皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1835件 |
No.395 | 4点 | 傀儡の糸- 亜木冬彦 | 2014/01/03 22:24 |
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再読です。
終盤までは典型的なサイコサスペンス。主人公は精神科の女医だし、所轄の刑事二人がコツコツと地道に犯人を捜査するが、厳しい監視の中、犯人は若い女性ばかり4人を惨殺する。その手口はかなり残虐で片手の指と両足の指をすべて切断し、鼻や耳を切り取ったりもしている。そしてなぜか一本だけ指が現場から消失していた。 猟奇殺人鬼の仕業なのか、なぜそのような手間のかかることをしたのかなど、ミステリ的な興味も当然持たれる。 がしかし、終盤突如としてホラーに転じて、犯人が一体誰なのか判然といない上、様々な疑問点が未解決のまま幕を閉じてしまう。 ただ、なぜそれぞれの被害者の指が一本だけ消えていたのかという理由だけは、なるほどと思わされる。その点は無理のない結末だとは思うが、いかんせん、ミステリとしての解決がなされていないのでは、読者として不満が募るばかりである。 作者としてはミステリとホラーの融合みたいな線を狙ったのだろうが、両方が中途半端でイマイチだった。 |
No.394 | 6点 | ネジ式ザゼツキー- 島田荘司 | 2014/01/02 22:40 |
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再読です。
ファンタジー小説『タンジール蜜柑共和国への帰還』は、巨大な蜜柑の木の枝に家屋が立ち並び、通りができており、一つの小国として成り立っている。蜜柑をもぎるために妖精たちは羽根を羽ばたかせる、またその国には鼻や耳がない者もいるという、相当意味不明なものである。スウェーデンで教授をしている御手洗潔は、この小説から真実を抽出し、作者の帰るべき国を模索し、とんでもなく奇怪な殺人事件を解決に導くべく、推理を始める。 前半ではこれまでの「御手洗潔シリーズ」では見られなかった、御手洗自身の一人称を読むことができる。しかし、かつてのエキセントリックだった御手洗の姿はそこにはない、冷静で思慮深い学者然とした、それなりの年齢を重ねた落ち着いた御手洗に、なんだかしっくりこないものを感じる読者も多いのではないだろうか。 まあしかし、彼の天才ぶりは相変わらずで、この程度のからくりは大して頭脳を駆使する必要もなさそうだ。 全体的にはやや小粒な印象は受けるが、『タンジール蜜柑共和国への帰還』が思いのほか面白く、個人的にはこれがかなり気に入っている。 ミステリとしての興味は、いわゆるホワイダニットと言えるかもしれない。何故犯人は被害者の首を切り、ネジによって首と胴体を繋げるような真似をしたのか。そこには島荘がよく口にする「信念の犯罪」が執念とも言える理由をもって存在しているのだ。 |
No.393 | 6点 | 透明人間の納屋- 島田荘司 | 2013/12/30 22:39 |
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再読です。
いかにも島荘らしい、本格と社会派を上手く合成させたような作品。一連の流れとしては、まず主人公の「ぼく」の視点から、唯一とも言える信頼でき親しみを感じている大人の真鍋との友情を暖かく描き、その後透明人間の仕業としか考えられない不可思議な現象と事件を持ってきている。そして最後にはその謎解きと共に社会派の一面を覗かせるという、島荘の本領発揮といった感のある、本格ミステリと言っていいだろう。 ただ、その結末は悲惨なものであり、とても子供向けとは思えないところがやや気にはなるが、問題提起としてはさすがに考えさせられる。 読後、思えば冒頭の「ぼく」と真鍋とのやり取りが実に長閑で、その辺りを読んでいたのが至福の時だった気がする。特に自分の視点から地平線までの距離を示された時には、そうなのかと心底驚いた。 |
No.392 | 5点 | 壺中の天国- 倉知淳 | 2013/12/29 22:38 |
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再読です。
