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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1828件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1468 7点 精神分析殺人事件- 森村誠一 2022/07/13 22:45
魚住と山下の両刑事は小学校教師の中原みどり殺害事件の聞込み捜査で、被害者の元同僚だった井川英一を訪ねた帰り、バッタやキリギリスの羽や首をバラバラにして、穴に葬っている児童に出会った。二人を送ってきた心理学の講師である井川は、その児童は殺されたみどりの勤めていた小学校の生徒だと教えた。そして彼は一見無意味に思える行動にも精神的原因があり、この子にも精神的葛藤がある筈だという。その話を聞いた魚住はミドリ色の虫と中原みどりという共通項に気づき、二人の関係を調べることにした…。
『BOOK』データベースより。

容疑者、犯人、目撃者の深層心理から事件にアプローチし、真相を暴いていく連作短編集。流石に素晴らしい文章力で、全てに於いて過不足なく描かれているのに好感が持てます。プロットもよく練られており、又エッジの効いたストーリー展開は目を瞠るものがあります。トリック重視の作品ではありませんが、その代わり人間の奥底に眠る性(さが)に迫る、様々な方向からの心理学で事件と対峙します。

今から50年以上前に書かれたとは思えない瑞々しい短編ばかりで、全てが佳作に近い出来栄えだと思います。意外性も備えていて、一寸した反転も味わえます。

No.1467 3点 妖精作戦- 笹本祐一 2022/07/11 22:55
夏休みの最後の夜、オールナイト映画をハシゴした高校二年の榊は、早朝の新宿駅で一人の少女に出会う。小牧ノブ―この日、彼の高校へ転校してきた同学年の女子であり、超国家組織に追われる並外れた超能力の持ち主だった。彼女を守るべく雇われた私立探偵の奮闘むなしくさらわれてしまうが、友人たちは後を追い横須賀港に停泊する巨大原潜に侵入する。歴史を変えた4部作開幕。
『BOOK』データベースより。

元祖ラノベという事で、Amazonの評が割れているのにやや不安を覚え乍ら読んでみると、久しぶりにハズレに出くわしました。初版の朝日ソノラマ文庫が出版されたのが1984年、今では古臭さがどうしても拭い切れません。それ以前に最も重要な要素であるキャラが立っていません。これは心理描写がほぼ皆無であること、台詞に感情が篭っていないことが主な原因と思われます。ついでに言うと情景描写もありません。そして矢鱈スケールが大きいのに対して、文章がそれに付いて行けていないのもマイナス要素ですね。結果、単なる善と悪の追い掛けっこのドタバタ劇以上でも以下でもない凡作に仕上がってしまった印象です。因みに敵組織の背後関係なども無視されているという、手の抜き様。

それにしても一体何を思ったか、東京創元社が十一年前に再版させるという愚行に出たのが信じられません。二巻目以降評価が高くなっているのがせめてもの救いで、魔が差して全巻購入してしまった私の慰めであります。まさか二巻目から劇的に面白くなるとは思えませんが、頼むから5点くらいは付けさせてくれと願うばかりです。

No.1466 6点 同姓同名小説- 松尾スズキ 2022/07/09 23:03
ネットで話題になっていた涼子が、私の目の前に現れた。ケイから突然、新曲の依頼の電話がかかってきた。アパートに入り浸っていたみのが、おもむろに告白を始めた。兄貴がある日、なお美へと変わってしまった。芸能人と姓も名前もたまたま一緒の男女が繰り広げる、放送禁止×爆笑必至の人生喜劇。なお、この小説は完全なるフィクションであり、実在の方々と、何の関係もありません!!
Amazon内容紹介より。

十三の作品から構成される短編集。作品ごとの出来不出来の差が有りすぎて、なかなか評価が難しい。基本的に訳の分からない話が多いです。みのもんた、ピンクレディ、川島なお美、田代まさし、広末涼子、荻野目慶子らが登場しますが、名前だけの友情出演?も含まれます。

面白かったのは友達の危機を救うために笑い仮面と呼ばれる彼女が取った行動とは?『間違えたいの!』(中村江里子)。竹内力と哀川翔の対決が楽しい『力の魂』(竹内力)。一介の中間管理職の私とモーニング娘。の意外な関係を描く、初期のメンバーから後藤真希、高橋愛、小川麻琴ら多数のメンバー登場の『モ二と私』(モーニング娘。)。上祐史浩と麻原との牧歌的な関係を描き、各幹部やオウムの重要人物のキャッチフレーズが笑える、例えば「走る爆弾娘」こと菊地直子など『上祐の夏』(上祐史浩)辺りですかね。
ちなみに広末涼子の『広末の秘密』ではその奇行をパロッていますが、私は本サイトの参加者の誰も知らないであろう彼女の秘密を知っています。まあそんな事どうでも良いか。

