皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1901件 |
No.1541 | 5点 | 大人失格 子供に生まれてスミマセン- 評論・エッセイ | 2022/12/10 22:49 |
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「私は大人だ」今、この日本でいったい何人の大人が、そう胸をはって言い切ることができるだろう。大人らしさとかでなくて。しがらみから独立した「大人」という素朴な生き物になること。私がもくろむのはそれだ。話題の劇作家が、「子供失格」だった人から「大人と呼ばれたい」人々までに贈る爆笑エッセイ。
『BOOK』データベースより。 タイトルから来る印象とはややズレが生じています。もう少しシリアスな感じで大人になれない大人たちみたいなものを想像していましたが、もっと緩いエッセイでした。ちなみに私の精神年齢は15歳位です。 では早速気になるネタをチョイスして簡単に紹介していきましょう。 ・爆笑問題は何故ダウンタウンを超えられないのか問題。これが意外に深い理由があったりなかったり。まず、太田光の名前をひかると読ませ、田中裕二の名前を祐二と間違えている時点でアウトだろう。 ・男のハゲはモテ期を過ぎた者がなるものだという、竹内久美子説。 ・著者が何故か分からないが早見優でも他のアイドルでもなく、松本伊代の写真集欲しさに万引きしてしまった事件。真相は氏が顔面に対して垂直に立っている耳が好きだというのをのちに自覚したという結末。例えばフジテレビのアナウンサー山﨑夕貴とか元乃木坂46の松村沙友里辺り。つまり髪の毛からぴょんと耳がはみ出したりしている女性の事。 以下は私の真意ではありませんので、そのつもりで読んで頂きたい。 ・水前寺清子や佐良直美はブスだという著者の説。それなら大食いクイーンとして活躍中のアノ人や関西弁を喋りまくるモデルでタレントのアノ人はブス界のツートップとして君臨するだろうな。 ・ミスユニバースの選考基準が判らない。同感である。 こういった洒脱な、しかし毒舌をかなり含んだ、そしてたまにスベるエッセイ。いささか女性蔑視の感もあったり、ハゲに対する厳しい姿勢に物議を醸す問題作だと思います。 |
No.1540 | 6点 | 遮光- 中村文則 | 2022/12/09 22:43 |
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恋人の美紀の事故死を周囲に隠しながら、彼女は今でも生きていると、その幸福を語り続ける男。彼の手元には、黒いビニールに包まれた謎の瓶があった―。それは純愛か、狂気か。喪失感と行き場のない怒りに覆われた青春を、悲しみに抵抗する「虚言癖」の青年のうちに描き、圧倒的な衝撃と賞賛を集めた野間文芸新人賞受賞作。若き芥川賞・大江健三郎賞受賞作家の初期決定的代表作。
『BOOK』データベースより。 短いけれど文字びっしりで読み応えあります。鉛の様に重くて、そして暗いです。冒頭から一人称の主人公である青年が謎の瓶を常に持ち歩いていて、それを事あるごとに見えない様に指で触れている、こう書けば多くの人が、あああれだなと考えるでしょう。みなさんの想像通りですよ。でもまあネタバレって云う訳でもないので書いても良いでしょう。 これは犯罪小説1青春小説2純愛小説7ですね。70%純愛小説。とは言えその愛はかなりの偏愛であり、彼の言動は時に過激且つ乱暴で時に欝々として、読んでいる身としてはどんどん気分がブルーになってきます。 彼と彼女の出逢いが可笑しくて、何となくこの先面白い事が起きそうだと期待していましたが、それは裏切られました。しかし、一人称だけに何かが起こった時、起こらない時の心理がストレートに伝わって来て心情が手に取るように分かります。だからと言って必ずしも感情移入できるとは思えません。私がそうでしたから。 |
No.1539 | 4点 | 眠りなき狙撃者- ジャン=パトリック・マンシェット | 2022/12/08 22:42 |
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引退を決意し、新たな世界を希求する殺し屋に襲いかかるさまざまな組織の罠、そしてかつての仇敵たち―「現代フランス文学の極北」といえるほど、限界まで贅肉をそぎ落とされ張りつめた文体が描く、荒涼たる孤独と絶望のドラマ。ロマン・ノワールの旗手・マンシェットの遺作にして、最高傑作。ピエール・モレル監督により映画化。
