皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1829件 |
No.689 | 5点 | 虚実妖怪百物語 序- 京極夏彦 | 2016/12/14 21:55 |
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京極版「妖怪大戦争」らしいが、序というだけあって一冊丸ごとプロローグのような作品である。
妖怪関係者?の水木しげる、荒俣宏、京極夏彦ら作家陣に編集部の人々が多分実名で加わり、さらに榎木津礼二郎の子孫らしき榎木津平太郎や木場という人物まで参戦している。 本作の手法は映画『ジョーズ』に似ており、序盤に妖怪をちらつかせておいて、その周辺の出来事を冗談っぽく描いてイライラさせて、最後にぞろぞろと妖怪を登場させるという常套手段を取っている。 ただ残念なのは三人称で書かれているが、京極夏彦を京極自身がどう描くのかと言う興味を持って読んだわけだが、結局本人は本作では登場しなかったことだ。ちょっと焦らしすぎじゃなかろうか。いずれ続巻を読むのだから少しくらいサービスすればいいのにと思うが。 |
No.688 | 8点 | 猫には推理がよく似合う- 深木章子 | 2016/12/09 21:52 |
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たとえ単行本でも、これはと思った作品は迷わず買うのが私のスタンスでもある。そしてこれは大正解であった。面白い。それはもう非の打ち所がないというか、文句のつけようがないというか。
しかし、何を書いてもネタバレにつながるので、何も書けない。下手なことを書いたらこれから読む人に叱られるのだ。この作品こそ大いに人に薦められるミステリに違いないと私は断定する。あ、個人的に、です。 私はこれを読みながら、昔「新本格」に夢中だったころの自分を思い出していた。雰囲気が何となくあの頃のそれに似ていなくもないような・・・。とにかく、文庫化されてからでもいいから読んでほしいなあ。 |
No.687 | 6点 | 首折り男のための協奏曲- 伊坂幸太郎 | 2016/12/05 21:50 |
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思えば単行本刊行時から文庫化を待ち続けていた気がする。その魅惑的なタイトルに惹かれ、しかし期待を裏切られた時の保険として文庫本を待つ姑息さ。それこそが私の読書に対する姿勢であり本質なのだ。
で結局本作の感想はと言うと、可もなく不可もなくといったところか。タイトルから想像されるようなもっとダークな感じのサスペンスを想定していたことは自分の身勝手ではあるが、考えてみれば伊坂幸太郎がそんな暗い話を書くはずがないではないか。というわけで、この愛すべき短編集は連作と捉えると「ちょっと違う」と思わざるを得ないので、それぞれが独立した短編と考えたほうが都合がいいように思う。下手に首折り男はいったいなぜ次々と殺人を犯すのかとか、どんな残虐な性格の持ち主なのかとか、あまり深追いしないで、それぞれ色の違う短編を楽しむ余裕を持って臨むのが得策ではないだろうか。 個人的には『人間らしく』のクワガタのエピソードが好きだ。本作品集の中ではそれほど重要なポイントではないが、このマニアックさがたまらないのである。『合コンの話』も最もまとまりがあって好感が持てる。 |
No.686 | 6点 | オーブランの少女- 深緑野分 | 2016/12/01 22:07 |
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どの作品も文芸としては一流かもしれないが、ミステリとしてはいささか薄味。しかしながら、どれもなかなかに印象深いのでもっと高得点を付けるのに吝かではないのだが、いかんせんミステリ要素が薄く・・・。
例えば表題作『オーブランの少女』などは、導入部に関しては申し分のない吸引力を持って読者を引き付けるので、その後の展開が物凄く期待できるが、結局謎解きはほとんど皆無であり、起こったことをそのまま書き連ねているに過ぎず、個人的には望んでいない方向へ行ってしまった感が強い。実に勿体ないと思う。 また最終話『氷の皇国』は全般的に引き締まった好編だが、やはり謎解きが中途半端だし、犯人もあまりにミエミエでせっかくの素材が台無しになってしまっている。まあそれを差し引いても高得点は堅いのだけれど。 というわけで、私としては作者の力量は認めるが、このサイトでの採点はこの程度で致し方ないのだ。今後の活躍に期待したい作家ではある。 |
