皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
江守森江さん |
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平均点: 5.00点 | 書評数: 1256件 |
No.576 | 6点 | 生ける屍の死- 山口雅也 | 2010/01/10 11:00 |
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「生ける屍」の存在する特殊なルール下での本格ミステリで、特殊設定ミステリの先駆けにして金字塔的作品(あくまで世間的評価)であり、新本格を語るにはスルー出来ない作品の一つなのは間違いない。
解決編での伏線の回収の手際やエピローグも素晴らしい。 その一方で、人物紹介、設定状況の説明、死に対する哲学・宗教とその蘊蓄を長々と読まされる第一部は、伏線が張られ読み飛ばせずナカナカ読み進まない。 カタカナ名前な多数の登場人物、詰め込み過ぎと思えるボリューム、宗教的関心が薄い(葬式仏教徒)人間に「聖書の引用」等で、修行の如き苦痛を伴う読書になった。 娯楽としてミステリをファジーに楽しみたい私にはキツく、その点で読者を選ぶ作品でもある。 ※採点は、読み進む苦痛と読み切った満足感を相殺した。 |
No.575 | 6点 | Another- 綾辻行人 | 2010/01/09 21:46 |
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無駄にボリュームがあるが抜群なリーダビリティで補いサラッと読了出来る。
その一方で、ホラーとしてスカスカなスポンジ的読書になってしまう。 そんな事は、本格ミステリの書評には何ら関係ない(純然たるホラーは私的ミステリーマップの範疇に存在しない) ホラー設定な特殊ルール下でのミステリで、パート1での何が?何故?、パート2での対策?までは推理より想像の世界で、解答の提示もアッサリしている。 よって唯一本格ミステリとしては「死者は誰か?」に尽きる。 ※注意 ここからネタバレになります! 学校の「内外」2つの世界の境界線をズラした犯人隠蔽の技法は作者の真骨頂と云えるデキで、一部ファンの絶賛も納得。 しかし、作者の作品傾向を知って読めば、あからさまな伏線や「姓と名」をキッチリ明記しない人物の存在から察せてしまう。 また、伏線の回収は見事だが、ホラー色を纏わせた為に論理的に解決に至る訳ではない。 よって本格ミステリとしては水準レベルやや上の評価とした。 ※余談 作品は成立しなくなるが、現実世界でこれだけ死亡事件が頻発したら2クラスしか作らないとか、3組は欠番にするとか、中学校その物を統廃合するとかの抜本的な対応がなされるだろう! ※更に余談 超絶技巧を工夫してアニメ化出来るならメイの声を是非とも林原めぐみさんにやって貰いたい!! |
No.574 | 7点 | カラスの親指- 道尾秀介 | 2010/01/06 10:49 |
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緩いコン・ゲーム小説で海外ドラマ「華麗なるペテン師たち」を伊坂幸太郎がノベライズにした様な雰囲気で、楽しく読めるが作者らしからぬ凡作か?と最終章手前まで読み進む。
しかし、そこは道尾作品、一筋縄ではなく凡作の雰囲気(緩さ・御都合主義)や細かいタネ明かしもドンデン返しの効果的なミスリードになっている。 惜しむらくは、作者の作風が‘この手’に偏り、道尾作品を初読でなければ、最終章手前まで放置された儘の鍵となる人物の存在から、少なくともドンデン返しがある事は察せて驚きは薄い(察しが良ければ作者の狙いにも到達する) それでも、最終章での濃密な伏線解説は、本格ミステリとしても読み応え充分で満足出来る。 読後感の良い大団円は好みだが、ドンデン返しによりタケさんの娘の死亡(出火)原因も反転し(行動原理の根幹である謎だけに)タケさんが放置する結末にモヤモヤが残る。 楽しい読書と細かな不満を相殺して「ラットマン」と同点にした。 |
No.573 | 6点 | シャーロック・ホームズの冒険- アーサー・コナン・ドイル | 2010/01/03 22:23 |
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翻訳物の読み難さを体現している。
こんなのから翻訳本を読み始めたら高確率で翻訳アレルギーになる。 ミステリーへの入口として小学生の頃に子供向けで読むか、私みたくドラマ版から入る方が取っつき易い。 それでも、映像で内容を知っていながら一番読み進まなかった作品ではないだろうか。 敢えて、書評サイトである事を承知で言わせてもらうならグラナダ版(特に露口・長門コンビの吹き替え)のドラマを観るだけなのが一番満足度が高い気がする。 ※余談 因みに、ドラマの人気投票一位は「赤髪連盟」だった。 ※採点は古典的価値で翻訳の読み難さを相殺した。 |
