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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 2006件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1806 7点 難問の多い料理店- 結城真一郎 2024/08/12 22:22
ビーバーイーツ配達員として日銭を稼ぐ大学生の僕は、注文を受けて向かった怪しげなレストランで、オーナーシェフと出会う。
彼は虚空のような暗い瞳で、「お願いがあるんだけど。報酬は1万円」と、噓みたいな儲け話を提案し、あろうことか僕はそれに乗ってしまった。
そうして多額の報酬を貰っているうちに、僕はあることに気づく。
どうやらこの店は「ある手法」で探偵業も担っているらしいと。
Amazon内容紹介より。

第一話がやや低空飛行で第二話で上昇し、又下降するの繰り返しで評価が難しいです。つまり奇数話はまずまずで、偶数話はかなり面白いという感じ。
それにしても探偵役、というか裏稼業で探偵をしているシェフが謎過ぎて内面が窺い知れません。外見のディテールははっきしりているのですが、何を考えているのか分からない不気味さがあり、得体の知れなさが浮き彫りになっています。名前さえ与えられていない探偵というのはどうなんでしょうねえ。

採点はやや甘めで、どうしようか迷った末最終話が結構盛り上がったので、この点数にしました。何となく期待していなかったのですが、その期待は上回ったと思います。
真相自体は何でもない様に思えても、それを解明する過程が面白いので、その意味では高評価です。最終話>第四話>第二話>>>>その他。意表を突かれる様な結末もあったりして楽しめます。

No.1805 6点 カニバリストの告白- デヴィッド・マドセン 2024/08/08 22:28
殺人容疑で逮捕された天才シェフが挑んだ、食欲、性欲、支配欲、あらゆる欲望の泥濘を突き抜ける至高の一皿とは? 昨今のミシュラン騒動を予見し皮肉るかのような、人間最大のタブーに挑む怪作にして清々しい快作。
Amazon内容紹介より。

タイトルの通りの内容。自分自身が殺害した被害者の肉を食するだけでなく、シェフとして客に提供する。それも飛び切りのレシピで。グルメを唸らせる腕を、主人公であり記述者のオランド―は持っています。それは天才としての矜持と人間の肉を食べるという禁忌を冒す悦楽を満足させる訳で、それらの犯行と告白者オランド―の心情が克明に記されています。ただ、人肉の解体の模様や調理の詳細は描かれていません。敢えて避けたのか、作風に合わなかったせいなのか分かりませんが、そこは想像とは少し違ったものでした。

真面目に書かれた変態小説とでも言うべきなのか、誰も彼もが普通の感覚では捉え切れない変人揃いです。同性愛好者ばかりで辟易とします。それでもエログロは控えめで、飽くまで文学として読める作品に仕上がっています。
翻訳も上手いです。とにかく読んでいて飽きが来ないのは、別に私の嗜好どうこうではなく、普遍性の問題だと思います。皮肉の効いたオチも決まっていました。

No.1804 7点 ウナギの罠- ヤーン・エクストレム 2024/08/05 22:31
1960年代のスウェーデンに、こんな不可解な密室殺人が眠っていたとは……。
ウナギのように「つかみどころ」がなく、解決不可能に見える奇怪な現場の状況。
ディクスン・カーも青ざめるほどの「つなわたり」のトリックに啞然、そして呆然。
――折原一氏(作家)
Amazon内容紹介より。

本サイト現役最強の二大巨頭と今最も勢いのある気鋭の書評家お三方が、揃って8点を付けているならば、これは読むしかありませんね。
しかし、全体的に冗長で、この内容ならば半分の量で十分書けたと思います。事件が起こるまでの約100ページ、少々退屈でした。事件に関係ありそうな事柄は少なく、関係ない事ばかり書かれている気がしましたし、ミステリ云々ではなく読み物として面白くなかったですね。

その後も事件の調査に乗り出すドゥレル警部ですが、あまり鋭いところを見せず、推理しているのかどうかも判然としません。後半、自分自身に問いかけ、真相を掴もうとする描写は良かったですが。
解決編で、犯人の決め手になった切っ掛け、理由や動機が説明されていないのは、かなり不親切だと思います。それまでに説明されているから省略、では私の様なん読解力の無い読者に対して優しくないと感じざるを得ませんでした。
しかし、密室の作り上げ方は見事なもので、このトリックだけでプラス1点を献上します。

