皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1829件 |
No.769 | 8点 | 斜め屋敷の犯罪- 島田荘司 | 2017/08/26 22:11 |
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プロの作家のみなさんにはとても受けが良いらしく、綾辻行人氏などは『占星術殺人事件』よりも本作のほうが好みに合っているとし、高評価を与えている本作。しかし、私的にはなかなかに評価が難しいのです。決してバカミスとは思いませんが、例のトリックはやはり賛否両論あろうかというのは理解できる気がします。確かに大トリックには違いないと思いますが、個人的には『占星術殺人事件』には遠く及ばないんですよね。
しかし、最もエキセントリックな御手洗が読めるのは本作ではないかと感じます。人の誕生日は覚えるのに、人の名前は間違える、しかも何度も間違えて呼んでも訂正しようとしない。この性質はこれ以降なりを潜めるので、変人・御手洗潔が最も顕著に表に現れる作品とも言えるでしょう。 私が一番気になるのは、なぜわざわざ斜め屋敷のような建物にしたのかという点です。別に普通の建築物でもトリックには差し支えないわけですし。まあそのほうが雰囲気は出ますし、私の読み違いかもしれませんけどカムフラージュですかね。その辺りうろ覚えな部分がありますので、大目に見ていただきたいと思います。 |
No.768 | 6点 | 大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう- 山本巧次 | 2017/08/25 22:03 |
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江戸時代の事件の証拠物件を現代の先端技術で解析するというアイディアは、なかなか面白いと思います。しかし、事件そのものがあまり魅力的ではなく、殺人事件もおまけ程度で、軽んじられているところも食い足りなかったりします。
さらには、謎解き要素が少なく本格ミステリというより、主人公おゆうの冒険譚という意味合いが強いので、本格志向の読者にはかなり物足りないかもしれません。フーダニットもハウダニットもホワイダニットも、いずれも科学捜査によりすぐに解決してしまい、推理が入り込む余地はほとんどありません。その辺りがやや拍子抜けでした、残念ながら。 どんでん返しにはちょっと驚きましたが、何よりラストの落としどころが、もし正解があるとすれば、大正解だったと思いますね。見事に着地が決まりました。 全体として面白かったとは言い難いですが、後半は新人にしてはよく描けていたと思います。シリーズ化されるのも無理からぬことだと、そこは納得ですかね。 |
No.767 | 6点 | 魔神の遊戯- 島田荘司 | 2017/08/23 22:20 |
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本作は御手洗潔シリーズにおける、最も異色な作品だと私は思います。理由はあとで述べます。
舞台はネス湖畔の小さな村。旧約聖書に擬えられた、魔神の仕業としか考えられないような連続バラバラ殺人事件。人間業と思えない凄まじい力で引きちぎられた猟奇的な死体。まさに島田ワールド全開な様相を呈しており、いかにもならしさは作品の出来不出来に関わらず、読む者を引きずり込まずにはいられないでしょう。しかし、どこか違和感が・・・この違和感の正体を見破れれば本作に施された仕掛けは意外と簡単に解ってしまいそうです。 他の方も書かれていますが、死体にかけられた無理な力のトリックはあまり感心しませんね。まあ島荘らしいと言えばらしいのですが。 【ネタバレ】 島荘は○○トリックは使用しないという先入観を利用したことが、先に述べた異色作と言うことになりはしないかと思います。 よく注意して読めば、このミタライはややおとなし過ぎるし、特有のアクの強さがあまり感じられません。そういった違和感に疑問を感じれば、仕掛けられたメイントリックには気付きやすいでしょう。 私は勿論騙されましたけれど。 |
No.766 | 5点 | 御手洗潔のメロディ- 島田荘司 | 2017/08/21 22:12 |
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再読です。
