皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1829件 |
No.869 | 6点 | 恩讐の鎮魂曲- 中山七里 | 2018/06/18 22:26 |
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弁護士御子柴礼司シリーズ第三弾。本格ミステリというより、本格法廷小説ですね。
前二作に比べるとやや小粒の感は否めませんが、その分御子柴の内面がよく描かれていて人間臭さを感じさせます。 隅から隅まで良く出来た作品ではありますが、逆に言うと綺麗にまとまり過ぎており、サプライズ的にはやや物足りません。今回は意外な人間関係に驚きを覚えますが、どんでん返しとまでは言えないですね。そこに期待すると裏切られるかもしれません。 私の期待が高かったためにこの点数ですが、リーダビリティ、優れたプロット、冒頭の海難事故が物語にどう絡んでくるのかへの興味、介護施設での虐待問題、刑法第三十七条<緊急避難>の解釈など見るべき点も多く、さすがに人気作家中山七里と思わせるに十分な魅力を持っていると思います。 文庫化されたことで多くの方が読まれることを願っております。ただし、前二作を未読の方はそちらを優先させることをお勧めします。 |
No.868 | 4点 | 時給三〇〇円の死神- 藤まる | 2018/06/14 22:17 |
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「それじゃあキミを死神として採用するね」ある日、高校生の佐倉真司は同級生の花森雪希から「死神」のアルバイトに誘われる。曰く「死神」の仕事とは、成仏できずにこの世に残る「死者」の未練を晴らし、あの世へと見送ることらしい。あまりに現実離れした話に、不審を抱く佐倉。しかし、「半年間勤め上げれば、どんな願いも叶えてもらえる」という話などを聞き、疑いながらも死神のアルバイトを始めることとなり―。死者たちが抱える、切なすぎる未練、願いに涙が止まらない、感動の物語。
「BOOK」データベースより。 Amazonのレビューが全体的に好評だったので読んでみましたが、これはダメです。文章が粗削りだし、言葉のチョイスに違和感を覚える箇所が散見されます。まだまだプロの作家の域に達していないと感じました。 似たような設定の作品を何作か読んでいますが、他に比べて数段劣る気がします。キャラもイマイチで感情移入の余地なし、最終的に死者の未練を晴らしていないので救われた感じもせず、モヤモヤした感情が残るのみです。最早褒めるべき点が見当たらないのが正直なところ。私の感性がすり減っているのかもしれませんが、この作品のどこが良いのやら、さっぱり理解できませんでした。読後、何も心に残りません。 正直読んでいてイライラしました。なかなかありませんよ、こんな体験は。よって3点としたいところでしたが、滅多にない読書体験をしたということで4点にしました。装画は良いんですけどね、惜しいなあ。 |
No.867 | 6点 | 僕の光輝く世界- 山本弘 | 2018/06/10 22:35 |
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SF作家山本弘がミステリを書いたら、こんなの出来ましたって感じでしょうか。
アントン症候群、視覚を失った障碍者がそれ以外の感覚で視覚を補って、脳内で再生しまるで現実を見ているような錯覚を起こさせるという、まことに奇妙な症例を主人公に背負わせる、一筋縄ではいかない設定が異色な作品です。 現実と主人公が視ている映像との乖離が、これまで体験したことのない世界を読者に突き付けます。そのことがミステリと有機的に繋がっているかどうかは疑問ですが、所々でこの設定が生きてくるのは間違いないと思います。 また、恋愛小説としては決して甘ったるくなく、光輝と夕の関係はある時は打算的であり、どちらかと言えば光輝が「視ている」夕に片思いの傾向が見られます。光輝にとっては理想の恋人でも夕にとっては好奇心を刺激される対象と映っているように思われます。