皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
臣さん |
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平均点: 5.91点 | 書評数: 666件 |
No.206 | 7点 | ガラスの鍵- ダシール・ハメット | 2011/03/19 11:13 |
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主人公の賭博師ネッド・ボーモンドは、敵にさんざん痛めつけられ、肉体的にも精神的にも窮地に追いやられるほどだから、それほどタフでもなく強くもない人物のようにも見えます。でも、弱さをほとんど感じられないのは、博打で鍛えた持ち前の深い洞察力と、冷静沈着なる精神力とが弱さを打ち消しているからなのかもしれません。そもそも派手な立ち回りもすくなく総じて地味な話だから、弱い面が目立たないということもあるようですが。
本書には、ハードボイルドにありがちな小気味のよいセリフはあまりありません。むしろ含蓄のあるセリフが目立ちます。徹底した客観描写も特徴の1つで、これにより読みにくさを感じますが、それも魅力だと思います。読み手は文章を追いながら行間も楽しむことができます。おそらく二度三度、再読するうちに、さらに深い味わいが得られるのでしょう。 とにかく地味は地味なりの格調をそなえた小説でした。本書を二十歳ごろに読んでいても、たぶん良さはわからなかっただろうなと思います。 かつて観た、ボガードの「マルタの鷹」(評判の名作ですが私にはイマイチでした)や、少し前に読んだ「デイン家の呪い」とは打って変わっての好印象。もうハメットはやめておこうと思っていましたが、今回は読んでほんとうに良かったです。やはり代表作、人気作には当たるべきだということを痛感しました。 長編が5作しかなく残念ですが、でもその程度なら全作読めそうです。 |
No.205 | 7点 | 本陣殺人事件- 横溝正史 | 2011/03/07 12:38 |
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金田一初登場の歴史的作品。国内本格ミステリの指針となる作品でもあります。
でも理解できない箇所も多くあります。金田一の謎解き解説は、全体の短さに比べれば長めにページを割いていて、作者の意気込みが感じられますが、これを論理的解明というのでしょうか。やや飛躍ぎみかなとも感じました。 (以下ややネタバレ気味) 犯人と三本指の男との関わり方については、偶然性にたよったところがあり不満が残ります。機械トリックはまずまずといったところでしょうか。一方、三本指の男の例のセリフは申し分なし。動機については、「獄門島」と似たようなもので、この程度ならOKかなという印象です。まあ、両作品とも名作であることにちがいありません。 都筑道夫は、「黄色い部屋はいかに改装されたか?」の中で、本書について面白いことを述べています。三本指の男を登場させたことを大きな欠点として評した白石潔に対して、「論理で解明されれば、荒唐無稽な犯罪もそうでなくなると言ったところで、パズラー嫌いの人には通じないでしょうけど、パズラーを批評するひとが、うわべのグロテスクだけで、ものを言っては困ります。」と批判しています。 三本指の男の登場が重要なのはもちろん紛れもないことですが、パズラーは論理で解明できればそれでよしという考え方には賛同できません(なお私は決してパズラー嫌いではありません)。 近年、ミステリファンが論理、論理と叫ぶ風潮は都筑がきっかけなのでしょうか。論理って、そんなに大事なのでしょうか? 荒唐無稽な事件やトリックはなんら問題もありませんが、むしろ荒唐無稽な理由付け(飛躍しすぎの論理、無理やりの論理、くどすぎる論理)は、帳尻合わせをしているみたい(著者の言い訳を聞いているみたい)で興醒めしてしまい、マイナス評価になってしまいます。 「黄色い部屋はいかに」を読んでから本書や「獄門島」を読んだせいか、天邪鬼なため、大好きな横溝なのにちょっと批判的になってしまいました。 ただ、たんに自分の読解力が欠けているだけのことなのかなという気もしますが(笑)。 |
No.204 | 5点 | シンデレラの罠- セバスチアン・ジャプリゾ | 2011/03/01 10:10 |
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10代のころ、翻訳アレルギーに陥れた憎き作品です。当時ずっと持ち歩いていましたが、結局読み通せませんでした。
