皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1828件 |
No.1568 | 6点 | MW ームウー- 司城志朗 | 2023/01/06 22:43 |
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バンコクで起きた日本人誘拐事件。巨額の身代金と二つの生命を奪い犯人は逃走した。捜査にあたる警視庁の沢木は二人の男と出会う。LA新世紀銀行勤務の結城美智雄と、山の手教会で聖職につく賀来裕太郎。「俺たちは一枚のコインの裏表さ」二人はある共通の過去を背負って生きていた。一方、事件の取材を進めていた牧野京子は、十六年前とある島で起きた酸鼻な事件と疑惑に行き着く。その先には、政府により闇に葬られた凄惨な過去と、そのとき島に残された二人の少年の真実が―。手塚治虫原作の映画「MW」を、本格ピカレスク小説に昇華させた至高のノベライズ。
『BOOK』データベースより。 主役級の四人、銀行員の結城、神父の賀来、警視庁警部補の沢木、ジャーナリストの牧野京子はキャラが立っているし、脇役に至るまで個性を際立たせて描いているので、その意味では本作は成功と言えるでしょう。原作は手塚治虫でその映画化のノベライズなので、どこまで原作に忠実に描かれているかは知りませんが、細かいディテールは多分色々変更されていると思われます。時代が違いますしね、当然手塚治虫が書いた頃には携帯とかなかった訳ですから。 スピード感が有り、場面の切り替えも速くテンポが良いので、読み易さはありますが、読み応えと言う点ではやや物足りないでしょうかね。 結城は天才的で人としては冷酷ですが、これはある事件の影響で、その前の人物像が知りたかったところですね。誰に感情移入するかで、印象も違ってくる作品だと思います。ちょっとした謎とか事件が収束されていない箇所があり、何となく消化不良な面もあります。 |
No.1567 | 7点 | 蜘蛛の微笑- ティエリー・ジョンケ | 2023/01/05 22:45 |
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外科医のリシャールは、愛人を眺める。他の男に鞭うたれ、激しく犯される姿を。日々リシャールは変態的な行為を愛人に強要し…無骨な銀行強盗は、警官を殺害してしまった。たりない脳味噌を稼働させる中、テレビ番組を観て完全なる逃亡手段を思いつくが…微笑みながら“蜘蛛”は、“獲物”を暗闇に閉じ込めた。自らの排泄物、飢え、恐怖にまみれた“獲物”を“蜘蛛”は切り刻んでゆく…三つの謎が絡む淫靡なミステリ。
『BOOK』データベースより。 上記の様に物語は、整形外科医のリシャールと愛人エヴの爛れた愛の物語、警官を殺害し身柄を隠すためある計画を練るアレックスの章、そして二人称の「おまえ」が“蜘蛛”によって監禁され辱めを受ける章の三つのストーリーが並行して進行します。短いながら改行が極めて少なく、内容がぎっしり詰まっているので、一体自分は何を読まされているのか、何が進んでいるのかがなかなか掴み切れませんでした。その上会話文が極端に少ない為、容易に全容を把握する事を許しません。よって、二人称の部分だけが妙に惹きつける魅力を有してしまって、全体的にアンバランスな印象を受けました。 しかし、ラスト30頁でやってくれました。衝撃の展開、禁断のトリック、これは!・・・。本書はそれだけで評点を一気に押し上げました。驚愕の事実が目の前で繰り広げられるカタルシスはなかなかのものでしたよ。いやー最後まで読んで良かったですー。 【ネタバレ】 キーワードは「お大事ちゃん」by頓知気さきな。 |
No.1566 | 6点 | 四十一番の少年- 井上ひさし | 2023/01/04 22:51 |
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児童養護施設に入所した中学生の利雄を待っていたのは、同部屋の昌吉の鋭い目だった―辛い境遇から這い上がろうと焦る昌吉が恐ろしい事件を招く表題作ほか、養護施設で暮らす少年の切ない夢と残酷な現実が胸に迫る珠玉の三編。著者の実体験に材をとった、名作の凄みを湛える自伝的小説。