夕が付き合ううちに光輝に惹かれていくわけでもなく、その辺りの少女の揺れ動く心は描き切れていないと感じました。 日常の謎から殺人事件まで、様々なトリックを駆使しての作者の苦心が目に浮かぶようで、さすがに本格ミステリは荷が重いのかと思いましたが、中編の最終話はなかなかの出来栄えでした。しかしやや残念なのは、作中の『七地蔵島殺人事件』の魅力がダイレクトに伝わってこなかったことでしょうか。急ぎ足過ぎて煩雑になりすぎな感が否めませんでした。 ラストの対決と後味は非常に良かったですね。また全体として、アントン症候群が多幸感をもたらすことにより、悲壮感や重苦しさがなく読者にとっては救われる部分が多かったと思います。 |
No.866 | 7点 | 冷たい太陽- 鯨統一郎 | 2018/06/06 22:36 |
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数ある誘拐ものの中でもこれはかなり印象に残りそうな作品です。個人的には大変面白かったのですが、ミステリマニアの受けは良くないかもしれません。それは、物語のすべてを読者を騙すためだけに書かれたのだと誤解させるような仕上がりになってしまっている為です。しかし、よく考えてみれば、ミステリの本質はマジックと同じでいかに読者を欺くかであることを鑑みれば、これはこれでありなのではないかと私は考えます。
本作は終始淡々とした文体で綴られており、サクサクと読めます。そこに感情移入など予断が入り込む隙間はありません。言ってみれば映画のシナリオのようでもあります。しかし、油断して読み飛ばしていくと、後で後悔することになります。そう、その時点で既に作者の策略に嵌っているからです。二度読みなど面倒なことをしたくないという方は、十分細心の注意を払って読み進めなければなりません。ただ登場人物は多いですが、混乱するような事態にはならないのは、作者の手腕ではないかと思います。 多くの読者が騙されることになるでしょうから、むしろ騙されたいと思いながらミステリを読んでいる向きにはお勧めです。もし、この仕掛けを見破ることができたら大いに自慢してもよいと思います。それほどにこの一撃の及ぼす心理的ショックは大きく、決して後味が良いとは言いませんが、後を引きずる可能性が大いにあるのは間違いないでしょう。 |
No.865 | 6点 | マツリカ・マハリタ- 相沢沙呼 | 2018/06/04 22:15 |
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『マツリカ・マジョルカ』に続くマツリカ・シリーズ第二弾。
三作目の『マツリカ・マトリョシカ』を先に読んでいたため、今更ながらああそうだったのか、と納得がいくシーンもいくつかありました。特に好感度の高かった松本さんの秘密が明かされていたのは、ちょっぴり得した気分です。さらに写真部の三ノ輪部長が最終話に大きく関わって来て、こちらもややショッキングな事実を目の当たりにすることに。 まあとにかく、主人公の柴山君がぼっちだと勝手に思い込んでいて、卑屈な心根が暗くて、どうにもうじうじしてしまうところが何とももどかしいんです。写真部のメンバーを中心に、彼のことを好意的に思っているのに気付かない情けなさ。この辺りが本作の面目躍如たるところでしょうか。 ミステリとしては一見不可思議な謎をいとも簡単にマツリカさんが解き明かしていく、相変わらずのスタイルです。叙述トリックを含め、脆弱さは否定できませんが、青春ミステリ+日常の謎としての出来はまずまずだと思います。 第一作で披露された変態性はさらにエスカレートし、柴山君の様々なフェチを感じさせており、こちらにも注目が集まるのは致し方ないのであります。 女子高生よりちょっと大人で、妖しさ満載のマツリカさんの秘密はそう簡単には暴露されないのでした。そして気になるのは柴山君のお姉さんの謎。これらが披瀝されるのは、おそらくシリーズ最終作となるのではないでしょうか。 |
No.864 | 7点 | 不気味で素朴な囲われた世界- 西尾維新 | 2018/06/01 22:26 |
