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臣さん
平均点: 5.91点 書評数: 664件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.524 6点 曲った蝶番- ジョン・ディクスン・カー 2016/12/16 10:12
ふたりのジョン卿の人物真偽をめぐる争いで惹きつける冒頭部分は、よくできています。そしてその後に起こる事件。突然の発生でしたが、被害者が意外な人物だったので驚きました。ここまでの前半部は絶品です。タイタニック号の沈没事故が背景にあるのにも魅かれます。
もちろん、その後の怪奇趣味絡みの展開、そして怒涛の後半のサスペンスと解決にも心躍らされます。

読む前からタイトルに関心がありました。
「蝶番」。工務店絡み?それとも日曜大工?
蝶番―>開き戸―>居室―>密室殺人、と安易な発想をしていましたが、表紙の絵を見なおすと、いやこれは密室ではないのかと、また考えなおしたりして、結局は・・・
間違いなくトリックに関わるとは思っていましたが、はたして・・・

楽しめる要素はてんこ盛り。地味なタイトル、真偽争い、オカルト、トリック、そして真相。
真相と背景との結びつけ方がやや弱い気がしますが、全体としての物語性は抜群でしょう。

No.523 6点 恋文- 連城三紀彦 2016/12/07 14:14
歪んだ情愛系・ミステリーもどき作品集。

『恋文』タイトルだけがミステリーか?ごくフツーの出来だった。
『紅き唇』ちょっと良い話。ちょっとミステリー。悪くはない。
『十三年目の子守唄』愚痴っぽい独白スタイルが利いている。連城らしくない感もあるが、反転は連城らしい。これがベストだが本編だけが浮いている。
『ピエロ』こういう夫婦がいてもいいが、それがどうしたという感じ。そもそも共感できない。もっと強烈なオチをつけてくれればいいのだが。
『私の叔父さん』大叔父と姪孫(まためい)の関係だけでも興味深いのに、さらにちょっとした背景があるから、なおおもしろい。締めくくり方はすこし透け気味。話としては好みだが、後半がクサい。それに最後の数行は俗っぽくて好みではない。

以上、短編らしい短編、5編。
切れ味するどいとまではいかないが、十分に楽しめた。著者の数々のミステリー名編とくらべて遜色なし。ミステリー性が低くても問題ない。
が、得られる喜びは刹那的で、読後何も残らない。話の筋は読後10分で忘れてしまいそう。

No.522 6点 僧正殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2016/11/30 19:04
見立てはしっくりきません。意味不明という気がしてなりません。そもそも見立て殺人というジャンル自体、一般的にそう言えることかもしれませんが・・・
『グリーン家』とは、ひと味もふた味も違います。どちらがいいかは判断しがたし。

登場人物は比較的多数ですが、わかりやすく書いてあります。
それに、何人もの人が死んで容疑者が減っていっても、すぐに犯人にたどり着かないようにうまく作ってあります。
蘊蓄の適度なちりばめ方も、読みやすくていい印象を受けます。

登場人物たちの職種もよし、アーチェリーもよし、チェスもよし。
動機がイマイチ、というかなぜそこまでするのか、という滅茶苦茶感もよし。
陰湿な内容になりそうなのに、それほど暗くないのもよし。
サイコ系にできそうなのに、すこしゆるみがちなサスペンスもよし。はっきりいってスリルは感じられないが、このジャンルでは逆にそこを気に入ったりもしています。
そして、どんでん返しもよし。犯人はなんとなく想像できましたが、決着のつけ方の工夫には感心し、なぜか新鮮に感じました。

とにかく、人物よし、蘊蓄よし、ラストよし、そしてなんとなくのアンバランス感もよしの好作品でした。

No.521 6点 読み出したら止まらない! 海外ミステリー マストリード100 - 事典・ガイド 2016/11/24 10:55
絶版作品を入れていないというのはいい。
1作あたりの書評ページ数が限られたガイドブックであるとはいえ、その1作から派生させて同じ作家の他の作品が少しだけ紹介してあるのもよい。

ひとりの書評家(杉江松恋氏)が選んだベスト100なので、絶版になっていないがこれは名作と思われる作品が掲載されていないと、プロの書評家でさえ評価がそれぞれなのだと安心もするが、なんでこれがないのかと残念な気にもなる。
もちろん、個人的に面白くないと思っていた作品も選ばれていた。本サイトで、評価は人それぞれということがわかっていたから、特段の驚きはなかった。