『BOOK』データベースより。 中編の表題作と短編二作の自叙伝的小説らしき連作作品集。 時代は相当昔で私の生まれるずっと前の話ですが、何故だか懐かしい気分にさせられます。養護施設で暮らす利雄が作者自身を投影した主人公で、彼をイジメる昌吉とのやり取りが中心となる表題作。勿論暗い時代を生きた辛い青春小説でありありながらも、分かり易い伏線を張った犯罪小説でもあります。ミステリとしては杜撰ですが、当時の時代背景を考えると安易に凡作と決めつける訳にはいきません。 又、他の短編二作は表題作を補完する形で著されており、いずれも悲しい話です。特に最後の『あくる朝の蟬』はどこにも居場所のなくなった兄弟の、暗い未来を暗示するラストが堪らなく切ない気分にさせられます。年明け早々読んで良かったのか悪かったのか、複雑な気持ちです。 |
No.1565 | 6点 | 極限冷蔵庫 - 木下半太 | 2023/01/03 22:30 |
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渋谷の居酒屋でバイトをする女子大生・詩乃は、閉店作業中に四十歳独身の女性店長とともに業務用冷蔵庫に閉じ込められてしまう。当初は偶然の事故かと思われたが、なぜか冷蔵庫内の温度が徐々に下がっていく。誰かが扉の外で操作しているのか。いったい誰が、何のために…。命の危機を感じた二人は、犯人の心当たりを探すためにそれぞれの秘密を明かしていくが―。「極限」シリーズ第二弾。
『BOOK』データベースより。 この作者の作品を読む時は、B級グルメを味わう様な姿勢で臨む事にしています。今回も良くも悪くも期待を裏切らず、その味わいを堪能致しました。 何故か突然居酒屋の大型冷蔵庫に閉じ込められてしまうバイトの女子大生と女性店長の二人。狭いわ寒いわで物凄い閉塞感の中、彼女らは犯人が誰かを探る為に回想を続けます。バイトの詞乃は彼氏がいるのにパパ活をしており、彼らの内の誰かが怪しいと睨む一方、店長はパパ活の実態を一部把握しており、こちらはこちらで秘密を隠し持っていたりします。 ラストは二転三転、でんぐり返しし見事にこちらの読みを外してくれます。帯にある「すべての予想は裏切られる」の文句は伊達じゃありません。 木下半太にしては出来は良い方だと思います。それでもまだどこか喰い足りない感じがして仕方ありません。やはり冷蔵庫の中の密室劇と云う事で、全体的に動きが鈍いせいかも知れませんね。 |
No.1564 | 5点 | 魔女は世界に嫌われる- 小木君人 | 2023/01/02 22:13 |
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鍛冶職人の父親と幼い妹との3人で暮らす少年ネロの平穏な日々は、国王軍の襲撃により唐突に終わりを告げる。妹を連れて森へと逃げ込んだネロは、とある古城へたどり着く。そこで彼は、病の床に伏した魔女と、その娘・アーシェと出会った…。世界に忌み嫌われる魔女と、ネロとの間で交わされた約束。それは死んだ妹を生き返らせてもらうことを交換条件に、魔女の娘を安全な地へと護送すること。魔女に恨みを持つ人々や魔獣、さらには魔女を捕まえようとする軍隊までも敵に回し、少年は魔女の娘と、寄る辺なき危険な旅に出る。
『BOOK』データベースより。 所謂ボーイミーツガールもの。ただ、少年ネロは父親が重罪で殺されている、そして出逢うのは魔女と言うのが特徴的ではあります。あとはごくごく普通のラノベファンタジーです。魔女の母親は病に臥せっており、バトルもありますが特別凄みがある訳でもないけれど、何だかんだでそれなりに読ませます。 結局これは後続のシリーズへ向けての単なるプロローグに過ぎなかったのでしょう。一応三作目まであるので読んでみようかな、くらいは思いますが作風から見ると劇的な展開は望めそうにない気もします。今後の予定は保留という事で様子見ですかね。 |
No.1563 | 5点 | ぽっぺん先生の日曜日- 舟崎克彦 | 2023/01/01 22:14 |
