皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1829件 |
No.969 | 5点 | 往復書簡- 湊かなえ | 2019/06/13 22:24 |
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高校教師の敦史は、小学校時代の恩師の依頼で、彼女のかつての教え子六人に会いに行く。六人と先生は二十年前の不幸な事故で繋がっていた。それぞれの空白を手紙で報告する敦史だったが、六人目となかなか会う事ができない(「二十年後の宿題」)。過去の「事件」の真相が、手紙のやりとりで明かされる。感動と驚きに満ちた、書簡形式の連作ミステリ。
『BOOK』データベースより。 ここ最近色々ありまして、イマイチ集中できないまま読了してしまいました。その為、そこまで面白いとは思えませんでした。もう一度読み直せば、ひょっとするともっと高評価になる可能性もあり得ますね。 どの作品も手紙のやり取りを通して、少しずつある事件の真相に迫っていくというパターンで、プチサプライズが味わえます。しかし驚愕というほどではありません。第一話は最終的にそれはないだろうって言うのが正直なところ。第二話はあまりにも偶然が過ぎる気がします。第三話が最もミステリらしい作品だと思いますが、まあありきたりな感じで、感心する程のことでもない気がします。 『往復書簡』確かにそうなんですが、あまりそそられるタイトルではありませんね。作者の実力は見て取れますが、なんだか色々惜しい短編集ではないかとの印象で、個人的には多分すぐに忘れると思います。 |
No.968 | 5点 | 今昔百鬼拾遺 河童- 京極夏彦 | 2019/06/09 22:10 |
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昭和29年、夏。複雑に蛇行する夷隅川水系に、次々と奇妙な水死体が浮かんだ。3体目発見の報せを受けた科学雑誌「稀譚月報」の記者・中禅寺敦子は、薔薇十字探偵社の益田が調査中の模造宝石事件との関連を探るべく現地に向かった。第一発見者の女学生・呉美由紀、妖怪研究家・多々良勝五郎らと共に怪事件の謎に迫るが―。山奥を流れる、美しく澄んだ川で巻き起こった惨劇と悲劇の真相とは。百鬼夜行シリーズ待望の長編!
『BOOK』データベースより。 本作を高く評価する人は筋金入りの京極ファンか、京極作品を一度も読んだことのない人だと思います。冒頭で女子高生四人がキャーキャー言いながら、河童談義をしているのは微笑ましいですが、基本的に百鬼夜行シリーズは悲劇でしょうから、それに反するユーモラスなこの作品はややずれているのではないかと思ってしまいます。確かに河童に関する薀蓄も語られますし、それらしい雰囲気の片鱗は見せていますが、『鬼』と比較してもトーンが明るすぎる気がします。 多々良勝五郎は別として、敦子、益田、呉美由紀らの脇役が何人集まっても主役にはなれません。つまり、主役不在の百鬼夜行シリーズ、又は脇役が主役になったシリーズでしょうか。やはり京極堂あっての百鬼夜行ですよね、これではダメだなあ。 事件は変節を経ますが構造は至って単純で、途中で大凡の真相は見えてきてしまいます。それでも結末はそれなりに読ませますが、意外性などはほとんどありませんね。そもそも誰が真犯人でなぜ全員水死体なのかといった次元の問題ではないですから。少なくともミステリファンの求めているような終息には至らないだろうと思いますよ。 余談ですが、表紙のモデルは三作とも人気の今田美桜ですが、いずれもお面を被っている為お顔は拝見できません。ただスタイルの良さは伺えます。 |
No.967 | 5点 | 文豪ストレイドッグス 探偵社設立秘話 - 朝霧カフカ | 2019/06/06 22:23 |
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今から十余年前、横浜で用心棒として名を馳せる銀髪の一匹狼がいた。その名は福沢諭吉。彼は妙な成り行きから、傍若無人で破壊的に人の話を聞かないが、超天才的な推理力を持つ少年・江戸川乱歩の面倒を見るはめに。警護のため福沢たちは殺人予告のあった劇場へ赴くが、殺人は劇の舞台上で、見えない何者かの手によって引き起こされて…!?武装探偵社始まりの物語と、中島敦入社前夜の探偵社の様子を描く、豪華2本立て!!