今読んでみると、文章はいたって読みやすいし、薄っぺらだし、なぜこの程度の本に振り回されたのか、という疑問を感じます。ただ、話が時間軸を行ったり来たりしながら進むし、人称も章ごとに代わるし、読みにくくする要因が物語構成にありそうです。まあ、逆にそれが本書の面白みなのかもしれません。読者がわけが分からなくなるようにすることが、この作者のねらいなのでしょう。とにかく、「私はいったい誰?」という謎を楽しむのがいちばんです。 名作というほどではありませんが、うまい作家が脚本を書けば名作映画に仕上がるように思います。 翻訳アレルギーの素となった作品がもう1冊あり。 アリステア・マクリーンの「八点鐘が鳴る時」です。 |
No.203 | 7点 | 獄門島- 横溝正史 | 2011/02/23 13:11 |
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国内では絶大な人気を誇る横溝ミステリの代表作です。
何十年かぶりなので内容の記憶はほとんどなし。唯一憶えていたのが吊り鐘のシーン。他の横溝作品も似たようなものですが、本作は読後の感動すら忘れていました。というよりも、読後にあまり残らなかったのかもしれません。 今回の再読でも、傑作中の傑作だとは思われませんでした。トリックは映像的だが面白みなし、見立てはさほどの意味なし、動機は理解できず、横溝ならではの雰囲気も他の作品ほどではなく、ケレン味もわずか(横溝作品の中では地味)。良かったのは和尚のひとことだけ。これだけはすばらしい。 金田一が現場にいながら殺人を全く防げなかったのも不満の一つです。最後の種明かしは立派ですが、この程度なら並の探偵です。独自調査もなく、皆といっしょの行動をとり、しかも助手もなく、三人称で書かれているから仕方ないのでしょうか。逆に言えば、三人称で書くことで、読者への手掛かりサービスを十分にしたということでしょうか。それでも容易には解けないようにした会心の自信作ということなのでしょうか。ということはやはり傑作? 東西ベストミステリ100の堂々たる1位。これもうなずけません。 都筑道夫がどうして本作を「今日の本格」と呼んで褒めちぎるのか、そして「悪魔の手毬唄」「蝶々殺人事件」をなぜ「昨日の本格」と呼ぶのか?答えは「黄色い部屋はいかに改装されたか?」にあるのですが、これを読んでも納得しがたいです。とりあえず内容を忘れているのは再読しないとダメですね。 |
No.202 | 4点 | コーパスへの道- デニス・ルヘイン | 2011/02/19 14:15 |
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映画化されたミスティック・リバーやシャッター・アイランドで有名なデニス・ルヘインの短編集です。ハヤカワの「現代短篇の名手たち」の一番手です。
ミスティックもシャッターも未読ですが、初めての作家はたいてい短篇から入るほうなので、まず本書を手にとってみました。 アマゾンなどで書評を見ると絶賛なのですが、オチの冴えない犯罪小説なので、普通のミステリファンや国内のミステリ短篇を読みなれた読者からすると、あまり好まれないのではないかと思います。やはり娯楽短篇小説なら、O・ヘンリーか星新一ぐらいのオチがないと面白くありません。 7編中、知人たちの間で起きた悲しい犯罪の背景と顛末が語られる「犬を撃つ」だけは、強烈な余韻を残してくれました。他は「グウェンに会うまで」と「コロナド」がわずかにミステリ性がある程度で、全体的にミステリとしては期待外れです。気になる作品は上記3作だけ。エンタテイメントとはとても思われない短編集でした。文芸作品として読めば少しはましだったのかもしれません。 (余談ですが)先日、芥川賞を獲った西村憲太の「苦役列車」は、久しく人気が低迷していた、日本の伝統小説である私小説だそうですが、テレビの紹介によれば、特定の読者にしか読まれない今までの私小説とは違って、多くの読者が楽しむことのできる「エンタテイメント私小説」になっているそうです。 我が国の純文学ですらこのようなエンタテイメント傾向なのに、娯楽小説が中心の欧米文学で本書のような、エンタテイメント要素の欠落した小説が本当に喜ばれるのかなと疑問を感じます。 と思う反面、本書のアマゾンでの評価を見ると、自分の読み方がまずかったのか、海外文学が向いていないのかと心配になり、翻訳アレルギーが何十年かぶりに再発しそうな気分です。 とにかく近いうちに、著者の長編代表作を読んでみようと思います。 |
No.201 | 5点 | 制服捜査- 佐々木譲 | 2011/02/12 13:10 |
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北海道の小さな町・志茂別町を舞台に、そこで起きた事件を駐在警察官が追う連作物語。
舞台となる町は田舎町だが、田舎独特のほのぼのとした雰囲気はなく、意外に荒んでいる。そんな沈鬱な町のイメージが、情景や人間関係の巧みな描写によって伝わってくる。物語自体も陰気だが、平坦、平板な文章と、主人公のキャラによって、それほど暗くは感じなかった。 ラストに衝撃はほとんどない。エンタテイメント、特に短篇には最後の一撃を期待してしまうが、この程度のラストも悪くはなく、ほどよく楽しめた。もう少し抜きん出た要素はほしかったが... |
