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nukkamさん
平均点: 5.45点 書評数: 2753件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.41 6点 死せる案山子の冒険- エラリイ・クイーン 2023/03/18 17:33
(ネタバレなしです) ラジオシナリオのベストセレクション的な「殺された蛾の冒険」(2005年)を論創社版は「ナポレオンの剃刀の冒険」(2008年)と本書(2009年)の2冊に分冊して出版しました。本書では1時間シナリオが5作と30分シナリオが2作収められており、いずれも「読者への挑戦状」が付いた本格派ミステリーです。30分シナリオがなかなかの出来栄えで、「ダイヤを二倍にする男の冒険」(1940年)は盗難と殺人の2つの事件を詰め込んで1時間シナリオの方が冗長に感じてしまうほど濃厚な謎解きが楽しめますし、「忘れられた男たちの冒険」(1940年)の論理的推理も見事と思います。1時間シナリオでは事件解決後も重苦しい余韻が残る「姿を消した少女の冒険」(1939年)が印象的です。巻末解説で「他の作家のダイイング・メッセージものとは、雲泥の差」と誉めている「死を招くマーチの冒険」(1939年)はあまり感心できません。それなりの長さの謎解きなのにメッセージの解読「だけ」での犯人指摘は説得力に乏しいように思います。

No.40 7点 ナポレオンの剃刀の冒険- エラリイ・クイーン 2022/07/22 22:50
(ネタバレなしです) エラリー・クイーンは1939年から1948年の長きに渡って放送されたラジオ番組「エラリー・クイーンの冒険」(小説の短編集(1934年)とは別物です)のシナリオ作りに関わっています。本書の巻末解説にシナリオ一覧が載っていますがその数、実に310作!1時間版シナリオを30分版に短縮改訂したものや他人(アントニー・バウチャー)によるプロット作品も混ざってますが、それにしても相当の力を入れていたことがわかります。ラジオを聴く機会などまずない読者には縁のない作品と思っていましたが、2005年にアメリカ本国で「殺された蛾の冒険」というタイトルで15の(クイーンが書いた)作品を収めたシナリオ集が出版されました。日本では2冊に分冊されて出版されましたがその1冊が本書で(もう1冊は「死せる案山子の冒険」)、1時間版シナリオが4作に30分版シナリオが3作、そして別のラジオ番組用の10分版シナリオが1作です。どのシナリオも「聴取者への挑戦」が挿入されたフェアプレーな謎解きで、手掛かりの配置と論理的な推理にこだわった作品が揃ってますがやはり1時間版の方が凝った謎解きを楽しめますね。トリックはオースティン・フリーマン作品からの借り物ながら複雑な真相に仕上げた「悪を呼ぶ少年の冒険」(1939年)、足跡トリックに挑戦した「呪われた洞窟の冒険」(1939年)、ライバル探偵役を登場させた「ブラック・シークレットの冒険」(1939年)はよくできていると思います。30分版では「殺された蛾の冒険」(1945年)の推理の鮮やかさが印象的です。

No.39 7点 ガラスの村- エラリイ・クイーン 2018/12/29 21:03
(ネタバレなしです) 本格派推理小説の作者としての水準がガタ落ちした(と個人的には思っています)時期の作品であり、しかもシリーズ探偵の登場しない作品なので長らく敬遠していたのですがこれは大変な失敗でした。実にいい作品です。人口わずか36人のニュー・イングランドの村で殺人事件が起きます。かつて司法に委ねた裁判で自分たちが納得できない判決が出たことを忘れず、今でも根に持っている村人たちは今度は自分たちで解決すると容疑者(よそ者の外国人)をリンチにかけてしまい、容疑者引き渡しを求める司法と一発触発の状態になります。主人公たちが何とか公平な裁判を受けさせようと四苦八苦するプロットが印象的です。法廷シーンもドラマチック、中立的とは言えない村人たちが参加する裁判がどこへ行き着くのかサスペンスは高まり、しかも謎解き推理がしっかりしていて1950年代クイーンの最高傑作だと思います。1954年発表の本書は当時の米国のマッカーシズムへのアンチテーゼとして書かれたと紹介されているようですが、時代背景をよく知らない読者でも十分に楽しめる作品です。それにしても人情が絡むと正義と秩序を守るのも大変ですね。

