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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1829件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.989 5点 鏡姉妹の飛ぶ教室- 佐藤友哉 2019/08/17 22:33
誰もが三百六十五日分の一日で終わる予定でいた六月六日。鏡家の三女、鏡佐奈は突然の大地震に遭遇する。液状化した大地に呑み込まれていく校舎を彩る闇の色は、生き残った生徒たちの心を狂気一色に染め上げてゆく―。衝撃の問題作、『クリスマス・テロル』から三年の沈黙を破り、佐藤友哉が満を持して放つ戦慄の「鏡家サーガ」例外編。あの九〇年代以降の「失われた」青春のすべてがここにある。
『BOOK』データベースより。

始めにキャラありきで、それをベースにストーリーや構成に嵌めこんでいった感じの小説。ですので、各キャラは十分立っていますが、例外編と云うだけあってサーガでもなく単なる番外編ですね。
復活した佐藤友哉はもうミステリを書く事を放棄してしまったのでしょうか。その後の執筆活動を鑑みると、やはりその感は否めないと思いますね。純文学の世界へと飛び立ったと言っても良いでしょう。これまでもミステリ作家としてデビューしながら、段階的にファンタジー、ホラー、純文学などのエンタメに移行していった作家は幾人も見てきましたが、彼もその一人なのです。

作品としてはパニック小説に近い、青春小説の群像劇ですかね。取り敢えず地震で地盤沈下した教室で生き残った鏡姉妹を含む生徒たちの、生死を賭けた戦い模様をそれぞれの立場から描いており、泥臭い男女の駆け引きや心理描写が読みどころでしょう。しかし、どの辺りで盛り上がったら良いのかイマイチ分からない、掴みどころのない作品でした。もう少し何とかならならなかったものかと私なんかは思ってしまいますが、いずれにせよ中途半端でキレのない印象を受けました。

No.988 5点 クリスマス・テロル invisible×inventor- 佐藤友哉 2019/08/14 22:45
そこで出会った青年から冬子はある男の「監視」を依頼される。密室状態の岬の小屋に完璧にひきこもり、ノートパソコンに向かって黙々と作業をつづける男。その男の「監視」をひたすら続ける冬子。双眼鏡越しの「見る」×「見られる」関係が逆転するとき、一瞬で世界は崩壊する!「書く」ことの孤独と不安を描ききった問題作中の問題作。
『BOOK』データベースより。

これが例の密室本の一冊だったとは読み終えるまで知りませんでした。知っていたら読まなかったと云うとそうでもないですが。
物語自体は面白かったですよ、なかなかの書きっぷりも良いですしね。一体どう収拾を付けるのか不思議なほどの謎は非常に魅力的で、これが合理的に解決されたらさぞ傑作になったのにと思います。そう、トリックがあまりにもショボいんですよ。しかも丸パクリではねえ、納得できません。


【ネタバレ】


終章が問題になったノベルス版、リアルタイムでこれを読んだ方はさぞかし驚かれたことと思います。しかし、その後に出た文庫版を読了した我々はその後の佐藤友哉という作家を知っていますので、何も感慨を抱くことはできません。己の置かれている立場をネタに「テロル」を仕掛けたのは成功に終わったようですが、それが作家のあるべき姿だったとはとても言えないですね。まあ、そういう本の売り方もあるという、禁断の手法。それで復活したから良いじゃないかとも言えますが、姑息ですね。
でも、自ら書いた解説は面白かったです正直。
評価が割れているのも納得の出来でした。

No.987 6点 栞と紙魚子の生首事件- 諸星大二郎 2019/08/11 22:26
一応ジャンルとしてはホラーです。絵は何と言うかへたうまな感じで、本気で書けばプロの漫画家だから無論上手いんでしょうが、故意に適当に描いているような印象を受けます。ただ、主役の女子高生二人組にしても変に美化せず、どこにでも居そうな雰囲気を出している辺りはセンスでしょうかね。しかも、二人のスタイルの微妙な違いや制服姿の自然な感じというか、腰が異様にくびれていたりせず、むしろダボッとした野暮ったさがリアリティを与えています。