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「なぞなぞの本」のなかに入りこんでしまったぽっぺん先生は、なぞを解かなければ外に出られない。ところが、そのなぞ解きときたら、トンチやヘリクツばかり。おまけに出会うのは奇想天外な動物だらけ。さて、どうなることやら。小学4・5年以上。
『BOOK』データベースより。 如何にも児童文学然とした作品で、子供の頃に読んだらきっと面白かったんだろうなと想像出来ます。まあいい歳になっても楽しめたから文句は言えませんけど。ぽっぺん先生は謎を次々と解いて行かなければ前に進めない、そして絵本から抜け出せないという設定。その世界では言葉が話せる動物達に出会いながら、なぞなぞに挑戦してくのですが、そのなぞなぞが結構面白いし動物もユニークで読者を飽きさせません。 まあ何も考えずに読めてストレスフリーだし、挿絵も作者自身が書いている割りには上手いし、まずまず面白かったという事にしておきましょう。でもAmazonで表面に出ているレビューの全てが★5個は出来すぎですね。みなさん子供じゃないんだから、大人の読者の事も考えましょう。 |
No.1562 | 7点 | 死霊の誘拐- 篠田秀幸 | 2022/12/31 22:22 |
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カウンセラーの榊原久美子は、患者の少年加藤信二から恐るべき事実を知らされた。「山伏のような男を轢き殺してから、俺は能除太子の生まれ変わりだという怨霊にとりつかれている」というのだ。その夜、久美子は不倫相手の弘と車で帰宅中、なんと信二を轢いてしまう。信二は「の、能除太子」と呟きながら、息をひきとった。これも怨霊の呪いなのか?人間の孤独と不安を描くホラーサスペンスの傑作長篇。
『BOOK』データベースより。 あまり期待していませんでしたが、これは結構な拾い物だったようです。作者の描く本格ミステリと違ってテンポが良く、リーダビリティに優れ、ホラー、ミステリ、サスペンスの要素を存分に盛り込んでコンパクトに纏めているのは、褒められるべき点でしょう。ストーリーも二転三転し、やや詰め込み過ぎかと感じましたが、とてもスリリングでスピード感もあり、勿体ぶった所がなく好感が持てました。 以上、褒めポイントばかり挙げたので、逆にマイナス点を挙げるとするならば、登場人物が少ないので犯人が判りやすい事ですかね。それと最も不可思議な謎である、大袈裟に言えば死者の蘇りが論理的に解決されていない点でしょう。これはホラーとして捉えるならば許容範囲内です。だからこそレーベルがハルキ・ホラー文庫からの出版だったのも納得が行きます。 |
No.1561 | 7点 | 幼女と煙草- ブノワ・デュトゥールトゥル | 2022/12/30 22:51 |
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死刑を目前に控えた囚人は、最後の一服を要求した。しかし、刑務所の所長は完全禁煙の規則を盾にそれを拒否。事態は、煙草会社、法曹界、政治家を巻き込んで、奇妙な混乱へと陥っていく…。はたして、囚人は最後の一服を許されるのか?一方、禁煙の市庁舎のトイレで煙草をくゆらせていた職員は、幼い女の子に現場を発見される。威嚇して追い払ったものの、職員には告発の手が伸びる。やがて、囚人と職員の人生は、皮肉な形で交差する―注目の作家が放つブラック・コメディ。
『BOOK』データベースより。 ブラックではあってもユーモアではないと思います。大真面目に書かれたディストピア的な社会派です。煙草を忌み嫌い社会から排除する風潮があり、子供を過剰に甘やかし神格化するある国の物語。であるが故に主人公に起こった不条理な現実が痛々しく、やがて法廷にまで発展して・・・。そして一方では死刑囚が最後に煙草を所望した為に巻き起こる悲喜こもごもの、政治や社会に影響を与えた大事件。 この二つの物語が並行して語られ、それらが交差する時本作は佳境を迎えます。 冒頭、これは相当な傑作かも知れないと思いました。その予感は半ば当たり半ば外れました。もっと死刑囚が注目を集めて主役に躍り出ても良かった気もします。そして最後はやや意味不明な感じで終わったのが残念でした。まあ主人公の「僕」の気持ちも分からないではないですが。 ストーリーは予期せぬ方向へ転がり、全く先の予測が付きません。その意味ではサスペンス小説とも言えますし、ジャンル不明とも言えると思います。 |
