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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1901件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1041 6点 あなたがいない島- 石崎幸二 2019/12/26 22:30
古離津島へようこそ。これから五日間、心理学研究のため無人島で精神的サバイバル生活が始まります。持ち込める物はひとつだけ。しかし考えた末に持参したパソコンは壊され、携帯電話は紛失。なぜかCDやK談社ノベルスも消えた。奇抜なミステリィ談義と意匠を凝らした周到な事件。ここは本格の“約束の地”だったのです。
『BOOK』データベースより。

章題に第一の殺人?第二の殺人?とある割りには、殺人どころかそれらしい気配もなく、なんだかなあと思っていましたが、それを相殺するのが石崎とミリア、ユリのボケとツッコミ。これに大笑いさせてもらいました。誰がボケで誰がツッコミという訳でもなく、それぞれがボケをかましそれにツッコミが入ります。まるでトリオ漫才の様相を呈しています。前作よりさらにパワーアップしている気がしますね。そんな中粛々と伏線が張られていきます。なかなか全体像が見えて来ず、それと気づかせないテクニックを駆使しています。

島に到着後、漸く紛失事件が起こります。その後失踪事件、殺人事件と立て続けに発生し、やっと本格ミステリらしさが姿を現します。
しかしねえ、それまで天然ボケを連発していた三人が突如名探偵よろしく事件を解明していく様は、若干違和感を覚えないでもありませんね。こんなに切れ味の鋭い推理を見せるのに、それまでの阿保ぶりは何だったんだってなりますよ。まあそれがこのシリーズの持ち味と言えばそれまでですけど。
見切り発車で他の作品も入手済みなので、これがコケたらどうしようと思っていましたが、取り敢えず合格点でしたのでほっと安堵しているような次第であります。些細な事ですが、コンビニ弁当の蓋は良いのかよ、と思いました。

No.1040 6点 病の世紀- 牧野修 2019/12/24 22:43
人体を発火させる黴、口腔に寄生し人を人肉喰いに走らせる蠕虫、そして性交渉で感染し、人を殺人鬼に変える「666」に似た形体の謎のウイルス。街に解き放たれた病原体は、黙示録が預言した終末へのカウントダウンなのか―。人々を恐怖に陥れる巨大な陰謀とは?そして立ち向かう孤独な医師の決断とは?バイオテロをも予見した、牧野ホラーこれぞ最高傑作。
『BOOK』データベースより。

おいおい、クリスマスイブという聖なる夜に豪く不気味なタイトルだなあ、縁起が悪いぜ。
ちょっとお待ちください。クリスマスイブって単なる降誕祭の前夜ってことでしょ。私には関係ないですね、私はクリスマスだろうが正月だろうが、ガンガン人が殺される小説の書評を書きますよ。

とまあ、水増し感満載なわけですが、本作なかなか良く出来てはいます。ホラー、サスペンス、アクション申し分ありません。文章も上手で人間も描けています。しかし、どこか吹っ切れない印象ですぐに内容を忘れてしまいそうな予感がするんですよね。そういう小説って結構ありませんか。
まあそれはそれとして、この作品はクリスマスに全く無関係という訳でもありません。ある陰謀により、日本に様々な病原菌による疫病が発生し、次々と奇怪な事件が起こる物語ですが、そこに通底しているのが○○なんですね。読めば分かります。でも牧野修って誰?という方も多いと思いますので、このサイトでは私だけ読んでいれば良いですよ。そこまでお薦めはしません。

No.1039 5点 少女は踊る暗い腹の中踊る- 岡崎隼人 2019/12/22 22:14
連続乳児誘拐事件に震撼する岡山市内で、コインランドリー管理の仕事をしながら、無為な日々を消化する北原結平・19歳。自らが犯した過去の“罪”に囚われ続け、後悔に塗れていた。だが、深夜のコンビニで出会ったセーラー服の少女・蒼以によって、孤独な日常が一変する。正体不明のシリアルキラー“ウサガワ”の出現。過去の出来事のフラッシュバック。暴走する感情。溢れ出す抑圧。一連の事件の奥に潜む更なる闇。結平も蒼以もあなたも、もう後戻りはできない!!第34回メフィスト賞受賞!子供たちのダークサイドを抉る青春ノワールの進化型デビュー。
『BOOK』データベースより。

