:44
名探偵パロディシリーズの第3弾。
今回は、高層ホテルの最上階フロアというクローズド・サークルで起こる連続殺人事件が舞台。

~ミステリーマニアの組織の例会が、会長の経営するホテルで開かれた。特別ゲストはクイーン、メグレ、ポワロ、明智小五郎の4大探偵。その席に自ら現代の名探偵を名乗る青年が闖入、殺人の匂いがあると予言。果たして奇怪な殺人劇が連続して起こってしまう! 世界的名探偵たちはどうする?~

さすがに3作目ともなると、設定自体に無理があるような気がする。
大した分量でもないのに、次々と惜しげもなく起こる殺人事件。
クローズド・サークルでもあるし、本格ファンなら望むべきプロットのはずですが、いかんせん内容が軽すぎる!
今回、自称「名探偵」として登場するのが、その名も「左門字京太郎」。
長身でハンサムなハーフってことは、これって後にシリーズ化される「私立探偵・左門字進」の原型?っぽいです。
で、殺人事件の方は、左門字の推理によって、一旦収束することに・・・
しかし、今回は4大名探偵の影薄すぎ! と思ってると、最後の最後になって、やっと二重構造の事件の背景が4人によって明かされるという趣向。
(これもかなりご都合主義ですが)

決してお勧めできるようなレベルの作品ではありません。
何でシリーズ化しちゃったんですかね。1作だけでやめとけばよかったのに・・・
(因みに、「Yの悲劇」は思いっきりネタばらししてるので、未読の方がいらしたらご注意を!)

No.25 6点 名探偵が多すぎる- 西村京太郎 2011/06/26 16:08
「名探偵なんか怖くない」に続く、名探偵パロディシリーズの第2作目。
今回は、ポワロ・メグレ・クイーン・明智の他に、ルパンそして怪人二十面相までもが登場!の豪華版。
~別府航路の船上で一堂に会した世界の名探偵、メグレ・クイーン・ポワロ・明智の4人に対し、かのルパンから届いた挑戦状。ルパン対4人の名探偵の虚虚実実の対決はかくして幕を上げるが、ルパンに狙われた宝石商は鍵の掛かった船室で殺害され、宝石も奪われる。ルパンは密室殺人で挑戦してきたのか?~

よくできてると思います。
もちろん、パロディですし、冗談半分のような「軽い」ノリなのは間違いないですが、プロットの骨格はそれなりにしっかりとはしているでしょう。
「密室殺人」のトリックというか解法は、まぁご愛嬌っていうところでしょうか。
前作では「読者への挑戦」まで挿入するサービスぶりでしたが、さすがに今回はそこまではできなかった様子ですねぇ・・・
本作では、4人の名探偵やルパンというよりも、休暇中なのにやたら張り切る吉牟田刑事やメグレの妻の方が何だか目立っている?
特に、吉牟田刑事の小市民ぶりには「悲哀」すら感じる・・・
まぁ、本作も,作者の懐の深さを示す作品の一例って感じですかねぇー。
(各章の名前もなかなか面白い。「災厄の船」や「Lの悲劇」などなど・・・)

No.24 8点 黙示録殺人事件- 西村京太郎 2011/05/03 18:54
十津川警部&亀井刑事のお馴染みの名コンビシリーズ。
いつものような「列車」や「旅情」は一切なし。社会派的要素も取り込んだ意欲作。
~休日の銀座に突然、蝶の大群が舞った。蝶の舞い上がった後には、聖書の言葉を刻んだブレスレットをはめた青年の死体があった。これが十津川警部をきりきり舞いさせた連続予告自殺事件の始まりだった。次々に信者の青年を自殺させる狂信的集団。指導者は何を企んでいるのか?~

これは「掘り出し物」的面白さ。
都内の繁華街などで起こる連続自殺事件など、冒頭から読者を惹き付ける謎があり、中盤以降も十二分に読ませる展開が続きます。
新興宗教の狂信さを事件のバックボーンに置いているので、てっきり「オウム真理教」の影響下かと思いきや、本作の出版の方がかなり早いんですねぇ・・・
(本作が1980年初版、オウムの地下鉄サリン事件が1995年)
カリスマ性のある指導者の姿や、女性信者を性の奴隷にしたり、信者の生死さえも決めてしまう権力など、まるで後年の事件を予言しているかのような内容には軽い驚きすら感じます。
特筆すべきはラストシーンの美しさ! 事件は十津川たちの尽力で一応の解決をみますが、一人の女性信者の姿を描いた場面はかなり強烈な後味を読者に残します。
個人的に、作者の作品については、いわゆる「トラベル・ミステリー」以外の佳作を本サイトでなるべく紹介してますが、本作もミステリー作家としての作者の非凡さを十二分に示した良作ではないかと思いますね。
(作者としては珍しく2つの「密室トリック」も出てきます。ただし、トリックのレベルそのものは・・・あまり触れないでおこう!)

No.23 5点 四つの終止符- 西村京太郎 2011/02/08 23:13
作者初期のノン・シリーズ。
昭和40年代前半という時代を反映してか、「社会派」という形容詞がピッタリの作品となっています。
下町のおもちゃ工場で働く佐々木晋一は聾者だった。ある日、心臓病で寝たきりの母親が怪死する。栄養剤から砒素が検出されたとき、容疑は晋一に集中した。すべてが不利な状況で彼は獄中で憤死し、無実を信じた一人のホステスも後を追う。彼をハメたのは一体誰か?
いやぁ・・・読んでて何とも「暗~い」気持ちになりました。
まだまだ日本が貧しかった頃、しかも不治の病を抱えた母親をもつ聾者・・いろいろと考えさせられますね。
途中、聾学校の教師の口から語られる「聾者の真実」が特に重い・・・「耳が聞こえない」ということは「目が見えない」ことよりもつらいことなのだという事実は健常者ではなかなか気付けないことでしょう。
作者の社会派ミステリーといえば、乱歩賞を受賞した「天使の傷跡」が有名ですが、本作も隠れた名作としてもう少し評価されてもいいかと思います。
ただ、ミステリーそのものの出来としては評価しにくいんですよねぇ・・・
というわけで、高い評点をつけるのはちょっと難しいなぁというのが正直な感想になっちゃいます。
(意味深な「タイトル」ですが、まさに、このタイトルどおりの内容)

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E-BANKERさん
ひとこと
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