皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
|
---|---|
平均点: 6.00点 | 書評数: 1845件 |
No.145 | 6点 | 蒼茫の大地、滅ぶ- 西村寿行 | 2009/11/28 22:19 |
---|---|---|---|
寿行氏お得意の動物&パニック物の1つ。
名作「滅びの笛」は”鼠”が東京をパニックに陥れますが、本作の主役は”バッタ”。空を覆いつくすほどの大群の”バッタ”・・・ バッタの大群のおかげで、東北地方の穀倉地帯は全滅させられ、東北地方は青森県知事のリーダーシップのもと、独立を決意する・・・という粗筋です。 ストーリー的にはかなりハチャメチャな感じはしますが、全盛期の作者の力というか、読ませるパワーというものを味わえる一作でしょう。 |
No.144 | 8点 | 二の悲劇- 法月綸太郎 | 2009/11/28 21:58 |
---|---|---|---|
「・・・の悲劇」第2弾。
ある意味名作ではないかと思います。 真相が三層構造になっていると言ったらいいのか、ラストで2度ほどひっくり返されます。 何といっても途中の「日記」部分が秀逸です。かなりのページ数を割いているとおり、この「日記」の謎にどれだけ気付けるかという部分で読み手の力量も試されてる気がしました。 ただ、「2人称」に関する仕掛けは反則ギリギリでしょうね。まぁ伏線は確かに張られてますが・・・ ユーミンの「卒業写真」の歌詞もいいスパイスになってます。 |
No.143 | 5点 | Yの構図- 島田荘司 | 2009/11/23 14:47 |
---|---|---|---|
吉敷刑事シリーズ。
出版当時、社会的事件であった「いじめ」問題が取り上げられ、事件の重要なエッセンスになっています。 真犯人はやや意外性を感じますが(まぁ、「Yの…」とくれば、おのずと分かりますけど)、驚くような「仕掛け」もなく、島田氏としてはかなり地味な作品といっていいでしょう。 当時の大人が「いじめ事件」に対して受けた感想というのが、まさに吉敷の台詞や心情に表れていて興味深いです。 余談ですが、本作発表のきっかけとなった「中野○○○中学校」の近くに住んでいた時期があり、校舎を見て「ここがあの中学校かぁ・・・」と感慨に耽ったことがあります。 |
No.142 | 6点 | 模倣の殺意- 中町信 | 2009/11/23 14:24 |
---|---|---|---|
旧作名「新人賞殺人事件」を創元推理文庫にて復刻させた作品。
いわゆる「叙述トリックもの」です。 まずは構成が面白いですね。冒頭1つの事件(殺人または自殺)が起こり、それを被害者の関係者である2人が別々に捜査していき真相に近づいていきますが、導かれる結論はなぜか食い違う・・・という展開。 当然そこに「仕掛け」があります。 ただ、この「仕掛け」はどうですかねぇ・・・一応伏線は張られていて、読み手が気づくことも可能ですし、確かに被害者に対する形容詞が引っ掛かり続けるんですけど・・・ 叙述トリックに慣れた身にとっては、どうしてもサプライズは小さめですね。 |
No.141 | 7点 | フレンチ警部最大の事件- F・W・クロフツ | 2009/11/23 14:01 |
---|---|---|---|
フレンチ警部が初登場する記念すべき作品。
タイトルは「最大の…」となっていますが、作者も当初はフレンチ警部を本作だけの探偵役と考えていたためで、「最大」というほどのインパクトはありません。 ただ、クロフツらしい一作なのは間違いなく、細かな手掛かりや考えをもとに、フレンチ警部が丹念に捜査を進めていきます。 特に、真犯人を指摘するラストの場面がいいですね。フレンチ警部を翻弄した犯人とその理由が気持ちよく頭に入ってきます。 ちょっと途中がモタモタしますが、それはそれでクロフツの特徴ですから・・・ |
No.140 | 8点 | 走らなあかん夜明けまで- 大沢在昌 | 2009/11/22 00:24 |
---|---|---|---|
ちょっとヘタレの普通のサラリーマン坂田を主人公にした、作者としては珍しいシリーズ。
「新宿鮫シリーズ」のような震えるような緊張感こそありません。が、逆に言えば、主人公が単なる一市民になったことで、読者がスムーズに感情移入できるようになっています。 追い詰められて、弱気な自分を奮い立たせて頑張る主人公の姿に、いつの間にか自身を重ね合わせてる自分がいます。 舞台が「大阪」というのも本作に何ともいえない”味わい”をプラスしてますね。憎むべき敵である「や○ざ」もやっぱり大阪だとなんか雰囲気が和らぐというか・・・ やっぱりうまい作家です。 |
No.139 | 6点 | 金融探偵- 池井戸潤 | 2009/11/21 23:50 |
---|---|---|---|
こちらも作者の十八番(おはこ)「連作短編集」。