No.1803 5点 夜廻(よまわり)- 保坂歩 2024/07/31 22:07
真夜中の世界には、ときどき妙なものがいる。
静かな通学路、仄暗い電柱の陰、シャッターが閉まった商店街、月明かりだけが頼りの畦道、鬱蒼とした森の中に佇む神社、山道の先にあるトンネル。
彷徨うもの、恐ろしいもの――そして、――が現れる不気味な夜の町で「大切なもの」を探し求め続ける二人の姉妹は、再び朝を迎えることができるのか
Amazon内容紹介より。

これは大の大人の読む本ではありませんね。せいぜい中学生くらいが喜びそうなホラーです。全然怖くはありません。雰囲気を楽しめれば御の字で、過度な期待は禁物です。Amazonの評価は不当に高すぎると思います。

母を亡くし、父親は仕事でほとんど家を留守にしている幼い姉妹の心の拠り所は飼い犬のポロ。そのポロが散歩中に消えたという妹を残して、夜の町をポロを探しに出た姉を待ち受けていたものは何か?後を追う様に妹も勇気をもって姉と飼い犬を探しに家を出る。そして妹も様々な怪異と遭遇し・・・。
という話です。インディゲームのノベライズ作品で、迫力はないですが情緒的なムードを作り出しているのは評価できると思います。まずまずとしか言いようがありませんね。

No.1802 6点 あなたに聞いて貰いたい七つの殺人- 信国遥 2024/07/28 22:16
若い女性ばかりを惨い手口で殺害し、その様子をインターネットラジオで実況するラジオマーダー・ヴェノム。その正体を突きとめてほしいと、しがない探偵・鶴舞に依頼してきたジャーナリストのライラは、ヴェノムに対抗してラジオディテクティブを始めることを提案する。ささいな音やヴェノムの語り口を頼りに、少しずつ真相に近づきはじめる鶴舞とライラ。しかしあと一歩まで追い詰めたとき、最悪の事態がふたりを襲う――

これは何を書いてもネタバレになりそうで、ちょっと難しいですね。
と言いながら書きますが、あまりに伏線が安易過ぎて・・・先の展開が読めてしまうと云うか、誰がどんな役割をしているのかがミエミエなので、興を削がれてしまうんですね。
探偵対連続殺人鬼に警察が絡むプロットはなかなかよく考えられています。しかしそれは必然であり、そこに無駄は一切ありません。

特に後半楽しめました。途中、えっ?まさか、と思わず声を出しそうになりました。ところが、後になってその理由に必然性がないのが解り、残念な気持ちになりました。
評価はちょっと厳しいかと思いますが、7点付けるには何かが足りなかった感が強いです。

No.1801 5点 アデスタを吹く冷たい風- トマス・フラナガン 2024/07/25 22:23
風が吹き荒さぶ中、闇を裂いてトラックがやってきた。運転する商人は葡萄酒を運んでいると主張する。だが職業軍人にして警察官のテナント少佐は、商人が銃の密輸人だと直感した。強制的に荷台を調べるが、銃は見つからずトラックは通過してゆく。次は必ず見つけて、武器の密輸入者は射殺する……謹厳実直の士、テナントがくだした結論は?「復刊希望アンケート」で二度No1に輝いた7篇収録の名短篇集、ついに初文庫化。
Amazon内容紹介より。

まず原文が多分下手。途中何を書いているのかよく解らず、心に響くものが一つもなかったというのが本音。そして最後の真相に、あーそうなのか(棒読み)と何の感慨もなく終了って感じで、どの短編もそんな調子でしたね。
そして訳も上手くない。難読漢字が続々、せめてルビを打って欲しかったです。長身痩躯を痩躯長身と書いてあるしなあ、内容がちっとも頭に入ってこない、この人こんな下手だったかなと思いました。『エクソシスト』を高校生位に読んだ時は普通に読めましたけどねえ。

評判の良い表題作を取り上げてみても、ショボいトリックに驚きを隠せません。現在なら絶対通用しないでしょう、こういうの。他にもパッとした意外性のあるトリックは見当たらず、ちょっとだけ読んだ事を後悔しました。というか、私には合わなかったのでしょう。年代を鑑みて5点としましたが、本来なら4点相当だと思います。