No.572 | 6点 | 七つの時計- アガサ・クリスティー | 2010/01/03 20:38 |
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ポアロもマープルも登場しない青春冒険活劇だが、スパイ擬きな犯人だけでなく、正体不明な組織セブン・ダイヤルズ・クラブの七時(首領)当てと楽しみが2つある。
特にクラブと七時の正体はクリスティーらしい意外さで楽しい。 青春ドタバタ風味なドラマも楽しく観れる作品に仕上がっているので、其方から先に入っても良い。 |
No.571 | 4点 | なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?- アガサ・クリスティー | 2010/01/03 20:17 |
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どこかの書評で名だたる翻訳者達が当時の英国に精通していない為にクリスティー作品には誤訳が多々あると指摘されていた。
そして、この作品が例に挙げられていたので野次馬根性で、その書評と首っ引きで読んでみた。 更に、やや間延びした長編ドラマも観た。 ミステリー要素のある冒険活劇で、ポアロもマープルも登場しないので上記以外はイマイチだった。 特にタイトルからも鍵になるエヴァンズが何者か?が結末近くまで提示されず読者には推理出来ずに残念と思える。 |
No.570 | 4点 | パディントン発4時50分- アガサ・クリスティー | 2010/01/01 04:54 |
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先の方も書いているがタイトルからは列車物のアリバイ崩し作品を連想する。
列車で事件を目撃し、時刻表から列車の通過場所を特定するのでタイトル通りな作品ではある。 しかし、後半の屋敷物に変化してからは、ミス・マープルと少年探偵団的な趣以外は読み所がない凡作だった。 小説はポアロ物に比べマープル物は今一つな印象だが、映像でのヒクソンはスーシェに勝るとも劣らないので(AXNミステリーで)ドラマを観る事を勧める。 |
No.569 | 7点 | うまや怪談- 愛川晶 | 2009/12/28 06:01 |
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新解釈落語ミステリの第3弾で連作3編を収録。
落語のサゲとミステリのオチは似ているだけでなく相性も良い。 しかも、マジックと違い最後にネタバラシで終わるのでスッキリした読書が楽しめる。 さて本作だが、3編共に事件らしい事件は無く、主人公周辺での「騒動の真相」を落語の新解釈と合わせて解き明かす気付きの本格ミステリ。 シリーズとして話が進展かつ安定し、事件が起こる前に対応したり、探偵役の輪廻などミステリとして工夫されている。 その反面、落語の新解釈に力を注ぎ過ぎな感も否めず、作品で扱う落語の元ネタ程度は観るなり聴くなりしていないと楽しさが半減する弊害が生じた。 ※本シリーズをより楽しむ為に! 図書館の落語ビデオやTBS「落語研究会」NHK「日本の話芸」なんかで古典落語に馴染んでは如何だろう。 |
No.568 | 4点 | 四万人の目撃者- 有馬頼義 | 2009/12/27 02:52 |
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「有馬・紅白・除夜の鐘」昭和世代には欠かせない年末の風物詩。
作者の父親を記念した「有馬記念」当日に書評する。 書かれた時代にはテレビ放送なんて無い。 四万人なら後楽園球場の巨人戦が超満員しか思い浮かばない。 そのプレー中にスター選手(全盛期の長嶋・王をイメージ)が死亡したらもっと大騒ぎな気がする。 野球好きな検事も暇なのか夜な夜なナイター観戦出来た時代なのか? 作者も野球小説と語った様に、推理小説部分が地味な捜査とサスペンスな為に違う方面が気になる作品だった。 ※余談 五冠馬シンザン登場以前に書かれているので競馬の大衆化、ましてや有馬記念が十五万人以上の観衆を集める売上世界一のレースになるとは作者も思わなかったのだろうが、十五万観衆を目撃者に有馬記念のレース中にスター騎手(武邦彦〈武豊の父〉をイメージ)が死亡する設定(トリックは転用可能)で書かれていたら日本競馬が続く限り後世に語り継がれただろう。 |
No.567 | 6点 | 四捨五入殺人事件- 井上ひさし | 2009/12/26 05:20 |
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大衆文学の巨匠の最初にして最後の本格ミステリ!(*これも前フリ)