No.38 8点 エラリー・クイーンの冒険- エラリイ・クイーン 2018/07/22 05:24
(ネタバレなしです) 1934年発表のエラリー・クイーンシリーズ第1短編集の本書は日本では半世紀以上前から創元推理文庫版で読むことができたのですが、大いに残念だったのは米国オリジナル版が11作を収めていたのに対して10作しか収めていなかったのです(理由は別のアンソロジー文庫版に問題の1作が収められたのでダブリ回避で削除されたようです)。その不満は2018年に新訳の創元推理文庫版で全11作を収めて出版されてようやく解消されました。初期のクイーン長編(つまり国名シリーズ)は文章が味気なく無駄な表現が多くて読みにくいのですが、本書の短編は(短編としては詰め込み過ぎの感もありますが)それらの欠点が目立ちにくくなっており、しかもクイーンならではの本格派推理小説の謎解きはしっかり楽しめますので入門編としてもお勧めです。不気味な雰囲気の「双頭の犬の冒険」、猫嫌いなのに毎週1匹ずつ猫を買っていく人物という謎が魅力的な「七匹の黒猫の冒険」、推理合戦が楽しい(呼吸する時計の推理には感銘しました)「アフリカ旅商人の冒険」が私の好みですが他の作品も負けず劣らずの高水準で、粒揃いの短編集です。

No.37 5点 クイーン警視自身の事件- エラリイ・クイーン 2018/03/11 06:52
(ネタバレなしです) 息子のエラリー・クイーンの名推理の影で無実の人間を犯人と疑ったり全く犯人の見当がつかなかったりといいところのほとんどなかった父親のリチャード・クイーンに活躍の場を与えた1956年発表のシリーズ番外編で、エラリー・クイーンは全く活躍しません。内容的にもかなりの異色作で、殺される被害者が赤ん坊というのは私がこれまで読んだミステリーの中でもちょっと記憶にありません。タイトルに警視を使っていますがリチャードは警察を引退した身です。経験はあってもアマチュア探偵の立場のリチャードは赤ん坊の世話をしていた看護婦のジェシイ・シャーウッドとコンビを組んでの捜査になります。探偵役がエラリーなら自然とホームズ&ワトソンスタイルに落ち着くのですが、本書での2人はそれぞれ持ち味を発揮してほぼ対等の立場です。推理や情報を互いに隠すことなく共有していて非常にわかりやすいプロットですが、そのためか真相を最後まで隠すために決め手の証拠を最後の瞬間まで隠すという手段をとったため本格派推理小説としては読者に対してフェアと言い難いのがちょっと残念です。

No.36 6点 摩天楼のクローズドサークル- エラリイ・クイーン 2017/02/12 01:43
(ネタバレなしです) エラリー・クイーンの代作者たちの中でリチャード・デミング(1915-1983)は10作もクイーン名義の作品を発表しています。その1作である1968年発表の本書は全6作のティム・コリガン警部シリーズ(4作はデミング、2作はタルメッジ・パウエル(1920-2000)の執筆です)の第6作の本格派推理小説です。1965年に実際に起こった北アメリカ大停電と同様の事故を作中で発生させ、しかも高層ビルの高層階での殺人といういかにもアメリカならではの舞台描写が実に魅力的です。ハードボイルド要素など真正クイーン(ダネイとリー)の作品とは異質なところもありますが、ハードボイルドと本格派推理小説の高度な両立という点でJ・C・S・スミスの「摩天楼の密室殺人」(1984年)に匹敵する内容だと思います。

No.35 5点 レーン最後の事件- エラリイ・クイーン 2016/10/02 07:21
(ネタバレなしです) 1933年に発表されたドルリー・レーン四部作の最後を飾る作品です。これまでの3作品が全ての謎が殺人につながり殺人犯がわかれば全てが解決するという、伝統的な本格派推理小説のスタイルなのに対して本書は伝統破りを意識したような異色のプロットになっています。そもそも何が起きているのかさえよくわかないまま物語が進み、その謎解きは27章で一つのクライマックスを迎えます。本来ならメインの謎となる殺人事件はかなり後半になってようやく発生、そして最終作らしい決着、しかしそこに至るまでに物凄く回り道しているような読後感が残りました。過去のシリーズ作品はビギナー読者にもお勧めできますが本書は通の読者向けの作品になってしまいました。まあ四部作の最初に本書を読む人はそういないとは思いますが。

