皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1835件 |
No.235 | 7点 | 電氣人閒の虞- 詠坂雄二 | 2012/10/12 23:00 |
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これは問題作だろうね。
かなり好き嫌いがはっきり分かれるタイプの作品だし、最終章では賛否両論を呼びそうな気が大いにする。 個人的には評価の通り、全然アリだと思う、逆にこの衝撃がなければ単なる凡作に終わった可能性が高いだろう。 読み終えた後もしばらく呆然として、何も手に付かなかった。それほどラストの破壊力は凄まじいものがあるということ。 しかし、読後、本書を壁に叩きつけたくなる人の気持ちも分からないでもない。 だが、これもミステリのカタチのひとつだと解釈することはできないだろうか。 生真面目な読者ほど腹が立つのかもしれないが、ここはひとつ唖然とさせられる流れに身をまかせて、余韻を味わおうではないか。 それにしてもこのタイトル・・・虞か、なるほどねえ。 |
No.234 | 5点 | 萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ- 吉永南央 | 2012/10/07 22:35 |
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この作品は果たしてミステリと呼べるのだろうか、私の感覚では文芸作品のような気がするが。
小粋な下町のお婆ちゃんが安楽椅子探偵よろしく、日常の謎を鮮やかに解き明かす、みたいに思っていたら大いに肩透かしを喰らう。 確かに事件は起こるのだが、このお婆ちゃん探偵は自らの足を使って、まるでハードボイルドの探偵のように多分に危ない橋を渡りながら、最後には解決に導いていく、みたいな感じである。 自らの年齢から来る苦難や、苦労などを的確に描く作者の姿勢は容赦ない。 しかし、だからこそリアルな70歳を超える女性像を確実に捉える事に成功しているのではないだろうか。 文章もしっかりしているし、ミステリとしてよりも文学作品として読めばなかなかの良作なのかもしれない。 |
No.233 | 6点 | 浜村渚の計算ノート- 青柳碧人 | 2012/10/02 21:33 |
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日本はある事情により、数学を学校教育から排斥した。
その事実を憤りテロリストとして暗躍する天才数学者、そのテロリスト集団に対抗するため、警視庁が招聘したのは中学二年生の天才数学少女だった。 というのが、ストーリーの中軸をなしている。 この少女が特別美少女扱いされている訳ではないが、どことなく憎めない、愛嬌のある性格として描かれているのは好感が持てるし、なかなか細かい点まで描写されていて等身大の中学生らしさを感じさせる。 数学をテーマにしているため、小難しい定理や公式が横溢しているかと思いきや、そんなことはなく、思った以上に読やすい。 0個のりんごを4人で割ると1人分は0個、では4個のりんごを0人で割ると1人何個? 答えは読んでのお楽しみ。 |
No.232 | 6点 | 先生と僕- 坂木司 | 2012/09/24 21:31 |
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ゆるーい感じの日常の謎系連作短編集。
大学生の僕は秀才の中学生男子から声を掛けられ、彼の家庭教師を形の上だけ引き受けることになる。 つまり大学生の僕はあくまでワトソン役で、先生は中学生の彼、隼人であり、探偵役でもある。 彼ら二人はナイスなコンビネーションで、日常の謎を紆余曲折を経て解いていく。 とは言っても、それほどインパクトのある事件はあまりないので、どの物語もさして印象に残らない。 しかし、第四話だけは私の心に深く刻み込まれている。 どこか切なく、ちょっとほろ苦い、なんとも言えない余韻を残す佳作である。 これがなければ5点だったが、プラス1点とした。 |
No.231 | 6点 | 六つの手掛り- 乾くるみ | 2012/09/19 21:41 |
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意外に評価が高いですね、読み手のレベルの高さが偲ばれます。
これは徹底的にロジックに拘った、本格ミステリの短編集である。 しかし、やや小難しく細部にまで神経を行き届かせないと、展開についていくのがやっとで、理解に苦しむ事になるケースも考えられる。 なので、ミステリ本来の楽しさを味わおうとする小説ではないと思う。 真剣に頭を使って読まないと、理解しづらいことは事前に覚悟しておいたほうがいいだろう。 |
No.230 | 6点 | 悪の教典- 貴志祐介 | 2012/09/11 21:35 |
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前半はなかなか緻密で丁寧に書かれているが、後半がなあー。
別に倫理的にどうこう言うつもりは毛頭ないが、どうにも荒削りな印象が否めない。 蓮実くらいの切れ者なら、別にクラスの生徒全員皆殺しにする必然性は全くなく、自らの手を汚さずとも他に方法はいくらでもあるのではないかと思うのだが。 それとひとつ気になったのが、ある生徒の不可解な行動である。冷静に考えれば、それはないだろうと。 ある意味後半はあの『バトル・ロワイアル』に類似しているが、残念ながら遥かに及ばないと言わざるを得ないね。 それでも全体的には、読みやすく好感は持てる。 しかし、後味がスッキリしないのはマイナス要因であろう。 |
No.229 | 6点 | 蒼林堂古書店へようこそ- 乾くるみ | 2012/08/24 21:35 |