No.1800 6点 わらの女- カトリーヌ・アルレー 2024/07/23 22:26
大資産家の妻を目指して、知性と打算の見事な結晶の手紙を送ったドイツ人女性ヒルデガルト。手紙が功を奏してカンヌに呼ばれた彼女は、資産家の妻の座を前に秘書の男から、ある申し出を受ける。そこには、思いも寄らぬ企みが隠されていた。これ以上ないほど精緻に仕組まれた完全犯罪小説。これからこの一冊に出会う皆さんは幸せです。素晴らしい楽しみが待っています。ミステリ史上に燦然と輝くフランス発の傑作ミステリを新訳で。
Amazon内容紹介より。

冒頭の新聞記事を探すところから惹き込まれ、そのまますんなりとストレスなく読み終えました。しかし、解説でシンポ教授が言っているような傑作とは、私は思いません。「致命的というに近い欠陥をかかえてはいるが、それを補って余りある興趣に満ちた作品」との佐野洋の意見には頷けます。
物語としては文句なしに面白いのは確か、ですが、あまりにもストレート過ぎて捻りが無いのがかなり弱点ではないかと。それと個人的意見ですが、そんなに上手く事が運ぶのか、警察の捜査を見くびり過ぎているのではないかとの疑問点がどうしても拭い去れません。

結局昨今の手の込んだ国内産のミステリやサスペンスに慣れてしまった身には、いささか物足りなさを覚えてしまうのです。シンプルなのは悪くないですが、シンプル過ぎるのは良くないです。最後まで読んで、えっもう終わり?と感じてしまった私は少数派なのかも知れませんが、それが正直な感想でした。

No.1799 7点 ルパンの消息- 横山秀夫 2024/07/20 22:26
15年前、自殺とされた女性教師の墜落死は実は殺人――。警視庁に入った一本のタレ込みで事件が息を吹き返す。当時、期末テスト奪取を計画した高校生3人が校舎内に忍び込んでいた。捜査陣が二つの事件の結び付きを辿っていくと、戦後最大の謎である三億円事件までもが絡んでくるのだった。時効まで24時間、事件は解明できるのか!?
Amazon内容紹介より。

三人の男子高校生によるルパン作戦。この描写が延々続き、抑揚があまりない上、その期末テストの奪取計画という地味な事件の記述は少々退屈ではあります。そこには別のある事件が絡んでくるのですが、そちらの方がややおざなりになってしまって、余計に興味が半減します。三人組の行動が詳細に語られる割には、それぞれの個性が感じられず、警察が動き出すパートに比べてかなり劣ると言わざるを得ません。

一方、刑事達の描写に関しては、後の横山秀夫の諸作の片鱗が伺われ、もう少しこちらのパートに重点を置いた方が面白くなったのではないかと思いました。
しかし、終盤ある刑事の一言から物語は一気にヒートアップし、疾走感を伴って怒涛の展開を見せます。そこからは目くるめく様な体験ができ、素晴らしいの一言に尽きます。特に意外な人物の過去には驚きました。そうだったのかと、感心する事しきり、それとは別に時効成立間際にこんなドラマが待っているとは予想も付きませんでした。この最終局面で採点は大きく加算されたと言っても良いでしょう。

No.1798 6点 雀荘迎賓館最後の夜- 大慈多聞 2024/07/16 22:53
雀荘「迎賓館」には並外れた技量の打ち手が集まる。枯淡の老経営者、飲食チェーン取締役、広告会社局長代理、記憶システムが異様な高校教師。仲間内のゲームに飽き足らず、敢えて鉄火場に挑んだ国立大生・結城は、強者達の雀卓を凌げるのか。勝負の果てに、彼らは何を失い、何を得るのか。ギャンブル小説の新たなる金字塔。
Amazon内容紹介より。

麻雀小説なんですけど、闘牌シーンが少な過ぎるし、逆に迎賓館の常連たちの生活ぶりや仕事関係の描写が多すぎて、非常にバランスが悪いです。しかも興味を惹かれるのは釘宮のパートくらいで、他はなくても良い程度のエピソードばかりで、その辺り余計だったと思います。

ただ流石に闘牌シーンだけは凄い迫力です。これだけの迫真の文章が書けるのに、その他がはっきり言って面白くないのは致命的ですね。
主要登場人物の五人のキャラが描き切れていないのも残念です。もう少し何とかならなかったものか、書くべき人が書いていたら間違いなく傑作になっていたと思うんですけどね。