何世代にもわたる怨念がある村。 招待された二人の作家が、その村に閉ざされ連続殺人が起こるコード型本格の装い。 更に、クリスティー「オリエント急行」のネタバラシを捨て駒にして、当時の農業政策を批判した社会派にも変貌する。 ※未読な方への助言 埋もれた作品であり、ある点を除いて探してまで読む程の傑作ではない。 ※注意! ここから激しくネタバレします! 終わってみれば数多ある芝居オチ作品なのだが、上記の前フリが効果的に作用し脱力を齎し、最後に明かされる‘お遊び’からも作品の方向性は完全にバカミスだろう。 そして、書かれた時期からバカミスの原点と考えられる。 本職の推理作家ではないから出来たのだろうが、この方向性を打ち立てた事を評価したい。 |
No.566 | 8点 | 超・殺人事件―推理作家の苦悩- 東野圭吾 | 2009/12/20 06:38 |
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ある種のアンチ・ミステリで「天下一シリーズ」とは違う切り口の短編集。
この作品で二階堂黎人に喧嘩を売った?のが容疑者X論争の火種と思える「超長編~」 あと数年後の辻真先(先生ゴメンナサイ)を彷彿させる「超高齢~」 そして、書評家や「このサイト」にも喧嘩を売る「超読書~」 他の作品も皮肉タップリに粒ぞろい。 (まるで野村克也氏のボヤキを小説にした如くで)今まで読んだ東野圭吾作品では断トツに面白い。 皮肉系エンターテインメントの最高峰と断言したい。 ※ショヒョックス&シッタカブリックス(私の目指すファジーな読書に最適)を一台づつ購入してみたいと思ったのは私だけだろうか!! 特に「おべんちゃらモード」と「酷評モード」での同一作品書評を読み比べてみたい。 |
No.565 | 4点 | メビウスの殺人- 我孫子武丸 | 2009/12/19 22:00 |
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8とメビウスは発表時に読み0は未読だった事にシリーズ三作を読み返して気づいた。
初読時にはカタルシスの得られないオチにガッカリ感だけが残ったが、今回「殺戮〜」を読んだ後の再読だったので違った楽しみはあった。 それでもミステリーとしては褒められた物ではない。 シリーズとして新キャラのオニジマさんを加えて味が出てきた所で放置はどうなんだろう。 恭三とオニジマさんが結ばれるハッピーエンドは読者が勝手に想像しろと言う事なのだろうか? 文庫の表紙イラストの恭三が髪の薄い所まで柔道の元全日本監督・斉藤仁に似ていて笑える。 |
No.564 | 4点 | 0の殺人- 我孫子武丸 | 2009/12/19 08:40 |
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前作と違いドタバタからユーモアに・・・・・成長した気がする。
タイトルに集約された作品として素晴らしいと褒めるべきなのだろうか? 真相に強い脱力感はあったが、ユーモアでボカされ「一流のバカミスだ!」と絶賛したくもない。 前作を読んでいる事を前提にした各所のミスリードはシリーズ物として良いと思う。 私的には、単なる次作への通過点。 |
No.563 | 4点 | プリズン・トリック- 遠藤武文 | 2009/12/18 23:33 |
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本の帯での東野圭吾のコメントに騙されたの声&2chで本年度クズミス・ダメミス大賞候補の声に、怖いもの見たさで読んだ。
細かな叙述を仕込む為、やたらと視点人物が替わり、本編での主人公が存在しないストーリー展開で、読み進まなさ加減は如何ともし難い。 (一度やってみたい作者の気持ちは理解できるのだが)最後の一撃(一行)は、途中で察せて驚けない、本編(事件)の内容と整合性を欠く、の2点で不要だと思う(時間をかけて加筆修正し整合性を保つ方法も可) 本格部分を(変更した)タイトルでもある、刑務所内での不可能犯罪ハウダニット(此方は刑務所内のネチっこい描写を伏線に合格点)に絞った社会派推理小説でスッキリ纏めていたら(一部の間とはいえ)ここまで酷評されなかっただろう。 もっとも、作者には書評での賞賛より乱歩賞受賞に意味がある・・・。 スピリットの空回りが何とも惜しい。 ※私的見解では、読み難いがクズミス・ダメミスではない。 |
No.562 | 3点 | あんだら先生とジャンジャラ探偵団- 田中啓文 | 2009/12/17 02:25 |
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何やら息子が図書館から借りて来たので親子のコミュニケーションの為に息子の読了後に読んでみた。
息子も梅寿シリーズが好きなので、同じ作家だからと借りて来た模様だが、その息子をしてハズレを引いたとの感想だった。 作者初の児童向けドタバタ・ミステリーだが失敗作だろう。 作者はミステリーに関して本当に当たり外れが激しい。 |