No.1465 6点 雨の日のアイリス- 松山剛 2022/07/07 22:48
ここにロボットの残骸がある。『彼女』の名は、アイリス。正式登録名称:アイリス・レイン・アンヴレラ。ロボット研究者・アンヴレラ博士のもとにいた家政婦ロボットであった。主人から家族同然に愛され、不自由なく暮らしていたはずの彼女が、何故このような姿になってしまったのか。これは彼女の精神回路から取り出したデータを再構築した情報―彼女が見、聴き、感じたことの…そして願っていたことの、全てである。第17回電撃小説大賞4次選考作。心に響く機械仕掛けの物語。
『BOOK』データベースより。

第一章は博士(女性)と博士が造った人間と見た目は全く変わりないロボットとの、平和な生活を描いています。このロボットはその言葉に似つかわしくない、少女型のメイド風な容姿をしており、自分の事を僕と言う事に違和感を覚えます。第二章は一転、主人公の少女型ロボットが転生し、過酷な労働を強いられます。降りやまない雨の中、救いのない日々が続きますが、そんな中でも二人の仲間を見つけ、密かな読書会が開かれます。第三章は冒険と激しいバトルの物語。登場人物がロボットでなければ、完全なスプラッターですね。ここで描かれる戦闘シーンに私はシビれました。感動したと言っても良いでしょう。このような経験は初めてです。それだけ作者の描写力が優れていたという事になると思います。或いは私の心に突き刺さる何かを持っていたと言えるでしょう。そう、まるで迫力ある劇画或いはアニメを観ている様な感覚に近いかも知れません。最終章のテーマは救済ですね。

以上の様に完全に起承転結に則った本作は、章ごとに作風を変え読者をグイグイ引っ張っていきます。Amazonでも評価の高い作品であるのは身をもって実感しました。一応泣けるラノベとして捉えられている様ですが、それも納得の出来だと思います。私は泣けませんでしたけど。

No.1464 7点 指切りパズル- 鳥飼否宇 2022/07/05 23:12
人気の動物アイドルユニット・チタクロリンのミニコンサート中におきた指切り事件。
そこからさらに連鎖する指切断事件。嘘つきは誰だ!

綾鹿市動物園で行われるチタクロリンのコンサート。予想以上の集客で混乱する中メンバーの飯岡十羽が撫でようとしたレッサーパンダに指をかみ切られてしまう。
チーフ警備員の古林新男は綾鹿署の刑事・谷村の聴取に応じるうちになし崩し的捜査に協力していく。
そして関係者次々に襲われて指を切断される事件が続いていく。
Amazon内容紹介より。

最初の事件の犯人?はレッサーパンダ。その後を追うように矢継ぎ早に次々と指切り事件が起こり、もう何が何だか分からない状況に陥りました。熟考する暇もなく読まされて、一体誰が何の為に指を切断していくのか、その事で頭が一杯でおそらくその間に伏線が張られているんだろうなとは思っていましたが、こんな事になっていようとは。

真相は最後に一気に明らかにされ、それは正しく圧巻でした。アイドルユニット、チタクリに関係する人々、舞台である動物園の関係者を巻き込んで繰り広げられる惨劇はとても端的に語ることは出来ません。ネタバレに繋がりかねませんしね。
それにしても、誰も彼も指を切断されたというのに早期に仕事復帰し、随分タフだなと思いました。なまじ殺されずに身体の一部を欠損してしまっただけに、却って背中がぞわぞわする感覚がしましたね。

No.1463 6点 神の名のもとに- メアリー・W・ウォーカー 2022/07/03 22:55
邪教集団「ジェズリールの家」の近くで、小学生17人を乗せたスクールバスが、AK‐47銃で武装した男たちに取り囲まれ、子供たちは地面に掘った穴の中で人質になった。教団では生後50日めの赤ん坊を、神に返すといってすでに42人も鎌で殺している。女性事件記者のモリー・ケイツは恐るべき陰謀に挑むが…。
『BOOK』データベースより。

