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メルカトルさん
平均点: 6.02点 書評数: 1767件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.427 7点 努力しないで作家になる方法- 鯨統一郎 2014/02/20 22:28
ミステリ作家、鯨統一郎がその名を伊留香総一郎と変えて書き上げた、事実をもとにしたフィクションであり、思いの丈をすべてぶつけたような自伝的作品。
幼少の頃から、学生時代、会社勤めの時代を経て、プロの作家デビューにいたるまでの涙ぐましいまでの苦労とささやかな幸せ、妻との愛、生まれたばかりの子供に対する愛情などが赤裸々に描かれていて、その人となりが十分に伝わってくる秀作に仕上がっている。
作中には、子供の頃に見た映画やアニメ、小学校時代から読み始めた、純文学、SF、ファンタジー、ミステリ、時代小説にいたるまでの様々なジャンルの小説のタイトルや作家の名前が実名で登場する。他にもフォークシンガーや海外のポップ歌手、果ては野球選手まで出てくる。
これだけでは、さして食指は動かないと思っている方々に言いたいのは、本作は非常に面白い小説だということである。それはもう、時間が許せば一気読みしてしまいたくなるような面白さと言ったらいいのだろうか。
中には、私の涙腺を直撃する、涙なくしては読めないシーンもあり、また、もやし炒めだけという貧しい食卓を家族で囲むシーンなどもあったりして、読んでいるこちらまで切羽詰まった気持ちになるほど、波乱万丈の人生を送る主人公に、エールを送りたくなってしまう。
果たして伊留香総一郎はデビューできるのか・・・
鯨統一郎を何冊も読んでいる人は勿論だが、むしろそんな作家知らないという人にこそ読んでもらいたい逸品である。

No.426 5点 となり町戦争- 三崎亜記 2014/02/19 22:23
ある日突然、僕は郵便受けに入れられた町の広報で、となり町との戦争が始まることを知った。曰く「となり町との戦争のお知らせ」、開戦日は9月1日、終戦予定日は3月31日とある。
そして何日か後に、町役場総務課となり町戦争係の香西という女性から電話で、僕を戦時特別偵察業務従事者に任命する旨を知らされる。僕は香西さんと協力し、与えられた任務を全うしようとするが・・・というなんだかよく分からないストーリーである。
正直、もっとアクションシーンがふんだんに盛り込まれているファンタジー小説を想像していたのだが、その意味では肩透かしを食らった。全編を通して、戦争の生々しい惨状を描写するでもなく、なんとなく戦争を実感できないまま物語は進行していく。
むしろ、僕と香西さんの交流が主に描かれており、戦争とは一体どういうものなのかという問いかけは二次的な副題となっているようだ。
そんな中でも、ユニークな人物が何人か登場し、ユーモアも忘れてはいない。しかし、町内での通り魔殺人や、僕の会社での出来事など、色々放り込みすぎて幾分まとまりがない感じを受ける。
終始なぜ隣の町と戦争を始めなければならないのか、という疑問に苛まれての読書になるのは間違いないが、これは文庫化に際して加筆したという、別章で多少は読者に説明されている。
だが、どうにもスッキリしない読後感であるのは否定できない。

No.425 6点 バビロン空中庭園の殺人- 小森健太朗 2014/02/17 22:28
再読です。
内容は完全に忘れていて、全然期待していなかったのだが、想像以上に楽しめた。
古代バビロニアの空中庭園で起こった(実際の事件ではなく作者の創作)、セミラミス王女の消失の謎と、それを研究し論文として発表しようとしていた矢先に墜落死した大学教授の事件を追う、女探偵星野君江の活躍を描いた佳作。
主人公は私こと小森(高沢のり子)で、新連載で取り扱う上記の王女消失事件を巡って、四苦八苦する姿をいかにも作家らしい視点から描写しており、好感の持てるなかなかの作品に仕上がっていると思う。
大学内で起こったのは、屋上からの墜落死だが、いるはずの犯人の姿が消えてしまう、こちらもある種の人間消失トリックを扱っている。このトリックが結構秀逸で、読者の盲点を突く、あっと驚くものとなっている。
一方、王女の空中庭園からの消失は、オマケ程度で、はっきり言って子供だましのようなものである。これがもう少し納得できるトリックであればもっと高得点だったのだが、その点だけは残念だった。