『BOOK』データベースより。 いやー、殺伐としてますねえ。文章はやけに硬質で、無味乾燥と言っても良いでしょう。だから私には面白味が感じられませんでした。まあハードボイルドなんだから当然ですかね。これを凄いと思うのは余程のハードボイルドマニアか読書の達人でしょう。盛り上がりそうなところで盛り上がり切れない、読みどころと言えば多少の暴力シーンくらいで。そんな私はとってもダメ読者なのです。 昔本サイトで、名指しではなかったものの暗に「人は本を選べるが本は人を選べない」と個人攻撃をされた事がありました。勿論私に対してです。ですからこの本はブックオフに持って行き、読むべき人の所へ連れていかれる事を願って売りたいと思います。とても手元に置いておく気にはなれません。 因みにAmazonで☆五個を付けた人の気持ちは解りませんが、☆一つの読者の気持ちは何となく解る気がします。だから、他の評者の方の高評価ぶりは逆に流石名だたる先輩方だと感心しております。 |
No.1538 | 7点 | 竜の眠る浜辺- 山田正紀 | 2022/12/07 22:35 |
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百合ケ浜町が、突然濃い霧に覆われた。気がつくと、この町からは誰も出られなくなっており、ティラノサウルスが闊歩する白亜紀の世界へタイムスリップしていた。町の成り上がり久能直吉と二代目直己、変わり者でなまけ者の文筆家田代、孤独なタバコ屋のシズ婆さん―町のさえない人々が、もう一つの世界でファンタジックな青春幻想を抱くもう一つの人生…。SF長篇の傑作。
『BOOK』データベースより。 これは恐竜の名を借りた群像劇、或いは人間ドラマと言って良いでしょう。そして冒険小説でもあります。勿論SF要素はありますが、それ程強くはなく何故幾種類もの恐竜が出現したのか、又何故百合ヶ浜町だけが結界の様に取り囲まれたのかなどが学者らにによって侃々諤々の議論が争われる訳でもなく、只管町民たちが恐竜との共存を模索していくに過ぎません。 しかし読んでいて何となくやる気が出てくる感じはします。それまでごく普通、いやそれ以下で地味で平凡な生活をしていた人々がこの状況により俄かに活気付いてくる姿は、こちらまで勇気づけられます。特に浮世離れした田代が何故か格好良く見えてくるから不思議です。そして個人的にはタバコ屋のお婆さんとその飼い猫がツボでした。 結末は良い感じで終わり、成程と深く肯いていました。エピローグもいい味出していましたね。 |
No.1537 | 7点 | ある日、爆弾がおちてきて- 古橋秀之 | 2022/12/05 22:20 |
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「人間じゃなくて“爆弾”?」「はい、そうです。最新型ですよ~」。ある日、空から落ちてきた50ギガトンの“爆弾”は、なぜかむかし好きだった女の子に似ていて、しかも胸にはタイマーがコチコチと音を立てていて―「都心に投下された新型爆弾とのデート」を描く表題作をはじめ、「くしゃみをするたびに記憶が退行する奇病」「毎夜たずねてくる死んだガールフレンド」「図書館に住む小さな神様」「肉体のないクラスメイト」などなど、奇才・古橋秀之が贈る、温かくておかしくてちょっとフシギな七つのボーイ・ミーツ・ガール。『電気hp』に好評掲載された短編に、書き下ろしを加えて文庫化。
『BOOK』データベースより。 内容は別として兎に角文章が上手い。淀みなく流れるような筆致は最早美しいとしか言いようがありません。そしてボーイ・ミーツ・ガールの物語は雰囲気はどれもふんわりとしていて癒し系。しかしながら、それぞれ違った発想とアイディで支えられており、作者の抽斗の多さに感嘆させられます。 流石に名作と呼ばれるだけあって、その名に恥じない標準以上のレベルを維持しています。どの作品が秀でている訳ではなく、どれもラノベの真髄を味わえる短編として老若男女問わずお薦め出来ます。ここまで来るとジャンルを超えた文学小説と言っても過言ではないと思うくらい、その出来は素晴らしいです。面白い、楽しい、笑える、感動する、SFの要素も含まれていると至れり尽くせりですね~。 |
No.1536 | 5点 | 牛家- 岩城裕明 | 2022/12/04 22:38 |
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ゴミ屋敷にはなんでもあるんだよ。ゴミ屋敷なめんな―特殊清掃員の俺は、ある一軒家の清掃をすることに、期間は2日。しかし、ゴミで溢れる屋内では、いてはならないモノが出現したり、掃除したはずが一晩で元に戻っていたり。しかも家では、病んだ妻が、赤子のビニール人形を食卓に並べる。これは夢か現実か―表題作ほか、狂おしいほど純粋な親子愛を切なく描く「瓶人」を収録した、衝撃の日本ホラー小説大賞佳作!