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これは好き嫌いがはっきり分かれるタイプですね。私は好きですが、道理が通らない小説に嫌悪感を抱く読者は許容範囲を超えるかもしれません。その原因は、UFO研究会の奇人三人衆の奇矯な言動や、何より主人公串中弔士の変態的な、或いは○○○○のような思考回路に大いに違和感を覚えるためと思われます。一方、ラノベファンにとっても微妙でしょう。許せるか許せないかは、各キャラの濃すぎる個性をどう捉えるのかに掛かっている気がします。
私が最も気になったのは、余計なお世話かも知れませんが、弔士の病院坂迷路の表情を読み取るだけで微細な部分にいたるまで何を言わんとしているかを理解してしまう能力ですよ。まあ、この世界観を前にしては、確かにそれは無粋になるわけで、そういう堅いことは言いっこなしとなってしまう可能性も大いにありますがね。 畢竟タイトルからも分かるようにこのシリーズには独自の「世界」が存在しているので、それを前提に読み進めないとお話にならないのだと思います。 全体の流れは、最初延々と奇人変人たちの競演が続き、このまま終わってしまったら嫌だなと思っているところにようやく殺人事件が起こります。さらには連続殺人事件へと発展し、唐突にエンディングへと突入します。 中学生が起こした殺人事件だけに、意外と単純なトリックは病院坂迷路と弔士の捜査であっさりと解明され、なんだかなあとか白けていたりすると必ずうっちゃられますよ。意外すぎる真相と動機、お見事です。 |
No.863 | 6点 | 古い腕時計 きのう逢えたら・・・- 蘇部健一 | 2018/05/29 22:32 |
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いわく付きの古い腕時計を持つ者は一日だけ時間を戻すことができる。勿論、持ち主はそのことを知らない。が、その腕時計が止まってある時計店に修理を頼んだ後、翌日気づくと昨日に戻っているのだった。それを知った持ち主たちは、様々な願いを叶えようとするが。
所謂タイムトリップ物の連作短編集。 読み始めた時、相変わらず薄っぺらいなと思いました。しかし、読み進めるうちに、いやこれは蘇部が垢抜けたのではないか、と思い直しました。それが良いのか悪いのか、あの変梃りんな作風を誇り一部の読者を熱狂させた、私の知る蘇部ではなかったのに一抹の淋しさを覚えないでもありません。まあ、彼もこのような広く読者に受け入れられるような作品を書くようになったのだという感慨はありましたが。 結局、どれもちょっといい話ではありますが、必ずしもハッピーエンドになるわけではなく、かと言ってさして感動を覚えるでもなく、なんとなく生ぬるい印象を受けました。 中には何かを丸パクリしたような話もあり、脱力したりもしますが、まあそこそこの出来で及第点というところでしょうか。 それにしても、今でも彼は牛丼屋でバイトしながら執筆活動を行っているのでしょうか。作家も大変なんだなと、なんだか切なくなります。 |
No.862 | 6点 | 触法少女- ヒキタクニオ | 2018/05/27 22:34 |
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小学四年生の時に母親に捨てられた深津九子は、児童養護施設から中学校に通っていた。十三歳の九子は担任の欲望を利用し支配し、クラスメイトの男子西野を下僕化、同級生の井村里実からは崇められていた。
或る日、母親の瑠美子の消息を知るチャンスが訪れ、そこから九子のそれまで抑えていた感情が溢れだし、運命が動き出す。 ジャンルを登録する時に正直迷いました。一応本格にしましたが、プロット的にはクライムノベルのようでもあり、触法少年という概念が根本にあるので社会派でも通用しそうだし、全体から受ける印象はサスペンスに近いものがあります。そんなジャンルミックスの要素を強く持ったこの作品は、子供に対する親の虐待、刑法第四十一条問題、事細かに記された毒物生成方法などの危険な要素を孕んだ犯罪小説と言えるかもしれません。 九子の計画はやはり子供らしく、アリバイトリックや指紋の問題などやり口が稚拙で、警察の手に掛かれば簡単に見破られてしまいます。