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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2865件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2145 5点 朱漆の壁に血がしたたる- 都筑道夫 2019/07/10 21:41
(ネタバレなしです) 1977年発表の物部太郎三部作の第3作となった本格派推理小説です。冒頭でワトソン役の片岡直次郎が密室状態の倉の中で被害者と2人きり、しかも出入口は他人が出入りしなかったとの証言でいきなり容疑者となります。この作者らしく論理を重視した謎解きなのは本来なら私の好みなのですが、密室トリックが個人的にはそんなトリックは使って欲しくなかったという魅力に欠ける真相だったので推理の面白さが半減です。文章自体は平明ですらすら読めるのですが、複雑な人間関係に難解なプロットと私のような頭脳レベルでは理解に苦労しました。最後の1行には思わずふふふっと(気味悪いな)笑ってしまいましたが。

No.2144 7点 思考機械「完全版」第一巻- ジャック・フットレル 2019/07/05 20:49
(ネタバレなしです) あのタイタニック号の沈没事故に乗り合わせてまだ30代の若さで落命してしまったアメリカのジャック・フットレル(1875-1912)と言えば思考機械シリーズで有名です。ロボット探偵とかAI探偵とかではなくれっきとした人間で、「2たす2はつねに4なのだ」というせりふをよく使い、「不可能」という言葉を使われるのが大嫌いです。作者は短い生涯の間にシリーズ作品を長編1作と50作近い短編を残しましたが単行本化されてない作品も少なくありません。没後100年を過ぎて2019年に国内出版された作品社版(全二巻)はおそらく世界初の完全全集版という大偉業です。お値段ははっきり言って「とても」高いのですが、新聞発表されてそれっきりだった作品をかき集める苦労を考えるとあまり文句は言えませんね。第一巻の本書は長編「黄金の皿を追って」(1906年)、作者の生前に出版された第一短編集(1907年)の全7作、第二短編集(1908年)からは序章的な「思考機械」と5作(残り8作は第二巻)、そして単行本化されなかった短編5作を収めてます。初期作品が懸賞小説だったのは驚きで、有名な「十三号独房の問題」でも思考機械の脱獄トリックを読者に当てさせてます。途方もない真相の「百万長者ベイビー・ブレイク誘拐事件」さえも消えた足跡トリックをほぼ完璧に当てた読者がいたのはすごいですね。容疑者の言動が不自然過ぎるほど怪しいとか推理の粗いのが気になる作品もありますが、第一短編集の作品は(懸賞小説だけあって)プロットは複雑、謎解き伏線も当時としてはかなり気配りされた力作が多いです。第二短編集になるとページ数が少なくなってシンプルになり読み易い半面、出来不出来が目立ちます。個人的な好みは「ラルストン銀行強盗事件」、「燃え上がる幽霊」、「赤い糸」、「行方不明のラジウム」です。あと「黄金の皿を追って」での思考機械のあわてふためく場面には思わず笑ってしまいました。

No.2143 5点 猪苗代マジック- 二階堂黎人 2019/07/05 20:20
(ネタバレなしです) 2003年発表の水乃サトルシリーズ第5作(社会人編第3作)の本格派推理小説です。1984年に「処刑魔」と名乗る人物による連続殺人事件が発生し、犯人は逮捕されるのですがその10年後に新たな「処刑魔」による連続殺人が起きてサトルが巻き込まれ、いえ自ら捜査に割り込みます。「もったいぶるのは好きではありません」と言いながらサトルの説明は結構まわりくどいし、この人が犯人でないのは明白と言いながら直前にアリバイを尋ねていたのは一体何だったんだと突っ込みたくなります。賛否両論になりそうなのが最後の一行のどんでん返しで、推理力の高い読者なら納得してすっきりできるのかもしれませんがそういうレベルに程遠い私は唐突過ぎてもやっとした読後感しか残りませんでした。