『BOOK』データベースより。 長めの短編二作。どちらもホラーだけど怖さはほぼありません。表題作は選考委員から口を揃えて問題作と言われていますが、どこが問題なのか私には理解できませんでした。只々ドタバタ劇に終始し、不条理な現実なのかはたまた夢なのか、その境を行き来している印象です。やや不快だったのは主人公の妻の言動であり、それ以外は何が何だかって感じで、ピンと来ませんでしたね。 それよりももう一篇の『瓶人』の方が余程面白かったです。ストーリーもよく練られていて、少年の父の優しさに癒されます。その父に意外な真実が隠されている訳ですが、この奇想が光っており物語全体を操る事に大きく関与しています。ラストのブラックな味わいも非常に効いていて後を引きます。 |
No.1535 | 6点 | 罪悪- フェルディナント・フォン・シーラッハ | 2022/12/03 22:49 |
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ふるさと祭りで突発した、ブラスバンドの男たちによる集団暴行事件。秘密結社にかぶれる男子寄宿学校生らによる、“生け贄”の生徒へのいじめが引き起こした悲劇。猟奇殺人をもくろむ男を襲う突然の不運。麻薬密売容疑で逮捕された老人が隠した真犯人。弁護士の「私」は、さまざまな罪のかたちを静かに語り出す。本屋大賞「翻訳小説部門」第1位の『犯罪』を凌駕する第二短篇集。
『BOOK』データベースより。 全般的に言えるのは無味乾燥で文章に血が流れていない印象。~した、~だったという末尾の説明文が延々と続き物凄く鼻に付きます。極端に少ない会話文がそれに拍車を掛けている感じがしました。又、ドイツには起承転結という言葉がないのかと思った程平坦な物語が多いのにげんなりと。正直これが本屋大賞第一位とは俄かには信じられません。それでも6点としたのは中に結構面白い短編が含まれているからです。 面白いと感じたのは『ふるさと祭り』『イルミナティ』『寂しさ』『清算』『秘密』の五篇。短めの短編十五篇中五篇だから打率はあまり高くないですね。でもまあこんなものでしょう。あまり期待せずに読むべき本だと思います。そうすればある意味納得できるかも。 |
No.1534 | 6点 | 亡霊ふたり- 詠坂雄二 | 2022/12/02 22:57 |
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俺たちには夢がある。
「廃校の亡霊」の噂に導かれて出会ったのは 殺人志願者と探偵志願者だった。 相反するふたりの高校生を描いた鮮烈な青春小説の傑作! 「高校在学中に人を一人殺す」――自由の獲得という夢を叶えるため、殺人願望を抱く高橋和也。「廃校の亡霊」に導かれるようにして彼が出会ったのは、名探偵志願の同級生だった。彼女を最初の殺人対象に決めた和也は、「探偵に必要なのは謎に遭遇する能力」と嘯く彼女と行動を共にし、謎とも言えない謎を追っていくが……。自在に作風を変えつつも、シニカルで鋭利な文章は一貫してきた著者による、鮮烈なボーイ・ミーツ・ガール! Amazon内容紹介より。 これは完全に詠坂ファンのための作品ですね。彼の小説を全く読んでいない人やあまり好みで無い人にはお薦めしません。青春小説としては優れていると思いますが、ミステリとしては日常の謎が主体でかなり弱いと感じられて仕方ありません。探偵志願の女子高生が謎とも言えない様な謎に挑みますが、結局真相は藪の中というか、はっきりと断定されていなかったりします。 終始高橋の目線で語られますが、何故一人称にしなかったのかが引っ掛かります。そうすればもっと彼の内面が深掘り出来たかもしれないのにと思ってしまいます。確かに心理描写はされているものの、何故そこまで殺人に固執してしまったのかがイマイチ理解出来ませんでした。過去に何かあったのかとかであればまだしも、この動機ではちょっと納得しかねます。 それでも探偵志願と殺人志願の絡みは歪んだ青春をなかなか良く描写されており、楽しめました。 |
No.1533 | 6点 | 探偵綺譚 石黒正数短編集- 石黒正数 | 2022/12/01 22:59 |