『BOOK』データベースより。 短編+中編の構成。 短編の『ある探偵社の日常』は武装探偵社の入社試験の方法について、ああでもないこうでもないと議論する、ある意味前説のようなものです。国木田独歩、太宰治、谷崎潤一郎、与謝野晶子といった異能探偵たちの個性のぶつかり合いが読みどころですが、一応紆余曲折がありそれなりに楽しめます。 本題は福沢諭吉と少年江戸川乱歩の出会いと殺人事件の二連発を描いた『探偵社設立秘話』でしょう。ミステリとしては突っ込みどころが多すぎて、何とも言いようがありませんが、キャラクター小説としては諭吉と乱歩を等分に描いており、それぞれ違った能力を発揮してなかなかの面白さを見せてくれます。まあ、あくまでコミックスの小説版ですから、そこはそれやはりコミックスの域を出ていない感触はあります。ちなみに、佐々木琴子がハマっているシリーズ(もちろんコミックスのほう)でもあるそうですよ。小説より漫画のほうが面白いのかも知れませんね。 |
No.966 | 6点 | 閻魔堂沙羅の推理奇譚 負け犬たちの密室- 木元哉多 | 2019/06/03 22:12 |
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「閻魔堂へようこそ」。閻魔大王の娘・沙羅を名乗る美少女は浦田に語りかける。元甲子園投手の彼は、別荘内で何者かにボトルシップで撲殺され、現場は密室化、犯人はいまだ不明だという。容疑者はかつて甲子園で共に戦ったが、今はうだつのあがらない負け犬たち。誰が俺を殺した?犯人を指摘できなければ地獄行き!?浦田は現世への蘇りを賭けた霊界の推理ゲームへ挑む!
『BOOK』データベースより。 前作よりかなり本格色が濃くなって、確かな手応えを感じます。第一話では前作の書評にも書きましたが私の要望通り、現職の刑事が主人公で、派手さはないもののしっかりとしたミステリに仕上がっていると思います。伏線も効いていて好感が持てます。第二話はワンパターンと思わせて、一捻りしているところに新味が見られます。もっとも、登場人物が少ないのでおおよそのオチは読めますが、ラストが良い味を出していますね。第三話はちょっと風変わりな密室物。これはいわゆるクローズドサークルの変形で、短編にしては盛り沢山の内容な上、トリックもなかなか斬新でよく練られていると感じました。 全体を通して格段の進歩を遂げたとの印象を受けました。文章などは堂に入っており、既に大家の貫録すら感じさせます。あとは今後まだまだ本シリーズをメインにしていくのか、或いは新たなシリーズを発進させるのかといったところだと思いますが、個人的にはガチガチの本格を長編で読んでみたいですね。この人は少なくともそれだけのポテンシャルを有している作家だと思いますので。7点に近い6点です。 |
No.965 | 6点 | ifの悲劇- 浦賀和宏 | 2019/05/31 22:42 |
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【ネタバレ注意 既読の方もしくは、今後本作を絶対読まないという方限定】
小説家の加納は、愛する妹の自殺に疑惑を感じていた。やがて妹の婚約者だった奥津の浮気が原因だと突き止め、奥津を呼び出して殺害。しかし偽装工作を終え戻る途中、加納の運転する車の目の前に男性が現れて…。ここから物語はふたつに分岐していく。A.男性を轢き殺してしまった場合、B.間一髪、男性を轢かずに済んだ場合。ふたつのパラレルワールドが鮮やかにひとつに結びつくとき、予測不能な衝撃の真実が明らかになる! 『BOOK』データベースより。 まさに想像の斜め上を行く、と言うより想像の真上を行く絶妙な仕掛け。これにはさすがに騙されました。 意外に単純なストーリーだと思いながら読んでいましたが、実はとんでもない食わせ者で、かなり複雑に入り組んだ話なので、読者はそれを覚悟の上で慎重に読み進めなければなりません。ただし、それ程面白い訳ではなく、なんとなく読み流していると後で後悔する羽目になるかもしれません。途中で違和感を覚え、それらを頼りに真相に迫ろうとし、そして作者の企みを見抜こうとする勇敢な読者にはハッとするような天啓が訪れる瞬間がやってくるかもしれませんね。 それにしても、誰もが「そっちかい」と思わず唸るようなエピローグには、それは違うんじゃないかとか、やり方が汚いとの意見も上がりそうですが、もう一度最初から読み直してみると、作者がいかに巧妙に騙しのテクニックを駆使しているかに気付くと思います。○○トリックや××トリックを上手い具合に仕込んだ、浦賀らしい(らしからぬ?)一篇ではないでしょうか。 読後腹を立てる人もいるかもしれませんが、個人的には満足しています、騙されたことに、そして見事な着地を見せた作者に対して。 |
