皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1901件 |
No.681 | 6点 | 嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん5 欲望の主柱は絆- 入間人間 | 2016/11/08 21:53 |
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〈僕の脳波と波長を合わせたように、思考が湯女の声と言葉に肉付けされて表に出る。救援と攻撃からかけ離れた、愉悦の落水はどこまでも中立だった。〉本文より抜粋したが、この文章をどれほどの人が理解し、作者の真意をくみ取れるのだろうか。この作品、いやおそらくこのシリーズにはこうした湾曲した、或いは迂遠な言い回しが多分にみられる故、初読の際には十分気を付けられたい。
さて、いよいよ事件も佳境に入り、探偵が真相を明らかにするが、「そんな馬鹿な・・・」というのが正直なところだ。しかし、そう思わせた時点で半分は作者の勝ちだというのは初めから決まっているようなもので、少なくとも私はしてやられたのだと感じた。 この動機の詩的さ、無意味さは『虚無への供物』以来の衝撃なのかもしれない。だからこれは、三大奇書に並ばせるわけにはいかないが、ある意味ではそれらに匹敵する怪作といえるのではないだろうか。 |
No.680 | 5点 | 嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん4 絆の支柱は欲望- 入間人間 | 2016/11/03 22:08 |
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シリーズの途中から読み始めるという罰当たりなことをしたせいもあってか、面白いのか面白くないのかが判然としなかった。ただ、ある人に『1』のあらすじを教えていただき、そのおかげで何とか違和感なく読めたのは幸いであった。
なるほど、ラノベ作家がクローズド・サークルものを書くとこうなるという、良い見本がこの作品なのかもしれないなと思う。しかしながら文体はかなり取っ付きにくいものである。その原因は地の文が比喩的表現に満ちており、一瞬頭の中で?が湧きおこることが多々あったためである。この辺りラノベに慣れない読者の不利さが痛いのだ。ラノベはもっと軽いものではなかったのか、いや軽いのは軽いのだが、そのライトさが他の作家と一線を画する形になっていることは間違いないだろう。 事件は当然起こる、連続殺人事件である。しかし、いわゆる素人探偵による捜査も、生き残った者が全員集まってのディスカッションもほぼカットされている。これで果たしてミステリとして成立するのか、回答は続編に委ねられる。というわけで、次巻完結編でまたお会いしましょう。 |
No.679 | 5点 | 極限トランク- 木下半太 | 2016/10/30 21:44 |
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私こと耳原(みのはら)敏夫は走行中の車のトランクに全裸で閉じ込められていた。口にガムテープ、手足を拘束されて。さらに傍らにはハイヒールを履いただけの半裸の女が横たわっており、彼女は冷たくなっていた。こうした人生最大のピンチともいえる究極の状況から物語は始まる。
なぜ彼がこのような苦境に立たされなければならないのか、それはネタバレになる恐れがあるので詳しくは書けないが、彼の妻と娘が関係しているらしいのだ。 ストーリーは息苦しくなるようなトランクの中と、その原因を引き起こした彼の行動、妻との冷えた関係や二人の過去が目まぐるしく入れ替わり、濃密なサスペンスを生み出している。 さらに物語が進行するにつれ、意外な事件の全容が明らかになってくるという仕掛けである。 面白いのだが、あっさりし過ぎていて、粘着質な描写などは期待してはいけない。サラリと読んで、さっさと忘れるような軽い作品なので、過度の期待は禁物である。終盤にはどんでん返しとも呼べないほどの、ちょっとしたオチが現出するが、予測の範囲内であろう。 |
No.678 | 8点 | 大誘拐- 天藤真 | 2016/10/28 21:49 |
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これは数ある誘拐物の中でも傑作の部類じゃないですか。