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今ホットな注目を集めている石黒 正数の短編集。表題作『探偵綺譚』は、ヒット作『それでも町は廻っている』の人気キャラクター「嵐山歩鳥&紺双葉」の先輩後輩コンビが登場する、『それ町』プロトタイプと言える作品。この先輩後輩コンビの系譜は「COMICリュウ」連載中『ネムルバカ』の主人公コンビへと繋がる。全10作品収録。
Amazon内容紹介より。 『探偵綺譚』ねえ。てっきりミステリ短編集だと思っていたら、ジャンル色々の漫画でありました。探偵、ハードボイルド、SF、ホラー、思春期等、バラエティに富んでいてこれはこれで楽しめました。たまにツボに入って大笑い出来るし、あまり深く考えずに気楽に読めるので、悪くないです。ただ、やはり『外天楼』と比較すると格段に落ちるのは否めません。 私としてはラスト二作の、作者自身が出てくるパチスロの話が一番面白かったですね。こんな絵も描けるんだと素直に感心しました。全然タッチが違うと云うか、まるで『北斗の拳』の様だと思いました。誰が見てもパロッてるなと感じるでしょう。 |
No.1532 | 6点 | ロリータの温度- 白倉由美 | 2022/11/30 22:59 |
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大人になる前に死んでいく永遠の少女、名前はロリータ℃。透明で柔らかくはかなくて冷たい存在の「彼女たち」を描く幻想的な写真と6つの物語を収録した、ビジュアルストーリー。
『BOOK』データベースより。 「僕は六回死んだ少女を知っている」で始まるこの物語。果たして一人の少女が六回死んだのかどうか、一応十二歳の少女が一度死んで、その後脱皮するように甦るシーンがありますので、おそらく同一の少女だと想像されますが、各章ごとにシチュエーションが違うので何とも言い難い所があります。其処は読者の想像にお任せって事の様で、それ程重きを置いていないみたいですね。 ファンタジーと言うより、幻想小説の趣があり文体も詩的である種のイマジネーションを喚起させます。挿入されている写真も見開き2ページを目一杯使ったり、思い切った構図が見られ、それに一層拍車を掛けます。 個人的に好みなのはちょっとブラックなオチが味わえ、ミステリ的趣向を盛り込んだ第一章と、唯一少年の一人称で描かれ、途中でいきなり衝撃の事実を告げる第五章ですね。 第六章ではマイナーな小説のあの人物が登場し驚かされます、だったら良かったのですが、あるサイトでネタバレ告知無しのレビューでネタバレを読んでしまい、事前に知っており非常に残念でした。 写真の少女は設定十二歳の、それ相応のあどけない顔立ちとやや大人びた表情が印象的です。 ところでこの小説はロリータ℃という、前述の小説の作者が原作の漫画に登場する架空人格と同じ少女を起用していて、更に彼女のCDまで出ています。色々コラボしてややこしいですが、白倉由美と深い関係のある人が先の原作者という事で、キーパーソンとなっています。 |
No.1531 | 6点 | 江戸川乱歩名作選- 江戸川乱歩 | 2022/11/29 23:02 |
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見るも無残に顔が潰れた死体、変転してゆく事件像(『石榴』)。絶世の美女に心奪われた兄の想像を絶する“運命”(『押絵と旅する男』)。謎に満ちた探偵作家・大江春泥に脅迫される実業家夫人、彼女を恋する私は春泥の影を追跡する―後世に語り継がれるミステリ『陰獣』。他に『目羅博士』『人でなしの恋』『白昼夢』『踊る一寸法師』を収録。大乱歩の魔力を存分に味わえる厳選全7編。
『BOOK』データベースより。 『石榴』 7点。本格の中編、所謂顔のない死体の変形バージョン。 『押絵と旅する男』 7点。幻想的な小説でオチあり。ある作家の某作品に影響を与えたとの噂。 『目羅博士』 6点。ちょっと無理がある。もう少し説得力があれば。 『ひとでなしの恋』 5点。何となく既視感あり。他の作品で似たようなのがあった気がする。しかし、勿論こちらが元祖だろう。 『白昼夢』 5点。ショートショート、ミステリにはちょいちょい出てくるこのワード。この時代から使われてたのね。 『踊る一寸法師』 3点。他の作品集で既読だったので記憶で採点。どこが面白いのか分からない。乱歩はこれを描いてからしばらく空白の時期があったらしい。 『陰獣』 7点。やや冗長も面白い。どんでん返し的趣向、余りにも有名な作品。 全体的にレトロ感が漂っており、どこか懐かしさを覚えました。本作品集に関しては本格ミステリの方が面白かったですね。それにしても、今読んでも色褪せていないのは流石だと思います。 |