No.424 4点 空中密室40メートルの謎- 浅川純 2014/02/16 22:25
再読です。
文庫本、改題名『浮かぶ密室』にて読了。
地上40メートル、クラブハウスを土台にして聳え立つゴルフ場のシンボル、帆船タワー。その屋上で烏に食い荒らされた白骨死体が発見される。虚空の密室とも言える謎に、TV局の朝の情報番組で結成された元刑事達による特捜班の面々が挑むというストーリー。
物語自体は単純なもので、犯人も途中から割れてしまうので、興味はいかにして密室状態の屋上に死体を移動できたのかという点と、何故犯人はそんな無謀な行動に出たのかという点に絞られる。
トリックは複雑で、一度読んだだけではとても理解不能だが、死体移動の理由は、犯人にとっては切実なのだろうと想像できる。
まあしかし、いかにも冗長で面白味が感じられない。一生懸命書いたのだろうが、はっきり言ってミステリの読者を相手にするにはまだまだと思われる。
どうでもいいが、電話の送受器を上げたり下ろしたりの描写が多すぎて鼻につく。大体送受器ってなんだろう、普通に受話器ではいけないのかね。

No.423 8点 遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか? - 詠坂雄二 2014/02/15 23:19
待ちに待った文庫化、もうね、読めただけで幸せ。内容なんかどうでもいいのよ。
という訳にもいかないので、少しだけ感想を。
取り敢えず、佐藤誠というキャラが茫洋としていてつかみどころがない、これが逆にこの作品を異色で特別な物足らしめている気がする。彼を追い詰めた探偵がほんのわずかしか出てこないのが残念だが、全編を通してドキュメンタリータッチで緊迫感がある。文体は相変わらずクセがあって読みやすいとは言えないが、それもまたこの作品の味わいなのだろう。
主題はとにかくサブタイトルにあるように「佐藤誠はなぜ首を切断したのか?」に尽きる。一応の真相には賛否が分かれるかもしれないが、これぞ究極のホワイダニットと言っても過言ではないと思う。
さあ、みんな書店へ急ごう。そして本書をゲットするのだ。

No.422 5点 僕の殺人- 太田忠司 2014/02/13 22:22
再読です。
上質の食材を用意したのに、調理が下手なため台無しになったような作品、だと思う。
第一に、記述者が記憶喪失で正体不明のため、物語全体に紗がかかったようにどことなく漠然とした印象を受ける。さらに、メリハリがないので、情景が浮かんでこないし、今一つ頭に入ってこない。つまりインパクトに欠けるわけである。
太田氏の作品は10冊ほど読んでいるが、決して文章が下手なわけではないのに、本作ではその手腕が発揮されているとは言い難い。と言うよりむしろ、わざと下手に書いているとさえ感じられる。この作品に高評価を与えている諸氏には申し訳ないが、私にはお世辞にも面白いとは思えなかった。
主人公の僕は、被害者、加害者、証人、探偵、トリック、記述者の6役をこなしている?が、それはあくまで「ある意味」ではという注釈つきであり、未読の方の期待に応えるようなアクロバティックなものではない。
二転三転するラストの急展開は、多少読み応えがあるものの、私にとっては全体的にイマイチな印象だった。点数は甘めにして5点がせいぜいである。