No.964 | 6点 | TENGU- 柴田哲孝 | 2019/05/29 22:20 |
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第9回 大藪春彦賞受賞作
26年前の捜査資料と、中央通信の道平(みちひら)記者は対面した。凄惨(せいさん)きわまりない他殺体の写真。そして、唯一の犯人の物証である体毛。当時はまだなかったDNA鑑定を行なうと意外な事実が……。1974年秋、群馬県の寒村を襲った連続殺人事件は、いったい何者の仕業(しわざ)だったのか? 70年代の世界情勢が絡む壮大なスケールで、圧倒的評価を得て大藪春彦賞に輝いた傑作。 これは勿論本格ではなく、それどころかミステリかどうかも疑わしい作品です。連続殺人事件は起こります。しかし、物語が進むにつれ次第に流れが読めてしまい、真犯人の正体も薄々想像が付いて、やや興冷めしてしまいますね。 ホラー色を濃くするとか、サスペンスを効かせて盛り上げるとか、もう少しやり様があった気がします。話のスケールが大きい割りに小ぢんまりと纏まってしまっている感が否めません。全体的に地味なんですよね、もっと派手にやって欲しかった。仮定の話で申し訳ないですが、これをたとえば島荘が書いていたらとか考えると、勿体ないなというのが率直な感想です。ですので、あるシーンでは本当は度肝を抜かれるようなサプライズであろうはずが、なんとなくやっぱりその辺りに落ち着くんだって思ってしまいました。個人的には十分楽しめなかったとしか言いようがありません。でも6点です、だってしょうがないじゃないですか、それなりの評価はしないとダメなんじゃないかという気持ちも捨てがたいですし。 |
No.963 | 6点 | 阿修羅ガール- 舞城王太郎 | 2019/05/25 22:25 |
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アイコは金田陽治への想いを抱えて少女的(ガーリッシュ)に悩んでいた。その間に街はカオスの大車輪! グルグル魔人は暴走してるし、同級生は誘拐されてるし、子供たちはアルマゲドンを始めてるし。世界は、そして私の恋はどうなっちゃうんだろう? 東京と魔界を彷徨いながら、アイコが見つけたものとは――。三島由紀夫賞受賞作。受賞記念として発表された短篇「川を泳いで渡る蛇」を併録。
一見どう考えてもふざけているとしか思えない書きっぷりですが、本人は超真面目に書いたんだろうなと個人的には感じます。じゃなきゃ三島由紀夫賞は獲れませんよ。 第一部でグルグル魔人の猟奇殺人や誘拐事件で読者を惹きつけておいて、第二部でとんでも世界を暴走してなじゃこりゃとなって、結局最後は上手い具合に纏め上げるという手練手管を見せる、流石です。アルマゲドンの意味や誘拐の経緯などは詳らかにされてはいませんが、そんなことは些事にさえ思えるような作品ですので、評が割れるのも致し方ないでしょうね。好き嫌いがはっきり分かれる、何とも言えない小説です。 そもそも面白いとか良い作品だとか、感動するとか感銘を受けるといった読書する上で大切な感情を拒否しているとしか思えません。それでも読者を突き放している訳ではなく、アイコという少女を通して人間の様々な在り方を追求したような感覚を覚えます。これが舞城なのだと、それははっきり言えるんじゃないでしょうかね。 蛇足ですが、文庫版に併録された短編はいらなかったです。 |
No.962 | 6点 | 東京輪舞- 月村了衛 | 2019/05/22 22:07 |
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昭和・平成の日本裏面史を「貫通」する公安警察小説!