No.1530 | 7点 | 出版禁止 いやしの村滞在記- 長江俊和 | 2022/11/27 22:51 |
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読後、心身に変調をきたしても、責任は負いかねますので、ご了承下さい。大切な人、信頼していた人に裏切られ、傷ついた人々が再起を期して集団生活を営む「いやしの村」。一方、ネット上には、その村は「呪いで人を殺すカルト集団」という根強い噂があった。噂は本当なのか? そもそも、呪いで人を殺すことなどできるのか? 真実を探るため、ルポライターが潜入取材を試みるのだが――。
Amazon内容紹介より。 余りカタルシスを得られない様な、ちょとモヤモヤした終わり方で、個人的には好みではない結末でした。「ここまで書けばわかるだろ?あとは勝手に想像しろよ」と言われているみたいで、まず一旦読み終えてから最初に戻って読み直しましたが、やはりイマイチスッキリしません。まあ確かに最終局面で漸くその全貌が見えてきますが・・・。どうしてもルポルタージュの体裁を取っている為、こういった形式でしか書き様がなかったかも知れません。探偵役が現れて懇切丁寧に解説してくれるような物語でないことは確かです。 正直やられたとは思えませんでした。勘の良い人ならかなり早い段階で全体像が見えてくると思うからです。私みたいな鈍感な読者だから騙されたのであって、その意味では逆に幸せだったなと思わないでもありません。 しかし、書き手である私とある女性との淡い記憶やパラドックスに対する考察、呪いは実在するのかどうかなど、読みどころは幾つもあります。ですから色々ケチを付ける様な事を書きましたが、かなり面白い小説であることは間違いないと思います。 |
No.1529 | 6点 | ネメシスⅡ- 藤石波矢 | 2022/11/26 22:51 |
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探偵事務所ネメシスを訪れた少女の依頼は、行方不明の兄の樹を探すこと。探偵風真と助手のアンナは、道具屋の星の力を借り、振り込め詐欺に手を染めた彼を捜索する。しかし、ようやく見つけた樹は、血濡れたナイフと死体を前に立ち尽くしていた。ネメシスは二転三転する真相を見抜き、彼を救うことができるのか!?
小説オリジナルストーリー「道具屋・星憲章の予定外の一日」も収録したシリーズ第二弾! Amazon内容紹介より。 広瀬すずと櫻井翔主演でドラマ化されたネメシスシリーズの第二弾。本編とスピンオフの中編二作。 本編を読んでいる途中で、何度もAmazonの高評価(90に上る評価で平均点4、5)ってほんまかいなと思いました。キャラは魅力に欠けるし、ストーリーも平板、トリックと言える程のものもなく心に何も響かない、こんな私がおかしいのでしょうか。もう何を信じて良いのか、何を頼りに本を選ぶべきなのか分からなくなりそうです。 と思っていたところ、『道具屋・星憲章の予定外の一日』が殊の外面白く、同じ人が書いたとは思えない出来の良さで驚き。捻りも効いていて、短い中にトリックや仕掛けが盛り沢山で、なるほどこっちは7点だなと少し胸をなで下ろしました。結局本編が4点、スピンオフが7点、均して5、5点。四捨五入して6点としました。ああ、本当に本編だけじゃなくて良かったね。 |
No.1528 | 7点 | 変な絵- 雨穴 | 2022/11/25 22:25 |
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ホラー作家兼YouTuberである雨穴氏による、自身初となる11万字書き下ろし「長編小説」!