第一話『IgE』は超人御手洗潔の天才ぶりを遺憾なく発揮した本格ミステリです。二人の依頼人の一見全く関係なさそうな依頼をかなり無理やりっぽく繋げ、一つのストーリーを築き上げてしまう御手洗の頭脳に只々ひれ伏すだけです。しかし、四つの短編の中では最も評価されてしかるべき作品ですね。この頃はまだ花粉症の効果的な市販薬がなかった時代なのでしょう。 『SIVAD SELIM』はミステリではありませんが、なかなか好感の持てる逸品です。外国人高校生の身障者のためのコンサートにぜひ御手洗を招いて演奏をしてもらいたいとの依頼を断る御手洗。石岡の必死の頼みにもどうしても首を縦に振らない。仕方なしに石岡一人で審査員を引き受けることに。石岡君の天然ぶりに読んでいるこちらも観客同様大爆笑となります。 『ボストン幽霊絵画事件』はまあそれなりって感じですか。御手洗シリーズは三人称よりも石岡君の一人称の文章に限りますね。この作品に関しては、舞台が外国というだけで身構えてしまい、あまり面白さがストレートに伝わってきませんでした。出来自体もイマイチな感じがします。 最後の『さらば遠い輝き』はレオナの御手洗に対する想いが、一方通行にせよまあその熱量が伝わってきます。しかし、レオナ・ファンでなければ取るに足らない作品かと思われます。 第一話、第二話はまずまずですが、それ以外はどちらかと言うと凡作の部類に入るんじゃないでしょうか。 |
No.765 | 6点 | 黒龍荘の惨劇- 岡田秀文 | 2017/08/11 22:07 |
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この手の作品は昔で言えば横溝正史、今なら三津田信三が代表格でしょうが、彼らに挑戦するようにわらべ歌に見立てた首なし死体が次々に現れます。ただ、おどろおどろしい雰囲気はあまりなく、淡々と描かれます。そのため、強烈なインパクトに欠けると言いますか、とんでもない大事件なのになんだか登場人物も命が狙われている切迫感が感じられません。これには理由がありますが、敢えて書きません。
事件はページ数が残り僅かになってもまるで解決しそうになく、伊藤博文が長広舌を披露したりして大丈夫か?と思わせますが、柱となる大きなトリックが謎の大部分を支えているため、いくつ謎が積み上げられていても芋づる式に解決します。 しかし、私的にはあっと驚くようなトリックとは思えず、何と言いますか、裏技的な印象ですかね。あまり現実的なものとも言えないと思います。少なくとも大きなカタルシスを得られるようなものではありませんでした。 わざわざ時代設定を明治時代にしたのも、現代では通用しないトリックであり、その点において残念ながら高評価とならないのではないかと。そう思います。 探偵の月輪はあまり名探偵らしくない言動で、目立ちませんね。もう少し個性的に描いてあげたほうが、それだけでも評価が高まった気がします。 |
No.764 | 6点 | T島事件 絶海の孤島でなぜ六人は死亡したのか- 詠坂雄二 | 2017/08/06 22:29 |
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実に惜しいと思います。あとわずかで傑作になり損ねた残念な作品といった感じがします。それはサブタイトル通り、奇数章で描かれる、孤島でホラー映画のロケハンを行ったすべてのスタッフが死亡していく様がかなり退屈だからです。特に記号化された登場人物たちが見事に無個性で、単にセリフを喋って行動して死んでいくのを淡々と描いていますが、ある意味ドキュメンタリータッチで、何の面白みもなく延々読まされては、正直苦痛さえ感じてしまうというものです。
この事件は大部分がカメラにおさめられているのですが、警察も犯人追及を放棄したように、それぞれの事件が事故なのか自殺なのか殺人なのか判然としません。結局は『そして誰もいなくなった』へのオマージュなのか、それとも何か斬新な仕掛けが施してあるのか、それすらも最後まで五里霧中という仕組みです。 偶数章で探偵社に勤める探偵たちがああでもないこうでもないと推理を戦わせますが、それすらもなぜかもどかしく感じられて仕方ありません。名探偵の月島凪の不在が痛いです。 【ネタバレ】 最初の三件が殺人、殺人、自殺でここまではいいです。しかしその後は期せずして起こった事故、殺人、自殺というのがどうにも釈然としません。これらは「呪い」として片づけられますが、真相として納得がいかないというか、偶然に過ぎるきらいがありますね。 最終章ですべてがひっくり返りますが、なんとなくすっきりしません。ここでもっと驚愕の事実が明らかになっていれば、それまでの低迷ぶりをすべて吹き飛ばせたのにと思うと残念です。ただ、この章の存在感は個人的には好みです、いかにも捻くれた作者らしいと思います。 |
No.763 | 7点 | アンデッドガール・マーダーファルス1- 青崎有吾 | 2017/08/02 22:24 |