No.1560 | 7点 | 牧師、閉鎖病棟に入る。- 沼田和也 | 2022/12/29 22:46 |
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なぜ人を傷つけてはいけないのかがわからない少年。
自傷行為がやめられない少年。 いつも流し台の狭い縁に“止まっている"おじさん。 50年以上入院しているおじさん。 「うるさいから」と薬を投与されて眠る青年。 泥のようなコーヒー。 監視される中で浴びるシャワー。 葛藤する看護師。 向き合ってくれた主治医。 「あなたはありのままでいいんですよ」と語ってきた牧師が ありのまま生きられない人たちと過ごした閉鎖病棟での2ヶ月。 Amazon内容紹介より。 本書を読んでいて思ったのは、たとえ牧師と言えども神様でも聖人でもない、一人の人間だという事。当たり前ですが、聖職者としては一個人として見られない面があり、精神科に入院することもあるのだという事実。そして、本当は覆面作家か誰かが書いたのではないのか思う程、文章が流麗でまるでプロの様である事です。 閉鎖病棟に二ヶ月、解放病棟に一ヶ月入って色々な経験をした作者、なかなか人生上手くいかないものですね。入浴時には若い女性看護師に監視されたり、おやつは火曜日と金曜日の午後三時にアルファベットチョコを2個だけだったり、トイレに関する事食事の事等々、健康的ではあるかも知れないけれど、人間的ではないなと感じたりしました。因みに私は毎日ガーナひと欠けとチョコまみれを1個食べています。贅沢してるなと思いますが、血液検査は至って正常でBMIは19くらいです。どうでもいいか。 又、著者は22歳の時に阪神・淡路大震災の被害に遭っており、それも人生を狂わせるのに一役買っている様です。蛇足ですが、精神科医自身が神経を病むことも結構あるそうですよ。 |
No.1559 | 6点 | 伝染ル- みくるやみっき | 2022/12/28 22:46 |
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話題の“プリスタ”で、彼氏との記念プリを撮ったえれな。だけど、プリに写ったえれなの首に、赤いシミのようなものが広がっていき…?恐怖の渦に巻き込まれた5人の少女のヤバイ体験…。
『BOOK』データベースより。 五篇のホラー短編集。一話、二話を読んだ後これはB級ホラーかと、ちょっとがっかりしましたが、三話目『リカちゃんのおまじない』四話目『伝染ル』で グッと盛り返しました。最後の『腐臭』もまずまずでこの点数に落ち着きました。いずれもどこか既視感を覚える、言ってみれば普通のホラーでそれほど怖くありません。そもそも作者自身が怖がらせようと思っていないのではないかと感じました。 グロさとかとは無縁で直截的な描写はあまりありません。ストーリーも捻りがなく良く言えば王道ホラーでしょうかね。大体先が読めるし、結末もまあそうだろうなって感じで、驚きはありません。でもそれで良いんですよ、定番っていうのはそんな物でしょうから。作者名からして怖そうじゃないし。 |
No.1558 | 6点 | 賭博師たち- アンソロジー(出版社編) | 2022/12/27 22:42 |
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平穏な日々を嫌い、明日を拒み、ときには愛するものさえ裏切り、賭博師たちは凌ぎのために、一切の感情を捨て去る。己の神経を極限にまで研ぎ澄まし、“勝負”というただ一点のみに真実を見出そうとする彼らの生き方とはいかなるものなのか。人生の深淵を知り尽くした八人の作家が、非情の世界に生きる男たちの栄光と破滅を描破したベストアンソロジー。
