皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
|
---|---|
平均点: 6.01点 | 書評数: 1812件 |
No.772 | 5点 | セリヌンティウスの舟- 石持浅海 | 2012/10/27 21:01 |
---|---|---|---|
2005年発表。作者の第6長編作品。
人間の「内面」にスポットライトを当てたある意味「実験的作品」ではないか。 ~大時化の海の遭難事故によって、信頼の強い絆で結ばれた6人の仲間。そのなかの一人、米村美月が青酸カリを呷って自殺した。遺された5人は、彼女の自殺に不自然な点を見つけ、美月の死に隠された謎について推理を始める。お互いを信じること、信じ抜くことをたったひとつのルールとして・・・。メロスの友の懊悩を描く、美しき本格の論理~ 趣向としては面白いかもしれないが、個人的にはストライクとは言い難い。 そんな作品。 紹介文のとおり、本作は死亡した女性が本当に自殺したのかという謎を、仲間の5人がディスカッションし追及していくというプロット。 謎の鍵となるのは、青酸カリの入っていた「瓶のフタ」と、同じ遭難事件に巻き込まれ生死を共にしたという「過去の絆」・・・ やはり「自殺」したのだという結論に落ち着こうとするたび、それを否定するかのような事実が明らかになってしまう。 まぁ、動機を含めてちょっと「狙いすぎ」かなという感想は持った。 作品の背景に、太宰の「走れメロス」をちらつかせ(因みにセリヌンティウスとはメロスが自身の代わりとして捕虜に差し出した友人のこと)、リアリティと高貴さを演出しようとしているのは分かるのだが、読後に改めて考えてみると、何だか突拍子もないストーリーのようにも思えてきた。 一筋縄ではいかない作者の作品らしいとは言えるのかもしれないが、あまり高い評価はできないかな。 (どうでもいいけど、「ジャイアントコーン」って酒の肴になるようなものだっけ? アイスクリームでは?) |
No.771 | 4点 | 望湖荘の殺人- 折原一 | 2012/10/21 21:27 |
---|---|---|---|
1994年発表。ノンシリーズ長編(黒星警部シリーズと勘違いしてた・・・)。
作者得意の叙述トリック系作品とは一味違う味わいなのだが・・・。 ~大型家電量販店の経営者・二宮大蔵に毒の塗られた剃刀と殺人予告の脅迫状が届いた。いったい誰が? 大蔵はある人物の協力を得て容疑者を5人に絞り、信州の山荘パーティーに招待した。目的は殺人者の抹殺! 大型台風が山荘を襲った夜、招待客が次々に死んでいく。生き残るのは誰だ。結末が最終ページまで分からない本格推理~ プロットが煮詰まらないまま出版しました、っていう感じ。 作者の初期作品なら、叙述トリック全開の作品か黒星警部を主人公とするお笑い系パロディミステリーのどちらかという気がしてたのだが、本作はそのどちらにも属さないのが珍しい。 でも、最後まで読んでると、「どっかで読んだことあるような・・・?」という感覚だったのだが・・・ CC(クローズド・サークル)で動機の分からないまま登場人物が次々殺されていくという展開は、西村京太郎「殺しの双曲線」を思わせる。 ただなぁ、終盤~ラストがショボイ。 予期せぬ登場人物の闖入というのはある程度予測されていたし、死者が生き返るというようなプロットにも緊張感がないので成功しているとは言い難い。 如何せん、要は「やっつけ仕事」というような読後感が拭えないのだ。 最終章に全てをひっくり返すかのような記述があるが、これは蛇足だろう。 まぁ作者のコアなファンでなければスルーしてもOKという評価。 |
No.770 | 7点 | プレーグ・コートの殺人- カーター・ディクスン | 2012/10/21 21:25 |
---|---|---|---|
H.M卿を探偵役として初めて登場させた記念すべき作品。
早川版の「プレーグ・コートの殺人」というタイトルの方が著名だろうが、最近出た創元版(「黒死荘の殺人」)にて読了。 ~私ことケン・ブレークは、友人ディーンに幽霊屋敷で一夜明かしてくれと頼まれ、マスターズ警部を伴って黒死荘へ出かけた。かつて猛威を振るっていた黒死病に因む名を持つ屋敷では降霊会が開かれようとしていたが、あろうことか術者ダーワースは血の海と化した石室で無残に事切れていた。庭に建つ石室は厳重に戸締りされており、周囲に足跡はない。そして、死者の傍らにはロンドン博物館から盗まれた曰くつきの短剣が・・・。関係者の証言を集めるが埒もあかず、陸軍省の偉物に出馬を乞う!~ 全体的には「さすが名作といわれるだけある」という作品。 前半はいかにもカーという感じで、怪奇趣味に彩られたオドロオドロしさ全開の雰囲気。 そして、降霊会というオカルト趣味全開の舞台で発生した殺人事件がかなり強烈。 今まで様々な密室に出会ってきたが、ここまで堅牢な「密室」はなかなかお目にかかれない。 