ストーリーは総じて脱力系で、本当は怖い話なんだろうけど何故か笑えるみたいな感じです。例えば『生首事件』、たまたまゴミ捨て場で見つけた生首を興味本位で家に持ち帰った栞は古書店の娘である紙魚子の持ってきた『生首の正しい飼い方』なる本を参考に、水槽で生首を飼うという無茶苦茶な展開で、大したオチもありません。しかし、こんな誰も考えないような事ばかり書き続ける作者の、まさにコロンブスの卵的な発想には目を見張るものがあります。絵自体の迫力もまあそれなりで、楽しめるのは間違いないと思います。兎に角栞と紙魚子ののほほんとしたボケぶりを堪能出来、再読に耐え得るところが良いんじゃないでしょうか。

No.986 7点 夜よ鼠たちのために- 連城三紀彦 2019/08/10 22:31
脅迫電話に呼び出された医師とその娘婿が、白衣を着せられ、首に針金を巻きつけられた奇妙な姿で遺体となって発見された。なぜこんな姿で殺されたのか、犯人の目的は一体何なのか…?深い情念と、超絶技巧。意外な真相が胸を打つ、サスペンス・ミステリーの傑作9編を収録。『このミステリーがすごい!2014年版』の「復刊希望!幻の名作ベストテン」にて1位に輝いた、幻の名作がついに復刊!
『BOOK』データベースより。

読めば読むほど味の出る逸品揃いの短編集。
雰囲気はやはり連城だけれど、思ったよりずっと本格寄りの作品が多く、いずれ甲乙付けがたい魅力を持ったものばかりです。表題作を始め、ほぼ全篇反転が味わえます。しかも相当じっくりと推敲されたと思われ、なかなか先が読めません。今現在こうした男女間の隠微な関係性を浮き彫りにした作風と本格ミステリを合体させたような作品を描く作家が見当たらなくなってしまったのは、残念な限りです。しかし、違った形で同じようなテーマに挑戦している人は多分多いと思います。されど、その違いは歴然としており、恋慕或いは慕情、男女のもつれるような機微を書かせたら連城の右に出る者はいないのではないでしょうか。少なくともミステリ界に於いては。

No.985 4点 少年たちの密室- 古処誠二 2019/08/06 22:34
東海地震で倒壊したマンションの地下駐車場に閉じ込められた六人の高校生と担任教師。暗闇の中、少年の一人が瓦礫で頭を打たれて死亡する。事故か、それとも殺人か?殺人なら、全く光のない状況で一撃で殺すことがなぜ可能だったのか?周到にくみ上げられた本格推理ならではの熱き感動が読者を打つ傑作。
『BOOK』データベースより。

評価が高かったので読んでみましたが、私の感性には合いませんでした。高評価の方を否定するつもりは勿論ありませんが、どこが面白いんだろうなあとは思います。まず、回りくどい文章が気になりました、もっとストレートに書けよって。持って回ったような表現が多すぎて、情景が浮かんでこなかったり、頭の中をスルーしてしまうような感覚を覚えました。元々救いのない内容なので、読後どんよりと暗い気持ちになります。そこには一片の感慨もありませんでした。おそらく私が圧倒的なマイノリティーなのだろうとは思いますが、傑作とはどうしても思えません。

地震後の地上の惨状も描かれていませんし、ひたすら閉塞感に襲われて気持ちのいい読書体験をすることができませんでした。「心震える本格推理の傑作」らしいですが、好きになれませんねえ。結局悪事を働いた人間に明るい未来はないと言いたかったのかどうなのか、私には判断できません。

No.984 6点 Killer X- クイーン兄弟 2019/08/02 22:45
大雪に閉ざされた山荘に招かれた6人の男女。同窓会と思いやって来た彼らを待っていたのは、変わり果てた恩師の姿だった。下半身の自由を失い、大きな傷を負った顔は、不気味な仮面に覆われていたのだ。頻発する“突き落とし魔”事件との関係は―。外界から隔絶された世界で、謎の殺人鬼が牙を剥く!実力派作家2人がタッグを組んだ、超絶的本格ミステリ。
『BOOK』データベースより。