『BOOK』データベースより。 黒岩重吾と樋口修吉(誰?)以外は十分楽しめました。それにしても八人の作家の中の二人が阿佐田哲也を主人公に持ってきているのには、流石に博打の神様、雀聖と呼ばれた男だと感じ入りました。その二人、生島治郎と清水一行は明らかにノンフィクションらしき短編で、阿佐田哲也の魅力を遺憾なく描写しています。特に有名なナルコレプシーという突然眠ってしまう奇病について両者ともページを割いています。何だかんだ言いながら最後にはかっぱいでしまう強者として描かれていて、又氏の意外は素顔をも知れます。 伊集院光はヒリヒリした博打と言うより官能小説の体を成しています。黒川博行はバリバリの麻雀小説で1ページ目から牌図が出て来ます。しかし、プロの主人公が簡単な絡繰りに気付かないのは不可解でした。佐藤正午は博打と恋愛を天秤にかけた様な作品で、最も小説らしい小説です。ただその分博打の醍醐味は味わえませんでした。 |
No.1557 | 6点 | 誰がこまどり殺したの- 篠原一 | 2022/12/26 22:24 |
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羽を失い、獣となった少年たちに約束の百年は訪れるのか。「天国のドア」はひらくのか。きみに喰われてきみの血肉になってゆくのが僕の愛なのかもしれない…。文学界新人賞デヴュー(『壊音KAI‐ON』)19歳天才女子大生作家、初の長篇。
『BOOK』データベースより。 長編だと思って読んでいたら短編集?でも結局長編だったし、ミステリだと思っていたら幻想小説或いはファンタジーだったと云う、大いなる勘違いを巻き起こした本作。『天国の扉』では痛い目に遭ったのでどうかなとかなり不安でしたが、面白かったですね。いや面白いという表現は失礼かもしれません。何と言うか感性で読む本じゃないでしょうか。だから感銘を受けたとか心に沁みたと言ったほうがしっくり来そうです。 最初は凛が男か女かも分からず戸惑ったり、瑞に振り仮名を打たれていないので何と読むのか終盤まで分からなかったりと、それも一つの個性なのかも知れませんが、不親切な気はしました。因みに瑞はみずきでしたが。 あらすじなどはあって無い様なものですし、ここでは書かない方が良いと思いますので割愛します。ただMという正体不明の女性の得体の知れない未来像にはゾッとしました。文体は儚げで美しく詩的でもあります。物語よりもその辺りを評価したいですね。 |
No.1556 | 5点 | 死者からの人生相談- 吉村達也 | 2022/12/25 22:22 |
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人気ラジオ番組「電話人生相談」にかかってきた一本の電話…。それは数日前に殺された女性と同じ名前だった。単なる偶然か、死者の魂の叫びか。残された手がかりは埼玉・川越と伊豆・新島の市外局番、そして録音テープ。捜査が難航するなか、同じ手口で第二の殺人が起こった。事件の謎を解く鍵となる「音」を追って舞台は新島へ。そこで待っていたものは意外な結末だった。目と耳で読む本格推理。
『BOOK』データベースより。 まあまあでした。一応フーダニットに属する本格ミステリですが、やはり最も興味を惹かれるのはタイトル通り、どんなトリックで死者からラジオの人生相談された様に思わせるかですね。結論から言えばあまりそれに期待しない方が賢明って事です。それよりも、作者が詳しいラジオ制作の現場の実情や進行の仕方、プロデューサー、ディレクター、パーソナリティの関係性などの内幕が描かれているところに注目しましょう。 ディレクター青木聡美はラジオ収録の人生相談のテープ、言わば耳からの情報から事件の真相に迫り、一方刑事畑聖美は正攻法で捜査し最終的に二人は偶然にも鉢合わせすることになります。 又話の要所要所に犯人の独白が挿入する事によって、アクセントとして物語に影響を与え締まりが出てきている気がしました。こういう心遣いは読者にとっては嬉しいでしょうね。速書きと言われていた作者ですが、決して手を抜いていたとかそうした感じは受けませんでした。 |