その解法もかなり独創的トリック! 凶器の特殊性については、ストーリー中ではそれほど触れられてなかったため、H.Mの推理を読んだときは唖然とさせられた。 ただ、これはそういう知識がないと読者には解明不可能だろう。そこがやや気になる。 (鑑識では全く分からなかったのだろうか・・・?) そしてもう一つの「ヤマ」がフーダニットに関するミス・ディレクション。 これは読者によっては、かなり「無理筋」という印象を持つ方もありそうだ。 古いタイプのミステリーにはこういう「錯誤」を使ったトリックがよく出てくるが、人間の「勘」とか「感覚」ってそこまでヒドくないだろう(騙されないだろう)という気にはさせられる。 まぁ、それをカバーするための真犯人の造形なり設定が効果的に成されているし、まずは作者のアイデアそのものが十分に面白いとは思えた。 前評判+期待どおりかという言われると、若干落ちるかなという評価にはなるが、全体的なバランスや出来は作者の作品中でも上位なのは間違いない。 (初登場のため、H.M卿の人となりがいろいろ説明されてるのが新鮮) |
No.769 | 7点 | 鍵のかかった部屋- 貴志祐介 | 2012/10/21 21:22 |
---|---|---|---|
「硝子のハンマー」「狐火の家」に続く防犯探偵シリーズの第三弾作品集。
嵐・大野君主演の月9ドラマは結局一度も見なかったが、原作の方はどうなのか? ①「佇む男」=二次元~三次元、そして「時間軸」を密室トリックを構成する要素に取り込む発想が見事。少年の証言等重要な鍵が後から出てくるのが若干引っ掛かるが、まずは水準以上の作品だろう。 ②「鍵のかかった部屋」=これが本作の白眉か。今まで触れてきた「密室」の中でも五指に入りそうなほどの「堅牢さ」。真犯人は最初から一人に絞られていて、コイツ対榎本の知恵比べ的要素が楽しめる。細かな伏線(物証)が丁寧に撒かれていてはいるが、「仕掛け」に徹底的に拘ったトリックは普通の読者にはちょっと解明は難しいレベル。 ③「歪んだ箱」=欠陥住宅が今回の「密室」の舞台。つまり、普通に施錠された密室ではなく、建付けの悪さのため「鍵」なしで開けられない部屋で殺人事件が起こるのだ。しかも、今回のトリックは超絶的! よくこんな発想できるなぁ・・・。探偵役としての榎本の冷静沈着さと青砥弁護士の大ボケ振りが際立つ。 ④「密室劇場」=前作「狐火の家」に収録された「犬のみぞ知る」の続編だが・・・作者の「おフザケ」としか思えない。 以上4編。 今さら言うまでもないが、徹底的に「密室」に拘りぬいた本シリーズ。 特に今回は肩透かしのような「密室」ではない正統派のやつが目立つ。 密室を構成する(しようと考えた)真犯人の「心理」を推理の過程にする榎本の捜査方法がロジカルで、他の密室作品と一線を画しているように思える。 話題先行の作品ではあるが、中身も十分評価に値するレベルだろう。 (やはり表題作の②がベスト。③もその発想に拍手) |
No.768 | 7点 | 私という名の変奏曲- 連城三紀彦 | 2012/10/14 21:16 |
---|---|---|---|
1984年発表。
何とも言えない粘着質な語り口とトリッキーなプロット・・・そして後を引く読後感。これぞ「連城の長編ミステリー」でしょう。 ~その冷ややかな微笑としなやかな身のこなしで世界的ファッションモデルとして活躍中の美織レイ子が自宅のマンションで死体となって発見された。彼女を殺す動機を持つ七人の男女・・・そしてそれぞれが「美織レイ子を殺したのは自分だ」と信じていたのだ。果たして真犯人は誰なのか? 華やかな外見の裏にさまざまな欲望が渦巻くファッション界を舞台に展開される殺意の万華鏡~ 実に、これぞ、まったく、正統派の「連城」作品。 別作品「どこまでも殺されて」では、一人の男が七回も殺されるという不可思議な「謎」に挑戦しているのだが、本作はいわばその裏側(発表順は本作が先)。 七人の男女がそれぞれ一人の女性を殺したという不可思議な「謎・状況」に挑戦しているのだ。 この魅力的な謎を単なるファンタジーに留めず、本格ミステリーとして一定のロジックでもって成立させてしまうのが作者の力量。 そして叙述トリックの極致ともいえる作品全体に仕掛けられたプロットの「妙」。 もう「職人芸」と言うしかない。 今回、中途で何となくトリックの仕掛けには気付いたように、メイントリック自体の難易度はそれほど高いわけではないと思う。 それよりも、例えば「浜野」の人物設定や割振りに感心。こういう細かい点にまで拘ってるのがスゴさなんだろう。 ただ、個人的には「暗色コメディ」や「どこまでも殺されて」よりはやや落ちるかなという評価。 (スゴさに慣れたせいかな。本作が「初連城」ならもっと衝撃を受けていたかも・・・) |
No.767 | 5点 | ヒルダよ眠れ- アンドリュウ・ガーヴ | 2012/10/14 21:12 |
---|---|---|---|
1950年発表。ガーヴ名義での処女長編作品。