かつて田中角栄邸を警備していた警察官・砂田修作は、公安へと異動し、時代を賑わす数々の事件と関わっていくことになる。 ロッキード、東芝COCOM、ソ連崩壊、地下鉄サリン、長官狙撃……。 それらの事件には、警察内の様々な思惑、腐敗、外部からの圧力などが複雑に絡み合っていた――。 昭和・平成史上最も重大な事件の裏には、こんな物語もあったかもという、あくまでフィクションであり警察小説の大河ドラマの様な感じです。 警察庁や警視庁、その傘下である公安の官僚を始めとする各ポストの登場人物が次々と現れ、頭を整理するのにやや苦労します。まあ私の読解力と頭の弱さの問題もありますが。結構な大作でスケールの大きさは感じますが、砂田という異動を繰り返す主人公を中心とした人間ドラマでもあります。 元々興味本位で読んでみたのですが、政治や時事問題に関心のあまりない人は読まないほうが良いと思います。特にロッキードと言われてもピンと来ない世代(私も含め)は正直難解な面がありますね。物語はロシアや北朝鮮も絡んできて、国際問題にも言及していますが、最後は悉く砂田の敗北という形で終焉します。そりゃあそうですよね、歴史は変えられないんですから。その意味でのカタルシスは訪れません。しかし、結末は哀愁に満ちており確かな余韻を残すものとなっています。 |
No.961 | 3点 | 増加博士の事件簿- 二階堂黎人 | 2019/05/17 22:10 |
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半分に千切られたトランプ、血染めの五芒星、握られた釣り餌、口の中の割れた茶碗、鼻の穴に突っ込まれた指…凶悪事件現場に遺されたあまりに不可解なダイイング・メッセージ。その真相に巨漢の名探偵・増加博士と痩身の羽鳥警部のでこぼこコンビが挑む!不可能犯罪、トリック、ユーモア、そしてウンチクがたっぷりと詰まった“頭脳刺激”系ミステリー誕生。
『BOOK』データベースより。 基本的にワンアイディアでお手軽に出来上がったショートショートの作品集。 それにしてもダイイングメッセージ物が多いですねえ。しかも、どれもこじ付けやダジャレみたいな感じのばかりで、総じて脱力系です。フェル博士をモデルにした増加博士なのに密室は僅かで、全く楽しめません。買う前にせめてAmazonでレビューを確認すれば良かった、失敗でした。ブックオフで100円だったから、まあいいか。でも時間の無駄遣いでした。 はっきり言って、やっつけ仕事感が半端ないですね。ちょっと頭を捻れば素人でも書けそうなものばかりで、これが二階堂黎人の作品集かと疑わしさすら覚えます。唯一面白かったのは『人工衛星の殺人』くらいでした。 |
No.960 | 5点 | パラドックス学園 開かれた密室- 鯨統一郎 | 2019/05/15 22:24 |
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パラドックス学園というよりパラレル学園のほうがしっくりきます。確かにパラドックスに関しても記述はありますが、本筋はあくまでパラレルワールドですね。世界に名だたる若き日のミステリ作家たちが同じ学園に通う世界。しかも、彼らはミステリ小説に対する知識すら持っていない。そんな中で起こる密室殺人事件。これはなかなか魅力的な設定ではありますね。
しかし、大多数の人が何じゃこりゃと思うんじゃないでしょうか。特に本格志向の強い人ほどそのトリックの馬鹿馬鹿しさに怒りすら覚えるかもしれません。こんなものはミステリではないと一蹴するのは簡単ですが、あくまでメタミステリとの解釈により、個人的には納得できる内容でした。私は面白ければ何でもOKなくちですからね、このようなバカミスでも十分許容範囲内ですよ。 解決編はどんどんあらぬ方向へ向かって突っ走っていきますが、最終的にまさか作者が犯人とか言い出すんじゃないだろうなと危惧しましたが、何とか杞憂に終わり安堵しました。とは言え、犯人は意外すぎる人物で、しかもトリックがあれでは本を壁に叩き付けたくなる気持ちも分からないでもありませんが、それは出来ないような仕組みになっていたりします。 ともかく、「マトモ」なミステリではないので、それを了解したうえで読む分には支障はないですが、読者を選ぶ作品なのは間違いありません。 余談ですが、エラリー・クイーンの二人の正体には正直驚きました。油断してましたね。 |
No.959 | 6点 | 殺意は必ず三度ある- 東川篤哉 | 2019/05/13 22:25 |
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連戦連敗の鯉ヶ窪学園野球部のグラウンドからベースが盗まれた。われらが探偵部にも相談が持ち込まれるが、あえなく未解決に。その一週間後。ライバル校との対抗戦の最中に、野球部監督の死体がバックスクリーンで発見された!傍らにはなぜか盗まれたベースが…。探偵部の面々がしょーもない推理で事件を混迷させる中、最後に明らかになる驚愕のトリックとは?