話自体は悪くないと思いますが、何とも纏まりに欠ける印象を受けます。
粗削りな文章、味気ない文体、全く見られない心理描写、プロットのこなれなさなど欠点を挙げればキリがありません。まあノワールですよ、真っ黒です。でも青春じゃありませんね。こういうのが一般受けするようではまさに世も末、末世です。舞城王太郎に作風が近いとする意見もありますが、似て非なるものだと私は思います。

連続幼児誘拐事件の動機は意表を突いていて、なかなか面白いです。かなり呪われていますけどね。しかし、四番目の事件の両足切断の理由はどうにも納得がいかないです。納得がいかないという点では、もう総てに対して言えますね。そもそも幼児の死体を発見した時点で、何故主人公の結平は真っ先に警察に連絡しないのか、そこに拘ってしまった私はおそらく読者失格なのかも知れません。本書に関しては。又、ウサガワは何故無意味な虐殺を行うのかも不透明ですし。ただ派手な事件で賑わわせようとの目論見にしか見えません。そして誰も彼もイカれてる、小説としては破綻していなくても、物語として破綻している気がしてなりません。
もう少し上手く書き上げていたら、もっと評価は上がったと思いますがね。でも所詮メフィスト賞なんてこの程度でしょう。

No.1038 7点 アイの物語- 山本弘 2019/12/20 22:30
人類が衰退し、マシンが君臨する未来。食糧を盗んで逃げる途中、僕は美しい女性型アンドロイドと出会う。戦いの末に捕えられた僕に、アイビスと名乗るそのアンドロイドは、ロボットや人工知能を題材にした6つの物語を、毎日読んで聞かせた。アイビスの真意は何か?なぜマシンは地球を支配するのか?彼女が語る7番目の物語に、僕の知らなかった真実は隠されていた―機械とヒトの新たな関係を描く、未来の千夜一夜物語。
『BOOK』データベースより。

短編を無理やり繋げて長編の体裁を取ったSF。なので各短編に関連性はなく、独立した物語として楽しめます。長編としてはどうなんでしょう、やはり継ぎ接ぎな感は否めません。
AI(アンドロイド)は人類にどこまで近づけるのか、或いは人類を凌駕し超越した存在になり得るのかという普遍的なテーマに挑んだ、意欲的な作品だと思います。

夫々の作品が水準をクリアしており面白いんですが、『詩音が来た日』に根こそぎ持っていかれましたね。久しぶりに涙と鼻水を流しながら読みました。感動しました。名作だと思いますよ、マジで。簡単に言えば介護アンドロイドが介護老人保健施設に赴任して、様々なことを学びながら成長していく物語です。アンドロイド詩音が老人と接していく中で、次第に感情の翼を広げ心を持つに至るまでの、心温まるSFというジャンルを超えた必読の書です。これだけでも読む価値ありだと声を大にして言いたいですね。
表題作を最後に持ってきていますが、カタカナの造語が多すぎて正直半分も理解できなかった気がします。それでもまあ何とか作者の意図は伝わっては来ます。
SFファンだけじゃなく、すべての読者に読んでほしいなあと思いますねえ。

No.1037 7点 奇想小説集- 山田風太郎 2019/12/17 22:28
戦後の東京で、青年と、神宮の森の樟をねぐらとする骨の軟かい美少女との愛欲を描いた「蝋人」、主人公の男のシンボルの形をした「鼻」を見て、女性が群がる「陰茎人」。グロテスクな表現の中に風刺とユーモアと哀愁を込め、医学的知識をも駆使して人間の“性”を描いた山田風太郎の初期短編集。全9編を収録。
『BOOK』データベースより。

ハチャメチャで女性蔑視が多々目に付く日本を、医学的見地や科学的立場から鋭くアプローチした作品が目立つ稀有な短編集。医師を目指していた風太郎流石です。
世間ではスケールの大きい『満員島』が受けているようですが、私的には『蝋人』がミステリ的にもストーリーとしても最も優れていると思いますし、一番好きですね。不可解な殺人事件を論理的に解決するのは本格ミステリにはまあ普通にあるパターンですが、実に奇妙な密室殺人を奇想で解決に導く力技は素晴らしいですよ。時代背景も生々しく、犯人に感情移入し同情を禁じ得ないという滅多にお目に掛かれない作品だと思います。