No.1797 7点 ぼくらは回収しない- 真門浩平 2024/07/13 22:19
数十年に一度の日食が起きた日、名門大学の学生寮で女子学生が亡くなった。密室状態の現場から自殺と考えられたが、小説家としても活躍し、才気溢れた彼女が死を選ぶだろうか?
三年間をともに過ごしながら、孤高の存在だった彼女と理解し合えないまま二度と会えなくなったことに思い至った寮生たちは、独自に事件を調べ始める――。第十九回ミステリーズ!新人賞受賞作「ルナティック・レトリーバー」を含む五編を収録。大胆なトリックと繊細な心理描写で注目を集め、新人賞二冠を達成した新鋭による、鮮烈な独立作品集。
Amazon内容紹介より。

本格ミステリでもあり青春ミステリでもあるノンシリーズの短編集。
個人的なベストは『街頭インタビュー』です。探偵役の一方通行では終わらない、その後の意外な展開に驚きを隠せませんでした。正にぼくらは回収しないって事なんですね。それは最終話『ルナティック・レトリーバー』にもよく表れています。こちらも負けず劣らず伏線を見事に回収したかに見せて、実は・・・という逆転の構造が光っています。

とは言え、事件のスケールの大きさやトリックの斬新さには欠けます。その分気の利いた皮肉な結末が訪れるのはほぼ全てに共通しています。『カエル殺し』の動機は過去に読んだある作品に近いものがありました。しかし、それはお前が考える事ではないだろうとの思いが強く、やや説得力に欠けるのが残念です。
あと、気になったのが『速水士郎を追いかけて』に出て来るHSPのことですね。何となく自分にも当て嵌まるところがある気がして、もしかしてと思ったりしてちょっと不安になりました。私には探偵の素質はありませんけどね、勿論。

No.1796 6点 あなたの子供が生みたかった- 水木三甫 2024/07/10 22:20
新婚で妊娠中だった美春は、夫を事故で失い、そのショックで流産してしまう。どうにかうつ病から回復し、会社に復帰した美春の前に、一台の奇妙なバスが現れる。バスの終点となる、潰れたはずの旧市立病院で美春を待ち構えていたのは―。(あなたの子供が生みたかった)表題作ほか、「明るい葬式」「湖の記憶」「連続無差別殺人事件」「終着駅」「背徳の精算」「トモちゃん」「クレヨンで描いた町(大人のための童話)」全8編を収録。

前作と比べるとブラック度が上がった代わりに、奇想天外な話が少なくなった印象です。ちょっと期待し過ぎたかも知れません。それでも異色の短編集であるのは間違いないです。最もミステリ度が高いのは『連続無別殺人事件』で、これが私の好みとしてはトップですね。よくあるパターンかと思わせておいて、更に捻りを加えるという離れ業を短編でやる手腕は認められるべきでしょう。次点は表題作。

もう一息で7点だったと思います。この人は今後もこの路線で行くのだとしたら、どこかで壁にぶつかる気がします。似た様な短編集二作だけではやはり世間に認知されるのは難しいと思いますので、一度スイッチを入れ替えて長編でも描いてみてはどうでしょうかねえ。このままでは知らない間に消え去ってしまう事もあり得る訳で、思い切って他の出版社から長編を出して欲しいです。

No.1795 7点 乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび- 芦辺拓 2024/07/08 21:44
1923年(大正12年)に「二銭銅貨」でデビューし、探偵小説という最先端の文学を日本の風土と言語空間に着地させた江戸川乱歩。満を持して1933年(昭和8年)に鳴り物入りで連載スタートした「悪霊」は、これまでの彼の作品と同様、傑作となるはずだった。
謎めいた犯罪記録の手紙を著者らしき人物が手に入れ、そこで語られるのは、美しき未亡人が不可思議な血痕をまとった凄惨な遺体となって蔵の2階で発見された密室殺人、現場で見つかった不可解な記号、怪しげな人物ばかりの降霊会の集い、そして新たに「又一人美しい人が死ぬ」という予告……。
期待満載で幕を開けたこの作品はしかし、連載3回ののち2度の休載を挟み、乱歩の「作者としての無力を告白」したお手上げ宣言で途絶した。
Amazon内容紹介より。

前半は乱歩が描いた、畢生の傑作となる筈だった『悪霊』がそのまま掲載されています。これが驚くことに一々漢字にルビが振られている。その為余計な神経を使わされて、却って読み難くなってしまっています。しかし、これは本当に乱歩が描いたものなのかと途中で何度も疑ってしまいました。何故なら、全然乱歩らしくないから。異論はあると思いますが、感覚としては現代の作家がそれらしく書いた様な印象を私は受けました。怪しげな雰囲気に反する、意外なほどの本格度の高さで、確かに完成していれば代表的な傑作となる筈だったのは疑いようがありません。