物語はスクールバスを乗っ取られ教団の敷地内に掘られた穴蔵にバスごと閉じ込められた子供たちと、バスの運転手であるウォルターのパートと、教団「ジャズリールの家」の教祖で自ら預言者と名乗る男の生い立ちを追う女記者モリーのパートが交互に語られます。ストーリーの面白さと言うより、堅実な語り口調でじっくり読ませます。終盤漸く教団内に侵入するモリーともう一人の女性と、教祖モーディカイとの対決を除いてはこれと言って盛り上がるシーンはありません。それでも魅力的な人物がかなり登場し、モリーとの会話を通じてそれぞれの人間ドラマを知ることになります。ことにウォルターの友人アレスキーのベトナム戦争の体験などは心に残ります。

オウム真理教の様な終末思想にかぶれた邪教に新味はありませんが、物語の中枢を占めるものなのでその辺りもう少し掘り下げても良かったと思います。
しかし、全体として良く纏まった印象で、子供たちの中に喘息を患った子がいて薬も与えられない状況や、モーディカイの隠された秘密を探っていく段階などはじわじわと緊迫感を印象付けるのに一役買っています。

No.1462 5点 また殺されてしまったのですね、探偵様- てにをは 2022/06/29 23:09
殺された。やっぱりまた殺された。
伝説の名探偵を父に持つ追月朔也は、半人前の高校生探偵。
今日も依頼を受け、意気揚々と浮気調査や猫探しなど地味な仕事にいそしむが、なぜか行く先々で殺人事件に巻き込まれてしまう。
しかも"被害者"は自分自身!?
特殊体質によって毎度生き返る朔也を膝枕で出迎えるのは優秀な助手リリテア。
「また殺されてしまったのですね、探偵様」
「……らしいね」
探偵として、そして被害者として、朔也は文字通り命賭けで数々の難事件を解決していく──!
てにをは×りいちゅで贈る極上の本格ミステリー、開幕。
Amazon内容紹介より。

中編、短編、中編で構成された作品集。レーベルがレーベルだけにてにをは、ラノベに寄せてきましたね。わざわざ読者に迎合せず普通に書けば、もっと面白くなったのではないかと思うと、勿体ないなあと云うのが素直なところ。まあラノベファンはお喜びでしょうが。
シリーズ化を意識して、最初から伏線を張りまくっています。事件そのものは目を瞠る様なものではありませんが、その伏線が効いて次巻以降も読まずにはいられない気にさせてしまいます。

これはネタバレにならないと作者自身があとがきで書いているので、敢えて書きますが、半人前探偵の追月朔也は何度殺されても、どんな殺され方をしても必ず蘇ります。しかし、被害者になりながら犯人は分からないので、自身で推理するしかないって感じで、やむを得ず探偵稼業をせざるをえない、新たな探偵像の誕生なのです。
それにしてもラスト一行の恐ろしい事、これには驚きましたよ。
これまで三作刊行されていますが、まだまだ続くんだろうなあ・・・。

No.1461 4点 黒い玉- トーマス・オーウェン 2022/06/27 22:20
夕暮れどきの宿で、彼がつけた明かりに驚いたかのように椅子の下へ跳び込んだそれは、かぼそい息づかいと黄楊の匂いを感じさせる奇妙な“黒い玉”。その正体を探ろうと、そこを覗き込んだ彼を待ち受けるのは、底知れぬ恐怖とおぞましい運命だった―。ベルギーの幻想派作家トーマス・オーウェンが描く、ありふれた日常に潜む深い闇。怖い話、気味の悪い話など十四の物語を収録。
『BOOK』データベースより。

ジャンル不明の短編集。一応幻想小説という事になっている様ですが、それにしては幻想味が感じられません。ホラーテイストの作品も含まれていたりもします。全般的にオチが弱いですね。ほとんどオチてないのもあります。
こうした多分に観念的な小説の肝はどれだけ読者の心の琴線に触れるかが勝負だと思いますが、残念ながら私には行間が読めていなかったせいか、全くそれらしい感触は得られませんでした。

それでも二、三は印象の残る作品もありました。ですが、良いところまで行ってはいるのに、結局突っ込みが足りないと云った具合に物足りなさが残りました。回りくどい面もあり、もっとストレートな作風が好みの私には、何がしたいのかイマイチ分からないもどかしさを感じましたね。
Amazon登録読者の中には結構高評価の奇特な方がおられるようですが・・・。