なかなか事件が起こらず、じりじりした気分を強いられます。緊迫感が最後まで持続できていない印象はありますが、何か仕掛けがあると感じたり不自然な描写が見られるので、ミステリとしては最後にドカンと落とし穴に落ちたりするんだろうなとは予想出来ます。まあ、文章が一人称でしかも日記形式で書かれている為、余計にそう感じるのでしょう。
終盤漸く事件が怒涛の様に起こり、すぐに解決編に雪崩れ込みますが、その騙しのテクニックには驚きを禁じ得ません。アンフェアギリギリの細かな伏線が張り巡らされて、なるほどと納得させられます。ただ、一ヵ所ある人物の言動に明らかな矛盾があったのが若干の瑕疵かもしれません。

全体としては正統派の本格ミステリ(吹雪の山荘の典型的なパターン)でありながらも、another sideを取り入れるなどの工夫も凝らされています。ただ、事件が起きるまでがやや単調で、個人的には少々退屈さを覚えましたし、最後スッキリとした纏まりに欠ける気がしたので減点しました。

No.983 6点 念力密室!- 西澤保彦 2019/07/29 22:36
売れない作家・保科匡緒のマンションで起こった密室殺人。そこに登場する“チョーモンイン(見習)”神麻嗣子。美貌の能解警部…。「神麻嗣子の超能力事件簿」の最初の事件である表題作をはじめ、“密室”をテーマにした6作品を収録!奇想天外の連続に驚き続けること確実な、シリーズ初の連作短編集。
『BOOK』データベースより。

連作短編集ですが、ほとんどの舞台がマンションで、鍵が掛かっていたとかいないとか、チェーンが掛かっていたとかいないとか、死体が移動していたとかいないとか同じようなシチュエーションで、もう少し目先を変えて欲しかったというのが本音です。密室は全てサイキックで片付けられ、トリックは最初から否定されていますので、もっぱらホワイダニットに特化していると言えるでしょう。
それよりも、保科、神麻、能解の三人の微妙な三角関係のほうに興味を惹かれます。シリーズ第三作、これを最初に読んで良かったのか悪かったのか定かではありませんが、第一話で主役三人の最初の出会いが描かれているので時系列的には正解の様な気もします、これが怪我の功名なら良いのですが。

マイベストは『乳児の告発』。全体的に予定調和的な物語が多い中、これだけは意表を突かれました。ミステリらしい仕掛けが見事に決まっています。
本作品集はSFでもなければファンタジーでもなく、十分本格ミステリの範疇だと思いますが、密室という言葉に反応する方には残念ながらお勧めできません。それでも西澤らしい作品であるのは間違いないです。キャラの良さと性格描写だけでも読む価値ありでしょうかね。

No.982 8点 九十九十九- 舞城王太郎 2019/07/26 22:17
あまりの美しさに、素顔を見せるだけで相手を失神させてしまう僕は加藤家の養子となり、九十九十九(ツクモジュウク)と名づけられた。九十九十九は日本探偵倶楽部(JDC)に所属する探偵神でもある。聖書、創世記、ヨハネの黙示録の見立て連続殺人事件に探偵神の僕は挑む。清涼院流水作品の人気キャラクターが舞城ワールドで大活躍!

名探偵九十九十九が難事件を次々と華麗に解決するという、私の期待を大きく裏切ってくれました。しかし、その期待以上の小説でもありました。正直、一から十まで全てを理解できたとはとても思えませんが、決して難解なのではなく混沌としているのです。
清涼院流水を始め実名の作家の名前が登場したり、主人公が過去へ未来へ行き来したり、メタな展開には眩暈がする程です。しかも、一人称で書かれた文章は誰あろう九十九十九本人の手によるもの。禁忌として決して触れてはならない探偵神の内面を抉るように描かれており、さらには同時に三人の九十九十九が現れるという荒唐無稽ぶりを見せる。しかし、必ずしも破綻することのない世界を構築している手腕には脱帽せざるを得ません。これが舞城王太郎の底力なのでしょうか。
最早JDCも探偵も超越した独自のワールド、しかしそれらがなければ成立しない世界。何だかんだ書いても、おそらく私の駄文では一ミリも雰囲気すら味わえないであろう暗黒に屹立する異形(偉業)。読まなきゃ判りません。