講談社でのシリーズとは若干趣が変わっていますが、主人公はリストラされた元銀行員という設定や経済・金融関連が背景に潜む事件を解決する・・・という部分は変わりありません。 金融ミステリーというニッチな分野では、他に追随を許さない作者ですが、やっぱり「金」という犯罪や事件に付き物の存在をリアリティー十分に書けている・・・のがいいですね(やっぱり、元銀行員ですから) ただ、他の短編集よりはやや落ちる印象なので、評価はこの程度です。 |
No.138 | 5点 | QED 竹取伝説- 高田崇史 | 2009/11/21 23:36 |
---|---|---|---|
QEDシリーズ。
まぁ、本シリーズの特徴かもしれませんが、ストーリーの半分以上は「竹取物語」に関する歴史的考察と薀蓄で占められています。 本編の殺人事件の方は、作者の得意分野である薬学関係のトリックが使われていますが、ほとんど付録的な印象。 読者の側も、殺人事件の解決云々よりは、「竹取物語」の真相究明の方が面白く感じるんじゃないでしょうか。 作者の狙いとしては、歴史ミステリーと本格ミステリーの融合なのかもしれませんが、結果としてはどちらも中途半端になっている感は拭えません。 |
No.137 | 7点 | マークスの山- 高村薫 | 2009/11/15 17:57 |
---|---|---|---|
直木賞受賞作。
作者の代表作でしょう。 精神疾患を持つ犯人が起こす猟奇的殺人事件と、そもそもの背景である過去の南アルプスでの殺人事件・・・この2つがどのようにつながっているか、というのが本筋です。 ただ、それよりも主人公の合田刑事を含む警視庁の捜査員たちのセリフや動きが実に生き生きして、なるほど警察官というのはこういう人種なのかというのがよく理解できます。(どこまで本当か分かりませんが・・・) トリックや凝ったプロットが出てくるという訳ではないですが、読み応えのある大作という評価で良いでしょう。 ただ、長い・・・ |
No.136 | 7点 | ゼロ計画を阻止せよ- 西村京太郎 | 2009/11/15 17:47 |
---|---|---|---|
左門字探偵シリーズの秀作。
あまり知られていない本シリーズですが、特に「誘拐物」のバリエーションの広さは秀逸モノです。 本作では、最初「ゼロ計画(プラン)=総理大臣の誘拐」をメインに事件は進んでいきますが、時間の経過とともに事件の本当の背景・意図が見えてくる・・・という展開です。 左門字と犯人グループの知恵比べはチェスや将棋にも似て、どちらが相手を読み切り、先手を打てるかという緊張感ある面白さ・・・ ラストは完全解決ではなく、含みを残した終わり方になっているあたりも、野心的だった初期の作者の心意気でしょうか。 |
No.135 | 7点 | ケンネル殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2009/11/15 17:38 |
---|---|---|---|
ファイロ・ヴァンス探偵譚の6作目。
作者のヴァン・ダインが、「一人の推理小説家が生涯で書ける優秀なミステリーは6作が限界」という言葉を残したのは有名ですが、本作がちょうどその6作目で、確かに本作以降は明らかに作品の質が落ちていきます。 ただ、本作はなかなかの出来。他の方の書評どおり、「グリーン家」や「僧正」に比肩すると言ってもいいでしょう。 第一の殺人は密室がメインになりますが、本筋の機械仕掛けのトリックよりも、「被害者が、自身の傷がたいしたことはない、と思い込んで自分で部屋に入って鍵を閉めた後に死んだ・・・」という捨て筋の方がなんか印象に残ってます。 |
No.134 | 7点 | 消えたタンカー- 西村京太郎 | 2009/11/11 22:37 |
---|---|---|---|
氏、初期の海洋ミステリー。
トラベルミステリーでブレイクする前の十津川警部が主人公です。 本作、結構面白いです。特に謎の呈示と、それを追跡する十津川の推理がうまい具合に絡み合い、意外な真相にたどりつきます。 海洋上でのタンカー事故と事故で生き残った乗組員の殺人事件・・・この2つの事件がまさに意外な方向へ進み、最後は世界的な事件に・・・という具合。 初期の氏の作品はなんとも奥行きのある味わい深い良作も多いんです。 |
No.133 | 5点 | 沈黙者- 折原一 | 2009/11/11 22:29 |
---|---|---|---|
「~者」シリーズ。
しかし、このシリーズもよく続いてますね。 ただ、やはりシリーズも重ねるごとにパワーダウンしている感は否めません。 本作での叙述トリックは、まさにラストに明かされる一点のみです。たしかにうまい具合にミスリードはしていると思いますが、これだけのことに前半の長い「手記(日記?)」部分は果たして必要なのか?と感じざるを得ません。 あとは、何か緊張感が足りないような・・・氏の良作は、やはり独特の緊張感を維持して「驚きのラスト」という展開でないとダメでしょう。 |