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「怪物」が跋扈するパラレルなヨーロッパを舞台にした、本格謎解きミステリ+アクション娯楽小説、ですかね。
実に面白く楽しいです。かなり風変わりな探偵と「鳥籠使い」の探偵助手、そしてメイドの静句。三人の個性的な登場人物のやり取りだけでも楽しめます。その他にも灰色の脳細胞の小男の警部や、名前だけですがルールタビーユも出てきます。その辺り、ミステリファンの遊び心をくすぐる技に長けているとも言えそうです。 第一章は吸血鬼が主役です。特殊な舞台設定を存分に生かしたトリックや謎解きは、さすがに作者らしく、端正で過不足のないものとの印象を受けます。そして真相が判明した後のアクションシーンも、おまけとして十分すぎるくらいなサービス精神でもって描かれています。 第二章は人造人間がメインテーマです。ダミーの解決編も悪くないですが、真相は解りやすく、多くの読者の予想通りでしょう。ですが、その見せ方が堂に入っているので、「分かってるからとっととやってくれ」とはならないと思います。そしてまたしてもアクションシーン。やや長いですが、それなりに読み応えはあります。 続編は評価が低いようですが、どうしますかね・・・。 |
No.762 | 6点 | 風ヶ丘五十円玉祭りの謎- 青崎有吾 | 2017/07/28 22:04 |
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裏染天馬が日常の謎に挑戦する連作短編集。
全体として平均的な出来で、突出した作品や他より劣るような作品はない模様です。 表題作は祭りの屋台のおつりがどこも50円玉で返ってくるという魅力的な謎に対して、裏染が暴く真相はかなり拍子抜けの感は否めません。 最も面白かったと思うのは『もう一色選べる丼』で、学食のすぐ外に放置されたどんぶりの謎に挑んでいます。ただ、裏染は犯人を左利きだと断定していますが、実際自分で試してみたところ、必ずしも左利きとは限らないことが判明しました。まあケチを付ける程度のレベルですが、このように限られた枚数の中で論理を展開して完璧な解決に導くのは難しかったようで、ややこじつけがましい点がないでもないと感じます。しかし、やはり本作もロジックに特化した本格ミステリであるのは間違いなく、今この範疇での第一人者は青崎氏だというのは万人が認めるところだと思います。 まるで関係ない話ですが、香織の名が出るたびに松村香織の顔がちらつくのには参りました。 |
No.761 | 6点 | 動く家の殺人- 歌野晶午 | 2017/07/27 22:06 |
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【ネタバレ 未読の方は要注意】
デビュー作『長い家の殺人』が個人的にどうもイマイチでしたので、あまり期待していませんでしたが、比較するとかなり読みやすく垢抜けた感じがします。 いきなりの名探偵信濃譲二が殺されたという記述には、一瞬えっと思いましたが、勿論眉唾ものです。信濃の免許証を盗んだなりすましのことです。ですから、突き詰めればアンフェアと言えるのではないかと思います。まあしかし、読者を引き付ける意味では成功しているでしょうね。 『動く家』というタイトルですが、まず家ではありません、劇場です。しかも劇場には何の仕掛けもしてありません。一応ダミーのトリックは存在しますが。そのダミーに見事に騙されたうちの一人は私です。 最後に本物の信濃譲二が登場して謎解きをしますが、大麻所持の罪で逮捕されます。なるほど、だからシリーズ最終作というわけですね。名探偵をネタにした作品は他にもありますが、本作はどちらかというと小ネタの一つ的な扱いのような気がしました。 |
No.760 | 6点 | 十字架- 重松清 | 2017/07/25 22:46 |
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吉川英治文学賞受賞作。
1989年9月4日、あいつが死んだ。中学2年の二学期が始まった直後だった。遺書には僕、真田裕のことを「親友になってくれてありがとう。ユウちゃんの幸せな人生を祈っています」とあった。親友でもないのに。 同じ学年の中川小百合にも「迷惑をおかけして、ごめんなさい。お誕生日おめでとうございます。幸せになってください」と。何ら関係のなかったはずなのに。 いじめのせいで自殺したのは明らかだったけれど、僕と中川さんは重い十字架を背負わされた・・・。 というわけで、いじめた人間ではなく、いじめを見て見ぬふりをした同級生に主眼を置いた点で目新しさがあるのかもしれません。テーマがテーマだけに落涙ポイントは随所に見られますが、盛り上がりに欠けるというか、かなり地味です。ですが、二人の中学生の心理状態を、克明に描き切ることにより問題提起をしているのは間違いないでしょう。 ただ、自殺した藤井俊介の父親は自分を責めずに、真田や中川ばかり責めるのはどうなのかという気がします。また母親は二人に同情しており、それぞれの立場に置ける人間模様が浮き彫りになります。 辛い経験をした二人の中学生の微妙な立ち位置、どんな想いで大人になっていくのかなどが一つの読みどころになっていきます。いじめ問題そのものよりも、自殺した後に残された者たちの悲しみ、生きるための拠り所などを丁寧に描いた佳作と言えると思います。 |
