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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1837件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.22 7点 鵼の碑- 京極夏彦 2023/09/24 22:11
殺人の記憶を持つ娘に惑わされる作家。
消えた三つの他殺体を追う刑事。
妖光に翻弄される学僧。
失踪者を追い求める探偵。
死者の声を聞くために訪れた女。
そして見え隠れする公安の影。
Amazon内容紹介より。

内容が内容だけに、刊行が延ばされたのは分かりますが、それにしても17年は長かったですよ。まあ2、3年は駄目だったろうなとは思います、しかしせめて5年くらい空けて出して欲しかったですね。
まず本書を手にして確認したのは、次作が告知されているのかどうかでしたが、どやらシリーズは続くものとみて間違いないようで、正直ホッとしました。いつ出るかは作者のみぞ知るところですが、2年に一作位は出してもらいたいです。

さて本作、薄味との意見もあるようですが、十分濃いです。特に京極堂の蘊蓄には相変わらず付いて行けません。ただ、事件が現在進行形ではなく、過去に起こった出来事を追うものなので、スリリングな展開は望めません。この辺りはHORNETさんに全面的に賛同します。そして、個人的に榎木津の出番が少なすぎて物足りなかったりしました。まあその分、緑川という女医がなかなか物言いとか堂々としていて、好感が持てましたが。過去に関口らとどんな出会いがあったのか気になるところです。あと、チョイ役のセツという「悪いけど」が口癖のメイドが面白い存在でしたね、どうでもいいですけど。
物語やプロットは良いんだけど、ミステリとしては弱いよね。

No.21 6点 書楼弔堂 炎昼- 京極夏彦 2021/12/30 23:21
明治三十年代初頭。人気のない道を歩きながら考えを巡らせていた女学生の塔子は、道中、松岡と田山と名乗る二人の男と出会う。彼らは幻の書店を探していて―。迷える人々を導く書舗、書楼弔堂。田山花袋、平塚らいてう、乃木希典など、後の世に名を残す人々は、出会った本の中に何を見出すのか?移ろいゆく時代を生きる人々の姿、文化模様を浮かび上がらせる、シリーズ待望の第二弾!
『BOOK』データベースより。

力強い言葉、優しい言葉、そしてそれらを組み合わせ繋ぐ文章の、なんと素晴らしい事か。そこはかとなく漂う香気すら感じさせる筆力は見事の一言に尽きます。並みの作家が書いたならこんな作品にはならなかったと思います。逆に言えばそれだけ内容は人の心の中に踏み込んではいるものの、決して派手なものでは無いという事になります。

前作同様明治の苦悩を抱えた偉人、著名人が次々と風景の中に紛れ込んでうっかりすると見逃してしまいそうな灯台に似た書楼弔堂に訪れ、其処の主人と対峙します。今回の語り手は現実から逃避したい女学生の塔子の連作短編集。遂に明かされる書楼の主人の名前、どこかしら京極堂を彷彿とさせるこの人物の一言一言の重みは恐ろしい程の凄みがあり、ラストの長広舌は正に読み応え十分で、色々考えさせられるものがありました。
点数は6点ですが、気持ちは7点です。私が文学に通じていればもっと評価は高かったかも知れませんね。

No.20 7点 百鬼夜行 陽- 京極夏彦 2021/08/04 23:05
悪しきものに取り憑かれてしまった人間たちの現実が崩壊していく…。百鬼夜行長編シリーズのサイドストーリーでもある妖しき作品集、十三年目の第二弾。京極夏彦・画、書下ろし特別附録「百鬼図」収録。
『BOOK』データベースより。

京極堂シリーズのサイドストーリー。痛快とか面白いとかの要素はありません。むしろ全般に暗くジメジメしている感じです。それにしても凄まじい程人間が描かれています。それは言動は勿論、細かな仕草や言葉遣いや心理描写によく表れています。特に駄目な人間の心情がこれでもかと描かれていて、ああ、自分も似たようなものだなと思わせられました。それも様々なタイプの人間像を具に描いており、ある意味厭になって来る位京極らしさを前面に押し出しているので、「あの頃」を思い出しながら読めました。駄目人間を描かせたらこの人の右に出る人はいないのではと思います。

シリーズ本編を読んでいなくても楽しめますが、読んでいれば更に楽しめることは間違いないと思います。しかし、出来る事ならもっと早く読むべきでした。
最終話では若き日の京極堂、榎木津、関口が揃ってほのぼのしています。榎木津の「視える」ようになった幼少期の経緯も知れますよ。