掉尾を飾るのはホームズを皮肉った『黄色い下宿人』。ロンドンに留学していた謎の東洋人が、ホームズの推理をバッサリ切り捨て事件を解決します。その人の正体とは一体?そこにも注目です。
他にも『陰茎人』『自動射精機』『ハカリン』(ハカとは破瓜のこと)など、誰が見てもすぐそれと気づくようなエロを、真面目に取り扱った作品が目白押しです。夫々ちゃんとオチも付いていますし、馬鹿馬鹿しいと一蹴できない何かを含んでいると思いますね。特に『自動射精機』の落とし方が個人的にはお気に入り。

No.1036 5点 眩暈を愛して夢を見よ- 小川勝己 2019/12/15 22:15
大学卒業後、AV制作会社に就職した須山隆治は、撮影現場で高校時代の憧れの先輩・柏木美南と再会してしまう。その後、会社が倒産し、アルバイトをして日々を送る須山だったが、美南が失踪したと聞き、彼女の行方を追い始める。調査が進むにつれ明らかになる美南の悲惨な過去。同時に彼女の過去に関わる人物が次々と殺されていく。やがて事件は一応の解決を見せるが…。横溝賞受賞作家が放つ驚天動地の大傑作ミステリ。
『BOOK』データベースより。

多重構造、多視点、作中作など私の好むところの範疇に完全に入っています。その複雑な構成にはタイトル通り眩暈を起こしそうになりました。嘘ですけど。特に作中の合評会にて散々こき下ろされていますが、作中作は三篇共面白かったですね。その辺り中盤になるとかなりメタな展開が目立ってきます。これをどう着地させるかで、本作の評価ががらりと変わってくるものと思いながら読みましたが、結局最後は何がなんだか訳が分からない結果に終わり、凄く勿体ないと感じました。ここが綺麗に決まっていれば十分な傑作になったと思いますが、残念でした。

一人称で書かれた「僕」「おれ」「わたし」がそれぞれ一体誰だったのか、どこまでが虚構でどこからが現実なのか、書き切れていないのが何とも悔やまれます。最終的には読者に委ねられる形になっているようです。何かと未完成な印象が免れませんし、色々惜しい怪作という気がします。
が、果たして角川が新潮から版権を買ってまで文庫化するような作品なのか、疑問に思わずにはいられません。

No.1035 7点 “文学少女”と飢え渇く幽霊(ゴースト)- 野村美月 2019/12/13 22:12
文芸部部長・天野遠子。物語を食べちゃうくらい愛しているこの自称“文学少女”に、後輩の井上心葉は振り回されっぱなしの毎日を送っている。そんなある日、文芸部の「恋の相談ポスト」に「憎い」「幽霊が」という文字や、謎の数字を書き連ねた紙片が投げ込まれる。文芸部への挑戦だわ!と、心葉を巻き込み調査をはじめる遠子だが、見つけた“犯人”は「わたし、もう死んでるの」と笑う少女で―!?コメディ風味のビターテイスト学園ミステリー、第2弾。
『BOOK』データベースより。

今回は『嵐が丘』。私は未読ですし映画も観ていません。
前作に続き小説を書かれた紙を食べてしまう天野遠子先輩には違和感を覚えます。食べたらもう読めなくなるのに、とまるで凡人丸出しの感想しか持てない私です。身体にも良くないでしょう、消化できるんでしょうか?
本作、結構残酷な話なんですが、作者はそれを暗黒系一辺倒にならず切なさに変換するテクニックを持っていますね。暗い物語を遠子先輩や心葉のキャラで中和し、丁度良い塩梅のライトな読み物として完成させています。かなりの完成度の高さだと思います。
挿絵も良い感じです。欲しいところで欲しいイメージのイラストがポッと現れると、憎いねえと感心します。

それにしても、相変わらずキャラが立っていますね。全ての登場人物が生きています。中でも琴吹さんが私のお気に入り。自分の気持ちを素直に表現できず、つい憎まれ口を叩いてしまったり、じーっと睨んだりして何か可愛らしいですよね。全てを見透かしたような、女王様で尊大な麻貴先輩もいい味出してます。
まだまだ明かされていない心葉の秘密も気になるところです、最終巻まではまだ遠い道のりではありますが、忘れた頃にまた読みたいと思います。