その辺りは、まあ作者の計算通りなんでしょうけれど、毒物を作る過程だけは専門知識を駆使しており、リアリティがあります。 前半はやや冗長な感じを受けますが、事件後はなかなか読ませます。全般的に気分良く読めるとは言い難いですが、飽きることはないと思います。後半、二捻りあり、意表を突かれます。ここはある海外の名作を彷彿とさせ、なるほどと深く肯かされます。それまでの伏線も効いていますね。 なんとも言えない独特の世界観を持った作品であるのは間違いないですし、ヒキタクニオの本領を発揮していると言っても言い過ぎではないでしょう。 |
No.861 | 7点 | DEATH NOTE アナザーノート ロサンゼルスBB連続殺人事件- 西尾維新 | 2018/05/24 22:24 |
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ロサンゼルスで起きた連続猟奇殺人事件。休職中のFBI捜査官の南空ナオミはこの事件の捜査依頼を、世界的名探偵Lから受け入れた、というか受け入れざるを得なかった。第一の現場に向かうナオミは竜崎と名乗る私立探偵に出会い、協力して捜査に当たるのだが。
ページ数の割に値段が高いですが、これには理由があります。まず普通の単行本よりも一回り縦も横も長い、そして文字が細かいうえに二段組みとなっているということです。全体的にスペシャルでゴージャス感が漂う、凝った装丁になっています。集英社にもそれだけ力が入っている証左だと思います。 私は『デスノート』は映画しか知りませんが、読み終えるのに支障は全くありませんでした。原作を読んでいない、映画も観ていないという方でも十分に楽しめると思います。 西尾維新にしてはガチガチの本格ミステリです。いつもの作風とは結構かけ離れていると思います。ただ、軽妙さはどことなく感じられ、そこに若干の重厚さが加味されているような印象です。 ノベライズですが『デスノート』に関連していると言えるのは、死神の目とラストだけで、中身はほぼ西尾氏のオリジナルと考えて間違いないだろうと思います。内容に関しては興が削がれる可能性が高いので触れずにおきます。おそらく西尾維新のファンにも、『デスノート』のファンにも受け入れられる作品でしょう、断言はできませんが。 |
No.860 | 6点 | 遊星小説- 朱川湊人 | 2018/05/21 22:29 |
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短編の名手、直木賞作家の朱川湊人のショートショート集。さすがに文章が上手いです。どこか昭和を思い起こさせるノスタルジックな雰囲気の作品が多く、黄昏や夕暮れが似合いそうなレトロ感覚を味わえます。
ジャンルとしてはSF、ホラー、ミステリなど様々で、中でも当たり前の日常で起こる不可思議な出来事を扱ったものがかなりの割合を占めています。しかし、やはりショートショートの殻を破った革新的な作品集とは言い難く、奇妙な味わいではあるものの、それほど破天荒な感じはありません。それでも、この作者らしく、切ない余韻を残す印象的なものもいくつかあって、ファンとしては納得のいく出来ではあると思います。 ウルトラマン、仮面ライダー、UFO、怪獣、幽霊、妖精などなどが登場し、ショートショートらしい賑やかさです。大方驚くような結末が用意されているわけではありませんが、それなりにオチがついています。そういった意味でも、短いながら小説としての骨格はしっかりしていて、プロの作家はやはり違うと思わせますね。 お節介な幽霊がなんとも微笑ましく、ラストが切ない『ゴメンナサイネ』、ミステリ的手法が生きる、子供たちの悪意を描いた『暗号あそび』、ザラブ星人やニセライダーマンからちょっといい話に発展する『ニセウルトラマン』、ぼろアパートに住む冴えない男と野良猫の感動の物語『傷だらけのジン』など後々まで記憶に残りそうな作品も。 |
No.859 | 9点 | 萩原重化学工業連続殺人事件- 浦賀和宏 | 2018/05/19 23:29 |