No.19 7点 ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔- 京極夏彦 2019/10/21 22:40
少女達を襲ったおぞましい事件から3カ月が経った―。前回の事件の被害者・来生律子のもとを、謎の毒を持った作倉雛子が訪ねてくる。彼女は小壜を律子に託し姿を消す。未知なる毒の到来は、新たなる事件の前触れなのか!?突如凶暴化する児童達。未登録住民の暴動。忌まわしき過去の事件を巡る、妄執と狂気と陰謀。すべての謎が繋がるとき、少女達は新たなる扉を開く!戦慄の近未来ミステリ。
『BOOK』データベースより。

読んでも読んでも一向に話が見えて来ない。丁度半分辺りで漸くおぼろげながら徐々にその全容を現し始めます。中盤までどの辺りに焦点を置いているのかがはっきりしないので、それなりに読むのに忍耐が必要となりました。結構長いですしね。
構造としては京極堂シリーズを近未来(2035年)に移し、主人公を少女たちに置き換えた感じだと思います。最終的には重要人物の少女の一人都築美緒が「あたしは説明が苦手なんだ」とか言いながら、京極堂の役割を果たし延々と事件のあらましを説明します。役どころとしてはどう考えても榎木津なんですけどね。尚、私が想像していたようなバトルやアクションはほとんど見られません。

予想していたよりもかなり本格ミステリ色が濃いです、設定はSFで物語はファンタジーなんですが、核となる陰謀がいかにも京極らしく、ラノベとは一線を画す作品となっています。SFだろうが何だろうが、文体はいかにもな京極節が炸裂します。そして何と言ってもクライマックスシーンの比類なき疾走感は凄まじく、流石に読ませるなあと感心することしきり。序盤では何度か断念しようかと思いましたが、結局読了出来たというか最後まで引っ張られた感じでした。それだけの筆力を備えている故だと思います。

No.18 5点 今昔百鬼拾遺 河童- 京極夏彦 2019/06/09 22:10
昭和29年、夏。複雑に蛇行する夷隅川水系に、次々と奇妙な水死体が浮かんだ。3体目発見の報せを受けた科学雑誌「稀譚月報」の記者・中禅寺敦子は、薔薇十字探偵社の益田が調査中の模造宝石事件との関連を探るべく現地に向かった。第一発見者の女学生・呉美由紀、妖怪研究家・多々良勝五郎らと共に怪事件の謎に迫るが―。山奥を流れる、美しく澄んだ川で巻き起こった惨劇と悲劇の真相とは。百鬼夜行シリーズ待望の長編!
『BOOK』データベースより。

本作を高く評価する人は筋金入りの京極ファンか、京極作品を一度も読んだことのない人だと思います。冒頭で女子高生四人がキャーキャー言いながら、河童談義をしているのは微笑ましいですが、基本的に百鬼夜行シリーズは悲劇でしょうから、それに反するユーモラスなこの作品はややずれているのではないかと思ってしまいます。確かに河童に関する薀蓄も語られますし、それらしい雰囲気の片鱗は見せていますが、『鬼』と比較してもトーンが明るすぎる気がします。
多々良勝五郎は別として、敦子、益田、呉美由紀らの脇役が何人集まっても主役にはなれません。つまり、主役不在の百鬼夜行シリーズ、又は脇役が主役になったシリーズでしょうか。やはり京極堂あっての百鬼夜行ですよね、これではダメだなあ。

事件は変節を経ますが構造は至って単純で、途中で大凡の真相は見えてきてしまいます。それでも結末はそれなりに読ませますが、意外性などはほとんどありませんね。そもそも誰が真犯人でなぜ全員水死体なのかといった次元の問題ではないですから。少なくともミステリファンの求めているような終息には至らないだろうと思いますよ。
余談ですが、表紙のモデルは三作とも人気の今田美桜ですが、いずれもお面を被っている為お顔は拝見できません。ただスタイルの良さは伺えます。

No.17 6点 今昔百鬼拾遺 鬼- 京極夏彦 2019/04/27 23:29
「先祖代代、片倉家の女は殺される定めだとか。しかも、斬り殺されるんだと云う話でした」昭和29年3月、駒澤野球場周辺で発生した連続通り魔・「昭和の辻斬り事件」。七人目の被害者・片倉ハル子は自らの死を予見するような発言をしていた。ハル子の友人・呉美由紀から相談を受けた「稀譚月報」記者・中禅寺敦子は、怪異と見える事件に不審を覚え解明に乗り出す。百鬼夜行シリーズ最新作。
『BOOK』データベースより。