『BOOK』データベースより。 殺人事件が起こるまでは非常にユーモアに富んだ文章で笑わせてもらいました。それ以降は、まあ普通の本格ミステリの範疇に収まると思いますが、全体的に緩い展開で緊張感はあまり感じられません。 問題のメイントリックに関しては、色んな意味で無理がありそうです。その奇想は認めざる得ませんが、現実味が薄いと個人的には言うしかありません。下手をするとバカミスになりそうなのですが、盲点を突いているのは確かです。しかし、わざわざ危険を冒してまでそんな面倒なことをするかという疑問は残ります。そりゃあフィクションだから、ミステリだから別にいいじゃん、みたいな意見は否定しませんけど。 一方、見立て殺人の理由は概ね納得の行くものであり、こちらはなるほどと思いました。 決して派手な作品ではありませんが、野球好きの方はさらに楽しめるでしょうし、そうでなくても老若男女誰でも気軽に手に取ることのできる好編ではないかと。肩が凝らなくて笑えるのがいいですね。 |
No.958 | 6点 | 傷物語- 西尾維新 | 2019/05/10 22:11 |
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全てはここから始まる!『化物語』前日譚! 全ての始まりは終業式の夜。阿良々木暦と、美しき吸血鬼キスショット・アセロラオリオン・ハードアンダーブレードの出逢いから――。『化物語』前日譚!!
安定の面白さですね。安心して読めますが、どこか突出したところがあるかと言うとそうでもない。でも程々にスリリングで、萌え要素に関しては文句の付け様がありません。 これは阿良々木自身の物語であり、彼が人ならざる人間に変身してしまった原因を描いており、シリーズにとって欠かすことのできない作品でしょう。そして忍野との出会いも勿論明かされます。阿良々木暦の人間性にも迫りますが、前作でそれ程目立たなかった感のある委員長羽川翼の存在が、何より大きいのは誰もが認めるところではないかと思います。実際私の中では好感度急上昇です。それなのに、阿良々木が彼女の気持ちに気付いていないかのような振る舞い、或いは本当に気付いていないのか?判りませんが、ちょっと酷すぎるのではないかと。 あとがきにあるように、『化物語』よりも先にこちらを読んでも全然問題ないと思います。ただ、こんな事があったのに何故他の女子を?という疑問を抱かざるを得ないかもしれませんね。 |
No.957 | 7点 | 病葉流れて- 白川道 | 2019/05/06 22:36 |
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本作はミステリではありません。本格麻雀小説です。が、まあピカレスク・ロマンと言えなくもないので、その意味ではミステリと通じるものがあります。どなたが登録されたのか分かりませんが、そういった事を鑑みての登録だったのかもしれません。
麻雀小説はどうしても金字塔の『麻雀放浪記』と比較されると思いますが、ストーリー性などを比べると遠く及ばないものの、博打の世界にのめり込む主人公のあまりに苛烈な青春の日々や、闘牌シーンの迫力、アクの強い好敵手たちの描写は見るべきものがあります。 中でも大学の先輩である永田が博打に関する心構えを、主人公の梨田に伝授する言葉にはギャンブル全般に通じる金言が含まれており、なるほどと思わせます。それは取りも直さず作者の博打に対する考え方や発想であり、白川氏はその道でもかなりの腕を発揮したのではないかと想像します。 麻雀を打たない人にはピンと来ないでしょうから、お薦め出来ませんが、ギャンブル好きには堪らないと思いますよ。ただ、『麻雀放浪記青春編』などのように、最後の対決に臨む面子のそれぞれの境遇などにはページを割かれていませんので、その意味ではやや物足りなさを覚えるかもしれません。 麻雀を覚えて半年程度の大学一年生が、麻雀の猛者たちにどう立ち向かって行くのかが読みどころとなっています。娯楽小説としても一級品だと思います。 |
No.956 | 6点 | ルビンの壺が割れた- 宿野かほる | 2019/05/02 22:17 |
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「突然のメッセージで驚かれたことと思います。失礼をお許しください」――送信した相手は、かつて恋人だった女性。SNSでの邂逅から始まったぎこちないやりとりは、徐々に変容を見せ始め……。ジェットコースターのように先の読めない展開、その先に待ち受ける驚愕のラスト。覆面作家によるデビュー作にして、話題沸騰の超問題作!