早川文庫で比較的最近出た新訳版にて読了。 ~仕事を終えて帰宅したジョージを迎えたのは、ガスの充満した台所とそこで息絶えた妻・ヒルダの姿だった。自殺と思えたが、死体に外傷があり警察の追及はジョージへと向かう。逮捕、そして裁判へ。そこへ帰国したジョージの戦友・マックスは、友の無実を信じ独自の調査を始める。だが、ヒルダの周囲の人々に聞き込みを行ううちに、そこに意外な事実が・・・強烈なサスペンスで一世を風靡したガーヴの代表作!~ 「知名度ほどの面白さは感じなかった。」 というのが正直な感想だろうか。 アイリッシュの「幻の女」を想起させるプロットと丁寧な筆致で、発表年を勘案すれば一定の評価はすべきかと思うのだが、いかんせんミステリーとしての面白さには欠けるとしか思えない。 「探偵役」を務めるマックスが、主人公「ヒルダ」の正体を過去に遡って調査を行う。調査が深まるほどに明らかになるヒルダの異常な人格・・・この辺りのくだりは緊張感やフーダニットへの期待感も相俟ってドンドン読者を惹きこんでいく。 ところが、いよいよ終盤に差し掛かった「第12章」で、突然に真犯人が判明してしまい、その後はさしたる山場も盛り上がりもなくラストを迎えてしまう・・・ これはやはりミステリーとしては致命傷ではないか? 極端に言うと、12章以降は字を目で追ってくだけで十分という程度なのだ。 これでは「お勧め!」とは言い難い。 ということで高い評価はできないのだが、ヒルダについて、『(ヒルダは)その後内外のミステリーに登場するいわゆる境界性人格障害やサイコ系のヒロインの先駆けである』という文庫版解説には何となく納得させられた。 (でもまぁ、こんなヒドイ女と離婚もできない男なんて・・・何か身に染みる・・・) |
No.766 | 7点 | 掌の中の小鳥- 加納朋子 | 2012/10/14 21:10 |
---|---|---|---|
1995年発表。「ななつのこ」「魔法飛行」に続く連作短編集。
「加納朋子らしさ」を堪能できる作品。 ①「掌の中の小鳥」=本作品集の主人公の男性(冬城圭介)と女性(穂村紗英)が視点人物となり、2つのシーンが順に語られる。特に紗英視点でのお婆ちゃんの行動&トリックが心に残る。碁石の件は誰でも知ってるような気はするが・・・ ②「桜月夜」=紗英の幼馴染みとの過去の事件に纏わる謎が主題。紗英が語る話の齟齬に瞬く間に反応する圭介だが、それを上回る「老紳士」の存在は・・・。ついでにバーテンダーまでねぇ。 ③「自転車泥棒」=これは好編。ちょっとした伏線から事件(?)のからくりが明らかになる爽快感。これこそ短編の良さだろう。 ④「できない相談」=またもや登場する紗英の幼馴染みと彼の仕掛けたトリック。トリック自体はよくある手だと思うのだが、使い方がうまい。 ⑤「エッグ・スタンド」=本作の舞台となるバー「エッグ・スタンド」。今回は圭介がバーテンダーの泉さんへ悩み事を相談するという形式で進行。圭介の小学校の同級生が関係する事件を通じて、圭介と紗英を巡るラブストーリーもいい感じで・・・FIN。 以上5編。 いいね。これぞ作者にしか書けない作品世界だろう。 何より、人物の描き込み&造形が実に秀逸。読んでいるうちに自分が作品世界に迷い込んでしまってるような感覚。 ミステリー的に見ればどうかと思うのだが、日常の謎系の作品集の良さを詰め込んだ作品。 こういう作風が「嫌い」でなければ、一度手に取ってみては如何でしょうか。 (③④が実によい。他もまずまず。まっでも30歳超えたおっさんの読むものではないかも・・・) |
No.765 | 6点 | 喜劇悲奇劇- 泡坂妻夫 | 2012/10/10 22:14 |
---|---|---|---|
1982年発表。作者の第6長編に当たる作品。
処女長編「十一枚のトランプ」、2作目「乱れからくり」に連なる作風を久々に復活させたのが本作。 ~アルコール浸りの落ちぶれ奇術師・七郎は、動く一大娯楽場「ウコン号」の処女航海で冴えない腕前を披露することになった。紹介された助手を伴い埠頭に着いたところが、出航前から船内は何やら不穏なムードに満ちている。案の定というべきか初日直前の船内で連続殺人の騒動が持ち上がり、犠牲者には奇妙な共通項が見いだされ・・・。章題はすべて回文、奇妙な謎とぺてんの楽しさてんこ盛りの本格長編ミステリー~ 作者得意の手練手管にすっかり騙された。 とにかく「回文、回文、また回文」に彩られたのが本作。 冒頭の一文に始まり、章題も回文、そして被害者たちもすべて回文の名前を持つ人々。 他の作品でも作者の「遊び心」に満ちた企みに触れてきたが、本作はその極みとも言えるのではないか。 一見、軽い調子の文章も相俟って、何だかいつの間にか作者のペースに乗せられてしまっていた。 でも、本作は「正統派本格ミステリー」そのもの。 フーダニットについては、確かに分かりやすいのかもしれないが、伏線がそこかしこに効果的に撒かれているのは「さすが」だろう。 分かりやすいとはいえ、「真犯人」の隠し方は個人的にも好きなトリック。 世間的な評価は高くないようだが、十分に見どころありだと思う。 奇術シーンが少なかったり、妙に虎に拘ったり、好感度大のヒロイン・真(まこと)の扱いが中途半端だったり、ミステリー要素以外は首を傾げるところがあるのと、「回文」が結局プロット&トリックとの直接のリンクが薄いなど、もう少し煮詰めた方がよかったかなぁというところがやや残念。 |