No.421 4点 京極夏彦の謎- 事典・ガイド 2014/02/12 22:41
再読です。
中禅寺秋彦 「覚醒者の憂鬱」、関口巽 「夢幻の淵を彷徨う」、木場修太郎 「美学と現実の背理」、榎木津礼次郎(まま) 「哄笑する神」 といった百鬼夜行シリーズの主なキャストは各章に分けて分析されている。「」内はそれぞれのキャラのキャッチコピー的なものらしい。本書は『姑獲鳥の夏』から『絡新婦の理』までの各登場人物を解析することにより、京極夏彦という作家のあり様を探ろうという目論見のもとに著されたガイドブックのようである。
だが、内容は各作品からそれぞれの特徴が描写されている部分を抜粋し、それを元にごく表層的な解析を試みているに過ぎない。だから、京極作品の本質に迫ろうとかの、いわゆる論説とは事を異にしているので注意が必要である。
例えば、中禅寺秋彦の場合、猫が欠伸をしただけで目を覚ます眠りの浅い男、とか、「京極堂」の屋号は妻の千鶴子の実家が営む和菓子屋から拝借した、など、要するにファンなら誰もが知っている豆知識の復習のようなものなのだ。
京極作品を広く浅く知りたい、もう一度その京極ワールドに浸りたいという人向けのガイドである。ただし、目から鱗が落ちるごとき謎解きは出てこないので、その辺りはご承知置きいただきたい。
蛇足だが冒頭に既述したように、榎木津の名前を「礼次郎」と一貫して誤認しているようなので、せめて出版社で訂正すべきだったと思う。まあその程度の書籍だということではあるが。

No.420 6点 恍惚病棟- 山田正紀 2014/02/11 22:23
再読です。
舞台は聖テレサ医大病院精神神経科老人病棟。主人公の女子大生美穂は担当の7人の痴呆性老人、今で言う認知症の老人たちにおもちゃの電話を与え、テレフォンクラブと呼んで症状の軽減を図っていた。
ところが、その患者たちが次々と不審な事故死を遂げる。美穂はそれらの事故を研修医の新谷らと調査に乗り出すのだが・・・
といったストーリーで、本作は社会派の一面を覗かせながらも、しっかりとした本格ミステリとしての精神を貫いた、異色の意欲作である。
冒頭からラストまで、様々な大技小技の仕掛けが施されており、最後の最後まで息を抜けない。およそ世間での知名度は無きに等しいが、これは山田正紀の隠れた代表作なのかもしれない。
まだ看護師が看護婦と呼ばれていた時代の作品なので、若干古さを感じさせるが、今読んでも新鮮さは変わらないと素直に思った。

No.419 4点 まほろ市の殺人 冬- 有栖川有栖 2014/02/10 22:31
再読です。
有栖川有栖ともあろう者がこの体たらくではねえ、何とかならなかったものでしょうか。まあ途中までは普通の出来ですよ。季節が冬だけに暗くじめじめした感触が残るのは仕方ないだろうし、ストーリーがこんなんだから、ある程度サスペンスは効いている。その辺りに関しては文句はないけれど、やはり問題は死んだはずの双子の兄がなぜか生き返ったかのように自分の目の前に現れ、しかも他の人間にはなぜか見えないという謎に対しての真相。これはさすがにいただけない。
色々制約等もあったのだとは思うが、この解決編はある意味禁じ手とも言えそうなもので、本格ミステリ的な謎解きとしてはかなり程度の低いものだろう。それはないでしょ?って感じかな。
まあね、中編だから許されるかもしれないが、これが大長編だったりしたら、それこそ大顰蹙だったと思うよ。
それと、本作品は本格ではないんじゃないかねえ、サスペンスでしょう。

No.418 5点 まほろ市の殺人 夏- 我孫子武丸 2014/02/09 22:25
再読です。
なんだか全体的にトーンが暗いねえ。
私は恋愛小説も嫌いではないし、こういった雰囲気の作品も悪いとは思わないが、やや私には合わなかった気がする。
出だしは折原一の世界を彷彿とさせるものがあり、良い感じでスタートするも、最後までそのままうまくゴールできなかったきらいがあるのが残念である。
このトリックというか仕掛けは、多くの読者が驚愕の声を上げたのかもしれないが、私にとってはなるほど程度にしか感じられなかったし、それほど驚かなかった。まあよく考えられてはいるし、決して記述に矛盾点はないので、フェアプレイの精神は大いに買えるとは思うけどね。
だけど、こんなに多くの人が高得点を与えるような作品ではないと私は考えている。それはやはり私がミステリファンとして、色んな意味でマイノリティに属しているせいなのかもしれない。