No.685 | 6点 | 人ノ町- 詠坂雄二 | 2016/11/26 22:10 |
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旅人が世界各地?を放浪し出会う、様々な不思議な出来事。無国籍でありながら旅情を誘う連作短編集。
これは凄いとは思わないがなんかいい。謎もいたってシンプルだがなんかいい。乾いたざらざらした質感がなんかいい。 そう、この作品は読んでいて異国を旅しているような錯覚を覚える、そんな物語なのだ。主人公は旅慣れているので、言葉には困らないらしいし、結構危険な目にあったりもするのだが、落ち着いた言動で余裕をもって回避できる度胸の持ち主だ。そんな旅人とともに放浪気分を味わいたいと思う人にはお薦め。 詠坂氏にしては分かりやすい文体なので思ったより読みやすいし、それぞれの短編がなかなかに印象深いので、長く記憶に残りそうな予感がする。 |
No.684 | 6点 | おそろし 三島屋変調百物語事始- 宮部みゆき | 2016/11/23 21:55 |
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第一話はかなり怖い、オチが素晴らしい。しかし残念ながら次第にトーンダウンしていく気がする。どれも今一つ捻りが足りないというか、ストーリーをすんなり落としすぎという感じがしてならない。
とは言え、文章の流麗さ、情感あふれる描写力、臨場感、どれをとっても一流と言って差し支えないだろうと思う。 ホラーとしては第一話を除いて、それほど怖さを感じないが、このシリーズはそういう問題ではないのだろう。人間の業の深さを鋭く抉り、その存在の儚さを幾度となく繰り返し指摘しているところを見る限り、宮部の怪談はその名の通り変調、変わり百物語だと言えるのではないか。 |
No.683 | 7点 | あやし~怪~- 宮部みゆき | 2016/11/16 21:55 |
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江戸の怪談話(勿論フィクション)を集めた短編集。全体的に暗い。怪談だから当然かもしれないが、その分雰囲気としては最高。ところが人間が生きている。生き生きしているわけではないのだが、ほとんどの登場人物に存在感があり、それはほんの端役に関しても言える。
江戸時代だからと言って、妖怪や幽霊の類はほぼ出てこない。やはり怖いのは人間そのものということだろう。 個人的にベストは『女の首』。この作品が最もミステリ的趣向が盛り込まれているからである。ホラーだけど話が理路整然としており、起承転結もしっかりしているので、読んでいて一番気持ちがよかった。主人公の太郎にもなんとなく感情移入できるところもお気に入り。 |
No.682 | 5点 | 緋い猫- 浦賀和宏 | 2016/11/10 22:03 |
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昭和二十四年の東京。プロレタリア文学好きの女子高生洋子は、学生や工員たちの集う喫茶店で、共産主義寄りのリーダー的存在である青年佐久間に惹かれていく。ところが、周りに恋人同士と認められた頃、彼は突如失踪する。洋子は青森にある彼の実家を訪ねるが、それが彼女の運命を狂わせることになるのだった。
というわけで、本格として登録されているが、サスペンスなので読もうと思っている方は(多分いない)、注意されたい。 まあ何となく既視感を覚えるストーリーだし、実際よくあるパターンの物語だが、それなりに新味があるのかと問われれば否と答えるしかない。帯には「息を呑む、衝撃的な結末!」と謳っているが、読者が期待している種類のものとは違い・・・おっとこれ以上はネタバレになるから書けない。 浦賀らしいと言えばそれまでだが、中身が希薄なのはお約束のようなものだ。主人公の洋子と共に過酷な運命を追体験すればそれで十分な作品だと思う。 |
No.681 | 6点 | 嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん5 欲望の主柱は絆- 入間人間 | 2016/11/08 21:53 |