No.1034 6点 記号を喰う魔女- 浦賀和宏 2019/12/11 22:38
「僕が死んだ時、居合わせた人間達を僕が生まれたあの島に向かわせてください」そう遺言を残し中学生が自殺した。孤島を訪れた5人の同級生を襲う殺戮劇。死体には、全て「逆さV」の記号が残されていた。犯人は、そして生き残れるのは誰?最終ページまで気を抜くことを許さぬ、狂気の連続と逆転する真相。
『BOOK』データベースより。

この作品は孤島、カニバリズム、難解熟語に要約され、それ以上でもそれ以下でもないと思います。ミステリですから殺人は起きますし、二つの死体には胸が逆Vの字に切り裂かれていますし、電話線も切断されます。他にもどんどん死人が出ます。一見典型的な孤島物に見まがうかもしれませんが、そうではありません。では本質は奈辺にあるのか、それはカニバリズムそのものなんですね。ネタバレになってしまうかも知れませんが、中盤でカニバリズムに対する論考が語られるので、ギリギリセーフでしょう。

安藤直樹シリーズ第五弾なわけですが、直樹は登場しません。もっと時代は前ですし、言わば番外編になろうかと思います。では本作の安藤とは誰か、小林は誰なのか、それはシリーズを通して読んでいる人は多分分かるでしょう。
本格ミステリのようで本格ミステリじゃない、なかなかにジャンル分けが難しい作品です。読後はスッキリはしませんが、印象深いのは間違いないと思いますよ。

No.1033 6点 黄金の腕- 阿佐田哲也 2019/12/09 22:21
麻雀は一般的に言えば遊びであるし、レートもその範囲で決められる。だがその域を抜けると、賭ける金額を自分の経済力ではなく自分の技量で決めるようになる。当然上のクラスへいくほどその闘いは熾烈を極める「レートは?」「金なんか賭けていないよ。でもラスを喰うと、金より多少重たい」遊び人川島に誘われて行った麻雀は、金を賭けた麻雀以上の異様な雰囲気が漂っていた。逃げ場のない喰うか喰われるかの本当の勝負が始まった。
『BOOK』データベースより。

麻雀小説ですが、スリリングでサスペンスフルな短編集。無論ミステリではありませんがピカレスクロマンというか、犯罪小説には違いないですからね。
何と言っても表題作が良いです。「金より多少重たい」の台詞が怖いですね。他の短編もそうですが、すんなり入り込めて自然にのめり込めるタイプの娯楽作となっています。『国士無双のあがりかた』には、新撰組の小島武夫、古川凱章が匿名(一文字変えただけ)で出てきて、二人の対照的な個性が光っていますね。『北国麻雀急行』は他の作品集で読んだような。
相変わらず虚々実々と言いますか、全くのフィクションなのかそれとも実話を脚色したのか判然としないような書きっぷりで、読者を魅了している感じがします。

本来7点ですが、何故かラスト二作に色川武大名義の凡作が混じっているので減点しました。氏の小説はほぼ読んでいると思っていましたが、探せばあるもんですね。やはり阿佐田哲也は面白い。

No.1032 5点 JC科学捜査官 雛菊こまりと“くねくね”殺人事件- 上甲宣之 2019/12/08 22:21
「“くねくね”を見た者は精神に異常をきたす」「トイレから聞こえてくる『赤いはんてん、着せましょかぁ』という童唄に応えると、喉を切られ殺される」など、オカルト現象になぞらえた殺人事件の数々。FBIから、祖父の勤務する兵庫県警科学捜査研究所に派遣されてきた14歳の科学捜査官・雛菊こまりが、多彩な科学捜査と天才的なひらめきによって、事件を鮮やかに解決していく!
『BOOK』データベースより。

都市伝説を絡めた殺人事件に対して、科学捜査で立ち向かう女子中学生こまりの活躍を描く連作短編集。
オカルト色が強いかと思いきや、意外と専門的で本格的な科学捜査からアプローチしています。逆に私にとってはそれが物足りなかったですね。専門知識よりももっとねちっこい不可思議性を重んじて欲しかったのが本音です。まあラノベ系ですから致し方ないでしょうか。