タイトルは『変な絵』。 見れば見るほど、何かがおかしい? とあるブログに投稿された『風に立つ女の絵』、消えた男児が描いた『灰色に塗りつぶされたマンションの絵』、山奥で見つかった遺体が残した『震えた線で描かれた山並みの絵』……。 いったい、彼らは何を伝えたかったのか――。9枚の奇妙な絵に秘められた衝撃の真実とは!? その謎が解けたとき、すべての事件が一つに繋がる! 今、最も注目を集めるホラー作家が描く、戦慄のスケッチ・ミステリー! ※前作『変な家』の“キーマン”栗原も登場! ※購入者「全員特典」として、雨穴による第一章「風に立つ女の絵」オモコワ朗読動画(1時間)つき! Amazon内容紹介より。 みなさん、この作品を色眼鏡で見てませんか?良くないですよ、そういうの。取り敢えず先入観無しで読んでみて頂きたい珍品だと思います。意外と本格で結構複雑な話です。嫌と言うほど親切に太字や傍点、かぎ括弧、歪み文字、それにプラスしてタイトル通り絵や表が散りばめられており、時系列のバラけた順序と相俟って、余計に全体像を複雑にしてしまっている印象を受けました。 しかし、もう一度読み直せば多分色々納得出来る面が出てくる気がします。流石に絵を使ったトリックは成程と思わせるだけのものを持っています。前作の事は知りませんが、Amazonなどでこれだけ多くのレビューがある事自体、本作の持つ引力の様なものを感じます。まあ、『変な家』で一気にブレイクした作者の二作目ともなれば当然とも言えるでしょうけどね。兎に角読んでみないと何も分からないって事ですね。普通に面白かったですよ。 |
No.1527 | 8点 | 逆転美人- 藤崎翔 | 2022/11/24 22:38 |
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私はジャンルに関係なく8点以上は余程の事がない限り付けません。それでも本作には8点を献上する以外の選択肢はありませんでした。
読後、15分間衝撃に打ちのめされて、座したまま身動き出来ませんでした。心の中では余韻に浸る余裕もなく、只管反芻していたのです、繰り返しこの本を。 本年のランキングのある意味でダークホースになり得る逸品と思います。 内容に関しては敢えて語りません。それは必要ないと判断しました。以下はネタバレを含みますので、未読の方は絶対読まないで下さい。 【ネタバレ】 「私は報道されている通り、美人に該当する人間です。 でもそれが私の人生に不幸を招き続けているのです」飛び抜けた美人であるせいで不幸ばかりの人生を歩むシングルマザーの香織(仮名)。 娘の学校の教師に襲われた事件が報道されたのを機に、手記『逆転美人』を出版したのだが、それは社会を震撼させる大事件の幕開けだった――。 果たして『逆転美人』の本当の意味とは!? ミステリー史に残る伝説級超絶トリックに驚愕せよ!! Amazon内容紹介より。 厳密に言えばこのトリックは類似したものの前例が存在します。ですので、超絶トリックであるのは間違いありませんが、「ミステリー史に残る」とか「史上初」とかの惹句は当てはまらないと思います。それでも読者にヒントを与えながら本トリックを限りなく完成形まで押し上げたのは、おそらくこれが初めての快挙ではないでしょうか。一言で言うならば奇跡的な作品ですね。これが私の最上級の褒め言葉です。 |
No.1526 | 5点 | 悪魔のようなあたし- 山下定 | 2022/11/22 22:43 |
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私立・久米沢高校の悪夢の一日は、朝礼直後の地下室で始まった。一時間目の授業が始まるまでのわずかな間に、学園一の美少女・宮参里奈はサイボーグに変身し、里奈を恋する諸井京太は女悪魔に乗り移られて、ある時は男を蕩かすニューハーフに、それ以外の時は顔だけ京太の魔物に変身してしまったのだ。すべては、学園を牛耳るマッドサイエンティスト・神近理事長の仕業だった。二人の、独裁者への反乱が始まった。
