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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1829件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1149 7点 CUT- 菅原和也 2020/07/18 22:44
キャバクラのボーイ・透は、キャバ嬢・エコの送迎中に、路上で首なし死体に遭遇してしまう。動揺する透に、エコは「死体の首を切断する主な理由」を淡々と講義し始めるのだった。透は過去に弟を亡くして以来、消極的な人生を送っていたが、エキセントリックなエコに引っ張られるように、事件の捜査に巻き込まれていく―。最後のページを読み終えた時、最悪の絶望が待っている。横溝賞史上最年少受賞者が放つ、二度読み必至、驚愕の本格ミステリ。
『BOOK』データベースより。

最初から作者の意図は察していたので、どこでどんな伏線を張ってくるかなと思いながら読み進めました。やや弱いと思われる部分もありましたが、「重力密室」などはなるほどそう来ましたかって感じでニヤリとさせられました。
スイスイと読めますし、横溝正史賞受賞作よりも随分こなれた文章になっていると思います。探偵役のエコは可愛げがないものの、どこか親近感を覚えて個人的にはかなり好感度が高かったですね。いきなり冒頭で登場する首なし死体を前にして、冷静に切断する理由を三つに分けて語り出す奇矯さに、唖然とさせられます。がその後の人物描写には変わり者という以上に、逆に人間臭さを覚えたりもします。


【ネタバレ】


最後は後味の悪さが残りますが、結局首を切断する理由は単純なもので、鑑識か司法解剖でその痕跡を暴けたはずなのではないかと疑問に思います。作者としては周到に仕掛けを施したつもりかも知れませんが、ミエミエですね。それでも十分楽しめたのは、途中であれ?と思わせてくれるので、ひょっとして自分の思い違いなのかと若干でも疑ってしまったためです。でも結果そのまんまだったのは、ちょっぴり萎えましたけどね。

No.1148 6点 トップラン 最終話 大航海をラン- 清涼院流水 2020/07/17 22:12
2001年1月1日―新世紀の到来と同時に、世界は神々しいまでの輝きに包まれる。20世紀までに書かれたあらゆる小説ジャンルと隔絶する方法論でつくられた新しい物語。21世紀「娯楽小説以降」を鮮烈に印象づける書き下ろし文庫シリーズ『トップラン』完結作にして、清涼院「流水大説」の揺るぎない到達点。問答無用の最高傑作、ここに誕生。
『BOOK』データベースより。

傑作『コズミック』に通じるものがある事に好感を抱く一方、そのスケールの大きさに付いて行けない自分がいるのも実感しました。そこまで話を広げるか、というのが率直な意見。ただ、これまで様々な謎を孕んだ物語に終止符が打たれるのに相応しい内容だったとは思います。そして、一応すべての謎に回答が提示されています。
一つだけ、何故恋子だったのか?という素朴な疑問は不透明で、やはり狙いは別にあったという事なのか、言明されていないのが不満です。

トップラン・テストに始まったシリーズですが、このテスト、相手の狙いをある程度推察すれば、誰でも高得点が得られるところに捻りが加わっていなかったのは、ダメじゃないでしょうか。結局作者の自己満足の為に書かれた本作であり、自画自賛してこれまでの最高傑作と称していますが、それは客観的な事実とは異なると言わざるを得ませんね。あくまで本シリーズの売り上げに少しでも貢献するための方便だと思います。そりゃ誰でも作家たるもの自身の書いた作品が可愛くないはずがないでしょうけど、己の感情に本当に正直なのか疑問を覚えるところです。まあ努力賞として6点付けますけど。

No.1147 5点 トップラン 第5話 最終話に専念- 清涼院流水 2020/07/15 22:58
水面下での駆け引きが次々と暴かれ、嘘つき勝負「一巻の終わりクイズ」は意外な終幕を迎えた。「よろず鑑定師」貴船天使は夜闇に姿を消し、謎の女・孤森ヒカルの影が見え隠れする。トップラン・テストの「M資金」「Y3K―西暦3000年の問題」とはなにか?残すは最終話のみ。20世紀にとどめを刺す書き下ろし文庫シリーズ第5話。
『BOOK』データベースより。