全体に緊迫感は感じられないものの、程よいユーモアにおおわれており、各キャラクターも個性的に描かれているのは好感度が高い。中でもやはり主人公のとし刀自は別格である。温かみがありながらも鋭い感性と頭脳の持ち主で、県警本部長の井狩とともに物語を引き締めながら引っ張っていく。 誘拐の過程そのものもマスコミを巻き込んで繰り広げられ、まさに「大誘拐」といった趣はタイトルに偽りなしと言えるだろう。その規模の大きさは前代未聞である。 またなんと言っても印象深いのは終章で、ストーリーに見合った爽やかさを残す、後味の良い締めくくりとなっている。誘拐犯たちも刀自もどこか前向きになれるような、それぞれの身の丈に合った生き方を予感させるラストが、何とも言えない救いを見いだせるのである。 |
No.677 | 7点 | 秘密- 東野圭吾 | 2016/10/21 21:57 |
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バスの転落事故で母娘が共に危険な状態。結局母親が亡くなり娘は生き残るが、娘の肉体には母の魂が宿っていたという、安っぽい設定。だが東野圭吾が描くとそれなりに品格のようなものが備わってしまうから不思議である。
主人公は生き残った娘の父親平介で、妻の直子が乗り移った娘藻奈美との日常生活が微に入り細に入り描かれているが、それでも退屈しないのは彼の心理描写にいちいち説得力があるせいだろうか。 確かにミステリではないが、一流のエンターテインメントに仕上がっており、小説としての魅力は間違いなく持っている。ただ、事故の賠償責任問題や事故を起こした運転手の妻とのやり取りなど、若干もたついて中途半端な印象を受けた。しかしそれも後々ストーリーに影響しては来るのだが。 ラストは衝撃の事実が判明し、タイトルの意味が痛いほど理解できる仕掛けになっている。目立たないが東野圭吾の隠れた名作なのかもしれない。いや、別に隠れてはいないか。 |
No.676 | 7点 | 泣き童子 三島屋変調百物語参之続- 宮部みゆき | 2016/10/17 22:00 |
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さすがは宮部女史。流れるような筆運びとどこか温かみのある文体に乗せて語られる変調百物語の数々。謎というほど大げさではないものの、風変わりで不可思議な怪異はどれも結果的に腑に落ちるものばかりで、納得の連作短編集に仕上がっている。
第二話まで読んで、これは百物語というより何気に人情味のある不思議体験なのだろうと思っていたら、それ以降本物の恐ろしい物語に移り変わるので油断ならない。特に『まぐる笛』の圧倒的な迫力とスケールの大きさは、しばし他の物語を忘れさせるほどの衝撃を私に与えるのであった。 畢竟この作品は、時代小説というカテゴリーや百物語というジャンルを超えた、現代でも十分通用するホラーの傑作であると思う。 |
No.675 | 6点 | おやすみ人面瘡- 白井智之 | 2016/10/12 21:48 |
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白井智之の新作と聞いて黙っていられない私は、さっそく書店に出向き本書をゲットしたのである。読んでみると相変わらずの白井ワールド全開で、二十万人規模の人瘤病患者が日本中に蔓延しているという舞台設定となっている。
前二作に比べて、今回は纏まりとメリハリに欠けるきらいがあり、全体的にだらだらとした印象を受ける。だが、特殊な状況下における事件や解決にはそれなりの必然性があるので、その意味では体のいたるところに複数の人面蒼ができる病気を持つ人物が複数登場するが、その特異設定は生かされていると思う。 まあしかし、よくもこれだけ異常な物語を考えられるものだと感心させられる。さらに細かい部分まで神経が行き届いており、目立った瑕疵や矛盾は感じられない。ただ一部バカミス的な個所もあり読者を翻弄する辺りは、ご愛嬌といったところか。 エピローグではアッと驚く仕掛けも用意されていて、タイトルの意味も大いに納得できるものであった。尚、グロさは幾分抑え気味となっている。 |
No.674 | 8点 | シャーロック・ホームズの冒険- アーサー・コナン・ドイル | 2016/10/07 21:53 |