長い、とにかく長すぎる。せめて文庫で400頁くらいなら6点だったのに。長尺のわりにスケール感がないのは、連続通り魔殺人事件?が狭い地方都市に限定されていることや、舞台が家庭内や町内に限られていることが挙げられると思う。それと、何やら怪しげな衒学趣味が無駄に放り込まれているのも一つの原因と言えそうだ。 事件の中核を担う、4人の被害者の共通点、いわゆるミッシング・リンクが最後に明かされるが、分かったような分からないような理由で、素直に首肯しかねる感じであまりスッキリはしない。 また冒頭の訳の分からない怪文書は、一体これから何が始まるのかと読者に期待を持たせるが、結局それ自体は事件とは無関係であって(多少影響を及ぼしはするが)、作者の手口としてはあざとく、あまり誉められたものではないと思う。 一方、主人公の知子をはじめ登場人物の造形はしっかり描かれているので、その点は評価したい。 それにしても、本作が第一回本格ミステリ大賞を受賞した事実は何を物語っているのだろうか。その年が余程不作だったとしか思えないのだが。 |
No.391 | 6点 | 眼球綺譚- 綾辻行人 | 2013/12/26 22:26 |
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再読です。
綾辻氏初のホラー短編集。ということで刊行当時はかなり期待して読んだが、それなりの出来ではあったが、思ったほどではなかった。 その中でも『特別料理』と『再生』のツートップは不動である。はっきり言ってその他は全く印象に残っていなかったわけで、再読した今回もそれは変わらなかった。全体的にもう一捻り欲しいと感じた次第。 『再生』のオチは序盤で読めてしまった。これは正直ミエミエじゃないかな、ほとんどの人が予想していた通りの結末だと思う。だがグロさもそこそこあり、面白い。 そして大本命の『特別料理』、まあなぜ指なのか、他の部位ではダメなのかという素朴な疑問はあるものの、とにかくその吸引力は凄まじいものがあるのは確か。ラスト2行が怖い、うまく捻りが決まっている。 上記の二作以外のストーリーはイマイチな気はするが、さすがは綾辻氏、全編を通して実に文章にそつがなく、読ませる才能は生まれ持ってのものと感じた。 |
No.390 | 6点 | 秘密屋文庫 知ってる怪- 清涼院流水 | 2013/12/24 22:31 |
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再読です。
またまた流水。 本作は講談社ノベルズ中、最も短い『秘密屋 赤』と『秘密屋 白』の二作を併せたものを改稿し、新たに『黒』の章を加筆し、一つにまとめた文庫版である。 「赤」は口裂け女、人面犬、トイレの花子さん、斧男などの都市伝説がどのような状況で目撃されたのか、或いはどんなルーツで伝播したのかを、ぼく流Pが先輩の木村彰一とともに追いかけるストーリー。まあほとんどがそれらの都市伝説を紹介しているに過ぎないが、追跡調査する先々に「秘密屋」という言葉が現れ、果たしてその正体とは一体?という興味も一つの読ませどころとなっている。 「白」では、いきなりぼくのところに電話がかかってきて、自分のことを「秘密屋」と勘違いして、依頼をしようとする相手の中年男性との駆け引きを描いている。 「黒」はついに当の「秘密屋」がぼくの前に現れ、ぼくを利用し、再び様々な都市伝説を復活させようと、あの手この手で画策するというもの。 ラストは意外な方向へと物語は進展し、突然メタな展開に。 再読だが、内容は全く忘れていたので新鮮な気持ちで読むことができた上に、結構面白かったので満足している。 個人的に印象深かったエピソードは、中国での「達磨」の話。これは知る人ぞ知るという本当の話らしいが、知らない人はそのほうが幸せというものだろう。 それと、「500円ばばあ」もなかなか傑作だった。いや、世の中には色々な都市伝説が存在するものだと感心させられた。 |
No.389 | 6点 | クビシメロマンチスト- 西尾維新 | 2013/12/23 22:32 |
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再読です。