海外作品を数多く読んでいないので、書評を読みながら、よしつぎはこれを読もうという気持ちになることはもちろんある。でも、最近では特定の書評をあてにしたくないという気持ちもあるから、むしろ既読作品について、そのとおりだとか、それはちがうだろうとか、そんなふうに思いながら読むことで楽しめた。

No.520 4点 鞆の浦殺人事件- 内田康夫 2016/11/16 17:08
本作では序盤に、作家・内田康夫がいつも以上に、中心人物であるかのごとく多くのページに登場しています。後半には浅見が内田の作品を評する場面もあります。
意外な人物を犯人にすることはあっても、インチキ同然の露骨なひっかけをしない、いい人間と悪い人間とを色分けする、などと浅見が内田作品を評しています。
これは浅見の言葉を借りて自身をほめているように聞こえます。本作の後半、イマイチかなと感じ始めたころだったので、凝った作りにしないことの言い訳にも聞こえました。

ということで評価は当然高くありません。終盤が駆け足すぎです。浅見の推理が出来すぎということなのか。
舞台が福山市の鞆の浦から、東野氏の『真夏の方程式』の玻璃ヶ浦を連想したこともあって、期待したのですけどね。
福山の「N鉄鋼」はあからさまです。これほどわかりやすいと悪く書けないから、企業絡みの社会派ミステリーとしても中途半端な感があります。

序盤から中盤にかけての、内田の登場、事件の発生、浅見の捜査の取りかかりぐらいまでは引きこまれます。テクニックは抜群です。中盤の捜査と終盤の謎解きに、もう少しページ数を割いてくれればという気がします。

No.519 6点 古本屋探偵登場- 紀田順一郎 2016/11/10 10:10
古本屋探偵シリーズ。『殺意の収集』と『書鬼』の中編2編が所収されている。
顧客が所望する古書を探し出すこと、つまり古書捜索が古書店探偵・須藤の職務である。

『殺意の収集』は、トリックもあり、それなりのラストが控えてもいるから、まずまずの出来ではあるが、謎解き対象が犯罪とはいえ日常の謎に近いものだから、緊迫感はない。
しかも古書がらみの話なので派手さはゼロといっていい。ビブリア古書堂シリーズのように登場人物に華があればよいが、それもなくキャラクタ的に見て魅力に欠ける。

『書鬼』は、須藤だけでなく他の登場人物もおもしろく、魅力的に見えてきた。慣れただけなのだろうかw
須藤が探偵業としてではなく、自分の利益のために動こうとするのがおかしいが、納得もした。
登場人物だけではなく、ストーリー自体がサスペンスフルで読み応えがあった。長編にもできそうな内容である。

地味なことには抵抗があったが、古書の行方や来歴を探る、というミステリーにおける新たな発想を利用したことはすばらしいと思う。

No.518 7点 珈琲店タレーランの事件簿2- 岡崎琢磨 2016/11/08 09:33
ビブリア古書堂シリーズとくらべれば、蘊蓄が少ないためか、その分、謎解きが充実しているような気がする。しかもいろんな謎がてんこ盛り。

日常の謎と、安楽椅子モノとを融合させたような、まあ一言でいえば、やはり『ビブリア』と同類という定義づけか。
安楽椅子モノといっても、それだけではなく、後半は全編を貫くサイドストーリーがメイン寄りになってきて、探偵役の美星バリスタと妹の美空が中心人物になってくる。今回のアオヤマ君は傍観者かと思いきや、後半はキーマンになる。

短編ごとの細かな謎解きも楽しいが、長編としてのストーリーもなかなかうまく作り込んであり、自然にそちらのほうに入っていける。手がかりや伏線についても万全に仕込んであり、テクニック抜群の作家さんだなということがわかってきた。
珈琲や京都に関する蘊蓄がもう少しあればよいのではとも思うが、しつこすぎるよりはよいかもしれない。

No.517 5点 火刑法廷- ジョン・ディクスン・カー 2016/10/24 16:06
評価できるのは、どんでん返しだけ。
いやいやそんなことはない。あれがなくても十分にオモシロ要素はある。まあでも、あのラストがあればなおよいことは事実。

舞台設定よし、人物設定もよし、会話もよし、トリックもよし、オカルト要素もよし、伏線もよし、そしてあのエピローグもよしなのだが、とはいうものの個人的には、調子に乗り切れなかったことも事実。
カーの最高傑作ということで気負いすぎたか。
あえて言うなら、あの2つの謎の種明かしが物足りなかったのかなあ。