No.764 | 7点 | 15のわけあり小説- ジェフリー・アーチャー | 2012/10/10 22:12 |
---|---|---|---|
ストーリーテラー、J・アーチャーが贈る珠玉の短編集。
どの作品もラストの捻り、いわゆる「ツイストの効いた」小気味いい読後感を味わえる。 ①「きみに首ったけ」=要は詐欺師の美女にいいようにあしらわれる男の話。軽いテイストでまずは読者を惹きこむ。 ②「女王陛下からの祝電」=これはラスト1行のための作品。 ③「ハイ・ヒール」=これはミステリー風味の作品。事故による火事とみせかけた放火なのだが、主人公がそれを見破るきっかけとなったある「小物」が効いている。 ④「ブラインド・デート」=これも実に良いツイスト感。こんなセンスのいい短編って他にない。 ⑤「遺書と意志があるところに」=英語では「遺書」も「意志」も“will”。一人の女性の奸計が見事。 ⑥「裏切り」=これもラストの捻りが見事、としか言いようがない。 ⑦「私は生き延びる」=これも①や⑥と同ベクトルのストーリーだが・・・ ⑧「並外れた鑑識眼」=一人のダメ人間が一級の鑑識眼を持つパトロンの支援により一流の画家になる。時代は下って・・・ていう展開。 ⑨「メンバーズ・オンリー」=本編のみ結構な分量のある作品。それだけ読み応えのある好編。一人の男の数奇な(?)人生って感じ。 ⑩「外交手腕のない外交官」=このオチは予想がついた。どっかで聞いたことのある話。 ⑪「アイルランド人ならではの幸運」=アイルランド人に対する他の欧米人の見方が分かる。「小話」。 ⑫「人はみかけによらず」=これもラスト1行のためのストーリーだが、非常に想定内。 ⑬「迂闊な取引」=これはブラック風味のオチが効いている好編。伊坂幸太郎「死神の精度」を思い出した。 ⑭「満室?」=ふーん。 ⑮「カーストを捨てて」=タイトルどおり舞台はインド。感想は「へーえ」。 以上15編。 さすがです。うまいです。 まぁ、作品ごとのレベル差はありますが、トータルで評価すれば十分に評価できる作品集だと思います。 ミステリーの範疇に入らないものが多いので、評点はこの程度で。 (①~⑩プラス⑬は水準以上だろう。とにかく作者のテクニックを堪能しよう。) |
No.763 | 4点 | ヴェサリウスの柩- 麻見和史 | 2012/10/10 22:09 |
---|---|---|---|
第16回の鮎川哲也賞受賞の作者処女長編。
大学医学部を舞台にした医療ミステリー。因みに「ヴェサリウス」とは16世紀に活躍したベルギーの解剖学者の名前。 ~医学部での解剖実習中、遺体の腹から摘出された一本のチューブ。その中には研究室の園部教授を脅迫する不気味な四行詩が封じられていた。動揺を隠せない園部。彼を慕う助手・千紗都は調査を申し出るが許されなかった。しかし、今度は千紗都自身が標本室で第二の脅迫状を発見してしまう。禍々しい“黒い絨毯”とともに・・・事務員の梶井とともに犯人の正体を調査し始めたが、その後思いもよらない事実が判明した!~ 個人的な好みとはやや外れた、という感じ。 鮎川賞というよりは乱歩賞作品を髣髴させるプロットで、ある専門職(本作では解剖医)の主人公が、ある事件や陰謀に巻き込まれていき、ついには殺人事件までもが発生してしまう・・・事件の裏には過去の哀しい事件が・・・というような既視感たっぷりの展開なのだ。 しかも、終盤、事件は大筋解決するのだが、さらに二重構造の真相が発覚してしまう。 この辺りになると、予定調和の一言なのだが、こういったプロットをどれだけ読者に魅力的に見せるかというところが作者の手腕またはセンスなのだろう。 そういう意味では、処女作品とはいえ成功しているとは言い難い。 個人的に「医療ミステリー」は好物なのだが、例えば海堂尊や川田弥一郎などと比べるとかなり落ちる。 このジャンルって、例えば病院だったり医学部の研究室内のドロドロした人間関係や何らかの医療トピックが「ツボ」だったりするのだが、その辺もどうもピンとこなかったなぁ。 今まで鮎川賞作品は他の受賞作よりも面白いという評価だっただけにちょっと残念。 (作者の経歴を見ると文学部卒なんだねぇ・・・。取材力には敬意を表するけど、その辺りが今一歩感の原因かも) |
No.762 | 5点 | 邪悪の家- アガサ・クリスティー | 2012/10/03 23:16 |
---|---|---|---|
エルキュール・ポワロ物の第6長編。