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「脳」を失った死体が語る、密室の不可能犯罪!双子の兄弟、零と一の前に現れた、不死身の少女・祥子と、何もかもを見通す謎の家政婦。彼らが信じていた世界は、事件に巻き込まれる内に音を立てて崩壊していき…。脳のない死体の意味とは!?世界を俯瞰する謎の男女と、すべての事件の鍵を握る“萩原重化学工業”の正体とは!?浦賀和宏の最高傑作ミステリが世界の常識を打ち破る。
以上、私の下手な説明より簡潔にまとめられた「BOOK」データベースのほうがすっきり分かりやすいので引用しました。尚これは講談社ノベルズ版のものであり、今回私が読んだのは幻冬舎文庫より刊行された『HEAVEN』で、かなり縮尺されていますので、若干内容的に変化があるのかもしれません。 最高傑作かどうか全作読んでいるわけではないので何とも言えませんが、とにかく謎だらけで、頭の中が?でいっぱいになります。そして読んでいる途中から、これは超本格ミステリ(多分)なので、一般で言うところの解決はとても望めないと不安になりました。しかしながら、SF的趣向を交えながらも何とかギリギリ納得のいく真相が得られます。ただし、いくつかの謎を残していて、それは続編の『女王暗殺』に委ねられているようです。 「世界の常識を打ち破る」というより、常識など通用しない作品が正解じゃないでしょうかね。良く言えば破格の超絶ミステリ、悪く言えば何でもアリの複雑系、いずれにしても浦賀氏自身が「この小説を書くために生まれてきました」と言っているように、稀有な怪作、力作なのは間違いないと思います。 途中、警察の捜査の杜撰さ(○○に隠れていたのを発見できず)や、あまりにも発想が突飛すぎるなど、気になる点もありましたが、凝りに凝った規格外の本格ミステリだと個人的には感じました。 余談ですが、ノベルズ版の装丁が物々しくいかがわしい雰囲気で好きだったのですが、読後あまり作品の意にそぐわないように思いました。その意味では残念ながら期待を裏切られた気分です。 |
No.858 | 6点 | プールの底に眠る- 白河三兎 | 2018/05/15 22:20 |
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ぬるま湯の様な描写と展開を、心地よいと感じるか、刺激が足りないと感じるかは読み手によって随分変わってくると思います。私は当然後者。これは最早ミステリというより文学に近いです。というわけで、終始頭から離れなかったのが、何故本作がメフィスト賞を受賞したのかでした。それが腑に落ちたのはようやく終章に入ってから。
ここに至ってようやく作者の企みが明らかになります。一言で言うと「やられた」って感じでしょうか。確かにそれ程の衝撃ではありませんが、あとからじわじわ来る辺りが心憎いではないですか。構成の妙ですね。新書で刊行され時から大幅に変更されたプロット、それが良い影響を与えたのか、逆効果だったのかは読み比べてみなければ分かりませんが、ミステリ的には正解だったのでは?と思います。 それにしても終章で徐に姿を現した佐々木の爺さんのキャラは、本当にいい味出しています。主人公を始め、誰も彼もが心のどこかに歪みを抱えているような人物ばかりの中、この人は素直にいい人だと感じましたね。 主人公が心情を吐露する場面の「一度でいいから両親に、幸せになってもいいと言ってほしかった」というセリフが本作を象徴している気がしました。これは心に突き刺さりましたよ。でも、決して人に薦められる小説とは思いませんが。 |
No.857 | 3点 | 最良の嘘の最後のひと言- 河野裕 | 2018/05/12 22:25 |
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世界的に成功を収めるIT企業ハルウィンには超能力研究の噂があった。ハルウィンは「4月1日に年収8000万で超能力者をひとり採用する」という告知を出す。審査を経て7名の自称超能力者が3月31日の夜に最終試験に臨むことになった。