しかし、刑事と科捜研が聞き込みなどを共にすることに疑問を感じました。それもまるでコンビの様に。普通あり得ないのではないでしょうかね、部署が全く違う訳ですから。それはそれとして、キャラがあまり立っていないし魅力を感じないのも気になりました。こまりを始め科捜研のメンバーや刑事達はそれぞれ個性的ではあるものの、それが際立っていない印象なんですよね。シリーズが二作で終わってしまった原因の一つではないでしょうか。
いずれにせよ、もう少し上手く都市伝説を生かしたミステリに仕上げていれば、もっと読み応えのある作品に成り得たと思いますね。残念です。あと、トイレの密室の謎が未解決のまま、これはいけませんね。

No.1031 4点 いつかの人質- 芦沢央 2019/12/06 22:11
宮下愛子は幼い頃、偶発的に起きた誘拐事件に巻きこまれ失明してしまう。そして12年後、彼女は再び何者かに連れ去られる。いったい誰が、何の目的で?一方、人気慢画家の江間礼遠は突然失踪した妻、優奈の行方を必死に捜していた。優奈は誘拐事件の加害者の娘だった。長い歳月を経て再び起きた「被害者」と「加害者」の事件。偶然か、それとも…!?急展開する圧巻のラスト。大注目作家のサスペンス・ミステリー。
『BOOK』データベースより。

どうです、上記の内容紹介で興味を惹かれませんか?そう、私もそんな罠に嵌った一人です。プロット、ストーリーなどはそれほど悪いとは思いませんが、この小説には致命的な欠点が・・・。
誘拐物にしては、あまりそれらしい雰囲気が感じられません。誘拐事件自体よりも他に焦点を合わせている為、何か期待していてたものと違うと思われてなりません。二度も誘拐された少女、しかも失明しているという状況は当然サスペンス要素満載で、緊迫し盛り上がるものと信じていると裏切られますね。真犯人が途中で分かってしまうのも減点対象でしょう。もうこの人の小説は二度と読まないと思います。


【ネタバレ】


疑問其の一
いかなる手段で誘拐犯は被害者家族のプライベートを盗み聞きしていたのか。盗聴器でも仕掛けなければ無理ではないのか。詳細が書かれていません。

疑問其の二
失踪した妻を警察が本気で探してくれないからと言って、わざわざ誘拐犯に仕立て上げるでしょうか。そんなもの探偵でも雇えば速攻で解決するのに。夫であり誘拐犯のあまりに短絡的な思考に開いた口が塞がりません。

No.1030 6点 NO推理、NO探偵?- 柾木政宗 2019/12/04 22:43
私はユウ。女子高生探偵・アイちゃんの助手兼熱烈な応援団だ。けれど、我らがアイドルは推理とかいうしちめんどくさい小話が大好きで飛び道具、掟破り上等の今の本格ミステリ界ではいまいちパッとしない。決めた!私がアイちゃんをサポートして超メジャーな名探偵に育て上げる!そのためには…ねえ。「推理って、別にいらなくない―?」NO推理探偵VS.絶対予測不可能な真犯人、本格ミステリの未来を賭けた死闘の幕が上がる!
『BOOK』データベースより。

巷ではメタ、メタ言われているようだけど、そういうことね。
探偵が傀儡で助手が探偵を操る、なるほどそのパターンね。
問題作らしいけど、私から見れば全然。NO問題。

とまあこんな感じで最終話までは読んでいました。そして最終話でひっくり返されるというお約束。決して嫌いじゃないです。あ、でもネタバレじゃありませんよ、どんでん返しとかではないので(本当か?)。
それにしても最後に二つも「読者への挑戦状」を挟んでくる辺り、本格愛に満ち溢れているじゃありませんか。本格ミステリの小ネタもチラ見せしてますし。結局、推理不要論はあくまで方便であって、話題作りやメフィスト賞を狙ったあざとい作戦だったんでしょうねえ。各短編に対しては色々意見はあると思いますが、なかなかの良作だったのではないかと思います。それぞれに仕掛けが施してあり、うっかり読み流していると足を掬われたりします。色物と笑いたくば笑えと作者の声が聞こえてきそうです。

この人は将来大成するかもしれませんね。それだけの力量を持った人だと思いますよ。

No.1029 7点 迷宮百年の睡魔- 森博嗣 2019/12/02 22:24
百年の間、外部に様子が伝えられたことのない宮殿より取材許可を得て、伝説の島を訪れたミチルとウォーカロンのロイディ。一夜にして海に囲まれたと言い伝えられる島には、座標システムも機能しない迷宮の街が広がり、かつて会った女性に酷似した女王がいた。あらゆる前提を覆す、至高の百年シリーズ第二作!
『BOOK』データベースより。

