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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
血染めの鍵
エドガー・ウォーレス 出版月: 2018年02月 平均: 5.00点 書評数: 2件

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論創社
2018年02月

No.2 5点 nukkam 2019/06/24 21:08
(ネタバレなしです) イギリスのエドガー・ウォーレス(1875-1932)は口述した物語を秘書にタイプさせるという、ペリー・メイスンシリーズで知られるアメリカのE・S・ガードナーと同じ手法で長編170作以上、短編950作以上という驚異的な数の作品を残しています。多作家の宿命として死後は急速に忘れられたようですが1923年発表の本書は密室トリックが非常に有名で、後世の作家が紹介したり転用したりしており、作品を知らなくてもトリックだけは知っている読者も多いのではないかと思います。一般的にスリラー小説家と認識されているウォーレスならではでしょうか、本格派推理小説に分類していい作品ではありますが犯人の正体が判明する肝心の場面は本格派の定型パターンから大きく外れていて、1920年にデビューしたアガサ・クリスティーなどの本格派とは一線を画しています。怪しげな中国人が登場するところは時代を感じさせますね。

No.1 5点 人並由真 2018/12/08 13:39
(ネタバレなし)
 きわどい噂も囁かれる60歳代の実業家ジェシー・トラスミア。彼は以前の仕事仲間らしい男ウェリントン・ブラウンの来訪を警戒していた。そんなトラスミアが自分の屋敷内の特別仕様の密室内で殺される。トラスミアの甥で「ベイブ」ことレックス・パーシヴァル・ランダーと友人である、新聞紙「メガフォン」の青年記者「タブ」ことサマーズ・ホランド。彼は事件を独自に追うが、やがて事態はタブの思い人である美人女優ウルスラ・アードファージにも関わってきた。

 1923年のイギリス作品。もちろん2018年の論創社の新訳で読了。
 密室殺人から連続殺人事件へと波及するフーダニットの要素もあるが、純粋な謎解きというよりは劇中人物の動的なドラマで読者の興味を繋ぐ長編スリラーの趣も強い。どうせダミーだろうとわかってる関係者の追っかけに延々と付き合わされる中盤はややたるいが、後半、ある主要キャラの意外な過去がわかってからはちょっと面白くなる。
 肝心の密室トリックは21世紀の今となっては手垢のついたものだが、横井司氏の詳細な解説(今回はとても読み応えがある)によると本作が嚆矢かもしれないらしい? ちなみに横井氏は密室を作る理由の必然性がちゃんと語られていることを相応に評価されているようだが、個人的にはそれほど騒ぐほどのこともない。
 あえて謎解きミステリとして読むならば、某主要キャラが事件の深部に関わるかなり重要な事実をなぜか秘匿しておいたことが終盤に判明し、この辺はちょっとアレである。犯人の意外性も(中略)。ただし娯楽読みもののストーリーとしてはラストの方でなかなか際だった趣向があり、そういえばウォーレスって<あの作品>の作者でもあるんだよな、とハタと膝を打つ。その辺はまあ本作の魅力といえる。大正時代の海外ミステリとしては佳作クラスか。
 ちなみにトラスミアの隣家の主人で、ノリの良いサブキャラのストット氏はなかなか魅力的な人物造形だった。こういうキャラクターを自然にビビッドに描けたのが、たぶんウォーレスの当時の人気の秘訣のひとつであろう。

■余談:クラシック発掘という意味では本当に感謝甚大の論創海外ミステリだが、かねてより編集レベルは必ずしもそれに見合ったものではない。
 今回も助詞レベルで何カ所か脱字があるほか、259ページ目の12行目でAという人物がBという相手に電話をかけようとしている場面なのに、いつのまにかBの方が受話器を握っている地の文になっている。もっとマジメに校閲してほしい。


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