No.1460 7点 マザー・マーダー- 矢樹純 2022/06/25 23:21
めくるめく、どんでん返し。全方位に仕掛けられた罠。あなたは何度でも騙される。息子を溺愛し、学校や近隣でトラブルを繰り返す母親。家から一歩も出ず、姿を見せない息子。最愛の息子は本当に存在しているのかーー歪んだ母性が、やがて世間を震撼させるおぞましい事件を引き起こす。企みと驚きに満ちた傑作ミステリ!
Amazon内容紹介より。

第一話を読んだ時は、これは一種のイヤミスかなと思いました。しかし、後半の衝撃の連打には正直やられました。そして第二話である人物の登場に驚き、第三話で漸く作者の狙いに気付きました。一話ごとに作風を変え乍らそれぞれ仕掛けがあり、最終話まで突っ走ります。当然こちらもそれに合わせる様に一気読みしつつ、巧妙な罠に知らず知らずのうちに嵌っていきました。

まあ連作短編集と言うより長編として見るべき作品ではないかと思います。サスペンスと見せかけて意表を突くトリックで本格ミステリの側面も見せますし、兎に角色々詰め込まれておりお腹一杯になりました。取り敢えず私的には現在の所矢樹純の最高傑作だと思います。心理描写も確り出来ていますし、特に最終話は見ものです。良くやったよと褒めてあげたくなる一作。

No.1459 8点 流れ舟は帰らず 木枯し紋次郎ミステリ傑作選- 笹沢左保 2022/06/23 22:38
三度笠を被り長い楊枝をくわえた姿で、無宿渡世の旅を続ける木枯し紋次郎。己の腕だけを頼りに、人との関わりを避けて孤独に生きる紋次郎だが、否応なしに旅先で事件に巻き込まれてゆく。幼なじみの身代わりとして殺人罪を被って島送りになった紋次郎が、島抜けに参加して事件の真相を追う第1話「赦免花は散った」。瀕死の老商人の依頼により、家出した息子を探す「流れ舟は帰らず」。宿場を脱走した女郎たちとの逃避行の意外な?末を綴る「笛が流れた雁坂峠」。ミステリの巨匠が描く、凄腕の旅人にして名探偵が活躍する珠玉の10編を収録。
Amazon内容紹介より。

笹沢佐保と言えば木枯し紋次郎、木枯し紋次郎と言えば長い楊枝、左頬の古傷、「あっしには関わりのねえことでござんす」という決め台詞。と思っていましたが、十編の短編の中でその台詞は二度しか書かれていませんでした。第一話でシリーズ最初の作品『赦免花は散った』を読んだ後、そのミステリ性の高さに驚きました。他の作品も多かれ少なかれ骨格がミステリであったり、何らかの仕掛けやトリックが施してあったりと、流石はミステリ作家の書く時代小説だと感心しました。しかも全ての作品が秀作や傑作に属すると思われ、長かったけれど少しもダレルことなく読み終えました。

個人的にはやはり先述の『赦免花は散った』がベストかなと思います。あの紋次郎がまさかの島流しに遭っていた話で、この経験が後の紋次郎の言動に影響してくると思うと、かなり重要な一作ではないかと。そして私が最も好きなのは思わず涙した『旅立ちは三日後に』です。漸く訪れた平穏な日々が遂に自分にも巡って来たのかと思った矢先に・・・。とても優しくて哀しい作品です。
紋次郎は一見冷たい男だと勘違いされがちですが、決してそうではなく情に厚い一面を持っている人間なのです。ただ自分が渡世人だという自覚から、寡黙になりがちで人と関わりを持つのを恐れているのでしょう。

ドラマでは紋次郎が泥臭く戦うのに対して、原作では本物の剣豪として描かれており、敵が何人いようが華麗な身のこなしですんなりケリを付けてしまいます。しかし、ドラマも原作も紋次郎の格好良さは変わりませんね。

No.1458 6点 雷鳴の館- ディーン・クーンツ 2022/06/19 22:25
スーザンは見知らぬ病院のベッドで目覚めた。医者が言うには、彼女は休暇中に交通事故に遇い、このオレゴン州の田舎の病院に運びこまれ、三週間も意識を失っていたのだという―。しかし、彼女にはそんな記憶はなかった。と同時にこれまで自分がたずさわっていた仕事の内容、同僚の名前が思い出せない。なぜか彼女には、そこだけ記憶がないのだ。そして、彼女は病院の中で信じられないものを見た。大学時代にボーイフレンドを殺した男たちが、当時の若い姿のまま患者として入院しているのだ。その上死んだはずの男たちまでがスーザンの目の前に現れた。これは狂気か?幻覚か?その後もぞくぞくと怪異現象は起こる。そしてスーザンが最後に発見したのは信じられないような事実だった。人気沸騰の鬼才クーンツが放つ、異色の大型ロマンス&サスペンス・ホラー。
『BOOK』データベースより。