創元版だと「エンドハウスの怪事件」だが、今回は早川のクリスティ文庫で読了。 ~名探偵ポワロは保養地の高級ホテルで、若き美女ニックと出会った。近くに建つエンド・ハウスの所有者である彼女は、最近3回も命の危険にさらされたのだとポワロに語る。まさにその会話の最中、一発の銃弾が・・・ニックを守るべく屋敷に赴いたポワロだが、五里霧中のままついにある夜悲劇は起きてしまった!~ いい意味でも悪い意味でもクリスティらしさの見える作品ではないか? 他の方の書評を見てると、評価が二分しているようだが・・・ 要はラストに明かされる「意外な真犯人」が「意外」に思えるかどうか、という点に評価の良し悪しがかかっているという印象。 こういうプロットはクリスティの作品ではかなり既視感を覚えるのは確かだろう。 メイントリックは平たく言えば「人物誤認」なわけで、これが如何に無理なく読者を騙せるのかがカギになる。 でもって、これはレベル的には分かりやすい・・・かも。 主人公と誤認されて起きた殺人事件という部分が、ミステリー好きにとっては十分結末を予想させるものに留まっている。 まぁでも、うまいといえばうまいよなぁ・・・(どっちだ?) 初心者であれば、十分サプライズ感を味わえる作品だろうと思うし、トータルで評価すれば平均レベルというところに落ち着く。 (不振に悩むポワロの姿が見もの。でも、ラストの小芝居はいるのか?) |
No.761 | 6点 | 見えない女- 島田荘司 | 2012/10/03 23:14 |
---|---|---|---|
作者初期のノンシリーズ短編集。
いずれも外国を舞台に、いつものガチガチの本格ミステリーとは違ってライトなミステリーを味わえる。 ①「インドネシアの恋唄」=これは何だが甘くせつない青春ミステリー的作品。舞台はインドネシアのジョグジャカルタ~バリ島。早見優にそっくりのインドネシア人というところで時代を感じてしまうが、20代前半にこういう体験をしてみたかったなぁとしみじみ思う。ミステリー的には非常に小粒。(インドネシアの女性って上品でキレイだよね) ②「見えない女」=舞台はパリ。誰もが目を見張る美人で、フランス演劇界に顔の広い女性・・・。本人は多くの映画に出演しているというのだが、誰もその姿をスクリーンで見たことがない・・・。こういう職業って、この頃はあまり知られてなかったのか? 途中で十分察しのつく真相。 ③「一人で食事をする女性」=舞台はドイツ。バイエルンの狂王・ルードビッヒ2世と彼の建てた城(ノイシュバンシュタイン城ほか)がストーリーの背景に見え隠れする。そしてまたしても登場する謎の美女。今度の謎の鍵は「ベルリンの壁」。でもまぁ、若い世代にはもう歴史の教科書で知る話なんだろうな。 以上3編。 『作品の舞台は3編とも外国で、それぞれに魅力的なヒロインが登場。ロマンあふれるシャレたミステリーに仕上がっており、改めて島田荘司という稀有な作家の才能の豊かさと、センスの良さに敬服してしまった』(文庫版巻末解説より) まさにこのとおりです。 今回、久々の再読なのだが、①は初読時にも印象に残った作品。本作はミステリー云々ではなく、島田荘司という作家の懐の深さを味わう作品なのだろう。 |
No.760 | 6点 | 不連続殺人事件- 坂口安吾 | 2012/10/03 23:12 |
---|---|---|---|
「堕落論」などで戦後文学界に足跡を残す作家・坂口安吾。ミステリー好きが高じて発表されたのが本作。
昭和24年、高木彬光の傑作「刺青殺人事件」を抑えて探偵作家クラブ賞を受賞した作品。 ~戦後間もないある夏、詩人・歌川一馬の招待で山奥の豪邸に集まったさまざまな男女。作家、詩人、画家、劇作家、女優などいずれ劣らぬ変人・奇人ぞろい。邸内に異常な愛と憎しみが交錯するうちに、世にも恐るべき8つもの殺人が生まれた。不連続殺人の裏に秘められた悪魔の意図は何か? 鬼才安吾が読者に挑んだ不滅のトリック。多くのミステリー作家が絶賛する日本推理小説史に輝く傑作~ 瑕疵も多いが、個人的には評価して(あげたい)作品、っていう読後感。 「瑕疵」については敢えて言うまでもない気はするが・・・ 登場人物の多さ&未整理は気になるところ。名前を覚えるという基本的なことの他に、登場人物同士の相関関係がなかなか呑み込めないので、できればメモ帳でも横にして読むのがベターなのだろう。 読みにくさは想像したほどではなかったが、時代背景的なエログロ的頽廃感はちょっと鼻につく。 そう長くもない分量のなかで、合計8名もの人間が次々に殺されるという本作。 メインテーマはずばり「ミッシングリンク」ということなのだろう。 ただし、「九尾の猫」のような“開かれた”世界でのミッシングリンクではなく、一軒の邸宅の中という“閉じた”空間のなかでのミッシングリンクというのが興味深い。 当然「動機」が推理の遡上に上げられるのだが、前例として踏まえているがA・クリスティの某有名作。 あまり書くと思い切りネタバレになりそうだが、「不連続」というタイトルは、8名の殺された「動機」に起因している。 (ただ、最初に殺された人物についての動機は今一つ理解できなかったが・・・) そして、探偵役の巨勢博士が指摘した真犯人当てのキーポイントが「心理の足跡」。 これは確かにトリックというか、本作のプロットのキーポイントだろう。 アリバイの証明役が全く別の立場に反転するというプロットと、それを不自然なく行わせるための伏線の撒き方には唸らされた。 名声ほど評判はよろしくないようですが、個人的には十分楽しめる作品ではないかと思います。 (角川文庫版の法月綸太郎氏の巻末解説も一読の価値あり。) |