『BOOK』データベースより。 山下定を読もうと思ったのは、昨年の一月に読んだアンソロジー『暗闇』の中で著者の短編『ブラインドタッチ』が最も面白かったから。本作を選んだのは何故だか今でも思い出せませんが。 で、結果これが終始ドタバタ劇で、主人公の京太は声や口調がオカマになったり、蝙蝠や蠍に変身したりするわ、ヒロインの里奈はサイボーグになって大暴れしたりと何が何だか。中学二年生位の子供が考えそうなチープなストーリーで、げんなりしました。 最終章だけはそれまでと様相が変わり、私好みのシチュエーションを生み出したため、本来4点以下の所を5点に押し上げました。ここで漸く作者がプロの片鱗を見せたので一安心しました。 ラノベと割り切って読めばある程度楽しめるかも知れませんね。表紙や文中のイラストは古臭く時代を感じさせます。 |
No.1525 | 6点 | 丑の刻子、参ります。- 黒史郎 | 2022/11/21 22:16 |
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誰かを呪ってほしければ、摩栖太羅神社の裏の神木に、黒い憎悪の念と、依頼書を収めた藁人形を打ち付けておけばいい。その願いを叶えるために、ひと打ちひと打ち呪いを込めて打ってやろう―私は“呪い姫”丑之刻子。とある会社のOLとして働く馬野時子。「幽霊」と揶揄される佇まいと愛想のなさで、社内でも浮きまくりだがそれは表の姿。彼女の本来の仕事は依頼された恨み事をはらすということなのだ。そんな刻子のもとに、とある頼みごとが持ち込まれるが―。
『BOOK』データベースより。 昼はちょっと変わったOL、しかし退社後は一転呪術により依頼人の恨みを晴らす、裏稼業を持った丑の刻子こと馬野時子。ホラーはホラーでも呪われる側ではなく呪う側が主役という異色作です。しかしながら、怖さという点ではそれ程でもなく、それどころかラブコメの要素まで含まれています。 愛だの恋だのに無関心で経験のない時子は、社内でも女子に人気の賀茂橋(カモノハシ)に猛烈なアプローチを掛けられながら、無表情でやり過ごしてしまいますが、その関係が微妙に発展してく様はまるで恋愛小説のようでもあります。 無機質で誰に対しても愛想のない、しかしある意味無敵な時子に最大のピンチが訪れ、其処をどう切り抜けるのかが最大の見せ場。勿論それだけではなく、様々な依頼にどのような呪術を仕掛けるのかも興味深いですね。 作者の黒史郎ってあまり知らていませんが、私は個人的に割と好きな人で、ホラーだけではなくミステリも書けるのに、余りこちらに寄って来てくれないのがつれないなと思ったりしています。本作も安定の面白さで、怖いの苦手という人でも意外とイケるのではないでしょうか。 |
No.1524 | 5点 | 自殺倶楽部- 谷村志穂 | 2022/11/20 22:30 |
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「私」は高校二年生。ある放課後、図書館で「海の泡同盟」と称する詩を読む会に誘われたが、その集まりは、実は自殺を目的とする集団だった。そこで「私」に課せられた役割は死を見守ること、他人の死を記録することだった―。「ヒカルモノ」である死と、その対照にある「ヨドムモノ」としての生。真っ直ぐに生きようとすればするほど、死に近づき魅了される十代の純粋な魂の軌跡を描く問題作。