No.561 | 4点 | このミステリーがすごい!2010年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2009/12/17 01:54 |
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近隣の書店では平台に山積み+「このミス」コーナーまであった。
一方で、先日、平台に数冊あった「早ミス」「本ミス」は棚に一冊づつ残されただけ。 ランキングの内容なんか関係なく書店にとっての宣伝効果は「このミス」の圧勝なのだな~と、なかば呆れてしまった。 短編のページが増えて、ランキングと隠し玉は立ち読み、短編は図書館待ちの二度手間になる(海堂尊とバクシンオーは好きだけど面倒くさい) 短編なんか無くても買う人は買うので短編を排除して三百円ででも発売したらよいかも。 私的には、ミステリーの各種ランキングは2chの書き込みで侃々諤々しているのをネタとして見る楽しみの為にある。 ※ランキングの感想を少し(国内限定) 不作と思える年度には東野圭吾のネームバリューは圧倒的に強い。 好きな作家だが米澤穂信の対象作品はやや過大評価だろう。 ※水増しされた短編に嫌みを込めて+1点。 |
No.560 | 6点 | 殺戮にいたる病- 我孫子武丸 | 2009/12/16 07:22 |
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倒叙物のサイコホラーに見せかけ、グロまみれにして一発大技を隠蔽した叙述ミステリ。
大技一本に専心した潔さは賞賛できるが、逆に言えばソレ以外はミステリではない。 3視点から描くプロットで仕掛けを上手く隠蔽しているが(ホラーやグロに不感症な為)潜ませた伏線部分の違和感から狙いを察してしまった。 加えて、仕掛けの為か設定に所々無理を感じた。 しかし、母親視点での息子に対する感情なんかコメディを読む感覚で楽しめる。 結末のサイコな部分で家族の在り方も考えさせられた。 ※余談 この作品なら役者を選べば叙述部分も映像化が可能ではないかと読みながら想像した。 |
No.559 | 7点 | 探偵小説のためのインヴェンション「金剋木」- 古野まほろ | 2009/12/15 02:00 |
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一部熱狂的ファンには読み所である妄想&カルタ対決を排除しスッキリ仕上がった(少し物足りない感もある)
毎回趣向を変えて楽しませてくれるシリーズだが、今回は特殊にルール設定された世界での事件で、西澤のSFミステリ的な作品になった。 読み飛ばしたくなる一見どうでもよさげな記述に推理の鍵を潜ませ、そのピースをロジカルに組み立てて紐解くフーダニットは相変わらず素晴らしく、最近の作家ではピカイチだと思っている。 現在、私的な本格ミステリ嗜好を一番体現しており、手放しで褒め満点にしたい気は山々だが、このシリーズには毎回何がしかの弱点があり一歩及ばない。 今回でも、少々ルール運用がファジーで、シンプルかつ厳格な運用でロジック展開して欲しかった。 作者自ら探偵役にフーダニットに特化していると宣言させている様にハウダニットが毎度チープなのはご愛嬌。 デビュー作が分厚い壁になり敬遠されているのが誠に惜しい。 |
No.558 | 7点 | 卍の殺人- 今邑彩 | 2009/12/14 15:38 |
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鮎川哲也と十三の謎(実質的には初回の鮎川哲也賞)選考作品。
ダミー推理を捨て駒に伏線を潜ませた前半と安楽椅子探偵が真相を反転させる後半の二段構えになっている。 ※一部の方々にはネタバレになります。 真相のドンデン返し&フーダニットが、まんま安吾「不○○殺人事件」なのは褒められない(選評の3氏が触れていないのはネタバレに配慮してなのか?) その一方で、卍館をトリックに活かした事と伏線の回収は鮎川哲也と銘打った選考作品に相応しい。 デビュー作から纏め方が上手くインパクトが薄い作者の傾向が滲み出ている。 採点は水準やや上の6点にした。 ※巻末にある鮎川御大の選評が楽しく+1点(←依井「記念樹」でも読んだ朧気な記憶がある) |
No.557 | 4点 | 思い通りにエンドマーク- 斎藤肇 | 2009/12/14 10:05 |
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新本格ムーブメント初期にデビューした作家の一人でデビュー作。
舞台設定、提示される謎、変種な読者挑戦「作者への挑戦状」等、コード型本格の体裁で、そのままロジック一本で直球勝負なら嗜好のド真ん中だったが・・・・・。 挑戦状を挟む事で前半の探偵役の推理を否定しドンデン返しをしている。 しかし、論理的に前半のダミー推理は否定されない。 アンチ・ミステリ的でスッキリした論理的帰結を得られず好きになれない。 本来なら3点だが、名探偵?な下宿のおばさんに+1点。 |