一巻の終わりクイズの最終局面を迎えます。残ったのは二人、恋子と少年狼。ここで物語はクライマックスに達する頃になります。前話で姿を現すかに見えたキツネ目の天才少女、狐森ヒカルは結局未だその正体さえ明らかにならず、期待に反して大した役割をしているようには思えませんでした。その後消えた貴船天使を追って、恋子の叔父で探偵の笙造が決着を付けるかと思われたが・・・。

しかし、謎の全貌はまだまだ明かされず、貴船天使の正体、どんな狙いがあって恋子にテスト、クイズを仕掛けたのか。背後にはまだ何かありそうですが、果たして最終話で全てが収束されるのか、不安でいっぱいです。現在その最終話を読んでいるところですが、一向に物語が進行せずイライラ感が募っています。
清涼院流水の最高傑作と言う人もいますが『コズミック』を超える作品は今後も書かれることはないでしょう。

No.1146 6点 トップラン 第4話 クイズ大逆転- 清涼院流水 2020/07/13 22:30
トップラン・テストに関するすべての秘密が解き明かされる時が来た。「よろず鑑定師」貴船天使の紹介で、音羽恋子たち関係者一同は「少年狼」と衝撃的に出会う。時間と大金を賭けた嘘つき勝負「一巻の終わりクイズ」をめぐり、虚々実々のかけひきが繰り広げられる。舞台は整い、役者は揃った。盛り上がり最高潮の書き下ろし文庫シリーズ第4話。
『BOOK』データベースより。

第2話第3話に比べると、ストーリーの広がりが感じられ、やや盛り上がったのではないかと思います。前半はそれまでの経緯と貴船と対決するまでの説明に費やされ、シリーズを通して読んできた者にとっては特記べき点は見当たりません。しかし、恋子とその家族、友人対貴船天使、少年狼の構図はサスペンスフルで読み応えがあります。クイズ対決はそれぞれが嘘か本当かをその場で証明できる、本人にしか分からない告白をし、その真偽を賭けて大金と時間とを奪い合うというもの。

新たな少年狼という登場人物が現れることにより、物語は劇的に面白くなってきました。更には第5話で真打とも言えそうな、キツネ目の天才少女も出てきて、一層盛り上がることを期待しています。
最後の第6話まで読んで、果たしてどんな結末が待っているのか、長々と読まされて拍子抜けしないことを祈るばかりです。

No.1145 7点 星虫- 岩本隆雄 2020/07/12 22:16
宇宙に憧れ、将来は宇宙飛行士としてスペースシャトルを操縦することを夢見る高校生・氷室友美。そんな彼女が夏休み最後の夜に目にしたのは、無数の光る物体が空から降ってくる幻想的な光景だった。後に“星虫”と呼ばれるこの物体は、人間の額に吸着することで宿主の感覚を増幅させる能力を持った宇宙生物で、友美もすっかり星虫に夢中になってしまう。ところが、やがて人々の額で星虫が驚くべき変化を始めて―。幻の名作が大幅な加筆の上、復活。
『BOOK』データベースより。

10才くらいの頃に読みたかった作品。ラノベSFと言うか、ジュブナイルと言うべきか。考えてみればかなり無茶苦茶な話ですが、その設定がなければ成立しない物語なので、そこには目を瞑るしかないでしょうね。主人公の友美と寝太郎はともかく、脇役キャラのディテールをもう少し細かく描いて欲しかった気もします。そうすればラノベとしてもっと面白い作品に仕上がったのにと思います。まあそれでも、読んでいる時のワクワク感はなかなかのもの。

特に瞠目すべきは最終章ですね。ここまで感動的な展開が待っているとは、思いもよりませんでした。意外な伏線も張ってあり、そこでそう繋がるのかと感心もしました。しかし、流石に星虫の正体にはあまりのリアリティのなさにちょっとがっかりしましたね。それでも総じて高評価なのは友美と寝太郎のキャラの良さによるところが大きいのかなと思います。
確かに幻の名作と言ってもあながち間違いではないかも知れません。