No.759 | 7点 | きみの友だち- 重松清 | 2017/07/21 22:28 |
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交通事故で一生松葉杖を手放せない身体になってしまった恵美ちゃんと、生まれつき腎臓が悪く、学校を休みがちな由香ちゃん。二人はある事件を境にクラスの誰とも付き合わない無二の親友になる。彼女らを中心に周りの関係者一人ひとりにスポットを当てて、描かれる青春群像劇。というか、連作短編集或いは連作長編。
目が痛いです。泣きすぎて。特に『花いちもんめ』はいけません、恵美ちゃんと由香ちゃんの友情と最後の別れ。これを涙なくして読める人がいるのでしょうか。いや、絶対いませんよ。 時系列がバラバラですが、人間関係が分かりやすいので混乱することはありません。 例えば中学校のサッカー部の3年生で、だけどサッカーが下手で補欠、女の子にも縁がなくてバレンタインのチョコレートを貰ったこともない。そんな冴えない男子を主役にして切ない短編を淡々と描いてしまう、作者の力量は相当なものがあると思います。私はこの作家は初ですが、これまで読んでこなかったことを恥じるくらいの素晴らしい作家なのかもしれません。 最終話以外、主人公のことを「きみ」と呼んでおり、では果たして誰がそう呼んでいるのかが、この作品に仕掛けられた最大の謎です。その点だけはミステリっぽいと思うのですが、その謎は最終話で明らかになります。蛇足と言う人もいますが、決してそんなことはない、ほのぼのとした味のある締めくくりだと思います。 |
No.758 | 5点 | 蜃の楼- 和智正喜 | 2017/07/18 22:15 |
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タイトルは『しんのたかどの』と読みます。蜃とは蜃気楼のことで、古書によると大蛤とも龍とも言われています。
物語は簡単にまとめると、連続神隠し事件が起こる昭和二十七年、時空が歪み真か幻か一応主役の関口が時をかけるというもの。霞が関ビル、国立霞ヶ丘競技場、サンシャイン60、スカイツリーなど、時空を超えて関口の前にそれらの建築物が現れます。 やりたいことは解らないでもないですが、正直訳が分からない部分も多々あります。神隠し事件など全くもって説明されません。この「奇書」の前ではそんなもの些事だと言わんばかりに。これはどうなんでしょうか。 所詮パスティシュなので、京極堂はただの解説役。榎木津は珍しく調査らしきことをしようとしてコケます。木場は一応刑事らしき行いをしますが、あまり目立ちません。鳥口も敦子も出てきますが、まあなんと言うか、やはりまがい物感は拭えませんね。 どうしても本家が書かないと締まりがないです。それらしい雰囲気を出そうという努力の跡は見られますが、本物とは程遠いとしか言えません。 |
No.757 | 7点 | 妖婦の宿- 高木彬光 | 2017/07/17 22:30 |
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何と言っても表題作に尽きますね。他の方の書評でも分かるように、すこぶる評価が高いのが読めば納得できます。
本作は探偵作家クラブの新春の例会で、犯人当ての余興として読み上げられた作品ですね。これは有名なエピソードなのでご存じの方も多いと思います。 実際読んでみると、読者の心理を逆手に取っての密室は見事であり、大袈裟ではなく日本の密室物を代表するミステリと言っても過言ではないでしょう。今では入手困難になっているかもしれませんが、未読の方には是非読んでいただきたいですね。 これは騙されますよ。しかも意表を突いた真相には驚かされるばかり。 余談ですが、高木彬光の初期の作品は長編、短編問わず傑作、佳作が多いので、いずれまたブームを起こして復刻されると嬉しいと思います。 |
No.756 | 8点 | エクソシスト- ウィリアム・ピーター・ブラッティ | 2017/07/16 22:09 |