それにしても文庫版の装丁・・・。

No.981 6点 偽物語- 西尾維新 2019/07/21 22:00
“ファイヤーシスターズ”の実戦担当、阿良々木火憐。暦の妹である彼女が対峙する、「化物」ならぬ「偽物」とは!?台湾の気鋭イラストレーターVOFANとのコンビも絶好調!「化物語」の後日談が今始まる―西尾維新ここにあり!これぞ現代の怪異!怪異!怪異!青春は、ほんものになるための戦いだ。
『BOOK』データベースより。

上巻、手際よくエピソードを交えながら主要キャラを紹介していくのは、一種の読者サービスとも言えるでしょうが、シリーズ一作目から読みたくなってしまうような造りはあざとさも感じます。ただ、これによりいきなり本作から読み始めても大丈夫なように描かれているのは確かなようです。
上巻は阿良々木暦の上の妹の物語でありますが、読みどころは最終盤の激し過ぎる兄妹喧嘩で、その後の敵との対決はあっけなく終わってしまい、やや物足りなさを覚えますね。

下巻は下の妹の物語。本質的にはこちらが今回の根幹を成しているのだと思います。個人的にも下巻が好み、というか本シリーズが怪異を主眼としたものならば、誰もがこちらを推すのではないでしょうか。結末は確かに心動かされるものがありました。兄妹の絆、どんな形であれそれは美しく素晴らしいものだという思いに駆られます。
しかし、相変わらず言葉遊びが過ぎて、たまにちょっと寒かったりする会話の応酬が苦手な方は避けるべきかもしれません。ラノベと割り切ってしまえばそれはそれでいいのでしょうけれど。

No.980 4点 無貌伝 ~双児の子ら~- 望月守宮 2019/07/15 22:25
人と“ヒトデナシ”と呼ばれる怪異が共存していた世界―。名探偵・秋津は、怪盗・無貌によって「顔」を奪われ、失意の日々を送っていた。しかし彼のもとに、親に捨てられた孤高の少年・望が突然あらわれ、隠し持った銃を突きつける!そんな二人の前に、無貌から次の犯行予告が!!狙われたのは鉄道王一族の一人娘、榎木芹―。次々とまき起こる怪異と連続殺人事件!“ヒトデナシ”に翻弄される望たちが目にした真実とは。第40回メフィスト賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

無駄に長く、途中でダレます。冒頭望が探偵秋津の助手になるところまでは、これは期待できるかもと思いましたが、それ以降さしたる盛り上がりもなく、正直読まされている感覚を覚えました。最早苦行に近い感じでやっと最後までたどり着いた、みたいな。
無貌やヒトデナシは単なる装置に過ぎず、もっと言えば帳尻合わせに用意されたものにしか思えません。物語をミステリとして成立させるためには、どうしても欠かせないにせよ、それが雰囲気を構築している訳ではなく、ちょっとした小道具として使用されているわけです。
まあやりたい事は分かりますが、どうも私には合わなかったようです。伝奇ミステリと言えば聞こえはいいですが、事件の真相は驚くようなものではありません。独特の世界観であるのは確かだと思いますよ。しかしねえ、全体的にメリハリがなく、緊迫感も持続できていないように感じました。最後も上手く纏めようとしていますが、どうにもスッキリしないエンディングになっています。畢竟、シリーズを追いかけて最後まで読破しなければ、作者の狙いは見えてこないのかも知れません。

No.979 5点 彼は残業だったので- 松尾詩朗 2019/07/11 22:44
情報処理会社に勤める中井は、残業中、魔術の本を読みふけっていたら、オフィスのオートロックがかかり、閉じ込められてしまった。時間をもてあました彼は、“憎い相手を呪い殺す”呪術を試してみることに…。日頃、憎らしく思っている同僚野村裕美子と佐藤輝明の人形を厚紙でつくり、火をつけた!二人は前日から無断欠勤していたが、はたして三日後、佐藤の部屋から男女の焼死体が発見された。二つの死体は、バラバラに切断され、あやつり人形のように木の枝で連結されていた。犯人は何のために、死体にこのような細工をしたのか。
『BOOK』データベースより。