No.1144 6点 無明の闇- 椹野道流 2020/07/10 22:27
法医学教室の新米・伊月崇の近況は、目下のところ、教室の「暗黙の法則」を地で行くような毎日。暗黙の法則その1「続くときは同じような解剖ばかり続く」。その週はどうやら「子ども」に縁があるようだった。様々な状況下で死んだ乳児たち。轢き逃げ遺体の解剖の際は、目撃者が幼い少女ときいて暗澹となる。そしてふと気づけば、伏野先輩の様子が妙…?法医学教室奇談、好調、第二弾。
『BOOK』データベースより。

最終章までは医療サスペンス、最終章は完全なホラー、又ミステリの要素も含むという、カテゴライズされないジャンルミックスな本作。一作目もそうだったようなので、それが本シリーズの持ち味なのかも知れません。著者は法医学教室に実際勤務していたと事で、その辺りの描写はかなり生々しいと感じます。
冒頭、連続して二つの赤子の遺体の解剖から始まり、この調子が続くとちょっときついなと思いましたが、その後は漸く本筋に至り、主人公の一人伏野ミチルの過去と現在進行形の遺体解剖が繋がってきます。

法医学教室という特殊な空間を描くことにより、それぞれのキャラを浮かび上がらせる手法は悪くないと思いますが、各キャラが際立っておらず、その意味では物足りなさを覚えます。そして、序盤こそ筋が読めませんでしたが、次第に予定調和的な展開になり、先が読めてしまうのは減点材料ではないかと。一々幕間で食事シーンが挟まれるのもどうかと思いました。なんとなくまどろっこしく感じましたね。

No.1143 6点 神様が殺してくれる- 森博嗣 2020/07/07 22:40
パリの女優殺害に端を発する連続殺人。両手を縛られ現場で拘束されていた重要参考人リオンは「神が殺した」と証言。容疑者も手がかりもないまま、ほどなくミラノで起きたピアニスト絞殺事件。またも現場にはリオンが。手がかりは彼の異常な美しさだけだった。舞台をフランクフルト、東京へと移し国際刑事警察機構の僕は独自に捜査を開始した―。
『BOOK』データベースより。

本作に限らず森博嗣の文体は無機質な作品が多いなというのが第一印象です。まあ相変わらずですが、そこが良くも悪くも氏の特徴でしょうけど。
決して悪くはないと思いましたが、諸々疑問点が残る結末ではありました。各事件へのアプローチの仕方からして普通のミステリとは違う感触で、思わず身構えて読みました。予想通りと言うべきか、とんでもない事になっています。その意味で伏線があったかどうか考えてみても、やはり後出しっぽく、本格ミステリの概念からはやや外れた異色の作品と言えるかもしれません。

しかし、犯人は何故最初から本命を狙わなかったのか、単なる嫌がらせにしては大胆すぎる犯行じゃないかと思いますね。
途中やや退屈でしたが、ラストは目を瞠るものがありました。尚文庫本の解説を読む限り、ちょっと想像の翼を広げ過ぎな感が否めませんでした。果たしてそこまで深読みするべきものかと、疑問に思われてなりません。確かに、主人公の「私」に関わる不可思議さや秘密はこの手の作品にありがちですが、本作は細部に至るまで親切に噛み砕いて書いてくれていません。若干アンフェアとも取れる不親切さは感じますね。

No.1142 7点 君たちに明日はない- 垣根涼介 2020/07/05 22:35
「私はもう用済みってことですか!?」リストラ請負会社に勤める村上真介の仕事はクビ切り面接官。どんなに恨まれ、なじられ、泣かれても、なぜかこの仕事にはやりがいを感じている。建材メーカーの課長代理、陽子の面接を担当した真介は、気の強い八つ年上の彼女に好意をおぼえるのだが…。恋に仕事に奮闘するすべての社会人に捧げる、勇気沸きたつ人間ドラマ。山本周五郎賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