ミステリが3割、青春エンターテインメントが4割、その他キャラ萌えなどが3割って感じの小説。ミステリ度は薄い、その代わりに登場人物、特に主人公であるぼくのかなり歪んだ性格が浮き彫りにされてはいる。 前作が再読してみて思いのほか素晴らしい出来だったので、こちらも読み直してみたのだが、やはり予想通りそこそこであった、それ以上の評価は出来ない。 まず気に入らないのは、第一の事件と第二の事件の間が無駄に長すぎて、いささか間延びしているのである。 それに零崎人識が連続猟奇殺人鬼のくせに、只のいい人みたいになっているのもどんなものかと思う。 そして最初の殺人事件の動機、これが納得いかない。そんなんで人を殺していたら、どれだけ殺人を犯してもキリがないじゃないか。 もう一つおまけに、アリバイトリックに使われた携帯、それはないでしょ、って感じですか。そんな小手先のトリック誰にでも分かってしまうって。 もうこれで西尾維新はいいや。しかし、西尾維新って変なペンネームだと思っていたけど、ローマ字変換したら回文になっているのね。昨日まで気付かなかった、情けない・・・。 |
No.388 | 7点 | 首断ち六地蔵- 霞流一 | 2013/12/21 23:32 |
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再読です。
東京は杉並区にひっそりと存在する豪凡寺。その土塀の片隅に並ぶ6体の地蔵の首が盗まれた。そして、その地蔵の首が転がるところには必ず仏法の六道を見立てた殺人事件が発生するという、連作短編集。勿論それぞれの短編を独立した物語として読むことも可能である。そして、推理合戦を繰り広げる面々である、所轄の霧間警部、事件のナビゲート役の私こと、カルト教団から市民を守る「寺社捜査局」の魚間、そして豪凡寺の住職峰風の三人が知恵を絞って、トリックを解明していく過程が本書の肝であるのは間違いない。 が、第一話を第一章として捉えた時、一つの長編としての流れをくみ取ることも十分可能であり、最終話が全ての物語を収束させ、繋がりを持たせて完結させている形式は、今更ではあるが実に上手くまとめており、その結末は驚愕に値する。 ほとんどの事件が密室になっており、派手な道具立てもあったりして、読み応えも満足のいくものだと思う。また、一人が推理し、否定され、また別の人が推理を披露しては崩されるという図式は、ワンパターンではあるが読者を飽きさせない苦心の跡が見られ、作者のサービス精神が如実に表れている。 とにかく一読の価値のある異色の本格推理小説であるのは間違いないと思う。 |
No.387 | 5点 | スティームタイガーの死走- 霞流一 | 2013/12/19 22:36 |
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再読です。
中央線を復活したSL、C63が疾走する。その名も虎鉄号。 玩具会社であるコハダトーイの会長小羽田伝介は、奇妙な趣味が高じて、本物のSLを製作し、ついに路線を走らせることになったのだが、列車は乗っ取られ、しかも忽然と消失してしまう。 列車内でのズルムケ密室殺人や、運転士が予定されたいた人物が雪道の途中で足跡が消えるという失踪事件、などいろいろ盛り込みすぎて、いささか急ぎ足で進行するきらいがある。 ササッと様々な出来事が起きて、すぐに次の場面に移ってしまうため、落ち着いてじっくり読み進めるというより、一気呵成に読破してしまうのに向いているタイプのミステリである。 それにしても、こと本作に関してはなんとなく読みづらい印象を受けた。私も文章が下手だが、自分ならこう書くのにと思いながらの読書だったため、イマイチ集中できなかったのは確かだ。 トリックに関しては、ほぼバカミス的なものが多く、拍子抜けの感は免れない。最後の叙述トリックだけはかなり意外だった、こんなところに叙述?って感じで驚いたが、それだけ。 全体としてはまずまずだったと思う。だけど、正直「このミス」で第4位はちょっとどうかなという気がする。 |
No.386 | 6点 | 眼球蒐集家- 船越百恵 | 2013/12/18 22:34 |
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再読です。
警視庁捜査一課の新米女刑事、七海は初めての現場検証でとんだ失策をしでかして、猟奇事件特別研究室に左遷される。その警視庁の外郭組織はひっそりと人目を憚るように存在していたが、なぜか超一流のプロファイラー、美咲嶺がいた。 二人の通称マル奇捜査官は現在捜査一課が追っている、眼球をくり抜かれた首つり死体の謎に迫り、力を合わせてその犯人像に迫ろうとするが・・・といった感じのストーリーで、残酷描写は多少あるものの、軽妙な文章がそれを相殺している。ユーモアも程々に、実に心地よくページを捲らせてくれるのは、デビュー作にしては上出来であろう。 また七海と美咲の人物像を浮かび上がらせるのに見事に成功しており、どちらにも感情移入できるよう巧みに心理描写もなされている。 事件は連続して起こり、三人の被害者がそれぞれ生きたまま、眼球をくり抜かれるという猟奇事件に発展するが、描き方のせいか、どこか薄味な印象はぬぐえない。サイコサスペンスなのに、この軽さがどことなくミスマッチにも思えるが、それが逆に暗くなり過ぎず、楽しく読める結果に繋がっているのかもしれない。 このコンビは凄く魅力的なのでシリーズ化も十分考えられたが、筆者は残念ながら筆を折ってしまったようだ。 |