No.516 6点 臨床真理- 柚月裕子 2016/10/07 09:30
臨床心理士の美帆が、担当の統合失調症患者である司の友人、彩の死の真相を追う展開。

美帆は司を救い守るため、そして自分の仕事をとことん全うするため、体を張って行動する根性のある女性です。女性版ハードボイルドといってもいいぐらいでしょう。
それほど強さが感じられなかった序盤とくらべれば、徐々にたくましく変化していく過程には魅かれます。大げさな言い方ですが美帆の成長物語ともいえます。
そして美帆だけでなく、司や、美帆の友人である警察官の栗原も彼女とともに変化していくところにも好印象が持てます。

アマゾンでは先が読めるとか、意外性がないとか酷評を受けていますが、あくまでもミステリー性が弱いだけで、エンタテイメント作品としては上出来だと思います。正統派ノンストップ・サスペンスといったところでしょうか。

No.515 7点 弁護側の証人- 小泉喜美子 2016/10/01 12:15
長編第1作にしては、あまりにも大胆で、あまりにも技巧的で、あまりにも伏線がうますぎる。
だからといって滅茶苦茶おもしろいかというと、そうでもない。叙述を極めようとするあまり、物語性に悪影響をおよぼしているのだろう。
やはりミステリー小説は、どんでん返しで驚かされるだけではなくて、中途のストーリー性で引きこんでくれないと。

クリスティーの『検察側の証人』にタイトルだけでなく、構図を似せたところがある。〇〇系としてはそれこそが肝なのだが、そこまでする必要があったのか。すこし苦しいような気がする。なんとしても、完璧を期したかったのだろうか。やはりタイトルがまずいのか。

そんなことよりも物語の雰囲気と構成がじつは大好き。作中にも引用されている『レベッカ』を意識しているのではないかと思う。恥ずかしながら原作は未読で、ヒッチコックの超大作を観ただけだが、本作がゴシック・ロマンというほどではないにしろ、暗さの質に共通点があるように思う。最後に場面をがらりと変えてあるところも似ている。

と、欠点と長所が入り乱れるが、やはりうまさが目立つので、評価は中の上か、上の下ぐらいか。

No.514 5点 スタイルズ荘の怪事件- アガサ・クリスティー 2016/09/22 13:33
記念すべきデビュー作。
ポアロシリーズの第1作でもあり、本作ですでにヘイスティングズが登場している。しかも、このヘイスティングズがなんともいえない良い味を出している。

意外な犯人モノで、読者に対するミスリードは心憎いほど巧みです。クリスティーらしさは全開です。
これは作者の技量にはちがいありませんが、他の名作群にくらべると、テクニック抜群という感じではなく、なんとなくの巧さによるもののようです。

文章が拙いという評者の方がおられましたが、たしかにそのとおりで、本作に限らずクリスティーはそもそも文章が巧くないのかもしれません。それに人物造形だってイマイチというところがあるように思います。
でも、ミステリー性とのバランスが抜群です。というか、文章や人物造形のマイナスポイントがミステリー要素を引き立てているようです。

No.513 6点 アリバイ崩し- 鮎川哲也 2016/09/09 10:27
5編とも、どうやってアリバイを崩すかに注力している。まさにタイトルどおり。
ただし、フーダニットという観点ではほとんど魅力なし。
個別には、4編目の『霧の湖』のラストの解決手段には拍手をおくりたい。短編らしくうまくまとめてある。
最終編の『夜の疑惑』は中編といってよく、プロットもそれなりに練られストーリーは変転がある。人物もそれなりに描かれている。ラストの落ちは仰天物ではあるが、短編レベルのあっけなさもあった。もっとページ数を割いてしっかりとした謎解き物にできそうにも思うが、これもまたよしだろう。

アリバイトリックは個人的には好みだが、一般的には地味で、いまではメイントリックとしてはあまり使われない。本書のような短編ミステリだからこそ生きる技だろう。
本書はエッセイが2編プラスされている。わずかだがお楽しみ度アップか?

No.512 8点 夜歩く- 横溝正史 2016/08/30 09:53
ミステリー性も十分、物語性も十分。
制作時期は1948,9年。名作群『本陣』『八つ墓村』『獄門島』『犬神家』『悪魔』などとおおむね同じ、脂ののったころ(1945年~1960年)に書かれています。
良作かと思いますが、やや印象が薄いのは、金田一の登場が遅く、事件周辺の(一人称の私を含む)関係者たちが主人公に見えてしまうからなのかもしれません。

事件が起こるまで多くのページが割かれていますが、その部分のサスペンスは申し分なしです。その前半で関係者の人物像を、種々の事象を交えながら描写し進めていく流れは、そこだけ読んでいても楽しめます。
そして、後半(特に金田一登場後)、登場人物だけを見れば前後で何も変わりませんが、舞台をがらりと変えたのは、読者を飽きさせない絶妙な(ある意味安直な)ワザだと思います。これぞ、ストーリーテラー・横溝という感じがします。