重すぎず軽すぎず、付かず離れず、暗すぎず明るすぎず、丁度良いバランスで描かれた佳作。
君たちに明日はないという割りには、どのリストラ要員の最後の姿も、決して暗い未来しかない訳ではないです。中には、最後の面接さえ描かれず終わった物語もあったりしますが、それは読者の想像におまかせとばかり、粋な作者の計らいを匂わせます。それにしても、事前の想像では主人公がもっと硬派な感じがしましたが、普段の顔はやや軽めです。しかし、いざリストラの面接官という任に着いたら、じんわりと相手の懐に入り込み、あの手この手で懐柔に掛かります。決して無理強いはせず、あくまで相手の意志で決断を促す手腕には、拍手を送りたくなると同時に、人間味人情味すら覚えます。その意味で、リストラ請負業者という特殊な職業に対する嫌悪感を読者から排除することに成功していると思います。敵ではないのだと、意識付けをし、アンチヒーローを否定するように仕向けているようです。

そして、何と言っても各キャラが生きています。そして動きます、行為だけではなく心までも。そこに読者は共感せざるを得なくなり、敵見方関係なく両者に感情移入できるシステムが見事に構築されていると思います。ただ、村上以外の面接官の情報が完全にシャットアウトされていて、その辺りもう少し描写があっても良かった気がします。これは流石にシリーズ化されるのも納得の出来でしょう。

No.1141 6点 - 高橋克彦 2020/07/03 22:19
げに、人の心は恐ろしきもの―平安の都を揺るがす鬼や悪霊、怪異に立ち向かうのは滋丘川人、弓削是雄、賀茂忠行、賀茂保憲、安倍晴明ら陰陽師たち。“応天門の変”の真相を暴く「髑髏鬼」など五篇を収録した妖かしの物語集。鬼と陰陽師の壮大なストーリーが今、始まる。
『BOOK』データベースより。

平安時代に活躍した、陰陽寮に籍を置いていた安倍晴明を始め、その師となる賀茂忠行、息子保憲、弓削是雄ら陰陽師が鬼と対峙するファンタジー。とは言え、激しいバトルなどはほとんどなく、人形(ひとがた)や式神を駆使して魔を祓うといったシーンが中心になります。
有名な平将門の首級が都から空を飛んだという言い伝えの、新しい解釈とも言える逸話や、菅原道真の怨霊の力がどれほど強力だったのかなど、裏歴史的に興味深い物語もあります。何より、時代小説らしく会話文は「~にござる」的な感じなのでちょっと取っ付き難さもありますが、空想なのにまるで自分がその場にいるような臨場感を覚えるのが、この人の文章力の素晴らしさではないかと思います。

鬼よりも恐ろしいのは人の心というテーマは、現代のホラー作品に通じるものがあり、今も昔もその辺りは変わらないのかも知れないと感じたりもします。又、ミステリの要素もありながら、実在の人物たちの恨み辛みや思惑などが錯綜する、人間ドラマとしても読みごたえがあります。短いながらも充実した内容の短編集ではないかと思います。

No.1140 4点 奇術師のパズル- 釣巻礼公 2020/07/01 22:54
中学校のカウンセラー・棟谷志保子あてに、“大石和哉を知っているか?”という謎のメッセージ。発信人は、死んだはずの女生徒・新庄朋恵。大石は志保子の婚約者だったが、生徒に刺殺された。やがて、文化祭に出品する立体モザイク『隧道の中の悪魔』の傍に、“新庄朋恵は私が殺した”という遺書を持つ大河原杏子の死体が…。モザイクに描かれていた五個の人面図が、奇妙なことに四個に…。死体が発見された体育館は、完全な密室状態。志保子を襲う三人の男子生徒。MGの小部屋とは?消えた人面の謎が解き明かされたとき、戦慄の事実が…。奇想天外、新機軸の密室ミステリー傑作長編。
『BOOK』データベースより。

最後まですっきりしませんでしたね。何が何だか分からないうちに解決し、様々真相が明らかになっていました。トリックは大仕掛けな割に、効果が絶大とは言えず、そうだったんだくらいにしか思いませんでした。密室と言っても、なんだかなあって感じです。まあ私の頭が悪いことや読解力がないことを認めたとしても、これは凄いとはならないと思います。
一体どこを軸に置いて、物語を進めたかったのかも判然とせず。そして人間が描かれていない、まあこれはよくある事ですけど。文体も合わなかったですね、個人的に。そして警察の捜査がどうなっているのか、全く描かれていないのにも違和感を覚えました。