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子供の頃読んだ時は、ホームズ凄いなあとその慧眼や行動力に憧れたし、これがミステリなんだと感心したものだ。しかし今読んでみると、やはりやや落胆の思いが隠せないのだ。だが、幾人かの方が書かれているように、これが100年以上前の作品であることや、その歴史的価値を鑑みて、8点とした。もし現代の作家によるものであったなら、6点程度と個人的には考える。
ケチをつければいくらでもつけられるホームズの推理だが、その超人ぶりはあの御手洗潔すら凌駕するものである。島荘がいかにこの世界的名探偵の影響を受けたかがうかがい知れるというもの。 各短編は、サスペンスあり、日常の謎的なものあり、意外な凶器あり、教訓を得られるものありとバラエティに富んでおり、タイトル通りまさに『冒険』と呼ぶにふさわしい作品集となっている。 角川文庫版はコスパも優れており、訳も現代的で非常にこなれて読みやすいと思うので、読むならこれではないかと。 |
No.673 | 8点 | スイス時計の謎- 有栖川有栖 | 2016/10/03 21:49 |
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以前、ある知り合いの女性が有栖川有栖の国名シリーズを好んで読んでいた。曰く「面白い、読みやすい」と。私は初期の江神二郎シリーズや『マジックミラー』『46番目の密室』などは読んでいたが、国名シリーズにあまり思い入れはなかったため、そんなものかくらいにしか思っていなかったものだが、本作を読んで考えを改めた。
表題作の目から鱗が落ちるような鮮やかな解決。『あるYの悲劇』のダイイングメッセージの意外性と意表を突くがごとき発想の突飛さ。ほかの二作もそれぞれトリックに新味が感じられ、好感が持てる。 まるでまろやかなココアのような舌触り、そんな読み心地の良い短編集であった。 |
No.672 | 6点 | 貴族探偵対女探偵- 麻耶雄嵩 | 2016/09/28 22:42 |
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亡き師匠の教えを忠実に守り、真面目に事件の謎に取り組む女探偵と、相変わらずふざけた貴族探偵の対決。こうなるとやはり、女探偵に味方したくなるのが人情というもの。むしろ心の中では貴族探偵が失脚すればいいのにと思っていたりして。
しかし、貴族探偵は簡単には馬脚を現さない。その辺りが憎いところではあるのだが。 各短編はストーリーやトリックは意外と単純なのだが、それぞれ捻りが効いており、また趣の違うタイプの作品なので飽きが来ない。 最終話は使用人が登場できないので、どうなるのかと思ったが、なるほどそういう手があったかという、いかにも作者らしい作品である。思ったより気軽に楽しめる連作短編集といった印象。 |
No.671 | 8点 | Xの悲劇- エラリイ・クイーン | 2016/09/23 22:06 |
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再読です。
遠い昔、途中まで読んだが「犯人を知っていた」ため頓挫して、そのまま放置されていた一冊。このたび、ふと思い立って再読しようと決意するに至った。結果、名作の名に恥じぬ面白さで最後まで飽きることなく読めた。久しぶりにページを捲ってみて本当によかったと思えた次第である。 第一の殺人の思いもよらぬ凶器から始まり、捜査陣の心理状態やレーンの鮮やかな行動、第二第三と続く殺人など過不足なく描かれており、ラストの謎解きではまさにレーンの鋭すぎる推理が炸裂する。俯瞰的に見てもよくまとまっており、バーナビー・ロス名義でのデビュー作として、また悲劇四部作の第一作として十分に評価できる作品だと思う。 ただ、真犯人の正体がなぜ誰にも気づかれなかったのか、容疑者があまりに個性がなさすぎるなどの点が気になりはしたが。 |
No.670 | 6点 | 誰も僕を裁けない- 早坂吝 | 2016/09/17 21:52 |
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全体のプロットから細部に至るまで神経が行き届いており、上手にまとめ上げていると思う。しかも、社会派エロミステリの謳い文句は伊達ではなく、その名に恥じぬ?なかなかの完成度である。