これはなかなか。Amazonで散々こき下ろされていますが、そんなに酷いとは思えません。確かにほとんど伏線なしでの種明かしはあまり感心しませんが、だからこそ驚愕が生まれるのではないでしょうか。別に本格ミステリという訳ではなし、読者が論理立てて推理できる余地が必要とも思いませんし、こうした形式の作品に限っては、特段アンフェアだの説明不足だのといった尺度で測るようなものではない気がします。イヤミスの突然変異的な新タイプと考えれば、十分納得の行く出来だと思います。 名探偵ジャパンさんは危惧されておられますが、大丈夫ですよ。私のような面白いものなら何でも読むという人間は意外と多いと思います。そういう人が本作を読んでもっと違ったミステリにも触手を動かすことは、すなわちミステリの裾野を広げるってことですから、今後のミステリ界に寄与する結果にもなり得るでしょう。 ミステリ小説というジャンルは、古の名作を超える斬新なアイディアをどんどん取り入れて進化を遂げて、様々に派生し、飽和し、それを破壊し、その中から新たな古典と呼ばれる作品群を生み出す、そうした歴史を繰り返すものじゃないでしょうか。少なくとも本作によって影響を受けた作家が出現する可能性も否定できませんしね。 |
No.955 | 4点 | 地球人類最後の事件- 浦賀和宏 | 2019/04/30 22:22 |
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世界中から見捨てられ、愛してくれる人などいない。孤独な高校生・八木剛士が持つ唯一の武器―それは敵弾にも倒れない不死身の力だった。この力をきっかけに出会った謎の美少女・松浦純菜へ抱いた初めての恋心。しかし彼の激しい被害妄想によって二人の絆は修復不可能に…。不幸のどん底に落とされた剛士を襲う、さらなる事件とは。
『BOOK』データベースより。 どうなんですかね、これ。流石に水増し感が半端ないと言いますか。リフレインと堂々巡り。正直くどいです。特に八木の己の容貌の醜さと、女に対する感情、どうしようもないリビドーなどが繰り返し綴られ、シリーズの他作品と同じ心理描写が食傷気味です。 一方、スナイパーに関する内情や組織は提示されますが、肝心の「なぜ八木が狙われるのか」が未だ判然とせずすっきりしません。ダラダラとした展開でいい加減うんざりしているところ、最後に話が急変します。次作が最終巻となるわけですが、一体どのような結末を迎えるのか、不安しかありません。 作品の出来不出来の差が激しいと言われる作者ですが、ここに来てあの日古書店でずらりと並んでいた浦賀和宏の名前の誘惑に負けて、本シリーズを置いてあるだけ総て購入したことが正しかったのか間違いだったのか、悩むところです。これまではそれほど悪くは思いませんでしたが、本作だけはちょっといただけませんね。完全にタイトル負けしていますし、内容はともかく次を読まざるを得ないような構造になっているあざとさも悪質と思えてなりません。最終巻に期待するしかありませんね。 |
No.954 | 6点 | 今昔百鬼拾遺 鬼- 京極夏彦 | 2019/04/27 23:29 |
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「先祖代代、片倉家の女は殺される定めだとか。しかも、斬り殺されるんだと云う話でした」昭和29年3月、駒澤野球場周辺で発生した連続通り魔・「昭和の辻斬り事件」。七人目の被害者・片倉ハル子は自らの死を予見するような発言をしていた。ハル子の友人・呉美由紀から相談を受けた「稀譚月報」記者・中禅寺敦子は、怪異と見える事件に不審を覚え解明に乗り出す。百鬼夜行シリーズ最新作。