No.1555 | 6点 | 冲方丁のこち留- 冲方丁 | 2022/12/24 22:40 |
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2015年8月、各マスコミがいっせいに報じた人気作家、まさかの「DV逮捕劇」。9日間にわたって渋谷警察署の留置場に閉じ込められたのち釈放、不起訴処分が下された。この体験を通じて、冲方氏が失望を禁じえなかったのが、世間の常識などいっさい通用しない警察、検察、裁判所の複雑怪奇な実態だ。誤認逮捕や冤罪を生み出しかねない「司法組織の悪しき体質」を変えるには?ベストセラー『天地明察』の作家が世に問う、日本の刑事司法の不条理な現実。
『BOOK』データベースより。 2015年8月22日、場所は秋葉原。「冲方サミット」と題されたファンとの交流と作品発表のイベントが行われた後の打ち上げの場で、作家冲方丁が逮捕された。罪状はDVであった。本書は逮捕後の渋谷署での取り調べや留置場での生活を赤裸々に綴られたノンフィクション小説です。 作者はまず逮捕状をよく確認した上で、その矛盾を発見します。しかし逮捕状が存在する以上身柄を拘束されるのはやむを得ない事。分からないのは何故妻が訴えを起こしたのかであり、その疑問点は最後まで明かされずややモヤモヤ感が残りました。妻は夫に拳骨で殴られ前歯が欠けたと証言するも、そんな事実はないと冲方は否定するけれど、刑事には取り合って貰えません。そして過酷な取り調べが始まります。初日は9時間にも及ぶ尋問に身も心もボロボロに。そして留置場では夜も消灯されず睡眠不足に陥り、食事は薄味で粗末な物ばかりで体力を消耗させられます。同じ房では日本語を解するイラン人を始め大人しい人たちばかりで安堵するも、退屈と精神的に追い詰められる事でなんとか持ち堪えている状態だったと述懐します。 その間に弁護士を経て得た情報と自身の体験から、逮捕状は裁判官があっさりと押印し承認される事、刑事達はあり得ないストーリーを捏造し容疑を認めさせようとする事、被疑者の言い分に耳を貸そうとしない検察官などの実態を目の当たりにします。 拘留中に留置場仲間に著名な作家と知れ渡り、先生と呼ばれるようになったり、釈放されて煙草やアルコールを受け付けなくなったり、色々ありましたが結果この経験を本にすることを決意し本書の刊行となった事に、作者の意地と矜持を感じました。 |
No.1554 | 5点 | ジョシコーセーの成分。- ハセガワケイスケ | 2022/12/23 22:25 |
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遅刻。そう。美樹本花鈴は、やらかした。うっかり受かった名門女子校、その初日に、盛大に遅刻…!これからのことを想像して、たのしくなりそうだなあ、と思っていた矢先に!そして。そんなドジな少女を見守る、同じ制服を着た少女たち。お姫様の安比奈ひな子、委員長の服部美苗、モデルの織江巫子、万能キャラの更衣初穂。たくさんの期待と不安をまぜこぜに、ジョシコーセーたちの青春が、今始まる。
『BOOK』データベースより。 ちょっと、シリーズ物じゃなかったのかよ。やられたぜ、まだ登場人物の紹介しかしてないじゃん。という訳で、本作は女子高生から見た女子高生の実態を具に観察した様な作品となっております。女子校だけに男子は一切出てきません。所謂GLとも違います。ひな子ラブな三人美苗、巫子、初穂は当然ひな子に纏わり付いたりしてじゃれ合っていますが、生々しさはありません。 ストーリー性がほとんどない代わりに、語り手の花鈴を含め各キャラの性格、言動、特徴など事細かに描写されていて、JK大好き人間には堪らない作品だろうと思います。しかし好き嫌いははっきり分かれるタイプでしょうね。 『しにがみのバラッド。』は何だったんだろうと云う位、テンションが高いです。そのノリに付いて行けるかどうかも、評価の分かれ目になる筈で、まあラノベを読み慣れた方には問題ないでしょう。 |
No.1553 | 6点 | 少女残酷物語- 山口椿 | 2022/12/22 22:30 |