冒頭、記憶障害で「私は誰?ここはどこ?」的な主人公のスーザン、次第に記憶を取り戻してはいくものの、肝心の自分が勤めていた頃の事が思い出せません。この辺りのサスペンスフルな展開は後のストーリーに期待を持たせます。そして起こる信じられない事態、これには流石に驚きを隠せません。一体これはどういう事なのか、とても合理的な解法が思い付きません。

しかし結局は何の捻りもない真相ではありました。これはホラーだから許されますが、本格ミステリだったとしたらとても許容出来ないものです。もう少し意外性があったならとんでもない傑作になっていたと思います。意外性と言えば後半の反転は個人的にかなり意表を突かれました。ですが、そっちかあと云うようなあまり意図していない方向に進んで行った為、如何にもアメリカ作家のやりそうなことだなと少しげんなりしてしまいました。
まあしかし、全体としては楽しめましたよ。ただ第二部は本当に必要だったのかと思わざるを得ませんでした。

No.1457 6点 もののけ本所深川事件帖 オサキと江戸の歌姫- 高橋由太 2022/06/15 22:43
雨の多い本所深川。雨止めの伝え歌「十人の仔狐様」を歌う、十人組の歌組“本所深川いろは娘”が大流行している。一番人気の小桃が行方不明になり、大川で死体となって見つかった。小桃の代役として古道具屋のひとり娘・お琴が指名され、心配した安左衛門は手代でオサキモチの周吉を付き添わせることに。しかし、他のメンバーが歌詞の通りに次々と謎の死を遂げ…。妖怪時代劇、第四弾。
『BOOK』データベースより。

参考文献にあるように『そして誰もいなくなった』へのオマージュと考えられます。江戸本所深川で大人気の十人組の町娘で構成された本所深川いろは娘は、今で言う女性アイドルグループ。今から十年前の作品なのでAKB48がまだまだ人気だった頃です。そのAKBグループの営業戦略を模倣するように、押しメンの手拭いを色分けして売り込み、その売り上げの多い娘がセンターを務めるという徹底のし様。その娘たちがかぞえ唄に倣ってどんどん死んでいきます。そして仔狐人形が一人死ぬ度に一つづつ無くなっていき・・・。

ページ数が少なめな割りに死者が多いので、内容としては希薄です。一人死ぬ度にいちいち捜査されたりしません。大雨の影響でそれどころではないというのが現状の様です。しかし終盤の真相判明のシーンはなかなか読み応えがあります。まあ誰が探偵役をする訳でもありませんけれど。問題は動機、この時代ならではのものと思われますが、あまり納得出来るものではありませんでした。もう少し何とかならなかったものかと思ってしまいます。しかし、事件の裏に隠された悲しい現実が心を打ちます。こんな時代もあったんですね、それを考えると今の時代はまだまだ捨てたものでは無いと思わずにはいられません。

No.1456 6点 清掃魔- ポール・クリ-ヴ 2022/06/14 23:23
俺のコピーキャットは誰だ。許さん。天使の街クライストチャーチの警察署で掃除夫として働く「のろまのジョー」は、自分の模倣犯を放置できなかった。そう、障碍者を装うジョーの素顔は、クライストチャーチ・カーヴァーと怖れられる、無慈悲なシリアル・キラーなのだ。金魚だけが友達の暮らし、陽光降り注ぐ夢のない街、過干渉の母親、そんな日々の中で膨らむ孤独な妄想。尊大極まる身勝手な意識が生む、自己合理化された正しい完全犯罪。しかし模倣犯探しによって、完璧なシナリオにも亀裂が生じるのだった…。2007年ドイツ・アマゾンのミステリー部門で年間ベストセラー第1位を獲得。現代世界の理由なき殺人を犯人の主観でリアルに描きこむ、ぐいぐい読める傑作ノワール小説。
『BOOK』データベースより。

今ではそれ程珍しくない、連続殺人鬼自身が探偵となって殺人事件を暴いていく倒叙物、或いはサスペンス。物語はシリアルキラーと彼に近しい女性の一人称で進んでいきます。二人の心理描写が半端なく事細かになされており、そこが一つのウリですね。それにしても主人公のジョーの第一声に驚きました。何故か?それは読めば分かります。作風は緩急を付けてはいますがかなり乱暴で、その為差別用語がバンバン出てきます、これでもかとね。そういうのに嫌悪感を抱く方は読まない方が賢明です。