だからこれを書き継いで完成させたい欲求を覚えるのは、ミステリ作家としては真面な感覚だと思いますね。今回見事にそれを達成した芦辺拓、見直しました。作者が描いた解決編を読みながら、何度もほぉーと感心した私は変でしょうか。いやそんな事はありません。乱歩が途中で言葉は悪いけれど、放り出してしまったものを、良くぞここまで仕上げたものだと称賛を送りたい気持ちで一杯です。

No.1794 6点 黒と愛- 飛鳥部勝則 2024/07/06 22:12
奇妙に傾く狂気の城、奇傾城――血と内臓と腐肉が主題の絵画が集う一室に幽霊が出没する噂がたち、「探偵」亜久は心霊特番に協力して城を訪れる。遅れて「霊能リポーター」役の女子高生、全身黒服の少女・黒が現れ、亜久にそっと囁いた。「あなたは、鋏が好きですか」……やがて密室状況で、黒と親しい男がくだんの部屋で首を切断された。これは幽霊の凶行か? 呪わしく美しい純愛(変愛)本格ミステリ
Amazon内容紹介より。

力作であることは間違いないと思いますが、力の入れる方向があらぬ方へ行ってしまって、異形の作品になってしまっている、というのは作者の意図した事なのかどうか。私には判断できません。取り敢えず序章で私の心が鷲掴みにされたのは確かです。その後はとても真面な本格ミステリとは思えない程様々な要素が入り混じり、何がどう絡んでくるのか見当も付きません。

密室のトリックは最初の方がやられた感がありましたね。二つ目はなんだかよく理解出来ませんでしたが、一応そうなのかとは思えました。あまり感心はしませんけど。
まあ、愛と憎悪と怪奇と意表を突くトリックと血の濃い臭いと奇形と狂気と夢現などがカオスの如く脈動する、怪作と呼んで差し支えないと思います。好き嫌いがはっきり分かれる類の小説でしょう。

No.1793 6点 どちらかが彼女を殺した- 東野圭吾 2024/07/02 22:29
「お兄ちゃん以外、信じられなくなっちゃった」
電話は切れ、妹は殺された。
愛知県交通課の兄・和泉は、
犯人への復讐を決意し、現場の証拠を隠蔽する。

容疑者は元恋人の男と親友の女。
決め手が見つからないなか、
練馬署の加賀刑事だけは兄の工作を嗅ぎ取る。
Amazon内容紹介より。

本作をノベルズ版で読んだ人はさぞかしモヤモヤしたでしょうね。何しろ犯人がどちらか書かれていない訳ですから。頼れるのは自身の推理のみ、自信のある人はどれだけいたんでしょうか。クレームの電話が殺到したのも已む無しですね。幸い私は文庫本で読んだので袋綴じである巻末の「推理の手引き」があった為、モヤモヤは回避出来たんですが、それでも犯人を断定するのに一抹の不安が残りました。全くどこまでも意地の悪い・・・。

最初から分かっていた事ですが、自分で推理せねばならないという命題を背負って読みました。解説そのままの引用にはなってしまいますが、読書中に思った事なので敢えて書きます、あまりに多くの手掛かりがばら撒かれて、どれが決め手なのか見当が付きませんでした。しかしそれは複雑なものではなく、至ってシンプルなものでした。残念ながらカタルシスは生まれませんでしたが。「手引き」がなかったらマイナス1点は堅かったと思います。それとは別に、自分がどれだけレベルの低い読者であるかを嫌でも自覚させられました。

No.1792 6点 赤い右手- ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ 2024/06/29 22:03
ハネムーン途上のカップルとヒッチハイカーが出会ったとき、運命の歯車が異常な回転を始めた。悪夢の一夜に起こった連続殺人、その真相は? 独特の味わいを持つ狂気の本格ミステリ。
Amazon内容紹介より。