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老朽ビルの一室にあるテレビに映し出されたのは、“血だらけの平台の上で断裁される女たち”だった――。その残虐シーンを観てしまった美沙が、現実と幻想の境界を漂う「オーバーヒート」。暗闇の中、車を走らせるなつみを襲ってきたのは――なつみたちだった。そこから先の地獄絵図を素描した「入れかわり立ちかわり」など、書き下ろし八篇をふくむ、全二十篇を収録した恐怖と幻想の傑作集。
Amazon内容紹介より。 Ⅰ日本篇の最初の『ヒートアップ』を読んだ時、おーおーやってるやってると想像通りの内容にニヤリとしました。しかし、読み進めて行く程に期待していたのと違うと感じ始め、舞台は日本の筈なのに何か無国籍小説の様な印象を受けるようになりました。そしてⅡ日本篇の最後の『スターダム』でガラリと作風を変えて、それはまるで学術書の様だと思いました。疫病をテーマにし、それ自体の一人称で書かれたこの奇書には思わず唸らされました。こんなものも書けるのかという驚きと畏怖の念を覚えざるを得ません。 Ⅲ以降の西欧篇こそこの作者の真価を発揮しているものと思われます。この人の体質に合った物語に仕上がっているし、むしろ外国が舞台の方がしっくり来ます。それもアメリカとかアジアではなくヨーロッパでしょうね。印象に残るものも残らないものもありますし、作品の出来不出来も激しくオチが弱かったり何これ?って感じのもありますが、個人的な評価は決して低くはありません。 ホラーと言うより怪奇小説とか幻想小説でしょうかね。 |
No.1552 | 5点 | 七つの人形の恋物語- ポール・ギャリコ | 2022/12/21 22:36 |
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お金も仕事も失った孤独な少女ムーシュは、言葉を話す七つの人形と出会い、謎めいた一座の長キャプテン・コックと旅と舞台を共にすることに。人形という存在を通して二人の間に芽生える深く純粋な愛の物語を、ストーリーテラーとしての抜群の才能で描いた表題作に加え、著者の名声を国際的にゆるぎないものにした名作「スノーグース」を、矢川澄子による静謐で感受性豊かな名翻訳で贈る、ギャリコ・ファン必携の豪華版。
『BOOK』データベースより。 言いたい事やりたい事は分かります。多重人格を書きたいが為に七つの人形を操り、それを表現しようとしている作者。おそらくそんな所だろうと思います。しかし私の心はこれっぽっちも動きませんでした。正直Amazonでの高評価を見た時マジかと思いましたよ。そんなに世間と自分の価値観がずれているのはやはりおかしいのではないか。己の読解力の無さのせいなのか、世の中にはそれ程多くの人がこの物語に心酔しているのか。私もその仲間になりたいとは思いませんが、何か得体の知れないものを感じます。 多分日本の作家ならムーシュの過去の物語をもっと重視して、彼女に感情移入出来る様に仕立てるでしょう。それがストーリー性というものじゃないでしょうか。それをおざなりにして、いきなり人形たちと会話させるのはかなり不親切で無理があるのではないかと感じました。そして色々説明不足でなかなか物語に没頭出来ないのは自分だけではないような気がします。 この人があの名作『ポセイドン・アドベンチャー』を書いたとは思えませんでした。まあ原作は読んでませんけどね、TVで映画を観た程度で。 |
No.1551 | 7点 | 婚活中毒- 秋吉理香子 | 2022/12/20 22:23 |
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沙織が地元の結婚相談所で紹介された男・杉下はハンサムで真面目、収入も十分だ。しかし、相談所に入会して三年たっても結婚相手がみつからないという。何か裏があると感じた沙織は、これまで杉下が紹介された女性たちに会いに行くが、驚愕の事実が…(「理想の男」)。婚活をめぐり、運命のどんでん返しが待ち受ける、サプライズ満載ミステリー!