百鬼夜行シリーズ最新作、だけど京極堂、榎木津、関口、木場(の四兄弟)が出ない抜け殻のような百鬼夜行。それよりも新シリーズ発進ということなのでしょうか。我々は10年以上も『鵺の碑』を待ち続けているんですよ、京極さん。原発問題で出せないとかとの噂もありますが、完成はしているはずですよねえ?出版できないのなら、とっとと次の作品に着手して欲しいのですが。それは順序として矜持が許さないんでしょうね、きっと。だからと言ってこんな形でお茶を濁そうなんて、そうはいきませんよ。敦子が主役ではいかにも荷が重いんです。で、結局このようなシリーズにしては極薄の小品になってしまっているじゃないですか。
まあ、面白かったですけどね。雰囲気だけは確かに『百鬼夜行』だけど、いつもの蘊蓄や憑き物落としや先の四兄弟の絡みがないと、やはり全然物足りません。なんと言っても、このシリーズはキャラの濃さが一つのウリなわけで、それがない本作はせいぜいスピンオフとしての価値しかないと思います。勿論、作品の骨格はしっかりしていますし、フーダニット、ホワイダニットがメインの本格ミステリではあります。ありますが、スケール感然り事件の入り組み方然り、到底京極ファンが納得いく出来ではない気がします。でも、結局『河童』も『天狗』も読みますよ、そりゃあね。

No.16 7点 百器徒然袋 雨- 京極夏彦 2018/01/11 22:33
再読です。
『百鬼夜行シリーズ』のスピンオフ『薔薇十字探偵シリーズ』の第一弾。当然榎木津がメインですが、京極堂が主役のような気がしないでもないです。しかし、やっぱり本物はいいですね。これは誰にも真似できない訳です。

内容的には第一話『鳴釜』>第二話『瓶長』>第三話『山嵐』でしょうか。神の如き超人榎木津は無論、対等かそれを上回る位置を占める京極堂もいつもの役割をきっちり果たしています。脇役の益田、和寅ら下僕たちもいい味出しています。第二話では今川(待古庵)、鳥口、第三話では関口、僧侶の常信、伊佐間も登場します。つまり、『百鬼夜行シリーズ』を読み込んでいる読者ほど楽しめる要素が増える仕組みになっていると思います。しかし、彼ら端役にも取り敢えず一目置かれている部分があり、作者の各キャラへの愛情が偲ばれ、好感が持てます。
ただ、第三話ではストーリー性よりもキャラの魅力に頼りすぎな一面も垣間見えますね。それでも楽しめるのは間違いありません。
全話に共通するのは珍しく榎木津が仕切っていることで、それにより本シリーズが陰より陽の雰囲気を纏っているとは言えると思います。要するに京極堂による蘊蓄や解説がやや控えめで、榎木津の魅力がより前面に押し出された作品ということでしょうか。陰惨な事件性はあるものの、直接的な描写はなされません。

No.15 7点 虚実妖怪百物語 急- 京極夏彦 2017/01/09 22:05
さて、いよいよ最終巻です。
「妖怪小説に7点も付けるのはどうなの、お前は」というご意見も十分頷けますが、面白いのだから仕方ありませんね。
今回は新たに夢枕獏や鈴木光司らが登場します。本シリーズは京極夏彦氏の交友関係を熟知するほど面白みが増します。どの人物がどんな役割を果たすのかといった観点に注目すると、より楽しめると思います。まあ、ほとんどの読者がそれらの恐らく実在の人物を知らないので、この人はこんな風貌でこんな性格なんだろうなと想像を逞しくして読む他ありませんが。
本作、妖怪やら怪獣やら漫画の主人公が暴れまわるクライマックスもいいですが、その後に訪れる実に平和でのんびりとした露天風呂のシーンがとても印象深いんです。こんな静かな落ち着いた雰囲気の場面を読むのはいつ以来だろうかと、遠い過去を懐かしむとともに、噛み締めるように読める幸せを実感します。
で、結局多数の登場人物の中、荒俣宏が主人公なのでしょうかね。最も盛り上がるシーンで活躍します。京極夏彦はミステリ的側面の謎解きを一応担当して、面目を躍如し、一番最後に水木しげる先生が美味しいところをさらいます。
最後まで読んで良かったと思えるような楽しい作品ではありました。