いじめ問題に関しては、生々しさが感じられず、これほどまでの参考文献が全然生かされていないのではないかと勘繰りたくなりました。
あくまでマイノリティの意見として、この書評はあまり参考にしないでいただきたいと思います。でもAmazonの評価が一つもないのには、何かしらの意味がある気もします。

No.1139 6点 名も知らぬ夫- 新章文子 2020/06/29 22:34
婚期を過ぎて母とつましく暮らす市子のもとに、二十五年前に音信を絶った徒兄の圭吉が訪ねて来た。市子に昔の記憶はないが、目の前の中年男は優しく魅力的だった。ほどなく二人は一つ屋根の下で暮らし、結ばれるが、日を追って男の正体が明らかに―。巧みなプロットで読む者を引き込む表題作など、女性ならではの繊細な心理描写が光るサスペンス推理八編を収録!
『BOOK』データベースより。

目茶苦茶読みやすいです。が、ほとんどが平均点レベルの作品で、これは凄いと唸らされるようなものは見当たりません。1959年から1964年に書かれた短編で、表現に古さは全く感じられません。逆に言うと昭和テイストがあまり味わえないとも言えますね。
『年下の亭主』は一捻りしてあり、好みの範囲ではあります。心理サスペンスとしてもミステリとしても引き込まれます。
『不安の庭』は展開が読めず、途中ハッとさせられるようなシーンもあり、なかなかの逸品だと思います。
上記二作がツートップですね。しかし、最初に書いた様にそれぞれが平均的な出来なので、読者によって各短編の評価はまちまちになってくるでしょう。決して悪くはないのですが、何か突き抜けた部分があるのかと問われると、残念ながら否と言わざるを得ません。この年代の表立っていない作家の珍しい作品をと思われる方だけ読めば良いんじゃないですかね。

どうも個人的に光文社はイマイチなんですよね。編集者が悪いのか、作家があまり乗り気でないのか、これといった傑作名作が少ないと思われてなりません。

No.1138 6点 1000の小説とバックベアード- 佐藤友哉 2020/06/27 22:20
二十七歳の誕生日に仕事をクビになるのは悲劇だ。僕は四年間勤めた片説家集団を離れ、途方に暮れていた。(片説は特定の依頼人を恢復させるための文章で小説とは異なる。)おまけに解雇された途端、読み書きの能力を失う始末だ。謎めく配川姉妹、地下に広がる異界、全身黒ずくめの男・バックベアード。古今東西の物語をめぐるアドヴェンチャーが、ここに始まる。三島由紀夫賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

何だかよく分からないという意見もありますが、片説という個人の為に書かれた小説を通して、小説とは何か、小説を書くとは一体どういう事なのかというテーマが根底にあるので、そこを理解すれば読み解くことは難しくないと思います。破天荒な物語ではあるものの、文学として心に染み入るものがあります。作者の小説に対するどうしようもない衝動のようなものが迸り、情熱を感じます。
バックベアード、『日本文学』といった得体の知れない人物や、地下の図書館に閉じ込められた人々、探偵の一ノ瀬、謎多き配川姉妹、片説家たちが複雑に絡み合い、人間模様が凄いことになっています。

日本の文豪たちへの鎮魂歌の意味合いもあり、また全ての小説家に対する憧憬やその存在の意味など、様々な作者の想いが詰まった作品となっています。ファンにとっては裏切られた感はないと思いますが、佐藤友哉を初めて読む人にはどうなのかなと微妙な感じがしますね。

No.1137 4点 トップラン 第3話 身代金ローン- 清涼院流水 2020/06/25 22:47
謎の人物から誘拐予告電話がかかってきた。標的は音羽恋子の姉・銀子。相手が要求する身代金は3億7529万9500円。しかも支払いはローンで!?無気味な電話を恋子は逆に利用し、「よろず鑑定師」貴船天使を罠へと誘い出す秘策を練る。恋子の奇襲は成功するものの、敵にも予想外の切り札が…。緊迫する書き下ろし文庫シリーズ第3話。
『BOOK』データベースより。