No.385 | 6点 | ある閉ざされた雪の山荘で- 東野圭吾 | 2013/12/16 22:26 |
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再読です。
うーむ、分からない。何がって、みなさんの評価の高さがね。この作品のどの辺りが高評価に繋がっているのか、どうも私には理解できない。 はっきり言って『仮面山荘殺人事件』の焼き直し的な作品にしか思えないのである。フェアとかアンフェアとかはまったく気にしないほうだから、そんなことはどうでもいいが、3人の殺害シーンのリアルさはどうなんだろうな、とは思う。 後半の展開は読めてしまったし、勿論再読だから多少は記憶に残っていた部分もあるかもしれないが、自覚としてはほぼ忘れていた気がするので、鈍重な読者たる私をして予想できたということは、結構多くの読者がある程度予測できた後半の落としどころだったのではあるまいか。 まあ、初読の際もあまり感心しない内容ではあったと記憶しているが、やはり読み直してもイマイチパッとしないと感じられた。それにしても、これは本格ミステリと呼称するのには、私は抵抗を感じる。擬似本格というか、変格というのか、どちらかと言うとそんな呼び名がふさわしい一風変わった作品なのかなと思う。 ただ、結末は爽やかな余韻が残り、後味は悪くないし、動機は非常に納得のいくものなので、そこは評価できる。 |
No.384 | 5点 | 19ボックス 新みすてり創世記- 清涼院流水 | 2013/12/14 23:20 |
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再読です。
懲りずに流水。まさに分類不能の短編集、唯一本格っぽいのは第三話だけで、あとはなんだかよく分からない小説になっている。 第一話は、「不幸の手紙」ならぬ「不幸のMEMO」が高校のクラスの生徒や先生の間を行き来するという、サスペンスのようなホラーのような作品。 第二話は、XとYの電話でのやり取りの途中でいきなりZが登場して、話が混乱する妙な展開の何とも言いようのない作品。 第三話は若者である「木村彰一」が誕生日の朝起きたら、もう一人の「木村彰一」が隣で寝ていた。そして次の年の誕生日には同一人物が3人に増え、結局4人になってしまう中での「木村彰一」殺人事件を扱った、若干SFの要素を含んだミステリ。 第四話は、切腹することによって悟りを開こうとする「切腹探偵」ジョーカーと、彼を切腹の度に手術で救う天才外科医ドクターの物語。 作者曰く、それぞれの短編が少なからずリンクして、読み順を変えるごとに違った感触を味わえるとのことだが、正直あてにはならない。確かに各短編が複雑に絡み合ってはいるが、どこからどう読んでもあまり変わらない気がする。 氏の意気込みは理解できるが、気合が空回りしているのではないかと思えてならない。もう少しじっくり読み込めば、それなりの味が出てくるかもしれないが、それ程の作品ではないだろう、残念ながら。 |
No.383 | 8点 | すべてがFになる- 森博嗣 | 2013/12/11 22:23 |
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再読です。
全く素晴らしい出来栄えの一言に尽きる。 花嫁姿の死体が登場するシーンは圧巻で、それこそ度肝を抜かれたし、密室のトリックもおそらく前例のない斬新なものだと思う。冒頭の西之園と真賀田教授との邂逅も、最終章の余韻を残す締めくくりなども見事だ。 しかし、褒めてばかりもいられないのが人情というものである。ここからは本作の、私なりの気になる点を列挙していこうと思う。 まず、犀川と萌絵ばかりでなく他の登場人物のほとんどに、人間味が感じられないこと。よって、誰にも感情移入する余地がない。 第二に若干読み難いこと、これはまあ私の責任によるところも大きいので、一概には断言できないが。 第三に肝心の密室トリックに関してだが、その状況はかなり無理があるのではないかとの疑問。共犯者でもいるのなら別だが、一人では○○をこなすのは難しい。 最後に、動機の問題。作者が敢えてぼかしたとは思えないので、作者自身にもはっきりとした動機が思い浮かばなかったのではないかとも思える。ただし、これは私の読解力が足らないせいかもしれないので、あまり大きな声では言えない。 これだけの欠点がありながらも、やはりこの作品は本格ミステリの本髄と言っても決して言い過ぎではないだろう。稀有な傑作であるのは間違いないと思う。 |