No.14 6点 虚実妖怪百物語 破- 京極夏彦 2016/12/26 21:58
前作の地味な展開から一転、ど派手で荒唐無稽なストーリーへと発展していきます。妖怪どころか、巨大ロボが発進し、それに搭乗しているのが荒俣宏なのです。さらに木原浩勝はヘリからパラシュートで落下し、都知事を襲来し槍で突き刺したりします。どうやら黒幕はあの『帝都物語』の加藤らしいと匂わせています。
今作では新たに綾辻行人、貫井徳郎が登場。前作からの京極夏彦や平山夢明もそれなりの活躍をします。活躍というか、彼らは意見するだけで行動は起こしませんけど。で、あの水木しげる先生は・・・次巻で大いに暴れる予定(勝手な予想)です。
まあとにかく、コメディタッチで描かれながら、抑えるべきツボは抑えている感じで、笑える上に高揚感も味わえるという贅沢な一品に仕上がっていることは確かです。最終巻でどうケリをつけるのか楽しみであります。

No.13 5点 虚実妖怪百物語 序- 京極夏彦 2016/12/14 21:55
京極版「妖怪大戦争」らしいが、序というだけあって一冊丸ごとプロローグのような作品である。
妖怪関係者?の水木しげる、荒俣宏、京極夏彦ら作家陣に編集部の人々が多分実名で加わり、さらに榎木津礼二郎の子孫らしき榎木津平太郎や木場という人物まで参戦している。
本作の手法は映画『ジョーズ』に似ており、序盤に妖怪をちらつかせておいて、その周辺の出来事を冗談っぽく描いてイライラさせて、最後にぞろぞろと妖怪を登場させるという常套手段を取っている。
ただ残念なのは三人称で書かれているが、京極夏彦を京極自身がどう描くのかと言う興味を持って読んだわけだが、結局本人は本作では登場しなかったことだ。ちょっと焦らしすぎじゃなかろうか。いずれ続巻を読むのだから少しくらいサービスすればいいのにと思うが。

No.12 6点 書楼弔堂 破曉- 京極夏彦 2016/01/17 22:06
灯台のような三階建ての古書店、弔堂(とむらいどう)。目立つのになぜか風景に馴染んで認識しづらいのが特徴である。
時代は明治初期、幕末から明治にかけて活躍した著名人が今日も弔堂を訪れる。そして元僧侶の店の主が、「読まれぬ本を弔い、読んでくれる者の手元に届けて成仏させるが我が宿縁」などと説法の如きセリフで客を説き伏せる。それぞれの悩みを聞き、歩むべき道を示し、生きる意味を問う。
だが決して難解ではない。京極堂にどこか雰囲気が似通った、弔堂の主は本を通じて客に時に論戦を挑み、時に説法をする。ある意味では日常の謎を解くがごときシーンもあり、うっすらとではあるがミステリの要素も感じさせる。
読み終わった時、読者に何かを残す一冊だと思う。京極作品としては薄味かもしれないが、読んで損はないだろう。

No.11 7点 ヒトでなし 金剛界の章- 京極夏彦 2015/11/29 21:45
これはいったい何だろう。ミステリの要素はある、観念小説か、宗教小説、或いはクライムノベルなのか。
主人公の尾田は幼い娘を亡くし、職も追われ、家族と離れ、そしてヒトでなしになった。そんな彼に人殺しという重罪を背負った人間や、人生における大きな苦難を抱えた人間たちが、次々に接触し救われていく。というか、憑き物が落ちる如く人が変わっていく様を描いている。
文体はいかにも京極らしく、執拗でありながら理解しやすい。それでも、おそらく一般読者を意識して、読みやすく書いていると思われる。目次には一話から十一話までとの表記があるが、長編である。そして無論続編が書かれるだろう。印象としてはまだまだ序章に過ぎないと思わせるからだ。はたして彼らの今後の物語はどう変遷していくのか、新たな登場人物は現れるのか、括目して次作を待ちたいと思う。
それにしても、ラストの清々しさは何とも言えない余韻を残す。それだけでも一読の価値はあるだろう。

No.10 9点 絡新婦の理- 京極夏彦 2013/11/15 22:34
まず何と言っても冒頭の美しさは、日本のミステリ史上髄一と言っても過言ではあるまい。そしてそれはラストシーンに繋がるという、まさに構成の妙を見せている。勿論、ストーリー全体の構成力はさすがなものがあり、これだけの長尺を無理なく描いている腕は確かである。
本作は、いきなり犯人が登場することで『鉄鼠の檻』と共通する部分を持っている。そして、『鉄鼠』は男の世界、『絡新婦』は女の世界というようにまるで対比するような描かれ方をしている。その意味で両者は兄弟或いは姉妹的な関係にあると考えられるのではあるまいか。
いずれにしも本作は、ある意味「百鬼夜行シリーズ」の頂点に立つ作品なのかもしれない。シリーズ最長であることも、何かを示唆してはいないだろうか。
まあそれにしても、よくこれだけ長い小説を書けるものだと感心する。ただ書くだけではなく、複雑な事件や人間関係をキッチリまとめ上げる手腕は大したものだと思う。
確かに犯人は分かりやすいかもしれない、しかしそんな些末なことはこの大作を前にしては、いか程のものでもない。