No.417 6点 まほろ市の殺人 春- 倉知淳 2014/02/08 23:24
再読です。
つくづく倉知氏は読み手に優しいミステリを書く人だなと思う。『壺中の天国』のような実験的な作品は例外として、ほとんどが極悪人と呼べるような人間は出てこないし、軽妙なタッチで普段あまりミステリを読まないような人でも、割合すんなりと読めてしまう作品ばかりだ。しかも、登場人物の造形もしっかりしているし、どのキャラも憎めないところがあって好感が持てる。
さて本作であるが、おそらく途中までは魅力的な謎が提示されていて、読者は物語に引き込まれることは間違いないだろう。問題は解決編。この脱力感漂う暫定的な真相は多くの人が不満の声を上げることだろう。だが私は、たとえご都合主義とか偶然が過ぎると言われようが、この結末は好きである。作者が自ら書いているような、幻想的で悪夢のような光景は豪く映像的で、強烈な印象を与えてくれる。
ただ一つの疑問を除いては、個人的にとても気に入っている。だがやはり本格ミステリとして、出来る限り公平を期するためこの点数とした。

No.416 6点 放課後- 東野圭吾 2014/02/07 22:32
再読です。
プロット、ストーリー、トリックなどは決して悪くない。いやむしろ、デビュー作にしては上出来の部類じゃないだろうか。でもねえ、ちょっとテンポが悪くないですかね。読んでいて、飽きるとまでは言わないけれど、なんだか淡々と進行していく感じで、波というか変化に乏しい気がする。まあしかし、乱歩賞を受賞したのもなんとなく理解できるし、新鮮味はなくても女子高生の生々しい会話などはよく描けていると思う。本当はもっと乱暴なんだろうけど。
伏線の張り方はちょっとあからさま過ぎて、そこだけ浮いた感じというか違和感があるのですぐに気付いてしまう。その辺りはやはり若書きということなのだろうか。
だが、全体としてはよく書けているのではないかと思う。現在の人気作家ぶりを予感させるには十分な出来じゃないのかな。
終盤まで、眠気を催すような文章もあるにはあるが、謎解きの場面から突然覚醒したように、俄然面白くなるというか、作者の本領を発揮するので油断ならない。

No.415 7点 成吉思汗の秘密- 高木彬光 2014/02/06 22:23
蒲柳の質と言われながら、意外とタフな東大医学部助教授の天才神津恭介が珍しく急性盲腸炎で入院している時の、ベッド・ディテクティブ。
私は歴史には全く疎い方だが、それでも面白く読めたのは、義経=成吉思汗という昔からある仮説を単なる検証としてだけではなく、あくまでミステリとして読者を引き付けることに成功しているからに他ならないと思う。
膨大な資料や書物から、義経が衣川の戦いで落ち延びて、大陸に渡ってジンギスカンとして復活したという大胆な論説を抽出し、独自の仮説として完成させた、神津の鋭い推理には思わず引き付けられるものがあるし、歴史のロマンを感じ取ることができる。
本作はおそらく日本を代表する歴史ミステリの一つとして数え上げられるべき作品ではないだろうか。
ラストの「なすよしもがな」のくだりは後付けらしいが、ややこじつけめいた感じも受けるのだけれど、個人的にはそれこそ後頭部を殴られたような衝撃を受けた懐かしい記憶がある。

No.414 5点 『瑠璃城』殺人事件- 北山猛邦 2014/02/05 22:24
再読です。(ネタばれあり)
本格ミステリなのかファンタジーなのか判然としない、まさに怪作。だが、有栖川の言うような快作ではないと思う。
物語は3つの時代に生きる、生まれ変わりの3人がそれぞれの時代で奇怪な事件に巻き込まれるという、やや複雑な構成となっている。しかも主人公の二人はそれぞれがどちらかを殺し合う運命にあるらしい。勿論そのくだりの論理的な解説はなされていないので、その辺りは完全なファンタジーである。一方、相変わらずの物理的トリックを用いた、不可能犯罪の数々は本格ファンをも唸らせるものであろうかと思われる。
だが、トリックそのものはどれもさして目を見張るものはない。唯一、図書館での密室殺人のクレセント錠を利用したトリックは、明快で分かりやすく、作者の本領を発揮している。
しかしどうだろう、プロットは面白いのだが、それを上手く料理しきれていないきらいがあるのが残念な気がする。まあデビュー二作目だから仕方ないのだろうか。