『BOOK』データベースより。 昨今、婚期が男女とも年齢的に上がっている現代だからこそのテーマに挑んだ傑作短編集。四編収録されていますが、どれも甲乙付けがたい逸品ばかりです。そして何と言ってもそのオチが素晴らしい。勿論そこに至るまでのストーリーも十分に楽しめます。流石に実力者だけの事ありますね。 婚活と一言で言っても様々な形態がある事に気付かされました。中には本人の代わりに両親同士が話し合いの結果、利害が一致すれば親子三人で改めて会うというのは初めて知りました。 結局本質はあくまでミステリであり、婚活という形を借りたに過ぎません。サスペンス風の物語あり、美女に振り回されながらなかなか離れられない男の悲しい性の話あり、男親が逆に婚活を通じて恋してしますパターンありと、作者はキレのあるストーリーテラーぶりを発揮していると思います。お薦めです。 |
No.1550 | 7点 | もののけ本所深川事件帖 オサキと骸骨幽霊- 高橋由太 | 2022/12/19 22:29 |
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災厄が起こるといわれる“オサキモチ”ゆえ、献残屋の娘・お琴に恋文を渡せない手代の周吉。しかし、その文が墓地まで飛ばされ、墓の下から現れた幽霊・朱里が自分宛てだと勘違い。あげく周吉は朱里と夫婦になってしまう!店に帰れなくなった周吉は、骸骨幽霊らを成仏させるため、秘策を練るが…。町では極悪非道の畜生働きが跋扈し、周吉の店にも危機が迫る!妖怪時代劇、第六弾。
『BOOK』データベースより。 これはかなり面白いですよ。シリーズ第三弾までを飛ばして、四作目から読み始めてから一番心に刺さりました。一応一話完結なので途中から読んでも問題ないですが、何となく本作を読んでみてやはり順序通り読んだ方が良かったかなと、少し後悔しています。 幽霊の朱里と形ばかり夫婦になり、骸骨幽霊たちと懇意になった鵙屋の手代の周吉。その鵙屋の用心棒である老剣士柳生蜘蛛之介とその師である日向彦三郎、そして新たに雇われた奉公人伊太郎の因縁がぶつかり合った時、壮絶な戦いが勃発します。 その戦は周吉や物の怪オサキ、骸骨幽霊や鵙屋に憑いている妖怪たちをも巻き込んで、凄まじいバトルを繰り広げます。そして蜘蛛之介、彦三郎、伊太郎の三人の過去に何があったのかがこの物語の肝になっています。其処で語られるのは敵味方に関係なく江戸時代ならではの悲恋の影に憑かれ、哀しみを背負った男達の執念と執着。 本当は8点にしようかとも思ったのですが、流石にそれはちょっとと云う迷いがあり落としましたが、今でも気持ち的には8点です。 |
No.1549 | 7点 | 真夏の日の夢- 静月遠火 | 2022/12/18 22:30 |
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演劇サークルの活動費を捻出するため、心理学部の教授が行う奇妙な実験に参加した大学サークルのメンバーたち。外界との接触を遮断されて、一ヶ月間、ひとつ屋根の下で過ごすことになった彼らは、「お風呂が狭い」、「部屋の壁が薄い」、「外の空気を吸いたい」と文句を言いながらも、文化祭前夜のような日々を、それなりに楽しみながら過ごしていた。しかし実験開始から6日目、サークルのアイドル的存在の雪姫が、忽然と姿を消して…。
『BOOK』データベースより。 帯に青春ミステリとあったので、一応心構えをして読み始めました。序盤から中盤にかけて何も事件らしきものは起こりませんでしたが、おそらくその中に幾つかの伏線が張られているはずだと思い、注意深く読んだつもりでした。キャラも立っていますしね、青春小説として退屈する様な事もなくサクサク読めます。ある意味クローズドサークル化していて、ミステリとしての体裁は整っています。ラノベと言うよりは本格ミステリと捉えた方が良いでしょう。 丁度真ん中あたりでやっと事件が起き始めますが、私には何が起きているのかさっぱりでした。うーん、何とも情けない読者ですわ。 その後の展開はなかなか目を瞠るものがあり、そう来たかと驚きの連続でした。大技こそないものの、小技の連射で技ありの一本と云った感じです。こういうのも良いですね、床が抜けそうな襤褸アパートで起こる様々な出来事に翻弄されながら青春の息吹を感じる、アリだと思います。ただ、動機が・・・。 |