中盤で最大の見せ場が来ます。これは見ものですよ、残酷描写が克明に描かれており、かなり痛々しいです。まああとは特に意外性やオチがある訳でもなく、ご都合主義で多分に偶然に頼っている点は否定できません。ツッコミどころは結構あるって事です。
例えばジョーの、途中から出てくる重要人物に対する心境の変化が何だかよく理解出来なかったりとか、何故犯人が○○の中にいるのが簡単に解ってしまったのか、そんな偶然あるのかとか。その辺りは如何にも作り物っぽくて鼻白んでしまいます。

No.1455 6点 狂乱家族日記 八さつめ- 日日日 2022/06/11 23:00
予言された『来るべき災厄』とは、月香に恋する最強宇宙人の来訪だった!?強欲王と人類の戦いが膠着状態に陥る中、「ナス子さん。ご飯食べようね!」破壊神なのにすっかり懐柔?された月香の「妹」は凰火たちと夕餉の最中だった。そんな楽しい団欒の中、月香は強欲王の求婚に応えると爆弾発言をするのだった。騒然とする一同。どうするSYGNUSS!どうする凰火?ついでに地球の運命は?馬鹿馬鹿しくも温かい愛と絆と狂乱の物語最大の山場。
『BOOK』データベースより。

いやーいけませんねえ。二ヶ月間空いただけでかなり前作の終盤辺りを忘れていて・・・ダメじゃん自分。それでも読み進むうちに徐々に思い出してきました。そう言えばかなり混沌としながら内容テンコ盛りだったなあとか。兎に角再三再四シリーズを通して語られてきた来るべき災厄の正体が判明し、しかしそれが又大した事でもなくて拍子抜けの感が否めませんでした。それに加え、凶華がある意味不在で何だか話が締まらないです。

中盤まではそんな感じであちこち飛んで、最早収拾が付かない様相を呈しています。終盤漸く凶華が復活し、鶴の一声で決着を付ける方法が決まります。やっぱり混乱を一刀両断するのは彼女以外にいないですね。ここからかなり面白くなりいつもの調子を取り戻します。
最後はやはり愛なんですね。ここでは家族愛ではなく、男女の愛ですが。作者によればここまでがミステリで言うところの問題編、伏線を張り謎を散りばめていくパートで、次巻からいよいよ解決編らしいです。

尚、前作の書評で次回は番外編を読むと書きましたが、予定変更、順次本編を読み進めることにしました。出来ればもう少し間を詰めて。

No.1454 6点 綿いっぱいの愛を!- 評論・エッセイ 2022/06/09 23:25
40歳を目前に控え、忙しくものほほんと過ごしているオーケン。まあヤングの頃はなんだかいろいろあったけど、最近は意外にいーじゃん人生って、なーんて思う毎日を送っている様子。ぶらりぬいぐるみ旅に出かけたり、女の子のいるお店に招待されたり、時にはロリコン殺人犯に怒ったり。勝ち組負け組みなんてくだらないモノサシをぶっ飛ばし、ひたすらロッカー(ぽくない)道をホテホテと突き進む、ププッと笑かすエッセイ集。
『BOOK』データベースより。

本書はSideAとSideB、Bonus Trackに分類されています。Aでは比較的普通のよくあるエッセイで、ジーン・シモンズや中島らもの人となり、手塚治虫のエロい漫画など色々紹介されています。一方Bでは作者の恐怖体験やエロ事件などややダークな内容が中心となっています。ボーナストラックはプロレスの裏話が印象的。

どの話もそれなりに面白く、たまにクスッと笑えるエッセイとなっています。特にオーケンにとって造詣の深いロック(プログレ、ヒップホップ含む)や映画の知識をある程度持っている方には楽しめると思います。
いずれ、無駄なと云うかどうでも良い豆知識が増えることは必至ですね。又オーケンの交友関係や自身の人物像、40手前に思う事などが知れて、ファンにとっては嬉しい内容となっているのではないでしょうか。

No.1453 5点 すでに宇宙人が話しかけています- 田村珠芳 2022/06/07 23:04
超能力による読取り(サイキックリーディング)に、驚異の的中率を誇るこの女性が、あなたの明日の真実を明らかにする。
『BOOK』データベースより。