No.413 5点 『ギロチン城』殺人事件- 北山猛邦 2014/02/04 22:37
再読です。
プロローグは確かに惹かれるというか、のめり込める、いい雰囲気を持っている。が、約100ページくらいまで殺人が起こらず、正直ダレる。そこからは一転急展開が始まるのだが、どうにもその文体に馴染めなかった。
メイントリックはなかなか良く考えられているとは思うし、犯人の行動に矛盾はなさそうである。しかし、現実的にはまず成立しえないだろう、どう考えてもトリックに気づかれてしまうはずだ。まあしかし、そんなものかもしれないね、物理トリックというのは。
一方、真犯人の正体は、少しだけ読み返したが、はっきり言ってアンフェア。ノベルズの72ページは私の読みが足りないのかもしれないが、地の文の記述におかしな点がある。これには、いくら温厚な私でも一言言わずにはいられない。ここに関してだけは破綻していると思う。だが、それで評価が低くなったわけではない。

No.412 5点 京極夏彦読本 超絶ミステリの世界- 事典・ガイド 2014/02/03 22:28
再読です。
『姑獲鳥の夏』から『塗仏の宴』までの全7作品を、様々な角度からああでもないこうでもないと検証し、論説をぶちかましている。
非常に鋭く的を射た論評を披露しているところもあれば、やや首を傾げたくなるような部分もあるにはある。が、全体的には相当深く掘り下げられており、仮説の上に仮説を塗り重ねたような面もなくはないが、個人的にはなるほどと感心させられるガイドブックに仕上がっていると思う。
特に「京極堂はノイローゼ状態の文豪、関口は自閉症の猿、榎木津はギリシャ彫刻の美貌・・・」などと断じている点。
「『館シリーズ』は『京極堂シリーズ』に引き継がれていった」といった大胆な仮説。
「京極夏彦は自らの<女性性>を露骨にさらしたくなかったのである」などの様々な名言は大変ユニークな発想であろう。
やはり野崎氏はミステリ作家としてよりも、評論家としてのほうが一枚も二枚も上手であるのは本ガイドを読むまでもあるまい。
ところで余談だが、『鵺の碑』は一体いつになったら刊行されるのであろうか。京極と文藝春秋の間で何があったかは知らないが、首を長くして待っているファンが大勢いることは忘れないでほしいものである。もうとうの昔に完成しているはずだと思うのだが、どなたか情報を持っている方がおられたら是非ご教示願いたい。

No.411 7点 鼓笛隊の襲来- 三崎亜記 2014/02/02 22:25
再読です。
奇想天外な設定が楽しい9編からなる短編集。どの作品もごく普通の日常の中に、突如現れる奇怪な現象や現実離れした白昼夢のような出来事を描いたファンタジーである。さらには必ず人と人との様々な繋がり方を情感豊かに描写しており、心温まる、印象深い作品集となっている。
中でも個人的に気に入っているのは、過去最大級の鼓笛隊が日本列島を縦断しようとしているため、多くの住民が避難しているさなか、祖母を中心に家族が結束して難を逃れようと家に立てこもる表題作『鼓笛隊の襲来』。
実物の象がすべり台として公園に設置され、その象を巡っての人情味溢れる感動のストーリー、『象さんすべり台のある街』。
私の落涙ポイントを直撃した、突然の「事故」で大事な人を失った女性の切ない恋物語、最終話の『おなじ夜空を見上げて』。いずれもごく普通の人が主人公であるところが重要ポイントである。
他にも、ちょっといい話や少しだけ感動できる話などが目白押しで、お薦めである。