No.200 | 6点 | 地を這う虫- 高村薫 | 2011/02/07 13:03 |
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「愁訴の花」「巡り逢う人びと」「父が来た道」「地を這う虫」の4短編が収録してある。主人公がみな理由あって日陰の職に就いている元警察官の悲哀ただよう物語。
第1編を中盤まで読むと、構図の大逆転があるのかなと期待させるような展開だったが、この作家にかぎってそんなことはないだろうと思い直したら、やはり、ラストには大きなサプライズはなかった。他編もみな同じ程度でトリッキーな内容ではなかった。 舞台設定が身近なせいか、作り物のハードボイルドという感じはしなかった。したがって安心して気楽に読めた。ミステリー性が低めとはいえ、途中のサスペンス(というよりも話の中途の展開)にはけっこうワクワクもした。 かつて高村作品は読みづらくていやだったが、歳を食ってきたせいか、著者の思想に少しは近づいてきたせいか(絶対それはないか!)、硬質な筆致、執拗すぎる描写も受け入れることができ、むしろ読みやすくさえ感じた。高村薫という作家を身近に感じてしまった。 ミステリーとして高得点を付けるほどではないが、今後他の作品を読みたいと思わせる短編集だった。 |
No.199 | 7点 | 私が殺した少女- 原尞 | 2011/02/02 09:31 |
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私立探偵・沢崎は本書でも、前作「そして夜は甦る」と同様、抜群の推理力を発揮します。しかも理由付けがきちんと出来ていて論理的な真相解明となっています。緻密なプロット、繊細な描写は前作と同じで、サスペンスは前作以上です。でも気に入らない点が1つあります。
それはラストの2つのサプライズ。たしかに驚かされたし、論理も整っているし、賞賛に値しますが、「そんなことってあるの?考えられない」と、すぐに賛辞を取り消してしまいました。某国内売れっ子作家の某作品と事件の背景が似ている印象を受けました。その某作品にも同じような問題を少し感じていましたが、本書ほどの違和感はありませんでした(すみません、ネタバレを意識したため、何を書いているのか全くわからなくなりました)。 書評には推理に説得力がないことを指摘されたものがあります。私の場合、沢崎の推理は論理的だと思いますが、上記のようなロジック以前の問題があるから納得できませんでした。 都筑道夫は本格ミステリは(トリックよりも)「論理」が第一と主張していますが、論理で納得できないことだってあるはずです。 昔ならこんなこと考えもしなかったのですが、作品が緻密すぎて、そういう箇所が目立ってしまったようです。というより粗探しなのかもしれません(笑)。 というわけで、好みだけの問題ですが本書よりも前作「そして夜は甦る」を推します。 |
No.198 | 7点 | 黄色い部屋はいかに改装されたか?- 評論・エッセイ | 2011/01/28 15:27 |
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本書は、こうさんが「ベスト・ミステリ論18」の書評の中でも推薦されている、本格ミステリに関する評論作品です。
やはり「ベスト」にも抜粋されていた「トリック無用は暴論か」の章が気になり、その前後をじっくりと読みました。本格ミステリはトリックよりも事件解決に至るロジックが重要とのこと。これはパズラー条件6箇条の1つです。 ロジック論に絡んで、横溝正史の「獄門島」を今日の本格、「悪魔の手毬唄」を昨日の本格と呼んでいたことが興味深いです。たんなる好みだけなら反論もありませんが、私にとって「悪魔の手毬唄」は横溝の最高傑作であり、「獄門島」よりは上だったと記憶していただけに、この点には反論したくなります。まあ大昔に読んだきりなので、何を反論していいのかわかりませんが。 当時の流行作家の作品でもばっさりと斬り捨てるような文章もあり、心地よさ、反感、納得など様々な印象を受けましたが、総じてミステリー(パズラー)への愛情を感じられました。中身の濃さではピカイチでした。 なおネタバレもあるので気をつけてお読みください。 |
No.197 | 5点 | 殺しの四人- 池波正太郎 | 2011/01/28 14:53 |
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テレビドラマ必殺仕掛人の原作である藤枝梅安シリーズの第一弾。