何か色々と惜しいなという印象が強いです。文章が平板で起伏がなく、特に事件に直接関係ない描写になると途端に面白くなくなる辺り、まだまだプロの作家になり切っていない感じがしました。
上記の様な、黒焦げ死体をバラバラにして、それを枝で繋ぎ合わせるという極めて魅力的で吸引力を持った謎は、とても素晴らしいと思います。しかし、その猟奇殺人と作風がマッチしていないです。途中でトリックが解ってしまったのもかなりがっかりしました。おまけにヒントを出し過ぎでしょう。これはピンときますよ、あまりにもあからさまでしたね。


【ネタバレ】


『占星術殺人事件』を読んでいる人にはかなり早い段階で真相が読めてしまう可能性があります。読んでいなくても割と看破しやすいですかね。
ある程度期待はしていたのですが、やや肩透かしを食らった感は否めません。もっと大胆なトリックだと思っていましたが。ついでにタイトルについて触れると、内容とはあまり関係ないですので、そのつもりで読まれる方が良いと思います。しかし、もう少し売れそうなタイトルだったらもっと注目されたのではないでしょうか。

No.978 7点 松浦純菜の静かな世界- 浦賀和宏 2019/07/08 22:31
大けがを負い、療養生活をおくっていた松浦純菜が2年ぶりに自宅に戻ってくると、親友の貴子が行方不明になっていた。市内では連続女子高生殺人事件が発生。被害者は身体の一部を持ち去られていた!大強運で超不幸な“奇跡の男”八木剛士と真相を追ううちに2人の心の闇が少しずつ重なり合う新ミステリ。
『BOOK』データベースより。

あるルートから入手。やっと読めました。
やはり浦賀はこうでなければいけません。シリーズ第一弾ということで、結構力が入っている感じがします。八木は相変わらずですが、純菜のキャラが掴みどころがなく、女性の心理を描くのが下手なのかと思いました。もう少し掘り下げるとか、何とかならなかったものかと。故意に不透明さを押し出しているのかもしれませんが、シリーズを通してこんな感じなので、何とも言えません。

しかし、青春ミステリのような雰囲気を醸していますが、骨格はコテコテの本格物ですよ。二作目は良いとして、それ以降もこの路線で行って欲しかったですねえ。途中からミステリを放り投げて、明後日の方向に向いてしまって、それが悔やまれてなりません。
これまで私自身モヤモヤしていた純菜の秘密に関して明らかにされていたので、その点は溜飲が下がる思いでした。ただ細かいところで瑕疵が目立ちますし、終盤謎解きが早足過ぎて勿体なかった気がします。動機も弱いというか説明不足ではないかと思います。その辺りを差し引いてもこの点数、なかなかの作品ではないでしょうか。

No.977 6点 “文学少女”と死にたがりの道化(ピエロ)- 野村美月 2019/07/05 22:26
「どうかあたしの恋を叶えてください!」何故か文芸部に持ち込まれた依頼。それは、単なる恋文の代筆のはずだったが…。物語を食べちゃうくらい深く愛している“文学少女”天野遠子と、平穏と平凡を愛する、今はただの男子高校生、井上心葉。ふたりの前に紡ぎ出されたのは、人間の心が分からない、孤独な“お化け”の嘆きと絶望の物語だった―。野村美月が贈る新味、口溶け軽めでちょっぴりビターな、ミステリアス学園コメディ、開幕。
『BOOK』データベースより。

謎が謎を呼ぶミステリ的側面と、適度な萌え要素のラノベ的側面が丁度良い具合に融合した逸品。勿論キャラは立っていますのでご安心を。「文学少女」と言うだけあって、今回は太宰治愛が止まらない作品になっています。『人間失格』がモチーフです。想像ですが、本シリーズでは一人ずつ内外の作家や作品に関する思い入れが語られているものと思われます。
作風は全く違いますが、プロットや構造は京極作品に類似するところが見られます。凝ったトリックなど存在しませんが、その見せ方によっては十分ミステリとして成立するのだという事を証明したような内容です。ただ、遠子の推理(想像)は何を根拠にしているのか判然とせず、伏線を回収して論理を組み立てるような本格ミステリ志向の方には不向きだと思います。真相に意外性はなく、驚くような結末を期待すると裏切られます。