No.34 7点 エラリー・クイーンの新冒険- エラリイ・クイーン 2016/09/11 03:41
(ネタバレなしです) 1940年発表のエラリー・クイーンシリーズ第2短編集で、中編小説「神の灯」に8つの短編の計9作の本格派推理小説を収録した短編集です。本書の顔ともいえる「神の灯」は家屋消失というとびきり魅力的な謎が提示されています。トリック自体は空さんのご講評でも指摘されているように他の作家による前例があるのですが、エラリーが真相を見破るきっかけになった手掛かりが秀逸です。「宝捜しの冒険」では文字通り宝捜しのゲームが描かれ、その手掛かりが文学知識が求められているため私なんぞにはゲームへの参加感はなかったけどちゃんと謎解きにつながっているプロットはなかなか見事です。「血をふく肖像画の冒険」の奇抜な真相も印象的です。それから「ハートの4」(1938年)に登場したポーラ・パリスが再登場する作品が4編あり、それぞれ野球、競馬、ボクシング、アメリカンフットボールといったスポーツをテーマにしています。この中では「トロイアの馬」がトリックは単純ながら競技の緊迫感と謎解きのサスペンスが上手く絡み合った佳品だと思います。

No.33 6点 フランス白粉の秘密- エラリイ・クイーン 2016/09/09 17:06
(ネタバレなしです) 1930年に発表された国名シリーズ第2作の本書はなぜあの人物が犯人かという推理だけでなくその人以外の容疑者たちがなぜ犯人ではありえないのかという推理まで丁寧に説明しているところが工夫になっています。エラリーが一人一人の名前を照会しながら犯人ではないと容疑から外していき、残る人物の誰を犯人として指名するのかという謎解きのスリルは(文字通り)最後の一行まで続くのです。まあそこに至るまでの筋運びはお世辞にもスムーズとは言い難いし登場人物も誰が誰だか整理が大変です。(ちょっとネタバレになりますが)犯罪組織の暗躍が示唆されているのも本格派推理小説としては好ましくないと感じる読者もいるかもしれません。メインの謎である殺人には組織力を使ったトリックなどはもちろんありませんけど。ところで本筋とは関係ありませんがこの時代で既に壁面収納タイプのベットが開発されていたとはさすがアメリカ(笑)。

No.32 6点 オランダ靴の秘密- エラリイ・クイーン 2016/09/05 04:26
(ネタバレなしです) 1931年に発表された国名シリーズ第3作でもちろん「読者への挑戦状」が付いています。相変わらず登場人物が多いし人物描写は上手くない、おまけに病院での殺人ということで「ほとんどが医者ばっかり」ですから誰が誰だかますますわからず人物整理が大変です。臣さんのご講評の通り単調な筋運びなのも読みにくさを助長しています。謎解きも不満点があり、確かに動機は決定的証拠にはなり得ず、機会と手段の手掛かりだけで犯人を特定できるというのが作者の主張かもしれませんけど、だからといって隠された動機が後出し説明というのはどこか釈然としません。とはいえエラリーの推理は国名シリーズの中でも屈指の冴えを見せており、特に靴の手掛かりに基づく推理はシャーロック・ホームズ現代版といった趣きさえ感じさせます(もちろん本書ももう古典的作品ですけど)。

No.31 5点 最後の女- エラリイ・クイーン 2016/08/29 01:42
(ネタバレなしです) 1970年発表のエラリー・クイーンシリーズ第31作は「顔」(1967年)の続編にあたる本格派推理小説です(「顔」を読んでなくても本書の鑑賞に問題はありません)。動機については多分当時のミステリーでは珍しいテーマだと思いますが社会的な問題を含んでいます。だけどそれほど深刻さを感じなかったのは最後のエラリーの推理のおかげです。後期作で定番となっているダイイング・メッセージの解読で、言葉遊びの領域を出ないというのも相変わらずなんですが今回は文字通りその言葉遊びがなかなか楽しかったです(本人たちは真剣です)。