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〈僕の脳波と波長を合わせたように、思考が湯女の声と言葉に肉付けされて表に出る。救援と攻撃からかけ離れた、愉悦の落水はどこまでも中立だった。〉本文より抜粋したが、この文章をどれほどの人が理解し、作者の真意をくみ取れるのだろうか。この作品、いやおそらくこのシリーズにはこうした湾曲した、或いは迂遠な言い回しが多分にみられる故、初読の際には十分気を付けられたい。
さて、いよいよ事件も佳境に入り、探偵が真相を明らかにするが、「そんな馬鹿な・・・」というのが正直なところだ。しかし、そう思わせた時点で半分は作者の勝ちだというのは初めから決まっているようなもので、少なくとも私はしてやられたのだと感じた。 この動機の詩的さ、無意味さは『虚無への供物』以来の衝撃なのかもしれない。だからこれは、三大奇書に並ばせるわけにはいかないが、ある意味ではそれらに匹敵する怪作といえるのではないだろうか。 |
No.680 | 5点 | 嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん4 絆の支柱は欲望- 入間人間 | 2016/11/03 22:08 |
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シリーズの途中から読み始めるという罰当たりなことをしたせいもあってか、面白いのか面白くないのかが判然としなかった。ただ、ある人に『1』のあらすじを教えていただき、そのおかげで何とか違和感なく読めたのは幸いであった。
なるほど、ラノベ作家がクローズド・サークルものを書くとこうなるという、良い見本がこの作品なのかもしれないなと思う。しかしながら文体はかなり取っ付きにくいものである。その原因は地の文が比喩的表現に満ちており、一瞬頭の中で?が湧きおこることが多々あったためである。この辺りラノベに慣れない読者の不利さが痛いのだ。ラノベはもっと軽いものではなかったのか、いや軽いのは軽いのだが、そのライトさが他の作家と一線を画する形になっていることは間違いないだろう。 事件は当然起こる、連続殺人事件である。しかし、いわゆる素人探偵による捜査も、生き残った者が全員集まってのディスカッションもほぼカットされている。これで果たしてミステリとして成立するのか、回答は続編に委ねられる。というわけで、次巻完結編でまたお会いしましょう。 |
No.679 | 5点 | 極限トランク- 木下半太 | 2016/10/30 21:44 |
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私こと耳原(みのはら)敏夫は走行中の車のトランクに全裸で閉じ込められていた。口にガムテープ、手足を拘束されて。さらに傍らにはハイヒールを履いただけの半裸の女が横たわっており、彼女は冷たくなっていた。こうした人生最大のピンチともいえる究極の状況から物語は始まる。
なぜ彼がこのような苦境に立たされなければならないのか、それはネタバレになる恐れがあるので詳しくは書けないが、彼の妻と娘が関係しているらしいのだ。 ストーリーは息苦しくなるようなトランクの中と、その原因を引き起こした彼の行動、妻との冷えた関係や二人の過去が目まぐるしく入れ替わり、濃密なサスペンスを生み出している。 さらに物語が進行するにつれ、意外な事件の全容が明らかになってくるという仕掛けである。 面白いのだが、あっさりし過ぎていて、粘着質な描写などは期待してはいけない。サラリと読んで、さっさと忘れるような軽い作品なので、過度の期待は禁物である。終盤にはどんでん返しとも呼べないほどの、ちょっとしたオチが現出するが、予測の範囲内であろう。 |
No.678 | 8点 | 大誘拐- 天藤真 | 2016/10/28 21:49 |
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これは数ある誘拐物の中でも傑作の部類じゃないですか。
全体に緊迫感は感じられないものの、程よいユーモアにおおわれており、各キャラクターも個性的に描かれているのは好感度が高い。中でもやはり主人公のとし刀自は別格である。温かみがありながらも鋭い感性と頭脳の持ち主で、県警本部長の井狩とともに物語を引き締めながら引っ張っていく。 誘拐の過程そのものもマスコミを巻き込んで繰り広げられ、まさに「大誘拐」といった趣はタイトルに偽りなしと言えるだろう。その規模の大きさは前代未聞である。 またなんと言っても印象深いのは終章で、ストーリーに見合った爽やかさを残す、後味の良い締めくくりとなっている。誘拐犯たちも刀自もどこか前向きになれるような、それぞれの身の丈に合った生き方を予感させるラストが、何とも言えない救いを見いだせるのである。 |