最終的には、人間はどんなに異端でも、当たり前だけど人と違っても死んではならないという一点に集約されるのでしょう。そこに救いを求めるのは、読者として当然であり、「こんな私でも生きていてよい」、自ら命を絶つのは絶対駄目なんだ、たとえ太宰がそうだったとしても・・・それが結論なのかなと、思います。

No.976 7点 強欲な羊- 美輪和音 2019/07/03 22:58
美しい姉妹が暮らすとある屋敷にやってきた「わたくし」が見たのは、対照的な性格の二人の間に起きた陰湿で邪悪な事件の数々。年々エスカレートし、ついには妹が姉を殺害してしまうが―。その物語を滔々と語る「わたくし」の驚きの真意とは?圧倒的な筆力で第7回ミステリーズ!新人賞を受賞した「強欲な羊」に始まる“羊”たちの饗宴。企みと悪意に満ちた、五編収録の連作集。
『BOOK』データベースより。

ダークでホラーな連作短編集。いずれもミステリ的趣向が施されて、どんでん返しが炸裂します。特に表題作は、これぞ暗黒小説と言いたくなるような、残酷なのにそれを淡々と表現する作者の空恐ろしさを感じます。まあこれをリアルに描いたら、只のグロになってしまいますが、そこを上手にテクニックでカバーしシュールさすら覚えるような作品に昇華させていますね。異世界に読者を導いてくれます。

『ストックホルムの羊』などは終盤でそれまでの話は一体何だったのだろうと思うような反転と言うか、でんぐり返しを見事に決めています。
最終話では各短編の登場人物が現れます。この手法は有りがちですが、冒頭、三人の女性が公衆トイレの個室で片足を手錠で繋がれているという、大変魅力的な設定となっており、私好みの展開であります。その後はちょっと違うなと感じましたが、いずれにせよどの短編も単体でも十分楽しめる作品集に仕上がっていると思います。ただ、やや無理やり感がないわけではなく、連作にする必然性があったようには思えませんでした。
Amazonでの評価は低いです(読者メーターは割と好意的)が、個人的には非常に面白く読ませてもらいました。イヤミスとの説もありますが、何とも言えませんね。ジャンルを超えた異色の問題作ってところじゃないでしょうか。

No.975 6点 神鳥(イビス)- 篠田節子 2019/06/29 23:16
夭逝した明治の日本画家・河野珠枝の「朱鷺飛来図」。死の直前に描かれたこの幻想画の、妖しい魅力に魅せられた女性イラストレーターとバイオレンス作家の男女コンビ。画に隠された謎を探りだそうと珠枝の足跡を追って佐渡から奥多摩へ。そして、ふたりが山中で遭遇したのは時空を超えた異形の恐怖世界だった。異色のホラー長編小説。
『BOOK』データベースより。

前半はサスペンス、後半はパニック・ホラーな展開。かなり怖いです。
主人公の二人、タフな女と軟弱な男の微妙な距離感が何とも言えず良い雰囲気を醸し出しています。特にイラストレーターの葉子の揺れる女心が、異世界の恐怖感を相殺して丁度いい塩梅に仕上がっている感じがしますね。文体も分かりやすく、立ち止ることなくスムースに読み進めることができます。
また、絶滅危惧種の朱鷺の生態などの蘊蓄も語られ、緩急をつけた非常にバランスの良い作品だと思います。

果たして彼らは現実の世界に戻れるのか、そして二人の関係はどう発展するのかといったところも注目ポイントで、最後まで飽きることなく読ませます。
タイトルから受ける神秘的な或いはファンタジックな印象はあまりなく、どちらかと言えば土着的な要素がより色濃い作品となっています。十分面白かったですし、他作品も読んでみようかという気にはなりました。

No.974 4点 避雷針の夏- 櫛木理宇 2019/06/27 22:18
家庭も仕事も行きづまっていた梅宮正樹は、妻子と要介護の母を連れ、田舎町・睦間に移り住む。そこは、元殺人犯が我が物顔にのさばる一方、よそものは徹底的に虐げられる最悪の町だった。小料理屋の女将・倉本郁枝と二人の子供たちも、それ故、凄惨な仕打ちを受けていた。猛暑で死者が相次ぐ夏、積もり積もった人々の鬱憤がついに爆発する―。衝撃の暗黒小説!
『BOOK』データベースより。