最大に評価できるのは、アリバイトリックやあの真相を含む本格色全般でしょう。あれだけあれば上記作品群に決して負けていません。ただ、いろんな意味で問題や疑問点のある作品ではありますが。

No.511 7点 オランダ靴の秘密- エラリイ・クイーン 2016/08/19 13:44
国名シリーズ第3作。
解決編はほんとうに素晴らしい。
一つ一つの事象、事実から論理的に解答を出し、事件を解決へと導いてゆく。個々のロジックは単純で地味ですが、それらがまとまれば派手に見えてきます。
個人的には、つながりのある、ある2つの伏線がかなり気に入っています。読者に気づかれても当たり前のような単純なものですが、美しさを感じます。

ただ、『フランス白粉』もそうでしたが、読者への挑戦状までのストーリーが一本調子です。
謎解きロジックを完璧にしようとするあまり、人を惹きつけるような話の流れを構築することに気が回らなかったのでしょうか。
本作後の国名シリーズは読んでいませんが、すくなくとも『X』や『Y』などのドルリイ・レーンシリーズは、もっと起伏に富んでいて、小説として絶賛できるような内容でした。

ということで、謎解きはすごいけど、物語としての面白味にやや欠ける、というのが最終評価です。
蟷螂の斧さんが紹介されているように、本作が本サイトでは高得点(現在、7.9)ながらも、東西ミステリーベスト100では(圏外)であることに納得です。
小説として万人向きではない、商業的にも成功し得ない、だから本書のような作品は今後、残念ながら出てこないのではと思います。

No.510 5点 仮面病棟- 知念実希人 2016/08/08 09:42
ピエロの仮面をつけ拳銃を持った強盗犯による立てこもりが、夜間の病院で発生。
院内に監禁されているのは、急きょ当直となった医師・速水、傷を負った若い女性、院長、女性看護師2名の計5名と、大勢の入院患者たち。

閉鎖空間で人質たちに襲い掛かってくる恐怖。夜が明けるまで、というタイムリミットサスペンス物でもある。
一気読み必至、というのはたしかにそのとおり。
場面がほとんど病棟の中なので退屈しそうだが、院内で発生するいろんな事象、事件をつなぎ合わせて読者を惹きつけようとするテクニックは抜群です。
登場人物が少なく、読者が人物で混乱することはなく、読みやすいのもよい。

作者は、どんでん返し一本で決めたかったのか、病院自体が怪しいことは初めのうちに自白しているし、裏の解説や『仮面病棟』というタイトルでもばらしてしまっている。
これは少しもったいない。少し引っ張ればいいのに、と思うのは素人考えなのか。タイトルがこのままでも、ピエロの「仮面」というミスリードも成り立つのになあ。
でもこれを隠せばちがった筋の話になってしまうのかなあ。
なお、みなさんもご指摘のように予想しやすいラストでした。

まずまずの出来だが、まだまだとも言える、そんな作品でした。

No.509 7点 真夏の方程式- 東野圭吾 2016/08/04 09:35
さすがの安定感。安心して読める。この作家さんの作品は、ほんとうにはずれがない。

湯川は玻璃ヶ浦滞在中に事件に遭遇する。被害者は元警視庁の刑事。
まず玻璃ヶ浦で知り合った少年・恭平との深交に魅かれた。子ども嫌いらしさゆえの恭平への接し方が自然でよかった。夏らしさもよかった。
一方の恭平は視点人物の一人。その心情、心境はやや子どもらしさに欠けるのでは、と思っていたが、案外こんなものだろう。むしろ小説のテーマに合っているようにも思う。

湯川、草薙の個別の捜査活動によって、徐々にあきらかになっていく事件の真相と背景。過去の人間関係がキーになるのはありがちだが、その流れと物語の組み立て方がうまい。犯人当てはどうでもよいと思っていたら・・・
そして、最後に魅せる適度なヒューマニズム。
湯川が大学の先生じゃなく、小学校の教師に見えた。

トリックは湯川物らしさがある。小学生レベルの理系トリックだが、かなり気に入っている。

個人の評価基準に照らせば6点だが、『容疑者X』よりも好きなので、この点数。

No.508 4点 シャーロック・ホームズ最後の挨拶- アーサー・コナン・ドイル 2016/07/28 10:04
どの作品も物語として退屈で、捻りもほとんどない。