No.677 | 7点 | 秘密- 東野圭吾 | 2016/10/21 21:57 |
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バスの転落事故で母娘が共に危険な状態。結局母親が亡くなり娘は生き残るが、娘の肉体には母の魂が宿っていたという、安っぽい設定。だが東野圭吾が描くとそれなりに品格のようなものが備わってしまうから不思議である。
主人公は生き残った娘の父親平介で、妻の直子が乗り移った娘藻奈美との日常生活が微に入り細に入り描かれているが、それでも退屈しないのは彼の心理描写にいちいち説得力があるせいだろうか。 確かにミステリではないが、一流のエンターテインメントに仕上がっており、小説としての魅力は間違いなく持っている。ただ、事故の賠償責任問題や事故を起こした運転手の妻とのやり取りなど、若干もたついて中途半端な印象を受けた。しかしそれも後々ストーリーに影響しては来るのだが。 ラストは衝撃の事実が判明し、タイトルの意味が痛いほど理解できる仕掛けになっている。目立たないが東野圭吾の隠れた名作なのかもしれない。いや、別に隠れてはいないか。 |
No.676 | 7点 | 泣き童子 三島屋変調百物語参之続- 宮部みゆき | 2016/10/17 22:00 |
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さすがは宮部女史。流れるような筆運びとどこか温かみのある文体に乗せて語られる変調百物語の数々。謎というほど大げさではないものの、風変わりで不可思議な怪異はどれも結果的に腑に落ちるものばかりで、納得の連作短編集に仕上がっている。
第二話まで読んで、これは百物語というより何気に人情味のある不思議体験なのだろうと思っていたら、それ以降本物の恐ろしい物語に移り変わるので油断ならない。特に『まぐる笛』の圧倒的な迫力とスケールの大きさは、しばし他の物語を忘れさせるほどの衝撃を私に与えるのであった。 畢竟この作品は、時代小説というカテゴリーや百物語というジャンルを超えた、現代でも十分通用するホラーの傑作であると思う。 |
No.675 | 6点 | おやすみ人面瘡- 白井智之 | 2016/10/12 21:48 |
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白井智之の新作と聞いて黙っていられない私は、さっそく書店に出向き本書をゲットしたのである。読んでみると相変わらずの白井ワールド全開で、二十万人規模の人瘤病患者が日本中に蔓延しているという舞台設定となっている。
前二作に比べて、今回は纏まりとメリハリに欠けるきらいがあり、全体的にだらだらとした印象を受ける。だが、特殊な状況下における事件や解決にはそれなりの必然性があるので、その意味では体のいたるところに複数の人面蒼ができる病気を持つ人物が複数登場するが、その特異設定は生かされていると思う。 まあしかし、よくもこれだけ異常な物語を考えられるものだと感心させられる。さらに細かい部分まで神経が行き届いており、目立った瑕疵や矛盾は感じられない。ただ一部バカミス的な個所もあり読者を翻弄する辺りは、ご愛嬌といったところか。 エピローグではアッと驚く仕掛けも用意されていて、タイトルの意味も大いに納得できるものであった。尚、グロさは幾分抑え気味となっている。 |
No.674 | 8点 | シャーロック・ホームズの冒険- アーサー・コナン・ドイル | 2016/10/07 21:53 |
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子供の頃読んだ時は、ホームズ凄いなあとその慧眼や行動力に憧れたし、これがミステリなんだと感心したものだ。しかし今読んでみると、やはりやや落胆の思いが隠せないのだ。だが、幾人かの方が書かれているように、これが100年以上前の作品であることや、その歴史的価値を鑑みて、8点とした。もし現代の作家によるものであったなら、6点程度と個人的には考える。