只々嫌な気分になりました、又何がしたかったのかよく分かりません。その意味でジャンルはイヤミスなのかもしれません。あまりにも救いのない話だし、登場人物は結構多いですが、誰一人として感情移入の余地がありません。とにかく色々詰め込み過ぎて、各パーツが拡散しそれらが収まるべきところに収まっていないような印象を受けます。
事件らしい事件は起こりませんが、ガーゴイル像や狛犬の破壊、猫の切断死体などで読者を引き付けておいて突き放す、この手法はあまり感心しません。郁枝の夫の殺害事件の不自然なアリバイトリックも、真相は全然ミステリとして見るべきものはありません。

この作者にハズレはないと思っていましたが、今回は残念な結果に終わりました。まあ、個人的に合わなかったというだけで、こうした不安定な心情に陥りそうな作品が好きな人も意外と多いのではないかとも思いますけれど。

No.973 6点 殺人犯はそこにいる- 清水潔 2019/06/25 22:27
5人の少女が姿を消した。群馬と栃木の県境、半径10キロという狭いエリアで。同一犯による連続事件ではないのか?なぜ「足利事件」だけが“解決済み”なのか?執念の取材は前代未聞の「冤罪事件」と野放しの「真犯人」、そして司法の闇を炙り出す―。新潮ドキュメント賞、日本推理作家協会賞受賞。日本中に衝撃を与え、「調査報道のバイブル」と絶賛された事件ノンフィクション。
『BOOK』データベースより。

不謹慎と知りつつ面白かったのです。そういった尺度で計れる小説でないのは十分承知していますが、一つの読み物として楽しめました。決して起こってはならない悲惨な事件、警察の隠蔽体質、DNA型鑑定の不確実性、メディアの底力など様々な問題を孕んで物語は進行していきます。
何よりも五人の無辜の幼女の無念を晴らさんと、一ジャーナリストとして全力を尽くす清水潔氏の行動力と執念に頭が下がる思いです。そしてそれがやがて冤罪事件として、警察を動かし、最終的には裁判官にまで冤罪者となり十七年もの間服役していた菅家さんに頭を下げさせた氏の功績は計り知れないものがあると思います。

これはノンフィクションですので、当然被害者、遺族を含め警察関係者や検察官らすべて実名で書かれています。有田芳生氏、鳥越俊太郎氏、三原じゅん子氏などみなさんお馴染みの名前も出てきます。ですが、小説を読んでいるのと同じ感覚に陥るほど、ルポとは思えないような筆致で迫ってくる迫力があります。そして筆者の葛藤や焦燥などの心理状態が手に取るように分かります。
一つ残念なのが、あとがきにもあるように「ルパン」の正体をどのような経緯で知り得たのかが、ある事情で割愛されていることでしょうか。
この事件はまだ続いています。解決されていません。警察は己の威信のために動こうとしないのです。これが世界一優秀と言われる日本の警察の実態なのだと思うと、空恐ろしさすら覚えます。

No.972 4点 パラダイス・クローズド- 汀こるもの 2019/06/20 22:36
周囲の者が次々と殺人や事故に巻き込まれる死神体質の魚マニア・美樹と、それらを処理する探偵体質の弟・真樹。彼ら美少年双子はミステリ作家が所有する孤島の館へ向かうが、案の定、館主密室殺人に遭遇。犯人は館に集った癖のあるミステリ作家たちの中にいるのか、それとも双子の…?最強にして最凶の美少年双子ミステリ。第37回メフィスト賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

怖いもの見たさで読んでみましたが、これはいけませんねえ。本格に対する作者なりのアンチテーゼなのかもしれませんが、本格の皮を被った非本格ミステリであり、云わば紛い物なのではないかと思います。
蘊蓄はまあ面白かったり面白くなかったり、どうでも良いのですが、ややくどいです。又、○○トリックを延々と語られても判ったから次行ってくれとしか思えませんね。真相を語らない名探偵、荒れ狂う双子の片割れ、結局闇に葬られたような動機、一見コード型の本格もどき、どれを取っても褒められたものではありません。