突然、依頼が持ち込まれ、ホームズはすぐに現地に赴き、あっという間に奇想な話に急展開したり、とんでもない方向に進んだりする。
また、『緋色の研究』みたいに、主たる人物の過去の因縁話に及び、そして結びへと突き進む。

2,3の作品は、こんなホームズ物らしい定番の展開なので、安心感があっていいのだが・・・。
それでもせいぜい5,6点レベル。
全体としては『冒険』の1/3程度の面白さか。

ひとことで言えばネタ切れ。作者からすれば、ネタ切れではなく方向性を変えただけかもしれないが、今までが今までなので、読者にしてみれば期待を裏切られた感は当然ある。
まあ先入観なしに読めば多少は楽しめたのかもしれない。

No.507 5点 迷宮- 中村文則 2016/07/22 09:51
売り出し中の若手作家さんなので読んでみた。
過去に、ある一家で起きた密室殺人事件「折鶴事件」の解明がテーマになっている。その生き残り女性と付き合っている若い男が主人公であり語り手である。
殺人事件を扱い、探偵や弁護士が登場するから、ふつうに考えればミステリーなのだが、やはり純文学がベースの代物だった。
一人称スタイルだから、語り手のことが気に入らなければ(というかよく理解できん)、入り込んでいきにくいし、テーマとなる殺人事件の背景もいかにも異常っぽい。だから、いろいろと楽しむための障壁があるのはたしか。エンタメ作品ではないから仕方ないか。

起伏も盛り上がりもほとんどない。ただ読みやすいだけ。それでも、後半、事件の核心に迫り、さらに主人公が種々想像していくところは楽しめた。すっきりとした解決とはいえないが、これでもいちおうはクライマックスとはいえる。

著者の作品は英訳版も出版されているとのことだが、こういう作家さんが世界中で読まれて、ノーベル賞候補になったりするのだろうか??

No.506 5点 紫雲の怪- ロバート・ファン・ヒューリック 2016/07/13 09:49
「首なし死体事件」が当然ながら主たる謎なのでしょうが、その事件と、「黄金盗難事件」や「謎めいた女の伝言」と、どう絡まっていくのか、そこがポイントです。
nukkamさんが書かれているように、読みやすいけど複雑という表現はまさにそのとおりでしょう。
ただ、さらっと読めば、あれっ、どうつながるの、というふうに思えてきます。「首なし」がメインだと思っていたら、次第に「黄金盗難」のことばかりになり・・・、う~ん、わからん、という感じにもなります。
作者が渾身の力をこめて書いたことは想像できますが、わかりにくくしすぎたという気がしないでもありません。
副官マーロンの活躍には目を引かれ、怪奇色にぞくぞくしましたが、自身で謎解きするには手に負えなくて、中途で思考が散漫になりました。

No.505 6点 アナザーフェイス- 堂場瞬一 2016/07/04 10:37
主人公は警視庁、刑事総務課の大友鉄。2年前に妻を亡くし、小2の息子と二人暮らし。子育てのために現職に異動を申し出た経緯がある。
その彼が元上司に呼び出され、少年誘拐事件の捜査を応援することとなる。

主人公にクセはほとんどない。みなが安心するタイプだが、すべてが地ではなく、半分ぐらいは芝居で培った演技による。人たらしのような能力だが、ずるさはない。根っからの善人というわけでもないが、正義感はもちろんある。
ハンサムという点をのぞけば、主人公としては中途半端なタイプだった。
こんなふつうの人物を主人公にしてシリーズ化するのはむつかしいはず。それに挑戦したシリーズというか。自信があったのだろう。

ミステリーとしては、トリックらしきものはなく最後のどんでん返しだけが楽しめる要素だが、それも中盤でなんとなく読めてしまう。伏線が多すぎるのでは?
まあ、大友のキャラと捜査の過程を味わえば十分という内容だった。経験したことがないほどの読みやすさにも拍手。
100冊執筆ということで、最近書店でにぎわっていた作家だが、デビュー20年にもならずこの著作数だから、何でもさらっと書ける作家なのだろう。読み手もそれにおうじて、かるく読めばいい。

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臣さん
ひとこと
あいかわらず読書のペースが遅い。かといってじっくり読んでいるわけではない。
好きな作家
採点傾向
平均点: 5.91点   採点数: 664件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(15)
アガサ・クリスティー(12)
松本清張(12)
横溝正史(12)
東野圭吾(12)
今野敏(11)
アーサー・コナン・ドイル(11)
連城三紀彦(10)
内田康夫(9)
評論・エッセイ(9)