No.2142 7点 飛ぶ男、墜ちる女- 白峰良介 2019/06/24 22:00
(ネタバレなしです) コピーライターの白峰良介(1955年生まれ。余談ですが夫人は黒崎緑です)が1991年に発表した長編ミステリーデビュー作です。「広告クリエイター殺人事件」の副題を持っていて広告業界が描かれていますが社会派推理小説ではなく、講談社ノベルス版の作者のことばで紹介されているように「謎と論理を重視した」本格派推理小説です。屋上から男性が飛び降りるのを目撃されたのに墜落現場へ行ってみると倒れていたのは女性の死体だったという序盤の謎が実に魅力的で、謎が追加されていく展開の中盤、理詰めの推理でトリックや犯人を特定する終盤と多くの本格派好き読者を納得させるであろう完成度です。最終章で犯人の自白で明かされる部分は読者が推理しようもないところもありますが全体の中では大きな弱点ではないでしょう。文章は抑制が効いていて地味ですが筋立てがしっかりしているので退屈しません。これだけの作品ですから鮎川哲也が巻末解説で注目の新本格派推理小説家と評価したのはもっともだと思いますが、その後はあまり活躍していないようなのが(私が知らないだけ?)惜しまれます。

No.2141 5点 おしゃべり時計の秘密- フランク・グルーバー 2019/06/24 21:39
(ネタバレなしです) 1941年発表のジョニー・フレッチャー&サム・クラッグシリーズ第5作のユーモア・ハードボイルドです。ちょっと信じられないような状況下で殺人を実行する犯人の度胸には驚愕を通り越して呆れてしまいますが(普通なら時と場所を改めるでしょう)、とにかくこの事件に巻き込まれて容疑者となったジョニーとサムがどたばたを繰り広げながら犯人捜しをする展開が安定の面白さです。もちろんあの手この手で金欠問題を何とかしようとする悪戦苦闘ぶりも読ませどころです。タイトルに使われている時計の秘密だけでなく意外な人間関係が暴露されたりと謎解きもおろそかにせず、ぎりぎりまで正体を披露しない犯人当てのジョニーの推理も結構しっかりしていますが、果たして本格派推理小説好きの読者がフェアな謎解きだと納得できる伏線が張られていたのかは自信ありません(私が気付かず読み落としていた可能性も十分ありますけど)。

No.2140 5点 山之内家の惨劇- 檜山良昭 2019/06/24 21:23
(ネタバレなしです) 檜山良昭(1943年生まれ)は架空戦記小説のブームに火をつけた作家の1人として知られており、他にも歴史ミステリーや冒険小説、果てはノンフィクションも手掛けていますが1982年発表の本書は現代を舞台にした普通の本格派推理小説で、この作者としては異色作かもしれません。山之内家の関係者を次々に災厄が襲いますが、鎌倉時代の源家の滅亡と符合するような展開に刑事たちは悩まされます。刑事が(理由はあるのですが)張り合って手柄争いしたり、警察主催による降霊会が主催されたりとリアリティーを期待する読者にはお勧めしづらいプロットです。それならば開き直って派手に仕立てるのも一手ではと思いますがどういうわけか地味で堅実にまとめようとしており、どこかちぐはぐな印象を受けました。

No.2139 5点 血染めの鍵- エドガー・ウォーレス 2019/06/24 21:08
(ネタバレなしです) イギリスのエドガー・ウォーレス(1875-1932)は口述した物語を秘書にタイプさせるという、ペリー・メイスンシリーズで知られるアメリカのE・S・ガードナーと同じ手法で長編170作以上、短編950作以上という驚異的な数の作品を残しています。多作家の宿命として死後は急速に忘れられたようですが1923年発表の本書は密室トリックが非常に有名で、後世の作家が紹介したり転用したりしており、作品を知らなくてもトリックだけは知っている読者も多いのではないかと思います。一般的にスリラー小説家と認識されているウォーレスならではでしょうか、本格派推理小説に分類していい作品ではありますが犯人の正体が判明する肝心の場面は本格派の定型パターンから大きく外れていて、1920年にデビューしたアガサ・クリスティーなどの本格派とは一線を画しています。怪しげな中国人が登場するところは時代を感じさせますね。