日付が変わる瞬間に採用通知書を手にしていた者が雇用されるという。超能力者たちはそれぞれの能力を駆使して頭脳戦を繰り広げる。 とまあ、話だけ聞くと面白そうに思われるかもしれませんが、はっきり言って全然つまらないです。プロローグと最終章(6話)を除けば、ダラダラと能力者同士の騙し合いと陳腐なドタバタ劇が延々と続きとても煩雑です、何度か挫折しそうになりました。それは私の読解力のなさばかりとは言えないと思います。物語がすんなり頭に入ってこないリーダビリティの低さ、最後に親切にも時系列ごとに何が起こったのか纏めてくれていますが、それでも薄れた興味は二度と湧いてくることはありませんでした。巻き戻して再度確認する気力は私には残っていませんでした。 エピローグも余分でしょうね。 ラストでようやく「最終試験」のカラクリが見えてきて、若干そうだったのかとはなりますが、そこの捻りがなければ1点でしたね。主催者側の思惑など一切描かれることもなく、そちらも片手落ちに思えます。 |
No.856 | 6点 | 誰も死なないミステリーを君に- 井上悠宇 | 2018/05/09 22:47 |
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以前書評した『死を見る僕と、明日死ぬ君の事件録』(登録時にまさかのミスを犯し『死を見る』が抜けていました、さっき気付きました、すみません)と設定が似通っていますが、こちらの方がより本格に近いです。タイトル通りだと誰も死なないわけで、果たしてミステリとして成立するのかとの疑念を吹き飛ばして、体裁は予想以上に整っていました。
何故元文芸部の四人に『死線』が現れ、孤島に渡っても消えないのか、という謎自体はほぼ予想が付いてしまいます。これはおそらく誰しもが想像し得ることだと思いますね。ですから、謎の焦点は事の発端となった最初の転落死にあります。この事件は事故だったのか、殺人だったのか。そこから派生する四人の「容疑者」のそれぞれが抱える事情を探り、事件の全容が明かされた時、驚愕の事実が!とはなりません。 謎解きはあっさりと片付けられ、驚くような真相が待っていたりもしません。ですが、一応は筋が通った解決を見ます。あっけないですが、それが事実なら受け入れるしかありません。まあなるほどとは思いますが、それだけですね。 しかし、何がどうとは言えませんが、青春ミステリとしてどこか捨てがたいところがある小説だと思います。それはおそらく、余分と思われるような描写が意外に印象に残っていたり、登場人物同士の何気ないやり取りであったり、主人公の過去のエピソードだったり、なのでしょうかねえ。 |
No.855 | 7点 | 悪意- 東野圭吾 | 2018/05/06 22:11 |
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構成は凝っているが、構造は至って単純な作品ですね。全てがホワイに一点集中しており、興味の大半はそこに落ち着きます。しかしながら、読み進むにつれそれもある程度予想出来てしまい、衝撃度という点においていささか物足りなさを覚えるのは私だけでしょうか。意外性がいまひとつなので、こうした作品においてはかなりのマイナス点になろうかと思います。
ただ、結末に至るまでの道のりがきっちりと纏まっていて、フェアプレーの精神も忘れておらず、その意味では好感が持てます。逆に言えば、あまりに優等生的ないかにも東野らしい堅い作風なので、それが解釈によっては弱点ととらえることもできます。例えばこうした作品を得意とする折原一辺りがこれを書いたとすれば、もっと衝撃的な作品に仕上がったのではないかと思うのです。まあ死んだ子の歳を数えるようなものなんですけどね。 色々ケチをつけましたが、やはり東野作品の中では上位に位置する作品ではあるでしょう。ミステリファンが読んでも、一般読者が読んでもそれなりに満足できるブランド品といったところですかね。 |
No.854 | 7点 | ファミ・コン!- 鏑矢竜 | 2018/05/03 22:23 |