面白いのは最初と最後だけ。乱暴に言ってしまえば、途中飛ばしても問題なさそうだと思います。むしろ中盤は章立てがしていない為もあって、時系列がバラバラで把握しきれませんでした。私の集中力が足りなかったのかも知れませんけどね。訳者あとがきではその辺りを詳しく書かれているので、成程なと思いながら読んでいました。一部では刊行当時バカミスならぬヘタミスと呼ばれていたとか。私にとってはメチャミスです。もう少し構成を直して確りと章立てしてもらえたらプラス1点は付けたかもしれません。兎に角途中混乱させられて、どうにもすんなりと読み進められませんでした。

唐突に始まる推理のトリックに関してはオッと思わせるものがありました。しかし、全く現実的ではなく、警察を舐め過ぎではないかと感じました。例えば物理トリックなんかはリアリティがなくても理論的に可能(机上の空論だとしても)であれば納得出来ます。それに対して本作のトリックは別に探偵がいなくても、いずれ真相が発覚するのは理の当然で、読者を馬鹿にしているのではないかとさえ思えます。確かにトリックとして発想は悪くないと思いますけどね。期待が大きかっただけに私としては残念な結果となりました。

No.1791 7点 闇匣- 黒田研二 2024/06/26 22:33
「密室本」だからと言って密室殺人じゃなくても良いんだと、初めて思わせてくれた作品。確かに黒田研二と密室って合わない感じがしますからね。
中盤まではよくありがちな、目覚めると暗闇の中に閉じ込められ、手足を椅子にきつく縛られていたというシチュエーションで、非常にサスペンスが効いています。登場人物も五人だけという限られた条件の中の為、閉塞感が半端ないです。誰が誰を狙っていたのか、誰と誰がどういった好悪を抱いていたのか、最後まで想像が付きません。

ところが後半はガチガチの本格ミステリに様変わりし、伏線を回収しアリバイトリックなどが弄されます。前半のサスペンスがここで生きてきます。まあ異色の作品であることは間違いないと思います。私が今まで読んで来た黒田作品の中では三本の指に入るでしょう。評判の良い『嘘つきパズル』を読むのが楽しみになりました。この人の作品はどれもこれも王道から少しずらした様なものが殆どで、読む度に違った面白さを提供してくれます。そうした作家がいても良いんじゃないかと思わせてくれるユニークな存在で、意外と貴重な逸材かも知れませんね。

No.1790 8点 木挽町のあだ討ち- 永井紗耶子 2024/06/24 21:49
ある雪の降る夜に芝居小屋のすぐそばで、美しい若衆・菊之助による仇討ちがみごとに成し遂げられた。父親を殺めた下男を斬り、その血まみれの首を高くかかげた快挙はたくさんの人々から賞賛された。二年の後、菊之助の縁者だというひとりの侍が仇討ちの顚末を知りたいと、芝居小屋を訪れるが――。
Amazon内容紹介より。

これはもう名作と呼んで差し支えないでしょう。淀みなく流れる様なタッチで臨場感もたっぷり。まるで目の前で起こっているのかと感じる程、生き生きと若侍菊之助に関わる人達の人生が語られます。その意味ではミステリとかを超えた、一つの時代小説として完成された作品だと思います。芝居小屋の人々の語り口調を一々変えながら、確りと時代小説風でありつつも現代的な文体で老若男女楽しめる逸品に仕上がっていますね。それぞれの人間ドラマは人情味に溢れ、章ごとに短編として完結しているし、読み応えもあります。
ただし、少々言いたい事もあります。それは以下で。



【ネタバレ注意】



私は最初からこの核となるトリックを疑っていました。まさか予想通りになりはしないだろうなあと不安を抱きつつ最後まで読みました。結果は・・・。
しかし、それを上回る作者のストーリー全体を操る二つの仕掛けには流石に気付きませんでした。よって意外性も十分あると言えましょう。そんなこんなで結局本作を目いっぱい堪能出来た私なのでした。直木賞に相応しい名品です。

No.1789 6点 神狩り- 山田正紀 2024/06/21 22:22
情報工学の天才、島津圭助は花崗岩石室に刻まれた謎の《古代文字》を調査中に落盤事故にあう。古代文字の解明に没頭した圭助は、それが人間には理解不能な構造を持つことをつきとめた。この言語を操るもの──それは神なのか。では、その意志とは? やがて、人間の営為を覆う神の悪意に気づいた圭助は、人類の未来をかけた壮大な戦いの渦にまきこまれてゆくのだった。
Amazon内容紹介より。