No.759 | 7点 | ブラックペアン1988- 海堂尊 | 2012/09/28 22:28 |
---|---|---|---|
「チームバチスタの栄光」から続く田口&白鳥シリーズ、或いは桜宮・東城大学をめぐるシリーズに連なる作品。
ただし、タイトルどおり時系列的には最も昔の「東城大学医学部付属病院」が描かれる。 ~1988年、世はバブル景気の頂点を謳歌する時代。「神の手」を持つ佐伯教授が君臨する東城大学総合外科学教室に、帝華大のビックマウス」高階講師が新兵器を手土産に送り込まれてきた。「スナイプAZ1988」を使えば、困難な食道癌の手術が簡単に行えるという。腕は立つが曲者の外科医・渡海がこの挑戦を受けて立つ。現役医師も熱狂する超医学ミステリー~ かなり面白い。 ただし、本シリーズの愛好者にとってはだが・・・ バチスタシリーズの主要登場人物である高階講師(現在では病院長)、藤原・猫田・花房の看護婦トリオ、何より速水・島津・田口(もちろん本シリーズの主役である)の3人までもがインターンとして登場するのが何とも心憎い配慮。 その他にも、現在のシリーズにつながる「伏線」がそこかしこに配置されるなどサービス精神も十分。 (田口が手術立会で血を見て、外科医をあきらめるというエピソードまでも披露される) 他の方の書評にもありましたが、ストーリーは「白い巨頭」を髣髴させるように、「人の命」や「医者の間のライバル心」そして「外科医としての矜持」などが魅力的な登場人物をとおして語られていく。 憎まれ役(?)として登場する佐伯教授や渡海医師の振る舞いも最後には意味あるものとして「カッコいい」印象を残していく・・・ 特に高階の姿は、現在の姿と比較すると何とも印象的。患者をより多く助けるため、医療の質向上に奔走していた高階が、どこか政治的にも見える現在の姿にどうしてなったのか。20年余りの間に彼に何が起こったのかが気になるところだ。 まぁ、ミステリーという冠はどうかと思うが、良質な医療エンタメ小説という評価は実に正しいと思う。 とにかく、作者の「世界観」には賞賛&敬意を表します。 (因みに、「ペアン」とは手術の際に用いる止血用の鉗子(かんし)の代表格的医療用具) |
No.758 | 5点 | 帝王死す- エラリイ・クイーン | 2012/09/28 22:25 |
---|---|---|---|
1952年発表。後期クイーンの有名作。
ライツヴィル・シリーズではないが、架空の都市「ライツヴィル」が作品世界に影を落とす一作。 ~第二次世界大戦当時の機密島を買い取り、私設の陸海空軍を持つペンディゴ帝国に君臨する軍需工業界の怪物キング・ペンディゴ。彼のもとに舞い込んだ脅迫状の調査を求められ、クイーン父子は突然ニューヨークから拉致された。その強引なやり方と島の奇妙な雰囲気にとまどいながらも、エラリイはついに意外な犯人を突き止めた。しかし次の瞬間、父子の眼前で不可解な密室殺人が起こる。冒険小説風に展開する奇抜な不可能犯罪の謎~ 魅力的な舞台設定と腰砕けの真相。 本作の「密室」は他のどの作品にも負けないほど「超堅牢な」密室。 どこにも隙間のない特別製の部屋が完全に密閉されたうえ、ドアの前にはクイーン警視ほか1名の目が光る。しかも、犯人と目される人物の前にはエラリイがいる・・・という状況。 にもかかわらず、犯人と目される人物が持つ拳銃から放たれた銃弾で殺人が起こってしまうのだ! これはJ.Dカーや島田荘司もびっくりの超抜トリックか! と思いきや、なんとも小粒なトリックが開陳されてしまう・・・ 派手な設定が目立つ本作なのだが、作者の狙いはそんなところにないのだろう。 国家をも凌駕する軍需産業を率いるキング・ペンディゴという人物を通し、そんな人物ですら(そんな人物だからこそとも言えるが)出自や弱点から逃げられないという人間の弱さというかはかなさを示してくれる。 三兄弟の名前に込められた暗喩とともに、何とも言えない読後感が残った。 ただ、ロジック全開の初期作品を志向する読者にとっては(私もそうだが)、実に物足りない作品という評価になるのはしょうがないかな。 (正しくは、ライツヴィルシリーズを先に読むべきなんだろうなぁ・・・) |
No.757 | 5点 | T型フォード殺人事件- 広瀬正 | 2012/09/28 22:23 |
---|---|---|---|