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あの歴史ある、そして由緒正しいSRの会(実はSRが何の略かも知らない)の俎上に載せられるほどの作品であるならば、これは読むしかないと一念発起しました(大げさ)。ラノベ風ですが読み応えは十分あります。カテゴリーとしては青春ミステリに入るのでしょうが、個人的には青春小説+冒険活劇+健全な変態小説といった趣を感じます。
その場その場での言葉のチョイスの堅実さや、時にハッとさせられるような、読者の想像力を掻き立てられる描写が心に沁みます。また登場人物が多い割には秀逸なキャラ設定、印象に残る人物像など、新人離れした構想力、文才が感じられます。 しかし、本格ミステリの鬼が集うであろう組織SRの会(ど素人の私などは秘密結社的なイメージすら抱いていたけれど、実は公に活動をしているらしい)も、このような砕けた作品にすら触手を伸ばしているというか、意外に守備範囲が広いのには少々驚きました。そしてその慧眼の鋭さにも。さすがSRの会に取り上げられるだけのことはあります。面白いですね。 新刊は入手困難な本作ですが、これはお勧めできる一作です。軽いと言えば軽いですが、そして誰かの言を借りるなら西尾維新に似た作風かとも思いますが、取り敢えず読んでいる最中は夢中になれます。それは間違いないですよ。 さらに、終盤の畳みかけるような展開と待ち受けるサプライズの波状攻撃に、酔いしれることができます。 |
No.853 | 2点 | 泥棒だって謎を解く- 影山匙 | 2018/04/30 22:13 |
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四人の幼馴染みの男が再会する。二人は泥棒で二人は刑事だ。それぞれが相棒同士なのだが、勿論お互い現在の境遇は知らない。
程なく刑事の一人桜庭の恋人が殺され、そこから事件は十年前にまで遡り、ひょんなことから刑事が泥棒に情報を提供するようになり、泥棒のコンビが謎解きに挑戦するが。 出ましたよ、久しぶりの2点が。これほどつまらない小説を読んだのはいつ以来だろうというくらい出来は酷いです。どこがそんなに面白くないのかを整理するために、箇条書きで以下列挙してみます。 1.一章のアリバイトリックは手垢が付いているもので、単に焼き直したに過ぎない 2.展開がダラダラしていて起伏に欠け、どこで盛り上がってよいのか分からない 3.人物造形が全くできていない 4.泥棒コンビのセリフの語尾が「~でしょ」「~の」が多すぎて、オカマっぽく生理的に受け付けない 5.4の影響もあり、誰が喋っているのか分からない会話が多すぎる 6.謎を解くとは名ばかりで、ただ事件を追っているに過ぎない 7.伏線や手掛かりなどは皆無 8.連続殺人事件の動機が弱すぎるし、顔を潰す意味も不明 このくらいで勘弁してあげます。これだけあれば十分でしょう。 まあ、どこを取っても褒めるべき美点らしきものは皆無で、これを出版してもいいのか疑問に思うレベルですね。 しかし不思議なことに世評はそれほど悪くないんですよ、何よりこの作品が『このミス』大賞の最終候補に残ったことが私にとって驚愕です。私が間違っているのでしょうか。失礼ながら、お金と時間の無駄遣いでしたね。 この人は専業作家は無理だろうと思っていたら、会社員でした。二作目は書かないほうがいいんじゃないでしょうかねえ。 |
No.852 | 6点 | やはり雨は嘘をつかない こうもり先輩と雨女- 皆藤黒助 | 2018/04/26 22:27 |
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元気で子供の頃は男子に混じって遊んでいた女子高生、空木五雨は自分でも嫌になるほどの雨女である。そんな彼女はある日視聴覚室で、謎が多く雨に関することにやたら詳しい雨月先輩に出会う。雨月先輩は五雨自身の名前の謎や、二人の周辺で起こる日常の謎を雨に纏わる蘊蓄を絡めながら解いていく。