No.2138 5点 怒れる老婦人- レオ・ブルース 2019/06/18 22:11
(ネタバレなしです) 1960年発表のキャロラス・ディーンシリーズ第7作の本格派推理小説で、国内では「AUNT AURORA Vol.6」(1993年)で翻訳紹介され、後にはROM叢書版でも出版されました(2023年)。会話中心に進むプロットはアガサ・クリスティーを彷彿させると言えなくもありませんが、キャロラスと容疑者のやり取りばかりが延々と続くプロットは一本調子で、しかも容疑者が20人を超すのですから冗長にさえ感じてしまいます。容疑者同士の会話をすべり込ませてメリハリをつけていたクリスティーとはストーリーテリングが雲泥の差です。ひねりを効かせすぎた真相も読者の好き嫌いが分かれるかもしれません。

No.2137 5点 仲のいい死体- 結城昌治 2019/06/18 21:53
(ネタバレなしです) 1961年発表の郷原部長刑事三部作の最後を飾る本格派推理小説です。もっとも創元推理文庫版の巻末解説によれば郷原が脇役として登場する作品が他にあるようですが。過去の2作と違って地方を舞台にして転勤した郷原の(やや頼りなげな)活躍を描いているのが特徴です。重要な手掛かりをもう少し早い段階で伏線として登場させていればとは思いますが、通俗性やユーモアの中に埋もれることなくしっかりした謎解きを用意しています。

No.2136 5点 十一番目の災い- ノーマン・ベロウ 2019/06/14 22:04
(ネタバレなしです) 以前に「消えたボランド氏」(1954年)を読んで「これで裏社会の描写がもっとこってりしていたら本格派推理小説というより通俗スリラーになったかも」と生意気な感想を当サイトに投稿しましたが、その1年前の1953年発表のシドニーを舞台にした本書はまさに通俗色が「こってり」で、第11章で説明される2種類の裏社会、怪しげなナイトクラブや麻薬組織と普通の本格派とは大きく雰囲気が異なります。第17章ではそれまでに起こった犯罪の真相の一部が読者に知らされますが、そこには推理による謎解きがありません。直後の第18章で不可解な人間消失が起きるのですが、現場が犯罪組織の拠点であるナイトクラブでは中立公平な証人など期待しようもなく、謎解きに取り組みたい読者は途方に暮れるのではないでしょうか。結末の衝撃度ではある意味「消えたボランド氏」を上回るだけに、本格派好きの私としては読者の謎解き意欲をかき立てる工夫の足りない、惜しい作品に感じました。

No.2135 6点 悪魔の呼気- 由良三郎 2019/06/10 23:24
(ネタバレなしです) 1990年発表の本格派推理小説で、タイトルはちょっと不気味ですが中身は怖い要素は全くなく、主人公で探偵役の祖父と孫娘のコンビの会話にはユーモアが混じっているほどです。トリックに工夫しているのはこの作者らしいですが、一方で舞台となる老人ホーム描写のリアリティーがいまひとつに感じられるのもこの作者らしいというか...。まあ謎解きを活発にするためにはうるさいぐらいの高齢者たちを揃えて会話をにぎやかにする方が都合よいのかもしれませんが。細かい粗(あら)は気にせず次から次へと仮説が組み当てられてはひっくり返される謎解き展開を単純に楽しみながら読むのが正解なのでしょう。もっとも事件解決後のまさかの締めくくりはいくらなんでも蛇足ではという気もしますけど。

No.2134 5点 金時計- ポール・アルテ 2019/06/10 23:05
(ネタバレなしです) 2019年発表のオーウェン・バーンズシリーズ第7作の本格派推理小説ですが、行舟文化版の巻末解説によればフランス本国よりも日本での翻訳版の方が先に出版されたらしいのには驚きました。雪の上の死体の周辺に犯人の足跡が残っていない不可能犯罪が発生しますが、本書の最大の特徴は2つのエピソードを交差させながら物語が進むプロットでしょう。1つは1911年に発生した殺人事件の謎解きでオーウェンが活躍しています。もう1つは時代を1991年とし、1966年頃に見た映画のタイトルは何かという謎で始まるミステリーらしからぬエピソードですがだんだんと様相がおかしくなっていくのが印象的です。図解入りで丁寧に説明される足跡トリックは本格派好き読者を満足させるでしょうが、悪夢を見てるかのような(両方の時代の)結末の重苦しさは何と表現したらよいのやら。