前作から1ミリも話が進んでいない、これでは評価のしようがありません。前回誘拐されたと書きましたが、誘拐予告電話の間違いでした。しかし、それもまるで想定の範囲内の様な恋子の落ち着きぶりはどうしたことでしょうか。誰が何の為にという謎が何だかおざなりにされているような気がしてなりません。2000年当時の時事ネタとか、カラオケで誰がどんな曲を歌ったとか、どうでもいいです。本当にストーリーが前進したとするなら、ラストだけです。正直中身のない空虚な小説を読まされた感が半端ないです。

清涼院流水は『コズミック』で燃え尽きてしまったのでしょうかね。残りの作品は燃え滓だけ。大体、この作品を分冊にした意味が分かりません。せめて上下巻程度にすれば、もう少し濃密な内容になっていたのではないかと思います。相変わらず水増し感が大いに感じられ、第6話まで一気に読むつもりでしたが、飽きました。なので、一旦インターバルを置きたいと思います。

No.1136 5点 トップラン 第2話 恋人は誘拐犯- 清涼院流水 2020/06/24 22:48
「よろず鑑定師」と名乗る貴船天使が課したトップラン・テスト第1問をクリアした音羽恋子。第2の課題は、『明日届ける7500万円入りのアタッシェケースを自宅で2カ月間隠し通すこと』。しかし届いたのは「104」と書かれた1枚のハガキだった。またもや謎謎!?テン(10)・シ(4)―天使?さらに謎が深まる書き下ろし文庫シリーズ第2話。
『BOOK』データベースより。

第1話の次回予告通り、トップラン・テストの答え合わせがメイン。まあ、予想通りと言いますか、当然と言いますか、要するに模範解答、必ずしも優等生的ではありませんが、が高得点となっています。裏があるのかも知れないとは言え、出題者の目論見を読み取れば、それほど難解な問題ではありませんね。つまり、己を貫く信念を持っていて、尚且つ周囲と孤立しない順応性が求められている訳で、通底する問題の解答に矛盾があってはなりません。それにしても、やはり少量の情報を無理やり引き延ばした感は否めず、余計な描写が見られるのは減点材料です。

そして、ラストに漸く話が動きます。これはかなり急展開と言ってもよく、意外な人物が登場し、更に恋子の姉の銀子が誘拐されるという怒涛の結末を迎えます。この先どうなるかが気になるように工夫されていますが、もう少しテンポよく話を進めて欲しいものですね。

No.1135 7点 妖琦庵夜話 その探偵、人にあらず- 榎田ユウリ 2020/06/23 22:32
突如発見された妖怪のDNA。それを持つものを「妖人」と呼ぶ。お茶室「妖〓(き)庵」の主である洗足伊織は、明晰な頭脳を持つ隻眼の美青年。口が悪くてヒネクレ気味だが、人間に溶け込んで暮らす「妖人」を見抜く力を持つ。その力のせいで、伊織のもとには厄介な依頼が絶えない。今日のお客は、警視庁妖人対策本部、略して“Y対”の、やたら乙女な新人刑事、脇坂。彼に「油取り」という妖怪が絡む、女子大生殺人事件の捜査協力を依頼された伊織は…。
『BOOK』データベースより。

別名義でBL物を書いている作者。世評が高いので興味本位で読んでみましたが、さすがの私も生理的に受け付けませんでした。そこで、本格ミステリ風のこちらはどうかと思って試してみたら、これが面白い。妖人とか妖怪とかが出てきて、京極の世界観に近いのかと期待しましたが、それはありませんでした。。しかし、これはこれで確固とした独自のワールドを確立しており、特に個々のキャラが鮮明に立っていて、その意味では文句なしの出来だと思います。強さ、優しさ、癒し、可愛さ、幼気、残酷さなどの要素が入り混じって、凄く良い味を出しています。これは広く一般読者にも受けるでしょうね。