順番間違えたかなあ。でもまあ、前作を読んでいなくても十分楽しめました。
しかし、首なし死体を二つ転がしておいてSFはないだろうとも思いますが、本格じゃない訳で。その辺り、ミステリと勘違いして読んだ人はそれは違うだろうと、憤慨した方もおられるかもしれませんね。そもそもおよそ百年後の物語なので、色々齟齬は起きます。例えばウォーカロンって何?ってなりませんか。ロボットなのかアンドロイドなのか、詳細は明らかになっていませんし。

途中ドタバタがあったり、なんとなくどうでも良いような描写があり、冗長さは感じます。そして、残り僅かになってもなかなか事件の様相が見えて来なくて、大丈夫かと不安になる私。勿論そんな心配は無用ですが、真相はあらぬ方向へ向かいます。それは現代においてはとても通用しない解法、だからこそのSFだったんですね。
多産作家に見られるような「書き慣れ過ぎて深みが感じられない」傾向がないとは言えないです、私だけかもしれませんし、偏見かもしれませんが。でも、これだけの作品を短期間で書き上げられるだけでも凄い才能だとは思いますね。

No.1028 7点 深泥丘奇談・続- 綾辻行人 2019/12/01 22:17
もうひとつの京都―「深泥丘」世界へ誘拐されてみませんか?妖しい眩暈とともに開く異界の扉。誰もいない神社の鈴が鳴り響き、甲殻類の怨念が臨界点に迫り、町では桜が狂い咲く。超音波検査で見つかる“心の闇”、霧の日に出現する謎の殺人鬼、夜に蠢く異形のモノたち…ありえざる「日常」が読者を包み戦慄させ、時には赦し解放する。ほら、もう帰れない。帰りたくない―!名手が贈る変幻自在の奇想怪談集。
『BOOK』データベースより。

不穏な空気が流れる古都京都。深泥丘に住む、度々眩暈を起こす「私」が様々な怪異に翻弄されるホラー連作短編集。
どこか懐かしい、幼き頃の微かな記憶を呼び起こすような作品集です。語り手は少々記憶が怪しく精神を病んでいる様子で、深泥丘病院の脳神経科に通っているため、物語に不安定さを増し、独特の如何わしい雰囲気を醸し出しています。和風ホラーなんですが、それ程恐ろしさは感じません。むしろ背中を得体の知れない何かに撫でられているような感覚を覚えます。平均的に面白く、なんとなく馬鹿馬鹿しい話もありますが、決して阿保らしいなどとは思えないんですよね、個人的には。

死体を五十回切断し、五十のパーツに切り分けるという矛盾した殺人事件など、ミステリの要素も少なからず含まれています。「私」が本格推理作家だというのもなかなか面白い設定ではないかと思います。なのに情緒不安定というね。
これは最早ホラーを超越した文学ですよ。流石名手綾辻、惜しみない拍手を送りたいですね。でも、***て何なんだー。

No.1027 5点 追悼者- 折原一 2019/11/29 22:03
浅草の古びたアパートで発見された女の絞殺死体。被害者は大手旅行代理店のOLだが、夜になると街で男を誘っていたという。この事件に興味を抱いたノンフィクション作家が彼女の生い立ちを取材すると、その周辺に奇妙な事件が相次いで起きていたことが分かる。彼女を殺したのは誰か?その動機は?「騙りの魔術師」折原一が贈る究極のミステリー。
『BOOK』データベースより。

私は知りませんでしたが、実際に起きた所謂「東電OL事件」をモチーフにした作品らしいです。
久しぶりに、ああ、折原ワールドだなとの感慨を持ちました。丸の内OL殺害事件の被害者に関わりのあった知人友人恋人などの証言を基に、真犯人をあぶり出そうという狙いは分かりますが、正直関係者、容疑者が多すぎてとても犯人を絞り切れません。
まるで本物のノンフィクション小説の様な仕上がりですが、読み方が浅いせいかどうにも作者の仕掛けが見抜けず、真相が明らかになってもカタルシスは得られませんでした。ふーんそうなんだ、位しか感想が浮かびません。

個人的には期待していた程面白いとは思えませんでした。途中の叙述トリックはえっとなりましたが、まあ最近のミステリには珍しくもなく驚きも半分って感じ。暇潰しには良いですが、ちょっと長いかなあ。