ケチをつければいくらでもつけられるホームズの推理だが、その超人ぶりはあの御手洗潔すら凌駕するものである。島荘がいかにこの世界的名探偵の影響を受けたかがうかがい知れるというもの。 各短編は、サスペンスあり、日常の謎的なものあり、意外な凶器あり、教訓を得られるものありとバラエティに富んでおり、タイトル通りまさに『冒険』と呼ぶにふさわしい作品集となっている。 角川文庫版はコスパも優れており、訳も現代的で非常にこなれて読みやすいと思うので、読むならこれではないかと。 |
No.673 | 8点 | スイス時計の謎- 有栖川有栖 | 2016/10/03 21:49 |
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以前、ある知り合いの女性が有栖川有栖の国名シリーズを好んで読んでいた。曰く「面白い、読みやすい」と。私は初期の江神二郎シリーズや『マジックミラー』『46番目の密室』などは読んでいたが、国名シリーズにあまり思い入れはなかったため、そんなものかくらいにしか思っていなかったものだが、本作を読んで考えを改めた。
表題作の目から鱗が落ちるような鮮やかな解決。『あるYの悲劇』のダイイングメッセージの意外性と意表を突くがごとき発想の突飛さ。ほかの二作もそれぞれトリックに新味が感じられ、好感が持てる。 まるでまろやかなココアのような舌触り、そんな読み心地の良い短編集であった。 |
No.672 | 6点 | 貴族探偵対女探偵- 麻耶雄嵩 | 2016/09/28 22:42 |
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亡き師匠の教えを忠実に守り、真面目に事件の謎に取り組む女探偵と、相変わらずふざけた貴族探偵の対決。こうなるとやはり、女探偵に味方したくなるのが人情というもの。むしろ心の中では貴族探偵が失脚すればいいのにと思っていたりして。
しかし、貴族探偵は簡単には馬脚を現さない。その辺りが憎いところではあるのだが。 各短編はストーリーやトリックは意外と単純なのだが、それぞれ捻りが効いており、また趣の違うタイプの作品なので飽きが来ない。 最終話は使用人が登場できないので、どうなるのかと思ったが、なるほどそういう手があったかという、いかにも作者らしい作品である。思ったより気軽に楽しめる連作短編集といった印象。 |
No.671 | 8点 | Xの悲劇- エラリイ・クイーン | 2016/09/23 22:06 |
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再読です。
遠い昔、途中まで読んだが「犯人を知っていた」ため頓挫して、そのまま放置されていた一冊。このたび、ふと思い立って再読しようと決意するに至った。結果、名作の名に恥じぬ面白さで最後まで飽きることなく読めた。久しぶりにページを捲ってみて本当によかったと思えた次第である。 第一の殺人の思いもよらぬ凶器から始まり、捜査陣の心理状態やレーンの鮮やかな行動、第二第三と続く殺人など過不足なく描かれており、ラストの謎解きではまさにレーンの鋭すぎる推理が炸裂する。俯瞰的に見てもよくまとまっており、バーナビー・ロス名義でのデビュー作として、また悲劇四部作の第一作として十分に評価できる作品だと思う。 ただ、真犯人の正体がなぜ誰にも気づかれなかったのか、容疑者があまりに個性がなさすぎるなどの点が気になりはしたが。 |
No.670 | 6点 | 誰も僕を裁けない- 早坂吝 | 2016/09/17 21:52 |
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全体のプロットから細部に至るまで神経が行き届いており、上手にまとめ上げていると思う。しかも、社会派エロミステリの謳い文句は伊達ではなく、その名に恥じぬ?なかなかの完成度である。
一方、トリックに関してはいかにも安直であっと驚くような派手さはない。エロ度も抑え気味で、そちらに期待している読者はやや裏切られたように感じられるのではないだろうか。 途中までは全く関連性のなさそうな二つのストーリーが並行して進むが、これがまた上手く繋がってきて大きく肯かざるを得ない手腕は見事だ。 序盤これはキテると思うほど面白いのに、次第にトーンダウンしていく様はただただ残念な限り。終盤やや盛り返すが、やや小さく纏まってしまった感じがする。 |