『BOOK』データベースより。 百鬼夜行シリーズ最新作、だけど京極堂、榎木津、関口、木場(の四兄弟)が出ない抜け殻のような百鬼夜行。それよりも新シリーズ発進ということなのでしょうか。我々は10年以上も『鵺の碑』を待ち続けているんですよ、京極さん。原発問題で出せないとかとの噂もありますが、完成はしているはずですよねえ?出版できないのなら、とっとと次の作品に着手して欲しいのですが。それは順序として矜持が許さないんでしょうね、きっと。だからと言ってこんな形でお茶を濁そうなんて、そうはいきませんよ。敦子が主役ではいかにも荷が重いんです。で、結局このようなシリーズにしては極薄の小品になってしまっているじゃないですか。 まあ、面白かったですけどね。雰囲気だけは確かに『百鬼夜行』だけど、いつもの蘊蓄や憑き物落としや先の四兄弟の絡みがないと、やはり全然物足りません。なんと言っても、このシリーズはキャラの濃さが一つのウリなわけで、それがない本作はせいぜいスピンオフとしての価値しかないと思います。勿論、作品の骨格はしっかりしていますし、フーダニット、ホワイダニットがメインの本格ミステリではあります。ありますが、スケール感然り事件の入り組み方然り、到底京極ファンが納得いく出来ではない気がします。でも、結局『河童』も『天狗』も読みますよ、そりゃあね。 |
No.953 | 7点 | きみのために青く光る- 似鳥鶏 | 2019/04/24 22:16 |
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青藍病。それは心の不安に根ざして発症するとされる異能力だ。力が発動すると身体が青く光る共通点以外、能力はバラバラ。たとえば動物から攻撃される能力や、念じるだけで生き物を殺せる能力、はたまた人の死期を悟る能力など―。思わぬ力を手に入れた男女が選ぶ運命とは。もしも不思議な力を手に入れたなら、あなたは何のために使いますか?愛おしく切ない青春ファンタジック・ミステリ!
『BOOK』データベースより。 これはなかなかの良作連作短編集です。とは言え、それぞれが独立完結した物語であり、共通点は青藍病患者が主人公であることと、静という性別不明の人物が登場することですかね。設定はファンタジーでありながら、より現実に即しており切実です。それは特に最終話によく顕れており、これだけでも読む価値は十分にある佳作揃いだと思います。最終話と似たような話を何作か読みましたが、これが一番現実的で異能を持ってしまったが故の深刻な心の葛藤がよく伝わってきます。 所謂いい話系が多く、また青春物としても優れていると思います。心に静かに語りかけてくるような、或いは思わずほろりと来るような、そしてスリリングな短編集です。性別年代を問わずお勧めできる隠れた名作と言っても過言ではないでしょう。 |
No.952 | 6点 | 脳人間の告白- 高嶋哲夫 | 2019/04/21 22:05 |
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日本の脳研究の最前線を走る医師・本郷を襲った突然の自動車事故。気が付けば彼は一筋の光もない暗闇の中にいた。感覚のない身体、無限にも感じる時間、そして恋人・秋子への想い…次第に彼の精神は、恐怖に押し潰されそうになる。やがて彼は、自らの置かれている驚愕の状況を知り絶望する。「何てことをしてくれたんだ!」―突然の刑事の来訪で揺れるK大学医学部脳神経外科研究棟三〇五号室を舞台に、衝撃の物語が幕を開ける!