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みなさん、読まれていないんですかね。いまさら申し上げることもない、ウィリアム・フリードキン監督のアメリカ映画の名作『エクソシスト』の原作です。日本では映画が超有名ですが、本国アメリカでは原作も大ヒットしました。
映画はリーガンが悪魔に憑りつかれてから悪魔払いの儀式までがメインに描かれている印象ですが、原作はクリス・マクニールとリーガン母娘の愛情や、カラス神父の精神科医としての苦悩、母親との微妙な関係などに重点が置かれています。特にリーガンの変貌ぶりを目の当たりにし、果たして臨床的に神経系の病なのかどうかがカラス神父を通してかなり執拗に描写されています。勿論、ホラー、オカルトの側面もおろそかにされてはいませんが、故意に怖がらせようとかと言ったアプローチの仕方はしていません。 当然宗教的な事柄も絡んできますが、日本人として理解に苦しむような難解な事柄は書かれていませんので、その点は心配いりません。 どうしても映画の影響で怖さが先に立ってしまいがちですが、本作の本質は愛と自己犠牲の物語だと思います。ラストのカラス神父の行動はキリスト教とかの宗教の壁を越えて、感動的ですらあります。 映画も素晴らしいですが、原作も十分読み応えがあり名作と呼んで差し支えないと思います。 |
No.755 | 6点 | GIVER- 日野草 | 2017/07/15 20:41 |
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「復讐」を主題とした連作短編集。
第一話を読み進む際の緊迫感ととても危険な香りに、これはとんでもない傑作なのではないかと思いました。しかし話が進むにつれ、次第にトーンダウンしていくのを感じ、残念な気分が蔓延してくるのを抑えることができませんでした。 これがもしダークな雰囲気が最後まで続いていたなら、かなりの傑作になった気がします。段階的にマイルドになるストーリーの数々は、確かによく練られたプロットを保持していますし、それなりに面白いです。しかしながら、何かが足りない、もっと強烈なバイオレンスや重要な役割を果たす少年の非情さなどが浮き彫りにされていたほうが私的には好みだったんですね。 この先、楽しみな作家だとは思いますが、時折稚拙な表現が見られるところも気になりますし、もっと文章にメリハリをつけたほうが良いのではないかというふしも無きにしも非ずです。構成力や雰囲気づくりなどには確かな実力を感じますので、今後も要注意人物なのかなという気はします。活躍を期待したいと思います。 |
No.754 | 8点 | 99%の誘拐- 岡嶋二人 | 2017/07/14 20:34 |
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さすが「人さらいの岡嶋」と呼ばれるだけある、彼らの代表作の一つと言ってもよいだろう一作。誘拐の後にまた誘拐という、豪華なのかやりすぎなのかよく分からない作品ですね。構成的にはややくどい感じもしますが、それだけ力が入っていると捉えるのが正解でしょうかね。
当時の最新ハイテクを用いた倒叙物の誘拐は大変小気味よく、スピード感に溢れたサスペンスを生み出すことに成功していると思います。小物をうまく活用したりしてエンターテインメント小説として、見事な出来栄えに仕上がっています。 ただなぜ99%なのか、との疑問が最後まで理解できませんでした。やはりある人物に見破られてしまったから完全犯罪と言えないという解釈でいいんでしょうか。 いずれにしても誘拐物としては一級品と言えると思います。 |
No.753 | 6点 | 密室殺人- 鮎川哲也 | 2017/07/13 21:10 |
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タイトル通り、密室殺人を扱った短編集。
表紙を見る限り高木彬光のような、デッサンみたいなカバーです。赤、青と来れば当然白だと思いきや黒だったというオチも。でも実は鮎川の頭の中には『黒い密室』の構想もあったらしいのですが、密室殺人に対する情熱が薄れて幻に終わったという逸話も残っています。 で、本書の中で最も評価の高いのが『赤い密室』です。出入り不可能な解剖室で発見されたバラバラ死体という、萌え要素満載の星影龍三シリーズの名作。これは面白いです。当時、こういう発想もあったのか的な斬新さに驚いたものです。なるほど、こうした密室もありなのかみたいな、とても勉強になった作品ですね。 他は・・・ほとんど憶えていません。想像するに大してインパクトのない作品だったのではないかと思います。 出版されてから38年ですか、しかしそんな昔から『赤い密室』のような奇想を持った作家がいたとはねえ。 |