「おんなごろし」「殺しの四人」「秋風二人旅」「後は知らない」「梅安晦日蕎麦」の5短篇が収録されている。 短篇ごとにオチらしきものはあるが、サプライズというほどではない。読切短篇であるものの全作話がつながっていて連作短篇スタイルとなっているが、最終話で全体の謎の解決というようなラストではない。殺しの手段は、だいたいテレビどおりなのだが、テレビほどの様式美は感じられなかった。 ミステリーというよりは、どちらかといえば主人公・藤枝梅安と相棒の彦次郎のキャラクタ小説といったほうが妥当。シリーズ第一弾ということもあって、事件そのものよりも、梅安たちの日常の食事などの場面や会話を楽しむことに重点が置かれているような気がする。ミステリーを期待すると全く物足りない。 原作では梅安は堂々とした体躯の持ち主で、ふだんは医者然とした行動をとっているので、テレビ版よりも、表と裏のギャップをより大きく感じられる。 |
No.196 | 8点 | そして夜は甦る- 原尞 | 2011/01/19 10:18 |
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20年ほどまえに「私が殺した少女」を読んで以来の原作品です。そのときは忙しすぎたのか、気になることでもあったのか、乗り切れず途中で放置してしまいました。だから、著者作品は初めてみたいなものです。
チャンドラーに捧げるなんて、なかなか言えませんよね。自信の表われでしょうか。でもこの献辞にふさわしい出来ばえだと思います。チャンドラーをはじめ数々の海外作品を読んできて、完璧を目指して書いたデビュー作という感じがします。 文庫本の裏表紙の紹介には、「いきのいいセリフと緊密なプロット」とあります。 文章、特にセリフについては申し分なしです。一方のプロットは細やかすぎてテンポが遅いのではと感じましたが、最後まで読んでみると、これが凄い。中盤までは事実関係が交錯する複雑なストーリー(でも書き方がうまいせいか読みにくくはなかった)ですが、後半からラストの締めくくりまでで、それらが本当にうまく生かされています。この後半は絶品。最後の1行まで上手さが光っています。 これだけプロットが精緻に練られていれば、チャンドラーをまねた似非ハードボイルドにはあたらないのでは。むしろ、本格ミステリ風味の和製本格ハードボイルドといったほうが適切です。いや、本書こそが王道を行くミステリーなのではとも思っています。 それにしても主人公の沢崎の推理力は本格ミステリの探偵なみです。これにも脱帽。同じ沢崎シリーズの「私が殺した少女」も早く再読?したいですね。 本書に合わせて書評もハードボイルド文体でカッコよく書こうと思っていましたが、結局いつもどおりになっていしまいました(笑)。 |
No.195 | 8点 | 赤い指- 東野圭吾 | 2011/01/13 15:39 |
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親子、家族(特に介護問題)をテーマとした社会派・倒叙ミステリです。
さすが東野さん。読ませるストーリー展開には感心します。テーマがテーマだけに、もう少し重く読みにくくしてもよかったのでは、と思うぐらいです。 メインストーリーのラストにはもちろん気持ちよく驚かされましたが、加賀親子について同一テーマで並行してサブストーリーを展開させ、オチまで付けたのは、心憎いほどのテクニックです。 正月のテレビドラマもなかなかの秀作。父親役の杉本哲太が好演していました。 |
No.194 | 5点 | せどり男爵数奇譚- 梶山季之 | 2011/01/11 14:28 |
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年末に新聞で著者に関する記事を読んだこと、そして「せどり」という字句から興味を抱き、読んでみた。
主人公であるせどり男爵こと笠井菊哉が数奇な人生を歩んだわけではなく、その職業柄出会ったビブリオマニア(書物蒐集狂)に関する奇妙な出来事を連作短篇形式で語って聞かせるという程度のものである。なかには猟奇的でぞっとする話もあったが、どの短篇も謎解き要素はすくなく、最終話で一挙解決というような連作物の定例パターンもない。とはいえ、古書蒐集にまつわる薀蓄にはけっこう楽しめた。6話あるが、そのサブタイトルに麻雀の役名が含まれているのが面白い。十三么九(シーサンヤオチュー)というのがあったが、これは国士無双の別名のようだ。知らなかった。 ブックオフで買ってアマゾンかヤフオクで売るのが当世のせどりだが、本書の「せどり」はスケールが違っていた。 |
No.193 | 8点 | 皇帝のかぎ煙草入れ- ジョン・ディクスン・カー | 2011/01/04 12:24 |
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シンプルかつ華麗、そしてクリスティ作風でもある作品。タイトルが実に上手い。