No.382 | 5点 | 狩野俊介の事件簿- 太田忠司 | 2013/12/08 22:18 |
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再読です。
作者はあとがきで、殺人の起こらないミステリをたまには書いてみたかったと発言していたが、確かにその目論見は成功している。これは中学一年生で探偵助手を務める少年、狩野俊介の比較的身近に起こった事件を、彼やその周りの登場人物たちが知恵を出し合って解決してくという、4編からなる短編集である。 第一話と最終話はそれなりに好感が持てる作品だし、他もそれほど悪くはない。が、やや気になるのが語り手が探偵自身(所長の野上)という点である。どうも違和感が付きまとう、特に現役の警部に対しての上から目線の言葉遣いは、かなり居心地の悪さを感じた。 まあしかし、事件を解決するのが狩野少年ばかりでなく、石神探偵事務所の所長、野上だったり、行きつけの喫茶店「紅梅」のウエイトレス、アキが鋭いところを見せたりと、周囲に助けられながら成長していく少年の姿を描いている辺りも見どころの一つとなっている。 |
No.381 | 6点 | 六とん2- 蘇部健一 | 2013/12/07 23:14 |
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再読です。
相変わらず点数低いですねえ。そんなに酷いかな。私はそれなりに楽しめたのでこの点数。 ただ、これは『六とん2』じゃないね、はっきり言って『動かぬ証拠2』+αって感じ。ジャンル的には少しだけ気の利いた『世にも奇妙な物語』的な。まあミステリとは言い難いが、オチはそこそこ考えられていると思う。 らしくないファンタジーで締めくくられているけれど、これはいらないかな。もっとはじけた、とんでもない短編を並べて欲しかった気がする。その辺りは残念だけど、みなさんが考えるほど悪くはない。おそらく、作者の名前とタイトル名で、平均点が下がっている面もあるのではないだろうか。 |
No.380 | 6点 | ペルソナ探偵- 黒田研二 | 2013/12/06 22:26 |
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作家を目指す6人の男女がチャットルーム「星の海」に集い、同人誌を作成し、毎号ごとにそれぞれの小説を発表していた。そのジャンルは多岐にわたり、ファンタジーやミステリ、文芸など様々。
本作ではその同人誌に載せられた短編3作品がまず作中作として掲載され、それらをもとに最終話の事件の謎を解明していくという、一見ややこしく思える構成となっている。 好み的には第一話が最も面白かった。第二話、第三話はまずまずの出来で、まあ飽きが来ない程度のほどほどの作品。無論、それらすべてがリンクしてくる最終話は別格ではあるのだが、捻り過ぎてどうにもすわりがよろしくない印象を受ける。 どんでん返しの連続と言っても、ジャブの繰り返しで、読者が受けるダメージは大したものではないと思う。だから、強烈なパンチを食らった感じではなく、軽く頬を掠める程度のものである。 全体としてはまずまずだが、一作ごとに作風を変えているのは、それなりに作り込まれている証左であるとは思う。だが、出来としてはごく普通の感じで、まあまあかな。 |
No.379 | 5点 | 金沢W坂の殺人- 吉村達也 | 2013/12/04 22:31 |
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再読です。