集英社が新たに編んだ作者の小説全集第5弾。
本書は表題作のほか、短編2編を含む作品集という体裁。 ①「T型フォード殺人事件」=昭和モダン華やかなりし頃、その惨劇は起きた。関西のハイカラな医師邸に納車された最先端の自動車「T型フォード」。しかし、ある日完全にロックされたその車内から他殺死体が発見されたのだ。そして46年後、その車を買取った富豪宅に男女7人が集まり、密室殺人の謎に迫ろうとするが・・・。 「隠れた名作」という評価の作品と認識しているが、他の方の書評通り「まぁそれ程でもない」というのが正直な感想。 紹介文によると密室トリックがメインの作品のように映るが、密室はたいしたことない。 っていうか、T型フォード(せめてクラシックカー)の「車体」についての知識がないと「よく分からない」トリックなのだ。 本作のプロットの肝はそれではなく、東野圭吾の作品で有名な「劇場型トリック」(勝手に名付けてしまいました・・・)。 ただ、“鮮やかな”というよりは“唐突に”という印象。 時代性を勘案すれば、そう低評価しなくてもという気はするが、かと言って高評価もしにくい。 ②「殺そうとした」=ショート・ショートのような味わいのある作品。よくある「手」と言えばそうなのだが、個人的には好み。ラストのブラックさも良い。 ③「立体交差」=ミステリー作家というよりはSF作家というべき作者らしい作品だろう。要はタイムトラベル系のストーリーなのだが、オチに捻りがあり、そこを楽しめるかどうかで好みが分かれるかも。私は最初よく理解できなかったが・・・ 以上3編。 ①は評判ほどではないが、駄作というほどでもない。 それよりも②③が拾い物。 |
No.756 | 6点 | タイトルマッチ- 岡嶋二人 | 2012/09/21 22:02 |
---|---|---|---|
1984年発表の作者4作目の長編。
「人さらいの岡嶋」の異名どおり、本作も奇妙な「誘拐事件」についての謎。 ~元世界ジュニア・ウェルター級のチャンピオン・最上永吉の息子が誘拐された。彼を破ったジャクソンに義弟・琴川三郎が挑むタイトルマッチ二日前の出来事だった。犯人の要求は、“相手をノックアウトで倒せ。さもなくば子供の命はない・・・”。犯人の狙いは何か? 意想外の脅迫に翻弄される捜査陣。ラストまで一気のノンストップ長編推理~ プロットは面白いが、やや腰砕け気味。 「犯人の要求の意外さ(金ではない)」が本作の肝だろうなという想定で読み始めたのだが、これに対する解答は割と早い段階であっさり明らかになってしまう。 フーダニットについてもなぁ・・・ダミーの犯人をちょっと引っ張りすぎだし、真犯人に意外感はない。 まぁ、本作はそういった「謎解き」要素よりは、リミットである二日間で子供が見つからず、意に沿わないタイトルマッチに挑まざるを得なくなった最上や彼を取り巻く人物をめぐるサスぺンスとして捉えた方が楽しめる。 特に、終盤はタイトルマッチと誘拐犯を徐々に追い詰める捜査陣の姿が交互に描かれ、緊張感のある展開で非常に良い。 (ボクシングの描写が秀逸!) 作者の「誘拐もの」は結構読んだが、本作はちょうど真ん中くらいの出来かな。 (個人的には「どんなに上手に隠れても」がベストだろうと思っているのだが・・・) |
No.755 | 6点 | 怪盗紳士ルパン- モーリス・ルブラン | 2012/09/21 21:59 |
---|---|---|---|
世界に冠たる大泥棒(怪盗という方がカッコイイかな)アルセーヌ・ルパンを世に生み出した第一作品集。
今回は創元文庫版にて読了。 ①「アルセーヌ・リュパンの逮捕」=大西洋を渡る客船に広まるA・ルパン出没の噂・・・。乗客たちはザワつくが、仏警察きっての大立者ガニマール警部にルパンは逮捕されてしまう。確かに初っ端から衝撃の展開。 ②「獄中のアルセーヌ・リュパン」=①で独房に入れられたルパンだが、おとなしく囚われているわけないよなぁ・・・。警察の方がキリキリ舞させられることに。 ③「アルセーヌ・リュパンの脱走」=これはなかなかの良作。獄中からの脱走&裁判を受けないことを宣言するルパン。そして運命の裁判の日、なんとリュパンの正体が・・・しかしこれもリュパンの罠だった。右往左往させられるガニマールが不憫。 ④「奇怪な旅行者」=ラスト、新聞記事で語られるオチが何とも心憎い・・・ ⑤「女王の首飾り」=これはある種「準密室からの盗難事件」を扱ったもの。真相は灯台下暗し的なものだが・・・ ⑥「ハートの7」=殺人現場に残される穴の開けられた「ハートの7」のトランプ。それがお宝発掘への鍵となるのだが・・・。今回もルパンは神出鬼没だ。 ⑦「彷徨する死霊」=本作はホームズものにもありそうな探偵譚という風味の作品。実にシンプル。 ⑧「遅かりしシャーロック・ホームズ」=ルイ16世ゆかりのお宝をルパンから守るため請われたシャーロック・ホームズ。くだんの家へ向かう途中に両雄が相見えたのだが・・・最後はやはりルパンに軍配が上がるような結果になる。 以上8編。 ①~③は続きもので、ルパンの逮捕から脱獄までが書かれる。④以降はルパンの神出鬼没ぶりがとにかく印象的。 謎解きもの或いはミステリーとしては微妙だが、読者としてはどいつがルパンかちょっとドキドキしながら読み進めるというのが本作の正しい楽しみ方なのだろう。 個人的には短編よりも長編作品の方が面白いという印象を受けたが、これはこれで楽しめるのは間違いない。 ジュブナイル版で読んだ方も多いかもしれないが、未読の方は名作として一度は触れておくのもいいのではないか。 (③が一番面白い。⑤⑥もなかなか。) |