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ほのぼのとした雰囲気が実に心地良い、それにさりげない季節感を時折漂わせている点も評価できる。
ただ、ミステリとしてはいかにも弱いところや、解決に強引さが感じられるケースが多々見られるのは少々残念。 それでも私はこの物語が好きだ、それはもう理屈抜きに。 そしてラストのサプライズも好ましい結末と言えよう。 それぞれの登場人物が生き生きと描かれているのも素晴らしく、紅一点のしのぶがまた魅力的である。 後味も良い。 |
No.228 | 5点 | 交渉人・爆弾魔- 五十嵐貴久 | 2012/08/17 21:17 |
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この手の作品は一気に読んでしまったほうがより楽しめるね。
内容としては所々に見せ場が用意されているが、その他のシーンは平板な印象を受ける。 登場人物も結構多いが、感情移入できるような人物造形がなされていないのは残念であった。 また、タイトルは「交渉人」となっているが、犯人側との交渉シーンは全くないので、期待外れの感は否めない。 前作と比較するとやはり数段落ちると思うのは自分だけではないだろう。 |
No.227 | 6点 | 煙突の上にハイヒール- 小川一水 | 2012/08/05 21:47 |
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近未来の世界を描いたSF&ファンタジー。
ミステリ度は薄いが、敢えて登録したのは、最終話の衝撃度が強烈だった為。 失恋して半分ヤケ気味になったOLは、少なくない預金を解約してあるものをすべてつぎ込んで購入するが・・・。 ペットの猫が最近太り気味になっているのを気にして、首輪にカメラを埋め込んで猫の動向を探ると、意外なシーンが映っていた・・・。 など、少し変わったシチュエーションが楽しめる、5編の短編から成る作品集である。 だがなんと言っても、特筆すべきは最終話、これだけでも一読の価値があると言っても言い過ぎではないと思う。 |
No.226 | 6点 | 奇談蒐集家- 太田忠司 | 2012/07/16 21:17 |
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奇談と言うわりには驚くようなものはあまり見当たらない、どちらかというと地味な連作短編集。
どの短編も奇談が語られた直後は、ちょっぴり不可思議な、或いは幻想味を帯びた余韻を残すが、蒐集家の助手?が一刀両断の下にオチを付けていく過程は、現実の味気なさにがっかりさせられるパターンが多い。 ちょっと意外な結末の短編も含まれているが、全体的に「ああ、なるほど」程度にしか感じられないのが少々残念。 でも、まずまず楽しめる。 最終話はもう少しまとまりのある結末が欲しかったかな。 |
No.225 | 6点 | 中途半端な密室- 東川篤哉 | 2012/07/06 21:49 |
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何だろう、この読み心地の良さは。
どの作品も臨場感があり、脳裏に情景が浮かんでくる辺りは、さすが売れっ子作家だと感心させられる。 突出した短編はこれといって見当たらないものの、どれも及第点をクリアしていると言って良いのではないだろうか。 まだ本格的にデビューする前の作品のわりには、なかなかの完成度の高さを誇っているし、肩の凝らない程よいユーモアも保たれていて、非常に読みやすい。 これは評価されるべき点であろう。 これだけ褒めておいて、この点数は低すぎるかもしれないが、全体的にやや物足りなさを感じるのは否定できないからやむを得まい。 |
No.224 | 6点 | 死なない生徒殺人事件- 野崎まど | 2012/07/01 21:43 |
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永遠の命をもった生徒が存在する、という密かな噂がある名門私立藤凰学院(女子高)に新しく赴任した、生物教師の伊藤。
彼は後日、その「死なない生徒」だという女生徒に声を掛けられるが、彼女はその後しばらくして頭部を切断された死体となって発見される。 犯人はいったい誰なのか、なぜ頭部を切断されたのか? といったストーリー展開で、この事件は連続殺人に発展する。 少しミステリを齧った読者なら、容易に犯人は予想できるはずだし、首を切った理由も想像がつくだろう。 しかし、問題は勿論それだけに留まらない。 つまり、死なないはずの生徒がなぜ殺されたのか、という究極の命題が残されている。 ライトノベルでありながら、新たなミステリの形を提唱しており、“不死”の定義付けという難しいテーマに挑戦する姿勢は立派だと思う。 ただし、最終的な解決は首肯できかねる部分もあり、若干不満が残るが、なかなか面白く読ませてもらったのも事実ではある。 |
No.223 | 7点 | 神様ゲーム- 麻耶雄嵩 | 2012/06/27 21:31 |
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これは少なくとも子供向けの読み物ではないね。
特に前半の連続野良猫殺害事件は、本件には殆ど関連性がなく、神様である鈴木君の存在を際立たせるために書かれたとしか思えない。 とは言え、これが全く必然性がないとも言い切れないところもある為、一連の流れとして捉えた場合、不自然さは感じさせない。 それにしても、この捻れたラストは一体何なのだろう。 さすがに麻耶雄嵩氏、一筋縄ではいかない。 もう一度最初から読み直しても、私には本当の真相を見抜く自信がない、誰かネタバレ覚悟で私にこの結末の意味を教えていただけないだろうか。 |