最終章がなければ2点でしたね。
で、徐に登場する探偵役は実は・・・という最後までアンチに拘った作品だったので、その点だけは良しとしましょう。でも本当はこの人は本格ファンなのだろうというのと、ナウシカ好きなのは間違いないでしょう。

No.971 5点 ジュリエットXプレス- 上甲宣之 2019/06/17 22:07
新年のため携帯電話が、現在つながりません―。高校の寮で平和に年明けを過ごすはずだった佐倉遙。だが大晦日の深夜、予期せぬ訪問者は彼女にこう告げる―「これから殺人フィルムの噂を語ろう」。しかしそこに血まみれになっている少年が飛び込んできて!?一方同じ頃、遙のルームメイトである真夕子はある事情から誘拐された子供を寝台特急でさがし、さらに寮から数百メートルを隔てた家では、智美が残忍な強盗に襲われていた!大晦日の23:45。すべての物語はここから始まる!携帯が通信規制でつながらない今、3人のヒロインの運命は?接点がない3つの物語が少しずつ絡み合いひとつになって、45分後にはあらゆる想像を超えた衝撃の結末へ―『24』を超えるリアルタイムノベル。
『BOOK』データベースより。

まさにジェットコースターのように乱高下するそのスピード感は比類なきものと思われます。ただ、てんこ盛りの内容に反していかにも枚数が少なすぎて、一気読みしないと急展開に付いて行けないところが欠点と言えなくもありません。
三人の女子高生が、一見全く関係なさそうな事件に巻き込まれ、最後にはそれぞれが繋がりを持ってくる構成となっており、読みどころ満載です。そこここにミステリ的な仕掛けが施されて、はっ?となるシーンもあったり肩の力を抜いて楽しめます。短いせいか、どうしても物足りなさも感じますが、まあよく考えられたプロットと言えると思います。サスペンスフルな好編ではないでしょうか。

No.970 4点 ばらばら死体の夜- 桜庭一樹 2019/06/16 22:09
神保町の古書店「泪亭」二階に住む謎の美女・白井沙漠。学生時代に同じ部屋に下宿していたことから彼女と知り合った翻訳家の解は、訝しく思いながらも何度も身体を重ねる。二人が共通して抱える「借金」という恐怖。破滅へのカウントダウンの中、彼らが辿り着いた場所とは―。「消費者金融」全盛の時代を生きる登場人物四人の視点から、お金に翻弄される人々の姿を緻密に描いたサスペンス。
『BOOK』データベースより。

こんなに殺伐とした小説を読むのは初めてかも知れません。それは、人間性の圧倒的な欠如、二人の主人公の人間としての根源の部分が抜け落ちていることに起因すると思われます。泪亭の店主がマトモに思えるほどに、異形の人物像として私の目には映ります。許容範囲の広い私でも、流石にこれはちょっとどうなのかと思ってしまいました。
それ程嫌悪感を覚える訳ではありませんが、少なくとも気持ちよく読了できる作品でないことは間違いありません。そして読者を選ぶことも確かでしょう。私のようにタイトルに惹かれて購読するのは危険なのでやめた方が賢明です。

冒頭に少々ショッキングなシーンがあり、そこに向かって物語は進行していきますが、闇金やら性衝動やらやるせない夢など、様々な要素がごちゃ混ぜに。一体自分は何を読まされているのか、何をしているのか読書中に疑問を感じながらブルーな気分に浸れます。ですが決して気分の良いものではありません。
しかし、最後まで読んだら即最初に戻って読み返してしまうこと必至なのです。ちょっとした仕掛けが仕込んでありますので、まあでもミステリじゃないからトリックどうこうではないですが。
それにしてもたかが300万の金で夢と自由が手に入ると本気で考えているとしたら、やはり頭がイカレているとしか言いようがありませんねえ。

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ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1829件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(26)
西尾維新(25)
島田荘司(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
中山七里(19)
折原一(19)
日日日(18)
森博嗣(17)