皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ パスティッシュ/パロディ/ユーモア ] 霊界予告殺人 |
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山村正夫 | 出版月: 1989年12月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 2件 |
講談社 1989年12月 |
講談社 1992年08月 |
No.2 | 5点 | メルカトル | 2024/01/19 22:20 |
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交通事故で臨死体験した探偵作家が、日常生活に戻ると次々に不可思議な体験をする。まばたきをしない人々、唇も動かさないのに聞えてくる話声。そして死んだはずの恋人が姿を現わす。霊界に踏み込んだ男は、コナン・ドイルを名ざした予告殺人に遭遇、クリスティ、乱歩、正史らと霊界殺人の謎解きに挑む。
『BOOK』データベースより。 序盤、主人公の探偵作家が不可解な世界に足を踏み込んでしまっているのを自覚出来ずに、戸惑っている姿を読む限りは、これから起こる事に期待が膨らみます。しかしそれも、事態が明らかになって来るにつれて平常心を取り戻して、通常のミステリと対する姿勢に変わりました。つまりは、まあまあ面白いのですが、それ程テンションが上がらない状態ですね。 霊界のミステリ作家が実在の人物ばかりなので、気を遣い過ぎたのか、あまり個性が感じられません。魅力に乏しいのです。折角の素材の良さが活かされていない様に思えます。そして、霊界のシステムが複雑で真相に至ってもなんとなく腑に落ちない点がありました。 もう少し見せ方というか、描き様があったのではないかと思います。其処に作者の限界を見た気がして、淋しい気持ちになったりしました。うーん、山村正夫、惜しいなあ。 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | 2019/11/22 02:31 |
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(ネタバレなし)
1989年の東京。青山を歩いていた50歳代の「探偵作家」雨宮鏡介は、一年前に事故死した二回り年下の婚約者・香西育江によく似た女性を見かけた。だがその直後、雨宮は暴走族のバイクに撥ねられて重傷を負い、仮死状態の魂だけが、死者たちが享年時の姿で集う霊界「精霊界」に紛れ込む。そこで育江と、さらには乱歩や横溝、木々高太郎や大下宇陀児たち多数の物故した先輩・同輩作家たちと再会する雨宮。霊界では言語の壁がなく、この世界の探偵作家クラブは欧米ミステリ作家の三巨頭、ドイルとヴァン=ダイン、クリスティーを日本に招待していたが、そのドイルのもとに謎の殺人予告メッセージを記した『緋色の研究』の原書が送られてきた。やがて『緋色の研究』そのままの状況に、さらに密室の要素までを加えた殺人現場で、ドイルが「殺されて」しまう。 Twitterでたまたまヘンな作品の存在を見かけたので、読んでみる。 元版ハードカバー版のあとがきで作者自ら「拙著『推理文壇戦後史』の小説版といえるかもしれない」「いわゆるミステリーの範疇を超えた、SF的、幻想的、かつパロディー的な、何とも作風の分類のしようがない、奇想小説になってしまった」と言っているが、正にそのとおり。評者も読んでいる間は至上の居心地の良さを感じる一方、時々狐につままれたような感覚に襲われた。少なくとも丹波哲郎の「大霊界」や中岡俊哉の著作がマジメに巻末の参考文献一覧リストに挙げられている謎解きミステリを、私はほかに知らない。 ヒロインの育江は生前に女流編集者だったので、欧米の三巨頭を呼ぶ探偵作家クラブの企画にも協力。しかしそれが祟って、彼女はなりゆきから、ドイル殺しの共犯者の嫌疑を霊界警察から受けてしまう。そこで(作者・山村正夫の分身といえる)雨宮は、恋人の無実を晴らすために奔走。そんな雨宮を、乱歩や横溝、高太郎たちが支援するというのが本作の趣向。 そんな中で高太郎が霊界で『美の悲劇』(生前に未完に終った長編)の続きを書いているという描写など大笑いしつつ嬉しくなる。霊界の探偵作家クラブの新参作家として、本書の刊行のタイミングゆえに、仁木悦子や天藤真の名前が出てくるのはブラックユーモアだが(小泉喜美子の話題が出ないのはナー。たぶん霊界でも日本のミステリ作家とは距離を置いてるんだろうなー)。 しかしトンデモな趣向だけに寄り掛かった楽屋オチ作品かと思いきや、謎解きミステリとしても真相の意外性、霊界の世界観を活用した事件のロジック、さらには「なぜ『緋色の研究』の見立て殺人を行ったのに、そこに原典にない密室の要素が紛れたのか」の説明など、予想以上に練り込まれた作りでびっくりした。 本作は1989年の作品だから国産ミステリの趨勢はもう新本格時代に突入していたわけで、それゆえにベテラン作家も若い世代の影響を受け、柔軟にこういう奇想めいた謎解きミステリを書いたのだと思いたい。本書はそんな出来である。 ただ惜しむらくは、もうちょっと真相の意外性(それ自体は相応に評価できる)をもっとドラマチックに、またこういう設定なんだから良い意味でマンガチックに盛り上げて語ってくれれば良かったものの、その辺の演出が弱いのが残念。そういった辺りをもうちょっとうまく押さえてくれていたら、確実にもっと口頭に昇る名作になっていたろうにね。 (少なくとも本サイトで今まで誰もレビューしてないのは、ちょっと違和感がある一本である。) まあ真相に驚き、唸ったあとで、本作を読んだミステリファン同士で、さらにそこからいろいろくっちゃべりたい作品でもあるけどね。しかしそれもまた本作品の独特な持ち味といえるだろう。 |