一方、トリックに関してはいかにも安直であっと驚くような派手さはない。エロ度も抑え気味で、そちらに期待している読者はやや裏切られたように感じられるのではないだろうか。 途中までは全く関連性のなさそうな二つのストーリーが並行して進むが、これがまた上手く繋がってきて大きく肯かざるを得ない手腕は見事だ。 序盤これはキテると思うほど面白いのに、次第にトーンダウンしていく様はただただ残念な限り。終盤やや盛り返すが、やや小さく纏まってしまった感じがする。 |
No.669 | 6点 | 水族館の殺人- 青崎有吾 | 2016/09/14 22:19 |
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デビュー作に続いてガチガチの本格。でありながら、青春ミステリの側面をチラッと覗かせているところは、作者のサービス精神からなのだろうか。
被害者がサメの餌食になるというショッキングな滑り出しは瞠目させられるが、その後は論理による謎解きの連続で、ややロジックに偏りすぎな感がしないでもない。その中にもハッとするようなトリックや仕掛けが隠されているのならばメリハリも付くのだが、そうした意外性がないのはやや拍子抜けの思いが拭いきれない。勿論、論理によるアリバイ崩しから11人もの容疑者を絞っていくというのも本格ミステリの醍醐味だろうとは思うが。 なお、動機に関しては個人的には納得とまではいかないが、アリだという気がする。読後感も思ったほど悪くはなかった。 |
No.668 | 6点 | かめくん- 北野勇作 | 2016/09/05 22:27 |
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第二十二回日本SF大賞受賞作。
どこか掴みどころのない作品だが、時折まさにSFといったような表現が飛び出して驚かせたりもする。 かめくんはカメ型ヒューマノイドであり、レプリカメとも言うらしい。本作はかめくんの日常を抒情的に描いた連作短編のような作品である。かめくんが、図書館で本を借りたり、家で猫を飼ったり、倉庫でリフトに乗り働いたり、たまに、いや結構推論したり、ワープロを打って人に訴えかけたり、ある女性にほのかに好意を抱くようだったり、つまりはそういった何でもないような出来事をユーモアを交えて描かれている。だが、かめくんには持って生まれた役目があるらしいのだ。それは木星戦争に関係しているらしいのだが、正確なところは最後まで明らかにされない。 終盤、かめくんが「たねがしま」に向かい、家を出て知り合いに別れを告げる辺りはなぜか切なさが込みあげてくる思いがしたものだ。 本作はSFとしては勿論、一つの小説としても評価できる、実に味のある逸品ではないだろうか。 |
No.667 | 6点 | 聖女の毒杯- 井上真偽 | 2016/09/01 22:16 |
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雰囲気は前作とあまり変わらないが、今回はウエオロの代わりに弟子の八ツ星が終盤まで頑張っている。そのため主役の影がやや薄くなっているような気がしないでもない。さらに謎のスケールが格段に小さくなっている。どうしても毒殺というのは地味な印象が拭えないので、こうした派手ななぞかけの応酬を描こうとすると、重箱の隅をつつくような感じになってしまうよね。
まあしかし、その場で思いついた推理を次々と否定していく様は、ある種の推理合戦と言えなくもない。そのようなパズラーを所望している方にはむいているだろう。ただ、あれこれケチをつけようと思えばいくらでもできるとは言える。 |
No.666 | 5点 | さあ、地獄へ堕ちよう- 菅原和也 | 2016/08/25 22:40 |
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第三十二回横溝正史賞受賞作。
主人公は抗不安剤、鎮痛剤などを乱用する、SMバーのホステスで、彼女の周囲で猟奇殺人が連続する。どうやらある闇サイトが関係しているようなのだが。 本作はよく言えば問題作、悪く言えばグロすぎる。これに比べれば『OUT』などは子供みたいなものと思える。映画ならばR指定なんだろうけど、小説の場合はそういう縛りはないのでもちろん誰でも読める。しかし、気分が悪くなりたくない読者は避けるのが無難だろう。身体改造とかに興味がある人は試しに読んでみるのもいいかもしれないが。ちなみに、謎の中心である闇サイトの正体は最初に予想した通りだったので、ややがっかりだった。 ミステリ的要素は後半に若干みられるが、これが横溝正史賞とはねえ。この時の選考委員が誰だったか知らないが、ちょっと悪趣味じゃないのかな。しかし菅原氏のその後の活躍を考えると、まんざら的外れだったとも言えないかもしれない。 いずれにしてもアングラのダークな雰囲気は半端ない。 |