全般的に文章が稚拙な印象を受けます。まだまだ作家としての力量に欠ける部分が多いような気がします。ただ、お話としてはとても素敵な短編が並んでおり、一般読者にはそれなりに受け入れられると思います。 また雨に関しての様々な蘊蓄はまあ、なるほどなとはなりますね。しかしミステリとしてはいささか弱く、二話などはある程度先の展開が読めてしまうのがどうにかならんのかって感じがします。しかも一話、二話ともに強引な感は否めません。かなりのご都合主義だと思いますね。 本領を発揮するのは三話ですよ。これは良いです。五雨の幼少時に起きた事件と雨月先輩がリンクしての意外な展開、そして二人の持つ謎が鮮やかに解きほぐされます。 それぞれのキャラはまずまず立っており、その意味でも楽しめる作品だとは思います。小難しい本格ミステリに疲れた時の箸休め的な癒しとしては持って来いではないでしょうか。読後雨が好きになるかどうかは?だと思いますが、より身近に感じるようになるのは間違いないです。 |
No.851 | 8点 | アルファベット・パズラーズ- 大山誠一郎 | 2018/04/23 22:29 |
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かなり以前から、おそらく10年位前から気になっていた作品。いやあ、読んでよかったですよ。Amazonでは賛否両論のようですが、あらあらこちらでも似たような現象が起こっているとは。
確かに文章はお世辞にも上手とは言えません。無味乾燥な感じで、翻訳物にも近いようなやや取っ付きにくい面はあります。さらに言えば個性や魅力がほぼ感じられないキャラ達も感心しませんね。しかしながら、いずれ劣らぬトリッキーなパズラー作品は、短編3作を読み終えた時点で7点は堅いなと思いました。 この連作短編集にはリアリティを求めてはいけないということは、タイトルからも分かりますよね。作者もこんなふうに思っているのでは?そんなものはクソ喰らえなんだと、こっちはパズルを解いて欲しいからミステリを書いているんじゃ、と。そうした意気込みや情熱を感じ取れるかどうかで、評価は分かれるのではないでしょうかね。ミステリはこんなものではないんだという意見も分からないではないですが、そこを大目に見てこの点数です。 というか、一にも二にも本作をこの点数に押し上げたのは最後の中編『Yの誘拐』ですね。本作のみで長編だったら9点を献上しても吝かではないくらいの傑作だと私は思います。 誘拐物の本質はサスペンスにあると個人的には考えますが、この作品はそこを飛び越えて本格ミステリとして堂々と屹立しております。面白いです。他の方の指摘するような瑕疵も少なからずありますが、それを加味しても十分鑑賞に堪えうる逸品ですよ。今までなぜ読まなかったのかと自分を責めたくなる程の衝撃でした。 |
No.850 | 5点 | 閻魔堂沙羅の推理奇譚- 木元哉多 | 2018/04/19 22:35 |
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確かにメフィスト賞受賞作にしては大人し過ぎる感じがします。ありきたりというか、意表を突いたところがどこにもなくて、正直新味という点においてもそれ程とは思えません。死亡した人間自身が己を死に追いやった犯人を推理するという趣向に新たなパターンを盛り込んだに過ぎず、特に沙羅が出てくるまでがかなり退屈な感は否めません。肝心の推理もまあごく普通の人間がおこなうわけであって、それほど複雑なトリックなども存在しません。しかし、10分で謎を解かなければならないという縛りの割には、スムースに解決してしまうのは、やや不自然というか無理があるようにも思います。
BLOWさんのご書評通り、完璧なるワンパターンで、しかも完全な予定調和でもあります。その為安心して読めるのは良いですが、意外性は全くありません。そこが残念ですね。ただ沙羅のキャラはなかなか魅力的だとは思います。シリーズ化されるのも分からないではないですが、安易に過ぎるのではないかという気もします。はっきり言って、本格ミステリをこよなく愛する読者にはかなり物足りないのではないかと思います。 第二弾に期待したいところですが、次はもう少し捻りを加えた本格的な謎解き、それもシリアスなのを一つくらい加えていただけると良いのではないでしょうか。例えば刑事や探偵が死者となって推理するとか。でないと、すぐに飽きられますよ。そして『奇譚』の名が泣きます。 |