ミステリとしては他愛もないものではありますが、それを補って余りある魅力的な探偵像。和装の似合う茶道の師範でありながら、物語で語られる妖人として生きていかなくてはならない宿命を背負っています。更に、まだまだ明かされない秘密を隠し持っており、それがまた本シリーズを牽引している要素の一つでもあると言えそうです。これまで全八巻刊行されていて、どれも好評なのが理解できる気がします。次回作にも十分期待できると思います。

No.1134 5点 トップラン 第1話 ここが最前線- 清涼院流水 2020/06/21 22:39
2000年1月1日。新しい千年紀と同時にハタチを迎えた音羽恋子の眼前に現れた「よろず鑑定師 貴船天使」と名乗る男は、札束を取り出して言った。「このテストに回答したら99万円あげるよ」。突如渡された33問のトップラン・テスト―回答者に値段をつけるための人間鑑定試験??奇妙な謎が謎を呼ぶ、書き下ろし文庫シリーズ第1話。
『BOOK』データベースより。

主人公の恋子がマクドナルドで偶然会った、貴船天使と名乗る男の胡散臭い取引に乗り、人間鑑定試験を受けるという内容。試験と言っても単なるアンケートのようなもので、少なくとも怪しげな裏がある様には思われません。ごく普通の性格診断のようなもので、誰でもが分かる、これを選べば相手に喜ばれるであろう模範解答を繰り返し選択するのみです。他にもホームドラマのような一面もありつつ、果たしてこのよろず鑑定師は何者なのか、何が目的なのかがはっきりしない分、不安を煽ってきます。その意味ではサスペンス小説なのかも知れません。

そして、その鑑定結果は果たして巨額を手にするものであって、これは予想通り。期間内に貴船を探し出さなければならない条件をどうやってクリアするのかも、予想通りです。何の捻りもありません。ですが、まだ物語は始まったばかりなので、今後の展開が読めません。取り敢えず次回は鑑定試験の答え合わせが明かされるそうです。自分の身に照らし合わせて、どんな結果が出るのか気になるところではありますね。

No.1133 6点 奇術探偵 曾我佳城全集 秘の巻- 泡坂妻夫 2020/06/19 22:14
曾我佳城。若くして引退した美貌の奇術師。華麗なる舞台は今も奇術ファンの語り草である。もう一つの貌は名探偵。弾丸受止め術が自慢の奇術師がパートナーを撃ち殺してしまった。舞台に注目する観客の前で弾や銃を掏り替えた者は誰か。佳城は真相を見抜けるか?―など究極の奇術トリック満載の「秘の巻」。
『BOOK』データベースより。

単行本の方では絶賛されていますが、それ程とは思いませんでした。確かに、マジックとミステリを上手く融合させている手腕は素晴らしいです。しかし、途中でちょっと飽きてきます。何故ですかね。事件そのものの魅力がいまひとつだからでしょうか。それに、あまり余韻が残りません、いきなり解決編が始まり、それで終了みたいな感じで。尻切れトンボとまでは言いませんが、真相の意外性を感じるまでもなく唐突に切り捨てられたような感覚を覚えます。

『ジグザグ』辺りは個人的に好みではありました。途中で裏が読めてしまいますが。あとは『剣の舞』とか。動機が良かったですね、そこまでするのは逆恨みじゃないかとも思いますけど。
読んでいて何度も思ったのは、例えば山田風太郎だったらもう少し被害者の悲哀や、ストーリー性、ミステリ的趣向を充実させていたのではないだろうかというものでした。本書の場合はあまりに奇術に傾き過ぎたせいで、他がおろそかになってしまっているのではないかと思いましたね。

No.1132 6点 幽式- 一肇 2020/06/16 22:05
いるのかいないのか誰もが定義できない幽かな存在―亡霊。皇鳴学園高等学校一年、渡崎トキオはヘタレなうえに霊体験皆無のオカルトマニア。そんな彼の呑気な日常は、奇人にして美貌の転校生・神野江ユイと出逢ったことから揺らぎ始める!神野江は言う―「すべてが、逆なのだわ」。赤く染められた部屋、口にすると憑かれる言葉…この世にひそむ“霊かなもの”を次々と暴く神野江ユイに圧倒されながら、トキオが最後に辿り着いた彼岸の真実とは―?新感覚学園オカルティックホラーここに登場。
『BOOK』データベースより。