No.410 4点 倒立する塔の殺人- 皆川博子 2014/02/01 23:20
タイトルからはガチガチの本格かと思わせておいて、ほぼ文学作品、ミステリの要素は構成が作中作というだけで、極薄である。かと言って、作者お得意の幻想小説的な感じでもない。本作は、太平洋戦争末期の日本の女学生たちはこんな言葉遣いをしていたのか、とか、こんなものを食べていたのか、といった日常生活に感心していればいい作品であって、ミステリ的な謎や解決を期待してはいけない。しかも、一度読んだだけではストーリーがはっきりと見えてこない、みたいなかなり難解な小説となっている。だからと言って、決して読みづらいわけではなく、むしろこの作者にしては読みやすい部類だと思われる。
まあしかし、文学作品としてはある程度評価できるのではないだろうか。ただ個人的にはあまり好みの範疇ではなかった。プロットなどは見るべきものはあるが、全体的にまとまりに欠けるきらいがある。巻末の、作品中に登場する画家の作品が何点か掲載されているのは、ちょっと変わった趣向でいいんじゃないかな。

No.409 6点 青空の卵- 坂木司 2014/01/30 22:22
再読です。
本作は趣向を変えて、どうでもいいことを書き連ねていこうと思う。なあに、心配はいらないよ、長々書くつもりはないから。
では早速いってみよう。まず最初に『仔羊の巣』の書評に書いた鳥井がひきこもった原因に関しては、第一話でやはり明らかにされていて、一応納得は出来た。だけどこの青年の性格から言って、ひきこもるようには思えないけどね。ついでに書くと、鳥井は二重人格か、でなければ分裂症なのではないかと勘繰りたくなるような、いきなりの豹変ぶりを見せることがある。これがどうにも不思議でならない。どういう精神構造をしているのだろうか。ただ、探偵としては相当優秀で、文句のつけようがない。
一方、実質的な主役のぼくこと坂木は、あまりにも涙腺が緩すぎるだろう。いい大人なのに毎回泣いているじゃないか。こんな純粋な人間などまあいないって。
他の登場人物に関しては、それぞれ個性があってよく描けていると思う。だから面白いわけだが、人物の造形はさりげない言動に非常によく表れているので、飽きが来ない一つの要因となっている気がする。特に、盲目の美青年、塚田、警官で鳥井たちの同級生である滝本、木工教室の先生で、粋な江戸っ子じいさんの木村。この人たちは主役でも張れそうな個性派ぞろいである。
あと一つ、それぞれの短編のタイトルに季節が入っているが、残念ながら季節感がイマイチ出ていないね。
おっと、ちょっと長くなってしまった、失礼。

No.408 6点 仔羊の巣- 坂木司 2014/01/28 22:35
再読です。
流れるような文体が好ましい、記述者の坂木とひきこもり探偵の鳥井が活躍する連作短編集第二弾。
なのだが、私は明らかにミスを犯していた。当然、シリーズ初作の『青空の卵』から読み直すべきだったのに、何気なく、本当に何気なく本書を手に取ってしまい、行きがかり上最後まで読まざるを得なかった。なぜ鳥井がひきこもりになったのかが、途中から気になって仕方なかった。本作ではその辺りに全く触れられておらず、前作で明らかにされているため重複を避けたと記憶している。まあ仕方あるまい、明日から前作をじっくり読むことにしよう。
さて本作はいわゆる日常の謎を扱った連作短編であるが、ややこのジャンルの他の作品とは一線を画していると思われる。それは、やはり鳥井がひきこもりなのに、他人に対してやけに強気な態度に出たり、或いは鳥井と坂木の妙な関係が影響しているのではないだろうか。詳しくは読んでいただくしかあるまい。
内容は、第一話は坂木の同僚の女性のおかしな挙動を、第二話は地下鉄のホームで一時間も風船を片手に立ち尽くす少年の謎を、最終話は坂木を付け狙う複数の女子高生の謎を、探偵役の鳥井が暴くというもの。
一話ごとに登場人物が増えていき、最後には一堂に会すという、創元社ではお馴染みのスタイルを踏襲している。派手さはないが、じんわりと心に沁み込んでくる感じの、なかなか味のある作品であった。教訓めいた会話もかなり多いが、押しつけがましさがない分、読んでいて苦痛を感じないように作り込まれている気がして、その意味では好感が持てる。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 他多数
採点傾向
平均点: 6.02点   採点数: 1767件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
アンソロジー(出版社編)(23)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(19)
中山七里(19)
日日日(18)
森博嗣(17)