『BOOK』データベースより。 生きているのか、死んでいるのか、生かされているのか・・・。 これは脳外科医本郷が事故である状況に置かれてからの、独白をベースにした物語です。彼の元に現れる同僚、恋人、刑事、肉親らを本郷は観察し、独自の目線である時は回想に耽り、又ある時は己の境遇を嘆き絶望します。 これ以上は何を書いてもネタバレに繋がりかねませんので控えますが、出来れば何の予備知識もなく読むのが最善です。勿論、解説すらも先に読んではなりません。と言うか、ここまで読んでしまった以上、そうも行かなくなったわけですが、余程の物好きな人しか読まないでしょうから、私が多少とも内容に触れたことは許していただきたく思います。でないと書評になりませんので。 重いテーマを扱っていますが、決して小難しい訳ではなく、むしろ淡々とした文章で読みやすい部類だと思います。専門用語も少なからず見られますし、多分に哲学的な面も内包してはいますが、エンターテインメントとしても十分機能しているのではないかという印象を受けます。いずれにせよ色々と考えさせられる異色の作品なのは間違いないですね。 |
No.951 | 6点 | 月の扉- 石持浅海 | 2019/04/18 22:25 |
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沖縄・那覇空港で、乗客240名を乗せた旅客機がハイジャックされた。犯行グループ3人の要求は、那覇警察署に留置されている彼らの「師匠」を空港まで「連れてくること」。ところが、機内のトイレで乗客の一人が死体となって発見され、事態は一変―。極限の閉鎖状況で、スリリングな犯人探しが始まる。各種ランキングで上位を占めた超話題作が、ついに文庫化。
『BOOK』データベースより。 サスペンスと本格、幻想(ロマンティシズム)小説が良い塩梅に融合されている印象。ハイジャックの実行犯と警察の心理戦だけでも結構読ませるのに、それにプラスして機内で殺人まで起こるという豪華さ。しかし、スケール感に対してショボすぎる不可能犯罪のトリックが肩透かしを食らわせます。ただ、座間味くんの緻密な推理と懇切丁寧な説明には頷かざるを得ません。これだけ親切に描写されては、ミステリファンばかりでなく、一般の読者をも引き込むのに十分な魅力を放っていると思います。 一方で師匠の存在感が薄く、その辺りもっと深堀していれば更に小説として深みが増したのではないでしょうか。タイトルにもなっている「月の扉」の意味もはっきりせず、なんとなくモヤモヤした感じが拭えません。 まあ、離着陸が麻痺した空港を舞台にしたシチュエーションはイマジネーションを掻き立てますし、それを月と対比すると一層美しさを増し、非常に絵になります。 何だかんだで面白かったです、最後のオチも好みの範疇ですしね。 |
No.950 | 2点 | 探偵・花咲太郎は閃かない- 入間人間 | 2019/04/15 22:02 |
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「推理は省いてショートカットしないとね」「期待してるわよ、メータンテー」ぼくの名前は花咲太郎。探偵だ。浮気調査が大事件となる事務所に勤め、日々迷子犬を探す仕事に明け暮れている。…にもかかわらず、皆さんはぼくの職業が公になるや、期待に目を輝かせて見つめてくる。刹那の閃きで事態を看破する名推理で、最良の結末を提供してくれるのだろうと。残念ながらぼくはただのロリコンだ。…っと。最愛の美少女・トウキが隣で睨んできてゾクゾクした。でも悪寒はそれだけじゃない。ぼくらの眼前には、なぜか真っ赤に乾いた死体が。…ぼくに過度な期待はしないで欲しいんだけどな。これは、『閃かない』探偵物語だ。
『BOOK』データベースより。 もうね、あれこれ書きたくないんですよ、愚痴になるから。一応2点にしましたが、二章がなかったら0点ですよ、0点。 タイトルが探偵は閃かないと言う位だから、推理しないのは自明の理であります。しかしそこはそれ、何らかのオチがあると思うじゃないですか。それが皆無なのです。花咲太郎は推理しないどころか、推理できないんですね。名探偵じゃないので。殺人が起きたり、殺し屋が現れたりして一応ミステリの体裁は備えているものの、全く推理しないで犯人が分かってしまうという、誠に荒唐無稽な内容のとんでもない代物です。 よくもまあ、このような作品を世に出したものだと感心するやら呆れるやら。これ程くだらない小説は生まれて初めて読んだ気がします。それでもAmazonのレビューに星5つつけている人がいるんですねえ。いやまあ、価値観の違いとしか言いようがありませんけど、それにしても・・・。出来れば、無かったことにしたいです。 |