本書は2009年に刊行されました。まずそれを念頭に置いてください。作者田村珠芳は結婚し三人の子供をもうけたのち、闘病生活に入り、その間に見た夢が三日後に現実のものとなったという体験をし、夢占いから心理学を学んだのがこの道に入った切っ掛け。彼女はある日木花咲耶姫から「講演会を開きなさい」と言われたといい、その後執筆活動も始めたそうです。
で、本書の内容は、宇宙人は地球に住み着いている。宇宙人の中には地球人との子供を作った者もいる。UFOは地球に飛来した大型隕石を破壊して被害を防いでいる。宇宙人は地球をパトロールし救おうとしている。
第三次世界大戦は起こる。EU大統領が決まった後世界政府大統領も横滑りして決まる。日本人とユダヤ人の祖先は同じ。ロシアのプーチンは核でアメリカを狙っている。地球の地軸が動き、北極と南極が逆転する。等々。

どうですか、無茶苦茶ですね、言いたい放題で。ここまで来ると笑ってしまいます。
私はUFOや宇宙人の存在に関してはどちらかと言えば肯定派です。壮大な宇宙の中で唯一地球という星だけが高度の文明を持った、知能の高い生物が生存しているというのがどうにも納得がいかないんですよ。それとこれだけUFOが目撃されたり映像画像が広まっているのを全面的に否定する事は出来ないのではないか、即ち宇宙人も存在するという結論になります。まあでも、掲載されている宇宙人の顔のアップ写真を見て不謹慎乍ら大笑いしてしまった私の戯言など信用するには足りませんけどね。
本当は4点にしようと思っていましたが、110円で大いに笑わせてもらったのとその馬鹿馬鹿しさで楽しませてもらったので5点にしました。

No.1452 7点 アーモンド- ソン・ウォンピョン 2022/06/06 23:12
扁桃体が人より小さく、怒りや恐怖を感じることができない十六歳の高校生、ユンジェ。そんな彼は、十五歳の誕生日に、目の前で祖母と母が通り魔に襲われたときも、ただ黙ってその光景を見つめているだけだった。母は、感情がわからない息子に「喜」「怒」「哀」「楽」「愛」「悪」「欲」を丸暗記されることで、なんとか“普通の子”に見えるようにと訓練してきた。だが、母は事件によって植物状態になり、ユンジェはひとりぼっちになってしまう。そんなとき現れたのが、もう一人の“怪物”、ゴニだった。激しい感情を持つその少年との出会いは、ユンジェの人生を大きく変えていく―。怪物と呼ばれた少年が愛によって変わるまで。
『BOOK』データベースより。

本書はミステリではありません。まあ脳内ミステリーと呼んでも良いとは思いますが。脳内の偏桃体(アーモンド)が通常より小さい為、感情がほぼ変化しない主人公のユンジェ。それに伴い彼は一般的には生後3日で人は笑うと言われているのに、少年になっても笑ったことがありません。そんな彼の一人称で描かれる日常は様々な出来事や事件で埋め尽くされています。しかし、それはどれもドラマティックではありません、飽くまで淡々とした文章で進んでいきます。何故なら彼には感情がないから・・・。読後にあんな事もあったこんな事もあったと思い返してみると、如何にユンジェが波乱万丈な人生を送ってきたかが漸く理解出来て来ます。
感情がないとは、これ程人生を味気ないものにするのかという同情の様なものが其処で湧いてきました。果たして彼は人としてどう生きるのか、そして感情を取り戻し明るい未来を手に入れる事が出来るのか。

本当に翻訳された小説なのかと錯覚する程、日本人が書いたとしか思えない作品でした。訳者が素晴らしいのと原文が読み易いのとが相まってこうした秀作が生まれたのは非常に喜ばしい事であります。世界十三の国で翻訳出版されたのも頷けますね。尚作者に関しては訳者あとがきに詳しい。

No.1451 6点 夜の写本師- 乾石智子 2022/06/04 23:15
右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠。三つの品をもって生まれてきたカリュドウ。呪われた大魔道師アンジストに目の前で育ての親を殺されたことで、彼の人生は一変する。宿敵を滅ぼすべく、カリュドウは魔法ならざる魔法を操る“夜の写本師”の修業をつむが…。日本ファンタジーの歴史を塗り替え、読書界にセンセーションをまき起こした著者のデビュー作、待望の文庫化。
『BOOK』データベースより。