No.9 6点 死ねばいいのに- 京極夏彦 2012/11/27 21:37
プロットと言うか構成は宮部女史のような。
それでも文章のしつこさ、或いは粘着質な感じはやはり京極氏ならではのものだと思う。
確かに、フーダニット&ホワイダニットものと言えるのかも知れないが、これだけの手掛かりでそれらを推理するのは無理というもの。
がしかし、犯人の正体にはやはり驚きを隠せなかった。
それは良いのだが、動機は理解しがたいし、全体的にすっきりしない、後味の悪さを覚えた。

No.8 5点 幽談- 京極夏彦 2012/04/19 21:42
ホラーテイストのもの、怪談っぽいもの、寓意小説的なもの、観念小説のようなものなど、様々な作風が収められた短編集。
どの作品にも共通しているのが、オチがないところ、これは読者によっては不満に感じるだろう。
かく言う私もそうだ。
どの作品を読んでも、最後に味わうのは宙ぶらりんの、取り残されたが如く寒々しい印象のみ。
そこになんとも言えない味を見出せるかどうかで、評価は大きく変わってくると思う。
怪談を好む読者にとっては好印象かもしれないが、ミステリファンには物足りないのではないだろうか。

No.7 7点 厭な小説- 京極夏彦 2011/09/18 23:55
誰にでも書けそうで京極氏にしか書けない、そんな作品。
あえてジャンル分けするならば、ホラーということになるだろう。
帯にあるように、読後はどんよりしている。
連作短編集なのだが、どの作品も共通の人物が登場するだけで、ほとんど独立した仕上がりになっている。
厭な子供や老人、彼女、家などにまつわるエピソードが独特の筆致で描かれている訳だが、後味は思ったほど悪くない。
ただなんとなく不安定な余韻を残すため、どんよりしているのである。
最終話ではちょっと意外な展開で、あるミステリ的手法が取られていて、個人的にはもっとも面白かった。

No.6 6点 巷説百物語- 京極夏彦 2010/07/25 23:30
読み始めた時は「おおっ、これは」と確かな手応えを感じたのだが、そのワクワク感は第一話に留まってしまった。
時代小説風の文体には違和感を覚える事はなかったが、どうも何か物足りなさを感じた。
これも期待の裏返しなのかも。

No.5 6点 狂骨の夢- 京極夏彦 2010/07/06 23:38
百鬼夜行シリーズの中でも幻想色の濃い一作。
宗教に対するアプローチは、「鉄鼠の檻」よりも私には難解に感じられた。
それだけ読み難い印象なのである。
文体が私にはあまり合っていなかったせいもあるが、世間の評価が高いのはやや意外だった気もする。

No.4 4点 陰摩羅鬼の瑕- 京極夏彦 2010/06/06 22:23
断っておくが私は京極夏彦氏のファンである。
しかし、本作に関してはどう考えても高評価は与えられない。
犯人は最初から分かっているし、ミステリ的な仕掛けもない。
犯行の動機がくどいほど繰り返し説明されるのもマイナス要因にしかならない。
唯一、見所は関口と横溝正史氏との邂逅であろう。
もう少しコンパクトにまとめられていれば、評価も変わったかもしれないが・・・無駄に長くした為、逆に中身が薄っぺらになっている気がしてならない。
この点数は大きかった期待の裏返しだと思っていただきたい。

No.3 9点 姑獲鳥の夏- 京極夏彦 2010/06/02 00:39
初版が刊行されると同時に読んだのだが、あの夏は一生忘れないだろう。
書店に平積みされていた時点で、この小説には明らかにこれまでに経験した事のないオーラを感じたし、新たな時代の到来を予感させるに十分な装丁を纏っていたように思う。
ただし本作にトリックはない。
見えるとか見えないとか、トリックだと思うから腹が立つのであって、エンターテインメントと割り切れば瑣末な問題だと気付くであろう。
純粋なミステリでないのでマイナス1点。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1837件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(26)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(19)
中山七里(19)
日日日(18)
森博嗣(17)