No.30 5点 日本庭園の秘密- エラリイ・クイーン 2016/08/27 08:18
(ネタバレなしです) 1937年発表のエラリー・クイーンシリーズ第11作で、日本人が登場して日本の文化風習(作者の勘違いっぽいところもありますがそこはご愛嬌)が紹介されていますが国名シリーズではなく、英語原題は「The Door Between」です。密室状態の現場に被害者と有力容疑者(エヴァ)の二人きりという状況が設定されており、エヴァが無実かどうかに謎解きの重点を置いたストーリーになっていますので伝統的な犯人探し本格派のプロットを期待していると違和感を覚えるかもしれません。(類似例はありますが)珍しい密室トリックが印象的です。(ネタバレぎりぎりですが)でもあの道具では本来の目的の確実性を損ってしまうのではないかという矛盾も感じました。ハードボイルド小説を意識したような私立探偵の登場、ある意味密室トリック以上に大胆なトリック、単なる名探偵役にとどまらなかったエラリーなど意欲作であり問題作でもあります。

No.29 5点 アメリカ銃の秘密- エラリイ・クイーン 2016/08/24 09:29
(ネタバレなしです) 1933年発表の国名シリーズ第6作となる「読者への挑戦状」付きの本格派推理小説です。大都市ニューヨークの中に西部劇を持ってくるという設定はなかなか面白いアイデアですが登場人物の個性のなさは相変わらずで、カウボーイ、カウガール、女優、ボクサーなど職業的には派手なラインアップなのにまるで印象に残りません。動機がわからなくても犯人を特定できるプロットが多いためか国名シリーズは動機を極端に軽視することがありますが本書はその中でも最悪に近く、思わず「何その動機?」とつぶやきたくなりました。決して駄作ではなく、図解入り解説や意表をつく隠し場所トリックなどの工夫はありますが推理が何度もひっくり返る「ギリシャ棺の秘密」(1932年)や猟奇的連続殺人とスリリングな追跡劇の「エジプト十字架の秘密」(1932年)に比べると「ここが凄い」と言えるだけのセールスポイントに欠けるように思えます。

No.28 6点 犯罪カレンダー (7月~12月)- エラリイ・クイーン 2016/08/22 00:13
(ネタバレなしです。上下巻合わせての感想です) ラジオドラマの脚本を小説化(ノヴェライゼーション)した12の短編を収録して1952年に発表された短編集で、探偵クイーンの助手役としてニッキー・ポーターが登場しています。原型であるラジオドラマは1939年から1948年にかけて放送されており、そこからセレクトして小説化するにあたり1月から12月までの各月を当てはめたようですが季節感を伴う作品になっているのは少ないです。元がラジオドラマ脚本のためかプロットがシンプルで読みやすい作品が多く、またレギュラー登場人物のキャラクターが小説世界と違っているのには違和感を覚えました(本書の方が軽目のキャラです)。トリックの再利用が気になる作品もありますが怪盗との対決が楽しめる「クリスマスと人形」、大胆な結末の「皇帝のダイス」、しっぺ返しが爆笑モノの「くすり指の秘密」あたりが個人的にはお気に入りです。

No.27 7点 ギリシャ棺の秘密- エラリイ・クイーン 2016/08/18 18:37
(ネタバレなしです) 1932年発表の本書は書かれた順番ではシリーズ第4作になりますが、小説世界では大学を卒業したばかりのエラリー・クイーンが初めて手掛けた事件ということになっています。なぜエラリーが病的なまでに秘密主義で完璧主義なのかが本書を読むとよくわかります。でも個人的には全く共感できませんでしたけど(笑)。緻密で重厚、しかもクイーン作品中最大ボリュームの物語なので読みにくさも相当ですがどんでん返しの謎解きを堪能できました。余談ですがボツになったエラリー最初の推理が個人的には結構気に入ってます。