No.1026 4点 黒い仏- 殊能将之 2019/11/27 22:38
九世紀の天台僧・円載にまつわる唐の秘宝探しと、一つの指紋も残されていない部屋で発見された身元不明死体。無関係に見える二つの事柄の接点とは?日本シリーズに沸く福岡、その裏で跋扈する二つの力。複雑怪奇な事件の解を、名探偵・石動戯作は、導き出せるのか?賛否両論、前代未聞、超絶技巧の問題作。
『BOOK』データベースより。

ぶっちゃけ作者の名前だけで購入しましたが、正直イマイチでした。『ハサミ男』や『鏡の中は日曜日』などの名作を世に出した殊能将之とは思えないですね。
私はこういうの、つまりメタ的なアレは容認派ですが、問題はそこではなく石動の推理に大きな穴があり、しかもそれが警察の杜撰な捜査に直結していることです。要するに、探偵警察双方に有り得ないミスが存在している訳ですよ。まあ他にもミステリとしてあまりにショボイとか、事件や宝探しに惹きつけられる要素が少なすぎるなど、欠点が多く見られます。

日本一名探偵らしくない名探偵石動にもあまり魅力を感じませんし、物語が地味。逆に助手のアントニオの方がある意味目立っているし、面白い存在に思えますね。そちらの裏サイドにはややイイネと感じる部分があります。最後の一文もなかなかの味を出していますし。でもミステリとしての評価は低めに付けなければいけないんじゃないかと思いますよ。

No.1025 6点 箱庭図書館- 乙一 2019/11/25 22:33
僕が小説を書くようになったのには、心に秘めた理由があった(「小説家のつくり方」)。ふたりぼっちの文芸部で、先輩と過ごしたイタい毎日(「青春絶縁体」)。雪面の靴跡にみちびかれた、不思議なめぐり会い(「ホワイト・ステップ」)。“物語を紡ぐ町”で、ときに切なく、ときに温かく、奇跡のように重なり合う6つのストーリー。ミステリ、ホラー、恋愛、青春…乙一の魅力すべてが詰まった傑作短編集!
『BOOK』データベースより。

集英社のweb企画『オツイチ小説再生工場』で、読者のボツ原稿を乙一がリメイクした作品集。なので、原作者は乙一ではありません。
私は思いました。第一話の読後、原作者の意図が読めない、これはまずいと。結局素人が書いたボツ原稿など所詮この程度のものなんだという、言い知れぬ不安感が私を襲いました。ところが第二話『コンビニ日和!』でおっとなりました。これはなかなかウィットに富みながらもエッジが効いていて、良い感じじゃないかって。でも、あとがきを読むとオチは乙一が付けたらしく、ああやっぱりプロじゃないと読者を満足させる物語は書けないのではないかと思ったりします。じゃあお前が書いてみろと言われても、そりゃ書けませんけどね。私には才能がこれっぽっちもないので。

確かに様々な種類の作品があり、その度に作風を変えて均せばそれなりに面白いのですが、やはりそこはそれ読者の投稿作品であって、無理矢理短編として完成させている感があり、どうにも歯がゆさが抜けきれませんでした。
その中でも個人的に『コンビニ日和!』と『ホワイト・ステップ』が心に響きました。勝手な思いですが、おそらく多くの読者に賛同していただけるのではないかという気がします。『ホワイト・ステップ』は最後に持ってきただけあって、情感に溢れ余韻の残る逸品ではないかと思います。この作品が最も乙一の世界観に近い印象を受けましたね。

No.1024 7点 東京大洪水- 高嶋哲夫 2019/11/24 22:35
大型台風23号が接近。東京上陸はないとの気象庁発表。が、日本防災研究センターの玉城はコンピュータ・シミュレーションで24号と23号が合体、未曾有の巨大台風となって首都圏を直撃することを予知。要請により荒川防災の現場に入る玉城。設計担当者として建設中の超高層マンションに篭もる妻・恵子。残された子どもたち。ひとつの家族模様を軸に空前の規模で東京水没の危機を描く、災害サスペンス3部作、堂々の完結編。
『BOOK』データベースより。