No.222 | 7点 | 小説家の作り方- 野崎まど | 2012/06/22 22:14 |
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この世で一番面白い小説のアイデアを閃いてしまったので、小説の書き方を教えてほしい、という旨のファンレターをもらった駆け出しの作家、物実。
彼はその後、ファンレターの相手と直接会い、彼女に小説の書き方を初歩からレクチャーする事になる。 ここまで読んで、ちょっぴり恋愛風味で味付けされたファンタジーなのかと思っていたが、突然現れる謎の女性が登場してからとんでもない展開に発展していく。 無論、ミステリ好きには願ってもない展開なのだが・・・ これ以上は、これから本作を読もうとする人の興を削ぐ事になるので書けないが、期待していた以上に面白い。 中盤まではまったりと進行していくが、後半は見違えるようにテンポが良くなり、一気に読み進められる。 いわゆるライト・ノベルだが、正直これはお薦めの一作なのは間違いないだろう。 |
No.221 | 6点 | 星を継ぐもの- ジェイムズ・P・ホーガン | 2012/06/17 21:44 |
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あまりの高評価につい読んでみたが、私の弱い頭ではストーリーに付いていくのがやっとで、楽しむ余裕はなかった。
だが、私の苦手な翻訳物ではあるが、読みづらいとは思わなかった。 ただ、専門用語が多すぎて、理解不能な部分が結構あり、本来のめり込めるはずの作中が右から左へ流れるように去っていくのを、ただただ目で追っていくのが精一杯であった。 しかしながら、終盤は俄然面白くなったのは事実であり、最後の種明かしもなるほどと思えたのは、僅かな収穫ではなかったろうか。 それにしても感心するのは、みなさんの鋭い読解力であり、本サイトのレベルの高さだ。 本作を順当に評価しての平均点の高さは、私には納得できるものではないが、現実を受け入れようと努力はしたいと思う。 |
No.220 | 6点 | ぼくと、ぼくらの夏- 樋口有介 | 2012/06/07 22:06 |
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ミステリよりも青春小説の色が濃い。
何よりも素晴らしいのは、小粋な台詞回しにある。 高校生が主役なのだが、まるでハードボイルドそのものの雰囲気とセリフ、こうしたミステリもたまにはいいだろう。 ただ、プロット、ストーリーがいかにも平板で、起伏が足りないのはマイナス点だと思う。 せっかくこのタイトルなのだから、もっと夏を感じさせるような、強烈な描写ももう少し欲しかった気がする。 しかし、全体としてはまずまずの作品ではないだろうか。 |
No.219 | 6点 | 6時間後に君は死ぬ- 高野和明 | 2012/06/02 23:49 |
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表題作の第一話とファンタジーっぽい第二話を読み終えた時点では7点か8点付けるつもりだったが、以降トーンダウンしてしまい、この点数に。
しかしまあ、全体として楽しめたのは確かだし、一読の価値はあると思う。 最終話で、なかなかのサスペンス振りを発揮しているのはいい感じで、ハッピーエンドにしたのは正解だったろう。 ただ、ミステリとして捉えるとやや弱いのは残念な気もする。 |
No.218 | 4点 | スロウハイツの神様- 辻村深月 | 2012/05/05 21:31 |
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スロウハイツは、小説家と脚本家を中心に、漫画家や画家の卵などが集う、言わば現代のトキワ荘である。
特に目立った事件が起こるわけでもなく、物語は淡々と進んでいく。 一種の青春群像を描きたかったのだろうか、その意味では一応頷ける気もするが、お世辞にも読みやすいとは言えないし、無駄に長い。 一応、核となる過去の事件が存在するのだが、詳細は最後の最後まで明かされずに終わってしまっているのもいかがなものか。 最終章は多少心動かされるものがある。 どうせなら、最終章とその前の章のみで短編を書けばよかったのにと思うと返す返すも残念である。 |
No.217 | 6点 | 交渉人- 五十嵐貴久 | 2012/04/23 22:12 |
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これは・・・何を書いてもネタバレしそうだ。
取り敢えず、最終章までと最終章との落差にびっくり。 読者はよく注意して読まなければならない、もし中盤までに何らかの違和感を覚えたのならば、それが真相を暴くヒントになるだろう。 総合病院をジャックした犯人と、交渉人である警視正石田のやりとりはどことなくのんびりした雰囲気が漂っていて、緊迫感に欠ける。 勿論それには理由があるのだが・・・ これ以上は書けないな。 |
No.216 | 5点 | 幽談- 京極夏彦 | 2012/04/19 21:42 |
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ホラーテイストのもの、怪談っぽいもの、寓意小説的なもの、観念小説のようなものなど、様々な作風が収められた短編集。
どの作品にも共通しているのが、オチがないところ、これは読者によっては不満に感じるだろう。 かく言う私もそうだ。 どの作品を読んでも、最後に味わうのは宙ぶらりんの、取り残されたが如く寒々しい印象のみ。 そこになんとも言えない味を見出せるかどうかで、評価は大きく変わってくると思う。 怪談を好む読者にとっては好印象かもしれないが、ミステリファンには物足りないのではないだろうか。 |