簡易な心理トリックなので、ちょっと似の作品は散見するが、読みやすくプロットが抜群だから今の時代でも十分に楽しめると思う。 巻き込まれ、嵌められたイヴが逃走しながら自ら犯人を割り出すのかと思っていたが、意外に早く事実を打ち明けてしまうところは、予想と違っていた。2時間ドラマ風サスペンス・ミステリの読みすぎ、観すぎのせいか、そんな内容を想像してしまっていた(笑)。 |
No.192 | 6点 | 悪魔が来りて笛を吹く- 横溝正史 | 2010/12/27 09:46 |
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帝銀事件を模した「天銀堂事件」の事件場面がいつまでも記憶に残っている。「悪魔の手毬唄」ほどではないが十分に楽しめた。
今年は横溝を再読しようと思っていたが、他の未読作品ばかりを追いかけてほとんど手が出せなかった。来年こそはぜひとも。 |
No.191 | 7点 | 心理試験- 江戸川乱歩 | 2010/12/27 09:39 |
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冒頭は「罪と罰」そのものといった感じがしますが、その後の展開は当然ながら本家を離れて、独自の倒叙ミステリーを構成していきます。この展開はほんとうに素晴らしい。短篇の中によくこれだけミステリー要素を詰め込んだものと感心します。
短篇でありながら、中身はずっしりと重く、それでいてシンプル。そして物語の雰囲気も抜群(私の好み)です。 |
No.190 | 6点 | 憎悪の化石- 鮎川哲也 | 2010/12/25 11:38 |
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著者と同時代(1900~30年代生まれ)の作家にはみないえることですが、久々の鮎川ということもあって特に、本を前にしただけで鳥肌が立ちました。地味ですが刑事主人公のアリバイ本格モノには、いまでも惹かれます。時間軸を頭の中に置いての読書は、混乱のため時間を要しますが、たいていの場合解法がていねいなので、たとえ偶然頼みの気になる点があっても、結果的には満足していることがほとんどです。
本書の場合、1つ目のアリバイトリックはかなり豪快(似たものを読んだことがあります)、2つ目は知る人ぞ知るという知識もの。ともに容易には解けませんが、アリバイ物はそもそも解くつもりはないので、私にとっては上等な部類だと思います。 難を言えば、12人もの容疑者を揃える必要があったのかということ。犯人当て要素は早々に捨て去り、アリバイ崩しにもっと力を入れれば大傑作になったのではという気もします。それに、「憎悪の化石」という暗喩タイトル。これは真相の一部(背景、動機)につながる言葉ですが、こんな背景は本格好きには意味のないことだし、そんなタイトルではぴんときません。タイトルで損をしていますね。 |
No.189 | 3点 | デイン家の呪い- ダシール・ハメット | 2010/12/20 11:12 |
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コンチネンタル探偵社モノの異色作、オカルト風ハードボイルド・サスペンス。これだけハチャメチャなストーリーだから、むしろオカルト風な○○家物ドタバタ劇といったほうが的を射ている。
登場人物が多いことと、3部構成により、乗ってきたところで話が途切れてしまうこととによる読みにくさはこのうえない。途中で何がなんだかわからなくなってしまい、惰性で読み終えたという感じ。 前半、直感で予想した犯人は当たっていた。が、これだけこねくり回した話を読まされると、最後のサプライズな真相(動機)にも、犯人が当たっていたことにも、なんらの感動も沸いてこない。 見方によれば、すべてが著者の仕組んだミスディレクションだったとも言えるため、もしかして賞賛に値する作品なのでは?いやいやそんなことはない、やはりどうみても失敗作だと思う。 |
No.188 | 5点 | 二銭銅貨- 江戸川乱歩 | 2010/12/20 10:58 |
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暗号トリックだけなら、短篇小説ということを考慮してもまったく面白みなし。ただオチがあるからこそ楽しめるという作品です。笑い話程度のオチですが、ミステリの発展途上の時代だから、まずまず上出来なほうではと思います。 |
No.187 | 5点 | D坂の殺人事件- 江戸川乱歩 | 2010/12/20 10:54 |
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今では、本格派推理小説としてほとんど評価に値しない作品です。時代とともに読者の目が肥えてきたせいもありますが、現代の作家なら、たとえ短篇でももっとうまく作りこむはずです。でも読者に寄り道させる展開は面白いし、ウィットに富んでいるところが好ましくもあります。 |