実に繊細な筆致で描かれている、実質のデビュー作。
私は神など信じません、何故なら世の中理不尽な事が多すぎるから。何でこうなる?って事ばっかり見てきたから。しかし、進化論には疑問に思う部分があるし、本書で描かれる≪神≫が人間に敵対する存在であるならば逆に少しばかりリアリティを感じます。
これがSFとはあまり思えません。作者あとがきでもそれは書かれていますね。素材自体はSFそのものですが、例えば誰々が「かれ」と闘っているはずなのに、その事後報告だけで生々しいバトルシーンは描写されていません。そこを逃げと捉える訳では決してありませんが、やはり一握りの物足りなさを覚えます。

まあでも面白いですよ。魅力的な人物が目白押しだし、ワンアイディアからここまで話を広げる手腕は認めるべきだと思います。最初から続編を意識して描かれているかどうかは判断出来ませんが、実際『2』が出ている訳で、それを読んでから本当の評価を下すのが正しいのかも知れません。

No.1788 6点 陰獣- 江戸川乱歩 2024/06/19 22:37
大富豪と結婚し幸せに暮らしている女のもとに、昔捨てた男から執念の脅迫状が届く。差出人の男は謎めいた探偵作家。女の夫が変死体で発見されると、その脅迫状はぴたりとやむが……意外な結末とは!?
Amazon内容紹介より。

角川ホラー文庫版で読みました。『陰獣』も『蟲』も情念の作家乱歩の一面をよく表した作品だと思いました。雰囲気はいかにもなもので、他作家の追随を許さないドロドロした男女の絡み合いや、乱歩らしいトリックが光ります。しかし、時代を感じさせ色褪せた感は否めません。

両作とも中編の割には内容がぎっしり詰まっており、楽勝で読めると思っていたら大間違いでした。高評価の方は乱歩が好きなんでしょうねえ。私も過去に何作か読んできましたが、昔読んだ短編『芋虫』を超える作品は未だ現れていません。私にとって乱歩はやはり『少年探偵団』であり『芋虫』であるのだと思い知りました。しかしまだまだ未読作品は多く、今後に期待したいと思います。

No.1787 7点 ドキュメント 女子割礼- 内海夏子 2024/06/17 22:13
アフリカ北部に今も幅広く残る女子性器切除の風習。気鋭の女性フォトジャーナリストがたびたび現地を訪れ、当事者たちを取材。廃絶に向けての多様な活動を紹介しながら、現状を検証する。
Amazon内容紹介より。

大変勉強になりました。私は男子の割礼は幼い頃から知っていましたが、寡聞にして女子の割礼はこの本に出合うまで知りませんでした。そんな自分を叱ってやりたい気持ちです。
まず女子割礼は大きく4タイプに分かれます。タイプ1は女性器の一部(最も敏感な個所)を切除するもの。タイプ2は女性器の大部分を切除するもの。タイプ3は女性器を封鎖し排尿と生理の為の穴だけ残すもの。タイプ4はその他となっています。これらは5歳から15歳位の少女に対して半強制的に行われます。それを望む少女も多いのが現状です。しかし、後遺症として、高熱や激痛、感染症、生理不順、心理的ダメージなどが挙げられ、最悪の場合死に至るとされています。
本書が出版された当時、エジプトを含むアフリカの28ヶ国でいずれかの割礼が行われていました。現在もそれは続いているケースがほとんどの様です。

私が最も疑念を抱いたのは、やはり何故そんな野蛮で酷いことが平然と行わているのかという事でした。その理由は処女性を保つ為、女性の性欲抑制の為、幸せな結婚をする為、醜い(勿論私はそう思わないが)器官を見栄え良くする為など、古くからの慣習から来るものと言われています。
割礼に反対する団体やNGOが様々な角度から割礼撲滅を目指しアプローチする運動も描かれています。しかし、イスラム教が誕生する遥か以前から行われてきた慣習を止める事に反対する住民の声が多く挙がり、思う様に進まないのが現状です。私見では国連やWHOが介入しないのか、或いは出来ないのかとの思いが強いですね。それぞれの国の問題だからと言われてしまうと黙るしかないのでしょうか。現状を知っても何も行動できない自分が非常にもどかしいのですが、まず女性の地位向上が何よりも早急に進むことを望むしかないです。主に男の都合で始まった儀礼であるのは間違いなく、男女平等の気運が世界的に広がる事を祈ります。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 2006件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(29)
西尾維新(25)
島田荘司(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
日日日(20)
折原一(20)
中山七里(19)
森博嗣(18)