超巨大台風が首都を襲うパニック・サスペンス。力作です。
滑り出しは面白みのない文章で、主人公一家の家庭内不和などがチマチマと語られ、先行き不安を感じました。それが台風24号が発生した辺りから面白みのなさが硬質な文体に私の中で脳内変換され、スケールもぐんとアップしてスピード感を増します。二つの台風が一つになるという前代未聞の緊急事態に、玉城と妻恵子、その子供と祖母がそれぞれの立場でどう立ち向かうのかに焦点を当てて、マクロ、ミクロ両面から迫ります。その臨場感は半端なく、窮地に立たされた人間たちのドラマは生々しく、まさにページを捲る手が止まらないとはこういう事を言うのだと思いました。

実際には気象庁がこれほど不甲斐ないはずはないでしょうけどね。しかし、普段はあまりに普通な玉城の決断力やリーダーシップの発揮ぶりには胸のすく思いがします。自衛隊を始め、都知事、区長、災害対策本部など目まぐるしくシーンが入れ替わり、嫌が上にもサスペンスフルな展開を盛り上げます。

今年は台風19号が関東甲信越から東北を直撃し、各地で大きな被害を受けました。そして河川の氾濫、堤防の決壊がいかに深刻な問題を齎すのかという教訓を得ました。これは他人事ではありません、この物語の様に大都市でも水没が起こらないとは言い切れません。災害時に各個人が取るべき行動を今一度確認すべきではないでしょうか。日本に生まれた宿命として、このことを肝に銘じるべきだと思います。

一気読み推奨、映画化希望。

No.1023 5点 猫丸先輩の空論 超絶仮想事件簿- 倉知淳 2019/11/22 22:21
友人が交通事故に遭った都心の街道沿い、電柱の傍らに供えられた花を眺めながら物思いに耽っていた男の前に、呼んでもいないタクシーが次々と…運転手たちが存在しない乗客を取り合う騒動にまで至った不可解な自動車集結事件をめぐる表題作、毎朝ベランダの同じ場所に置かれるペットボトルが謎を呼ぶ「水のそとの何か」など、猫丸先輩の推理が冴え渡る全六編を収めた連作短編集。
『BOOK』データベースより。

いやー相変わらず猫丸先輩は神出鬼没ですね。講談社ノベルスで読みましたが、イラストがまあ可愛いこと。それにしても、最終話で触れられていますが、一体猫丸先輩の身長はどれ位なんでしょうか。誰かと相対しても見下げられている描写は出てこないことから、作者にしてみればあくまでキャラ作りの一環であるという訳なんでしょうかね。

それぞれの短編は魅力的な謎に満ちていて、謎解きよりもその状況の不可解さに魅了されます。しかし、いざ真相(仮の)となるとかなり脱力ものです。例えば『とむらい自動車』なんかは、わざわざある目的の為に何台もタクシーを呼びつけるか?といささか疑問に思わずにはいられませんね。『魚か肉か食い物』も猫丸先輩が指摘するまでもなく普通気付くだろうと思いますよ。
でも、誰でも楽しめるような作品集であるのは間違いないでしょう。猫丸ファンは勿論必読です。

No.1022 6点 たけまる文庫 怪の巻- 我孫子武丸 2019/11/20 22:38
業界初(?)の「ひとり雑誌」形式で世間を「あ~っ?」と言わせた話題の短編集「小説たけまる増刊号」が、なんと今度は驚きの「個人文庫」になって帰ってきた―。記念すべき第一回配本分はホラー作品を集めた「怪の巻」をお届けします。猫を異常に恐れる男の話「猫恐怖症」、桜が頭蓋を食い破る「春爛漫」、小説の通りに起きる惨殺事件の謎「猟奇小説家」など選りすぐりの九編。…怖いです。
『BOOK』データベースより。

鋭い切れ味のホラー短編集。ですが、ミステリ寄りのものもあればサスペンスもありで、なかなか粒揃いと言って良いと思います。先を読ませない心憎い演出や、じわじわ迫る恐怖、ミステリ的ギミックが冴える見事なプロットなど読みどころが沢山。
特に印象深いのはラストが滅茶怖い『芋羊羹』、心理サスペンスでアッと言わせる『患者』で、個人的にはこの二作がツートップです。

ひもの男が交通事故である悲惨な境遇に陥る『嫉妬』は、確かに以前何かのアンソロジーで読んだ記憶があるのですが、どうしても思い出せません。私の思い違いかもしれませんが、どなたかご存知の方おられましたら教えて戴けないでしょうか。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1901件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
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