No.754 | 5点 | 夏と冬の奏鳴曲- 麻耶雄嵩 | 2012/09/21 21:56 |
---|---|---|---|
1993年発表。デビュー作「翼ある闇」に続く長編2作目。
文庫版で700頁を超える大作、かつ様々な物議を醸す問題作。 ~首なし死体が発見されたのは、雪が降り積もった夏の朝だった。20年前に死んだはずの美少女・和音の影がすべてを支配する不思議な和音島。なにもかもがミステリアスな孤島で起きた惨劇の真相とは? メルカトル鮎の一言がすべてを解決する。新本格長編ミステリーの世界に驚愕の名作誕生!~ これはミステリーなのか? それともファンタジーなのか? ここまで大量のストーリーを読まされた後に残ったのは、多くの「?」というのが正直な感想。 確か、本作出版時にノベルズ版を読もうとして、途中で挫折したような記憶のある本作。ミステリー読者として多少なりとも習熟した今なら多少なりとも理解できるのではと考えたのが・・・甘かった。 孤島で起きる連続殺人事件、雪密室、首なし死体、事件のバックボーンとなる「キュビズム」などなど、いわゆる「新本格」らしいギミックは満載であり、最後には一応ケリがつくのかなぁと思っていたのだが・・・甘かった。 紹介文にはメルカトル鮎がすべての謎を解き明かすように書かれてあるが、メルカトルが登場するのは何と700頁を超えて本編が終了したほんのワンシーンだけ。 しかもメルカトルが残したたった一つの台詞がまた読者にとっては「?」なのだ。 あとは、「春と秋の奏鳴曲」についての謎・・・ なぜ烏有と桐璃の姿や出会いをなぞるような内容となっているのか?? ・・・正直分からん! これはやっぱり普通の読み方をしてはいけないのだろうなぁ・・・ 一応ネタバレサイトを見て少しは謎が解けたのだが、それでもスッキリしないことこの上ない。 まぁ、本作について書き出したら止まらなくなりそうなので、この辺でやめとこう。評点は難しいが、本作を評価すること自体あまり意味がないように感じる。 (当時、本作を出版した講談社編集部に敬意を表したい) |
No.753 | 6点 | 嫁洗い池- 芦原すなお | 2012/09/14 23:56 |
---|---|---|---|
前作「ミミズクとオリーブ」に続くシリーズ第2弾。
今回はすべて主人公の悪友である河田刑事(警部?)が持ち込む事件を奥さんが見事に解き明かすというスタイル。 ①「娘たち」=父ひとり・娘ひとりという関係なら、当然父親は娘のことを「しつこい」くらいに心配する・・・っていうのが普通だよな。そして、主人公の成人式にまつわる過去の事件(?)も無事解決される。 ②「まだらの猫」=これは当然「まだらの紐」のもじり、というわけで本作は何と「密室殺人事件」。こんな謎を一介の主婦が話を聞いただけで解き明かすというのもスゴイが、密室トリック自体はちょっとショボイ。 ③「九寸五分」=これはいわゆる「匕首」を意味する隠語らしい。ヤクザの親分が殺され、犯人はすぐに逮捕されるのだが、それに疑問を持ったのが名探偵の奥さん。現場のちょっとした状況に「違和感」を持つというプロットが短編らしくてよい。 ④「ホームカミング」=最愛の奥さんが大学の同窓会で家を離れることに・・・。そして、今回は河田からの電話を聞くだけで事件を解決してしまう・・・(まるで御手洗潔のようだ)。 ⑤「シンデレラの花」=火葬場で起こった人間消失というのが今回の事件。主人公がなぜか見たシンデレラもどきの夢が事件解決につながるのだが、「シンデレラ」ってそういう意味だったんだよね。(日本人は大いに誤解してるよな・・・) ⑥「嫁洗い池」=「興奮すると自分が何をするか分からなくなる」と思い込んでる人が起こした(とされる)殺人事件。事件の関係者には精神科医などいかにも怪しげな人物が・・・。ところで「嫁洗い池」の謎はどうなったんだ? 以上6編。 とにかく、出てくる料理のうまそうなこと。 (今回は特に「関東煮」と「サンマの塩焼き」がたまらない・・・) 主人公と奥さん、そしていつもいがみ合ってるが実は仲のいい悪友・河田・・・3人が織り成す光景も実に味わい深い。 さすがに「直木賞」作家と評価すべき作品だと思う。 えっ!ミステリーとしてはどうなんだって? まぁ、いいじゃないですか・・・そんなことを評価すべき作品じゃないってことですよ。 (②③が良い。あとは⑤) |