No.2133 5点 相馬野馬追い殺人事件- 皆川博子 2019/06/10 22:33
(ネタバレなしです) 1984年発表の本格派推理小説です。早々と殺人事件が起きるのですが間違い殺人の可能性が出たためか捜査は難航します。さらに投石による落馬事件とか(事故かどうか微妙な)風呂場での感電死事件とか走行中の車内の排気ガス漏れ事件などが立て続けに発生しますが、どれもミステリーの謎としてはインパクトが弱いです。人間関係が複雑な上に誰が主人公なのかさえ曖昧な描写なのでとても読みにくかったです。推理も明確な証拠がほとんどありません。終盤での2人の人物によるコン・ゲーム(だまし合い)的なやり取りが不思議なサスペンスを醸し出しているのが印象的ですが、他にはこれといった特徴がないように思いました。

No.2132 5点 ドアは語る- M・R・ラインハート 2019/06/03 23:09
(ネタバレなしです) 本格派推理小説一辺倒で他のミステリージャンルを敬遠している私はサスペンス小説家として名高いラインハートはあまり関心がなく、1930年発表の本書が私にとっては「螺旋階段の闇」(1908年)に次いで2冊目のラインハート作品です。ハヤカワポケットブック版の巻末解説では「クリスティーを思わせる」と紹介されていますが、作風が大きく違うように思います。手掛かりらしきものが多数散りばめられ、最後まで犯人当ての興味で引っ張るプロットで本格派推理小説に分類できる内容ではあります。とはいえほとんどの容疑者が怪しい行動をとるというのが謎としては過剰演出気味だし、展開も非常に回りくどくて重厚過ぎて読みにくいです。謎解き説明がいまひとつ明快でないところもクリスティーとは大きく異なります。丁寧に書かれた力作ではあるのですがもう少し風通しを良くして欲しかったですね。

No.2131 5点 裁くのは誰か?- ビル・プロンジーニ 2019/06/03 22:33
(ネタバレなしです) SF作家のバリー・N・マルツバーグ(1939年生まれ)との共作第2作で1977年に発表されました。何と登場人物はアメリカ大統領夫妻とその側近たちで、反対陣営に寝返っている裏切り者を殺そうとする人物(「われわれ」と称しながら単独描写です)の正体は誰かという風変わりな本格派推理小説です。大統領を取り巻く不穏な空気はそれなりに描かれていますが、政治問題や社会問題に関する会話はほとんどありません。まあ本書にリアリティーを求めるのは筋違いなのでしょう。創元推理文庫版の巻末解説で「結末の大胆さに、髪を振り乱して怒り心頭となるか、感極まって本書を神棚に供えるか、とにかくも、しばし忘れられぬ読書体験を得られることは保証しよう」と読者を選びそうな怪作であることが紹介されてますが、確かに奇抜過ぎるアイデアが用意されていてショックで反発する読者続出かも(笑)。個人的には怒り心頭にこそなりませんでしたが「読んで損はないよ」と擁護する気持にもなれません。

No.2130 5点 一心館の殺人剣- 鳥羽亮 2019/05/19 20:21
(ネタバレなしです) 時代小説作家として高名な作者ですので何の予備知識もなく本書のタイトルを読んだ人は時代小説と勘違いするかもしれません。しかし本書はミステリー作家時代の1991年に発表された、現代を舞台にした本格派推理小説です。剣道家と不可能犯罪の組み合わせがデビュー作の「剣の道殺人事件」(1990年)を連想させますが、残念ながら出来栄えは劣るように感じました。衆人環視状態の剣道の試合最中の不可能犯罪という「剣の道殺人事件」の魅力的な謎と比べると本書は普通の密室殺人事件に過ぎません。まあそれはまだ大きな問題点ではないのですけど、主人公を偽の犯人に仕立てるために主人公のアリバイをなくすための犯人の仕掛けがあまりにも強引、ご都合主義かつ失敗リスクが高くて馬鹿馬鹿しささえ感じます。早い段階で読者にオープンにしているのがせめてもの救いでしょうか。