現場は金沢市のW坂、絞殺、撲殺、毒殺、刺殺とそれぞれ違う方法で死体となって発見された同じ大学へ通う学生たち。死亡推定時刻はほぼ同時刻であり、しかも一か所ではなく坂の途中の四か所で殺されたらしい。体力自慢の体育系の男子学生たちがなぜ抵抗の跡もなくあっけなく殺されたのか・・・この謎に挑むのはお馴染みサイコセラピスト、氷室想介である。 なかなか派手な殺人事件ではあるが、展開はいたって平凡で、大した捜査もせずに、犯人がわれてしまう。まあ、殺害方法はそれなりに納得は行くものの、動機がどうもねえ。犯人にとっては切実なのかもしれないが、読む側にはそれが今一つ伝わってこないので、心から首肯できないものがある。 それと、別にそれぞれ違う殺害方法を選ばなくてもよかったのではないかという、素朴な疑問も生まれてくるのだが、いかがなものだろう。 はっきり言って犯人の意外性は全くないし、ほとんどの読者が予想している通りだと思う。 ただ、個人的にW坂のイメージを今回再読するまで勘違いしていたようなので、そこが訂正されたのが唯一の救いだった。 |
No.378 | 8点 | 贖罪の奏鳴曲- 中山七里 | 2013/12/03 22:29 |
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一部を除いて重苦しい雰囲気に覆われている。それもテーマがテーマだけに仕方ないのかもしれないが。
途中まではどこに重点を置いて読み進めればいいのかが判然とせず戸惑ったが(その辺りは解説を参照されたい)、終盤、一気に加速し俄かに焦点が鮮明に合いはじめ、全体像が明らかになる。その過程は『カエル男』に酷似している。まさに中山氏の本領発揮と言っていいだろう。 作者お得意の畳みかけるようなラストの逆転劇は、読者を酔わせること請け合い。 蛇足だが、個人的に第三章を頭に持ってきた方が読みやすく、スッキリするのではないかと思った。まあしかし、そんなことはどうでもよくて、これは相当な傑作だと言えるのではないだろうか。 やや読み難い部分もある気がするが、色々な意味で勉強にもなるし、なかなか強烈な余韻を残す作品であるのは間違いない。 |
No.377 | 8点 | クビキリサイクル- 西尾維新 | 2013/11/30 23:20 |
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再読です。
戯言、戯言と言いながら、骨格は非常にしっかりとした本格ミステリだ。文体はライトノベルに近いせいか、各キャラが立っているのも好印象。13人もの主要登場人物にそれぞれ個性が感じられ、見事に描き分けられているのは、デビュー作にしては、と言うかだからこそと言うべきか、見事の一言に尽きる。 さらには、戯言に隠れて分かりづらいかもしれないが、凝りに凝ったプロットと読者を欺く欺瞞に満ちていて、素晴らしい作品に仕上がっていると思う。 首なし死体に絡むトリックも、これこそ前例のないもので、思わずタイトルのセンスに感心させられる。 ただ、後味だけは正直あまりよくない、というよりほろ苦い感じでラストを迎えるので、それだけが減点の対象であろうか。まあ私にとっては、ということなので、それほど気にならない読者のほうが多いとは思うけれど。 ああ、「いーちゃん、髪くくって」がクセになりそう。 当然、次に続く『クビシメロマンチスト』も刊行と同時に期待を込めて読んだわけだが、残念な結果に終わってしまった。西尾氏はもうあっちの方向へ行ってしまったので、いまさら何を言おうが仕方ないが、もう一度ミステリの世界に戻ってきてほしいと心から願うものである。 |
No.376 | 8点 | 暗色コメディ- 連城三紀彦 | 2013/11/28 22:18 |
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4つの異なる異常なエピソードが並走し、最後に収束するという、いかにも私好みの連城三紀彦氏初期の傑作。どの物語も現実味の薄い、どう考えてもまともな解決とは程遠いものだけに、それらの謎が論理的に解明されるカタルシスは有り余るほど濃く味わい深い。特に自分をひき殺したはずのトラックが体を通り抜けて消えてしまう謎は、多少無理があるがなるほどと思った。
全体的にタイトルが示す通り、雰囲気は暗くコメディというにはあまりに陰鬱だが、その後の氏の作品と比較すると、実はこの作品が最も本格ミステリに近い形態を備えていると言えるだろう。 個人的には氏の代表作とされる『戻り川心中』よりもこちらのほうが好きだ。初めて読んだのもこの作品だったので、この路線で他の作品も行ってくれるのかと期待していたが、残念ながら少し違った方向へ走ってしまったようだ。だが、他の諸作品も決して悪くはないと思っている。特に『敗北への凱旋』や『夜よ鼠たちのために』などは独特の雰囲気がいいし、連城氏にしか書けない作品だと思う。 |