『BOOK』データベースより。 自殺願望を持つ高校生男女五人で構成された「海の泡同盟」。目的は勿論集団自殺の決行です。果たしてそれが本当に実行されるのかどうか、文章からは余りに詩的な為その動向がはっきり掴めません。又、メンバーの個性もいまひとつ目立ったものが無く、動機も深掘りされません。ですから、Amazonのレビューにあるような衝撃とは程遠い内容となっています。三十年前なら問題作だったかも知れませんが、今となっては色褪せて見えてしまうのはやむを得ない所でしょう。 ミステリではないので謎等は存在せず、いささか読み進める推進力に欠ける気がします。唯一作中で何度も繰り返される、青木の言う「ヨドム」と云う言葉の意味が終盤まで隠蔽されており、謎と言えば謎ですが。 作者の意図は計り兼ねますが、自殺は良くない事だとの世間一般の常識はこの作品には通用しないと思います。むしろ強い意志を持った若者たちにとって、死が美化されている様にすら感じます。それが自殺にせよ「ヒカルモノ」であれば救われもするでしょうが、現実的とは言い難くその辺りにもう少し焦点を当てて貰えたら、もう少し引き締まった小説になったのではないかと思います。 |
No.1523 | 5点 | 狂乱家族日記 拾壱さつめ- 日日日 | 2022/11/19 22:25 |
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各国の要人を乗せた都市型飛行船マスカレイド号の船内で起こった、衝撃の不解宮ミリオン暗殺事件。その犯人も不明のまま、神聖合衆国に到着した凶華たち乱崎家一同は、得体のしれぬ不安と緊張の中にいた。そして、ついに開催された『世界会議』当日、彼らの眼前で展開される驚愕の出来事とは!?千年の時を経て、歴史の闇に葬られてきた『閻禍伝説』の真実の姿がついに白日のもとに!馬鹿馬鹿しくも温かい愛と絆と狂乱の物語。シリーズ白眉の巻。
『BOOK』データベースより。 壱さつめを読んだ後途中飛ばしてこれを読んだら、どう思うんだろう。きっと何が何だか分からなくて、混乱するのではないでしょうか。そう、本作では最早狂乱家族の手を離れ、見知らぬ世界にまで到達してしまった感があります。 今回のメインは「世界会議」ではあります。しかし、これだけ大規模な会議を開きながら一体何をしたかったのか判然としませんねえ。暗殺されたはずの不解宮ミリオンが復活した時は驚きましたけど。 一方閻禍の物語も並行して語られますが、こちらも一向に面白くなく、なんだかがっかりしました。乱崎一家の面々も今回ばかりはほとんど出番がなく、一話から読んでいる身としては淋しい限りですよ。 結局シリーズを引っ張り過ぎてあらぬ方向へ行ってしまった様な気がしてなりません。 |
No.1522 | 7点 | トナカイはプロ雀士- 古田丈二 | 2022/11/18 22:58 |
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サングラスをかけたトナカイが牌を倒してみせた。「ロン、マンガンだ。これで終わりだな」伝説の雀士“赤鼻のトナカイ”が三星会というヤクザと繰り広げる麻雀戦争。狭い雀荘の一角で、壮絶なバトルが始まった。赤鼻のトナカイは命を失うことなく明日を迎えることができるのか。勝負が終わった時、さびしげな背中を見せ、男は立ち去っていく…。ユーモアを交えつつ本物の強さを問う麻雀小説。
『BOOK』データベースより。 短い、短すぎる。短編一本でたったの71ページ。そして薄い。カバーを外したら本体の厚みが僅か2ミリ位しかありません。私はかつてこんなに薄っぺらい小説を見た事がありません。よくもまあこんなのを出版しようと思ったなあと感心します。因みに出版社は新風舎文庫だそう、知らんけど。本屋で立ち読みされたらそれで終わりじゃないですか。書店の本棚に収まっている光景も想像できませんが。 しかし、ですよ。これが面白い。最強の雀士トナカイとヤクザの山下との命を賭けた戦いが今始まる。牌図もないのにその情景がありありと浮かんできて、手に汗握る攻防が読み応え十分です。 雀荘に客は他におらず、名もないおやじとマスターがなし崩し的に面子に入りますが、この二人を含めた四人の個性もなかなか良く表現されており、麻雀という特殊なゲーム性を遺憾なく発揮させています。ただ、伝説の雀士と呼ばれる割りにトナカイが弱気で、終始山下に圧倒されヒヤヒヤさせます。勝敗は最後まで分かりません。その勝負の行方は・・・これは意外な拾い物でしたね。 |