No.26 4点 三角形の第四辺- エラリイ・クイーン 2016/08/17 15:18
(ネタバレなしです) 1965年発表のエラリー・クイーンシリーズ第27作で、「第八の日」(1964年)を代作したSF作家のエイヴラム・デイヴィッドスン(1923-1993)が書いたとされる本格派推理小説です。「第八の日」が時代は現代ながらも一般社会とは異なる社会を描いていたところがSF作家らしい発想だと思いましたが、本書はそういう意味では普通の作品です。マッケイ家の家族のきずなに影を落とした人物が殺され、殺人容疑がマッケイ家の人々の間を転々とするプロットです。全く無駄のない展開で終盤までなかなか読ませます。問題は結末であまりにもお粗末です。最初の推理説明もそれほど魅力的ではありませんが読者に全く提示されていなかった手掛かりでのどんでん返しには更にがっかりしました。

No.25 5点 盤面の敵- エラリイ・クイーン 2016/08/14 02:23
(ネタバレなしです) クイーンが最後の作品にするつもりだったとされる「最後の一撃」(1958年)から5年後の1963年に発表されたエラリー・クイーンシリーズ第25作ですが実態はゴーストライター(SF作家のシオドア・スタージョン(1918-1985))が書いてクイーン名義で出版されたそうです。殺人実行犯を影で操る真の殺人犯という設定が大変ユニークで、連続殺人のサスペンスと相まって終盤までだれることなく引っ張ります。真相にも工夫を凝らしていて、この時代ではかなり珍しいであろう犯人像が描かれていて本書に高い評価を与える識者がいるのも理解できます。しかしエラリーの推理が残念レベルです。宗教的というか観念的な説明ですっきり感を味わえませんでした。

No.24 6点 Zの悲劇- エラリイ・クイーン 2016/08/13 05:42
(ネタバレなしです) 1933年発表の本書はドルリー・レーン4部作の3番目にあたる作品であることが重荷となってしまったような作品です。語り手による1人称形式、当時としては珍しい女性探偵の登場、タイムリミット・サスペンスの導入、裏社会の存在など「Xの悲劇」(1932年)や「Yの悲劇」(1932年)にはない特徴で一杯なのですが、それがかえって読者に違和感を感じさせたことも否定できないでしょう。論理的で緻密な推理は同時期の国名シリーズに匹敵する内容だと思いますが「Xの悲劇」や「Yの悲劇」と並べてしまうと詰め込みすぎて読みにくいなどなどの弱点が目立ってしまってます。

No.23 5点 緋文字- エラリイ・クイーン 2016/08/01 01:20
(ネタバレなしです) 1953年発表のエラリー・クイーンシリーズ第23作はユニークな趣向が多い異色作で、このユニークさがどこまで受け容れられるかで読者を選びそうな作品です。まずエラリーの助手としてニッキー・ポーターが登場しています。彼女は映画やラジオドラマの脚本を小説化した中短編に何度も登場していてその代表作は本書と同年に単行本化された「犯罪カレンダー」(1953年)ですが、全く別人のような描写にびっくりします。また事件がなかなか発生しません。エラリーとニッキーの浮気調査が延々と続くプロットです。いつどこでカタストロフィーを迎えるかわからない不安がサスペンスを持続させ、陰鬱なムードに拍車をかけています。かなり後半になってようやく事件が起きるのですが犯人当ての謎解きは放棄されています。事件の背後にある秘密をエラリーが推理で明らかにするのですが、この謎を解いてみよという形で明確に提示された謎ではなかったのでああそんなところに秘密があったのねというのが私の読後感でした。

No.22 7点 スペイン岬の秘密- エラリイ・クイーン 2016/07/31 01:15
(ネタバレなしです) 1935年発表の国名シリーズ第9作でシリーズ最終作となった作品です。お約束ごとの「読者への挑戦状」ももちろん付いています。ネタバレになるので詳しく書けませんが前作「チャイナ・オレンジの秘密」(1934年)での「被害者の名前を明かさずに謎を解く」と同じぐらい珍しい趣向を織り込んだ意欲作です。「マントだけ身にまとった全裸死体」という魅力的な謎も印象的ですが偶然の要素で謎が深まっている点はちょっと減点でしょうか(全裸にしなくても何とかなったような気もしますし)。でも動機調査については国名シリーズの中でもかなり丁寧に描かれているのはポイント高いです。できれば現場見取り図が欲しいところですが国名シリーズでは私のお気に入りの1冊です。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.45点   採点数: 2753件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(78)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)