No.2129 6点 殺されたのは誰だ- E・C・R・ロラック 2019/05/11 22:32
(ネタバレなしです) 1945年発表のマクドナルド警部シリーズ第26作の本格派推理小説です。風詠社版の日本語タイトルも悪くありませんが英語原題の「Murder by Matchlight」も捨てがたい魅力があります。暗闇で被害者がマッチに火をつけた時にその明りの後ろの暗闇に浮かびあがる顔(犯人?)の描写にはぞくっとしました。被害者の素性がなかなか判明せず、第7章でマクドナルドが「このように混乱された状況下では、身元を偽ることはさほど難しくありません」と述べているように戦時下の雰囲気が漂っており、それは後半になって空襲警報と爆撃の中での捜査場面でピークを迎えます。登場人物の1人がマクドナルドの推理説明を補足して動機を整理してくれたのが個人的にはありがたい読者サービスでした(笑)。

No.2128 4点 法水麟太郎全短篇- 小栗虫太郎 2019/05/11 22:10
(ネタバレなしです) 法水麟太郎シリーズの中短編は1933年から1937年にかけて全部で8作書かれており何度も単行本に載っていますが分冊掲載がほとんで、意外にも全作を短編集1冊にまとめたのは河出文庫版(2019年)の本書が初かも知れません(正確に調べたわけではないので間違っていたらすみません)。奇書と評価されている「黒死館殺人事件」(1934年)に挑戦する前の入門編として読むのもよしでしょう。ページ数が少ない分「黒死館殺人事件」より早く読み終えれるのは間違いなし、しかも筋を追うのも大変な難解さは中短編であっても超弩級ですので本書でうんざりされた方は「黒死館殺人事件」には手を出さないことを勧めます。読んで疲れた上にほとんど内容を理解できませんでしたが、その中では1番読みやすかった「国なき人々」が個性を感じられず「後光殺人事件」や「失楽園殺人事件」の方があまりの奇想に印象に残っているのですから私の感性も(もともとアブノーマル気味ですが)かなり麻痺してしまったようです。

No.2127 6点 謎解きのスケッチ- ドロシー・ボワーズ 2019/05/06 18:11
(ネタバレなしです) 1940年発表のダン・パードウ警部(本書の風詠社版ではパルドー警部と表記されてます)シリーズ第3作の本格派推理小説です。控え目な描写ながら第二次世界大戦の影響が滲み出ています。謎解きが好きな若者が登場するのでパードウ警部とアマチュア探偵の推理競演になるかと思っていたらこの若者は早々と殺されてしまいます。既に何度か生命の危機を潜り抜けていた被害者は用心したのでしょう、残された言動や手掛かりは非常に謎めいていて容易に真相が掴めません。鳥のスケッチが手掛かりの一つというのもユニークで(残念ながらイラスト紹介はなし)、この謎解きはマニアックな知識が必要なので一般読者には難易度が高過ぎると思いますが決してダイイングメッセージ一発の謎解きではなく、それ以外の手掛かりもちゃんとパードウ警部が説明してくれます。

No.2126 5点 繭の密室- 今邑彩 2019/05/06 17:53
(ネタバレなしです) 1995年発表の貴島刑事シリーズ第4作です。このシリーズは3作で終了予定だったのを翻意して本書を書いたそうですが、特にシリーズ最終作らしい仕掛けはありません。怪異に満ちた本格派推理小説として始められたシリーズのようですけど本書に至っては醜い人間心理描写はあるものの怪異要素は皆無に近く、普通の本格派推理小説です。私はホラー系が苦手なので普通であることは全く問題ないのですが、肝心の謎解きの出来栄えがいまひとつです。貴島による密室トリックの推理はかなりの部分を憶測で補っているように感じます。まあそれでも辻褄は合っているのでまだいいのですが、犯人当てについては犯人が致命的な証拠を落として発覚してしまうという棚ぼた式展開に不満を覚えます。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2865件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(82)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(32)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(27)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)