No.665 | 8点 | 女王国の城- 有栖川有栖 | 2016/08/20 22:26 |
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まず、江神が新興宗教の本部に軟禁されているのではないか?という冒頭の謎からして引き込まれる要素は十分。
序盤から中盤にかけては、多くの方が指摘されているようにテンポの悪さが目立ち、本筋とあまり関係ないと思われるエピソードがいくつか見られるのはマイナス点か。が、織田とマリアの脱出劇などの冒険シーンは個人的には読みごたえがあった。まあここは無駄に長いという意見も分からないでもないけれど。 過去から飛来した凶器の拳銃、閉ざされた聖洞、緻密に絞られる犯人像など、江神の推理は冴えわたり、全く齟齬のない解決を披瀝し読者をねじ伏せる。 ただ一点、人類協会代表の野坂公子が姿を現すことが最後の最後まで一度もなかったのが気になっていたのだが、それもエピローグを読んで深く納得したのである。なるほど、こんなところにも仕掛けというか、伏線が張られていたのかと思うと、作者の懐の深さを実感せざるを得ない。 |
No.664 | 7点 | 陽だまりの偽り- 長岡弘樹 | 2016/08/06 22:20 |
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これこそ良作揃いの短編集だと思う。スケールの大きさはないが、それぞれの主人公の心の揺れが手に取るように分かり、気の利いたささやかな反転も味わえる。
ただ、あまりにあからさまな伏線がいくつか見られ、ミエミエの展開は少々うざかったりもした。でも、丁寧な文章と救いのあるオチは心温まる印象が残る。 また、この作者は様々なハンディを背負った人物を描くのが上手いようで、憐れみを誘うのではなく、ありのままを付かず離れず描写することにより、逆に読者の関心をとらえて離さない魅力を控えめに主張しているように思う。 |
No.663 | 7点 | ブラッド・アンド・チョコレート- 菅原和也 | 2016/08/02 22:11 |
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結論から言うと、面白かったし特にトリックに関して新味と感じられる部分があり、高得点は必至かと思う。また、青春ミステリとしても見るべきところが多く、その意味でも一読の価値はあるのではないかと思われる。
前半部分で殺人は起こるが、それまで退屈することはなく、怪しげな超能力者たちが現れ、彼らは果たして本物なのかという興味を惹かれることに。その超能力研究機関という舞台がトリックを可能にする一種の装置となり、また新興宗教に近い団体として作品そのものの雰囲気づくりに一役買っているのも計算づくであろう。 ただ、全体としてストーリー展開が何となく読めてしまうので、意外性という意味では若干物足りないというか、いわゆる予定調和的になってしまっているのがややマイナス点だろうか。 |
No.662 | 5点 | 犬は書店で謎を解く- 牧野修 | 2016/07/28 22:27 |
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作品とは関係ないですが、名探偵ジャパンさんが復活されて密かに喜んでいるメルカトルです。
さて本作、冒頭でいきなり飼い犬とその主人の中身が入れ替わってしまう。そして悪かった性格が一変し、すこぶる素直で真面目に変身してしまう主人公の萩兎(中身は犬)は書店に雇われ、犬のハギト(中身は人間)とともに謎を解いていく。 タイトルから受ける印象は日常の謎以外何物でもないが、違った。事件は放火、盗撮、誘拐など多岐に亘るが、その割にとても薄味である。一応ミステリとして形にはなっているが、どこか物足りないというか、食い足りないのである。 一つなるほどと思ったのは、忠犬が人間になるとこんな感じなのか、確かに犬は人間の持つ醜さとは無縁なので、無垢で勘ぐることを知らない人間になるんだなあと。 この手の作品は最後にはまた入れ替わりが起こり、元に戻るのがお約束だが、本作はその方法もストーリーの中で自然に成され、違和感がない。後味も悪くはなかったが、まあ毒にも薬にもならない感じだったのがやや心残りだった。 |