No.132 | 6点 | 君たちに明日はない- 垣根涼介 | 2009/11/11 22:21 |
---|---|---|---|
山本周五郎賞受賞作。
シリアスな作品の多い作者ですが、本作はまったく違う雰囲気の作品。 突然、会社からリストラ宣告される社員と商売として「リストラ業」を行う主人公。まさに悲喜こもごもの心情が読み手にも伝わります。 でもなぜか、読後はさわやかな後味が残るんですが・・・ まぁ、ほとんどミステリー色はないといっていい作品ですが、さすがに権威ある賞の受賞作だけはあるという内容でしょう。 |
No.131 | 6点 | 霧越邸殺人事件- 綾辻行人 | 2009/11/07 22:53 |
---|---|---|---|
「館」シリーズの番外編というべきでしょうか。
何か評価の難しい作品です。 トリックやロジックというものは横に置いといて、作品世界の雰囲気を味わうべきなのでしょう。 ただ、複雑な「館(邸)」の内部や一癖ありそうな住人など、思わせぶりな舞台装置はたっぷりあるのに、それが単なる”飾り”でしかないような印象。 その辺は、「暗黒館の殺人」にも通じる部分です。 「見立て」殺人も今一つ煮え切らない感じなので、この程度の評価ですね。 あと、とにかく長い。 |
No.130 | 9点 | 奇想、天を動かす- 島田荘司 | 2009/11/07 22:43 |
---|---|---|---|
吉敷シリーズの到達点的作品。
解説とかで書かれているとおり、本格ミステリーと社会派ミステリーが見事に融合した作品でしょう。 何より、吉敷が熱いです!(松岡修造ばりに) 今回、久しぶりに再読しましたが、トリック部分については偶然に偶然が重なって・・・というところが初読時以上に目に付いたり、豪雪の中アレとアレを持って犯人が簡単に移動できる? という部分が気になったりはしました。 そんなことより、島田氏は本作で「日本人の罪深さ」というものを吉敷の名を借りて主張したかったのでしょう。 それにしても、吉敷の台詞は泣かせます。「俺は・・・白は白、黒は黒と言い続けて死んでいきたいんだ!」 かっこいい! |
No.129 | 7点 | 銀行総務特命- 池井戸潤 | 2009/11/07 22:12 |
---|---|---|---|
都市銀行総務部、指宿課長を主人公とする連作短編集。
作者お得意のスタイルです。 指宿が上司の特命を受け、銀行内部の不正や犯罪の調査を秘密裏に行っていく・・・というのが基本展開ですが、企業というか銀行のドロドロした内部や、サラリーマンというか銀行員の悲しき習性といったものが身につまされます。 短編のため、どの一作も無駄のない筆致と余韻を残したラストが印象に残る良作でしょう。 |
No.128 | 7点 | 黄金の島- 真保裕一 | 2009/11/03 20:58 |
---|---|---|---|
ベトナムに逃げ込んだ主人公が、現地で出会ったベトナム人とともに「黄金の島」=日本を目指して、大海原の真っ只中航海に出て・・・という粗筋。
相変わらず、何というか舞台設定がうまいですね、真保氏は。 これだけのストーリーを創るためには、毎回毎回相当な取材量じゃないかなと感じます。 本作はミステリー色の薄い、「冒険小説」とでもいうべき展開ですが、夢を賭け主人公とともに無茶な航海に出るベトナム人の少年たちには胸を打たれるものがあります。 結構な分量ですが、気にせず読める一作。 |
No.127 | 7点 | 峠に棲む鬼- 西村寿行 | 2009/11/03 18:06 |
---|---|---|---|
寿行氏といえば、大藪春彦氏と並んで70~80年代のハードボイルド小説を牽引してきた人物でしょう。
本作はそんな寿行氏の魅力を感じることのできる作品。 主人公は一族に伝わる棒術を操る美女、それだけでも氏のファンならニヤリですが、まさに期待以上の”大活躍”・・・ 日本→ドイツ→孤島→日本と世界を跨いで寿行ワールド全開です。 続編もあるようなので、是非読みたいと思ってます。 |
No.126 | 8点 | グレイヴディッガー- 高野和明 | 2009/11/03 17:47 |
---|---|---|---|
デビュー作「13階段」を上回る面白さ。
まさに帯のコメントどおり、「ノンストップ・サスペンス大作」です。 主人公の犯罪者とそれを追う謎の集団、その謎の集団を追う謎の人物(それがグレイヴディッガー=墓堀人です)が、夜の東京を舞台に三すくみの追走劇を行いますが、警察側(読み手の視点)からは、なぜそのような状況になっているのか謎のまま話がどんどん展開していきます。 必死で逃げる犯罪者と徐々に明らかになっていく事件の背景・・・まさに一気読みでラストシーンを迎えます。 ちょっと描きこみが甘い部分も目立ちますが、欠点を補って余りある面白い作品でしょう。 |