ホラーと言うよりオカルトですね。誰も彼も常軌を逸しているのに、物語として破綻していません。所謂情緒不安定な主人公の一人称で、それに対応するトリックも用意されています。と言っても、決してミステリではありませんので。
派手さはありませんが、神野江ユイがたまに暴走し、時ににオカルトサイト「異界ヶ淵」の管理人クリシュナ先輩がトキオを諫めるといった図式で物語は進行していきます。勿論、トキオにもユイにも重い過去という十字架を背負わされており、トーンは終始暗いです。それにしても、神野江はゲロ吐き過ぎ。

ラストは意外にも爽やかで救いがあります。どこがどうとは言えませんが、何か面白かったですね。リーダビリティも優れていて、オカルト好きな人にはお薦めです。装画、挿絵は好みではなかった、ちょっと酷いですね。

No.1131 5点 時計を忘れて森へいこう- 光原百合 2020/06/14 22:10
同級生の謎めいた言葉に翻弄され、担任教師の不可解な態度に胸を痛める翠は、憂いを抱いて清海の森を訪れる。さわやかな風が渡るここには、心の機微を自然のままに見て取る森の護り人が住んでいる。一連の話を材料にその人が丁寧に織りあげた物語を聞いていると、頭上の黒雲にくっきり切れ目が入ったように感じられた。その向こうには、哀しくなるほど美しい青空が覗いていた…。
『BOOK』データベースより。

日常の謎1割、癒し5割、優しさ4割な感じ。でも、その癒しと優しさは私には突き刺さりませんでした。何故だろうと考えるに、そもそも文章が青臭すぎるし、未熟過ぎて心に入り込ないからだろうと思います。全体的にぼんやりとした印象で、溢れる自然に囲まれた環境のはずなのに、あまりイメージすることが出来ませんでしたね。それに、一体何がしたかったのかが私には理解しかねます。作者は一応ミステリを意識して描いたようですが、第一話などは推理する程の謎でもなく、誰が考えても真相は同じでしょう。

Amazonなどで評判が良かったので思わず買ってしまいましたが、多くは女性或いは若年層の支持を受けたものと推察します。ミステリの鬼が揃った本サイトでは登録されていないだろうと思っていたのですが、流石に一票入っていましたね。まあ、ミステリ読みは読まなくて良い作品ですね。読み難いとかではないけれど、私の読解力以前の問題のような気がします。一冊の小説としての魅力があまり感じられないのは、残念な限りです。

No.1130 6点 星空の16進数- 逸木裕 2020/06/12 22:32
「私を誘拐したあの人に、もう一度だけ会いたい」それは“色彩”だけを友とする少女の願い。すべての謎がとけたとき―私のいる世界は、こんなにも美しかった。
『BOOK』データベースより。

残念ながらデビュー作『虹を待つ少女』の名曲『ムーンリバ―』のような衝撃や感動は味わえませんでした。
誘拐された過去を持つ少女藍葉のパートと、藍葉に依頼された探偵みどりのパートの両面から描かれます。しかし、藍葉の大方は必要なかったと思います。無理矢理話を膨らませてページを稼いでいるだけにしか思えませんでした。それだけに冗長さはどうしても否定できないですね。
この作者特有の、多角的な視点から物語を紡ぐという美点は今回は見られません。ですから単調になりがちで、登場人物たちにもあまり個性が感じられません。一寸コミュ障気味の主人公藍葉と、私立探偵の資質を十分に持ったみどりの他は、探偵を陰のように支える浅川くらいですかね、それなりに人物が描けているのは。

真相はちょっとだけ意表を突かれましたが、そこに至るまでがあまりに長くて、それだけの為に読まされたような気がしたのは、いささか不本意ではありました。この作者に対する期待は個人的に高いものがありますので、それを考えるとやや期待を裏切られた感じがします。「色」に関する拘りなどは、正直興味を持てませんでしたね。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1829件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(26)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
綾辻行人(22)
京極夏彦(22)
中山七里(19)
折原一(19)
日日日(18)
森博嗣(17)