魔術、魔法ものとは言えよくあるラノベとは一味違います。中身が重いです。物語は面白いんですが、描写力というか表現力に問題がある為、もっと盛り上がっても良い場面でイマイチテンションが上がりません。
写本師とは聖書等の精緻を極める書物をそっくりそのまま書体まで書き写す職業で、それをマスターすることで魔導師にも劣らない力を得る主人公のカリュドウ。ストーリーはその魔術の業を駆使して最強の魔導師アンジストに、千年の時空を超えて復讐を誓うというもの。

総勢30人近い主要登場人物に混乱しながら読んでしまったのもあって、すんなり頭に入って来る様なやわな話ではなかったのは間違いありません。飽くまで硬質でエンターテインメント性が足りない分、文学として優れていると言えるのかも知れません。私にとっては読み難いとも言いますが。一般受けするとは思いませんでしたが、Amazonの評価は結構高いのでやはり私の読解力が足りなかったとしか考えられませんね。

No.1450 7点 魔術師- 佐々木俊介 2022/06/02 22:55
神秘学に傾倒する伝説的実業家の住む洋館には、
独自の英才教育を受けて育った4人の子どもが暮らしていた。
当主の龍斎とその血族、奉公人たちの集う館に招待された聖は、
徐々にその異様な雰囲気に飲み込まれていき……。
読むほどに謎が深まる、再読必至の館ミステリ「魔術師」。
Amazon内容紹介より。

事件が起こるまでは、説明文がほとんどで少々退屈しました。やや長すぎますしね。しかし、一人目の犠牲者が出てからはテンポよく進み、楽しめました。所謂館ミステリです、描かれたのはそれ程前ではないのに随分古めかしい雰囲気を醸し出しています。たまに携帯電話とかのワードが出てくると、物語にそぐわない為あれっと思ったりしました。

事件の真相はミステリをある程度読んでいる読者であれば、おおよそ見当が付くと思います。私も絡繰りは推測通りでした。しかし本作はその外側に仕掛けがあり、誰もそこまでは辿り着けないのではないでしょうか。そして動機に関しても、私にとっては想像の斜め上を行くものでした。ただ、肝心な部分が説明されていないと感じたのが率直なところ。その為、どこか腑に落ちない印象が残ってしまったのはマイナスポイントではないかと思います。
それにしてもパラケルススとか錬金術、オートマタ、ホムンクルスなんかが出てくるとワクワクするのはミステリ読みのさがでしょうかねえ。

No.1449 7点 わたし、二番目の彼女でいいから。- 西条陽 2022/05/30 22:49
私も桐島くんのこと、二番目に好き」

 俺と早坂さんは互いに一番好きな人がいるのに、二番目同士で付き合っている。
 それでも、確かに俺と早坂さんは恋人だ。一緒に帰って、こっそり逢って、人には言えないことをする。
 だけど二番目はやっぱり二番目だから、もし一番好きな人と両想いになれたときは、この関係は解消する。そんな約束をしていた。
 そのはずだったのに――

「ごめんね。私、バカだから、どんどん好きになっちゃうんだ」

 お互いに一番好きな人に近づけたのに、それでも俺たちはどんどん深みにはまって、歯止めがきかなくて、どうしても、お互いを手放せなくなって……。
 もう取り返しがつかない、100%危険で、不純で、不健全な、こじれた恋の結末は。
Amazon内容紹介より。

ラノベです。高校が舞台の恋愛小説です。でもラブコメではなく、結構シリアスです。私は夢中になると周りが見えなくなるタイプなので、どうも主人公の桐島や早川さんの気持ちはイマイチ理解できません。好きな人がいながら、二人が二番目に好きな者同士で付き合うというのはどういう心境なんだろうという素朴な疑問に応えようとしているのだと思いますが、何か裏がありそうな感触を残しています。結構エロく、しかし良いところで寸止めして妄想を掻き立てられます。
一話完結だと思っていたら、既に三作目まで出ていたのね。何作まで続くのか不安になりながらも、続きが気になってモヤモヤしています。ラノベのシリーズは長いからなあ。

作者はどうやらミステリが好きなようで、桐島がミステリ研究部の部長だったり、国内外のミステリ作品のタイトルとその作者の名前が次々と出てきたりします。そして体操服盗難事件の犯人を桐島がサクッと指摘します。
文体は飽くまで簡潔でラノベ特有の、妙に捻くれたような嫌らしさはありません。私の様な文法的に微妙におかしな点が見られる、いささかくどい文章を書く人間にはこうした潔さが憧れの的であります。この人は全くもって羨ましい限りの文才の持ち主なのです。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1828件
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