No.752 | 6点 | 怪しい店- 有栖川有栖 | 2017/07/12 20:40 |
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「店」をテーマにしたご存じ火村&アリスシリーズの短編集。本格、倒叙、日常の謎と色々取り揃えております。さすがに有栖川氏の名に恥じぬ作品が並んでいますが、逆に言うと有栖川ブランドの域を良くも悪くも超えることなく、すっきりまとまっている感じがします。
中には『潮騒理髪店』のような絵になる、印象深いものもありますが、いずれすぐにでも忘れてしまいそうな短編が多いですね。私はどちらかというと破天荒な、どこか突き抜けたような作品が好きですが、その意味では残念ながら本短編集は小ぢんまりしすぎていて、これは、と思うようなのがないんですよね。ただ、相変わらず端正なつくりの、好感度の高そうな作品が並んでいるので、一般の読者にもすんなりと受け入れられそうではあります。 表題作にはイメージを裏切る「店」が出てきます。むしろ立派な店を構えているわけでもなさそうなので、読者は意表を突かれるかもしれません。しかしタイトル通り十分怪しいのは間違いないので、これを表題に選んだのは正解だった気がします。こんな怪しげな商売が成り立つ現代の病的な世相を浮き彫りにしている点は、確かに面白いです。 まあしかし、たまには有栖川もいいんじゃないですか。大作じゃなくてもちゃんとした作品を書いていますから。ある意味、裏切らない作家だと思います。 |
No.751 | 5点 | 鍵のない夢を見る- 辻村深月 | 2017/07/08 20:56 |
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第147回直木賞受賞作。
まさむねさんが書かれているように、各短編のタイトルはいかにもミステリっぽいですが、ミステリと呼べるような作品は残念ながら見当たりません。 まあこれまでもミステリ作品が直木賞にノミネートされながら、惜しくも受賞できなかったという例は結構多いので、如何にミステリが直木賞と相性が悪いのかがうかがい知れます。本短編集もやはりミステリからは随分遠ざかった印象が強く、だからこそ受賞できたとも言えるかもしれません。個人的には他の作品で受賞するのが作者らしかったのではと思います。もしかしたら辻村氏自身も本作での受賞は本意ではなかったのではないかと想像しますね。 深みはあるけれど面白味はないという、まさに文学と呼ぶべき作品が並んでいます。だから、動機がどうこうとか捻りがないとか、ミステリ的側面から言うと・・・みたいな繰り言は無用の短編集と言えましょう。私は買っていませんが、立派な直木賞作品ですので、世間に認められたことには違いないです。ですが、辻村氏としては異色作であり、決して正当な系譜を継ぐべきものとは言えないと思います。ファンは勿論喜んでいるのでしょうが、どうしても本作がそうした読者に支持されているような気がしません。自分勝手な想像ですから、あまり本気にしないでいただきたいのですが。 |
No.750 | 7点 | ほうかご探偵隊- 倉知淳 | 2017/07/05 22:15 |
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講談社ミステリーランドの叢書の中の本作が、創元社推理文庫より6月23日に文庫化されて登場。読んでみたかったけれど、わざわざ単行本を結構な値段で買うのを躊躇っていた方は、この機会に入手されることをお勧めします。それだけの価値は十分あると考えます。
不要物連続消失事件の謎を解くために、小学校5年生の男女4人が放課後に探偵活動をしていく物語。まず謎の設定が面白いです。消失しても誰も困らないものばかりがなぜ忽然と消えるのか、単純そうで結構難しい問題に挑戦していく子供たちの奮闘に拍手を送りたくなります。小学生のわりに大人びている気がするのは、ミステリの場合やむを得ないことかもしれませんが、この作品でも特に探偵役の龍之介くんは口調は子供でも中身は大人な感じです。しかし、柔らかいタッチで描かれているため、違和感はありません。 一応ジュブナイルですが、勿論大人が読んでも十分納得できる出来栄えとなっています。さすがに倉知淳、読ませどころは心得ていますね。やや小粒な感じは否めませんが、二転三転するプロットはマニアにとっても鑑賞に堪えうるものだと思います。 尚、龍之介くんの叔父が会話の中に出てきますが、この人物は倉知作品には欠かせないあの人のようです。サービス精神も忘れない作者なのでした。あと、タイトルにも秘密が・・・。 |